忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

盛り付け色々

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






春のお彼岸の慰安旅行に続いてお花見、新入生向けのイベントなどなど慌ただしかった時期が終わって今日はのんびり、普通の土曜日。今年のゴールデンウィークはどうしようか、なんて話をしながら会長さんの家のリビングで過ごすことに…。
「何処かお花見でも出掛けるかい?」
お昼も食べたし、と会長さん。
「北の方の桜はこれからだしねえ、瞬間移動でパパッと行くとか」
「えーっと…。それって、お花見だけ?」
屋台とかは、とジョミー君が尋ねると、キース君が。
「お前な…。アルテメシア公園の花見で散々食っただろうが! 花見と言ったら普通に花見だ、屋台なんぞは無い場所も多い」
風情を楽しめ、と言うキース君に、スウェナちゃんも。
「そうよ、人の少ない場所で綺麗な桜を見るのがいいのよ、お弁当も屋台も二の次よ!」
「かみお~ん♪ お出掛けするなら桜餅でも買ってくる?」
お花見だよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がニコニコと。
「ケーキじゃ気分が出ないでしょ? お花見団子も買った方がいい?」
「そうだねえ…。地元で調達もオツなものだけど」
お菓子が美味しそうな桜の名所は…、と会長さんはサイオンで各地の花を見ているようです。これはとっても期待できそう!
「俺、花見団子が食いてえなあ…」
サム君がボソリと言えば、他のみんなも。
「俺は断然、桜餅だな。だが、御当地銘菓も捨て難い」
「ぼくも御当地銘菓を推します、キース先輩に一票です!」
「屋台だってば!」
「ジョミーは黙っていなさいよ! 私も御当地銘菓が食べたいわ」
ああだ、こうだ、と好みを挙げつつ、会長さんの決定待ち。御当地銘菓か、桜餅か…。
「……お取り込み中を悪いんだけど」
「「「???」」」
あらぬ方から聞こえた声にバッと振り返ると、会長さんのそっくりさんが立っていました。いつものソルジャーの衣装ではなくて私服ですから、お花見に来る気満々ですねえ…。



空間を越えて割り込んで来たお客様。せっかくのお花見が大変なことになりそうです。今はソルジャーだけですけれど、参加受け入れを表明したが最後、キャプテンと「ぶるぅ」が呼び寄せられることは明々白々。バカップルと悪戯っ子の大食漢には散々苦しめられたのに…。
「また来たわけ?」
お花見はとっくの昔に行っただろう、と会長さんが苦い顔。
「今日のは豪華弁当も無いし、ちょっと出掛けてすぐ帰るだけ! 現地でお菓子を食べる程度で、君たちに旨味は無さそうだけど?」
「ああ、そっちの方は別にいいんだよ。どうぞ気にせず行って来て」
ぼくは留守番しているからさ、と意外な台詞が飛び出しました。
「お茶とお菓子さえ置いといてくれれば、一時間でも二時間でも…。どうぞごゆっくり」
「「「………」」」
怪しすぎる、と目と目で見交わす私たち。ソルジャーは人一倍のイベント好きでお祭り好きです。おまけに美味しいお菓子に目が無く、御当地銘菓と聞けば確実に食い付きそうなのに留守番だなんて…。それに桜はソルジャーが一番好きな花だと何度も繰り返し聞かされたのに?
「桜の花はどうするんだい? 見たいんじゃないかと思うけどな」
何故留守番を、と会長さんが訊くと、ソルジャーは。
「見たい気持ちは確かにあるけど、今日は君たちの邪魔はしないよ。…お願いしたいことがあるものだから」
「「「は?」」」
「自力じゃどうにもならなくて…。協力をお願いする立場として、我儘は言っちゃダメだろう? 君たちが戻るまで待たせて貰うよ」
行ってらっしゃい、とソルジャーはソファに腰掛けて右手でバイバイ。…どうするんですか、会長さん? お留守番を頼んでお出掛けですか?
「ちょーっと不安が無いでもないけど、今日を逃したら桜がねえ…。桜葛餅ってお菓子でどうかな、御当地銘菓は? 桜の花入りのピンクの葛餅」
「「「行く!!!」」」
お出掛けしよう、と歓声が上がり、お留守番なソルジャーにはお土産を買ってくることに。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が紅茶のポットやケーキ、焼き菓子などをテーブルに置いて…。
「かみお~ん♪ 行ってくるね~!」
パァァッと迸る青いサイオン。いざお花見に出発です~!



