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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

夢の同窓会
(同窓会のお知らせ…)
 パパにだ、とブルーが眺めた葉書。学校から帰って、おやつの時間に。
 ダイニングのテーブルに置いてあった葉書。他の郵便物と一緒に。ふと目に留まったから、手を伸ばして取ってみたのだけれど。
 同窓会という言葉に引かれて、読んでみようと興味津々だったのだけれど。
(泊まり付き…)
 なんだか凄い、と見詰めてしまった。何処かに集まるというだけではなかった、同窓会の中身。皆で食事をするのはもちろん、ホテルで一泊するらしい。其処から観光にも出掛けて行って。
(同窓会って言うより、旅行みたい…)
 サマーキャンプとか、そんな感じの。学校の友達と泊まるのだったら、そういうイベント。
 同窓会という言葉で思い付くのとは、まるで違った父の学校の同窓会。チビの自分は、同窓会はまだ無いのだけれども、友達から色々と聞いてはいる。年上の兄弟がいる友達も多いから。
 彼らの話で耳にしていた同窓会は…。
(大人が行くような、レストランとかは高いから…)
 もっと値段が安いお店で開かれている。チビの自分のお小遣いでも、食事が出来るような店。
 上の学校を卒業するような人なら、レストランだと聞いているけれど。父宛の葉書では、泊まり付きということになっているから、もっと高いに違いない。参加費用と旅程は追ってお知らせ。
(空けておいてね、ってことなんだ…)
 同窓会の日程を。費用は出せても、予定が空いていないと参加出来ないから。
 それに泊まり付きだけに、観光の内容を後で詰めたりするのだろう。希望者の多い所にしたり、他に行きたい所は無いかと尋ねたり。行き先次第で費用も変わるし、それは後から。
 とはいえ、子供の自分からすれば豪華な内容。費用は謎でも、高いことだけは確かだから。



 友達に聞いた同窓会だと、お小遣いで行けるような店が会場。父に来た同窓会の葉書は、泊まり付きで食事に観光まで。
(大人はお小遣いが多いからだよね?)
 上の学校を卒業するような年の人だと、同窓会の会場はレストラン。父は遥かに年上なのだし、こういう風になるのだろう。同じ食事でも、ホテルに泊まって観光も、と。
 きっとそうだ、と葉書を見ながら考えていたら、入って来た母。
「あら、見てるの?」
 パパに来た葉書。…まだ先だけれど、パパも喜ぶわ、きっと。懐かしいお友達に会えるから。
 前にあったのは何年前だったかしらね、この学校のは。
「同窓会…。大人のは凄いね、子供のよりもずっと」
 ホントに凄い、と葉書を母の方へと向けたのだけれど、母はキョトンとした表情。
「凄いって、何が?」
 普通の葉書よ、いつかブルーにも葉書が来ると思うけど?
 子供同士の同窓会でも、連絡は葉書の筈だから。これと同じで会場を書いて。
「それは知ってるけど…。友達から色々聞いているから。…凄いって言うのは中身だよ」
 泊まり付きで、それに観光もついているんでしょ、これ?
 同窓会って、子供だったら食事だけなのに…。今の学校の生徒がやるなら、うんと安いお店。
 大人の同窓会は凄いよ、お小遣いが多いと中身も凄くなるんだね。
 ビックリしちゃった、と葉書を指差したら。
「ああ、それはね…。お小遣いとは関係無いのよ」
 大人がやってる同窓会なら、何処でもそんな風になるわね、と教えて貰った。
 父くらいの年になった大人は、仕事や結婚、自分の好みなどで引越しする人が多い。あちこちの地域や、地球を離れて他の星へと。ソル太陽系とは違う星系にだって。
 様々な場所に散っているから、同窓会をやるなら泊まり付き。
 ホテルに一泊している分だけ、長くなるのが同窓会の時間。食事だけで終わりの会よりも。
 開催時間が長くなったら、何処かで都合がつく可能性が上がるもの。一日目はどうしても無理な人でも、二日目なら出られそうだとか。泊まるだけなら、なんとかなるとか。



