シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
肉が食べたい
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
今年もお花見の季節がやって来ました。行き先は毎年色々ですけど、何処へ行くかが問題で。露店が立ち並ぶ名所もいいですし、人が少ない穴場も狙い目。桜便りが届き始めたら今年も相談、ええ、桜前線はまだ到達していないんですけど…。春休みですから、会長さんの家に集まって。
「メジャーな穴場って無いのかな?」
有名だけど人が少なめのトコ、とジョミー君。
「たまにはそういう所がいいなあ、すっごい名所だけど人は少ないってヤツ」
「…それはお天気次第だろうねえ…」
天気予報が上手く外れれば…、と会長さんが返しました。
「大雨の筈がカラッと晴れたとか、そういうヤツ。ついでに車や観光バスでしか行けない場所で」
そういう所へ瞬間移動で出掛けて行ったら可能だけれど、という返事。
「だけど、出たトコ勝負だよ? フィシスの占いで何処まで分かるか…」
お花見の吉日は読めても、場所まではちょっと…、と会長さん。
「あらかじめ候補を絞っておいたら、場所ごとに占っては貰えるけれど…」
でも直前まで分からないんじゃなかろうか、ということですから難しそうです。観光案内に載っているような名所の桜で人少なめを狙おうってヤツ。
「そうなるね。豪華なお弁当とかを用意するには、ちょっと難しすぎるかな」
「「「うーん…」」」
やっぱり無理か、と私たちもガックリですけど、キース君が。
「いや、まるで無いというわけではないぞ。俺にも一つ心当たりが…」
「マジかよ、それって何処なんだよ?」
サム君が食い付き、ジョミー君も。
「どこ、どこ? 行ってみたいんだけど!」
「お前もサムもよく知っている場所ではあるな。璃慕恩院の桜はそれは見事で…」
「総本山じゃねえかよ!」
あそこで弁当食えるのかよ、とサム君の突っ込み。キース君や会長さんが属する宗派の総本山が璃慕恩院です。
「…食っている人がいるとは聞かんが、まるで禁止でもないだろう」
場所によっては、ということですけど、桜が一番綺麗に見える所はメインの建物がよく見える場所だということで…。
「あそこで弁当を広げるんなら精進だろうな」
阿弥陀様から丸見えだから、という話。お花見で精進弁当ですか?
お花見はお弁当も楽しみの内。お花見弁当という言葉が存在しているくらいに、必要不可欠な感じです。教頭先生をスポンサーにして豪華弁当を調達する年もあるだけに…。
「嫌だよ、精進弁当なんて!」
おまけに璃慕恩院だなんて、とジョミー君がプリプリと。
「そんな所でお花見しちゃったら、坊主フラグが立ちそうだよ!」
「「「坊主フラグ?」」」
「フラグだってば、来年の春には坊主コースのある大学に入っているとか!」
「いいじゃねえかよ、御仏縁ってことで」
俺と一緒に入学しようぜ、と誘うサム君はお坊さんコースに抵抗は無し。切っ掛けさえあればいつ入学してもいいという覚悟、二年間の寮生活も全く苦にならない人で…。
「冗談じゃないよ、専修コースは二年コースしか無いんだから!」
一年コースはいつ出来るのさ、とジョミー君の文句が始まりました。忙しい人のための一年コースが出来る話は聞いてますけど、現時点ではまだ出来ていません。
「俺は近々だと聞いているが…」
「ぼくもだね。ただ、寮を建てる場所の方がちょっと難アリだしねえ…」
ゴーサインがなかなか出ないようだ、と会長さん。難アリってことは、祟る土地だとか…?
「祟る土地なら、お坊さんの寮にはもってこいだけど…。いつでもお経が流れているから」
「それじゃ、どういう難アリですか?」
シロエ君の質問に、会長さんは。
「…土地に歴史がありすぎちゃって…。建てる前には発掘なんだよ」
「「「あー…」」」
それがあったか、と誰もが納得。いろんな宗派の総本山が存在しているアルテメシアは、歴史だけは無駄にあったりします。下手に掘ったら何が出るやら、場合によってはせっかくの土地が使えなくなるオチもアリ。難航する理由が分かりました。
「つまりアレですね、発掘費用だけがかかって、結局、何も建てられないということも…」
「そうなんだよねえ、これが個人や会社の土地なら、まだマシだけどさ」
発掘費用は璃慕恩院の負担になるから問題なのだ、と会長さんの説明が。宗派のためにと集めた資金を使う発掘、寮の建設。「失敗しました、駄目でした」では信者さんたちに申し訳なさすぎて、未だに踏み切れないんだとか。お寺の世界も大変です…。
話は他所へとズレましたけれど、ジョミー君の言う「坊主フラグ」を立てては駄目だと璃慕恩院でのお花見は却下。そもそも、「人の少ない名所」がいいと言い出したのがジョミー君ですし…。
「璃慕恩院もいいと思うんだがなあ、俺としてはな」
あそこの桜を知っている俺のイチオシなんだが、とまだ言っているキース君。けれど…。
「こんにちはーっ!」
遅くなってごめん、とフワリと翻る紫のマント。すっかり忘れてしまってましたが、お花見の相談にはソルジャーも来る予定でしたっけ…。
「ごめん、もうちょっと早く出ようとしたんだけど、会議が長くなっちゃって…。それで、今年はお寺でお花見だって?」
「そのコースなら却下されたよ、ついさっき」
会長さんが言うと、ソルジャーは「えーっ!」と。
「そうだったんだ…。ちょっと覗き見してない間に、お寺は却下されちゃったわけ?」
楽しそうだと思ったのに、と言ってますけど、ソルジャー、忘れていませんか?
「え、忘れるって…。何を?」
「忘れてないなら、最初から聞いていなかったんだろうね。お寺でお花見なら精進弁当!」
仏様のいらっしゃる場所で肉は無理で、と会長さん。
「肉も魚も抜きのお花見! それでもいいなら、もう一度お寺で検討するけど…」
一人増えた分の意見も尊重しなければ、とソルジャーに譲歩しましたが。
「精進弁当になるだって!? それは却下だよ、ぼくだって!」
ちっとも美味しくなさそうじゃないか、とソルジャーは顔を顰めました。
「ぼくの意見を言っていいなら、むしろその逆! ちょっと季節が早すぎるけど、バーベキューをするのもいいねえ、桜の下で!」
「「「バーベキュー!?」」」
それはお花見からズレていないか、と思いましたが、楽しそうだという気もします。お弁当だの、露店で売ってるタコ焼きだのが桜見物のお供だと思い込んでいましたけれど…。
「バーベキューねえ…。たまに、そういうのもいいかもね」
人の来ない穴場の桜でやるのもいいね、と会長さん。私たちも心を惹かれていますし、今年はそれでいいでしょう。お寺の桜で精進弁当なコースに向かって突っ走るよりは、断然、賑やかにバーベキューですよ!
そういうわけで決まったお花見バーベキューは、無事に開催されました。満開の桜の下で肉や野菜をジュウジュウと焼いて。上等のお肉を買って来て下さった教頭先生はもちろん、ソルジャーにキャプテン、それに「ぶるぅ」と大人数での大宴会が先週のことで…。
「かみお~ん♪ 面白かったね、お花見バーベキュー!」
とっても素敵だったけど…、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出迎えてくれた会長さんの家。シャングリラ学園の新学期は既にスタートしています。放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に出掛けていた日々、何故に今頃、お花見の話題?
「んとんと…。精進弁当でもめていたでしょ、お花見の場所を決める前!」
「…それ以前に、ジョミーの坊主修行でもめた気がするが?」
俺の記憶が確かならな、とキース君。
「坊主のフラグがどうだこうだと…。あれさえ無ければ、精進弁当の花見だったかもしれないな」
「それは無いでしょう、誰かさんが却下ですよ」
バーベキューだと言い出した人が、とシロエ君が言い、マツカ君も。
「まず無いでしょうね、精進弁当でお花見コースは」
「それなんだけど…。精進弁当も美味しいよ?」
食わず嫌いは良くないと思うの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「うんと美味しい精進料理も沢山あるしね、お弁当風にアレンジしたら良さそうだけど…」
「駄目だな、精進料理は所詮は精進料理でしかないからな」
寺で育った俺に言わせれば…、とキース君。
「確かに、モノによっては美味い。しかし、肉や魚の美味さには勝てないものだ」
「そうでもないと思うんだけど…。本場のヤツなら」
「「「本場?」」」
「この国の偉いお坊さんが沢山、修行に行ってた中華の国だよ!」
あそこの精進料理は一味違うの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自信満々。
「今日のお昼は、そのお料理! 精進料理で、お肉もお魚も全部抜きだよ!」
「「「精進料理!?」」」
ヒドイ、と上がった悲鳴が幾つか。キース君も「どうして此処に来てまで精進料理…」と呻いてますから、誰の気持ちも同じでしょう。よりにもよって精進料理…。
今日はハズレだ、と思ってしまったお昼御飯。そのせいかどうか、ソルジャーだって現れません。美味しいお菓子に釣られて出て来ることが多いのに…。
「…精進料理は、正直、俺の家だけで沢山なんだがな…」
いつも精進料理というわけではないが、とキース君もぼやいたお昼御飯ですけど、さて、ダイニングに出掛けてみれば。
「「「…中華料理?」」」
大きなテーブルにズラリと並んだ、美味しそうな中華料理の数々。なんだ、嘘だったんですか!
「はい、どんどん食べてね!」
「「「いっただっきまーす!」」」
大喜びで食べ始めた私たち。ソルジャーもちゃっかりやって来ました、「中華だってね?」と。私服に着替えたソルジャーまでが舌鼓を打つ、素晴らしい出来の中華料理。精進料理だなんて、すっかり騙されてしまってましたよ!