瞬間移動で降り立った先は山あいの小さな町でした。その日に作ったお菓子だけが並ぶお店で淡い桃色の桜葛餅を買い、山の方へ歩いて行くと立派な枝垂桜の木が。御当地銘菓があるわけです。
「うっわー、凄いねえ…」
大きすぎ、とジョミー君が見上げ、キース君が。
「おい、これは…。確か有名なヤツじゃないのか? その割に人がいないようだが」
「フライングで咲いたみたいなんだよ、観光バスが来るより先に…さ。この桜だけを見にマイカーで、っていう桜好きの人も他の名所が花盛りではね」
そっちが優先になるだろう、と言われて納得。まさに穴場な桜見物、会長さんのサイオンに感謝しながら満開の桜の下で葛餅を。
「美味しいわね、これ」
「桜餅とか花見団子だけじゃねえんだなぁ…」
気に入った、とサム君も。ソルジャーへのお土産に包んで貰った桜葛餅もきっと喜ばれることでしょう。私たちは普段の年なら観光客がひしめくと聞く枝垂桜をゆっくり楽しみ、たまに訪れる人は地元民だけ。こんなお花見もいいものだ、と誰もが満足。
「ね、思い切って来て良かっただろう? 留守番のブルーが気になるけどさ」
会長さんの言葉に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと、テレビ見てお菓子食べてるよ? 別に心配無いと思うけど…」
「その点はね。問題はブルーのお願いの方」
「「「あー…」」」
忘れてた、と溜息をつく私たち。大好きな桜を切り捨ててまでのお留守番とは、お願いの方もドカンと凄いかもしれません。お土産を買ったことを後悔するような展開にならないといいんですけれど…。
「そればっかりはね、ぼくにも全く分からなくって…。ブルーの心は読めないんだ」
サイオンのレベルはともかく経験値がまるで違いすぎ、と会長さんもお手上げ状態です。
「何を頼む気か知らないけれど、一応、覚悟はしておいて。桜は見られたし、これでチャラになる程度なことを祈るのみ!」
「そうだな、これだけの桜を貸し切れたのはラッキーだったぜ」
帰ったら親父に自慢しよう、とキース君が写真を撮っています。せっかくだから、と私たちも貸し切り桜の証拠写真を何枚も。こんな素敵な桜見物、二度とチャンスは無いかもですしね。



枝垂桜の巨木と桜葛餅を堪能した後、瞬間移動で会長さんの家へ。玄関で靴を脱ぎ、おっかなびっくりソルジャーがお留守番中のリビングに…。
「かみお~ん♪ ただいまぁ~!」
はい、お土産、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が桜葛餅の包みを差し出し、ソルジャーが。
「ありがとう。桜の方はどうだった?」
「んとんと…。とっても綺麗だったよ、ブルーも来れば良かったのに…」
「留守番でいいって言っただろう? あ、これ、食べていいのかな?」
「うんっ! お皿、取って来るね!」
ちょっと待ってて、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言い終える前にソルジャーは桜葛餅を鷲掴み。添えられていた菓子楊枝の袋なぞ見なかったように手づかみで。
「へえ…。美味しいね、これ」
「「「………」」」
「どうかした? あ、この桜の花って塩漬けなんだ」
葛餅の甘さにピッタリだよね、とモグモグモグ。ソルジャーのマナーの悪さは既に周知の事実ですけど、会長さんと同じ顔だけに目にすると衝撃も大きかったり…。ポカンとしている私たちを他所にソルジャーは桜葛餅を食べ終え、最後に指と手のひらをペロリと舐めて。
「御馳走様。…で、お願いをしてもいいかな?」
「……お願いねえ……」
嫌だと言ってもするんだろう、と会長さんが返すと、ソルジャーは大きく頷いて。
「決まってるじゃないか、こうして留守番もしてたんだしね。大丈夫、そんなに難しくは無い…んじゃないかな、君たちだったら」
「何かさせる気?」
「盛り付けを、ちょっと」
「「「盛り付け?」」」
なんのこっちゃ、と首を捻った私たちの前にソルジャーがヒョイと宙から取り出したものは大きなクーラーボックスでした。蓋が開けられ、中を覗き込めば色々なお刺身がギッシリと。ソルジャーは蓋を再びパタンと閉めて。
「これをね、盛り付けて欲しいんだよ。…うんとイヤらしくエッチな感じに」
「「「は?」」」
お刺身の盛り付けをイヤらしく? エッチな感じにって、何ですか、それ?



