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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

良い子になる薬

 今年もシャングリラにクリスマス・シーズンがやって来た。ブリッジから見える広い公園には、とても大きなクリスマス・ツリーが飾られている。もちろん夜にはライトアップで、心が浮き立つ最高の季節。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も例外ではない。
(えっと、サンタさん…。今年は何をお願いしようかな?)
 欲しいものは…、と公園をスキップしながら、あれこれと頭の中でリストアップ。カラオケ用のマイクもいいし、土鍋もいいし…、と欲望がどんどん膨らんでゆく。「何がいいかな?」と。
(サンタさんなら、大抵のものは用意出来るし…)
 地球に行くのは無理なんだけど、と「貰えないもの」も、もう充分に学習済みだ。本当に欲しい地球の座標や、「大好きなブルーを地球に連れて行く」ための道具は貰えない。
(だから、お願い事は、ぼく用でないと…)
 いつもブルーに言われるもんね、と「自分用」のプレゼントを考えていて、ハタと気が付いた。確かに毎年、サンタクロースに「欲しいもの」を貰っているのだけれども、その前に一つ、難問が「そるじゃぁ・ぶるぅ」を待っている。
(……クリスマスまでは、良い子にしないと……)
 プレゼントは貰えないらしい。悪い子だったら、サンタクロースは、プレゼントの代わりに鞭を一本置いてゆく。悪い子供を打つための鞭で、他にプレゼントは貰えないから…。
(毎年、クリスマスの前は、悪戯を我慢しなくちゃ駄目で…)
 それがとっても辛いんだっけ、とフウと溜息をついたはずみに、素晴らしいアイデアが閃いた。このプレゼントさえゲット出来れば、色々なことを一気に解決出来るだろう。我慢なんかは、もうしなくていい、最高の日々が手に入る。ブルーを地球まで連れてゆくことも、頑張り次第で…。
(出来ちゃいそう、って気がしてきたよ!)
 これに決めた、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は駆け出して行って、小さなツリーの側まで行った。クリスマス・ツリーにそっくりだけれど、「お願いツリー」と呼ばれるツリー。そちらも、船では大人気。欲しいプレゼントを書いたカードを吊るせば、クリスマスに貰える仕組みになっている。
(大人だったら、大好きな人のカードを見付けて、プレゼントしたり…)
 船のクルーがクリスマスの日に届けたり、という形だけれども、子供の場合はサンタクロース。シャングリラにもサンタクロースはやって来る。カードを参考にプレゼントを選ぶのだそうだ。
(よーし…!)
 これだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はカードに願い事を書き込み、背伸びして、一番目立つ所に吊るした。「サンタさん、今年はこれでお願い!」と、頭を下げるのも忘れない。これで、今年は大丈夫、と自信満々、「夢は大きく持たなくっちゃ!」と御機嫌で。



(来年からは、ぼくは、良い子になるんだよ!)
 サンタさんが叶えてくれるもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は跳ねてゆく。それは、とびきり大きな夢。これで自分が「良い子」になったら、悪戯なんかはしなくなる。「したくなくなる」と言うべきだろうか。良い子は悪戯しないものだし、それが普通で、我慢なんかはしないから。
(悪戯しないなら、船のみんなも大喜びで、盗まなくても、おやつをくれて…)
 何処のセクションに遊びに行っても、きっと歓迎してくれる。リサイタルに招待したって、誰も嫌な顔なんかしないで、熱狂的に叫んで、拍手してくれて…。
(サイン会とか、握手会とか…)
 そういったことも、出来る日が来るに違いない。良い子だったら、ファンだって増える。
(…それから、ぼくが良い子だったら、勉強とかも頑張って…)
 地球の座標を探し当てたり、タイプ・ブルーの力を活かして、ブルーと一緒に地球への道を切り開いたりと、不可能を可能にすることも出来る。「ブルーを地球まで連れてゆく」夢、どうしても叶えたい願いを叶えて、いつか二人で地球に行くためにも…。
(…サンタさん、ぼくを良い子にしてね!)
 良い子になったら頑張るから、とウキウキ、ワクワク。「悪戯を我慢は今年でおしまい!」と、来年のクリスマス・シーズンを思い描いて、「良い子」の自分を想像して胸を弾ませる。
 「来年の今頃は、地球の座標が分かってるかも!」と、大きな夢を心に広げて、大満足。今年のプレゼントを貰いさえすれば、来年からは「良い子」の自分がいるに決まっているのだから。
(良い子になって、頑張るんだも~ん!)
 船のみんなも喜ぶもんね、と「いいことずくめ」のプレゼントが手に入る日が待ち遠しい。あと何日でクリスマスなのか、指を折って数えて、「待っててねーっ!」と、出会った仲間たちに声を掛けながら船の通路を部屋へ向かった。「ぼくは、良い子になるんだから!」と、胸を張って。