「うん、ぼくだって騙されたよ。…こんなオチなら、もっと早くに来ていれば…」
おやつもちゃんと食べられたのに、とソルジャーが残念そうに言った所で。
「嘘じゃないもん、精進だもん!」
本当だもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が料理の説明をし始めました。正確に言えば、料理と言うより材料の方。私たちが肉や魚やカニだと思っていたものは…。
「「「全部ニセモノ!?」」」
信じられない、と口に運んで味わってみても、舌触りまでが本物そっくり。でも…。
「…言われてみれば、違うような気もして来ましたね…」
「そうだな、微妙に違う気もするな…」
だが肉なんだ、とキース君が頬張り、ソルジャーも「カニなんだけどねえ…」と。
「こんな精進料理もあるのが、こっちの世界っていうわけなんだ?」
「そうだよ、こんなのも素敵でしょ?」
「確かに美味しいとは思うけど…。でもねえ、ぼくはやっぱり本物がいいねえ…」
本物の肉が一番だよ、と言うソルジャー。
「たまには精進料理もいいけど、本物の肉の方がいいかな」
「俺もだな。…修行となったら精進料理でまっしぐらなのが坊主だし…」
あんたとは気が合いそうだ、とキース君が珍しくソルジャーと意気投合しています。味は同じでも本物がいいと、肉は本物に限るものだと。
とはいえ、美味しく食べた昼食。味に文句はありませんでした。食後の飲み物はジャスミンティーもあれば、好みでウーロン茶やコーヒーだって。それを片手に移ったリビング、ソルジャーがまたまた「肉は本物」と言い出して。
「さっきもキースと話してたけど、紛い物より、断然、本物! だってねえ…」
精進料理はベジタリアン向けの料理みたいなものだろう、と身も蓋もない台詞。
「ベジタリアンって…。あれは本来、お坊さん向けの…」
修行のための料理なんだよ、と会長さん。
「この国ではホントに君たちがそっぽを向きそうな料理になっちゃったけれど、本場はねえ…」
「そだよ、お坊さんたちも、お肉な気分になることもあるし!」
我慢するより、ニセモノのお肉を食べる方が健康的だもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。けれどソルジャーは「それじゃ駄目だね」とブツブツと。
「偽物は所詮は偽物なんだよ、それで満足しているようじゃ…。肉はガッツリ食べてこそだよ」
「まったくだ。俺も修行が明けた時には、まずは肉だと思ったからな」
あの修行は実に辛かった、とキース君の思い出話が。住職の資格を取るために璃慕恩院で三週間も修行していた時の体験談。肉抜きの日々で本当に参っていたのだそうで…。
「座禅を組む方の宗派になるとだ、肉抜きの修行が年単位になってくるからな…」
南無阿弥陀仏の方で良かった、と合掌しているキース君。
「もっとも、あっちの坊主にしたって、寺を抜け出して肉を食うのは間違いないが」
「そうでもしないと持たないからねえ、この国ではねえ…」
ぶるぅが作ったような精進料理も無いわけだから、と会長さん。
「黙認だよ、上の人たちも。…自分だって修行時代は抜け出して肉で、その後も肉だし」
「そういうものかい?」
ソルジャーの問いに、会長さんは。
「托鉢の修行に出たお坊さんたちに、すき焼きを御馳走する信者さんもいるしね。偉いお坊さんたちはタクシーで街まで出掛けて行って、焼肉とかを食べるのが普通だからさ」
「なるほど、肉を食べるのはやっぱり大切、と…」
これはハーレイにもしっかり教えておかなければ、と言うソルジャー。もしかしてキャプテン、ベジタリアンってことはないですよね?
「それは無いねえ、バーベキューにも来てただろう?」
肉をガンガン食べてた筈だよ、とソルジャーの答え。それじゃ、お肉を遠慮しがちだとか…?
ソルジャーとキャプテン、それに「ぶるぅ」が住む世界では、シャングリラの中が世界の全てだと聞いています。外から補給船は来なくて、奪わない限りは増えない物資。そんなシャングリラの船長をやっているのがキャプテン、貴重なお肉は他の人に、と遠慮するかもしれません。
ソルジャーや「ぶるぅ」は外の世界で食べ放題でも、シャングリラの人たちには出来ない裏技。キャプテンだって自分の力では出られないだけに、お肉の量を控えているかも。キャプテン稼業も大変なんだな、と思っていたら…。
「え? 肉の量なら、ぼくのシャングリラでは公平なのが大原則だけど?」
体格に合わせて多少の違いがある程度、とソルジャーが説明し始めました。栄養不足に陥らないよう、きちんと計算してあるメニュー。子供用とか、大人用とか。
「だから、ハーレイが食堂に行けば、肉は多めだね。あの体格を維持する必要があるからねえ…」
キャプテンが栄養失調で倒れたのではシャングリラの航行に支障が出るし、という話。それじゃ、どうしてキャプテンにお肉を食べる大切さを今更教えなきゃいけないんですか?
「ああ、それはねえ…! ほら、こっちの世界で昔に言われていただろう? 草食系って」
「「「…草食系?」」
なんだったっけ、と首を捻った私たち。聞いた覚えはあるんですけど…。
「うーん…。君たちの場合は若すぎる上に、万年十八歳未満お断りだから、そうなるかもねえ…」
ぼくでさえ知っている言葉なのに、とソルジャーは呆れているようです。
「いいかい、草食系ってヤツには対になる言葉があるんだよ。肉食系、とね」
「「「肉食系…」」」
それも聞いた、と思ったものの、やっぱりピンと来なくって。みんなで顔を見合わせていたら、ソルジャーが「ホントに興味が無かったんだねえ…」と、しみじみと。
「草食系とか肉食系っていうのはねえ…。個人の好みの問題だね!」
「…ベジタリアンか、そうでないかか?」
キース君が訊くと、「違うね」とソルジャーは指を左右にチッチッと。
「セックスってヤツに積極的なのが肉食系でね、消極的なのが草食系だよ!」
「「「あー…」」」
アレか、と思い出しました。恋人が欲しいとも思わないとか、恋人がいても、ソルジャーみたいに貪欲な方ではない人だとか。そういう人たちを草食系って呼んでた時代がありましたっけね…。
草食系に肉食系。ソルジャーがキャプテンに「食べるのが大切」と教えたい肉は、同じ肉でも動物ではなくてソルジャーの肉。それも肉体、いわゆる身体。
やっと分かった、と思う間もなく、ソルジャーは。
「そんなわけでね、ハーレイには肉食系であって欲しいわけだよ、ガッツリと食べて!」
肉の大切さを説かなければ、と大真面目。
「精進料理なお坊さんでも肉を食べるなら、お坊さんじゃないハーレイは、もっと!
「あのねえ…。もう充分に肉食系だと思うけどねえ、君の世界のハーレイは」
多少ヘタレかは知らないけれど、と会長さん。
「君のパートナーをやってるわけだし、肉食系で間違いないよ。…君は肉食系だろう?」
「もちろんだよ! ライオンにもピラニアにも負けはしないね!」
それくらいの勢いで肉食系だ、とソルジャー、キッパリ。
「毎日のように肉を食べたいし、本当だったら、朝から晩まで食べていたいねえ…!」
ハーレイの仕事柄、なかなか休暇が取れないけれど…、とソルジャーのぼやき。
「だから、特別休暇の時には、ハーレイもぼくも、お互い、ガッツリ!」
肉をどんどん食べるわけだよ、と次の休暇が気になるソルジャーみたいですけど、突然、ハタと気付いたように。
「…そういえばさ…。ぼくのハーレイは肉食だけどさ、こっちのハーレイはどうなわけ?」
「「「は?」」」
「あのハーレイだよ、ブルーに恋して三百年以上のヘタレなハーレイ!」
あれは草食系なんだろうか、という質問に「うーん…」と悩んだ私たち。
「…草食系ということになるのか、教頭先生は?」
肉食系ではないようだから、とキース君が言うと、サム君が。
「そうじゃねえだろ、単に機会が無いってだけだぜ」
でなきゃブルーを追い掛けねえよ、と主張するサム君は会長さんと今も公認カップルです。会長さんの家での朝のお勤めがデート代わりな、爽やか健全なお付き合いですけど。
「ぼくもサム先輩に賛成です。…肉食系だと思いますけど?」
どう考えても、とシロエ君も。
「…そうなるのか?」
「そっちの方だと思うんですけど?」
キース先輩の説が間違ってます、とシロエ君。私もそうだと思いますです、教頭先生は草食系とは違いますってば…。
教頭先生は草食系なのか、肉食系か。ソルジャーの質問にキース君が「草食系だ」と答えたことから、大いにもめた私たち。草食系なのか、そうじゃないのか、もめた挙句に、キース君が。
「…俺が間違っていたかもしれん。肉食系だという気がしてきた」
「ほらな、肉食系だって俺が最初から言ったじゃねえかよ」
やっと認める気になったか、とサム君がフウと溜息を。
「で、間違っていたと認める根拠はなんだよ、今まで頑固に草食系って言ってたくせによ」
「…いや、そもそもの話の原点ってヤツに立ち帰ってだな…。坊主について考えてみた」
「「「坊主?」」」
なんだそれは、と誰もが首を傾げましたが、キース君は。
「精進料理だ、坊主は本来、肉を断つもので…。だから精進料理が生まれたわけで、だ」
「ですよね、ぶるぅが作った本場のヤツは凄かったですよ」
肉まで再現する勢いが、とシロエ君。
「肉は食べられない立場の人でも、やっぱり食べたい欲求は出てくるでしょうしね」
「そこだ、俺が考えを変えた理由は。…本場の精進料理が食べられる坊主は知らんが、この国の場合は精進料理はとことん本気で肉が無いわけで…」
修行中だった時の俺もそうだ、とキース君は職業の辛さを嘆きながら。
「そんな坊主が、肉断ちの修行が明けた時にはどうなると思う?」
「えーっと…。キース、確かハンバーガーが食べたいって言ってたよね?」
