シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※悪戯小僧な「そるじゃぁ・ぶるぅ」、「本家ぶるぅ」とも呼ばれております。
アルト様のサイトの2007年クリスマス企画で生まれました。
現在は良い子の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が活躍していますが、こちらが本家本元です。
ゆえに年に一回、お誕生日のクリスマスには記念創作をプレゼントしています。
今年のクリスマスで満7歳です、果たしてどんなお誕生日に?
今年もクリスマスシーズンが近付いてきた。アタラクシアの街は日増しに華やぎ、イルミネーションも増えてくる。ショップ調査とグルメ三昧が生甲斐の「そるじゃぁ・ぶるぅ」の心が弾む光景だ。
クリスマスとくればサンタクロースにクリスマスイブの賑やかなパーティー、その翌日は誕生日。
今年で7歳になる「そるじゃぁ・ぶるぅ」は今から楽しみでたまならかった。
ミュウたちの船、シャングリラでは7歳を迎える子供はヒルマンが指導する学校に行く。けれど全く成長しない上、数年前にフィシスの占いで「永遠に子供のまま」だと告げられた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は学校などとは縁が無い。毎日、気ままに遊び暮らして、日が暮れて。
「えーっと…。今年もそろそろだよね?」
どうしようかなぁ、と小さな頭を占めている大問題はクリスマス前の恒例行事、『お願いツリー』に吊るすカードのことだった。
シャングリラの中の公園には大きなクリスマスツリーが飾られる。それとは別に大人の背丈くらいのツリーが用意され、クリスマスに欲しい品物と自分の名前を書いたカードを吊るす行事が『お願いツリー』。
吊るされたカードは意中の人の願いを叶えようと頑張る男女が持ち去ってみたり、プレゼント係のクルーが回収したりといった形で、欲しいプレゼントを貰える仕組みだ。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」は去年と一昨年、このツリーに心からの願いを託した。
大好きなブルーが行きたいと夢見る青い星、地球。
そこへブルーを連れて行こうと、サンタクロースに「ミュウと人類の共存を説いてもらう」ために会って下さいとお願いしたのが一昨年。ところがサンタクロースは直接会ってはくれないらしく、それならば……と捕獲を試みた挙句、悲惨な結果になってしまった。
去年は一昨年の反省を踏まえて「地球への行き方を教えて下さい」と頼もうとしたのに、ヒルマンに「サンタクロースは地球の座標の表し方を知らないだろう」と諭され、考えた末にサンタクロースの橇で一緒に地球へ行こうと一大決心。
そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」は頑張った。プレゼントを届けに来たサンタクロースを必死に追いかけ、シャングリラの中を走り抜け…。けれどもう少しで追い付ける、というタイミングでサンタクロースはハッチから外の雲海に飛び降り、トナカイの橇に乗って空へと去って行ったのだ。
「…サンタさんに地球へ行きたいってお願いしたってダメだよね…」
サンタクロースは会ってくれない上に、懸命に追っても逃げられた。一緒に地球に連れて行って、と精一杯の声で叫んでみても駄目だった。
つまりブルーの心からの願い、青い地球へと繋がる道はサンタクロースには頼むだけ無駄ということだ。
だったら、せっかくの一年に一度限りのクリスマス。
お願い事は自分のために使わなくては損だろう。実際、素晴らしい願いが叶って最高のリサイタルが実現した年もあったのだから。
「んーと…。やっぱりリサイタルかなぁ? カラオケ、うんと上手になったもんね!」
シャングリラのみんなに聞かせたいな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は夢を見る。上手いどころか下手クソ以下で全く進歩が見られない事実に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は気付いていない。御機嫌でカラオケを始めた途端に「全艦、騒音対策を!」とハーレイが叫んでいることも。
「そうだ、今年はリサイタル! どうせだったら歌って踊って年越しだよね!」
ぼくの歌で新しい年が明けるんだぁ! と煌めきのステージを思い浮かべて興奮で胸が高鳴り始める。大晦日の夜からニューイヤーにかけては腕に覚えのある有志のクルーが劇場でコンサートを開いているが、そんなものより上達を遂げた自分の歌声が相応しい。
今年の最後を締め括る歌には何を歌おう? 新年を迎えるには『かみほー♪』だよね、と浮かれた気分で「そるじゃぁ・ぶるぅ」はヒョイとテレポートした。
お願いツリーの出現までには三日ほどある。サンタクロースに「いい子なんです」とアピールしなくてはいけなくなる前に、思う存分、遊んでこよう!