ソルジャーのお願い事はクーラーボックスにギッチリ詰まったお刺身の盛り付け。それくらいならお安いご用、と言いたい所ですが、注文内容がカッ飛び過ぎです。イヤらしくエッチに盛り付けろなどと言われましても、相手はお刺身というヤツで。
「…盛り付けを頼むと言ったんだよね?」
会長さんが確認すると、ソルジャーは。
「そう! ぼくは根っから不器用だからさ、サイオンでやっても無理なんだよね」
一応チャレンジしてみたのだ、と自分の不器用さを嘆くソルジャー。
「やるだけ無駄って感じだったよ、お刺身はぶるぅが食べたけど。…こういう時には無芸大食も便利かもねえ」
「なんでお刺身?」
「そりゃあ、そういうモノなんだろう? ノルディに教えて貰ったんだよ、こないだデートをした時に! 活け造りを食べてて、そういう話に」
あの活け造りは美味しかった、とソルジャーはひとしきりグルメ自慢を。エロドクター御用達の高級料亭に連れて行って貰ったみたいです。
「それでね、ノルディが言い出したんだ。お刺身の最高の食べ方は女体盛りだそうですが、私が食べるなら女体よりかは断然美形の男性ですね、って」
「「「………???」」」
ニョタイモリって何でしょう? それに美形の男性って? どんな食べ方なんだかサッパリ…。
「あ、もしかして誰も分かってない? なんかね、お皿の代わりに裸の身体に盛るんだってさ、お刺身を」
「「「え?」」」
「つまりこう、服の代わりかな? 食べ終えたらすっかり裸なわけで、後は楽しく」
「退場!!!」
さっさと出て行け、と会長さんがレッドカードを突き付けましたが、ソルジャーは全くひるみもせずに。
「別にいいだろ、お願いなんだし! ぼくはハーレイに最高の地球のお刺身を食べさせたいだけで、その後のことは君たちとは無関係だしね」
盛り付けが上手く出来ない分を手助けして欲しいだけなのだ、とズイと出ました、クーラーボックス。もしかしなくても、これにギッチリ詰まったお刺身をソルジャーに盛り付けるんですか? うんとイヤらしくエッチな感じにって、ソルジャーが裸だからですか…?



期待に満ちた顔のソルジャーと、顔面蒼白の会長さんと。私たちだって目が点です。けれどソルジャーはウキウキと。
「ぼくが自力でやった時はさ、お刺身が綺麗に並ばなくって…。ぶるぅを呼んで「どんな感じ?」と尋ねてみたら、「なんかグチャグチャ」と呆れられちゃった。それで頼みに来たんだよ」
ぶるぅも手先はイマイチで…、と言われて頭痛の私たち。もしも「ぶるぅ」が「そるじゃぁ・ぶるぅ」みたいに器用だったら、こんなことにはならなかった気が…。
「頼むよ、盛り付けるだけでいいんだってば!」
「…衛生面から大却下だよ!」
お刺身が傷む、と会長さんが反撃に出ました。
「お刺身は何度も食べているだろ、アレは鮮度が命だから! 体温で温まったら傷んでしまうし、美味しく食べるには冷たくなくちゃ!」
生温かいお刺身なんて、と会長さんに突き放されたソルジャーですが。
「そこはノルディも分かっていたよ? 「あなたならサイオンで冷やせますから、本当に最高のお刺身でしょうね」と呟いてたし…。男のロマンだと言われちゃうとさ、是非ハーレイに食べさせたいと思っちゃうわけ」
サイオンで冷やす方だけはバッチリだった、と失敗したらしいケースについて語るソルジャー。
「ぶるぅはグチャグチャなお刺身には文句をつけていたけど、味に文句は無かったようだよ。「地球のお刺身は美味しいもんね」と大喜びで食べてたし!」
「……君の身体に乗っけたヤツを?」
「途中まではね。…放っておいたらぼくまで齧られそうな気がして、途中で逃げた」
お刺身をお皿に移してバスルームへ、とソルジャーは肩を竦めています。大食漢の「ぶるぅ」は夢中になったら何でもガツガツ食べまくりですし、ソルジャーだって齧っちゃうかもしれません。逃げたというのは正解でしょうが…。
「齧られてこそだよ、女体盛りはね」
君の場合は男体盛りか、と会長さんが吐き捨てるように。
「お刺身の方がついでなんだよ、その食べ方は! 齧られておけば良かったのに」
「嫌だよ、ぶるぅの歯形なんて! 同じ齧られるならハーレイの方が…」
だから盛り付けをお願いしたい、とソルジャーは譲りませんでした。でも…。裸のソルジャーに盛り付けるなんて…。
「あ、そこは心配要らないから! ぼくだって最低限のマナーは心得ているし、盛り付けて貰う間はちゃんと水着を着ておくよ」
帰ってからサイオンで脱げばいいんだしね、とニッコリ笑っているソルジャー。クーラーボックスをズイと押し出し、帰る気配もありません。私たち、万事休す……ですか……?



