シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
シャングリラ学園、今日も平和に事もなし。梅雨入りしたものの、それはそれで楽しみようもあるというもので…。今日もホタル狩りに出掛けようかなんていう話をしながら会長さんのマンションへ。ええ、週末の土曜日です。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
雨は夜には上がるみたい、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。
「雨が上がったらホタルさんを見に行くんだよね?」
「そのつもりだが…」
親父にはちゃんと断って来た、とキース君。夜のお勤めに出られないと言っておいたようです。週末は大抵サボッてるくせに、毎回、毎回、律儀に断るとは素晴らしいですが…。
「俺は一応、副住職だしな? 法事の入りやすい週末に遊び回るとなれば謝っておかんと」
「うんうん、それは坊主の基本だね」
会長さんが「頑張りたまえ」と激励を。
「そんなキースを力づけるためにも、今夜はホタル狩りと洒落込みたいねえ。でもまあ、お天気次第だし…。いつものようにのんびりいこうよ」
「あのね、おやつ、ブルーベリーチーズケーキだよ!」
食べて、食べて! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。飲み物も揃って、みんなで早速パクパクと。外は雨でも会長さんの家は居心地最高、ワイワイとやっていたのですけど。
「ちょっといいかな?」
「「「は?」」」
会長さんの声が背後から。でも目の前に会長さん。…あれ?
「今日はお願いがあるんだけれど…」
「「「!!?」」」
なんだ、と振り返った先に紫のマントのソルジャーが。早くもおやつを嗅ぎ付けて来たか、はたまた夜のホタル狩りの方がお目当てか。来たぞ、と身構える私たち。お願いが何か知りませんけど、どうせ却下は不可能ですよ…。
「悪いね、御馳走になっちゃって」
ソルジャーはさも当然のようにブルーベリーチーズケーキを頬張りつつも、なんだかいつもよりも腰が低めな感じ。これは相当に恐ろしい「お願い」が来るに違いない、と思ったのですが。
「「「ジャガイモ!?」」」
「そう、ジャガイモ」
植えられる場所は無いだろうか、と真顔のソルジャー。
「ぼくの世界のシャングリラでちょっと色々あってね…。今、ジャガイモが作れないんだ。だけどジャガイモはとても人気の食材で…。栄養価も高いし」
「そりゃそうだろうね、主食にしていた国だってあるし」
会長さんがそう応じると。
「分かってくれた? ジャガイモ無しのシャングリラなんて考えられないと言うか、ジャガイモが無ければ大変と言うか…。今はまだ貯蔵してある分があるんだけれども、もって二ヶ月」
そこでジャガイモが底を尽くのだ、とソルジャーは至極真面目な顔で。
「今すぐにこっちで栽培出来ればジャガイモを確保出来るんだよ。何処かに空いた畑は無いかな」
「いっそジャガイモを買い付けたら?」
それが早い、と会長さん。
「ジャガイモは収穫までに三ヶ月ほどはかかる筈だよ、二ヶ月じゃとても間に合わない。だけどこっちは春に植えたジャガイモが採れる時期だし、買い付けるんなら名前くらい貸すよ」
ただし代金は自分で払え、と会長さんは突き放しました。
「どれだけ要るのか分からないけど、ジャガイモの代金くらいはノルディが喜んで支払うさ。ぼくは絶対、払わないけどね。というわけで、はい、解決」
買いに行って来い、と会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に店の名前を確認中。新鮮な野菜を買うために時々出掛けて行っている卸売市場の野菜のお店らしいのですけど…。
「かみお~ん♪ えっとね、野菜を扱う市場が入っているのが此処で…」
御親切にも紙に地図を描き始めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。何棟もの大きな建物が並ぶ卸売市場の地図らしいですが、ソルジャーは。
「気持ちは有難いんだけど…。種イモが無駄になってしまうのはマズイ。畑さえ貸してくれればそれでいいんだよ。1ヘクタールくらい」
「「「1ヘクタール…」」」
百メートルかける百メートルで1ヘクタールで三千坪。咄嗟に想像つきませんけど、それだけの広さでジャガイモを作ると?