 お小遣いの額とは関係無い、と母が話してくれたこと。みんなが集まりやすいようにと、泊まり付きになっている同窓会。大人になったら、住む場所が宇宙に散ってゆくから。
「なんだ、そういう仕組みになっていたわけ?」
 大人だから豪華な同窓会、っていうわけじゃなくて。…その方が集まりやすいから。
 色々な場所で暮らしているなら、直ぐには集まれないものね。子供と違って。
「そうよ。ブルーくらいの年の子供なら、同窓会も簡単だけど…」
 遠い所に引越す友達、滅多に無いでしょ。だから食事で充分なのよ。短い時間で集まれるから。
 だけど大人は、うんと離れた星に引越す人も多いし…。
 同窓会は泊まり付きにするのが普通ね、何処の学校でも。そういう年になったなら。
 いつかはブルーも、こんな同窓会に出る日が来るわよ。
「…ぼくも?」
「もちろんよ。今よりもずっと大きくなったら」
 そしたら、こういう葉書が届くわ。同窓会のお知らせの葉書。泊まり付きのね。
 一番最初の同窓会なら、お嫁さんも連れて行かなくちゃ。
「お嫁さん?」
 なんで、と首を傾げたけれども、「そういうものよ」と微笑んだ母。
「此処に書いてあるでしょ、奥さんもどうぞご一緒に、って」
 ママも行ったわ、ずっと前にね。…ブルーが生まれていなかった頃に。
 遠い星とか、離れた地域から来る人だったら、同窓会のついでに家族旅行をする人もいるの。
 子供連れで来る人もいるのよ、子供は子供同士で遊べるようにしてあるから。
 一番最初の同窓会だと、お嫁さんを連れて行く人が殆どかしら。…自慢のお嫁さんだもの。
 だからブルーも、いつかはね。
 ブルーの自慢のお嫁さんを連れて、同窓会に行かないと。
「そうなんだ…」
 お嫁さん、連れて行くものなんだね、大人が出掛ける同窓会は。
 ママも行ったんなら、ぼくが行く時も、お嫁さんを連れて行かなくちゃ…。



 分かったよ、と頷いて、おやつの後で帰った二階の自分の部屋。
 勉強机に頬杖をついて、母から聞いた同窓会のことを考えてみた。大人になった後の同窓会。
 きっと友達は、あちこちに散っているのだろう。他の地域や、他の星などに。仕事や、好みや、様々な事情で散らばってしまった、暮らしている場所。
 離れ離れになった仲間が集まるためには、父に来ていた葉書のような泊まり付きで行く同窓会。奥さんや子供を連れて出掛ける人も。
(ぼくだと、ハーレイを連れて行くわけ?)
 お嫁さんではないけれど。…お嫁さんは自分の方なのだけれど。
 一番最初の同窓会には、ハーレイを連れて。
 せっかくホテルに泊まるのだから、最初だけでなくて、その次だって。同窓会がある度に。
 みんなにハーレイを自慢すると言うより、一緒に泊まって、観光だってしてみたいから。
(ハーレイの同窓会だって…)
 連れて行って欲しいんだけど、と夢を描いていて思い出したこと。前にハーレイと約束をした。同窓会ではないけれど…。
(OB会…!)
 ハーレイが通っていた学校の、柔道部員たちのOB会。彼らも宇宙に散っているだろうけれど、今もこの地域に住んでいる人たちが集まる会。それに自分も行けるのだった。
(豚汁作り…)
 柔道部で頑張る後輩たちにと、ハーレイたちが作る豚汁。学校に集まって、大きな鍋で。自慢の味のを、グツグツと煮て。
 それをハーレイが作りに行く時、連れて行って貰えるという約束。豚汁作りに行けるのならば、泊まり付きの同窓会だって…。
(行けるよね?)
 きっと、と胸を躍らせていたら、聞こえたチャイム。窓に駆け寄って庭の向こうを眺めると…。
 門扉の向こうで手を振るハーレイ。手を振り返しながら、弾んだ心。
(同窓会のこと…)
 訊かなくっちゃ、と。連れて行って貰える筈だものね、と。