ショップ調査のために降り立った街、アタラクシア。
悪戯するのも大好きだけれど、人類が暮らす街の中での悪戯はブルーに禁止されている。シャングリラが攻撃されたら大変なことになるからね、と。
巨大な白い船、シャングリラにはサイオンキャノンが備えられているし、戦闘班もあるのだけれど、戦闘能力で言えばブルーが誰よりも、シャングリラそのものよりも上だった。
自分の悪戯が元で戦闘になれば、大好きなブルーが戦いの場に出なくてはならないかもしれない。そんなのは嫌だ。身体が弱くてすぐに倒れるブルーを戦わせるなんて絶対に嫌だ。
そう思うから「そるじゃぁ・ぶるぅ」は街では決して悪戯をしない。
ショップ調査とグルメ三昧を繰り返すだけで、食い逃げだって決してしない。お小遣いはブルーがたっぷりくれるし、きちんとお金を支払っている。
「…何か新作、出てるかな? 寒くなってきたし、お鍋とか…」
目新しい鍋料理でも出来ていないか、と飲食店が多い通りをキョロキョロしながら歩いていた時、ひときわ目立つポスターが目に飛び込んで来た。鍋料理専門店のショーウインドウにデカデカと張られた鮮やかなそれ。
「…土鍋カステラ、はじめました…?」
なんだろう、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は目を丸くしてポスターの文字と写真を見詰める。この店は確か、ちゃんこ鍋とか寄せ鍋だとか、昼食や夕食向けの料理の専門店だ。何度も来たし、何度も食べた。なのにカステラ。…カステラはケーキや焼き菓子の店の商品だろうと思うのだけど…。
「新しいお鍋の名前かなあ?」
写真はお菓子っぽいけれど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は土鍋いっぱいに膨れ上がった黄色い中身をまじまじと見た。何処から見てもカステラそのもの。…でも……。
「お鍋の専門店だよね?」
それっぽく見える新作の出汁か何かかも、と小さな頭で考える。チーズフォンデュも鍋料理と言えば鍋料理だし、中華風のふわふわ玉子スープなんかも存在するし…。
「どんな感じのお鍋なのかな? ふわふわなのかな、こってりかな?」
新作とあらば食べねばなるまい。食べ応えのあるお鍋だといいな、と期待しながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」は店の扉をカラリと開けて暖簾をくぐった。
「土鍋カステラ、一つちょうだい!」
空いていたテーブルにチョコンと座って元気いっぱいに注文する。間もなく運ばれてきたホカホカと湯気の立つ大きな土鍋。素手ではとても持てない熱さの土鍋の蓋がパカッと開けられ、「これでどうぞ」と取り皿とフォーク、それにスプーンがコトリと置かれた。
ふんわり、こんもりと膨れ上がった黄金色の中身。スプーンで掬って頬張ったそれに「そるじゃぁ・ぶるぅ」のグルメ魂はズキューン! と射抜かれたのだった。
アタラクシアで人気沸騰中のデザート、土鍋カステラ。
最初は何処かの喫茶店で供されたメニューらしいが、折からの寒さと土鍋を使う目新しさが評判を呼んで、ついに鍋料理の専門店での華やかなデビューと相成った。
土鍋ならではの火の通りの良さ、余熱で蒸し上げるからこそ生まれるしっとりとした舌触り。冷めにくいがゆえに食べ終えるまでの間、スフレのような温かさを保って出来たての風味。
「…すごく美味しい…」
こんなカステラ食べたことない、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は感動した。鍋料理を食べようと思っていたことはすっかり忘れて、空になった土鍋を前に声を張り上げる。
「土鍋カステラ、もう一個!」
空の鍋が下げられ、次の土鍋が来るまでの間もドキドキ、ワクワク。
頼んですぐにサッと出てこない所が本物だ。出来上がったのを温め直して出すのではなく、仕上げの段階だけを残して用意してあるカステラを調理しているわけで…。
「土鍋カステラ、お待たせしました!」
テーブルが焦げないように敷かれた鍋敷きの上に土鍋がゴトン。蓋が取られると、溢れそうなほどに盛り上がった黄金色のカステラの甘い香りが鼻をくすぐる。
「いっただっきまぁーす!」
もう御機嫌で頬張りながら、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は今日はこの店で過ごそうと決めた。土鍋カステラを食べて食べまくって、今夜は夢でも土鍋カステラ!