うんとイヤらしく、エッチな感じに。ソルジャー御注文のお刺身の盛り付け、結局、会長さんのレッドカードな攻撃が何度炸裂しても断れなくて…。
「…んーと…。ぼくのイメージでは、そこはトリガイ…」
「君の意見は聞いてないっ!」
黙っていろ、と中トロの載ったトレイを持った会長さん。キース君がイカでジョミー君はヒラメを担当、シロエ君は鯛、マツカ君が大トロ、サム君がホタテ。他にも海老やらウニやら、トリガイにタコに…。
「…なんで俺たちまでこんなことに…」
「しょうがねえだろ、ブルーだけだと気の毒じゃねえかよ」
要は盛り付ければいいんだし、とサム君がお箸でヒョイヒョイと。開き直った男子五人はニワカ板前と化していました。ソルジャーの注文どおりにお刺身を並べてゆくのがお仕事で。
「かみお~ん♪ はい、大トロ追加~!」
どんどん出るね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がクーラーボックスの中からお刺身を。ソルジャーがサイオンで細工をしていたらしく、見た目以上に中身が詰まっているのです。男の子たちは自分のトレイが空になる度に次のトレイを素早く渡され、ソルジャーの上に盛り付ける羽目に。
「ふふ、最後の仕上げが肝心ってね。…うんとイヤらしくエッチに、だよ?」
「分かったよ! やればいいんだろう、君のイメージどおりに!」
ぼくがやる、と会長さんがニワカ板前の五人を下がらせ、お刺身をお箸で慎重に。水着の上が大事だというのは分かりますけど、他にもポイントがあるようです。胸の上とか…。
「俺にはサッパリ分からんな」
これを食いたいと言うヤツが、とキース君が腕組みをすれば、ジョミー君も。
「だよねえ、なんか食欲失せるけど…。当分、お刺身、食べたくないなあ」
「…ぼくはお寿司も無理な気がします…」
特上握りが好きなんですが、とシロエ君が深くて長い溜息。その間にも会長さんはバラエティー豊かに盛り付けを仕上げ、ソルジャーが思念体とやらで抜け出して自分の身体を確認して。
「ありがとう。いい感じだよ、イメージぴったり! 後はサイオンで冷却しながらハーレイが来るのを待つばかり…ってね。それじゃ、さよなら」
また来るね、と思念を残してお刺身満載のソルジャーがフッと消え失せました。リビングに漂う脱力感と虚脱感。…とんでもない日になっちゃいましたが、今日の桜は綺麗だったなぁ…。