「どうしてもジャガイモでなきゃいけないのかい?」
ジャガイモが無ければサツマイモを食べればいいじゃない、と女言葉の会長さん。何処ぞの女王様だか王妃様だかが仰ったという名文句のパクリですけども…。
「ジャガイモでなければ駄目なんだよ!」
種イモもある、とソルジャー、真剣。
「それに成長促進用の肥料なんかもあるからね。二ヶ月あったら収穫可能! 種イモを無駄にしたくはないから、何処かに畑…」
「うーん…。異常な早さで成長するジャガイモを植えるとなると…」
その辺の畑は無理があるか、と会長さんは考え込んで。
「マツカ、畑をなんとか出来るかい? できれば人里離れた場所で1ヘクタール」
「…畑ですか?」
マツカ君は携帯端末を取り出し、執事さんと話し始めました。
「ええ、そう。人目につかない場所で1ヘクタール。…えっ、いつからって…」
いつからですか? とソルジャーに問い合わせ。
「使えるんなら直ぐにでも! 場所さえ分かれば一人でなんとか」
「直ぐ使いたいって…。はい、はい…。あ、じゃあ、そういう方向で手配をお願いします」
よろしく、と終わった執事さんとの電話。畑は確保出来たのでしょうか?
「あったようです、ちょうどいい畑。アルテメシアの北の山あいの方になりますが…。なんでもお茶を栽培するとかで整備したものの、栽培予定だった人が旅に出たそうで」
「「「旅?」」」
「お茶の視察の旅だそうです、茶畑は来年までお預けだとか」
マツカ君曰く、この国で最初にお茶の木を植えて栽培が始まったのがアルテメシアの北の山沿いのお寺。その後、お茶の栽培はアルテメシアの南の方へと移ってしまって、お茶といえば誰もが思い浮かべるほどの一大産地となっていますが…。
「北の方でのお茶栽培は廃れたんですよ。それを村おこしでやってみるか、という話になって、その辺りに生えていたお茶の木をDNA鑑定して貰ったら、この国の何処とも一致しなくて」
「「「ええっ!?」」」
「もしかすると最初に持ち込まれたお茶の木の子孫なのかも、ってコトなんです。そうなるとプレミアがつきますからねえ、お茶の本場で確認すべし、と」
栽培予定だった人はお茶の本場の中華な国へDNA鑑定用のサンプル集めに旅立ったとか。というわけで畑はそのまま置いてあるのだ、という結末。
「お茶の栽培となると色々とお金がかかりますしね、父が出資をしてるんですよ」
ゆえに放置中の畑もマツカ君のお父さんの土地。お茶の栽培が始まるまではどう使おうが勝手らしくて、蕎麦でも植えるかという話になっていたとのこと。
「空き地だったら蕎麦もいいですけれども、使いたいなら何でも適当に植えてくれれば、と言っていました。ヒマワリだろうがコスモスだろうが」
「いや、ぼくはジャガイモさえ植えられれば…。それじゃ借りてもいいんだね?」
「はい。まずは育苗用に1ヘクタールってことで切り開いたそうで、周りには人家も田畑も無いらしいですよ」
いずれは一面の茶畑にするのが目的の場所。元からの田畑を買収するよりも山林開拓、手始めに育苗用のスペースを1ヘクタール。あつらえたようにソルジャー向きの畑です。
「ありがとう、マツカ! これでシャングリラのジャガイモ事情が改善されるよ」
「お役に立てて何よりです。直ぐに使うと言っておきましたから、今日中に耕してくれるそうですよ。雨が降っていても農作業のプロはプロですからね」
元々が「蕎麦でも植えるか」だっただけに、軽く耕してはあったのだとか。ジャガイモ用に耕し直して、明日には使える畑が完成。ソルジャーは感激の面持ちで。
「言ってみるものだねえ、ジャガイモ畑! ところで明日の天気はどうかな」
「晴れそうだよ?」
今夜はホタルを見に行くんだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「そっか、晴れならジャガイモを植えるにはピッタリだよね」
頑張るぞ! とソルジャーがグッと拳を握った所で気が付きました。まさかジャガイモの植え付けだとか、収穫だとか。私たち、手伝う羽目になるとか…?
「えっ、その点は別に迷惑をかける気は…。植えるくらいはサイオンでパパッと一瞬だしね? その後の世話とかもシャングリラ流でガンガンやるしさ」
促成栽培用の肥料を入れて、除草も農薬とはちょっと違った専用のものがあるとかで。
「こっちの世界の生態系に影響が出ないよう、きちんと気を付けてシールドするから! もちろん畑も収穫の後でしっかり後始末!」
御心配なく、との言葉でホッと安心。1ヘクタールもの畑でジャガイモの植え付けだなんて、楽しくもなんともないですしね?