でもって本気でハンバーガー、とジョミー君が言う通り。住職の資格を取る道場から帰って来たキース君はハンバーガーの店に行ったのでした。そして大きいのをバクバクと…。
「俺の場合はアレで済んだが、焼肉に繰り出すヤツもいるんだ。大抵はそのコースだな」
自分の胃袋の状態も知らずに突っ込んで行って酷い目に遭う、とキース君。
「肉断ちの期間が長かったんだぞ、いきなり食っても腹を壊すとか、胸やけするとか…。それでも食べたくなるのが坊主だ。どうなってもな」
教頭先生もそのタイプと見た、とキース君は意見を変えた理由を述べ始めました。
「教頭先生は草食系でらっしゃるだろう、と俺が判断したのは、ブルーだけだと仰ってるのと、いつものヘタレぶりからなんだが…」
しかし、とキース君が改めて語る、修行明けのお坊さんの無茶な食べっぷり。
「教頭先生もそのクチなんだ。肉は食べたいが、修行中だといった所か…。肝心の肉が無い状態だからな」
ブルーが全く相手にしない、という結論。肉が無ければ確かに嫌でも肉断ちですねえ…。
教頭先生は肉食系だ、とキース君が断定した理由は説得力がありました。教頭先生は肉が食べたくても食べられない状態でいらっしゃいます。お肉、すなわち会長さん。本当は肉食系だというのに、草食系だと勘違いされるほどの肉断ち生活継続中で…。
「なるほどねえ…。こっちのハーレイは肉食系なのに、草食系の生活を余儀なくされている、と」
肉が無いのでは仕方がないか、と頷くソルジャー。
「それで分かったよ、やたらとブルーに御執心なわけが!」
肉を食べたくて仕方ないんだ、とソルジャーは会長さんの方をチラリと。
「こんなに美味しそうな肉があるのに、まるで食べられないんじゃねえ…。それは辛いよ」
お坊さんですらも精進料理で肉の偽物を作るというのに、と気の毒に思っている様子。
「抜け道も無しで、肉断ち生活が三百年以上も続いてるなんて…。可哀相としか…」
なんて可哀相な日々なんだろう、とブツブツと。
「それでも肉を諦めないって所がねえ…。とてもパワフルだと言えばいいのか、エネルギッシュだと言うべきか。修行中のお坊さんも真っ青だよ、これは」
肉断ちが長い分だけよりパワフルになるのだろうか、と言うソルジャー。
「三百年以上も食べてない分、余計に食べたくなるものなのかな?」
「俺の経験からすれば、そういうことになるんだろうな」
後は周りの坊主仲間や座禅の宗派の坊主の行動からしても、とキース君もすっかり方向転換。
「食えなかった分だけ、より食いたくなる。…肉というのはそういうものだ」
「そうなんだ…。それじゃ、ぼくのハーレイでもそうなるのかな?」
「「「え?」」」
なんのことだ、と思ったのですが、ソルジャーは。
「ぼくのハーレイだよ、肉食系で肉はガッツリ食べたいハーレイ!」
特別休暇の時にはそれはパワフルで…、とウットリと。
「ぼくをガツガツ食べるわけだけど、あのハーレイもさ…。肉断ちをすれば、肉を食べたい気持ちがもっと強くなるって勘定かな?」
「…それはまあ…。推して知るべしと言っていいのか、肉断ちの経験者からしてみれば…」
普通は食べたくなるだろうな、とキース君。
「住職の資格を取りに出掛けた修行道場の時もそうだったが、今でも短期間の肉断ちがある」
お盆の時やお彼岸だな、という解説。
「それの間は、早く終わって肉を食いたい気持ちになるのはお約束だ」
未だにそうだ、と語るキース君、ついこの間の春のお彼岸でも肉断ちだったそうですよ~!
ソルジャー曰く、キャプテンも肉断ちをすれば、肉を食べたい気持ちが強くなる勘定か、という話ですが。キース君の答えは肯定、ただし本物の肉だった場合。ソルジャーは暫し考え込んで。
「肉断ちねえ…。肉断ちが明けた時のハーレイのパワフルさってヤツは是非とも味わいたいけど、その前がねえ…」
肉断ちってことは、ぼくとの関係を断つってわけで、と悩み中。
「ぼくの方でも肉断ちになるし、そこがなんとも困った所で…」
「たまには肉を断ってみたまえ!」
君の場合は貪欲すぎだ、と会長さん。
「ライオンなんだかピラニアなんだか知らないけどねえ、年がら年中、がっついてるし!」
「だって、根っから肉食系だしね!」
セックスの無い人生なんて! とソルジャーはブルッと肩を震わせて。
「そんな人生、とんでもないよ。こっちのハーレイは本当に我慢強いというか…。ん…?」
待てよ、と顎に手を当てるソルジャー。
「…こっちのハーレイも肉食系で、肉断ち中で…。でもって、パワフル…」
「ハーレイは別にパワフルってことはないけれど?」
鼻血体質でヘタレまくり、と会長さんがツンケンと。
「肉断ちだって、仕方ないからやってるだけでさ…。自発的にやってるわけじゃないしね」
何ら評価に値しない、とバッサリで。
「あんなのを我慢強いと言ったら、我慢が泣きながら身を投げるね!」
何処かの崖から、と酷い言いよう。けれど、ソルジャーは「そうだけど…」と曖昧な返事。
「それはそうかもしれないけれどさ、肉食系のハーレイには違いないわけで…」
「だから迷惑するんだよ! このぼくが!」
「分かってるってば、そこの所も。…でもね、あのハーレイは使えるかな、って思ってさ」
「…何に?」
変な使い道じゃないだろうね、と会長さんが尋ねると。
「実験台だよ、実験動物でもいいかもしれない。肉食系だの草食系だのは、本来、動物向けの分類ってヤツらしいしね」
「まあね。…人間の場合は菜食主義者って言い方だとか、ベジタリアンとか…」
肉食です、って言い方はわざわざしないだろうね、と会長さん。あえて言うなら雑食というのが人間という生き物らしいですけど、ソルジャー、教頭先生を実験動物にして何をしたいと?
本来の姿は肉食系なのに、会長さんが全く相手にしていないせいで、草食系だと勘違いまでされてしまった教頭先生。肉は一度も食べられないまま、肉断ち生活が三百年以上。その教頭先生を実験動物に使いたいのがソルジャーで…。
「こっちのハーレイも、根本的にはぼくのハーレイと同じってトコが重要なんだよ」
肉食系という所が大切、と指を一本立てるソルジャー。
「今は絶賛肉断ち中だけど、その肉がもっと食べられなくなったらどうなるかなあ、って…」
「「「へ?」」」
食べられないも何も、教頭先生は元から肉を食べてはいません。これ以上どうやれば肉断ちになると言いたいんだか、まるでサッパリ謎なんですが…。
「分からないかな、ハーレイは一応、肉というものを見ているわけだよ」
食べられないだけで…、と言うソルジャー。
「ブルーの姿は見られるわけだし、話だって出来る。これは完全な肉断ちじゃないね」
修行中のお坊さんは肉さえ見られないんだろう、とキース君に質問が。
「…俺の場合はそうだったな。道場から出ることは出来なかったし、肉は夢にしか出なかった」
托鉢をする方の坊主だったら、托鉢中には肉屋の前も通るだろうが…、ということですけど。
「そっちは別にいいんだよ! 托鉢に行ったら肉が食べられることもあるって聞いたし!」
ぼくが言うのは肉と全く出会えないケース、とソルジャーはニヤリ。
「今のハーレイはブルーという肉に出会えはする。それが全く会えなくなったら、完全な肉断ちになるんだよ! 修行中のキースと同じようにね!」
肉は夢にしか出て来ない日々、とソルジャーの視線が教頭先生の家の方向に。
「そういう生活に追い込んでみたら、肉断ちが明けたら何が起こるか…。それを見てから判断しようと思ってさ」
「何の判断?」
会長さんの問いに、ソルジャーは。
「決まってるじゃないか、ぼくのハーレイにも肉断ちをさせるかどうかだよ!」
実験で素晴らしい結果が得られた時には、ぼくのハーレイでも肉断ちを! とグッと拳を握るソルジャー。
「ちゃんと実験しさえすればね、肉断ちが明けた時を励みに耐えられるから!」
ぼくまで肉断ちな生活に…、と言ってますけど、本気でしょうか。そもそも、実験してまで効果を確認しない限りは肉断ちをしたくないらしいですし、成功するとも思えませんが…?
肉食系なキャプテンが肉断ちをした場合、肉断ちが明けたらパワフルだろうと夢見るソルジャー。けれども、それをするとなったらソルジャーの方も肉断ちな日々。思わしい結果が出ないのだったら肉断ちは嫌だ、と目を付けたのが教頭先生で…。
「こっちのハーレイとブルーが会えないように細工をすればね、肉断ちの効果があるかどうかが分かるよ、きっと!」
ちょっとやってもいいだろうか、という質問に、会長さんが「好きにすれば?」と。
「君の提案は大抵、迷惑なんだけど…。ハーレイ絡みは特にそうだけど、会わずに済むなら、ぼくとしては別に…」
「いいのかい? 肉断ち明けが大変になるかもしれないけれど…」
いきなり押し倒されちゃったりとか…、とソルジャーが確認していますけど、会長さんは。
「どうせヘタレだし、その程度で済むに決まっているしね。…万一の場合は、君が責任を持って対処したまえ、ハーレイをぼくから引き剥がすとか!」
「了解。…今回の実験に関しては、君とハーレイとをくっつけたい件は抜きにしておくよ」
ぼくは自分のセックスライフが大事だからね、とソルジャーは何処までも自分中心。
「ぼくのハーレイと最高のセックスが出来るんだったら、君の方は放置でいいんだよ!」
「はいはい、分かった。あまりアヤシイ言葉は使わないように!」
さっきから乱発しているからね、と会長さんが釘を。
「大人しくするんだったら、ハーレイくらいは好きにしていいよ」
「ありがとう! それじゃ、早速!」
「…どうするんだい?」
「サイオンの壁っていうヤツだよ!」
会えないように細工するだけ、とソルジャーの指がヒラリと動いて、キラッと青いサイオンが。…えっと、今ので終わりですか?
