忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

夢のような朝

 それは十四歳の小さなブルーがメギドでの出来事を夢に見て飛び起きてしまった夜のこと。前の生での悲しすぎた最期をもう何度夢に見ただろう。その度にとても怖くなる。自分は本当に生きているのかと、何もかもが儚い夢ではないかと。
(…怖いよ、ハーレイ…)
 ハーレイに側に居て欲しい。ブルーは確かに生きているのだと、強く抱き締めて教えて欲しい。前世よりも小さな今の身体が本物なのだと、メギドで撃たれた身体の代わりに手に入れたのだと。
 けれどハーレイの家は何ブロックも離れた所で、夜の夜中に一人で行くには遠すぎた。前の生と違って瞬間移動が出来ないブルーには越えられない距離。ハーレイだけに届く思念も紡げない。
(…会いたいよ、ハーレイ…。怖いよ、ハーレイ…)
 側にいてよ、と涙を零してもハーレイが来てくれるわけもない。ハーレイの家はとても遠いし、そうでなくても「来てはいけない」と言われてしまった。一度だけ出掛けたハーレイの家。其処でブルーが見せた表情が年相応ではなかったとかで、大きくなるまでは行けなくなった。
 そういったことを考えてゆけば「今」は確かにあるのだけれど。
 その「今」が揺らぎそうになる。ハーレイとの日々はメギドで死んだソルジャー・ブルーが見ている夢で、十四歳の小さな自分は地球に行きたかった彼の魂が作り出した幻なのではないかと。
 気が付けば全てが消えていそうで怖かった。自分は死んで独りぼっちで、ハーレイも今の両親も誰もいなくて、この部屋も家ごと消えてしまって…。
(怖いよ、ハーレイ…。側にいてよ…)
 会いたいのに、と泣きながらブルーは眠りに落ちていった。前の生の最期にハーレイの温もりを失くして凍えた右の手をキュッと握り締め、その手をいつも温めてくれるハーレイの大きな温かい手を思い浮かべて…。



 怖くて恐ろしくてたまらなかったのに。辛くて悲しくて寂しかったのに、何故か優しい温もりに包まれ、それを求めて縋り付いた。すると温もりはブルーをすっぽり包んでくれて、暖かな眠りが訪れる。温もりが何なのか分からないけれど、恐ろしさも怖さも何処かへ消えた。
(…気持ちいい…)
 それに温かい、と心地よい温もりに身体を擦り寄せ、それに包まれてぐっすり眠った。そうして夜が明け、ぱっちりと目を覚ましてみたら。
「…あれ?」
 夢だとばかり思っていた温もりがまだ側に在る。どうしてだろう、と見回してみるとハーレイの腕の中に居た。これも夢かと瞬きをしたが、ハーレイは消えるわけではなくて。
(そっか、ハーレイ、来てくれたんだ…!)
 怖い夢を見て泣いていたから、気付いて来てくれたのだろう。もう嬉しくてたまらない。幸せな気持ちが溢れ出すままに、ハーレイに向かって微笑みかけた。
「…おはよう、ハーレイ。もしかして、気が付いて来てくれた…?」
 ところがハーレイの答えはブルーが予想だにしなかったもので。
「違う、来たのはお前の方だ。…お前がいるのは俺のベッドで、この家は俺の家なんだが…」
 言われた途端に気が付いた。自分のベッドよりも大きなベッド。ならば自分は飛んで来たのだ。出来ない筈の瞬間移動で空間を超えて、ハーレイの家まで。
(ぼく、飛べたんだ…!)
 ハーレイの家まで飛んで来られた。喜びで胸が弾けそうになる。昨夜見た夢は怖かったけれど、ハーレイはちゃんと目の前にいる。ハーレイの家も本当に在る。この幸せな今が現実。
「ハーレイ…!」
 大きな身体に抱き付き、広い胸に頬を擦り寄せた。もう今度から怖い夢を見ても大丈夫。自分は飛ぶことが出来るのだから、こうして飛んで来ればいい。
 そう言ったらハーレイは「怖い夢を見たらいつでも来い」と許してくれたし、普段は来られないハーレイの家も夢を見た時は例外にして貰えるのだろう。
 嬉しくて幸せでたまらないのに、ハーレイは何処か遠い目をしていて。
「…ハーレイ? どうしたの、何か迷惑だった?」
 心配になって尋ねれば、苦笑いしながら。
「い、いや…。今日は学校は休みだったな、と思ってな」
 朝飯にするか? と訊かれてブルーはコクリと頷いた。そういえば今日は土曜日だった。学校のある日でなくて良かった、とブルーも思う。ハーレイの家で一緒に朝食を食べられるのだから。