「植えるのは楽しくないだろうけど、収穫の方もパスなのかい?」
ソルジャーの問いに、「うーん…」と悩んで、時期によってはやりたいかも、という結論に。夏休みの間の暇な日だったら、レジャーを兼ねてチョチョイと掘るとか、そういうの~。
その日の夜はソルジャーも一緒にホタル狩りへとお出掛けで。例の畑は夕方までにマツカ君の家の執事さんから「準備が出来ました」と連絡があって、ソルジャーを現地まで案内がてらの瞬間移動で見学して来ましたが…。
「ブルーがやってるジャガイモ畑は順調らしいね?」
今日も見て来た、と会長さん。夏休みが近付き、暑さもググンと増して夏真っ盛り。放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋はクーラーも効いて快適ですけど、外はうだるような真夏日です。
「あの畑か…。あいつが真面目に農業とはな」
キース君の言葉に、ジョミー君が。
「なんかさあ…。あれでもホントにソルジャーなんだね、わざわざジャガイモ作りだなんて」
「普段の言動からは全く想像つきませんよね」
シロエ君も感動しています。
「食料事情の改善のためにソルジャー自らイモ作りですか…」
「ぼくも見習わなきゃいけないかも、って気がしてくるよ」
あのイモ畑を見る度に、と会長さん。
「いくらサイオンを使ったにせよ、1ヘクタールもの畑で種イモの植え付け! その後も真面目に世話をしてるし、今月の下旬辺りには収穫らしいよ」
「へえ…。ホントに二ヶ月で採れるのかよ?」
サム君が「すげえ」とカレンダーで日付を数えて確認。
「マジで二ヶ月切ってるよな、それ。人目につかねえ場所って注文、正しかったぜ」
「畑に人が近付かないよう、シールドもしているみたいだよ。いやもうホントに頭が下がるよ」
まさかあそこまで真面目だったとは、と会長さんもソルジャーを見直しているらしく。
「この際、収穫くらいは手伝うべきかな、って本気で思うね」
「だよねえ、サイオンで一発収穫OKなんじゃないかなって気もするけれど…」
ちょっと手伝ってあげたいよね、とジョミー君。キース君も大きく頷いています。
「今月の末なら夏休みのスケジュールさえ上手く組めばな…。俺も手伝いのためなら卒塔婆書きを頑張りまくって時間を作ろう」
「それじゃ、みんなで手伝うかい? ブルーもきっと喜ぶよ」
ハーレイも動員してしまおうか、と会長さんがニコニコと。
「ぼくと一緒にジャガイモ掘りだと言えば簡単に釣れるしね? 額に汗してジャガイモ掘りなら、あのガタイは充分役に立つ!」
よし! と会長さんの一声、ジャガイモ掘りを手伝うことになりました。教頭先生も引っ張り出しての農作業。今年の夏休みは一風変わったものになりそう…。
夏休みに突入すると柔道部の合宿とジョミー君とサム君の璃慕恩院での修行体験。それが済んだらマツカ君の山の別荘にお出掛けをして、戻って来て二日後がジャガイモ掘りの日となりました。暑さがマシで、快晴という頼もしい予報だったからです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
お弁当とか出来ているよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大はしゃぎ。私たちは会長さんのマンションに集合、其処から瞬間移動でジャガイモ畑へ出発予定。なにしろシールドで隠されている秘密のジャガイモ畑ですから、マイクロバスとかで移動はちょっと…。
「もうすぐハーレイも来ると思うよ、あっ、来たかな?」
会長さんの声が終わらない内にチャイムの音が。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が玄関へ跳ねてゆき、教頭先生と一緒に戻って来ました。
「おはよう、みんな揃っているな」
「そりゃねえ、お手伝いをするわけだしね? 時間厳守さ」
じきにブルーがやって来る筈、と会長さんが眺めた時計は午前八時ちょうど。空間がユラリと揺れて、「こんにちは」とソルジャー登場で。
「ぼくのハーレイも今日は手伝いに来てくれるんだ。一足先に畑に行って見回り中でね」
「なるほどねえ…。シャングリラのためのジャガイモだからだね」
「そう! キャプテンたるもの、食料の確保も仕事の内だし」
キャプテン、どんな作物がいつ採れるのかも把握しなくてはいけないそうです。同じキャプテンでも教頭先生の場合はクルーにお任せ、今、農場に何があるのかも知らないらしくて…。