「…ソルジャー。もう御存知かと思いますが……」
大変なことになっております、とキャプテン・ハーレイの眉間に深い皺が常よりも多めに刻まれた。シャングリラの公園にクリスマスツリーが飾られたのと日を同じくして、此処、青の間にも青く、時として白く輝くクリスマスツリーが登場している。
それは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大好きなブルーのためにと買い込んでくるプレゼント。
青の間の主は、これまた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がシャングリラに初めて持ち込んだ炬燵がすっかり気に入っていて、冬は炬燵が定位置だ。今もミカンが盛られた器を前に、ハーレイに昆布茶を勧めてくる。
「ハーレイ、その皺は癖になるからと言っただろう? 小さな子供たちに怖がられるよ」
「それどころではございません! 今のシャングリラはもう大変な有様で…!」
今のままでは暴動です、とハーレイは拳を握り締めた。
「来る日も来る日も、玉子、玉子、玉子! 朝から晩まで食堂メニューが玉子焼きでは、クルーの士気に関わるどころか暴動が起きてもおかしくないかと!」
「生野菜と肉は足りているかと思ったが? それに魚も」
それだけあれば充分だろう、と返すブルーにハーレイはなおも言い募る。
「もちろん足りておりますが! 胃袋の方が追い付きません! 恐れながらソルジャーのお食事の方も、連日連夜の玉子焼きかと!」
「…確かにね。だけど、スープもサラダもついてくるのだし、栄養のバランスが取れればそれで」
「そんな問題ではございません! ソルジャーは我慢強くてらっしゃいますから、同じメニューが連続で出ても苦にならないかと存じますが…。普通のクルーはもう限界に来ております!」
なんとかアレを止めて下さい、とハーレイはガバッと土下座した。
シャングリラ中を悩ませている連日連夜の玉子焼き。その元凶は今も、調子っぱずれな鼻歌交じりに厨房の一角を占拠していた。
「こらぁっ、その作り方は間違っていると何度言ったら分かるんだ!」
必要なのは泡立て器だ、と厨房担当の男性クルーが泡立て器を振り上げて怒鳴り付ける。しかし相手は聞こうともせず、特大のボウルに畜産部門から運び込まれた産み立て卵をパカパカ割り入れ、砂糖をドッサリ放り込んだ。もちろん計ってなどいない。
「かみお~ん♪ 卵にお砂糖、それからミルク~!」
今日こそ上手に作るんだもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はミルクの貯蔵タンクの栓を捻って、新鮮なミルクをボウルに直接ドボドボドボ。此処でも軽量カップは使わず、タンクに備わった「必要な数値を入力すれば、その分だけを」供給するシステムもサラッと無視だ。
「後はかき混ぜて入れるだけ~♪ 土鍋、土鍋の美味しいカステラ~!」
焼いて作ってフワフワしっとり! などと出鱈目な自作の歌を歌いつつ、超特大と呼べるサイズの土鍋に流し込み、蓋をしてから調理場の奥のオーブンへ。
「土鍋カステラ、もうすぐフワッと出来上がり~!」
焼けるまでカラオケしてこようっと! とオーブンを覗き込むのに飽きた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出て行った後、オーブン担当の男性クルーが盛大な溜息を吐き出した。
「…また適当にしやがって…。これじゃ黒焦げになっちまうぜ」
オーブンの温度を下げて、焼き時間もググンと減らすクルーの姿に、厨房担当のクルー全員の嘆きの声が重なった。
「…今日もやっぱり玉子焼きか…」
「ヤツが相手だけに誰も露骨に文句は言わんが、本当にもう限界だよなぁ…」