「よし、お前のために腕を奮うとするか。これでも料理は得意なんだぞ」
 沢山食べて大きくなれよ、とハーレイがブルーの髪をクシャクシャと撫でてベッドから降りた。そのハーレイが徹夜でブルーへの欲望と戦っていたことをブルーは知らない。だから急いで自分もベッドから降り、ハーレイの腕にギュッと抱き付く。
「こらっ、俺はこれから歯磨きと着替えだ! ついてくるなよ!」
「なんで?」
「お前の視線は心臓に悪い!」
 此処で待ってろ、と二階の寝室から一階のリビングへ連れて行かれた。ソファに座らされ、目の前の床にスリッパが置かれる。
「足が冷たいなら履いていろ。裸足でもいいぞ」
 じゃあな、と出てゆくハーレイは裸足。シャングリラに居た頃と違って、今の生では家の中では靴は履かないのが基本だった。来客用のスリッパをじっと見詰めてから、履かない方を選択する。次はいつ来られるか分からないハーレイの家なのだから、素足で床を感じていたい。
(…ふふっ、フカフカ)
 リビングに敷かれた絨毯の柔らかな感触を味わい、それから部屋をあちこち眺めた。壁際の棚のトロフィーはハーレイが柔道や水泳で勝ち取ったもので、前に来た時に見せて貰った。ハーレイの好みらしい落ち着いた壁紙などは前の生でのハーレイの部屋を思わせる。
 キョロキョロしていると、半開きの扉の向こうからハーレイの声が聞こえて来た。
「ええ、ええ…。はい、怖い夢を見たのが引き金だったようで…」
(あれ?)
 ぼくのことだ、と耳をそばだてた。話している相手は多分、母か父。
「大丈夫です、後で送って行きます。…元々、伺う予定でしたから」
 ご心配なく、という声を最後に会話は終わって、暫く経って。
「待たせたな、ブルー。食事にしようか」
 着替えを済ませたハーレイが来て、「寒くないか?」と訊かれたけれど、パジャマ姿でも風邪を引くような季節ではない。
「うん、平気!」
「すまんな、お前が着られそうな服は無いからなあ…。じゃあ、飯にするか」
 こっちだ、とダイニングに向かうハーレイの腕にブルーはまたしても抱き付いていた。