 プレゼントを頼んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、最高の気分で部屋に戻ったけれども、船の仲間たちの方は違った。通路で出会った者たちは皆、とんでもない不安を抱いて顔を見合わせる。
「おい、聞いたか? さっきの台詞を…?」
「待っててねーっ、だよな? 今のシーズン、あいつは悪戯しない筈だが…」
「クリスマスの後のことじゃないのか? 「覚えてろよ」といった感じで」
「有り得るなあ…。我慢した分、纏めてドカンとやらかすぞ、と…」
 きっとソレだな、と誰もが震え上がる中で、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が吊るしておいたカードが発見された。お願いツリーの天辺に近い、一番目立つ場所に吊るされたカードには…。
「「「…良い子になれる薬か、土鍋を下さい…?」」」
 何なんだ、と船の仲間たちは目を剥いたけれど、願い事の中身は「とても嬉しいこと」だった。悪戯小僧が良い子になるなら、こんな嬉しいことはない。是非とも願いは叶って欲しいし、叶えるための薬や土鍋を、クリスマスまでに…。
「絶対、作って欲しいよなあ?」
「ヒルマン教授なら、きっと作れるだろう」
「土鍋だったら、ゼル機関長の方じゃないのか?」
「とにかく、頑張って欲しいよな! 徹夜仕事になるんだったら、差し入れするぞ!」
 それに手伝えることは手伝う、と仲間たちは大いに盛り上がった。「良い子になる薬」や「良い子になる土鍋」を作るためなら、差し入れも手伝いも、何だってする、と。
 噂はアッと言う間に広まり、その日の間に、ヒルマンもゼルも、「頑張って下さいね!」と激励されて、意味が分からずに首を捻ったり、聞き返したりする羽目に陥った。そんな彼らが、やっと青の間に出掛けて行って報告したのは、一日の仕事が終わってからになったけれども…。



「ソルジャー、えらいことになっておるぞ」
 ゼルが言うなり、ブルーは「うん」と頷いた。「まあ、座りたまえ」と炬燵を指差し、ブルーは長老たちとキャプテンに、ほうじ茶と籠に盛られた蜜柑を勧める。
「ぶるぅが買って来た蜜柑なんだけど、美味しいよ」
「それどころではないと思うんじゃが…!」
 良い子になれる土鍋なんじゃぞ、とゼルが髭を引っ張りながら唸った。ヒルマンも難しい表情をして、「良い子になる薬と言われてもねえ…」と溜息を零す。
「土鍋も薬も、やってやれないことはないとは思うんだがね…」
「ええ、人類の真似をしたなら出来るでしょうね」
 出来るのですが…、とエラも全く乗り気ではなく、ブラウが「そうさ」と相槌を打った。
「あいつらの真似をして、どうするんだい? あたしたちはミュウだっていうのにさ」
「其処なのだよ。記憶の書き換えをするのが土鍋で、薬はそのための睡眠薬といった所か」
 出来なくはないだけに困ったものだ、とヒルマンの顔色は全く冴えない。「このミュウの船で、人類の真似をすることだけは避けたいのだが」と、深い苦悩が額の皺に刻まれている。仲間たちが望んでいると言っても、それをやるのは頂けない、とヒルマンは皆を見回した。
「ぶるぅの願い事には違いないのだが…。プレゼントしたい者はいるかね?」
「あたしたちの中にはいないね、船には溢れているんだけどさ」
「キャプテンとして、彼らを説得したいものだが…」
 考えただけで胃が痛くなる、とハーレイが眉間の皺を揉む。「あんなに喜んでいる仲間たちに、それは駄目だと言うのは辛い」と、キャプテンならではの板挟み状態がハーレイだった。
「…分かるよ、皆が言いたいことはね」
 ぶるぅは、今のままでいいと思うんだ、とブルーが口を開いた。「悪戯小僧で、仲間たちを毎日困らせていても、それがぶるぅという子だから」と、ブルーは続ける。「あのままでいい」と。
「しかし、ソルジャー…。仲間たちの希望は、どうなさるのです?」
 叶えられた気になっていますよ、とハーレイが訊くと、ブルーは「それは任せてくれたまえ」と微笑んだ。
「大丈夫。今から、みんなに思念で伝える。君たちや、ぼくが思っていることをね」
 ぶるぅは、ぐっすり眠っているから…、とブルーは思念で船の仲間たちに、直ぐに伝えた。皆の望みは分かるけれども、それをするのは「人類と同じこと」だから、と。記憶を操作する者たちと同じになっては駄目だと、「どんな異分子でも、認めてこそだよ」と、心をこめて。
 船の仲間たちは、とても残念に思いながらも、心の底から納得した。「確かにそうだ」と。



