シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
出会いの踏切
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園、今日も平和に事も無し。桜の季節が終わって新年度スタートに伴うドタバタも終了、私たちは今年も不動の1年A組。担任はグレイブ先生です。もうすぐ朝のホームルームが始まりますけど、ここに困った問題が。
「…キース先輩、まだ来ませんよ?」
「変だよなあ…。欠席、昨日までの筈だぜ」
昨日の夜には帰った筈で、とサム君が。
「アレだろ、大学の同期の寺の法要だろ? なんか飛行機で」
「そうみたいねえ、キースの大学、お坊さんの世界じゃエリート大学らしいものね」
全国区で学生が集まるのよね、とスウェナちゃん。
「何処まで行ったんだったかしら? 遠かったわよね、飛行機なほどに」
「電車も通ってはいますけどねえ…」
あそこは流石に飛行機の方が早いですよ、とシロエ君。
「でも、最終便で飛んだとしたって、今日は学校に来る筈ですけど」
「飛行機、飛ばなかったとか?」
そういうこともあるし、とジョミー君が言い、マツカ君も。
「その可能性はありますね。だとしたら今日は欠席ですか…」
「この時間に来てなきゃ、それっぽいよな?」
来ねえもんな、とサム君が教室の扉の方を眺めた所で予鈴がキンコーンと。暫く経ったら本鈴が鳴って、グレイブ先生が靴音も高く現れて。
「諸君、おはよう。…それでは今から出席を取る」
グレイブ先生は順に名を呼び、キース君の所になると。
「キース・アニアン…。欠席だったな」
よし、と名簿をペンで叩いてますから、欠席の連絡があったのでしょう。飛行機、飛ばなかったんでしょうか、そういうケースもありますよねえ?
グレイブ先生はキース君の欠席理由を言わなかったため、飛行機が飛ばなかったんだと思った私たちですが。休み時間に携帯端末を操作していたシロエ君が「えっ?」と。
「なんだよ、どうかしたのかよ?」
サム君の問いに、シロエ君は。
「いえ…。キース先輩が乗る予定だった飛行機、ちゃんと飛んでますよ?」
「「「え?」」」
まさか、と顔を見合わせた私たち。
「最終便は飛んだかもしれねえけどよ、他の便かもしれねえぜ?」
欠航しちまって、最終便も満席で乗れなかったとか、とサム君が意見を述べましたけれど。
「その線は、ぼくも考えました。…でもですね、昨日の便は全部飛んでるんですよ」
定刻通りのフライトです、とシロエ君。
「ついでに、こっちの空港の方も調べましたけど…。せいぜい五分遅れの到着くらいで」
「マジかよ、それじゃキースは飛行機、乗ってねえのかよ?」
「さあ…。帰っては来たのかもしれませんが…」
法要疲れで今日は欠席ということも、とシロエ君は心配そうな顔。
「キース先輩に限って、それだけは無さそうなんですけれど…。それが本当に休みとなったら…」
「相当に具合が悪いってこともあるよね、うん」
風邪は無いだろうけど食あたりとか、とジョミー君が。
「遠い所まで行ったわけだし、法要の他にも観光とかに連れて貰っていそうだし…。珍味だからって何かを食べてさ、あたったとか」
「「「あー…」」」
それはあるかもしれません。地元の人なら慣れた味でも、観光客の舌には合わないというケース。普通だったら「不味い」と残してしまう所を「もったいないから」と食べそうなのがキース君です。無理をして食べて、自分は良くても身体が悲鳴を上げたとか…。
「…やっぱり、食あたりの線でしょうか?」
シロエ君が見回し、スウェナちゃんが。
「風邪よりは、そっちがありそうよねえ…」
「そうですよねえ…。明日は来られるといいんですけど、キース先輩」
早く治るといいですよね、というシロエ君の台詞で、欠席理由は食あたりに決定してしまいました。何を食べたんでしょうか、キース君。早く治るといいんですけど…。
キース君の欠席で一人欠けた面子。とはいえ、法要で一昨日からお休みでしたし、それが一日延びただけ。こんな日もあるさ、と放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ揃って出掛けて行ったんですけど…。
「かみお~ん♪ 授業、お疲れ様!」
「いらっしゃい。キースが一足お先に来てるよ」
「「「えっ!?」」」
なんで、とビックリ、会長さんの言葉通りにソファに座っているキース君。「よっ!」と軽く右手を挙げて。
「すまん、急いで来てみたんだが…。最後の授業の後半に滑り込んでもな…」
無駄に迷惑を掛けるだけだからこっちに来た、とキース君。
「コーヒーだけで待っていたんだ、一人だけ菓子を食うのも悪いし」
「…キース先輩、食あたりだったんじゃないんですか?」
シロエ君が口をパクパクとさせて、キース君は不審そうな顔。
「食あたりだと? 何処からそういう話になったんだ、シロエ」
「え、えっと…。先輩が乗る筈だった飛行機は全部飛んでましたし、欠席となったら食あたりという線じゃないかと…。地元密着型のグルメで」
「そういうものなら御馳走になったが、俺はそんなに腹は弱くない!」
もっとも、まるでハズレというわけでもないが…、とキース君。
「法要の後で食べに行かないか、と誘って貰って車で出掛けた。それが欠席の原因ではある」
「…食あたりとは違うのに…ですか?」
「ああ。美味しく食べて、ちゃんと車で空港まで送って貰ったんだが…。おっと」
菓子が来たか、とキース君が言葉を切って、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「今日はイチゴのジャンボシュークリーム! はい、どうぞ!」
イチゴたっぷりだよ! と配って回られた大きなシュークリームが乗っかったお皿。飲み物の注文も取って貰ってティータイムですけど、キース君の欠席転じて放課後だけ登校って、いったい何があったんでしょう…?