せめてサラダを頑張ろう、という者もいれば、スープ作りに取りかかる者も。
計量はおろか泡立てるというカステラ作りの命とも言える手順を踏まずに挑戦を続ける「そるじゃぁ・ぶるぅ」の失敗作な甘い玉子焼きが、シャングリラのメニューのメインなのだった。
カラオケを終えて厨房に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は土鍋いっぱいのカステラならぬ玉子焼きの姿にガックリしたものの、それは一瞬。すぐに別の超特大の土鍋をテレポートで運び込み、ボウルを用意して卵をパカパカ、砂糖ドッサリ、ミルクをドボドボ。
御機嫌な歌声は終わらない。
「土鍋、土鍋で土鍋カステラ、美味しいな~♪」
蓋をした土鍋をオーブンに入れると、「本場の味も確かめなくちゃ!」と一声叫んで、パッと姿が消え失せた。行き先は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が心酔している土鍋カステラ専門店。否、鍋料理の店と言うべきか…。
そこでお腹いっぱいになるまで土鍋カステラを食べまくっては、自作のカステラならぬ玉子焼きの改良に全力を注ぐ。悲しいかな、永遠の子供と言われる「そるじゃぁ・ぶるぅ」に調理方法という概念は全く無かった。
土鍋カステラが上手く出来ない理由は材料にあり、と信じている。さっき焼き上がった失敗作は卵が少し多過ぎたのか、はたまた砂糖が足りなかったか。
「うーん…。卵とお砂糖、ミルクは間違いないんだけどなぁ…」
いったい何がダメなんだろう、と言いつつ本家の味を堪能する前に一度くらいは自作の味見もすべきでは…。もっとも「そるじゃぁ・ぶるぅ」にしてみれば、失敗作など味見する価値すらないのだけども。
「ソルジャー、とにかく打つ手がございません! 今も玉子焼きがオーブンの中で増殖中です!」
ヤツが戻ればもっと増えます、とハーレイは土下座したまま額を炬燵布団に擦り付けた。
「なにしろヤツの今年のサンタクロースへの願い事は…!」
「知っているよ。ぶるぅのバースデーケーキ並みのサイズ、御神輿みたいに担げるほどの土鍋カステラが作れる土鍋だっけね。寝床にしている土鍋よりも大きいサイズのカステラを作って、ホカホカ気分で寝転がりながら食べたいらしい」
とりあえず特設キッチンが要るね、とブルーは笑う。
「土鍋の方は、もう注文を出してあるんだよ。特設キッチンの設置はキャプテンに任せる」
「そ、そんな…! そんなサイズで玉子焼きなぞを作られては…!」
もう間違いなく暴動です、と青ざめるハーレイに、「心配ないよ」とブルーが微笑む。
「そろそろストップをかけなければ、とは思っていた。…去年と一昨年、ぶるぅはサンタクロースへのお願い事をぼくのために使ってくれたから…。今年は久しぶりに子供らしい願い事をしてくれたから、つい、嬉しくてね」
みんなには気の毒なことをしてしまったけど、とブルーは玉子焼き地獄に陥ったシャングリラのクルーたちへの詫び状の山を取り出してハーレイに託した。
「ちゃんと一人ずつ宛名を書いて、サインもぼくが…ね。文面は印刷で悪いんだけれど」
「そ、そんなことは…! ソルジャーからのお手紙となれば、皆、喜びます!」
宝物にする者もいるでしょう、と感極まったハーレイの前に「これも一緒に配ってほしい」と、ブルーが自らアタラクシアの街に降りて買ってきたという『おつまみ煎餅』詰め合わせセットを保管してある倉庫の鍵が差し出される。
その夜、またも玉子焼きがメインの夕食を食らったクルーたちから一言の文句も出なかったことは言うまでもない。
翌日の朝、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は土鍋カステラの店の開店を待つ間にトコトコと厨房に出掛けて行った。