 ハーレイが部屋に来るのを待って、お茶とお菓子が置かれたテーブルを挟んで向かい合うなり、もうワクワクと切り出した。同窓会、と胸を弾ませて。
「あのね、同窓会…。連れてってくれる?」
「はあ?」
 何の話だ、と瞬く鳶色の瞳。「同窓会がどうかしたのか?」と。
「えっとね…。同窓会だよ、ハーレイにだって葉書、来るでしょ?」
 こういう葉書、と父に届いた案内のことを説明した。ホテルに泊まっての同窓会。母に教わった知識も一緒に披露して。ホテルに泊まっての同窓会になる理由。
 大人の同窓会がそうなら、ぼくもハーレイと一緒に行ってもいいの、と。
「そういうことか…。そりゃまあ、なあ…?」
 美人の嫁さんは自慢しないと。もちろん一緒に連れて行ってな。
 俺の友達もきっと驚くぞ。凄い美人だし、しかもお前はそれだけじゃないし…。
「男だから?」
 お嫁さんって言っても女の人とは違うから…。やっぱりビックリされるよね。
 ハーレイのお嫁さんが男だなんて、って、みんなビックリ仰天で。
「いいや、そいつは誰も気にしやしないだろう。なんたって、俺の嫁さんなんだ」
 俺が選んだ嫁さんだしなあ、男だろうが、女だろうが、細かいことはいいってな。
 やっとお前も結婚したか、と肩を叩いて祝福だ。「結婚出来ないと思っていたぞ」と言うヤツも出て来たりして。
 男だというのは大したことじゃないんだが…。問題はお前の姿だな。
 俺の嫁さんになってる頃には、何処から見たってソルジャー・ブルーそのものだぞ?
 でもって、俺はキャプテン・ハーレイそっくりなわけで…。
 その俺が連れて来た嫁さんがソルジャー・ブルーに瓜二つとなったら、どうなると思う?
「んーと…。みんな、とってもビックリしそう…」
 男同士のカップルなことより、組み合わせがちょっと凄すぎるから…。
 キャプテン・ハーレイにそっくりなハーレイのお嫁さんが、ソルジャー・ブルーだなんて…。



 本物のソルジャー・ブルーじゃなくても、誰でもビックリ、と思い浮かべた光景。
 ハーレイの学校の同窓会に一緒に出掛けて行ったら、きっと注目の的だろう。ソルジャーの服を着ていなくても。…ごくごく普通の服装でも。
 今のハーレイは、前のハーレイにそっくりだから。それに自分も、前の自分と同じ姿に育つ筈。
 そんな二人がカップルだったら、結婚したとなったなら…。
「ハーレイの友達にもビックリされそうだけれど、それだけじゃなくて…」
 前のぼくたち、みんなに誤解されそうだね。本当は恋人同士だったのかも、って。
 …本物のキャプテン・ハーレイと、ソルジャー・ブルー。
「そっちが本当のことなんだが…。前の俺たちは、恋人同士だったというのが」
 しかし、今の俺たちが正体を明かしていないからには、誤解でしかないな。
 そっくりなカップルが現れたから、というだけで生まれちまった誤解。
 根も葉もない噂話ってヤツだが、さぞかし盛り上がることだろうさ。…その同窓会。
 歴史の真実を発見だとか、まるで根拠の無い話でな。
「ぼくもそう思う…。本当は当たっているんだけれど…」
 何の証拠も残ってないしね、前のぼくたちが恋人同士だったってこと。
 ハーレイは航宙日誌に書いていないし、前のぼくだって何も残していないから…。
 どう考えても、誤解で間違い。…ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイは恋人同士、っていう説は。研究者に言ったら、笑われちゃう。
 だけど、話の種にするには面白いから…。
 ハーレイがぼくを連れて行ったら、同窓会の話題、それで決まりだね。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイは、本当は恋人同士でした、っていう新説。



 賑やかだろう同窓会。いつかハーレイが、一緒に連れて行ってくれたら。
 ホテルに泊まって食事に観光、その間に何度も注目されては大騒ぎ。平和な時代を作った英雄、ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ。
 歴史の授業で必ず教わる、あの二人は恋人同士だったらしい、と無責任すぎる噂話で。ワイワイ騒いで、写真なんかも撮られたりして。
(もっとソルジャー・ブルーらしく、って注文されたりするのかな?)
 今の自分と前の自分は、表情がまるで違うだろうから。同じ姿でも、表情で印象が変わるから。
 ハーレイと二人で並んで立って、注文通りの表情とポーズ。
 服装は全く違っていたって、ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイらしく、と注文されて撮られる写真。何枚も何枚も、ポーズを変えて。
(友達に見せて驚かせるんだ、って撮るよね、きっと…)
 同窓会に行って来たお土産と一緒に、披露されそうなハーレイとの写真。
 地球のあちこちや、色々な星に運ばれて。「こんなカップルに会って来た」と。
 研究者も知らない大発見だ、と語られるソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイの仲。
 実は恋人同士だったと、証拠が此処に、と出してみせる写真。
 見せられた人は驚くだろうし、「本当なのか」と訊きそうだけれど…。
(冗談だ、って…)
 そう結ばれるだろう、同窓会の土産話。
 ただの他人の空似だと。それでもとても似ているだろうと、会心の出来の写真なのだ、と。