翌日、ソルジャーは姿を現しませんでした。大量のお刺身がどうなったのかは考えたくもなく、私たちは会長さんの提案で瞬間移動でのお花見、再び。あちこちの桜の名所をハシゴし、御当地グルメを食べまくる内に昨日の騒ぎは遠いものとなり…。
「今日の桜も凄かったよねえ、屋台も行けたし!」
夜桜も最高、とジョミー君。仕上げに訪れた桜の名所はライトアップされていて、アルテメシア公園のような屋台こそ無いものの、あちこちでお花見の宴会が。私たちも豪華お花見弁当を買い込み、会長さんがサイオンでキープしておいた特等席でワイワイと。
「このお弁当も美味しいですよ。会長、ありがとうございます」
予約しといて下さったんですよね、とシロエ君が御礼を言うと、会長さんは。
「御礼ならハーレイに言うべきかもね」
「「「え?」」」
「お花見に行くからお弁当代を出してくれ、って頼んだから」
「あんた、こないだの花見でもたかってたろうが!」
またやったのか、と額を押さえるキース君。
「教頭先生がお気の毒だぞ、慰安旅行の費用も出して下さったのに…。そこへ花見が二回だと? あんた、どこまで厚かましいんだ」
「別にいいじゃないか、ハーレイはそれが生甲斐なんだし」
未来の嫁には貢いでなんぼ、と会長さんは涼しい顔。
「君たちとお花見に行くとなったらドカンと奮発しなくちゃね。財布が空になりそうだ、とは言ってたけれど、心の中ではガッツポーズさ。頼られるだけで嬉しいらしい」
「…あんた、分かってやってるな…」
「それはもちろん」
ブルーがノルディにたかるのと同じ、と嘯いている会長さん。教頭先生、最初の頃は定期試験の打ち上げパーティーの費用だけを負担して下さっていたのに、いつの間にやら会長さんのお財布ポジションにおられます。お気の毒とは思いますけど、私たちにはどうしようもないですし…。
「まあ、いいか…。教頭先生がいいと仰っているならな」
キース君の言葉に、会長さんが。
「そうだよ、ハーレイはぼくにぞっこんなんだし、構って貰える間が花さ」
たとえお財布代わりでも…、と会長さんはパチンとウインク。
「ハーレイの財布の前途を祝して乾杯しようよ、また毟らなきゃいけないしね」
「「「……前途……」」」
まだ毟る気か、と呆れ返りつつ、でも財源は大切で。夜桜と教頭先生の財布にとりあえず乾杯しときますか…。



次の日からは普通に授業で、放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋にたむろする日々。今日も部活が終わった柔道部三人組を迎えて焼きそばを食べていたのですが。
「こんにちは。…この間はどうも」
「「「!!!」」」
焼きそばを頬張ったままで無言の悲鳴。紫のマントが優雅に翻り、ソルジャーが空いているソファにストンと腰を。
「今日のおやつは…、と。たまには焼きそばもいいかもね」
「かみお~ん♪ 焼きそばからにする?」
はいどうぞ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお皿に盛り付け、ソルジャーは早速お箸でパクパク。食べ終えると緑茶で喉を潤し、お次はケーキで。
「ふうん、桜クリームのモンブランなんだ?」
「えっとね、おっきい型で焼いたの! 一個ずつのもいいけど、ボリュームたっぷりのタルトもいいでしょ?」
お代わりもあるよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は御機嫌です。
「えとえと、こないだのお刺身はどうだったの?」
子供ならではの無邪気な発言は爆弾そのもの。それを訊くな、と誰もが心で上げた叫びはソルジャーに綺麗に無視されて。
「お刺身かい? そりゃあ喜んで貰えたよ。ハーレイ、予定には無かった特別休暇を取ってくれてさ、いわゆるキャプテン権限で」
「美味しく食べて貰えたんだね!」
「うん。それはもう、お皿のぼくまで舐めるように…ね。ぶるぅも手伝ってくれてありがとう。そこの君たちにも感謝してるよ、またよろしく」
「お断りだよ!!!」
誰がやるか、と会長さんが跳ね付け、男の子たちも首を必死に左右に。スウェナちゃんと私は両手で大きくバツ印ですが、ソルジャーはモンブランを頬張りながら。
「でもねえ…。ぼくは不器用だし、ぶるぅもダメだし、アレをやるにはお願いするしか…。ハーレイも凄く感激してたし、またいつか」
「自分で盛れるように修業したまえ!」
それもサイオンの訓練の内だ、と会長さんが突っぱねてますが、ソルジャーのサイオンが更にパワーアップしたら私たちも無事では済まないような…?