今日は卵を三個ほど多めにしてみよう。砂糖も多めで、ミルクは少し控えめで。
「また来たのか」と露骨に顔を顰めるクルーたちを他所にボウルを取り出し、さて、テレポートで超特大の土鍋を出して、と…。
「あーーーっ!!!」
凄まじい悲鳴が響き渡って、クルーたちは反射的に耳を押さえて床へと伏せた。しかし何事も起こらない。悲鳴の主の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が動く気配すら伝わらない。
「「「………???」」」
恐る恐る起き上がって様子を伺うクルーたちは見た。
調理用の巨大なテーブルの上で真っ二つに割れた特大土鍋と、呆然と立ち尽くす「そるじゃぁ・ぶるぅ」を。
「……ぼくの寝床……」
ポロポロポロ…と見開いた目から大粒の涙が零れ落ち、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は声の限りに泣き始めた。
「割れちゃったぁー! ぼくの寝床が割れちゃったよぉー!!」
すっごく寝心地が良かったのに、と泣きじゃくる姿に、クルーたちは心で突っ込みを入れる。
超特大の土鍋はやっぱり寝床だったのか。衣食住とはよく言うセットだけれども、寝床を使って料理というのはデリカシーに欠けるどころの騒ぎじゃないよな?
「なんで、なんで、なんでーっ?! ぼくの寝床ーっ!」
おんおんと泣いていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」だったが、腹の虫がグウと鳴いたはずみに気を取り直したらしく、代わりの土鍋をテレポート。しかし、これまた物の見事に真っ二つで。
「う、嘘…。嘘だよ、こんなの夢を見てるに決まってるーっ!」
絶対嘘だ、と新たにテレポートさせた次の土鍋も真っ二つ。そうこうする内に土鍋のストックが尽きたらしくて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は土鍋カステラ作りを諦め、寝直そうと部屋に戻って行った。だが、その部屋で迎えてくれる筈の土鍋の寝床は一つも無くて。
「うわぁぁぁーん、無いーっ! ぼくの寝床が無くなっちゃったぁー!」
今日から何処で寝たらいいの、と泣きの涙の「そるじゃぁ・ぶるぅ」に、ハーレイが子供用ベッドを届けに来た。
「ぶるぅ、土鍋が全部真っ二つに割れてしまったそうだな。ソルジャーがこれを届けるようにと仰った」
「…土鍋は? 土鍋は一つもないの?」
「気の毒だが、生憎と鍋のシーズンだ。ソルジャーも懸命に探しておられたようだが、シーズンが済むまで注文も受けていないとのことだ」
諦めろ、とベッドを壁際に据えてハーレイは部屋を後にした。
ソルジャーもやる時はトコトンらしい、と大きな肩が笑いを堪えて震えている。そう、土鍋は一つも割れてなんかはいなかった。あれはブルーのサイオニック・ドリーム。無傷の土鍋が青の間の奥の倉庫に積まれていることはハーレイとブルーだけが知る最高機密となるだろう…。
そうして「そるじゃぁ・ぶるぅ」の受難の日々が始まった。大のお気に入りの土鍋の寝床が無くなり、慣れない子供ベッドでの夜。これでは昼寝も落ち着かない。
凝りまくっていた土鍋カステラだって、超特大の土鍋だからこそ楽しいのであって、厨房で普通に用意している土鍋なんかでは料理する気も起こらない。
子供ベッドでは寝た気にもなれず、サンタクロースへの「良い子アピール」を抜きにしたって悪戯をする元気すら湧いてはこなかった。
「……ぼくの寝床……」
鍋シーズンが終わるまで土鍋の寝床は無理かも、とションボリしていて、ふと思い出した。