 同窓会が終わった後にも、話題になりそうなハーレイと自分。前の自分たちにそっくりだから。誰が見たって、ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイなのだから。
(…中身、本当は本物だしね?)
 誰も知らないだけだもんね、と考えていたら、掠めた思い。
 今の時代は同窓会があるのだけれども、前の自分たちの同窓会が出来たなら、と。
 遠く遥かな時の彼方で、白いシャングリラで共に暮らした仲間たち。ヒルマンやゼルや、エラやブラウや。…それにジョミーも、トォニィたちも。
 もう一度彼らと顔を合わせて、ホテルに泊まって、観光だって。
 それが出来たら、きっと素敵に違いない。今の平和な時代だからこそ、やってみたいこと。
「ねえ、ハーレイ…。同窓会、したいと思わない?」
 出来たらいいね、と言葉にしたら、ハーレイは怪訝そうな顔。
「同窓会なら、勝手に葉書が来ると思うが?」
 俺は幹事をやってないから、次はいつだか知らないが…。任せっ放しで。
 好きなヤツがいるんだ、そういうのがな。ホテルの手配とか、観光プランを立てるのとかが。
「違うよ、今のハーレイじゃなくて…」
 前のぼくたちだよ、同窓会をしたいのは。…前のぼくたちの同窓会。
「なんだそりゃ?」
 サッパリ意味が分からないんだが、前の俺たちっていうのは何だ?
 お前がやりたい同窓会は、どういう同窓会なんだ…?
「…無理だろうけど、夢の同窓会…」
 前のぼくたちが一緒に暮らした、シャングリラの仲間を集めるんだよ。
 ゼルもヒルマンも、ブラウもエラも。…ジョミーも、それにトォニィたちもね。
 葉書を出して、ホテルに泊まって、みんなで観光。
 食事も一緒で泊まるのも一緒、もちろん会場は地球でなくっちゃ。…前のぼくたちが目指してた星で、今はすっかり青いんだもの。前のぼくたちが生きた時代と違って。



 青い地球の上で、皆が集まる同窓会。白いシャングリラはもう無いけれど。
「みんなが生まれ変わって来てたら、出来そうだよね、って…」
 ぼくたちみたいに、ちゃんと記憶を持って。…出会えて、それに連絡も取れて。
 全員に葉書を出せるんだったら、同窓会だって出来るでしょ?
「なるほどなあ…。あいつらを全員、地球に集めて、同窓会をしようってことか」
 そいつはさぞかし愉快だろうな。懐かしいヤツらが勢揃いする、と。
 でもって、俺はお前を連れて出席するわけか…。
 俺の嫁さんになったお前を、あいつらに紹介するために。
「そう!」
 だから今だと、まだ早すぎて駄目だよね。…ぼくがチビだから。
 前と同じに育ってからだよ、同窓会をするんなら。
 ハーレイと結婚して、お嫁さんになってから。…二人一緒に同窓会に出掛けて行って…。
 それでね、とハーレイに話した夢。
 同窓会の席で、「実は…」と打ち明ける、時の彼方での昔話。
 今はこうして恋仲だけれど、本当は前もそうだった、と。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイは恋人同士で、最後まで恋をしていたのだと。
 前の自分たちは誰にも言えずに終わったけれども、今ならきっと、笑って許して貰えるだろう。
 ブラウあたりが「そうだったのかい!?」と、目を丸くしていそうだけれど。
 ゼルやヒルマンも、「知らなかった」とポカンとするかもしれないけれど。
 それでも、今なら笑い話。ずっと隠していた恋は。
 前の自分も、それにハーレイも、役目はきちんと果たしたのだし、責められもせずに。
 最後まで隠し続けたことさえ、裏切りだったとは言われないで。



