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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

フォトフレーム

 ハーレイは「またな」と軽く手を振って帰って行った。パパとママも一緒の夕食を食べてから、ぼくの部屋でアイスティーを飲んで少し話をした後で。
 別れ際の言葉は「またな」だけで、馴染んでしまった「また明日な」ではなかったけれど。平日だって二人一緒に過ごせた夏休みは今日で終わってしまって、「また明日な」を聞ける日はきっと週末の土曜日まで来ないんだけれど…。
 学校がある平日だって、時間が取れればハーレイは家に来てくれる。だけど明日は夏休みの後の最初の日だから、忙しくて来られないだろう。もしかしたら、と望みは捨てていないんだけれど、普通はやっぱり無理だよね…。



 次にハーレイとゆっくり過ごせる休暇は冬休み。それまでの間に長い二学期が挟まってしまう。ハーレイと再会してから後の一学期よりも、冬休みの後に来てアッと言う間に終わる三学期よりも長い二学期。四ヶ月近くも続く二学期。そんなに長い間、ハーレイと二人の休暇が無いなんて…。
 考えただけで溜息が出そうになってくるけれど。
 勉強机の前に座って頬杖をついたぼくの目の前に、ハーレイの笑顔。昨日までは無かった一枚の写真。今日、ハーレイと庭で写した夏休みの記念という名のぼくも一緒に収まった写真。
 飴色をした木のフォトフレームはハーレイがプレゼントしてくれた。写真撮影だってハーレイが提案してくれた。



 ハーレイとぼくと、お揃いの木製のフォトフレーム。中の写真も同じもの。
 夕食前までは勉強机の上じゃなくって、ハーレイとお茶を飲んだりしているテーブルの上に二つ並んで置かれていた。ぼくの分と、ハーレイの分と、そっくり同じなフォトフレームが。
 その片方をハーレイが家に持って帰って、今頃は書斎の机の上か、それとも寝室に置いたのか。比べても全く見分けがつかない双子みたいなフォトフレーム。ぼくとハーレイとの大事なお揃い。
 ハーレイが写真をプリントしてくれて、フォトフレームもくれたんだけど。お互い、それぞれのフォトフレームに写真を収めて、並べて置いていたんだけれど。
 結局、ぼくたちは取り替えたんだ。
 夕食の後で、並んだ写真を眺めながら紅茶を飲んでいた時、二人とも考えていたらしい。まるで同じなフォトフレームと写真。取り替えたって区別がつきはしないし、それなのに持ち主が別々にいる。
 ぼくのフォトフレームの持ち主はぼくで、ハーレイの分は持ち主がハーレイ。
(どっちでも同じ写真とフォトフレームだよね…)
 ハーレイの分が欲しいんだけどな、と考えた、ぼく。
 同じものなら、ハーレイが写真を入れていたフォトフレームが欲しいと思った。だって、それはハーレイの持ち物なんだから。ほんの少し前に決まったものでも、ハーレイの物に違いないから。
(…ハーレイのと取り替えてくれればいいのに…)
 ぼくの大好きな褐色の手が写真を入れて、そうっと触っていたフォトフレーム。飴色の木の枠にハーレイの温もりが残っていそうで、欲しくてたまらなくなってしまって。
「…ねえ、ハーレイ…」
 取り替えて欲しいと強請ろうと口を開いたら、ハーレイが「うん?」とぼくを見詰めて。
「どうした? 俺もお前に話があるんだが、まずはお前の話からだな」
「えっ? ハーレイの話が先でいいよ。…ぼくのは我儘で、おねだりだから」
 そう答えると、ハーレイは「うーむ…」と唸った。
「弱ったな…。俺の方もお前に頼みごとでな、おまけに酷く我儘なんだが」
「ハーレイが? なんで我儘?」
 不思議だったけれど、ハーレイの頼みごとなら何でも聞きたい。叶えるかどうかはまた別の話。だって、とんでもない頼みごとだったら困るから。結婚の約束は取り消しだとか、そういうの。
「我儘でもいいから聞かせてよ、それ」
「お前の我儘を優先するが」
「でも、ぼくの我儘だって酷いんだよ。それに、おねだり…」
 どちらが先に口にするかで譲り合った末に、同時に言おうということになった。一、二の三、で声を揃えて、お互いの酷い我儘を。