「そうだけど? こっちのブルーとハーレイの間に、見えない壁が出来たわけ!」
自覚が無くても決して会えない仕組みになってる、とソルジャーは得意満面です。
「たとえばブルーが買い物に行って、ハーレイも同じ店に行ったとするだろ? でもねえ、普通だったらバッタリ会うのが会えないんだな!」
棚の向こうですれ違うだとか、行きたい方向が変わるとか…、と得々と話しているソルジャー。店に入らずに回れ右とか、行きたかった店が別物になるとか、それは凄いらしいサイオンの壁。取り払うまでは決して会えないって、本当でしょうか…?
会長さんと教頭先生の間にソルジャーが設けた、サイオンの壁。教頭先生と会長さんは決して出会えず、教頭先生は会長さんの姿も見られない上に声も聞けないそうですが…。
「…あれって、ホントに有効なわけ?」
この一週間、確かに会っていないけど、とジョミー君が首を傾げた次の土曜日。私たちは会長さんの家に遊びに来ていますけれど、その会長さんは教頭先生に会っていないそうで。
「…ぼくにも分からないんだけどねえ、不思議なほどに会わないねえ…」
学校の中も出歩いたのに、と会長さん。
「ブルーが言ってたサイオンの壁は、ぼくにも仕組みが全く謎で…。何処にあるのか分かりもしないし、どう働くかも分からないけど…」
でも会わない、と会長さんは証言しました。教頭先生が授業をしている教室の前で、出て来るのを待ったことまであるそうですが…。
「…ぼくとしたことが、ウッカリ用事を思い出してさ。ちょっと急いでゼルの所に行ってる間に、授業時間が終わったんだよ!」
戻った時にはハーレイはもういなかった、と挙げられた例。もちろん教頭室は何度も訪ねたらしいのですけど、いつ行っても留守で会えないらしく。
「ブルーのサイオンは凄すぎるとしか言いようがないね。あそこまでの技はぼくにも無理だよ」
「なるほどな…。あんたの方では、そうやって会おうとしてみるほどだし、遊びだろうが…」
教頭先生の方は辛いかもな、とキース君。
「偶然だと思ってらっしゃるとはいえ、一週間も会えないとなると…」
「そうみたいだね。昨日の夜に覗き見をしたら、部屋で溜息をついていたよ」
ぼくの写真を見ながらね…、と苦々しい顔。
「どうしてお前に会えないのだろうな、なんて零していたねえ、諦めの悪い!」
「それでこそだよ、肉断ちはね!」
肉には夢でしか会えない毎日、とソルジャーがパッと出現しました。
「今までだったら姿だけでも拝めていた肉がもう無いんだし…。ハーレイの辛さは増す一方だね、サイオンの壁を解くまでは!」
「…いつまでやるわけ?」
その肉断ち、と会長さんが訊くと。
「キースの修行とやらに合わせて三週間! それだけやったら、もう完璧に!」
肉への思いが強まるであろう、という読みですけど、ソルジャーは分かっていないようです。実験が見事に成功したなら、ソルジャーも肉断ち三週間なコースになるわけですが…?
ソルジャーが設置したサイオンの壁とやらは解かれないまま、三週間が経過しました。ゴールデンウィークの間も教頭先生は会長さんに会えずじまいで、溜息は深くなる一方で。ようやくソルジャーが勝手に始めた実験が終わる日がやって来ました。
「…今日らしいですね?」
「そうみたいだねえ、ぼくの快適な生活も今日でおしまいってね」
少し寂しい気持ちもしたかな、と会長さんが呟くリビング。私たちは会長さんの家に集まり、ソルジャーが来るのを待っています。土曜日ですから、学校は休み。
「ふうん…。寂しいと思ってくれたんだ? オモチャが無くって寂しいという意味だろうけど…」
君とハーレイの仲も一歩くらいは前進かな、とソルジャーが空間を超えて現れて。
「さてと…。解いてみようかな、サイオンの壁!」
こんな感じで、と青いサイオンがキラッと光って、どうやら壁は消えたようです。とはいえ、元から会長さんにも分からなかったのがサイオンの壁。消えた所で何が起こるというわけでもなく、私たちはのんびりと…。
「かみお~ん♪ 今の季節はコレだよね!」
ビワが美味しい季節だもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が切り分けてくれたビワのタルト。それを食べながら、賑やかにお喋りしていたら…。
「あれっ、お客さんかな?」
ちょっと見てくる! とチャイムの音で駆け出して行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。直ぐに転がるように戻って来て…。
「えとえと、ハーレイ、来ちゃったのー!」
「「「ええっ!?」」」
なんでまた、と驚いた所へ「邪魔をしてすまん」と教頭先生が頬を染めながら入って来ました。手には真紅の薔薇の花束、あまりの大きさに何本あるのか分かりません。百本かも、と誰もがポカンと眺めるそれを、教頭先生は「ブルーにと持って来たんだが…」と手にしたままで。
「どうしたわけだか、まるで会えずに三週間も経ってしまって…。それでだな…」
思い余って来てしまった、と教頭先生は真っ赤な顔で照れています。
「お前に会えたら、あれも言わねば、これも言わねばと毎日考え続けていたわけで…」
そんな私の熱い想いを歌にしてみた、と教頭先生はいきなり歌い始めました。それは熱烈なラブバラードを。多分、替え歌なんでしょうけど、会長さんの名前を連呼するヤツを。
「「「………」」」
ここまでするか、と呆れ返った私たち。歌うなんて思いもしませんでしたよ…!
朗々とラブバラードを熱唱した後、教頭先生は呆然としている会長さんに真紅の薔薇の花束を押し付けるように渡して、それから「愛している…!」と両腕でギュッと。会長さんが驚き呆れて動けないのをどう受け取ったか、キスまでしようとしたのですけど…。
「おっと、そこまで!」
ぼくがブルーに殺されちゃうから、とソルジャーの青いサイオンが光って教頭先生の姿は消滅しました。瞬間移動で、駐車場にあった車とセットで家に送り返されたみたいです。
「た、助かった…。危なかったよ、ぼくも魂が抜けてたと言うか…」
「だろうね、ラブバラードが凄かったしねえ…」
ぼくは感動しているけれど、とソルジャーは嬉々とした表情で。
「ラブバラードで愛の告白、それに真紅の薔薇の花束! おまけに抱き締めてキスだなんて!」
三週間も肉断ちしたならこうなるのか、と実験の効果を改めて噛み締めているようです。
「これは大いに期待出来るね、ぼくのハーレイだとどうなると思う?」
「さあねえ…。ラブバラードを歌うかどうかは保証しないよ?」
あれはハーレイならではの暴走ぶりかも、と会長さんが念を押しましたけれど。
「うん、分かってる。薔薇の花束も、ぼくのハーレイには無理だしねえ…。シャングリラから自力で出られないんじゃ、ちょっと買いには行けないからね!」
でも、その分は別の所で凄い効果が現れるのに違いない、とソルジャーは肉断ちを決意しました。この週末にキャプテンと二人で楽しんだ後は、キッパリ肉断ち。より効果を高めたいからと、必要最低限しか顔を合わせないよう、サイオンの壁も張るとか言って。
「楽しみだねえ…。ソルジャーとキャプテンじゃ、まるで会わないっていうのは無理だけど…」
三週間後の肉断ちが解けたハーレイのパワーが楽しみだよ、とウキウキ帰ったソルジャーだったのですけれど…。
「だから、肉断ちは辛いと言っただろうが!」
この俺が、とキース君が怒鳴る、放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。ソルジャーは肉断ち三日目にして愚痴を零しに現れ、「まだ二週間と四日もある」とグチグチと。
「…それは分かっているんだけれど…。君も苦労をしたっていうのは…」
だけどぼくには耐えられなくて、と愚痴るソルジャーは肉断ちには向いていませんでした。修行そのものが無理だったと言うか、結局の所…。
「…今日、来ないっていうことはさ…」
愚痴を言いに来ないからには挫折したよね、とジョミー君が指摘する週末。私たちはソルジャーが肉断ちに失敗したに違いない、と笑い合いましたが、「失礼な!」と来ないからには…。
「…うん、間違いなく失敗だね」
一週間分の効果くらいは出てると思ってあげたいけどね、と会長さん。けれど、キャプテンが忙しい時には一週間くらいのお預けだって普通にあるわけで…。
「三週間だからこそ、意味があるんだと俺は思うが」
「ぼくもだよ。…ハーレイのラブバラードの強烈さは忘れられないねえ…」
あのクオリティが欲しいのだったら三週間耐えろ、と会長さん。私たちもそう思います。肉断ちするなら三週間です、ソルジャー、頑張って三週間耐えてみませんか~?