「…実はな、飛行機に間に合わなかったんだ」
最終便に乗り損なった、とキース君はシュークリームを頬張りながら報告を。
「仕方ないから朝一番の便で、と思ったんだが、これが満席で…。次の便にキャンセル待ちで乗れたが、こっちの空港で荷物が出るのが遅れたりして…」
なんだかんだで学校には間に合わなかったんだ、とキース君。そういうケースも想定したため、朝一番で学校に欠席の連絡をしたのだそうで。
「…乗り損なったんですか、最終便…」
まさか空港で転んだとか、とシロエ君が尋ねると。
「いや、そうじゃない。…空港に着いた時には離陸して行く飛行機が見えたな」
俺が乗る筈だったヤツが、ということは…。道が混んでましたか?
「渋滞したらマズイから、と早めに出ては貰ったんだが…。途中で踏切に捕まったんだ!」
「「「踏切?」」」
「そうだ、電車の踏切だ!」
そこで全てが狂ってしまった、とキース君はブツブツと。
「一本通過するだけなんだが、その電車が途中でトラブルらしくて…。閉まった踏切が開いてくれんのだ、信号か何かの関係で!」
「「「あー…」」」
それは不幸な、と誰もが納得。踏切は一つ間違えたら事故になりかねない場所、一度閉まったらそう簡単には開きません。たとえ電車が止まっていても。
「…電車の駅がすぐそこだったら、駅員さんが駆け付けて対応出来るんだろうが…」
「近くに駅が無かったんですか?」
「あるにはあったが、立派な無人駅だったんだ!」
どうにもならん、と頭を振っているキース君。結局、踏切は多くの車を踏切停止に巻き込んだままで閉まり続けて、後ろからは何も知らない車が次々来る始末で。
「…バックで出ようにも、横道に入ろうにも、逃げ場無しでな…」
やっとのことで踏切が開いて、キース君を乗せた同期のお坊さんはスピード違反ギリギリの速度で突っ走ってくれたらしいのですけど、目の前で離陸して行ってしまった最終便。キース君は法要があったお寺に逆戻り、もう一泊して帰って来たというわけで…。
「開かずの踏切だったんですか…」
踏切相手じゃ勝てませんね、とシロエ君。
「お疲れ様でした、キース先輩。…食あたりだなんて言ってすみませんでした」
「いや、地元グルメは本当だから別に…。ただ、あの踏切には泣かされた」
いくら電車とぶつからないためだと分かってはいても、あの遮断機が恨めしかった、とキース君は嘆いています。何度も時計を見ては焦って、次第に諦めの境地だったとか。
「なんとか乗れるように頑張ってやる、と言ってはくれたが、ヤバイというのは分かるしな…」
「そうだろうねえ、刻一刻と時間は過ぎてゆくわけなんだし」
あった筈の余裕が削られてゆくのは非常に辛い、と会長さん。
「ぼくみたいに瞬間移動が出来れば、「失礼するよ」と車から消えて終わりだけどさ」
「俺にあんたの真似が出来るか!」
「うん、だからこそ飛行機に乗り損なって放課後ギリギリの登校だよねえ…」
踏切ってヤツは最強だよね、と会長さんは笑っています。「普通人だと勝てない」と。
「あれは瞬間移動で抜けるか、踏切の上を飛び越えるか…。どっちにしたってサイオンが無いと」
「かみお~ん♪ ぼくも踏切、抜けられちゃうよ!」
引っ掛かったら瞬間移動で通るもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「周りに人はいないかな~、って見てからパッと!」
「「「うーん…」」」
そういう技は私たちにはありません。遮断機が下りたらそこでおしまい、電車の通過を黙って待つだけ。たとえ飛行機が飛んでゆこうが、乗る予定だった電車が走り去ろうが。
「…踏切、ホントに最強っぽいね…」
アレに捕まったらおしまいだもんね、とジョミー君も言ってますけど、事故防止には欠かせないのが踏切。遮断機が下りてくれるからこそ、電車とぶつからずに済むわけで…。
「…それはそうだが、俺のような目に遭ってしまうと恨むぞ、踏切」
「なまじ最強の相手なだけに、文句も言えませんからねえ…」
文句があるなら黙って電車とぶつかってこい、と叱られそうです、とシロエ君が零した言葉に、会長さんが「そうか、踏切…」と呟いて。
「踏切があったらいいんだけどね?」
「「「へ?」」」
踏切って、何処に踏切があればいいんでしょう? 通行人には迷惑っぽい踏切ですけど…?
キース君が捕まってしまった開かずの踏切。そうでなくても通行するには困り物なのが踏切だという流れだったと思いますけど、「あったらいいのに」と会長さんの妙な台詞が。
「あんた、踏切の肩を持つのか、いくら自分は引っ掛からないのか知らないが!」
俺はあいつのせいで欠席になってしまったんだが、とキース君が噛み付くと。
「えーっと、本物の踏切じゃなくて…。それっぽいモノ…?」
「「「それっぽい…?」」」
ひょっとしてオモチャの踏切でしょうか、電車の模型を走らせる時とかについてくるヤツ。電車好きの人だと本格的なのを家の敷地内で走らせて駅だの踏切だのと…。
「ううん、電車を走らせるわけでもないんだな。…相手は勝手に走って来るから」
「「「はあ?」」」
何が走って来るというのだ、と顔を見合わせ、キース君が。
「イノシシか? 確かにヤツらは墓地で暴れるしな、踏切で遮断出来たら有難いんだが…」
こう、警報機が鳴って遮断機が下りたらイノシシが入れない仕組みとか…、と。
「そっち系で何か開発するなら、ウチの寺にも是非、分けてくれ!」
「うーん…。それはイノシシを止める方だし…」
ぼくが思うのとは逆のモノかも、と会長さん。
「ぶつかりたくないという意味ではイノシシに似てはいるんだけどさ…。止めるよりかは、通過させた方がマシっぽいかな、と」
「なんですか、それは?」
意味が全く謎なんですが、とシロエ君が口を挟むと、会長さんは。
「アレだよ、アレ。…何かって言えばやって来る誰か」
「「「あー…」」」
理解した、と無言で頷く私たち。その名前を出す馬鹿はいません、来られたら真面目に困りますから、名前を出すのもタブーなソルジャー。別の世界から来る会長さんのそっくりさんで…。
「アレが来た時に遮断機が下りて、ぼくたちとアレの間をキッチリ分けてくれればねえ…」
「なるほど、アレだけが勝手に走り去るわけだな、遮断機の向こうを」
そういう踏切なら俺も欲しい、とキース君。
「たとえ開かずの踏切だろうが、有難いことだと合掌しながら通過を待つな」
「ぼくもです! お念仏は唱えませんけど、踏切に文句は言いませんよ」
アレとぶつからずに済むのなら…、とシロエ君も。私だって欲しい踏切ですけど、会長さんのサイオンとかで作れませんかね、その踏切…?