 こうして「そるじゃぁ・ぶるぅ」の願い事は却下となって、ブルーは、翌日、彼を青の間に呼び出した。「今年の願い事は、駄目だよ」と、クスクス可笑しそうに笑いながら。
「えっ、どうして…?」
 どうして駄目なの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は瞳を真ん丸にして驚いた。良い子になるのは、とてもいいことの筈だというのに、どうしてブルーは止めるのだろう、と。
「それはね、ぶるぅ…。良い子というのは、自分で努力してなるものだから…」
 薬や土鍋に頼った場合は、困ったことになってしまうよ、とブルーは説明し始めた。土鍋や薬は良い子になろうとする子の努力を、助けるための道具だから、と。
「いいかい、良薬は口に苦しと言ってね…。悪い子になった時には、うんと苦い薬を飲むんだ」
「…良い子になる薬を?」
「そう。とても苦くて、おやつも食事も、丸一日くらい食べられないかも…」
「ええ…?」
 そんな薬なの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は青くなる。「それ、酷くない?」と震えながら。
「でもね、多分そうだと思うよ。努力するのは、ぶるぅなんだから」
 良い子にしていれば、飲む必要は全く無いんだからね、とブルーは笑う。良い子になれる薬は、「飲まなくて済むように暮らさなくちゃ」と思う苦さで、懲りて良い子になる仕組み、と。
「じゃ、じゃあ…。良い子になれる土鍋は、どんなヤツなの?」
「努力するための土鍋だからねえ、悪い子だったら、飛んで来て、ぶるぅを閉じ込めて…」
 反省するまで、丸一日ほど、蓋が開かなくなるんじゃないかな、とブルーは肩を竦めてみせた。「お腹が空いても出られないよ」と、「もちろん、外から差し入れも無理」と。
「そ、そんなの、困る! 丸一日も閉じ込められて、何も食べられないなんて…!」
 酷いよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は叫んだけれども、ブルーは「良い子は、自分で努力をするものだよ」とクックッと笑い続けるだけ。「土鍋も薬も、そのための道具なんだからね」と。
「嫌だよ、そんなの欲しくないってば…! お薬とかで、簡単にパッと変われないんなら…」
 良い子になんかなりたくなーい! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は悲鳴を上げて、願い事を書いたカードを回収することにした。ブルーが言った通りの土鍋や、薬を貰っては堪らないから。
(…いいアイデアだと思ったのに…)
 今年も普通のお願い事しかないみたい、とカードを回収、代わりの願い事を書く。ごく平凡に、「最先端のカラオケマイクを下さい」と。