肉が食べたい・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
肉が食べられない、お坊さんの世界。肉断ちの生活が長くなるほど、食べたくなるとか。
そこに目を付けたソルジャー、肉断ちを考案したわけですけど。教頭先生、凄すぎですね…。
次回は 「第3月曜」 7月18日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、6月は梅雨の季節。雨の日の月参りが辛いキース君に…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
今年もお花見の季節がやって来ました。行き先は毎年色々ですけど、何処へ行くかが問題で。露店が立ち並ぶ名所もいいですし、人が少ない穴場も狙い目。桜便りが届き始めたら今年も相談、ええ、桜前線はまだ到達していないんですけど…。春休みですから、会長さんの家に集まって。
「メジャーな穴場って無いのかな?」
有名だけど人が少なめのトコ、とジョミー君。
「たまにはそういう所がいいなあ、すっごい名所だけど人は少ないってヤツ」
「…それはお天気次第だろうねえ…」
天気予報が上手く外れれば…、と会長さんが返しました。
「大雨の筈がカラッと晴れたとか、そういうヤツ。ついでに車や観光バスでしか行けない場所で」
そういう所へ瞬間移動で出掛けて行ったら可能だけれど、という返事。
「だけど、出たトコ勝負だよ? フィシスの占いで何処まで分かるか…」
お花見の吉日は読めても、場所まではちょっと…、と会長さん。
「あらかじめ候補を絞っておいたら、場所ごとに占っては貰えるけれど…」
でも直前まで分からないんじゃなかろうか、ということですから難しそうです。観光案内に載っているような名所の桜で人少なめを狙おうってヤツ。
「そうなるね。豪華なお弁当とかを用意するには、ちょっと難しすぎるかな」
「「「うーん…」」」
やっぱり無理か、と私たちもガックリですけど、キース君が。
「いや、まるで無いというわけではないぞ。俺にも一つ心当たりが…」
「マジかよ、それって何処なんだよ?」
サム君が食い付き、ジョミー君も。
「どこ、どこ? 行ってみたいんだけど!」
「お前もサムもよく知っている場所ではあるな。璃慕恩院の桜はそれは見事で…」
「総本山じゃねえかよ!」
あそこで弁当食えるのかよ、とサム君の突っ込み。キース君や会長さんが属する宗派の総本山が璃慕恩院です。
「…食っている人がいるとは聞かんが、まるで禁止でもないだろう」
場所によっては、ということですけど、桜が一番綺麗に見える所はメインの建物がよく見える場所だということで…。
「あそこで弁当を広げるんなら精進だろうな」
阿弥陀様から丸見えだから、という話。お花見で精進弁当ですか?
お花見はお弁当も楽しみの内。お花見弁当という言葉が存在しているくらいに、必要不可欠な感じです。教頭先生をスポンサーにして豪華弁当を調達する年もあるだけに…。
「嫌だよ、精進弁当なんて!」
おまけに璃慕恩院だなんて、とジョミー君がプリプリと。
「そんな所でお花見しちゃったら、坊主フラグが立ちそうだよ!」
「「「坊主フラグ?」」」
「フラグだってば、来年の春には坊主コースのある大学に入っているとか!」
「いいじゃねえかよ、御仏縁ってことで」
俺と一緒に入学しようぜ、と誘うサム君はお坊さんコースに抵抗は無し。切っ掛けさえあればいつ入学してもいいという覚悟、二年間の寮生活も全く苦にならない人で…。
「冗談じゃないよ、専修コースは二年コースしか無いんだから!」
一年コースはいつ出来るのさ、とジョミー君の文句が始まりました。忙しい人のための一年コースが出来る話は聞いてますけど、現時点ではまだ出来ていません。
「俺は近々だと聞いているが…」
「ぼくもだね。ただ、寮を建てる場所の方がちょっと難アリだしねえ…」
ゴーサインがなかなか出ないようだ、と会長さん。難アリってことは、祟る土地だとか…?
「祟る土地なら、お坊さんの寮にはもってこいだけど…。いつでもお経が流れているから」
「それじゃ、どういう難アリですか?」
シロエ君の質問に、会長さんは。
「…土地に歴史がありすぎちゃって…。建てる前には発掘なんだよ」
「「「あー…」」」
それがあったか、と誰もが納得。いろんな宗派の総本山が存在しているアルテメシアは、歴史だけは無駄にあったりします。下手に掘ったら何が出るやら、場合によってはせっかくの土地が使えなくなるオチもアリ。難航する理由が分かりました。
「つまりアレですね、発掘費用だけがかかって、結局、何も建てられないということも…」
「そうなんだよねえ、これが個人や会社の土地なら、まだマシだけどさ」
発掘費用は璃慕恩院の負担になるから問題なのだ、と会長さんの説明が。宗派のためにと集めた資金を使う発掘、寮の建設。「失敗しました、駄目でした」では信者さんたちに申し訳なさすぎて、未だに踏み切れないんだとか。お寺の世界も大変です…。
話は他所へとズレましたけれど、ジョミー君の言う「坊主フラグ」を立てては駄目だと璃慕恩院でのお花見は却下。そもそも、「人の少ない名所」がいいと言い出したのがジョミー君ですし…。
「璃慕恩院もいいと思うんだがなあ、俺としてはな」
あそこの桜を知っている俺のイチオシなんだが、とまだ言っているキース君。けれど…。
「こんにちはーっ!」
遅くなってごめん、とフワリと翻る紫のマント。すっかり忘れてしまってましたが、お花見の相談にはソルジャーも来る予定でしたっけ…。
「ごめん、もうちょっと早く出ようとしたんだけど、会議が長くなっちゃって…。それで、今年はお寺でお花見だって?」
「そのコースなら却下されたよ、ついさっき」
会長さんが言うと、ソルジャーは「えーっ!」と。
「そうだったんだ…。ちょっと覗き見してない間に、お寺は却下されちゃったわけ?」
楽しそうだと思ったのに、と言ってますけど、ソルジャー、忘れていませんか?
「え、忘れるって…。何を?」
「忘れてないなら、最初から聞いていなかったんだろうね。お寺でお花見なら精進弁当!」
仏様のいらっしゃる場所で肉は無理で、と会長さん。
「肉も魚も抜きのお花見! それでもいいなら、もう一度お寺で検討するけど…」
一人増えた分の意見も尊重しなければ、とソルジャーに譲歩しましたが。
「精進弁当になるだって!? それは却下だよ、ぼくだって!」
ちっとも美味しくなさそうじゃないか、とソルジャーは顔を顰めました。
「ぼくの意見を言っていいなら、むしろその逆! ちょっと季節が早すぎるけど、バーベキューをするのもいいねえ、桜の下で!」
「「「バーベキュー!?」」」
それはお花見からズレていないか、と思いましたが、楽しそうだという気もします。お弁当だの、露店で売ってるタコ焼きだのが桜見物のお供だと思い込んでいましたけれど…。
「バーベキューねえ…。たまに、そういうのもいいかもね」
人の来ない穴場の桜でやるのもいいね、と会長さん。私たちも心を惹かれていますし、今年はそれでいいでしょう。お寺の桜で精進弁当なコースに向かって突っ走るよりは、断然、賑やかにバーベキューですよ!
そういうわけで決まったお花見バーベキューは、無事に開催されました。満開の桜の下で肉や野菜をジュウジュウと焼いて。上等のお肉を買って来て下さった教頭先生はもちろん、ソルジャーにキャプテン、それに「ぶるぅ」と大人数での大宴会が先週のことで…。
「かみお~ん♪ 面白かったね、お花見バーベキュー!」
とっても素敵だったけど…、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出迎えてくれた会長さんの家。シャングリラ学園の新学期は既にスタートしています。放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に出掛けていた日々、何故に今頃、お花見の話題?
「んとんと…。精進弁当でもめていたでしょ、お花見の場所を決める前!」
「…それ以前に、ジョミーの坊主修行でもめた気がするが?」
俺の記憶が確かならな、とキース君。
「坊主のフラグがどうだこうだと…。あれさえ無ければ、精進弁当の花見だったかもしれないな」
「それは無いでしょう、誰かさんが却下ですよ」
バーベキューだと言い出した人が、とシロエ君が言い、マツカ君も。
「まず無いでしょうね、精進弁当でお花見コースは」
「それなんだけど…。精進弁当も美味しいよ?」
食わず嫌いは良くないと思うの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「うんと美味しい精進料理も沢山あるしね、お弁当風にアレンジしたら良さそうだけど…」
「駄目だな、精進料理は所詮は精進料理でしかないからな」
寺で育った俺に言わせれば…、とキース君。
「確かに、モノによっては美味い。しかし、肉や魚の美味さには勝てないものだ」
「そうでもないと思うんだけど…。本場のヤツなら」
「「「本場?」」」
「この国の偉いお坊さんが沢山、修行に行ってた中華の国だよ!」
あそこの精進料理は一味違うの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自信満々。
「今日のお昼は、そのお料理! 精進料理で、お肉もお魚も全部抜きだよ!」
「「「精進料理!?」」」
ヒドイ、と上がった悲鳴が幾つか。キース君も「どうして此処に来てまで精進料理…」と呻いてますから、誰の気持ちも同じでしょう。よりにもよって精進料理…。
今日はハズレだ、と思ってしまったお昼御飯。そのせいかどうか、ソルジャーだって現れません。美味しいお菓子に釣られて出て来ることが多いのに…。
「…精進料理は、正直、俺の家だけで沢山なんだがな…」
いつも精進料理というわけではないが、とキース君もぼやいたお昼御飯ですけど、さて、ダイニングに出掛けてみれば。
「「「…中華料理?」」」
大きなテーブルにズラリと並んだ、美味しそうな中華料理の数々。なんだ、嘘だったんですか!
「はい、どんどん食べてね!」
「「「いっただっきまーす!」」」
大喜びで食べ始めた私たち。ソルジャーもちゃっかりやって来ました、「中華だってね?」と。私服に着替えたソルジャーまでが舌鼓を打つ、素晴らしい出来の中華料理。精進料理だなんて、すっかり騙されてしまってましたよ!