別の世界から踏み込んで来ては、迷惑を振り撒いて去ってゆくソルジャー。歩くトラブルメーカーと名高いソルジャーと遭遇せずに済むなら、踏切の設置は大歓迎です。遮断機が下りているせいで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入れなくなるとか、会長さんの家に行けないオチでも。
「あんた、作れるのか、その踏切を?」
サイオンでなんとか出来そうなのか、と開かずの踏切の恨みも忘れたらしいキース君。
「作れるんなら、是非、作ってくれ! アレとぶつからない踏切を!」
「会長、ぼくからもお願いします! 文句は絶対、言いませんから!」
ぶるぅの部屋に入れなくても表で待っていますから、とシロエ君も土下座せんばかりで。
「会長の家に出掛けた時にエレベーター前で三時間待ちでも、本当に黙って待ってますから!」
「俺もだぜ。まだ遮断機が上がらねえのかよ、なんて言わねえよ、それ」
踏切は事故防止のためにあるんだからよ、とサム君も賛成、ジョミー君たちも。
「作れるんなら作ってよ! 閉まりっ放しの踏切になってもいいからさ!」
「そうよね、開かずの踏切になってしまっても、ぶつかるよりずっといいものねえ…」
「ぼくもです。…踏切、作れそうですか?」
マツカ君までがお願いモードで、私たちもペコペコ頭を下げたんですけど。
「…どうだろう? なにしろ相手はアレだからねえ…」
接近を感知して遮断機を下ろす所からして難しそうだ、と会長さん。
「電車と違って、定刻に走っているわけじゃないし…。信号機だって無いんだし…」
「そうだな、時刻表も信号も無視の方向だな、アレは」
俺の家の墓地に出るイノシシと変わらん、とキース君が溜息を。
「これから行きます、と予告して走って来るわけでもなし、踏切は無理か…」
「ぼくのサイオンがもう少しレベルが高かったらねえ…」
来るぞと思った所で遮断機を下ろすんだけれど、と会長さんも残念そうに。
「でもって、後は通過待ちでさ…。走り去るのを待つってだけなら、どんなにいいか…」
「やはり無理だというわけだな?」
開かずの踏切以前に設置が無理なんだな、とキース君が尋ねると。
「それもそうだし、アレの方がね…。踏切があっても、乗り越えて走って来そうだってば」
「「「うわー…」」」
電車の方から飛び出して来たのでは勝てません。けれど相手はアレでソルジャー、踏切できちんと待っていたって、遮断機の向こうから出て来そうです、はい~。
あったら嬉しいソルジャー遮断機、けれども実現は不可能っぽい夢のアイテム。それさえあったら何時間でも通過を待てる、と誰もが思っているんですけど。
「…いろんな意味で難しいんだよ、ぼくも出来れば欲しいんだけどね…」
アレとぶつからないで済む踏切、と会長さんが言った所へ。
「こんにちはーっ!」
遊びに来たよ、と飛び込んで来たのが当のソルジャー、ふわりと翻った紫のマント。空いていたソファにストンと腰掛け、「ぼくにもおやつ!」と。
「オッケー、ちょっと待っててねーっ!」
キッチンに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」がイチゴのジャンボシュークリームと紅茶を持って戻って来て、ソルジャーは「ありがとう」とシュークリームにフォークを入れながら。
「…キースが災難だったんだって?」
「あ、ああ…。飛行機に乗り損なったというだけなんだが」
「開かずの踏切だったんだってね、踏切は何かと面倒だよねえ…」
ノルディとドライブしている時にも捕まっちゃうし、とソルジャー、相槌。
「車ごと瞬間移動で抜けられないこともないんだけれど…。こっちの世界のルールもあるしね」
踏切くらいは我慢しようと思っていた、と言うソルジャー。
「だけど、ブルーとぶるぅは我慢してないみたいだねえ? さっきの話じゃ」
「う、うん…。まあ…。時と場合によるけれど…」
「かみお~ん♪ ちゃんと待ってることも多いよ、踏切!」
電車がすぐに通るんだったら待つんだもーん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコと。
「どんな電車が走って来るかな、って見てて、手を振る時だってあるし!」
「そうなのかい?」
「うんっ! 運がいいとね、沢山の人が電車から手を振ってくれるの!」
それが楽しみ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。確かに小さな子供が手を振っていたら、振り返してくれる人も多そうです。ソルジャーは「なるほどねえ…」と顎に手を当てて。
「踏切はコミュニケーション手段としても役立つわけだね、手を振るとかで」
「それはまあ…。ぶるぅみたいな子供の場合は…」
「だったら、作ってみる価値はあるね! その踏切!」
「「「はあ?」」」
ソルジャーとぶつからないように踏切を作れないかという話だったと思うんですけど、ソルジャーが自分でその踏切を作るんですか…?