 ハーレイの家を一度だけ訪ねた時に、二人で昼食を食べたテーブル。そこの椅子の一つに座ったブルーに、ハーレイが隣のキッチンから声を掛けてくる。
「ブルー、オムレツの卵は何個……って、訊くまでもないな、一個だな?」
「ハーレイ、二個なの?」
 驚いたものの、身体の大きなハーレイだったら自分の倍は食べるだろう。そう思ったのに。
「それだけじゃ足らんし、俺はソーセージも焼くんだが」
「……嘘……」
「ということは、お前、ソーセージは要らないんだな? うんうん、分かった」
 すぐ作るからな、と笑いの混じったハーレイの声。やがてホカホカと美味しそうな湯気を立てるオムレツの皿が運ばれて来て、大きい方のオムレツの皿にはソーセージが一緒に乗っかっている。
(…凄いや…。ハーレイ、朝からこんなに食べるの?)
 トーストだってハーレイの分はうんと分厚く、ブルーのトーストは薄くてたったの一枚。そう、ハーレイのトーストは分厚くて二枚。
「ブルー、ミルクはこれに一杯でいいか?」
 温めるか、と出て来たマグカップの大きさにブルーは仰天した。いつも家で使っているカップの倍くらいは入りそうな大きなカップ。そんなカップに一杯だなんて言われても…。
「そ、それの半分くらいでいいから!」
「遠慮しなくていいんだぞ? お前、大きくなりたいんだしな」
 勢いよくミルクを注ぎ入れるハーレイを「ダメ!」と叫んで必死に止めたら、「冗談だが?」とニッと笑われた。
「これは俺のだ。お前にはこっちで充分だろう」
 普通サイズのカップが出て来てホッとするブルーに、ハーレイがクックッと喉を鳴らした。
「お前、これだけしか飲めないのか…。そんな調子じゃ、いつになったら育つやら…」
「もうすぐだよ!」
「どうだかな? 朝食ってヤツは大事なんだぞ、それがこんなにちょっぴりではなあ…」
 俺ならとても昼まで持たん、とハーレイは豪快に食べ始める。オムレツにソーセージ、ミルクもたっぷり。分厚いトースト、サラダもブルーの倍以上はあった。どれもとっても美味しいけれど。
(…あんなに沢山、食べられないよ…)
 幸せだけれど、少し悔しい。お前はまだまだ小さいままだ、とハーレイにからかわれてしまったようで…。



 朝食が終わるとハーレイが手際よく後片付けを済ませ、「さてと、お前を送らないとな」と口にしたものの。自分のベッドから瞬間移動をして来たブルーはパジャマしか着てはいなかった。家の中なら問題は無いが、ブルーの家まで車で移動をするにしても…。
「うーむ…。お前の服をどうしたもんかな…」
 ハーレイはブルーの姿を眺めて考え込んだ。デザインは普通のシャツに見えるし、襟だって一応ついている。一見してパジャマと分かりはしないが、パジャマには違いないわけで。
(…だが、俺のシャツを貸した方が余計に変だよな? 致命的にサイズが違うしな…)
 上から羽織るものでもあれば、と思ったけれども、良いものを全く思い付かない。バスタオルは却って可笑しいだろうし、毛布の類は言わずもがなだ。
「ハーレイ、ぼくはこのままでいいよ?」
 ハーレイの服は着られないでしょ、とブルーが自分のパジャマの襟を引っ張りながら。
「パジャマなんです、って言わなかったら普通のシャツに見えると思うし」
「どうだかなあ…。しかし、それしか無いようだな。仕方ない、堂々と座っていろ」
「うん、そうする」
 裸の王様みたいだね、とブルーはニッコリ微笑んだ。裸という言葉にハーレイの心臓がドキリと跳ねたが、それはブルーがベッドに飛び込んで来てから徹夜で己の欲望と戦い続けていたからで。
(…いかん、童話のタイトルに反応していてどうする!)
 己を叱咤し、ハーレイはブルーの足元に目をやった。スリッパを履いていない裸足の足。小さな足に合うサイズの靴は家には無い。服はパジャマで済ませるとしても、裸足で外には出られない。
「…俺の靴ではデカすぎるしなあ…」
 ハーレイの呟きに、ブルーも自分の足を見た。ハーレイの足より遙かに小さい自分の足。
「でも、ハーレイの靴しかないよね?」
「脱げちまいそうだな、いっそスリッパにしておくか? 一足くらいならダメになっても…」
 ハーレイが言うスリッパは来客用のもの。本来は家の中で履くものなのだが、ブルーのためなら一足くらい外に出しても、と考えた。それならばブルーの足にも合う。けれど…。
「もったいないよ!」
 ブルーが叫んだ。
「それにハーレイの靴、履いてみたいよ、脱げてもいいから」
「履いてみたいって…。お前…」
「ぼく、ハーレイの恋人だもの! ハーレイの靴、履いてみたいな…」
 ダメ? と上目遣いに強請られ、ハーレイは折れた。ブルーの愛らしく小さな素足に自分の靴という美味しい眺めはハーレイ自身も惹かれるものがあったから…。