 叱られないと思うんだけど、と傾げた首。「大丈夫だよね?」と。
「…同窓会をするんだったら、みんなに話しておきたいから…。本当のことを」
 今度は結婚しているんだもの、前もホントは恋人同士だったんだ、って。
 きっと叱られないと思うよ、前のぼくたち、自分の仕事は全部きちんとやったんだもの。
「そうだな、叱られはしないだろうな」
 叱る理由が見付からないしな、特にお前は。…メギドを沈めて皆を守ってくれたんだから。
 恋人だった俺と離れて、独りぼっちで死んじまう羽目になったって。
 …しかしだ、俺はお前ほど頑張ったというわけじゃないしな…。
 死んだ時にもヒルマンもゼルも一緒だったし、お前のようにはいきそうにない。
 恋をして幸せだったとバレたら、詫びの印に何かさせられそうではある。
 なんたって相手は、あいつらだからな。
「何かって…?」
 お詫びの印って、ハーレイ、何をさせられちゃうの?
 叱られないけど、「すみませんでした」って何十回も言わせられるとか…?
「子供の同窓会じゃないんだ、もっとみんなが喜ぶことだ」
 みんなに酒をおごらされるとか、そんなトコだな。それもとびきり上等の酒を。
 きっとゼル辺りが音頭を取るんだ、「ハーレイのおごりだ、大いに飲め」と調子に乗って。
 酒を運んでくれる係に言いそうだよなあ、「いいから、樽ごと持って来い」と。
「ありそうだよね…」
 樽ってお酒の入った樽でしょ、ゼルならホントに運ばせそう。
 ハーレイのお財布、きっと大打撃だろうけれど…。
 それでも、みんなが楽しめるんなら、ぼくは文句は言わないよ?
 前のぼくたちが恋人同士だったってことを隠してた罰に、お酒をおごらされるんだから…。
 ごめんなさい、って謝る代わりに、美味しいお酒を御馳走すればいいんだから。
 ハーレイのお財布が空っぽになっても、ぼくなら平気。
 暫くの間は、うんと質素な食事ばかりになっちゃってもね。



 ホントに平気、と思った夢の同窓会。前のハーレイとの恋を明かした結果が、ハーレイの財布に大きな打撃を与えても。同窓会が終わった後には、質素な食事の日々が続いても。
「ぼくは平気だから、ハーレイ、みんなにお酒をおごってあげてね」
 お財布が空になっちゃっても。…御飯、毎日、おにぎりだけになっちゃっても。
「…お前なあ…。本当にそんな食事でいいのか、腹が減っちまうぞ?」
 いくら少ししか食わないと言っても、おにぎりではなあ…。
「平気だってば、みんなが楽しんでくれるんならね」
 それに素敵だよ、もう一度みんなに会えるなら。…御飯がおにぎりだけになっても。
 きっと楽しいから、ホントに平気。だって、みんなに会えるんだよ?
 それに会場は地球だもの。前のぼくたちの夢の星だよ、其処で同窓会っていうだけで素敵。
 そうだ、同窓会…。キースたちも呼べたらいいのにね。
「キースだって!?」
 なんだってあいつを呼ばなきゃならん?
 俺たちだけで楽しくやるのならいいが、キースなんかを呼んでどうする。
 前のお前に何をしたヤツか、お前も覚えている筈だがな…?
「今だからこそだよ、キースを呼ぶのは」
 ジョミーとは話が合う筈だものね、トォニィがちゃんと聞いたんでしょ?
 一緒に戦った仲間だった、っていう話。ジョミーとキースは、最後は友達だったんだよ。
 だからジョミーはキースに会えたら喜ぶし…。
 ハーレイだって、きっと仲良く喧嘩出来るよ、今の時代なら。
 お詫びの印に何かやれ、って言って、キースにお酒をおごらせるとか。
「そう来たか…。詫びの印か」
 俺はゼルたちに酒をしこたま飲まれて、財布が空になりかねないって所だが…。
 その俺はキースにおごらせるんだな、もっといい酒を飲ませろ、と。