 ぼくとハーレイ、テーブルを挟んで向かい合わせ。ぼくはハーレイの鳶色の瞳、ハーレイの瞳はぼくの瞳を至極真面目に覗き込んで。
「いい、ハーレイ? 一、二の…」
 三! で同時に言った。
「ハーレイのフォトフレームが欲しいんだけど!」
「お前のフォトフレームが欲しいんだが…」
 えっ。
 重なり合った声もそうだけど、その中身。ぼくたちは顔を見合わせて暫く無言で。
「……俺のフォトフレームが欲しいと言ったか?」
「…ハーレイ、ぼくのが欲しいって言った?」
 なんで、と尋ねたぼくにハーレイも「何故だ」と訊いてくるから。
「…だって、見た目はおんなじだもの…。どうせだったらハーレイのが欲しいよ…」
 此処でしっかり強請らないと、と思ったから理由をきちんと話した。ぼくの頬っぺたは少しだけ赤くなっていたかもしれない。そうしたら、ハーレイが「実は、俺もだ」と白状した。
「お前が選んだフォトフレームだし、そいつはお前の分なんだが…。お前の持ち物が欲しくてな。俺よりもずっと年下のお前に我儘を言うのは大人げないが」
「…ハーレイもなんだ……」
 ぼくと同じことを考えてくれたのが嬉しかった。
 ハーレイはぼくの持ち物が欲しくて、ぼくはハーレイのが欲しくって。
 普通の持ち物なら取り替えて持ったりは出来ないけれども、フォトフレームならそっくり同じ。それに今日の昼間に出来たばかりの持ち物なんだし、取り替えたって誰にもバレない。だから…。
「いいよ、ハーレイ。取り替えようよ」
「ああ。…お前も俺のが欲しかったんなら、利害は一致しているからな」
 ハーレイがパチンと片目を瞑って、ぼくのフォトフレームに手を伸ばした。
「だったらこいつは俺のものだな、有難く貰って帰るとしよう」
「じゃあ、ぼくはハーレイの分を貰うね」
 こっち、と自分の前に引き寄せて「今日からよろしく」とフォトフレームに声をかけた。
「ハーレイから取り上げちゃったけれども、大事にするから」
「ははっ、それじゃ俺もこいつに挨拶せんとな。…むさ苦しい家だが、よろしく頼むぞ」
 ハーレイはぼくのフォトフレームにペコリと頭を下げて挨拶してから、嬉しそうな笑顔で箱へと仕舞った。それから帰って行ったんだけれど、ぼくの一部がハーレイと一緒に連れて帰って貰えるような気がして、心が躍った。
 ぼくが行けないハーレイの家。大きくなるまで来るなと言われたハーレイの家へ、ぼくが選んだフォトフレームが一緒に帰って行くなんて…。
 幸せなぼくのフォトフレーム。ハーレイの家でうんと大切にされて、幸せに暮らすことだろう。



 ぼくが選んで写真を入れていたフォトフレームを、ハーレイが連れて帰って行った。
 ハーレイが写真を入れた方は、ぼくの家に残って双子のようなフォトフレームを見送った。
 そうやって交換されたフォトフレーム。
 ぼくとハーレイ、二人だけしか知らない秘密の、互いの持ち物。
 お揃いだっていうだけじゃなくて、自分の分は手元を離れて、お互い、相手が持っているんだ。
 なんて幸せなんだろう。
 ぼくの持ち物に見えるけれども、本当はハーレイの持ち物だったフォトフレーム。ぼくが選んだフォトフレームはハーレイが連れて帰ってくれた。
 そっくり同じなフォトフレームは見えない糸で繋がっていそうで、その糸に触れるような気分で飴色の枠に手を伸ばす。
 ぼくの机の上、ハーレイが選んだフォトフレーム。
 ハーレイが写真を入れていた。ぼくの大好きな褐色の手で、裏返して写真を入れていた…。