会長さんが作りたかったソルジャー遮断機、夢の踏切。けれど無理だと諦めの境地だった所へ来たのがソルジャー、しかも「踏切を作ってみる価値はある」という発言。
「…君が踏切を作るのかい?」
どういうヤツを、と会長さん。
「まさか本物じゃないだろうねえ、それは法律に反するからね!」
踏切は勝手に設置出来ない、とソルジャーに釘を。
「此処に踏切があればいいのに、と思ったとしても作れないんだよ、許可が出ないと!」
「ふうん…? 面倒なんだね、踏切ってヤツは」
「電車がスムーズに走れるようにという意味もあるし、事故を起こさないためでもあるし…。色々と決まりがややこしいんだよ、踏切は!」
「本物はそうかもしれないけれど…。君が言ってたようなヤツならいいんだろう?」
ぶつからないように作る踏切、とソルジャーは会長さんを見詰めて。
「ぼくとぶつからないようにしたいんだっけね、君の理想の踏切は?」
「…そ、そうだけど…。でも、そこまで分かってくれているなら、踏切は別に…」
要らないと思う、と会長さん。
「君が自分で心得てくれればいいだけのことで、踏切で遮断しようとまでは…。君にも事情があるんだってことは知っているから」
こっちの世界でストレス解消してるんだよね、という確認にソルジャーは。
「その通り! SD体制で苦労しているぼくにとっては、こっちの世界はパラダイス!」
ついでに地球だし余計に美味しい、と満面の笑顔。
「おまけに君たちとも遊べるんだしね、今度は踏切で遊んでみたいと!」
「「「踏切?」」」
どう遊ぶのだ、と思いましたが、ソルジャー遮断機な踏切だったら、遮断機を越えて出て来るソルジャーとぶつからないように逃げ回るだとか、そういうゲームをするんでしょうか?
「えーっと…。コミュニケーションとしては、それも面白いんだけど…」
鬼ごっこみたいでいいんだけれど、と言うソルジャー。…その踏切、他に遊び方がありますか?
「遊び方と言うより、踏切の仕組みが別物かな、うん」
「「「別物?」」」
どんな踏切を作る気でしょうか、ソルジャー遮断機と似たような感じで、かつ別物の踏切って?
踏切で遊びたいと言い出したソルジャー、基礎になるものは会長さんのアイデアの筈。ソルジャーが暴走している時でも遮断機が下りて待てば済むだけ、暴走ソルジャーが去って行ったら踏切が開いて通れる仕組みだと思いましたが…。
「そう、そこなんだよ、踏切は電車と人とが出会う場所なんだよ!」
片方は待って、片方は通過してゆく場所で…、とソルジャーは指を一本立てました。
「…でもね、さっき、ぶるぅが言ってたみたいに、電車に手を振る人もいるわけで…。電車の方でも手を振るわけで!」
「それは電車が手を振るっていう意味じゃないから!」
乗客だから、と会長さんが間違いを正すと、「分かってるってば!」という返事。
「そのくらいは分かるよ、だけどアイデアが出来たんだよ! 踏切を使ってコミュニケーション、うんと仲良くなれる方法!」
「「「…へ?」」」
ソルジャーと仲良くなるんでしょうか、踏切の向こうを暴走中の? 今でも充分に仲がいいんだと思ってましたが、もっと仲良くしたいんですかね?
「だから、別物だと言ったじゃないか! 踏切の仕組みが!」
まるで違うのだ、とソルジャー、キッパリ。
「この踏切はね、ある意味、開かずの踏切に近いものかもねえ…」
「「「開かずの踏切?」」」
「そうだよ、行く先々で踏切に出会って通れなかったら、開かずの踏切みたいだろう?」
「…何を作る気?」
何処へ行っても君とバッタリ出会う仕組みじゃないだろうね、と会長さんが訊くと。
「惜しい! もうちょっとってトコだよ、出会いの踏切には違いないしね!」
「「「…出会いの踏切?」」」
ますます分からん、と首を捻った私たちですが、ソルジャーは。
「そのまんまだよ、出会うんだよ! 踏切があれば!」
「…誰に?」
会長さんの問いに、ソルジャーが「出会いで察してくれたまえ」と。
「もうハーレイしかいないじゃないか、こっちの世界の!」
「「「教頭先生!?」」」
教頭先生と出会う踏切って、どんなのですかね、しかも開かずの踏切ですよね…?
ソルジャー曰く、出会いの踏切。それを作ると教頭先生に出会うって…。どういう仕組みの踏切でしょうか、まるで全く謎なんですけど…。
「平たく言うとね、ブルー限定の踏切なんだよ、ぼくじゃなくって、こっちのブルーで!」
そこのブルー、とソルジャーが指差す会長さんの顔。
「ブルーが歩くと出くわす踏切、行く先々でハーレイとぶつかる羽目になるってね!」
「「「ええっ!?」」」
どういうヤツだ、と思いましたが、ソルジャーは自信満々で。
「ぼくはブルーと違って経験値が遥かに高いからねえ、もう簡単なことなんだよ! ブルーとこっちのハーレイの間をちょちょっと細工するだけで!」
「何をするわけ?」
会長さんの声が震えていますが、ソルジャーが気にする筈などが無くて。
「出会えるようにと行動パターンをシンクロさせれば、それでオッケー! 何処へ行ってもバッタリ出会えて、挨拶するしか無いってね!」
出会ったからには挨拶だろう、と極上の笑み。
「ただでも教師と教え子なんだし、別の方面だとソルジャーとキャプテンって関係になるし…。無視して通るというのは無いねえ、それにハーレイはブルーにぞっこん!」
たとえブルーが無視したとしても、ハーレイからは挨拶が来る、と鋭い指摘も。
「一度目は偶然で済むだろうけれど、何度も重なれば偶然とは思えないからねえ…。ハーレイにしてみれば運命の出会いで、もう間違いなく赤い糸だよ!」
そういう糸があるらしいじゃないか、とソルジャーは自分の左手の小指を右手でキュッと。
「小指と小指で赤い糸なんだってね、いつか結婚する二人! それで結ばれているに違いないとハーレイが思い込むのが見えるようだよ、出会いの踏切!」
「迷惑だから!」
そんな踏切は要らないから、と会長さんが叫びましたが、ソルジャーにサラッと無視されて。
「素晴らしいよね、運命の赤い糸に引かれて出会う踏切! ブルー限定!」
「だから、要らないと言ってるのに!」
「ダメダメ、こうでもしないと出会えないしね、もう永遠に!」
「出会いたいとも思わないから!」
あんなのと出会う趣味は無いから、と懸命に断る会長さん。けれどソルジャーは自分の素敵なアイデアに夢中、これは諦めるしか道は無いんじゃあ…?