夢の盛り付けを二度三度、とロクでもない夢を見ているソルジャー。今日は御礼を言いに来たとか言ってますけど、御礼ついでに次のお願いを兼ねていることは間違いなくて。
「ホントのホントに喜んだんだよ、ハーレイは! 食べ尽くされるかと思うくらいの勢いでさ…。「お刺身はアレに限りますね」って何度も耳元で囁かれてる」
「だったら自分で盛ればいいだろ!」
好みのお刺身を自分流で、と会長さんはソルジャーを撃退するべく奮闘中。
「それがダメならノルディだね。君の頼みなら喜んで手伝ってくれると思うよ、手先も器用だ」
外科医だしね、と会長さんが告げると、ソルジャーは。
「うーん…。流石のぼくもノルディはちょっと…。ウッカリ流されてハーレイを裏切るようなことになっちゃうのはねえ…」
「その危険性は認識してたんだ? しょっちゅうデートをしているくせに」
いっそノルディに食べられてしまえ、と会長さんは毒づきましたが。
「それは困るな、ぼくは結婚してるんだしね。浮気をしたい時ならともかく、それ以外では他の男は…。そんなことより、君の方だよ」
「え?」
「君だよ、君。こないだもハーレイにたかっていたよね、御礼に食べられてあげればいいのに」
「必要ないっ!」
そんなつもりも必要も無い、と会長さんは眉を吊り上げ、ソルジャーが。
「じゃあ、せめてビジュアルだけでもさ! ほら、たまに食堂の前とかに…」
「「「???」」」
「なんて言うのかな、料理の見本? ソックリに作ったヤツがあるだろ、ああいう感じでビジュアル提供! どうせハーレイには食べられないんだ、君の身体に盛ったお刺身」
食べる前に鼻血で倒れておしまい、とソルジャーはニヤニヤしています。
「見た瞬間にアウトかもねえ、鼻血を噴いて即死ってね。一度、挑戦してみたら?」
「そういう趣味は無いってば!!」
なんだって女体盛りなんか、と喚き散らしていた会長さんの声のトーンが急に下がって。
「……待てよ……。ブルーだって水着を着ていたんだし……」
要は裸にならなきゃいいのか、と唇に浮かぶ怪しげな笑み。ソルジャーも我が意を得たり、とニッコリと。
「やる気になった? 水着一枚でかなり違うと思うよ、心理的負担」
「…そうかもねえ…」
水着どころかフルに着てても大丈夫かも、と思案している会長さん。お刺身盛り付け、まさか今度は会長さんに? 水着ならぬウエットスーツでも着るつもりですか、会長さん…?



「食べられないって所がポイント高いかもだよ、君の提案」
使えそうだ、と会長さんがソルジャーに向かって頷き、愕然とする私たち。お刺身の悪夢、再来です。ソルジャーが不器用な以上、会長さんに盛り付けるとなったら誰かが思い切りババを引かされ、イヤらしくエッチな盛り付けとやらを担当する羽目になるのでは…。
「え、盛り付けの担当かい? 別にブルーでも大丈夫な気が」
相手はたかがハーレイだし、と会長さん。
「それにね、いくらブルーが不器用でもさ…。お箸を使えって言うわけじゃないし、素手で扱ってもオッケーかと」
手さえ綺麗に洗っておけば、と会長さんは笑っていますが、お刺身を素手で? まあ、ソルジャーはサイオンで冷やすという究極の技を持ってますから、いいんでしょうか?
「素手でねえ…。でも、ぼくの不器用さは変わらないよ?」
「別に綺麗に盛り付けなくてもいいんだってば」
「ダメダメ、そこは譲れないよ! 盛り付けがアレの命だと思う」
うんとイヤらしくエッチでなくちゃ、と主張するソルジャーに、会長さんは。
「それはあくまで上級者向け! ハーレイみたいに鼻血でダウンな万年童貞のヘタレにはねえ、どんな見た目でも刺激的だよ、たとえ嫌いな食べ物でもさ」
「「「は?」」」
教頭先生、お刺身、お嫌いでしたっけ? それは無かったと思います。手巻き寿司パーティーに何度もいらしてますし、苦手なお刺身も無かったような…。
「誰がお刺身でやると言った? ぼくが着るのはパンケーキ! ついでにホイップクリームなんかもたっぷりかけるといいかもねえ…」
お砂糖たっぷり、甘みたっぷり、と会長さんは悪魔の微笑み。
「どう考えても手も足も出ないよ、ハーレイは。それでも食べようと頑張るだろうし、ダメ押しに一発、ちょっとエッチな気分にね」
「何をするのさ?」
興味をそそられたらしいソルジャーに、会長さんが。
「食べる行為に集中出来るよう、両手を後ろで縛ろうかと…。食べるためには、ぼくの身体に顔を近づけるしかないって仕組み」
「……ナイスすぎるよ、そのアイデア……」
喜んでハーレイの両手を縛らせて貰う、とソルジャーの瞳がキラキラと。会長さんの身体に盛り付けるモノはお刺身ならぬパンケーキ。しかもお砂糖たっぷりだなんて、教頭先生には御礼どころか拷問ですよ…。