(…この辺かな?)
 ハーレイの手が触れていた辺りを触ってみる。滑らかに磨かれた飴色の木枠。自然の素材だから冷たくはなくて、その柔らかさと温もりがハーレイを思わせた。
 がっしりと頑丈で、ぼくよりもずっと大きな身体を持ったハーレイ。木の枠を見るまでは考えたことも無かったけれども、ハーレイは立派な大木みたいだ。どっしりと根を張り、天に聳えて枝を四方に広げた大木。雨にも風にも揺らぐことなく、その枝と葉とで沢山の命を守るんだ…。
(…うん、キャプテンだった頃のハーレイはホントに大木だよね)
 シャングリラという名の楽園を支えていた大樹。大勢のミュウたちを枝に止まらせ、茂る葉影に休ませていた。ハーレイがキャプテンだったからこそ、誰もが安心して暮らしていられた。
 ぼくが守った白い船。ハーレイが舵を握っていた船。
 白いシャングリラを守っていたぼくは、ハーレイが伸ばした枝の間を吹き渡る風。皆が心地よく過ごせるようにと、清しい空気を運び続けた。禍々しいものが枝に纏わりつかぬよう。皆を脅かすものが来ぬよう、大樹の周りを巡り続けた…。
 懐かしい、白いシャングリラ。
 ハーレイと一緒に暮らしていた船。いつだってハーレイの気配が在ったし、ハーレイが必ず側に居てくれた。辛く悲しい時代だったけれど、あの船の中だけは楽園だった。
(…今は別々の家だもんね…)
 ハーレイの気配は家の中に無いし、ハーレイは側に居てくれない。
 せっかく平和な青い地球の上に生まれて来たのに、肝心のハーレイと一緒に住めないだなんて。
(でも……)
 これはハーレイの持ち物だものね、とフォトフレームの木枠を指先で撫でた。
 ハーレイの家に行ったぼくのフォトフレームと同じ姿で、飾られた写真もそっくり同じ。きっとハーレイの家にあるフォトフレームと見えない糸で繋がっている。
 それにハーレイの持ち物だったフォトフレーム。この中にハーレイの心の一部がちゃんと入っている筈なんだ。だって、ハーレイがぼくのフォトフレームを連れて帰る時、ぼくの心が飛び跳ねていたから。ハーレイの家へ一緒に行ける、と心の欠片が弾んでいたから…。



 フォトフレームの中に収まった写真。
 庭で一番大きな木の下にハーレイと二人並んで、ママが写した夏休みの記念。
 そういうことになっているけれど、本当は二人一緒の写真が欲しかったんだ。ハーレイもぼくもそう思っていて、お互い口にはしていなかったのに、ハーレイが実行に移してくれた。羽根ペンを買いに出掛けたついでに、お揃いのフォトフレームまで買って来てくれて。
 写真の中のハーレイは穏やかな笑顔。穏やかなように見えるけれども、とびきりの笑顔。最高の笑顔なんだと、ぼくには分かる。前のハーレイがこんな笑顔をしていたから。青の間でぼくと二人きりの時、こんな風に笑っていてくれたから。
 ぼくだけに見せてくれたハーレイの笑顔。ぼくだけを想っていてくれるハーレイの笑顔。それを見るのが好きだった。
 今もこの笑顔を見せてくれるけれど、まさか写真になるなんて。ハーレイが側にいない時にも、写真を見れば大好きな笑顔が見られるなんて…。
 そのハーレイの左の腕に、ギュッと両腕で抱き付いて嬉しそうなぼく。ハーレイが抱き付いてもいいと言ったから、遠慮なく抱き付いて撮らせて貰った。「あくまで憧れの先生とだぞ?」なんて念を押されたけど、ハーレイにくっついて写真が撮れた。それだけで胸がドキドキしてた。
(あっ…!)
 撮った時には幸せ一杯で全く気付いていなかったけれど、ぼくが抱き付いている左腕。
 利き腕じゃない方のハーレイの腕。
 ハーレイが「俺の利き手を封じてどうする」と注意したから、左腕に抱き付いていたんだけど。この左腕に、前のぼくの右手が最後に触れた。
 メギドに飛ぶ前、ぼくの言葉を口にすることは出来なかったから。死にに行くのだとジョミーや皆に知られるわけにはいかなかったから、ハーレイの左腕に触れて其処から思念を送っておいた。ジョミーを頼む、と。
 ぼくがハーレイに言えた言葉は、「頼んだよ、ハーレイ」。肉声ではそう伝えただけ。思念でも別れは告げられなかった。ハーレイへの想いも、「さよなら」も言えずに前のぼくは死んだ。
 ハーレイの腕に最後に触れた手。右の手に残った温もりだけを最期まで持っていたかったのに、それも失くして独りぼっちで泣きながら死んだ。
 もう会えないと、ハーレイには二度と会えないのだと…。
 メギドで冷たく凍えた右の手。ハーレイの温もりを失くした右の手。
 ハーレイの温もりを覚えていたかったのに。温もりを抱いていたかったのに…。