こういう時にはサンタクロースだ。とびっきりのお願い事でも叶えてくれるのがサンタクロース。地球には連れて行ってくれないけれども、土鍋くらいは楽々と届けてくれるだろう。
そうだ、サンタクロースに土鍋の寝床を頼めばいい。バースデーケーキサイズの大きな土鍋でカステラ作りもやりたかったけど、土鍋カステラの才能はどうやら無いみたいだし…。
「うん、サンタさんだ! サンタさんに土鍋をお願いしようっと!」
歩いていくだけの時間も惜しくて、『お願いツリー』の側までテレポート。早速カードを書き換えて吊るし、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「お願いします」とお辞儀した。
「サンタさん、去年は追い掛けちゃってごめんなさい…。ちゃんといい子で待っているから、クリスマスに土鍋の寝床を下さい!」
声に出して念を押してみたら、心が軽くなった気分がする。クヨクヨしたって割れた土鍋は戻ってこないし、カステラ作りも出来ないし…。
「うん、ちょっと元気が出て来たかも! そうだ、新しい土鍋を貰ったら土鍋カステラ作らなくっちゃね!」
味を研究しておかなくちゃ、とアタラクシアの街へテレポート。本家本元の土鍋カステラの味を極めるべく、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は胸を張って暖簾をくぐって行った。
玉子焼き地獄と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の悪戯から逃れたシャングリラは平穏無事にクリスマス・イブの夜を迎えて、パーティーが済むと小さな子供は寝る時間。
今年もハーレイはサンタクロースの姿に扮して「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋にプレゼントを運んで行った。しかし流石に今年ばかりは…。
『ハーレイ、ぶるぅは寝ているかい?』
『はい、ソルジャー。プレゼントを並べ終わりましたが、起きません』
『なるほど、子供ベッドにも馴染んだようだね。それじゃ、今から送るから』
ブルーの思念波が言い終えるなり、直径二メートルはあろうかというサイズの土鍋がテレポートでパッと出現した。これはハーレイが背負ってきた袋には入らない。
『…凄いですね、これでカステラですか…』
『ぶるぅの本当のお願いだしね? 卵の泡立ては君も手伝ってくれるだろう?』
まさかぼくだけにやらせはすまいね、とブルーの思念がクスクスと笑う。
『もちろんです! シャングリラの皆も、喜んでお手伝いさせて頂くかと…。ぶるぅではなく、ソルジャーのために』
『そこはぶるぅのために、だね。ハーレイ、サンタクロース役、御苦労様』
リボンをきちんと結んでおいて、と頼まれたハーレイは巨大土鍋にかけられた飾りのリボンが緩んでいないか確認してから「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋を出た。シャングリラはもう夜間シフトだ。
(サンタクロース役も七回目か…)
早いものだな、と指を折って数え、ハーレイは唇に笑みを浮かべた。
クリスマスの日の朝、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はガバッと飛び起き、待ちに待った土鍋の寝床を求めて床に目をやる。そこには寝床サイズの土鍋は無くて、超特大の巨大土鍋が…。
「えっ…? サンタさん、間違えちゃった? それとも間に合わなかった…のかな…」
ぼくのお願い、遅すぎた? と涙目になりかかった「そるじゃぁ・ぶるぅ」にブルーからの優しい思念が届いた。
『ハッピーバースデー、ぶるぅ。…サンタクロースは来てくれたかい?』