「いかんな、こんなことではな…。私も真面目に報告書を上げさせるべきだろうか?」
「無理、無理! 却って現場の負担になるよ」
会長さんが即座に却下。
「君に提出するための報告書を作る時間があったら、農作業! 牛にブラシをかけてやるとか!」
そうして美味しい肉が出来る、という意見は至極正論。ソルジャーの世界と違って私たちの方のシャングリラ号は同じ自給自足でも楽しくリッチに、お肉も美味しく出来てなんぼで。
「現場のクルーは熟練だしねえ、君が迂闊に口を出すより放置が一番!」
「…そうか、そうかもしれないな…」
「というわけでね、その分、ブルーのシャングリラのために頑張りたまえ」
畑でジャガイモをガンガン掘るべし、と会長さん。教頭先生は「うむ」と頷き、ソルジャーも「それじゃ行こうか」と。そのソルジャーは何処で買ったかツナギの作業服、ホントに真面目にやってますねえ、ジャガイモ作り…。
会長さんとソルジャー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の青いサイオンで全員揃って瞬間移動。お弁当もしっかり一緒に移動した先は山林の中にパッと開けたジャガイモ畑。収穫期だけに葉っぱや茎は黄色っぽく枯れて、ちょうど良さそうな感じですけど。
「ブルー、どれも充分に掘れそうです!」
キャプテンが大きく手を振りながら、畑の奥からやって来ました。これまたツナギの青い作業服、農業にかける意気込みが分かるというものです。ソルジャーは「うん」と頷いて。
「それじゃジャガイモ掘りだけど…。ハーレイ、お手本をよろしく頼むよ」
「お任せ下さい!」
では、とキャプテンが畑の脇に置いてあった荷物の中から取り出したものは。
「「「???」」」
なんで野球の審判なのだ、と言いたくなるような顔をガードする審判用マスク。更に肩と胸をガードするチェストプロテクターと足用のレッグガードも装着。
「…な、何なんです、アレ?」
シロエ君が指差しましたが、答えられる人はいませんでした。ジャガイモ畑で野球をするとも思えないのですが、とにかくキャプテンは審判スタイル。
「それでは行ってまいります」
「うん、気を付けて」
キャプテンがジャガイモ掘り用のフォークみたいな農機具を持って畑へと。直ぐ側で掘るんだとばかり思っていたのに、ずんずん奥へと歩いて行って…。
「ブルー、この辺りでいいですかー!?」
「それで充分!」
「では、始めます!」
ザックとばかりにフォーク、そう、正式名称フォークとかいう農機具が畑にグッサリと刺され、土の中からジャガイモがゴロリ。てっきりスコップで掘るんだと思っていたんですけど、ああいう道具を使っていいなら楽そうです。
「梃子の原理というヤツか…」
面白いほどジャガイモが出るな、とキース君。ゴロンゴロンと掘り上がったジャガイモ、一株でかなりの数があります。キャプテンはそれを軍手をはめた手でヒョイヒョイと拾って袋へと。
「完了でーす!」
「うーん…。それじゃ見本になってないよね!?」
「なってませんねー!」
なんとも謎な会話が交わされ、キャプテン、隣のジャガイモの株をザックザックと。掘り方は分かったと思いますけど、まだ掘るんですか?
お手本としてはイマイチだったらしいジャガイモ掘り。キャプテンは別の株にチャレンジ、いとも簡単にザックと掘り上げ、袋の中へヒョイヒョイヒョイ。
「まだ駄目ですねー!?」
「もう一本だねー!」
またまた交わされる謎の会話と、次の株に挑むキャプテンと。いったい何をやってるんだか…。ザックザックでヒョイヒョイヒョイ…って、ええっ!?
「「「うわーっ!!!」」」
ドッゴーン!!! と響き渡った爆発音と、もうもうと上がる土煙。何が起こったのかと目を剥いていれば、衝撃で転がったらしいキャプテンがムクリと起き上がって。
「当たりでしたーーーっ!」
「ご苦労様ーーーっ!」
今度こそ謎としか言いようのない妙な会話で、キャプテンはフォークを右手に、左手にジャガイモ袋を持って私たちの所へ戻って来ました。
「ブルー、とりあえずこれだけ掘りましたが」
「上等、上等。やっぱりジャガイモにはまるで影響ないみたいだねえ?」
「同士討ちはしない仕様でしょう。種の存続に響きますから」
「そうなんだろうねえ…」
全部ドッカンだと滅びてしまうし、と言われましても。何がドッカンと爆発したのか、全然サッパリ謎なんですが…?
「ああ、あれかい? 爆発したのはジャガイモだけど」
「「「ジャガイモ!?」」」
なんでそんなモノが爆発するというのでしょう? 有り得ないですよ、ジャガイモですよ?