 前のぼくが失くした温もりの元は、ハーレイの左腕だった。最後に触れた腕は左腕だった。
 あんなにも切ない思いで触れて、その温もりを抱いて逝こうと右の手にしっかり覚えさせた腕。この温もりがハーレイなのだと、心に刻み付けた腕。
 それなのに、ぼくは失くしてしまった。撃たれた痛みがあまりに酷くて、温もりは撃たれる度に薄れて、最後に右の瞳を撃たれた瞬間、消えてしまって失くしてしまった。
 独りぼっちになってしまって、泣きながら死んでいったぼく。
 失くしてしまったハーレイの左の腕の温もり。
 その左腕に、前よりもずうっと小さい身体になったぼくがくっついているなんて。
 前のぼくがほんの少しだけ触れて離れたあの左腕に、両腕で抱き付いているなんて…。
(……夢みたいだ……)
 前のぼくが失くした温もりの代わりに、両腕一杯分の温もり。ギュッと抱き付いたから、胸にも温もりをしっかり感じた。温かで確かなハーレイの温もり。幻ではない生の温もり。
(なんて幸せなんだろう…)
 そう思ったら涙が零れた。
 ハーレイの左腕なんだ。ぼくが両腕で抱き付いていたのは、ハーレイの左腕なんだ…。



 二人並んだ写真なんか撮れなかった、前のぼくたち。
 何処かに前のハーレイの写真は無いかと、ハーレイの写真欲しさに本屋さんで探した今のぼく。前のぼくたちが一緒に写った写真はいくらでもあったけれども、恋人同士の写真じゃなかった。
 二人一緒でも、あくまでソルジャー・ブルーとキャプテン。それが前の生でのぼくたちだった。恋人同士と一目で分かる写真など撮れず、撮れる日が来るとも思わなかった。そうして運命の日がやって来て、前のぼくは独りぼっちで泣きながら死んだ。もうハーレイには会えないのだと。
(…またハーレイと会えただなんて…)
 青い地球の上に生まれ変わって巡り会えた上に、二人一緒の写真まで撮れた。
 シャッターを切ってくれたママにも、記念写真を撮ったと報告しておいたパパにも、恋人同士の写真だということはまだ明かせないけれど、幸せな今のぼくたちの写真。
 ハーレイとお揃いで持っている写真と飴色をした木のフォトフレーム。
 ううん、お揃いって言うだけじゃなくて、このフォトフレームはハーレイのもの。誰も気付きはしないけれども、ぼくのフォトフレームはこれの代わりにハーレイの家に行ったんだ。
 ぼくはハーレイのを、ハーレイはぼくのを持っている。
 お揃いな上に、お互い、相手から貰った形のフォトフレーム。恋人の持ち物が手許に欲しくて、交換し合ったフォトフレーム。
 ハーレイの持ち物を貰ってしまった。
 大きな褐色の手が触れて写真を入れていたフォトフレーム。ハーレイの手の温もりを枠に残したフォトフレーム。大切なぼくの宝物。中の写真も、フォトフレームも…。