出会いの踏切は御免蒙ると、お断りだと会長さんは必死に言ったのですけど。ソルジャーは「照れないで、ぼくに任せておいてよ」と片目をパチンと。
「踏切の話が出たのも何かの縁だし、キースが開かずの踏切に捕まって飛行機に乗り遅れたのも、神様からのお告げなんだよ! 出会いの踏切を作れという!」
「お、お告げって…。神様って、それは絶対、違うと思う…!」
キースが出掛けた先はお寺で…、と会長さんが「違う」と主張し、キース君も。
「神様の線は限りなく薄いと思うんだが…。そりゃまあ、行った先の寺の境内にはお稲荷さんの祠もあったが、主役は仏様でだな…!」
「そこはどうでもいいんだよ! 神様だろうが、仏様だろうが、細かいことは!」
誰のお告げかは細かいことだ、とソルジャーも負けてはいませんでした。
「とにかく、ぼくはお告げを受けたし、受けたからには引き受けなくちゃね! ブルーよりも強いサイオンを持っているというメンツにかけても、ここは踏切!」
出会いの踏切を作らなくては、とソルジャーが立てた右手の人差し指。
「えーっと…。まずはブルーで…」
スイッと指が円を描いて、私たちは「ん?」と。
「今の、なんだよ?」
サム君が訊いて、ジョミー君が。
「さあ…? 別になんにも見えなかったけど…?」
いつもだったら青いのがキラッと光る筈で、と言い終わらない内に、ソルジャーの指がスッと壁の方へ。あの方向には本館があったと思います。教頭室も入っている本館。
「お次が、こっち、と。よし、ハーレイは仕事中だし…」
こんな感じで、とスイッと円が描かれ、それから左手の指も出て来てチョイチョイと。えーっと、何かを結んでるように見えますが…?
「はい、正解! 結んだってね、別にやらなくてもいいんだけれど…。ビジュアルってヤツも大切かなあ、と思ってね!」
運命の赤い糸を結んでみましたー! とソルジャーは胸を張りました。
「これで出会いの踏切は完璧、行く先々でバッタリと!」
「ちょ、ちょっと!」
ぼくは頼んでいないんだけど、と会長さんが慌てましたが、ソルジャーの耳には聞こえないのか、都合よく聞き間違えているのか。
「遠慮しないで、受け取っておいて! ぼくのプレゼント、出会いの踏切!」
お幸せにー! と消えたソルジャー、自分の世界へ帰ってしまったみたいですねえ…?
「…出会いの踏切って…」
迷惑にもほどがあるだろう、と会長さんはプリプリと。
「行く先々でハーレイとバッタリで運命の糸って、有り得ないから! それ自体が!」
「それは運命の糸の方なのか、バッタリ出会う方か、どっちだ?」
キース君の問いに、「両方だよ!」と会長さん。
「ぼくとハーレイの間に赤い糸なんかがあるわけがないし、バッタリ出会う方だって無いね! ぼくとハーレイの行き先が重なることなんて無い!」
現に今日だって帰るだけだし…、と会長さんがフンと鼻を鳴らして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「えとえと…。瞬間移動で帰っちゃうんだし、ハーレイと会う場所、何処にも無いよね…」
「ほらね、ぶるぅもそう言ってるし! 会うわけがないよ!」
あれはブルーの脅しも入っているのだろう、と会長さん。
「いくらブルーでも、出会いの踏切とやらを簡単に作れるわけが…。信じて引きこもったら負けってことだよ、人間、大いに出歩かないとね!」
今日は帰って寝るだけとはいえ、この先も存分に出歩いてなんぼ! と会長さんは出会いの踏切を否定しました。騙されたらぼくの負けだから、と。
「…というわけでね、ブルーの罠には引っ掛からないよ。あ、そろそろ帰る時間だっけ?」
「そうだな、今日は邪魔をした」
早い時間から押し掛けてすまん、とキース君が謝ると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ううん、お客様は大歓迎! いつでも来てね!」
「そう言って貰えると有難い。…じゃあ、また明日」
帰ろうか、と立ち上ったキース君と前後して私たちも溜まり場に別れを告げることに。鞄を手にして壁をすり抜け、生徒会室から廊下へと出て歩き始めましたが…。
「あっ、忘れたあ!」
ぶるぅの部屋に携帯端末を置き忘れて来た、とジョミー君が鞄の中を探って、「無い…」と。
「ちょっと取ってくる、少し待ってて!」
「ウッカリ者だねえ…。ちゃんと届けに来たってば」
はい、と会長さんが現れて携帯端末を手渡し、ジョミー君が「ありがとう!」と返した所へ。
「おっ、お前たち、今、帰りか?」
良かったら飯でもおごってやろう、という声が。まさかまさかの教頭先生、これって偶然会っただけですよね、そうですよねえ…?