「なんでジャガイモが爆発するのさ!」
会長さんが即座に突っ込み、ソルジャーがケロリとした顔で。
「ジャガイモだから」
「「「はあ?」」」
それって答えになってませんから! もちろん会長さんも納得なんかするわけがなくて。
「どういうジャガイモ!?」
「こういうジャガイモ!」
畑一面、1ヘクタール! とソルジャー、得意げ。もしやこのジャガイモ、普通じゃないとか? 冗談抜きで爆発するとか、まさか、まさかね…。
「…そもそも最初は事故だったんだよ」
それでジャガイモを作れなくなってしまったのだ、とソルジャーは三千坪ものジャガイモ畑を眺めて溜息をつきました。
「ぶるぅが悪戯しちゃってねえ…。そうとも知らずに普通に育てて、収穫の時に爆発してさ。爆発自体が悪戯なんだと思った農作業係のクルーは作業続行、お蔭で怪我人続出ってわけ」
「もしかしなくても、本当にジャガイモが爆発するわけ?」
会長さんの問いに、ソルジャーは「うん」と。
「さっきハーレイがやって見せたように、ドッカンと派手に大爆発だよ。ハーレイは身体が頑丈な上に、プロテクターもつけてたしね? 尻餅程度で済むんだけれど…」
普通のミュウだとそうはいかない、と嘆くソルジャー。
「吹っ飛ばされた衝撃で全身打撲とか、失神だとか。すっかりトラウマになってしまってジャガイモは当分見たくないとか、爆発ジャガイモが駆逐されるまで畑では作業したくないとか…」
「当然だよ!!!」
そんな目に遭って誰が畑に出るものか、と会長さんは眉を吊り上げ。
「そのジャガイモを植えたわけだね、1ヘクタールも! どういうつもりで!」
「いや、君たちならレジャー感覚で掘ってくれるかと…。種イモだってもったいないし」
それに本当にジャガイモが底を尽きそうなのだ、とソルジャー、其処は本当らしく。
「種イモが爆発ジャガイモだと分かってるから誰も作業をしたがらない。普通のジャガイモと入れ替えるから、と言ってみたけど腰が引けてて、どうにもこうにも」
だから自分で作ることにした、とソルジャーは珍しく指導者の顔。
「ソルジャーのぼくが真面目に栽培したなら、現場を放棄して逃げたクルーは敵前逃亡、職務怠慢ということになる。しかも爆発ジャガイモだしねえ、ぼくが育てたジャガイモは!」
真っ当なジャガイモでも育てたくないなどとは言わせない、とソルジャーが言えば、キャプテンも隣で「そのとおりです」と肯定を。
「爆発ジャガイモは今回の分を食べてしまえばもう終わりですし、ぶるぅが持ち込もうにも種イモは廃棄処分の筈ですから」
二度と爆発しない筈です、と確信している様子のキャプテン。えーっと、爆発ジャガイモが「ぶるぅ」の悪戯で持ち込まれたことは分かりましたが、それって、何処から?
ドカンと爆発するという爆発ジャガイモ。そんな恐ろしい代物が何処にあったのだ、と私たちが口々に尋ねてみれば。
「…アルテメシアのサイオン研究所」
「「「研究所?」」」
何故にサイオン研究所で爆発ジャガイモ? それこそ謎な展開ですけど、ソルジャーは。
「そもそも生物兵器なんだよ、爆発ジャガイモ。対ミュウ用に開発されたジャガイモなわけ」
「…それにしては爆発が甘くないか?」
キース君の指摘に、ソルジャーは「まあね」と苦笑い。
「殺傷力って点では、とてもとても。でもねえ、そこまでの威力を持たせてしまうと被害甚大で意味が無いから」
「だけど生物兵器だろ? 被害甚大で皆殺しが基本じゃないのかい?」
会長さんが訊けば、ソルジャーが。
「理想は多分それだと思うよ。でもさ、そんな危険な爆発ジャガイモ、どうやってシャングリラに送り込むわけ? まず無理かと」
「ぶるぅが持ち込んだじゃないか!」
「ぶるぅの悪戯に期待するほど人類も間抜けじゃないからねえ…。爆発ジャガイモはミュウが増えないように使う兵器なんだな」
「「「へ?」」」
あんなジャガイモをどう使うのだ、と『?』マークの乱舞ですが。
「子供の間にミュウを発見、素早く駆逐! そういう目的で爆発ジャガイモ! ほら、こっちの世界でもやってるだろう? 幼稚園とかでイモ掘りにお出掛け」
「「「あー…」」」
ジャガイモ掘りもサツマイモ掘りも、幼稚園の行事の王道です。ソルジャーの世界でも幼児はイモ掘りに出掛けるらしく。
「このジャガイモはねえ、サイオンに反応して爆発するんだ。ミュウの因子を持った子供がイモ掘りをして掴んだ途端にドッカンとね」
大人でも失神するか全身打撲な爆発ですから、幼児の場合はもれなく気絶。他の子供には「病院へ連れて行くから」と言い訳しておいて秘かに処分を、という目的で開発された生物兵器が爆発ジャガイモ。世の中、本当にブッ飛んだモノがあるとしか…。
子供の間にミュウを発見して処分するための爆発ジャガイモ。ぶるぅが持ち出したのも大概ですけど、それ以前にコレ、廃棄処分とか言いませんでした?