 痛快ではあるな、と笑うハーレイ。
 酒をおごらせてやるのもいいが、一発殴ってやるのもいいか、と。
「生まれ変わりでも、キースはキースだ。…見た目は前と同じだってな」
 それに記憶も持ってるわけだし、殴られたって理解出来るだろう。
 どうして俺に殴られたのか、同窓会で痛い目に遭わされたのか。
「それ、酷くない?」
 いくらキースの記憶があっても、殴るだなんて…。同窓会に来てくれたのに…。
 時間を作って、遠い星から来てくれたのかもしれないのに…。
「そうかもしれんが、一発殴れば、それで清算出来るんだぞ?」
 前のあいつが前のお前にやらかしたことを、きちんとな。…殴られてアザが出来ようが。
 俺の嫁さんを殺そうとした罰だ、そのくらいの詫びはして貰わないと。
「ぼく、生きてるけど…?」
 生きてるからハーレイのお嫁さんだし、一緒に同窓会なんだけど…。
 それでもキースを殴るって言うの、ぼくは死んではいないのに…?
「今のお前は確かに生きてる。…だが、前のお前は死んじまった」
 キースのせいでな。あいつがメギドを持ち出さなければ、前のお前は死んではいない。
 ついでに、あいつは前のお前を何発も撃って、そのせいでお前の右手は冷たく凍えちまって…。
 お前、泣きながら死んだんだろうが、メギドで独りぼっちになって。
 …それでも殴るのは駄目だと言うなら、あいつの右目の周りに丸を描くとするか。
「丸って…?」
「墨でデッカイ丸を描いてやるんだ、お前の右目の仕返しに」
 お前が最後に撃たれた右目。その仕返しだ、とキースの顔にクッキリ描いてやる。
 同窓会にはこの顔で出ろ、と。
「酷すぎない?」
 キース、みんなに笑われちゃうよ。…その墨、簡単には消えないんでしょ?
「当然だろうが。同窓会の間は消えない墨で描いてやらんと意味が無い」
 そんな顔でも、殴られるよりはマシだと俺は思うがな?
 記念写真に写ったキースは、どれも目の周りに墨で描いた丸がついていたって。



 そういうキースと二日も過ごせば、俺もあいつを許せるかもな、とハーレイは言った。
 今もキースが憎い原因、それの一つは直接顔を合わせていたのに殴り損ねたことだから、と。
「…前の俺があいつと出会った時には、前のお前を撃ったことを知らなかったから…」
 メギドを持ち出したヤツではあったが、国家主席には違いない。
 人類側の代表なんだし、過去のことは水に流すべきだ、と思って挨拶しちまった。ミュウを代表する一人としてな。
 あの時、俺が知っていたなら…。確実に殴っていただろう。他のヤツらに止められたって。
 それなのに、俺はそうしなかった。…前のお前がどうなったのかを、全く知らなかったから。
 今の俺が全てを知った時には、あいつは姿を消しちまってた。
 歴史の中の人物になってしまって、殴りたくても、キースは何処にもいなかったってな。
 あいつに仕返し出来さえすればだ、許せる日だって来そうなんだが…。
「そっか…。それじゃ、同窓会、しなくちゃね」
 キースも呼んで、うんと賑やかに。…今はキースはいないけれども。
「同窓会って…。何処でやる気だ?」
 夢の話をしていた筈だぞ、実現するのは無理だと思うが…?
「地球でやるのは無理そうだから…。いつか、天国でやりたいな」
 天国だったらみんな揃いそうだよ、と浮かべた笑み。みんなの記憶もちゃんとあるよね、と。
「それはまた…。ずいぶんと気の長い話だな?」
 お前はたったの十四歳だし、同窓会の開催までには、いったい何年かかるんだ?
「三百年は軽くかかると思うよ。でも、やりたいと思わない?」
 それまでにハーレイのキース嫌いが治っていたら、いいけれど…。
 キースに仕返ししたい気持ちが、消えてくれていたらいいんだけれど…。
「治したいのか、俺のキース嫌いを?」
 俺は治したいとも思っていないし、今もあいつを許すつもりは無いんだが…?
「だって、ハーレイの心の傷だよ?」
 ぼくが生きていても、キースを許せないほどの。…それは心の傷でしょ、ハーレイ?
 だから治してあげたいんだよ。その傷が出来てしまったの、ぼくのせいだから…。