 それからの日々は順調に流れ、やがて迎えたクリスマス・イブ。
 例年通り、ハーレイがサンタクロースの衣装で、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋にプレゼントを届けに出掛けた。カラオケマイクの他にも色々、プレゼントの詰まった袋を背負って。
(よしよし、罠を仕掛けたりはしていないな)
 良い子になった「ぶるぅ」も見たいものだが…、と苦笑しながら、ハーレイはプレゼントを床に並べてゆく。「だが、そんなのは、ぶるぅじゃないな」と、「悪戯小僧に慣れたしなあ…」と。
(船の仲間たちも、人類の真似をしたりするより、ぶるぅの悪戯に、だ…)
 振り回されてる方がよっぽどいいさ、とキャプテンの立場でも、ハーレイの思いは変わらない。「なあに、皆が困らされた時は私の出番だ」と、「現に今だって、サンタクロースだぞ」と自分の役目と責任を果たす信念を心で噛み締め、「やってやるさ」と決意を新たにする。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」がシャングリラを悪戯で振り回すのなら、キャプテンの自分は、それを全力で片付けて回って、皆の盾になって悪戯小僧と戦うまで。
 噛まれようとも、下手なカラオケを聞かされようとも、「負けてたまるか」と、ハーレイは自分自身に誓いを立てた。シャングリラのキャプテンは他ならぬ自分で、船の平和を守り抜いてこそ。「喧嘩上等、あいつが噛むなら噛んで返すし、下手な歌なら歌って返してやってもいい」と。
(そのためにも、口を鍛えるかな)
 噛み返すには丈夫な歯と顎、カラオケには舌が欠かせない。既に充分、頑丈な顎を、もっと強く鍛え上げて「そるじゃぁ・ぶるぅ」と勝負。噛まれたら噛んで、勝ちを収めてこそのキャプテン。皆も頼もしく思うだろうから、口の運動を頑張ろう、とハーレイの決意は固かった。
(元々、いかつい顔なんだ。今よりゴツくなった所で、誰も文句は言わないだろうさ)
 ソルジャーの顔じゃないんだからな、と自分の顎を指でトントンと叩く。ぐっすり寝ている悪戯小僧の方に向かって、「かかってこいやあ!」と言わんばかりの笑みを浮かべて。



 幸い、その夜、「そるじゃぁ・ぶるぅ」とキャプテンのバトルは起こらなかった。
 クリスマスの朝が明けた途端に、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はガバッと飛び起き、床に並べられたプレゼントの箱を見付けて大歓声。
「やったあ、これ、欲しかったカラオケマイク! それに、こっちは…」
 これも、これも、と次から次へとリボンを解いて、包装を開けて、嬉しくなって跳ね回る。悪戯したい気持ちを抑えて頑張ったのが、ちゃんと報われた気分は最高だった。
 ピョンピョン跳ねて、まずは一曲、とカラオケマイクを握った所へ…。
『『『ハッピーバースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!!!』』』
 船の仲間たちの思念が届いて、ブルーの思念も飛んで来た。
『ぶるぅ、お誕生日おめでとう。公園においで、大きなケーキが出来ているから』
「わぁーい、ケーキだぁーっ!」
 今年のケーキも、とっても凄い! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は瞬間移動で公園へジャンプして飛び込んでゆく。大きなケーキに突っ込みそうな勢いで、カラオケマイクを持って。
「ブルー、ありがとーっ! ねえねえ、カラオケ、歌ってもいい!?」
「お誕生日だしね、もちろんいいとも」
 みんなも喜んで聞いてくれるよ、とブルーが微笑み、ハーレイがそっと顎に手をやる。「鍛える前に、もう来やがったか…」と、彼が溜息をついたかどうかは、また別のお話。
 良い子にはならなかったけれども、「そるじゃぁ・ぶるぅ」、今年も、お誕生日おめでとう!



           良い子になる薬・了


※「そるじゃぁ・ぶるぅ」お誕生日記念創作、読んで下さってありがとうございます。
 管理人の創作の原点だった「ぶるぅ」、いなくなってから、もう4年になります。
 出会いは2007年の11月末、其処から始まった創作人生。まさか此処まで続くとは…。
 良い子の「ぶるぅ」は現役ですけど、悪戯小僧の「ぶるぅ」も大好きな管理人。
 お誕生日のクリスマスには、毎年、必ず記念創作。今年もきちんと書きました。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、15歳のお誕生日、おめでとう!
 2007年のクリスマスに、満1歳を迎えましたから、14年目の今年は15歳です。
 SD体制の世界だったら、もう、ステーション在籍ですねえ、追い出されそうv

※過去のお誕生日創作は、下のバナーからどうぞです。
 お誕生日とは無関係ですけど、ブルー生存EDなんかもあるようです(笑)










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