「うん、ぼくだって騙されたよ。…こんなオチなら、もっと早くに来ていれば…」
おやつもちゃんと食べられたのに、とソルジャーが残念そうに言った所で。
「嘘じゃないもん、精進だもん!」
本当だもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が料理の説明をし始めました。正確に言えば、料理と言うより材料の方。私たちが肉や魚やカニだと思っていたものは…。
「「「全部ニセモノ!?」」」
信じられない、と口に運んで味わってみても、舌触りまでが本物そっくり。でも…。
「…言われてみれば、違うような気もして来ましたね…」
「そうだな、微妙に違う気もするな…」
だが肉なんだ、とキース君が頬張り、ソルジャーも「カニなんだけどねえ…」と。
「こんな精進料理もあるのが、こっちの世界っていうわけなんだ?」
「そうだよ、こんなのも素敵でしょ?」
「確かに美味しいとは思うけど…。でもねえ、ぼくはやっぱり本物がいいねえ…」
本物の肉が一番だよ、と言うソルジャー。
「たまには精進料理もいいけど、本物の肉の方がいいかな」
「俺もだな。…修行となったら精進料理でまっしぐらなのが坊主だし…」
あんたとは気が合いそうだ、とキース君が珍しくソルジャーと意気投合しています。味は同じでも本物がいいと、肉は本物に限るものだと。
とはいえ、美味しく食べた昼食。味に文句はありませんでした。食後の飲み物はジャスミンティーもあれば、好みでウーロン茶やコーヒーだって。それを片手に移ったリビング、ソルジャーがまたまた「肉は本物」と言い出して。
「さっきもキースと話してたけど、紛い物より、断然、本物! だってねえ…」
精進料理はベジタリアン向けの料理みたいなものだろう、と身も蓋もない台詞。
「ベジタリアンって…。あれは本来、お坊さん向けの…」
修行のための料理なんだよ、と会長さん。
「この国ではホントに君たちがそっぽを向きそうな料理になっちゃったけれど、本場はねえ…」
「そだよ、お坊さんたちも、お肉な気分になることもあるし!」
我慢するより、ニセモノのお肉を食べる方が健康的だもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。けれどソルジャーは「それじゃ駄目だね」とブツブツと。
「偽物は所詮は偽物なんだよ、それで満足しているようじゃ…。肉はガッツリ食べてこそだよ」
「まったくだ。俺も修行が明けた時には、まずは肉だと思ったからな」
あの修行は実に辛かった、とキース君の思い出話が。住職の資格を取るために璃慕恩院で三週間も修行していた時の体験談。肉抜きの日々で本当に参っていたのだそうで…。
「座禅を組む方の宗派になるとだ、肉抜きの修行が年単位になってくるからな…」
南無阿弥陀仏の方で良かった、と合掌しているキース君。
「もっとも、あっちの坊主にしたって、寺を抜け出して肉を食うのは間違いないが」
「そうでもしないと持たないからねえ、この国ではねえ…」
ぶるぅが作ったような精進料理も無いわけだから、と会長さん。
「黙認だよ、上の人たちも。…自分だって修行時代は抜け出して肉で、その後も肉だし」
「そういうものかい?」
ソルジャーの問いに、会長さんは。
「托鉢の修行に出たお坊さんたちに、すき焼きを御馳走する信者さんもいるしね。偉いお坊さんたちはタクシーで街まで出掛けて行って、焼肉とかを食べるのが普通だからさ」
「なるほど、肉を食べるのはやっぱり大切、と…」
これはハーレイにもしっかり教えておかなければ、と言うソルジャー。もしかしてキャプテン、ベジタリアンってことはないですよね?
「それは無いねえ、バーベキューにも来てただろう?」
肉をガンガン食べてた筈だよ、とソルジャーの答え。それじゃ、お肉を遠慮しがちだとか…?
ソルジャーとキャプテン、それに「ぶるぅ」が住む世界では、シャングリラの中が世界の全てだと聞いています。外から補給船は来なくて、奪わない限りは増えない物資。そんなシャングリラの船長をやっているのがキャプテン、貴重なお肉は他の人に、と遠慮するかもしれません。
ソルジャーや「ぶるぅ」は外の世界で食べ放題でも、シャングリラの人たちには出来ない裏技。キャプテンだって自分の力では出られないだけに、お肉の量を控えているかも。キャプテン稼業も大変なんだな、と思っていたら…。
「え? 肉の量なら、ぼくのシャングリラでは公平なのが大原則だけど?」
体格に合わせて多少の違いがある程度、とソルジャーが説明し始めました。栄養不足に陥らないよう、きちんと計算してあるメニュー。子供用とか、大人用とか。
「だから、ハーレイが食堂に行けば、肉は多めだね。あの体格を維持する必要があるからねえ…」
キャプテンが栄養失調で倒れたのではシャングリラの航行に支障が出るし、という話。それじゃ、どうしてキャプテンにお肉を食べる大切さを今更教えなきゃいけないんですか?
「ああ、それはねえ…! ほら、こっちの世界で昔に言われていただろう? 草食系って」
「「「…草食系?」」
なんだったっけ、と首を捻った私たち。聞いた覚えはあるんですけど…。
「うーん…。君たちの場合は若すぎる上に、万年十八歳未満お断りだから、そうなるかもねえ…」
ぼくでさえ知っている言葉なのに、とソルジャーは呆れているようです。
「いいかい、草食系ってヤツには対になる言葉があるんだよ。肉食系、とね」
「「「肉食系…」」」
それも聞いた、と思ったものの、やっぱりピンと来なくって。みんなで顔を見合わせていたら、ソルジャーが「ホントに興味が無かったんだねえ…」と、しみじみと。
「草食系とか肉食系っていうのはねえ…。個人の好みの問題だね!」
「…ベジタリアンか、そうでないかか?」
キース君が訊くと、「違うね」とソルジャーは指を左右にチッチッと。
「セックスってヤツに積極的なのが肉食系でね、消極的なのが草食系だよ!」
「「「あー…」」」
アレか、と思い出しました。恋人が欲しいとも思わないとか、恋人がいても、ソルジャーみたいに貪欲な方ではない人だとか。そういう人たちを草食系って呼んでた時代がありましたっけね…。
草食系に肉食系。ソルジャーがキャプテンに「食べるのが大切」と教えたい肉は、同じ肉でも動物ではなくてソルジャーの肉。それも肉体、いわゆる身体。
やっと分かった、と思う間もなく、ソルジャーは。
「そんなわけでね、ハーレイには肉食系であって欲しいわけだよ、ガッツリと食べて!」
肉の大切さを説かなければ、と大真面目。
「精進料理なお坊さんでも肉を食べるなら、お坊さんじゃないハーレイは、もっと!
「あのねえ…。もう充分に肉食系だと思うけどねえ、君の世界のハーレイは」
多少ヘタレかは知らないけれど、と会長さん。
「君のパートナーをやってるわけだし、肉食系で間違いないよ。…君は肉食系だろう?」
「もちろんだよ! ライオンにもピラニアにも負けはしないね!」
それくらいの勢いで肉食系だ、とソルジャー、キッパリ。
「毎日のように肉を食べたいし、本当だったら、朝から晩まで食べていたいねえ…!」
ハーレイの仕事柄、なかなか休暇が取れないけれど…、とソルジャーのぼやき。
「だから、特別休暇の時には、ハーレイもぼくも、お互い、ガッツリ!」
肉をどんどん食べるわけだよ、と次の休暇が気になるソルジャーみたいですけど、突然、ハタと気付いたように。
「…そういえばさ…。ぼくのハーレイは肉食だけどさ、こっちのハーレイはどうなわけ?」
「「「は?」」」
「あのハーレイだよ、ブルーに恋して三百年以上のヘタレなハーレイ!」
あれは草食系なんだろうか、という質問に「うーん…」と悩んだ私たち。
「…草食系ということになるのか、教頭先生は?」
肉食系ではないようだから、とキース君が言うと、サム君が。
「そうじゃねえだろ、単に機会が無いってだけだぜ」
でなきゃブルーを追い掛けねえよ、と主張するサム君は会長さんと今も公認カップルです。会長さんの家での朝のお勤めがデート代わりな、爽やか健全なお付き合いですけど。
「ぼくもサム先輩に賛成です。…肉食系だと思いますけど?」
どう考えても、とシロエ君も。
「…そうなるのか?」
「そっちの方だと思うんですけど?」
キース先輩の説が間違ってます、とシロエ君。私もそうだと思いますです、教頭先生は草食系とは違いますってば…。
教頭先生は草食系なのか、肉食系か。ソルジャーの質問にキース君が「草食系だ」と答えたことから、大いにもめた私たち。草食系なのか、そうじゃないのか、もめた挙句に、キース君が。
「…俺が間違っていたかもしれん。肉食系だという気がしてきた」
「ほらな、肉食系だって俺が最初から言ったじゃねえかよ」
やっと認める気になったか、とサム君がフウと溜息を。
「で、間違っていたと認める根拠はなんだよ、今まで頑固に草食系って言ってたくせによ」
「…いや、そもそもの話の原点ってヤツに立ち帰ってだな…。坊主について考えてみた」
「「「坊主?」」」
なんだそれは、と誰もが首を傾げましたが、キース君は。
「精進料理だ、坊主は本来、肉を断つもので…。だから精進料理が生まれたわけで、だ」
「ですよね、ぶるぅが作った本場のヤツは凄かったですよ」
肉まで再現する勢いが、とシロエ君。
「肉は食べられない立場の人でも、やっぱり食べたい欲求は出てくるでしょうしね」
「そこだ、俺が考えを変えた理由は。…本場の精進料理が食べられる坊主は知らんが、この国の場合は精進料理はとことん本気で肉が無いわけで…」
修行中だった時の俺もそうだ、とキース君は職業の辛さを嘆きながら。
「そんな坊主が、肉断ちの修行が明けた時にはどうなると思う?」
「えーっと…。キース、確かハンバーガーが食べたいって言ってたよね?」