何故だかバッタリ出会ってしまった教頭先生、それに会長さん。もちろん会長さんはギョッとした筈ですが、そこは教頭先生をオモチャにして長いだけあって、平然と。
「晩御飯、おごってくれるって? ぼくの好みの店は高いよ?」
ついでに、みんなのタクシー代も出してくれるんだろうね、と注文を付けられた教頭先生は。
「任せておけ! 何処へ行くんだ、いつものパルテノンの焼肉屋か?」
「それもいいけど、たまに串カツの店もいいかな、と…。ねえ、ぶるぅ?」
「うんっ! 活けの車海老とかを揚げてくれるの、美味しいんだよ!」
あそこがいいな! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。そのお店には何度も行ってますけど、ハッキリ言って高いです。とても串カツとは思えないお値段、そういうお店。けれど教頭先生は…。
「分かった、私の車とタクシーで行こう。誰が私の車に乗るんだ?」
「「「え、えーっと…」」」
どうしようか、と会長さんを除いた面子でジャンケンで決めたんですけれど…。狙ったかのように柔道部三人組が乗ることになったんですけれど…。
「…おい、怖くないか?」
有り得ないことが起こっていないか、とキース君に訊かれたタクシーの車内。そう、教頭先生の車に乗って行く筈だったキース君がジョミー君と一緒に乗っています。
「うん、怖い…。ブルーがあっちに乗ってるだなんて…」
信じられないよね、とジョミー君も。私たちは学校前でタクシーを二台止めたんですけど、どうしたわけだか、タクシーの車内は芳香剤の匂いが効きすぎていました。一台は異様にオレンジの香りで、もう一台は先にお坊さんの団体様でも乗せていたのかと思うほどの抹香臭さで。
「…あいつが自分で選んだ道だが、予言通りになってるぞ」
教頭先生と出会いまくりだ、とキース君がタクシーの後ろを眺めて、ジョミー君が。
「だよねえ、キースと交代だなんて…」
どうかと思う、と頭を振っているジョミー君。運転手さんには言えませんけど、こちらが抹香臭い一台。会長さんならシールドで防ぐとか方法は色々ありそうな気がするというのに、オレンジの香りの車を見送った後のがコレだと知ったらキース君を捻じ込んで行ったのでした。
「…俺なら職業柄、慣れているだろうとは言いやがったが…」
「ブルーも思い切り、同業者だよね?」
しかも緋色の衣なんだけど、とジョミー君。伝説の高僧、銀青様が会長さんのもう一つの顔。遊びに行く時にそっちの顔は遠慮したかったのかもしれませんけど、教頭先生の車に乗って行くだなんて、例の踏切に引っ掛かったりしてないでしょうね…?
これが出会いの踏切の始まり、もう次の日から会長さんは行く先々で教頭先生とバッタリ出くわす運命に陥ってしまいました。学校はもちろん、買い物に出掛けた店でバッタリ、道でもバッタリ会うというのが恐ろしいです。
「…ど、どうしよう…。ハーレイが勘違いし始めてるのが分かるんだけど…」
運命を感じちゃってるみたいで、と会長さんが愚痴る放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。今日も今日とてバッタバッタと出会いまくりで、昼御飯も一緒に食べる羽目になったのだとか。
「教職員専用食堂も悪くないけど…。ぶるぅもおごって貰えるんだけど…」
なんだって二日に一度というハイペースであそこで食事なのだ、と嘆かれたって困ります。教頭先生とバッタリ会うから誘われるわけで、会わなきゃ誘われないわけで…。
「それは確かにそうなんだけど…! 会ったからにはおごらせてやる、と考えちゃうのも間違いないけど、ハーレイの方では、そろそろ運命…」
赤い糸を夢見ているらしくって、と会長さんが見ている自分の小指。
「このまま行ったら、その内、いつも花束を抱えて歩きかねないから! 学校はともかく、外で買い物とか、散歩の時には!」
「…まるで無いとは言い切れないな。そのパターンもな」
元から惚れてらっしゃるんだし…、とキース君。
「出会いの踏切とはナイスなネーミングだったと思うしかないな、あんたが花束を貰うようになった暁にはな」
「そういうつもりは無いんだってば! 運命の糸も、花束を貰うパターンってヤツも!」
会長さんが反論すると、キース君は。
「しかしだ、あんた、婚約指輪も確かあるんじゃなかったか? 受け取らないで突っ返しただけの高い指輪が」
「「「あー…」」」
あったっけ、と思い出してしまったルビーの指輪。教頭先生が思い込みだけで買ってしまって、家に死蔵してらっしゃるヤツが。
「…そいつの出番が来るかもしれんぞ、花束の次は」
「嘘…。ハーレイがアレを持ち出すだなんて…」
「運命だしなあ、後は時間の問題じゃないか?」
今のペースで会い続けていたら、夏休みまでには指輪が出そうだ、とキース君。私たちだってそう思います。ソルジャーが仕掛けた出会いの踏切、それの遮断機が上がらない限り…。
こうして会長さんと教頭先生は出会いまくりで、花束も登場しそうな勢いに。私たちが校内で見掛ける教頭先生はいつも御機嫌、会長さんとセットで晩御飯も何度も御馳走になりました。豪華な食事が食べられるだけに、私たちは教頭先生と同じでホクホクですけど…。
「…今日も会えるかな、教頭先生」
帰りにバッタリ会えるといいな、とジョミー君が大きく伸びをしている放課後。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は今日も平和で、会長さんだけが黄昏れていて。
「…もう勘弁して欲しいんだけど…。この部屋からウッカリ出てしまうパターン…」
「それはあんたの責任だろうが。俺たちは知らん」
「キース先輩が言う通りですよ。気を付けていれば、出ないで済むと思うんですけど…。あ、今日は中華が食べたいですねえ、豪華にフカヒレ尽くしとか」
「美味そうだよなあ、今日はフカヒレで頼んでくれよ!」
よろしく、とサム君に声を掛けられた会長さんは。
「…サムの頼みだったら、喜んで…。ただし、ハーレイと会ったらだけど」
出来れば会いたくないんだけれど、とブツブツブツ。サム君とは公認カップルと称して付き合えるくせに、教頭先生はお呼びじゃないのが会長さんです。でも…。
「今日も会っちゃうと思うわよ? また野次馬とか、そういう感じで」
「…ぼくは自己嫌悪に陥りそうだよ…!」
スウェナちゃんが言う野次馬というのは、会長さんが一番沢山引っ掛かったケース。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋から外に出なければ教頭先生には会わないというのに、何処かのクラブで何かが起こって野次馬多数、というのに釣られて出てしまうパターン。
「今日も野次馬かな、陸上部で新記録が出るかも、って噂だったし」
新記録だったら間違いなくお祭り騒ぎになるし、とジョミー君がフカヒレ尽くしの中華に期待で、私たちもドキドキワクワクです。新記録が出たら、真っ先に走って出掛けなくては…!
「ぼくは此処から動かないからね!」
「…あんた、そう言いつつ、百パーセントの確率で釣られているだろうが!」
自制心というのは無いのか、とキース君が笑った所へ、部屋の空気がユラリと揺れて。
「…自制心…。それがあったら困らないよ…」
ぼくとしたことがやりすぎた、とバタリと床に倒れたソルジャー。お芝居にしては上手すぎですけど、まさかホントに倒れたんですか…?