 こうして履物は決まったのだが、いざ履いてみるとハーレイの靴はブルーの足には大きすぎた。歩けば小さな足だけが前に出てゆき、重たい靴が取り残される。これでは駄目だと最初の案だったスリッパに手を伸ばすハーレイをブルーが「待って」と止めた。
「ハーレイ、あれは?」
 指差す先に大きなサンダル。ハーレイが愛車を洗う時などに履くもので、お世辞にも綺麗だとは言い難い。もちろん綺麗に洗ってはあるが、使用感があると言うべきか。
「あれか? …あれは洗車と水撒き用ので、外に出掛ける靴じゃないしな…」
「あれでいいよ」
 決めた! とブルーはピョコンと飛んだ。サンダルの上に着地し、両足に履いて一歩踏み出す。
「うん、これだったら大丈夫! 引っ掛かるから!」
 でも大きい、と自分の足の周りに余ったスペースをまじまじ見回しているブルー。
「そりゃ大きいさ、底の面積は靴よりもうんと広い筈だぞ」
「そうなの? 靴もずいぶん大きかったけど…」
 脱げちゃうんだもの、と借りそびれてしまった靴を見つつも、ブルーは満足そうだった。たとえサンダルでもハーレイが普段、履いている物。それを自分が履いているのが嬉しいのだろう。
(しかし本当に小さな足だな…)
 ハーレイの唇に笑みが零れる。前の生のブルーも細くて華奢だったけれど、今のブルーはもっと小さい。ハーレイの大きな靴を履かせても、その眺めに胸が高鳴る代わりに愛らしさばかりが目につくほどに…。



 パジャマ姿で、足にはハーレイの大きなサンダルを履いて。ブルーはドキドキしながら離れ難いハーレイの家の玄関から出た。次に来られるのはいつだろう?
(また来たいけど…。でも、どうやって飛んで来たのか分からないしね…)
 恐ろしい夢を見ないと来られそうになく、必ず来られるわけでもない。メギドの夢なら今までに何度も見たのに、飛んで来られたことは一度も無い。
(…当分、来られないのかも…)
 名残惜しげに覗き込んでいた扉をハーレイが閉めて鍵をかけた。
「さあ、行くか。お前、俺の車は初めてだったな」
「うんっ!」
 ブルーの胸のドキドキは車のせい。前に来た時には見ていただけのハーレイの車。学校の駐車場でも目にするけれども、乗せて貰えるとは思いもしなかったハーレイの車。
 ハーレイと二人で庭を横切り、ガレージに行って。助手席のドアを開けて貰ってハーレイよりも先に乗り込んだ。ブルーの身体には些か大きすぎるシートだったが、座り心地はいい。
(…ふふっ)
 まさかハーレイの車に乗れるなんて、と嬉しい気持ちがこみ上げて来る。ハーレイのサンダルにハーレイの車。パジャマ姿でも気にしない。
「おいおい、なんだか嬉しそうだな」
 隣に乗り込んだハーレイがエンジンをかけながら言うから、「うん!」と答えた。
「だって、ハーレイの車だもの」
「なるほど、ちょっとしたドライブ気分か」
 行くぞ、とハンドルを握るハーレイ。
「シャングリラみたいに飛びはしないが、車もけっこう面白いもんだ」



 走り出した車はゆっくりと住宅街の中を抜けてゆく。前にハーレイに「もう来てはいけない」と言われたブルーが、それを告げたハーレイに送られてションボリと歩いて帰った道。あの時と同じ道をまたハーレイと通っている。今度はハーレイが運転する車に乗って。
(…夢みたいだ…)
 ハーレイの車、とドキドキしているブルーはろくに景色も見ていなかった。真っ白な猫が尻尾をピンと立てて道を横切り、ハーレイが「おっ!」と声を上げても生返事。
「ブルー、今の猫、ちょっとミーシャに似ていたな……って、聞いちゃいないか」
 見えてもいないな、とハーレイは苦笑しながら助手席に座った恋人をチラリと横目で眺める。
(まったく、何を見ているんだか…。そんな所も可愛いんだが)
 この小さすぎる恋人を本物のドライブに連れ出せる日はいつのことやら、と考えつつハンドルを握るハーレイの横顔をブルーがドキドキしながら見詰める。
(…かっこいいよね…)
 シャングリラに居た頃は、舵を握るハーレイに見惚れていることは出来なかった。ハーレイとの仲を悟られないよう、常にソルジャーの貌をしていた。
(あの頃もこういう顔だったのかな、キャプテン・ハーレイ…)
 それとも今は自分を隣に乗せている分、優しい顔をしているだろうか? あるいは穏やかで甘い顔なのか、運転中だから厳しいのか。
(…よく分からないや…)
 もっと見ていたい、とブルーは願う。家までの道が少しでも混んでいるように。信号で少しでも長く止まっているように…。