 前のぼくが撃たれていなかったなら、と見詰めたハーレイの鳶色の瞳。
 聖痕が今のハーレイに真実を教えてしまった。前の自分がどうなったのか。キースの銃で何発も撃たれて、右の瞳まで砕かれたこと。…痛みのあまりに、ハーレイの温もりを失くしたことも。
 メギドで死んだだけだったならば、ハーレイはキースを今ほど憎みはしなかったろう。キースの生まれ変わりに会っても、殴りたいと思うくらいには。
「…ぼくのせいだよ、ハーレイがキースを大嫌いなのは…。それじゃ辛いよ、ハーレイが」
 いつまで経っても憎んでるなんて、ハーレイの心は痛いまま。…心の傷が開いたまま。
 傷から流れる血も止まらないし、その傷、ちゃんと塞がなくっちゃ。
 ハーレイがキースの名前を聞いても、心が痛み出さないように。
 …だけど、目の周りに丸を描いてやる、って言える程度には傷がマシになったの?
 キースを殴れないんだったら、右目の周りに丸だ、って。
「どうなんだか…。殴るのは酷い、とお前が言うから、別の手段を考えたまでだが…」
 同窓会も愉快ではある、と思ったことは確かだな。
 目の周りに丸を描かれたキースを晒し者にして、記念写真が撮れるなら。
「それなら少しずつ治ってるかもね、ハーレイの傷」
 きちんと治して欲しいよ、それ。…辛いのはハーレイなんだから。
 ぼくはキースを憎んでないのに、ハーレイだけが憎み続けるなんて…。辛い思いをするなんて。
 そんなの駄目だよ、治さなくっちゃ。
 心の傷を綺麗に治して、痛まないようにしなくっちゃ…。



 キースの話も笑って出来るくらいになって、と心の底から願ったこと。
 今のままでは、ハーレイが辛いだけだから。キースを憎み続けたままでは、ハーレイの心の傷が治りはしないから。
 傷からは血が流れ出すのに。…血を流す傷は痛むのに。
「…ホントだよ、ハーレイ? キースが嫌いだと、辛い思いをするのはハーレイなんだから…」
 ぼくはとっくに許しているのに、ハーレイは許せないなんて…。
 キースが嫌いで憎いままだなんて、それはホントに、ハーレイが辛いだけだもの…。
「そう言われても…。こればっかりは、そう簡単にはいかないな」
 俺は自分が許せないんだ、どうして気付かなかったのか、と。
 メギドにはキースがいた筈なんだし、お前に何かしたかもしれん、と考えていれば…。
 そうすりゃ、俺はキースに訊いた。「ブルーをどうした」と問い詰めただろう。
 あいつが「知らん」と答えたとしても、訊いてさえいれば…。
 それもしなかった馬鹿が前の俺でだ、その辺りも複雑に絡んでいるのがキース嫌いの原因だ。
 しかし、お前はキースが好きらしいしな?
 憎んでいないこともそうだし、結婚シリーズの夢もあったよな、お前。
 俺の代わりにキースと結婚式を挙げるって夢を、お前、何度か見てた筈だが…?
「それは無しだよ、夢なんだから!」
 寝てる間に見てしまう夢で、コントロールなんか出来ないんだもの…!
 あれはただの夢で、みんなで夢の同窓会をやるにしたって、ぼくはハーレイのお嫁さんだよ!
 キースのお嫁さんになっても、嬉しくもなんともないんだから…!
「俺だってあいつに譲りはしないぞ、お前をな」
 お前は大事な嫁さんなんだし、頼まれたってキースには譲ってやらん。
 土下座しようが、山ほどの宝を積み上げようが。
「ぼくも譲られたって困るよ…!」
 逃げて帰るよ、ハーレイのお嫁さんなんだから…!
 ハーレイが同窓会で飲んだお酒で酔っ払っちゃって、ぼくをあげるってキースに約束しても…!