「ああ、それはねえ…。散々実験を重ねたらしいけど、不発弾が多すぎるんだよ、これは」
ねえ? とソルジャーがキャプテンに視線を向けて、キャプテンが。
「先ほど、ジャガイモ掘りのお手本をお見せしましたが…。この畑のジャガイモは全て爆発ジャガイモです。しかし御覧になったとおりに、三株目でようやく爆発といった次第で」
「そうなんだよねえ、割合的には九割以上が不発弾だと言ってもいい。爆発ジャガイモの案は良かったし、研究費が出ていたようだけど…。不発弾の割合が下がらなくって予算打ち切り」
ついでに今までに開発した爆発ジャガイモも廃棄処分、とソルジャー、ニッコリ。
「研究室ごと閉鎖らしいよ。そのタイミングでぶるぅが盗み出して来たっていうのが最高! そうでなければ、多分、一生、ぼくも知らずに終わっていたかと」
「なんでそういう物騒なものを盗むんだ!」
キース君の怒声に返った答えは「ぶるぅだから」という単純明快なもの。
「サイオン研究所に忍び込んだら爆発ジャガイモがゴロゴロと…ね。まだ栽培もしていた頃でさ、悪戯とばかりに引っこ抜いていたらドッカンと! それで大喜びで持って帰って」
「そうとも知らない農場担当の者が植えたというわけです」
キャプテンとソルジャー、二人がかりでの説明によると、爆発ジャガイモは掘り上げてしまえば爆発しないらしいのです。地面から掘り出して収穫する時に手に取る一瞬が勝負の瞬間。其処でサイオンを検知した場合はドカンと一発、検知しなければ普通のジャガイモとして終わるらしくて。
「次にドカンとやらかす時はさ、種イモとして植えられて新しいジャガイモが出来た時でさ」
「さっきのようにドカンと爆発する仕組みですが、大部分が不発弾ですから…」
どれが当たりかは掘ってみないと分からないのです、と話すキャプテン。
「とにかく今回の収穫分は種イモに回さず、全て食用にする予定です」
「つまりさ、これが最後の爆発ジャガイモの畑なんだよ」
凄いレアもの、とソルジャーは畑を指差しました。
「二度とはお目にかかれない上に、収穫してくれればシャングリラの皆が感謝する。ソルジャーであるぼくの株だってググンと上がる。…もっとも、別の世界で育ててるとは言ってないけどね」
アルテメシアのとある所に植えておいた、と言ったらしいです。そういえばジャガイモ、元々は荒れ地で育つ類のモノだったような…。何処に植えても特に問題無さそうですねえ?
掘り上げて手に取った人間にサイオンがあれば、ドカンと爆発するらしい爆発ジャガイモ。生物兵器としては価値なしと判断されて研究打ち切り、廃棄処分な二度と出会えないレアものを植えたと言われても…。
「…ぼくたちって一応、サイオン、あるよね?」
ジョミー君の声が震えて、シロエ君が。
「思念波を使えるからにはサイオンが無いとは言えないでしょうね…」
「それじゃ俺たちでもドカンじゃねえかよ!」
サム君の叫びに、マツカ君も。
「爆発すると思います。…さっき見たようなああいう感じで」
「「「…………」」」
1ヘクタールものジャガイモ畑。三千坪のジャガイモ畑。いくら九割が不発弾でも、単純に面積から計算していけば…。
「千平方メートル分は爆発すると考えて間違いないんだろうな」
キース君の計算をスウェナちゃんが別の言い方で。
「三百坪は爆発するってわけね…」
「ちょ、広すぎるし!」
三百坪ってどれだけなのさ、とジョミー君の悲鳴が上がりました。千平方メートルと言われても全くピンと来ませんでしたが、三百坪なら分かります。それを人数分で割ったら…。
「えーっと、ぶるぅも数えて十一人だし…一人頭で二十七坪?」
ジョミー君が指を折る横からスウェナちゃんの声が。
「つまりは五十四畳なのね?」
「「「えーーーっ!!」」」
どの辺がどう不発弾なのだ、と全員が総毛立つ恐ろしい数字。運が良ければ一発も当たらないかもですけど、こういうモノって得てして公平に当たりがち。イモ畑に入ってザックザックでヒョイヒョイヒョイでドッカンとなる確率がお一人様に五十四畳分…。
「ねえ、プロテクターって一人分だけ!?」
ジョミー君がソルジャーに縋るような目を向けましたが、答えは聞くだけ無駄なもので。
「無いねえ、ハーレイの見本用に一式用意しただけで」
それじゃ掘ろうか、とフォークを掴んでソルジャーはジャガイモ畑へと。あのう……サイオンは使わないんですか? そしたら一気に掘れそうですけど…。
「ダメダメ、いくら同士討ちはしない仕様のイモでも、大爆発となったら傷むかもだし!」
丁寧に手で掘り上げるべし、とフォークを土にザックリと。ソルジャーの称号がダテでないことは分かりました。ドカンと行こうがザックザックでヒョイヒョイ拾うわけですね?