あのソルジャーが倒れるなんて、と思ったんですが、お芝居ではありませんでした。キース君たちがソファに寝かせて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が額を冷やして、暫く経つと。
「…出会いの踏切、最高だと思ってたんだけど…。ぼくとハーレイにもかけたんだけど…」
会長さんたちの出会いっぷりが素晴らしかったので、ソルジャーは自分とキャプテンに仕掛けたらしいのです。ただし、グレードアップして。
「…ぼくとバッタリ出会ったら、ヤる! 青の間でなくても、とにかく何処かで!」
備品倉庫の奥とか場所は一杯…、と話すソルジャーが仕掛けた出会いの踏切は大人の時間とセットだった模様。これは素敵だと満喫しまくっていたようですけど…。
「…ぼくはハーレイのパワーを舐めてたみたいで、もう限界で…。体力、気力のどっちも限界、三日間ほどこっちに泊めて…」
このままでは確実に抱き殺される、と呻くソルジャー、出会いの踏切を解除するだけの力も無いのだとか。空間移動をしてきたサイオンがあれば出来ると思いますけどね?
「…それがさ…。空間移動はエイッと飛べばいいんだけど、出会いの踏切の解除の方は…」
より繊細なサイオンの操作が必要で…、とソファで伸びているソルジャーは本当に逃げて来たみたいです。自分が懲りてしまっただけに、会長さんに仕掛けた踏切も解除するそうですけど…。
「…今日の所は無理そうですね?」
寝込んでますしね、とシロエ君が言って、ジョミー君が。
「ぶるぅが運んで行ったしねえ…。ブルーの家まで。…あっ、陸上部!」
記録が出たんじゃないかな、という声の通りに騒いでいる声が聞こえて来ます。これは是非とも駆け付けなければ、そして会長さんが釣られて出て来て…。
「「「フカヒレ尽くし!」」」
ダッシュで行けーっ! と私たちは部屋を飛び出しました。出会いの踏切が有効な内に御馳走になってなんぼです。教頭先生、今夜は中華でどうぞよろしく、フカヒレ尽くしでお願いします~!
出会いの踏切・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが考案した出会いの踏切、効果は抜群みたいですけど、ソルジャーもドツボに。
自分とキャプテンにも仕掛けた結果は、心身ともに疲労困憊。倒れるほどって、凄すぎかも。
次回は 「第3月曜」 3月21日の更新となります、よろしくです~!
パソコンが壊れてUPが遅れてしまった先月。今月は無事に間に合いました…。
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、2月は節分、恒例の七福神巡り。けれど今年は厄が多めで…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園、今日も平和に事も無し。桜の季節が終わって新年度スタートに伴うドタバタも終了、私たちは今年も不動の1年A組。担任はグレイブ先生です。もうすぐ朝のホームルームが始まりますけど、ここに困った問題が。
「…キース先輩、まだ来ませんよ?」
「変だよなあ…。欠席、昨日までの筈だぜ」
昨日の夜には帰った筈で、とサム君が。
「アレだろ、大学の同期の寺の法要だろ? なんか飛行機で」
「そうみたいねえ、キースの大学、お坊さんの世界じゃエリート大学らしいものね」
全国区で学生が集まるのよね、とスウェナちゃん。
「何処まで行ったんだったかしら? 遠かったわよね、飛行機なほどに」
「電車も通ってはいますけどねえ…」
あそこは流石に飛行機の方が早いですよ、とシロエ君。
「でも、最終便で飛んだとしたって、今日は学校に来る筈ですけど」
「飛行機、飛ばなかったとか?」
そういうこともあるし、とジョミー君が言い、マツカ君も。
「その可能性はありますね。だとしたら今日は欠席ですか…」
「この時間に来てなきゃ、それっぽいよな?」
来ねえもんな、とサム君が教室の扉の方を眺めた所で予鈴がキンコーンと。暫く経ったら本鈴が鳴って、グレイブ先生が靴音も高く現れて。
「諸君、おはよう。…それでは今から出席を取る」
グレイブ先生は順に名を呼び、キース君の所になると。
「キース・アニアン…。欠席だったな」
よし、と名簿をペンで叩いてますから、欠席の連絡があったのでしょう。飛行機、飛ばなかったんでしょうか、そういうケースもありますよねえ?