でもって本気でハンバーガー、とジョミー君が言う通り。住職の資格を取る道場から帰って来たキース君はハンバーガーの店に行ったのでした。そして大きいのをバクバクと…。
「俺の場合はアレで済んだが、焼肉に繰り出すヤツもいるんだ。大抵はそのコースだな」
自分の胃袋の状態も知らずに突っ込んで行って酷い目に遭う、とキース君。
「肉断ちの期間が長かったんだぞ、いきなり食っても腹を壊すとか、胸やけするとか…。それでも食べたくなるのが坊主だ。どうなってもな」
教頭先生もそのタイプと見た、とキース君は意見を変えた理由を述べ始めました。
「教頭先生は草食系でらっしゃるだろう、と俺が判断したのは、ブルーだけだと仰ってるのと、いつものヘタレぶりからなんだが…」
しかし、とキース君が改めて語る、修行明けのお坊さんの無茶な食べっぷり。
「教頭先生もそのクチなんだ。肉は食べたいが、修行中だといった所か…。肝心の肉が無い状態だからな」
ブルーが全く相手にしない、という結論。肉が無ければ確かに嫌でも肉断ちですねえ…。
教頭先生は肉食系だ、とキース君が断定した理由は説得力がありました。教頭先生は肉が食べたくても食べられない状態でいらっしゃいます。お肉、すなわち会長さん。本当は肉食系だというのに、草食系だと勘違いされるほどの肉断ち生活継続中で…。
「なるほどねえ…。こっちのハーレイは肉食系なのに、草食系の生活を余儀なくされている、と」
肉が無いのでは仕方がないか、と頷くソルジャー。
「それで分かったよ、やたらとブルーに御執心なわけが!」
肉を食べたくて仕方ないんだ、とソルジャーは会長さんの方をチラリと。
「こんなに美味しそうな肉があるのに、まるで食べられないんじゃねえ…。それは辛いよ」
お坊さんですらも精進料理で肉の偽物を作るというのに、と気の毒に思っている様子。
「抜け道も無しで、肉断ち生活が三百年以上も続いてるなんて…。可哀相としか…」
なんて可哀相な日々なんだろう、とブツブツと。
「それでも肉を諦めないって所がねえ…。とてもパワフルだと言えばいいのか、エネルギッシュだと言うべきか。修行中のお坊さんも真っ青だよ、これは」
肉断ちが長い分だけよりパワフルになるのだろうか、と言うソルジャー。
「三百年以上も食べてない分、余計に食べたくなるものなのかな?」
「俺の経験からすれば、そういうことになるんだろうな」
後は周りの坊主仲間や座禅の宗派の坊主の行動からしても、とキース君もすっかり方向転換。
「食えなかった分だけ、より食いたくなる。…肉というのはそういうものだ」
「そうなんだ…。それじゃ、ぼくのハーレイでもそうなるのかな?」
「「「え?」」」
なんのことだ、と思ったのですが、ソルジャーは。
「ぼくのハーレイだよ、肉食系で肉はガッツリ食べたいハーレイ!」
特別休暇の時にはそれはパワフルで…、とウットリと。
「ぼくをガツガツ食べるわけだけど、あのハーレイもさ…。肉断ちをすれば、肉を食べたい気持ちがもっと強くなるって勘定かな?」
「…それはまあ…。推して知るべしと言っていいのか、肉断ちの経験者からしてみれば…」
普通は食べたくなるだろうな、とキース君。
「住職の資格を取りに出掛けた修行道場の時もそうだったが、今でも短期間の肉断ちがある」
お盆の時やお彼岸だな、という解説。
「それの間は、早く終わって肉を食いたい気持ちになるのはお約束だ」
未だにそうだ、と語るキース君、ついこの間の春のお彼岸でも肉断ちだったそうですよ~!
ソルジャー曰く、キャプテンも肉断ちをすれば、肉を食べたい気持ちが強くなる勘定か、という話ですが。キース君の答えは肯定、ただし本物の肉だった場合。ソルジャーは暫し考え込んで。
「肉断ちねえ…。肉断ちが明けた時のハーレイのパワフルさってヤツは是非とも味わいたいけど、その前がねえ…」
肉断ちってことは、ぼくとの関係を断つってわけで、と悩み中。
「ぼくの方でも肉断ちになるし、そこがなんとも困った所で…」
「たまには肉を断ってみたまえ!」
君の場合は貪欲すぎだ、と会長さん。
「ライオンなんだかピラニアなんだか知らないけどねえ、年がら年中、がっついてるし!」
「だって、根っから肉食系だしね!」
セックスの無い人生なんて! とソルジャーはブルッと肩を震わせて。
「そんな人生、とんでもないよ。こっちのハーレイは本当に我慢強いというか…。ん…?」
待てよ、と顎に手を当てるソルジャー。
「…こっちのハーレイも肉食系で、肉断ち中で…。でもって、パワフル…」
「ハーレイは別にパワフルってことはないけれど?」
鼻血体質でヘタレまくり、と会長さんがツンケンと。
「肉断ちだって、仕方ないからやってるだけでさ…。自発的にやってるわけじゃないしね」
何ら評価に値しない、とバッサリで。
「あんなのを我慢強いと言ったら、我慢が泣きながら身を投げるね!」
何処かの崖から、と酷い言いよう。けれど、ソルジャーは「そうだけど…」と曖昧な返事。
「それはそうかもしれないけれどさ、肉食系のハーレイには違いないわけで…」
「だから迷惑するんだよ! このぼくが!」
「分かってるってば、そこの所も。…でもね、あのハーレイは使えるかな、って思ってさ」
「…何に?」
変な使い道じゃないだろうね、と会長さんが尋ねると。
「実験台だよ、実験動物でもいいかもしれない。肉食系だの草食系だのは、本来、動物向けの分類ってヤツらしいしね」
「まあね。…人間の場合は菜食主義者って言い方だとか、ベジタリアンとか…」
肉食です、って言い方はわざわざしないだろうね、と会長さん。あえて言うなら雑食というのが人間という生き物らしいですけど、ソルジャー、教頭先生を実験動物にして何をしたいと?
本来の姿は肉食系なのに、会長さんが全く相手にしていないせいで、草食系だと勘違いまでされてしまった教頭先生。肉は一度も食べられないまま、肉断ち生活が三百年以上。その教頭先生を実験動物に使いたいのがソルジャーで…。
「こっちのハーレイも、根本的にはぼくのハーレイと同じってトコが重要なんだよ」
肉食系という所が大切、と指を一本立てるソルジャー。
「今は絶賛肉断ち中だけど、その肉がもっと食べられなくなったらどうなるかなあ、って…」
「「「へ?」」」
食べられないも何も、教頭先生は元から肉を食べてはいません。これ以上どうやれば肉断ちになると言いたいんだか、まるでサッパリ謎なんですが…。
「分からないかな、ハーレイは一応、肉というものを見ているわけだよ」
食べられないだけで…、と言うソルジャー。
「ブルーの姿は見られるわけだし、話だって出来る。これは完全な肉断ちじゃないね」
修行中のお坊さんは肉さえ見られないんだろう、とキース君に質問が。
「…俺の場合はそうだったな。道場から出ることは出来なかったし、肉は夢にしか出なかった」
托鉢をする方の坊主だったら、托鉢中には肉屋の前も通るだろうが…、ということですけど。
「そっちは別にいいんだよ! 托鉢に行ったら肉が食べられることもあるって聞いたし!」
ぼくが言うのは肉と全く出会えないケース、とソルジャーはニヤリ。
「今のハーレイはブルーという肉に出会えはする。それが全く会えなくなったら、完全な肉断ちになるんだよ! 修行中のキースと同じようにね!」
肉は夢にしか出て来ない日々、とソルジャーの視線が教頭先生の家の方向に。
「そういう生活に追い込んでみたら、肉断ちが明けたら何が起こるか…。それを見てから判断しようと思ってさ」
「何の判断?」
会長さんの問いに、ソルジャーは。
「決まってるじゃないか、ぼくのハーレイにも肉断ちをさせるかどうかだよ!」
実験で素晴らしい結果が得られた時には、ぼくのハーレイでも肉断ちを! とグッと拳を握るソルジャー。
「ちゃんと実験しさえすればね、肉断ちが明けた時を励みに耐えられるから!」
ぼくまで肉断ちな生活に…、と言ってますけど、本気でしょうか。そもそも、実験してまで効果を確認しない限りは肉断ちをしたくないらしいですし、成功するとも思えませんが…?
肉食系なキャプテンが肉断ちをした場合、肉断ちが明けたらパワフルだろうと夢見るソルジャー。けれども、それをするとなったらソルジャーの方も肉断ちな日々。思わしい結果が出ないのだったら肉断ちは嫌だ、と目を付けたのが教頭先生で…。
「こっちのハーレイとブルーが会えないように細工をすればね、肉断ちの効果があるかどうかが分かるよ、きっと!」
ちょっとやってもいいだろうか、という質問に、会長さんが「好きにすれば?」と。
「君の提案は大抵、迷惑なんだけど…。ハーレイ絡みは特にそうだけど、会わずに済むなら、ぼくとしては別に…」
「いいのかい? 肉断ち明けが大変になるかもしれないけれど…」
いきなり押し倒されちゃったりとか…、とソルジャーが確認していますけど、会長さんは。
「どうせヘタレだし、その程度で済むに決まっているしね。…万一の場合は、君が責任を持って対処したまえ、ハーレイをぼくから引き剥がすとか!」
「了解。…今回の実験に関しては、君とハーレイとをくっつけたい件は抜きにしておくよ」
ぼくは自分のセックスライフが大事だからね、とソルジャーは何処までも自分中心。
「ぼくのハーレイと最高のセックスが出来るんだったら、君の方は放置でいいんだよ!」
「はいはい、分かった。あまりアヤシイ言葉は使わないように!」
さっきから乱発しているからね、と会長さんが釘を。
「大人しくするんだったら、ハーレイくらいは好きにしていいよ」
「ありがとう! それじゃ、早速!」
「…どうするんだい?」
「サイオンの壁っていうヤツだよ!」
会えないように細工するだけ、とソルジャーの指がヒラリと動いて、キラッと青いサイオンが。…えっと、今ので終わりですか?