恐ろしすぎる爆発ジャガイモ。お一人様につき五十四畳分は爆発するらしい不発弾がビッシリ埋まったジャガイモ畑。それを植え付けたソルジャーは作業服で鼻歌交じりにザックザックと掘り始めていて、その直ぐ後ろに審判スタイルのキャプテンが。あれっ、フォークは?
「…フォーク持ってないね?」
なんで、とジョミー君が口にした途端にキャプテンの存在意義が分かりました。ソルジャーが掘り上げたジャガイモをキャプテンがヒョイヒョイ拾っています。バカップルだけに見事に息の合った二人三脚ならぬイモ掘りコンビ。
「それで一人だけプロテクターかよ!」
俺たちはどうしてくれるんだよ、というサム君の絶叫にドカンと被さる爆発音。キャプテンが畑に尻餅をついて、ソルジャーが「ごめん、ごめん」と謝りながら引っ張り起こして。
「さあ、頑張って掘って行こうか! 其処の君たちもどうぞよろしくーーーっ!」
「どうぞよろしくお願いしますーーーっ!」
声を揃えて叫ばれましても、プロテクターも無しでドカンな爆発ジャガイモ。殺傷力は無いと聞いても全身打撲だの失神だのと怖い事実も耳にしましたし…。
「おい、シロエ。俺たちは安全に掘れると思うか?」
「ど、どうでしょう…。火薬とかなら計算式も作れますけど、ジャガイモですから…」
どういう仕組みで爆発するのか分かりません、とシロエ君もお手上げ状態。爆発の仕組みが分かっているなら、ジャガイモのサイズや個々人の体重などから危険性を割り出せるようですが…。
「ぼくが現状で言えることはですね、キャプテンの体格とプロテクターがあれば尻餅程度で済むということと、爆発現場の直ぐ側に居ても起爆させた人間以外は問題無いということだけです」
あのとおりソルジャーは無傷なんです、と言われてみれば、そうでした。キャプテンが尻餅をつくような爆発が起こっているのに、直ぐ側に立っていてもよろけもしなくて…。
「…サイオンと何か関係あるのかな?」
ジョミー君が首を傾げて、スウェナちゃんが。
「サイオンはどうだか分からないけど、幼稚園児のイモ掘り用でしょ? サイオンを持った子供が掘り起こして爆発はかまわないとして、子供って大抵、集まってるのに危なくない?」
「そうだな、起爆させた人間限定で被害を出すような仕組みかもしれん」
キース君の仮説と目の前の現実。ソルジャーが掘り上げたジャガイモを拾ったキャプテンだけが吹っ飛び、ソルジャーは平然としている事実。と、いうことは…。
「掘るだけだったら安全なんだ?」
拾わなければセーフなんだ、というジョミー君の意見は恐らく当たっているのでしょう。そうか、掘るだけお手伝い…!