 絶対に逃げて帰るからね、と誓ったけれども、出来ない夢の同窓会。
 今の地球には、今の時代には、自分たちしかいないから。他の仲間もキースもいなくて、葉書を出すことも出来ないから。「同窓会をやりましょう」と。
 いつか天国でするのだったら、出来そうだけれど。もう一度、みんなで会えそうだけれど。
「…同窓会、みんなでやりたいな…」
 天国でいいから、みんなで会って。…天国だったら、泊まり付きでなくても大丈夫だね。
 みんなの都合も簡単に合うし、きっと楽しい会になりそう。
「おいおい、天国だなんて気の早いことを言う前に、だ…」
 俺と一緒に同窓会に行かないとな?
 キャプテン・ハーレイとソルジャー・ブルーが結婚してる、と俺の友達の度肝を抜きに。
 前の俺たちにも変な噂が立つんだろうが、そいつは根も葉も無い噂だし…。
 それに本当は、噂の方が真実だったというオチだしな?
「行くに決まっているじゃない。…連れてってくれるか訊いたの、ぼくだよ?」
 同窓会にも、OB会にも行くんだよ。ハーレイの友達や、先輩や後輩の人たちに会いに。
 それから、ぼくの同窓会にも来てくれる?
 ママが言ったよ、いつかはぼくにも同窓会のお知らせの葉書が届くんだ、って。
 「お嫁さんと一緒に行くのよ」って、ママは言ってたけれど…。
 ぼくはハーレイのお嫁さんだし、ハーレイと一緒に行くものでしょ?
「もちろん、俺も一緒に行くが…。待てよ、ハーレイ先生が出席しちまうのか?」
 今の学校の同窓会なら、そういうことになっちまうか…。同窓会にハーレイ先生なあ…。
 俺がお前を担任してたら、先生が行っても、少しも変ではないんだが…。
「…ぼくの担任にならなかったら、ハーレイが同窓会に出ていたら、変?」
 ハーレイ、とっても困っちゃう?
 ぼくと一緒に出るのは無理?
「いやまあ…。今だと色々問題もあるが、同窓会なら…」
 お前が学校を卒業したなら、先生も何も無いからな。元はハーレイ先生だとしても、同窓会ではお前の結婚相手ってだけだ。
「なら、決まりだね!」
 ぼくの同窓会に行く時も、ハーレイと一緒。二人で同窓会に行こうね、泊まり付きの。



 約束だよ、と指切りしたから、いつかは二人で同窓会にも出掛けてゆこう。
 ソルジャー・ブルーと、キャプテン・ハーレイなカップルで。
 ハーレイの学校の同窓会にも、チビの自分が卒業した後の同窓会にも。
 きっと何処でも盛り上がるだろう、二人で姿を見せたなら。キャプテン・ハーレイにそっくりなハーレイと、ソルジャー・ブルーにそっくりな自分が結婚したとなったなら。
「お前と二人で同窓会か…。とんだ噂が流れそうだな」
 同窓会に出ていたヤツらが、自分の家に帰ったら。…地球のあちこちや、あちこちの星に。
 俺たちの写真を見せびらかしては、歴史的な発見がどうこうと。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイは、実は恋人同士じゃないか、と冗談で。
 とてつもなく良く出来た冗談なだけに、噂に尾ひれがつきそうだよなあ…。
「噂の方が本当なんだし、いいじゃない」
 本当は恋人同士でした、って噂が宇宙に流れても。
 何の根拠もありませんから、って研究者や学者が怒っててもね。



 それはそれで面白いじゃない、と笑ったけれども、誰も信じはしないだろう。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、前の自分たちの恋のこと。
 遠く遥かな時の彼方で、本物の恋人同士だったこと。
 最後まで二人で隠し続けて、そのまま終わってしまった恋だということは。
 いつか昔の仲間たちを集めて同窓会が出来たとしたなら、その時は信じて貰えそうだけれど。
 「実は恋人同士でした」と二人で明かして、みんなが驚く同窓会。
 そういう同窓会もいい。
 今のハーレイのキース嫌いが治るなら。
 皆で笑い合って、昔を語り合えるのならば。
 今はまだ、夢の同窓会を開けはしないのだけれど。…誰も仲間はいないから。それにキースも。
 だから本物の同窓会に出掛けてゆく。
 いつか結婚したならば。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、そういう姿をしたカップルで…。




          夢の同窓会・了


※同窓会を開くなら、泊まりになるのが大人の世界。他の星や地域に住む人が増えるせいで。
 ハーレイとブルーが一緒に出席したなら、無責任な噂が流れそう。歴史の隠された真実発見。
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