「そうだけど? こっちのブルーとハーレイの間に、見えない壁が出来たわけ!」
自覚が無くても決して会えない仕組みになってる、とソルジャーは得意満面です。
「たとえばブルーが買い物に行って、ハーレイも同じ店に行ったとするだろ? でもねえ、普通だったらバッタリ会うのが会えないんだな!」
棚の向こうですれ違うだとか、行きたい方向が変わるとか…、と得々と話しているソルジャー。店に入らずに回れ右とか、行きたかった店が別物になるとか、それは凄いらしいサイオンの壁。取り払うまでは決して会えないって、本当でしょうか…?
会長さんと教頭先生の間にソルジャーが設けた、サイオンの壁。教頭先生と会長さんは決して出会えず、教頭先生は会長さんの姿も見られない上に声も聞けないそうですが…。
「…あれって、ホントに有効なわけ?」
この一週間、確かに会っていないけど、とジョミー君が首を傾げた次の土曜日。私たちは会長さんの家に遊びに来ていますけれど、その会長さんは教頭先生に会っていないそうで。
「…ぼくにも分からないんだけどねえ、不思議なほどに会わないねえ…」
学校の中も出歩いたのに、と会長さん。
「ブルーが言ってたサイオンの壁は、ぼくにも仕組みが全く謎で…。何処にあるのか分かりもしないし、どう働くかも分からないけど…」
でも会わない、と会長さんは証言しました。教頭先生が授業をしている教室の前で、出て来るのを待ったことまであるそうですが…。
「…ぼくとしたことが、ウッカリ用事を思い出してさ。ちょっと急いでゼルの所に行ってる間に、授業時間が終わったんだよ!」
戻った時にはハーレイはもういなかった、と挙げられた例。もちろん教頭室は何度も訪ねたらしいのですけど、いつ行っても留守で会えないらしく。
「ブルーのサイオンは凄すぎるとしか言いようがないね。あそこまでの技はぼくにも無理だよ」
「なるほどな…。あんたの方では、そうやって会おうとしてみるほどだし、遊びだろうが…」
教頭先生の方は辛いかもな、とキース君。
「偶然だと思ってらっしゃるとはいえ、一週間も会えないとなると…」
「そうみたいだね。昨日の夜に覗き見をしたら、部屋で溜息をついていたよ」
ぼくの写真を見ながらね…、と苦々しい顔。
「どうしてお前に会えないのだろうな、なんて零していたねえ、諦めの悪い!」
「それでこそだよ、肉断ちはね!」
肉には夢でしか会えない毎日、とソルジャーがパッと出現しました。
「今までだったら姿だけでも拝めていた肉がもう無いんだし…。ハーレイの辛さは増す一方だね、サイオンの壁を解くまでは!」
「…いつまでやるわけ?」
その肉断ち、と会長さんが訊くと。
「キースの修行とやらに合わせて三週間! それだけやったら、もう完璧に!」
肉への思いが強まるであろう、という読みですけど、ソルジャーは分かっていないようです。実験が見事に成功したなら、ソルジャーも肉断ち三週間なコースになるわけですが…?
ソルジャーが設置したサイオンの壁とやらは解かれないまま、三週間が経過しました。ゴールデンウィークの間も教頭先生は会長さんに会えずじまいで、溜息は深くなる一方で。ようやくソルジャーが勝手に始めた実験が終わる日がやって来ました。
「…今日らしいですね?」
「そうみたいだねえ、ぼくの快適な生活も今日でおしまいってね」
少し寂しい気持ちもしたかな、と会長さんが呟くリビング。私たちは会長さんの家に集まり、ソルジャーが来るのを待っています。土曜日ですから、学校は休み。
「ふうん…。寂しいと思ってくれたんだ? オモチャが無くって寂しいという意味だろうけど…」
君とハーレイの仲も一歩くらいは前進かな、とソルジャーが空間を超えて現れて。
「さてと…。解いてみようかな、サイオンの壁!」
こんな感じで、と青いサイオンがキラッと光って、どうやら壁は消えたようです。とはいえ、元から会長さんにも分からなかったのがサイオンの壁。消えた所で何が起こるというわけでもなく、私たちはのんびりと…。
「かみお~ん♪ 今の季節はコレだよね!」
ビワが美味しい季節だもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が切り分けてくれたビワのタルト。それを食べながら、賑やかにお喋りしていたら…。
「あれっ、お客さんかな?」
ちょっと見てくる! とチャイムの音で駆け出して行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。直ぐに転がるように戻って来て…。
「えとえと、ハーレイ、来ちゃったのー!」
「「「ええっ!?」」」
なんでまた、と驚いた所へ「邪魔をしてすまん」と教頭先生が頬を染めながら入って来ました。手には真紅の薔薇の花束、あまりの大きさに何本あるのか分かりません。百本かも、と誰もがポカンと眺めるそれを、教頭先生は「ブルーにと持って来たんだが…」と手にしたままで。
「どうしたわけだか、まるで会えずに三週間も経ってしまって…。それでだな…」
思い余って来てしまった、と教頭先生は真っ赤な顔で照れています。
「お前に会えたら、あれも言わねば、これも言わねばと毎日考え続けていたわけで…」
そんな私の熱い想いを歌にしてみた、と教頭先生はいきなり歌い始めました。それは熱烈なラブバラードを。多分、替え歌なんでしょうけど、会長さんの名前を連呼するヤツを。
「「「………」」」
ここまでするか、と呆れ返った私たち。歌うなんて思いもしませんでしたよ…!
朗々とラブバラードを熱唱した後、教頭先生は呆然としている会長さんに真紅の薔薇の花束を押し付けるように渡して、それから「愛している…!」と両腕でギュッと。会長さんが驚き呆れて動けないのをどう受け取ったか、キスまでしようとしたのですけど…。
「おっと、そこまで!」
ぼくがブルーに殺されちゃうから、とソルジャーの青いサイオンが光って教頭先生の姿は消滅しました。瞬間移動で、駐車場にあった車とセットで家に送り返されたみたいです。
「た、助かった…。危なかったよ、ぼくも魂が抜けてたと言うか…」
「だろうね、ラブバラードが凄かったしねえ…」
ぼくは感動しているけれど、とソルジャーは嬉々とした表情で。
「ラブバラードで愛の告白、それに真紅の薔薇の花束! おまけに抱き締めてキスだなんて!」
三週間も肉断ちしたならこうなるのか、と実験の効果を改めて噛み締めているようです。
「これは大いに期待出来るね、ぼくのハーレイだとどうなると思う?」
「さあねえ…。ラブバラードを歌うかどうかは保証しないよ?」
あれはハーレイならではの暴走ぶりかも、と会長さんが念を押しましたけれど。
「うん、分かってる。薔薇の花束も、ぼくのハーレイには無理だしねえ…。シャングリラから自力で出られないんじゃ、ちょっと買いには行けないからね!」
でも、その分は別の所で凄い効果が現れるのに違いない、とソルジャーは肉断ちを決意しました。この週末にキャプテンと二人で楽しんだ後は、キッパリ肉断ち。より効果を高めたいからと、必要最低限しか顔を合わせないよう、サイオンの壁も張るとか言って。
「楽しみだねえ…。ソルジャーとキャプテンじゃ、まるで会わないっていうのは無理だけど…」
三週間後の肉断ちが解けたハーレイのパワーが楽しみだよ、とウキウキ帰ったソルジャーだったのですけれど…。
「だから、肉断ちは辛いと言っただろうが!」
この俺が、とキース君が怒鳴る、放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。ソルジャーは肉断ち三日目にして愚痴を零しに現れ、「まだ二週間と四日もある」とグチグチと。
「…それは分かっているんだけれど…。君も苦労をしたっていうのは…」
だけどぼくには耐えられなくて、と愚痴るソルジャーは肉断ちには向いていませんでした。修行そのものが無理だったと言うか、結局の所…。
「…今日、来ないっていうことはさ…」
愚痴を言いに来ないからには挫折したよね、とジョミー君が指摘する週末。私たちはソルジャーが肉断ちに失敗したに違いない、と笑い合いましたが、「失礼な!」と来ないからには…。
「…うん、間違いなく失敗だね」
一週間分の効果くらいは出てると思ってあげたいけどね、と会長さん。けれど、キャプテンが忙しい時には一週間くらいのお預けだって普通にあるわけで…。
「三週間だからこそ、意味があるんだと俺は思うが」
「ぼくもだよ。…ハーレイのラブバラードの強烈さは忘れられないねえ…」
あのクオリティが欲しいのだったら三週間耐えろ、と会長さん。私たちもそう思います。肉断ちするなら三週間です、ソルジャー、頑張って三週間耐えてみませんか~?
肉が食べたい・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
肉が食べられない、お坊さんの世界。肉断ちの生活が長くなるほど、食べたくなるとか。
そこに目を付けたソルジャー、肉断ちを考案したわけですけど。教頭先生、凄すぎですね…。
次回は 「第3月曜」 7月18日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、6月は梅雨の季節。雨の日の月参りが辛いキース君に…。
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