 ずうっとお揃いが欲しかった。ハーレイとお揃いで持っているもの。
 つい昨日まで、今日の午前中までは、お揃いはたった一つだけだった。ハーレイが先に見付けて買って教えてくれたシャングリラを収めた写真集。ぼくのお小遣いでは買えない値段の豪華版で、パパに強請って買って貰った。その写真集だけがお揃いだった。
 だけど今では、写真集ならぬ記念写真。ハーレイと二人で写した写真がフォトフレームごと双子みたいにそっくり同じで、お揃いの持ち物に加わった。
 お揃いのものも欲しかったけれど、二人一緒の写真も欲しいと夢見ていた。
 ハーレイと一緒に写った写真と、お揃いのフォトフレームと。両方の夢が一度に叶って、もっと素敵なオマケがついた。ハーレイの持ち物だったフォトフレームが、ぼくのもの。その上、ぼくのフォトフレームはハーレイの家へと貰われて行った。
(…ぼくよりも先にお嫁に行ったよ、フォトフレーム…)
 そう思うとなんだかくすぐったい。
 いつの日か、ぼくはあのフォトフレームを追い掛けるようにハーレイのお嫁さんになる。伴侶と呼ぶのかもしれないけれども、ハーレイに貰われるぼくの立場は「お嫁さん」だ。
 ハーレイは自分のお父さんとお母さんとに、ぼくと結婚するんだってことを、ちゃんと報告してくれた。庭に大きな夏ミカンの木がある隣町のハーレイが育った家。ハーレイのお母さんが作った夏ミカンのマーマレードが入った大きな瓶を、ハーレイはお父さんたちから預かって来た。
 将来、ハーレイの結婚相手になるぼくに、ってプレゼントしてくれたマーマレード。お日様の光みたいな金色が詰まった瓶はとても綺麗で、ハーレイのお父さんとお母さんの気持ちが嬉しくて。大事に食べようと思っていたのに、パパとママが先に蓋を開けて食べてて大ショック。
 それが今朝のこと、マーマレードを貰ったのは昨日。
 昨日と今日との二日間だけで、幸せが沢山降って来た。マーマレードを先に食べられてしまった悲劇はともかく、他は幸せ一杯だった。



 前の生から大好きだったハーレイと一緒に過ごした、ぼくの人生で最高の夏休み。
 その夏休みの最終日が文字通り最高の日で、二人一緒に写真を写して、お揃いのフォトフレームまで手に入れて勉強机の上。ハーレイの持ち物だったフォトフレームの中、幸せそうに笑っているぼく。ハーレイの左腕に両腕でギュッと抱き付いたぼく。
 そうだ、ハーレイに羽根ペンもプレゼント出来たんだっけ。ぼくのお小遣いで買うには高すぎる値段だったからハーレイが殆ど自分で支払ったけれど、ハーレイの誕生日プレゼント。ハーレイが前世で愛用していた羽根ペンによく似た白い羽根ペン。
 羽根ペンをハーレイの誕生日にプレゼント出来て、ハーレイのお父さんとお母さんから手作りのマーマレードを貰って、今日はハーレイと一緒に写った写真。しかもお揃いのフォトフレーム。
 思い付くだけでも最高が三つ、羽根ペンとマーマレードと、目の前の写真。
 きっと他にも色々とある。この夏休みだけで最高を幾つ体験したのか、それこそ紙にでも書いてみない限りは分からない。幸せ一杯だった夏休み。ハーレイと過ごした夏休み。
 だけど、まだまだ最高の日が幾つも幾つもやって来るんだ。
 夏休みは今日で終わりだけれども、ぼくはたったの十四歳で、まだ結婚も出来ない歳。
 結婚出来る十八歳までに最高の日が幾つあるのか、それだけでも数え切れそうになくて。
 どうしようか、と思うほどなのに、幸せはもっと増えてゆく。
 ハーレイと結婚するだけで増えるし、一緒に暮らせば毎日のように増えてゆく。
(…前のぼくは全然知らなかったよ、こんなに幸せが一杯な日が来るなんて…)
 そう思ったら、また涙が零れた。



 独りぼっちになってしまったと泣きながらメギドで死んでいった、ぼく。
 その前のぼくに教えてあげたい。
 ぼくはこんなに幸せだよ、って、ハーレイと幸せに生きてるんだよ、って。
 もう泣かなくても大丈夫だから、きっと幸せになれるから…。
 ぽたり、と机の上に落ちた一粒の涙。
 ソルジャー・ブルーだったぼくの涙だと思いたい。
 悲しい涙はもうおしまいで、幸せを見付けた涙なんだ、と。
 泣かないで、ソルジャー・ブルーだった、ぼく。
 ぼくはこんなにも幸せだから……。




            フォトフレーム・了

※ハーレイとブルーがお揃いで持っているフォトフレーム。実は交換していたのです。
 ほんの一瞬でも、お互いの持ち物だった物を交換。それだけで幸せなブルーです。
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