お一人様につき五十四畳分は爆発するらしい恐怖のジャガイモ畑。普通のジャガイモ掘りだと思ってお弁当まで用意してやって来たのに、エライことになったと震えてましたが…。
「かみお~ん♪ 掘るだけだったら爆発しないの?」
「らしいよ、ぶるぅ」
ぼくもそう見た、と会長さんの頼もしい言葉が聞こえました。
「それならブルーを手伝える。ぼくたちはジャガイモを掘ればいいんだ、其処のフォークで」
会長さんが示す先には人数分のジャガイモ掘り用のフォークな農機具。それを握ってザックザックとやらかす分には爆発ジャガイモの危険は無くって、ただの楽しいイモ掘りなわけで…。
「拾うのはキャプテンに任せるんだね?」
ジョミー君が明るい顔で言ったのですけど、会長さんが返した答えは。
「ちゃんと居るだろ、イモ拾い要員」
「「「は?」」」
「プロテクター無しだし全身打撲と失神の恐れがゼロではないけど、ブルー専用のイモ拾い係に匹敵する立派な体格の持ち主!」
君だ、と会長さんは教頭先生をビシィと指名しました。
「君のぼくへの愛を見込んで、イモ拾い係に任命しよう。ぼくとぶるぅと、ぼくの大切な友達のために身体を張ってくれたまえ」
「…わ、私がか?」
「平気だってば、不発弾が九割らしいしね? 人数的にはブルーがバンバン爆発させれば残りの部分は絶対安全! いいかい、全部で十一人だろ? そして一人がイモ拾い専用だから…」
イモ掘り要員は十人なのだ、と会長さん。
「君がイモ拾い要員に徹せず、自分でも掘れば全部で十人。九割が不発なら九人は無傷! 爆発はブルーの担当分だけ!」
「な、なるほどな…。そういう計算だと言われれば合うな…」
納得しておられる教頭先生。確率の問題からしてそういう計算にはならないだろう、と全員が気付いていたのですけど、此処はヨイショをするのが吉。
「そうです、その計算で合っていますよ!」
シロエ君が「流石は会長、冴えてますよね」と褒めれば、キース君も。
「実に正しい読みだな、それは。…そうか、爆発はあいつらだけか」
俺たちは完全に安全圏か、と会長さんの尻馬に乗って言い出し、私たちも声を揃えて安全性の高さを主張しました。教頭先生はコロッと騙され、フォーク片手に私たちと一緒にジャガイモ畑へ。そして…。
「いやあ、頑張ってくれたねえ、こっちのハーレイ」
残るは向こうの畝だけだよ、とソルジャーが御機嫌で焼きそばパンを頬張っています。お弁当はとっくの昔に食べ終え、その後もせっせとジャガイモを掘って、おやつの時間。こういう時には市販の調理パンが美味しく、他にもサンドイッチやジャムパン、クリームパンなど。
「君が計算したんだって? こっちの面子は安全圏だ、って」
「その手の計算は得意なんだよ。でもって、ぼくのプライドにかけて! 計算ミスなんて有り得ないから!」
たまにドカンと爆発するのは不幸な事故だ、と会長さんは主張しました。なにしろ相手は自然の産物、計算通りにいかない部分も多々あるという持論を展開、教頭先生を煙に巻き…。
「いいんでしょうか、不幸な事故が多すぎるような気がするんですけど…」
シロエ君の呟きに「問題ない、ない」とヒラヒラと手を振る会長さん。
「ハーレイの頭の中で計算が合えばいいんだよ。ぼくが計算した美しすぎる答えなんだよ、ミスの介在する余地は無いって!」
おやつが済んだら向こうの畝を十人がかりで一気に片付けよう! と会長さんがブチ上げ、ソルジャーが。
「オッケー、爆発する危険性がある一割は全部引き受けるから!」
「頼もしいねえ、よろしく頼むよ。…ハーレイ、今度もぼくたちは不発弾の担当だってさ!」
頑張ろうね、と励ます会長さんの声に、おやつのパンも食べずに討ち死に中の教頭先生が「うむ」と返事を。
「…お前のためなら頑張れる。不発弾といえども危険はやはり伴うからな…」
そのために不発弾処理というのがあるんだからな、と教頭先生は何処までも騙されてらっしゃいました。そんな教頭先生を爆発でボロボロにしたジャガイモ畑は綺麗サッパリ掘り上げられて、夕方までに袋に詰められて。
「ありがとう、これでぼくのシャングリラのジャガイモ不足も解消するよ」
「皆さんには感謝しております。爆発ジャガイモは全て、きちんと食用に回しますから」
二度と爆発しないでしょう、とキャプテンが深々と頭を下げ、ソルジャーは大量のジャガイモを詰めた袋に大満足。私たちもスリリングなジャガイモ掘りを楽しめましたが、教頭先生はどうなんでしょう? 当分ジャガイモは見たくないかな、ひょっとしたら一生食べられないかも~?
内緒のイモ畑・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが珍しく「ソルジャーらしい仕事」に挑戦したわけですけど…。
よりにもよって爆発ジャガイモ、掘らされる方は大迷惑。ジャガイモは大切ですけどね。
シャングリラ学園、来月は第3月曜までに間が空くので、オマケ更新の筈なんですが…。
windows10 とサイトの相性が最悪、UPするだけの作業に1時間半かかるのが今の状態です。
この問題が解決するまで、オマケ更新は「なし」とさせて頂きます。スミマセン…。
次回は 「第3月曜」 8月21日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、7月は、お盆を控えたキース君が卒塔婆書きの季節ですけど…。
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