「…え、えっと…。来てくれたけど…。プレゼントもいっぱい置いてあるけど、お願いしといた土鍋がないの…。寝床の土鍋をお願いしたのに、凄く大きいのを貰っちゃったの!」
こんな土鍋じゃ寝られないよう、と泣きかかった所へブルーの思念がふうわりと。
『おやおや…。本当に大きな土鍋だねえ? でも、ぶるぅ。昔から大は小を兼ねると言うんだよ。もしかしたら中に寝床サイズも入れてあるかもしれないよ?』
「えっ、ホント?!」
大急ぎでリボンを解いて巨大土鍋の蓋をサイオンで開けてみた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は歓声を上げた。
「うわぁ、土鍋だ! ぼくの土鍋だ、割れちゃったヤツが帰って来たよ!」
『良かったね、ぶるぅ。サンタクロースが修理して届けてくれたんだろう。良い子にしてれば御褒美を貰えることが分かったかい?』
「うんっ! ひい、ふう、みい…。全部ある、全部帰って来たよ~!」
ブルーが青の間に隠していたとも知らない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大感激だ。そこへ…。
『『『ハッピーバースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!』』』
シャングリラ中からの思念が湧き上がり、ブルーがテレポートで現れた。
「ぶるぅ、7歳の誕生日、おめでとう。今年もバースデーケーキは用意したけど、お前の夢の超特大の土鍋カステラを一緒に作ろう。ぼくとシャングリラのみんなでね」
せっかくサンタクロースがくれたんだから、とブルーはニッコリ笑ってみせた。
「もしかしたら土鍋が届くかも、と思っていたから特別なキッチンを作らせたんだ。さあ、ぼくとぶるぅのサイオンでそこまで運ぼうか」
「で、でも…。ぼく、土鍋カステラ、失敗ばかりで作れないの!」
まだまだ研究できていないの、と残念そうに巨大土鍋を見詰める「そるじゃぁ・ぶるぅ」に、ブルーは「大丈夫さ」と微笑み、小さな銀色の頭をクシャリと撫でた。
「土鍋カステラには作り方というのがあるんだよ。教えてあげるから、まずは泡立て器で卵をしっかり泡立てるんだね」
「分かった! ぼく、頑張る!」
おっきなカステラ作るんだぁ! と大喜びの「そるじゃぁ・ぶるぅ」の土鍋カステラ作りは今日を境に飛躍的に進歩するだろう。シャングリラの公園には恒例となった巨大バースデーケーキが御神輿のように担ぎ上げられて到着で…。
『ソルジャー、卵は何処で泡立てますか?!』
『ケーキが先ですか、それとも先に土鍋カステラを仕込みますか!?』
ワイワイと騒ぐ皆の思念に、ブルーが「そるじゃぁ・ぶるぅ」と手を繋ぎ。
『今からぶるぅとそっちに行くよ。土鍋をキッチンに運んでからね』
バースデーにはケーキからだ、という思念を合図に公園のあちこちでクラッカーが弾け、バースデーソングの大合唱が湧き起こる。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」、7歳の誕生日、おめでとう!
クリスマスの土鍋・了
※悪戯小僧な本家ぶるぅ、12月25日で満7歳。
2007年の12月25日で1歳でしたから、6年間も生きてきたようです。
これからもブルー大好きっ子で元気に過ごして欲しいですねえ。
お誕生日しか出番が無いけれど、実はブルーを青い地球まで連れて行っちゃいますよ!
そのお話を御存知ない方は、下のバナーから 『赤い瞳 青い星』 へどうぞv
←本家ぶるぅ版・ブルー生存EDです!
そして「ぶるぅと土鍋」の図です! クリックで拡大できます、可愛いですよね~。
←両隣のコロコロは「ぬいぐるみ」!
リンドウノ様からの頂き物です、感謝ですv