こうして会長さんにパンケーキを盛り付けることが決定しました。イベント開催は今度の週末、土曜日の夜。教頭先生宛に会長さんが「日頃お世話になっているから御礼をしたい」と招待状を送り、私たちは土曜日のお昼前に会長さんのマンションへ。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
お昼はシーフードパエリアだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。お刺身で始まったアイデアだけにシーフードで景気づけをするべし、というのが会長さんの方針らしく。
「やあ、来たね。ブルーも来てるよ」
「こんにちは。今日のハーレイ、楽しみだねえ…」
ワクワクするよ、と会長さんのそっくりさん。このソルジャーのパートナーであるキャプテンは非常に美味しい思いをしたようですけど、キャプテンそっくりの教頭先生を待っている罠は…。
「パンケーキはぶるぅが大量に材料を仕込んでいるよ。お砂糖多めのレシピでね」
「あんた、鬼だな…」
御礼どころか仇で返すか、とキース君が吐息をついても気にしないのが会長さんで。
「まずはシーフードで景気づけ! それでねえ…。ブルーと相談してたんだけど…」
首筋と手足は出すべきだね、と会長さんはパエリアをスプーンで掬いながら。
「大サービスで鎖骨あたりまでは見せてもいいかな、と思うんだ」
「腕は肩まで見せなきゃダメだよ、足は膝下くらいまでかな」
それ以上は君が嫌だろう、とのソルジャーの指摘に、会長さんは首を縦に。
「どうせハーレイが食べられるような厚みに盛りはしないけど…。頭の中の妄想爆発を考えちゃうとね、見せすぎはぼくが嬉しくない。服はキッチリ着ておかないと」
「「「服?!」」」
「そう。タンクトップと膝丈のパンツは外せないね」
もちろん下着もバッチリと、と片目を瞑る会長さんが目指す方向はソルジャーとは正反対でした。食べて貰うのではなく食べられない方、しかもガードはガッチリです。何も知らない教頭先生、どの段階で鼻血の海に沈むんでしょう?