 けれど夢のドライブは呆気なく終わってしまって、気付けば見慣れた住宅街。ブルーの家を取り巻く生垣が見えたかと思うと、ハーレイが車を来客用のスペースに入れる。もう少しだけ、と強く願ったのに、車は停まった。
「ブルー、着いたぞ。…ほら、お母さんだ」
 そう言いながらハーレイが運転席から降りて助手席のドアを開けてくれたから、ブルーは車から出るしかなかった。ハーレイの大きなサンダルを履いた足を地面に下ろせば、扉を開けに来ていた母が「あらっ!」と気付いて声を上げる。
「ハーレイ先生、すみません、ブルーが色々とご迷惑を…。この子ったら、もう、パジャマだけで靴も履かないで…! ブルー、靴を持ってくるから其処にいなさい」
 パタパタと急いで戻って行った母は直ぐにブルーの靴を持って来て履き替えさせた。ハーレイの大きなサンダルがブルーの足から消えて無くなる。
(…ハーレイのサンダル…)
 もう少し履いていたかったのに、と思う間も無くサンダルは消えた。ハーレイの手がサンダルをヒョイと掴んで助手席の床に放り込み、ドアをバタンと閉めてしまった。さっきまでブルーが独占していた乗り心地のいいシートもサンダルと一緒にドアの向こうに消えた。
「ブルー? ハーレイ先生にきちんと御礼を言うのよ」
 そして急いで着替えなさい、と指図する母はハーレイにしきりに謝っている。家の中から父まで出て来た。「ハーレイ先生、すみません!」と謝りながら。
「いえいえ、どうせついでですから」
 今日はこちらに来る日でしたし、とハーレイは両親と挨拶を始めてしまって、ブルーの大好きな恋人の顔ではなくなった。そう、今のハーレイは「ハーレイ先生」。
(…なんだか魔法が解けたみたいだ…)
 ハーレイのサンダルを脱いでしまったら魔法が解けたシンデレラ。お姫様ではないのだけれど、そんな気持ちがしてしまう。魔法のサンダルを探してハーレイの車を覗こうとしたら、母の声。
「ブルー、いつまでパジャマで立ってるの? それとハーレイ先生に、御礼!」
「う、うんっ! …ありがとう、ハーレイ。それに、ごめんね」
 頭を下げると「いいや」と大きな手でクシャリと頭を撫でられた。
「さあ、着替えて来い。俺は後からゆっくり行くから」
「はーい! ハーレイ、また後でね!」
 魔法が解けてしまった小さな足にサイズぴったりの自分の靴。ブルーはハーレイに向かって手を振り、玄関の方へと駆け出した。魔法の時間は終わったけれども、今日は一日、ハーレイと一緒。此処は夢でもメギドでもなくて、青い地球の上。
(ずっとハーレイと一緒なんだよ)
 これから先も、ずっと、ずっと、ハーレイと一緒。いつかハーレイと結婚して……。




            夢のような朝・了


※今回のお話はシリーズ第2話、「君の許へと」の裏話でした、今更ですけど。
 一度じっくり書きたかったのです、あの日の二人の朝御飯とかを。
 ブルーの足には大きなサンダル、パジャマ姿でも幸せな朝。
 ←拍手してやろうという方は、こちらv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv








PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]