食事の後は甘い匂いが満ち溢れました。お砂糖たっぷりパンケーキの山が幾つもリビングに運び込まれて、トドメに大きなボウルいっぱいのホイップクリーム。着替えを済ませた会長さんが先日のソルジャーよろしく横たわった上に、男の子たちがパンケーキを。
「そこはもうちょっと下の方かな。鎖骨がギリギリ見えるのがオススメ」
こんな感じで、とソルジャーがキース君の置いたパンケーキをずらし、その間にもジョミー君たちはパンケーキを会長さんに被せています。基本は一ヶ所に三枚分の厚み。教頭先生、どう考えても会長さんの素肌ならぬ服を拝めそうにはありません。
「いいねえ、お刺身ならぬパンケーキかぁ…。仕上げにホイップクリームだよね?」
これは任せて、とソルジャーが会長さんにトッピング。曰く、イヤらしくエッチな感じにしてみたそうです、私たちにはサッパリですが…。
「そそる部分に多めに盛ってみたんだけれど? まずはクリームを舐め取らないとパンケーキに辿り着けないってね」
そそるも何も、パンケーキの上は一面のホイップクリームの海。ソルジャーこだわりのデコレーションとやらは白いクリームの海に紛れて目立つような目立たないような…。どの部分だろう、と私たちが首を捻っているとチャイムの音がピンポーン♪ と。
「かみお~ん♪ ハーレイが来たよ!」
迎えに出た「そるじゃぁ・ぶるぅ」が跳ねるような足取りで戻って来るなり、ウッという声が。
「……ほんばんは……」
会長さんの姿を見るなり鼻血の危機な教頭先生。「こんばんは」も言えないようですが。
「本番は、って訊くのかい? 気が早いねえ…」
まずはパンケーキを味わってから、と横たわった会長さんが艶やかな笑みを。
「君のために焼かせたパンケーキなんだ、本番は完食してからだってば。とはいえ、ぼくを食べたい気持ちは分かるし、二人で最初から楽しもうよ」
「……はのひむ?」
「そう、楽しむ。パンケーキもクリームも、手を使わずに食べるんだ。いいだろ、ぼくをうんと近くで味わえて? ブルー、頼むよ」
「了解。ハーレイ、ちょっと失礼」
手を後ろへ、とソルジャーに素早く両手を縛り上げられた教頭先生。パンケーキを纏った会長さんの甘いベールを口で剥がすべく、床に膝をついて身体を前へと倒してゆかれたのですけれど…。



「…ここまでヘタレとは思わなかったよ…」
早くどけてくれ、と会長さんが苦しそうな声を上げています。教頭先生はパンケーキを何処から食べるべきかと逡巡する内に限界突破で、鼻血を噴いて前のめりにダウン。結果的に会長さんの胸から下を派手に押し潰し、ピクリとも動かないわけで。
「んとんと…。どけるのはいいけど、パンケーキ…」
ハーレイの鼻血でダメになっちゃった、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がションボリと。ソルジャーが纏っていたお刺身がキャプテンに喜ばれた話を素直に受け入れただけに、パンケーキも教頭先生に喜んで貰えると本気で信じていたようです。
「なるほど、ぶるぅをガッカリさせた、と…。これも罪状に加えるべきか…」
パンケーキを無駄にしただけでなく、と押し潰されたままの会長さんが右手の指を折りながら。
「ハーレイの意識が戻った暁にはパンケーキ完食まで監禁だね。ぼくを潰した罪も重いよ」
「監禁なんだ? いいねえ、もちろん縛ったままだね」
今度は奴隷プレイは如何、とソルジャーが嬉しそうに教頭先生の背中を指先でツンツンと。
「首輪をつけてさ、鎖に繋いで、完食するまであれこれと……ね」
「…君に任せると鼻血地獄から抜け出せない気もするんだけれど…」
地獄に落ちるほどの罪は充分犯したか、と会長さんは赤い瞳のそっくりさんな悪魔と結託しちゃったみたいです。まだ会長さんを押し潰している教頭先生、意識が戻ったら完全に地獄。天国だった時間が何処までなのか分かりませんけど、このまま昇天なさった方が…。
「そうかもね。このまま死んだらまさに天国、童貞ながらも腹上死かな?」
「「「…フクジョウ…?」」」
ソルジャーが口にした謎の言葉に首を傾げれば、会長さんが。
「どうでもいいけど早くどけてよ、重いんだってば!」
「瞬間移動で抜け出せるだろう? それともアレかな、嫌よ嫌よも好きの内?」
「違うっ!!!」
パンケーキの山から瞬時に抜け出した会長さんがソルジャーに飛び掛かり、教頭先生は憐れパンケーキと鼻血の海に。ソルジャーが言ったフクジョウなんとかで天国に旅立たれるのか、踏み止まって生き地獄か。読経のプロたちが控えてますから、心おきなく選んで下さい~!




            盛り付け色々・了


※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 シャングリラ学園番外編は去る11月8日で連載開始から6周年となりました。
 ハレブル別館の始動でご心配かと思いますけど、更新ペースは落ちませんからご安心を。
 シャングリラ学園番外編はまだまだ続いていきますよ!
 10月、11月と月2更新が続きましたが、12月は月イチ更新です。
 来月は 「第3月曜」 12月15日の更新となります、よろしくお願いいたします。 
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv

毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、11月はスッポンタケ狩りの収穫物を巡って荒れそうな…?
 ←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv






PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]