グレイブ先生はキース君の欠席理由を言わなかったため、飛行機が飛ばなかったんだと思った私たちですが。休み時間に携帯端末を操作していたシロエ君が「えっ?」と。
「なんだよ、どうかしたのかよ?」
サム君の問いに、シロエ君は。
「いえ…。キース先輩が乗る予定だった飛行機、ちゃんと飛んでますよ?」
「「「え?」」」
まさか、と顔を見合わせた私たち。
「最終便は飛んだかもしれねえけどよ、他の便かもしれねえぜ?」
欠航しちまって、最終便も満席で乗れなかったとか、とサム君が意見を述べましたけれど。
「その線は、ぼくも考えました。…でもですね、昨日の便は全部飛んでるんですよ」
定刻通りのフライトです、とシロエ君。
「ついでに、こっちの空港の方も調べましたけど…。せいぜい五分遅れの到着くらいで」
「マジかよ、それじゃキースは飛行機、乗ってねえのかよ?」
「さあ…。帰っては来たのかもしれませんが…」
法要疲れで今日は欠席ということも、とシロエ君は心配そうな顔。
「キース先輩に限って、それだけは無さそうなんですけれど…。それが本当に休みとなったら…」
「相当に具合が悪いってこともあるよね、うん」
風邪は無いだろうけど食あたりとか、とジョミー君が。
「遠い所まで行ったわけだし、法要の他にも観光とかに連れて貰っていそうだし…。珍味だからって何かを食べてさ、あたったとか」
「「「あー…」」」
それはあるかもしれません。地元の人なら慣れた味でも、観光客の舌には合わないというケース。普通だったら「不味い」と残してしまう所を「もったいないから」と食べそうなのがキース君です。無理をして食べて、自分は良くても身体が悲鳴を上げたとか…。
「…やっぱり、食あたりの線でしょうか?」
シロエ君が見回し、スウェナちゃんが。
「風邪よりは、そっちがありそうよねえ…」
「そうですよねえ…。明日は来られるといいんですけど、キース先輩」
早く治るといいですよね、というシロエ君の台詞で、欠席理由は食あたりに決定してしまいました。何を食べたんでしょうか、キース君。早く治るといいんですけど…。
キース君の欠席で一人欠けた面子。とはいえ、法要で一昨日からお休みでしたし、それが一日延びただけ。こんな日もあるさ、と放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ揃って出掛けて行ったんですけど…。
「かみお~ん♪ 授業、お疲れ様!」
「いらっしゃい。キースが一足お先に来てるよ」
「「「えっ!?」」」
なんで、とビックリ、会長さんの言葉通りにソファに座っているキース君。「よっ!」と軽く右手を挙げて。
「すまん、急いで来てみたんだが…。最後の授業の後半に滑り込んでもな…」
無駄に迷惑を掛けるだけだからこっちに来た、とキース君。
「コーヒーだけで待っていたんだ、一人だけ菓子を食うのも悪いし」
「…キース先輩、食あたりだったんじゃないんですか?」
シロエ君が口をパクパクとさせて、キース君は不審そうな顔。
「食あたりだと? 何処からそういう話になったんだ、シロエ」
「え、えっと…。先輩が乗る筈だった飛行機は全部飛んでましたし、欠席となったら食あたりという線じゃないかと…。地元密着型のグルメで」
「そういうものなら御馳走になったが、俺はそんなに腹は弱くない!」
もっとも、まるでハズレというわけでもないが…、とキース君。
「法要の後で食べに行かないか、と誘って貰って車で出掛けた。それが欠席の原因ではある」
「…食あたりとは違うのに…ですか?」
「ああ。美味しく食べて、ちゃんと車で空港まで送って貰ったんだが…。おっと」
菓子が来たか、とキース君が言葉を切って、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「今日はイチゴのジャンボシュークリーム! はい、どうぞ!」
イチゴたっぷりだよ! と配って回られた大きなシュークリームが乗っかったお皿。飲み物の注文も取って貰ってティータイムですけど、キース君の欠席転じて放課後だけ登校って、いったい何があったんでしょう…?
「…実はな、飛行機に間に合わなかったんだ」
最終便に乗り損なった、とキース君はシュークリームを頬張りながら報告を。
「仕方ないから朝一番の便で、と思ったんだが、これが満席で…。次の便にキャンセル待ちで乗れたが、こっちの空港で荷物が出るのが遅れたりして…」
なんだかんだで学校には間に合わなかったんだ、とキース君。そういうケースも想定したため、朝一番で学校に欠席の連絡をしたのだそうで。
「…乗り損なったんですか、最終便…」
まさか空港で転んだとか、とシロエ君が尋ねると。
「いや、そうじゃない。…空港に着いた時には離陸して行く飛行機が見えたな」
俺が乗る筈だったヤツが、ということは…。道が混んでましたか?
「渋滞したらマズイから、と早めに出ては貰ったんだが…。途中で踏切に捕まったんだ!」
「「「踏切?」」」
「そうだ、電車の踏切だ!」
そこで全てが狂ってしまった、とキース君はブツブツと。
「一本通過するだけなんだが、その電車が途中でトラブルらしくて…。閉まった踏切が開いてくれんのだ、信号か何かの関係で!」
「「「あー…」」」
それは不幸な、と誰もが納得。踏切は一つ間違えたら事故になりかねない場所、一度閉まったらそう簡単には開きません。たとえ電車が止まっていても。
「…電車の駅がすぐそこだったら、駅員さんが駆け付けて対応出来るんだろうが…」
「近くに駅が無かったんですか?」
「あるにはあったが、立派な無人駅だったんだ!」
どうにもならん、と頭を振っているキース君。結局、踏切は多くの車を踏切停止に巻き込んだままで閉まり続けて、後ろからは何も知らない車が次々来る始末で。
「…バックで出ようにも、横道に入ろうにも、逃げ場無しでな…」
やっとのことで踏切が開いて、キース君を乗せた同期のお坊さんはスピード違反ギリギリの速度で突っ走ってくれたらしいのですけど、目の前で離陸して行ってしまった最終便。キース君は法要があったお寺に逆戻り、もう一泊して帰って来たというわけで…。
「開かずの踏切だったんですか…」
踏切相手じゃ勝てませんね、とシロエ君。
「お疲れ様でした、キース先輩。…食あたりだなんて言ってすみませんでした」
「いや、地元グルメは本当だから別に…。ただ、あの踏切には泣かされた」
いくら電車とぶつからないためだと分かってはいても、あの遮断機が恨めしかった、とキース君は嘆いています。何度も時計を見ては焦って、次第に諦めの境地だったとか。
「なんとか乗れるように頑張ってやる、と言ってはくれたが、ヤバイというのは分かるしな…」
「そうだろうねえ、刻一刻と時間は過ぎてゆくわけなんだし」
あった筈の余裕が削られてゆくのは非常に辛い、と会長さん。
「ぼくみたいに瞬間移動が出来れば、「失礼するよ」と車から消えて終わりだけどさ」
「俺にあんたの真似が出来るか!」
「うん、だからこそ飛行機に乗り損なって放課後ギリギリの登校だよねえ…」
踏切ってヤツは最強だよね、と会長さんは笑っています。「普通人だと勝てない」と。
「あれは瞬間移動で抜けるか、踏切の上を飛び越えるか…。どっちにしたってサイオンが無いと」
「かみお~ん♪ ぼくも踏切、抜けられちゃうよ!」
引っ掛かったら瞬間移動で通るもん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「周りに人はいないかな~、って見てからパッと!」
「「「うーん…」」」
そういう技は私たちにはありません。遮断機が下りたらそこでおしまい、電車の通過を黙って待つだけ。たとえ飛行機が飛んでゆこうが、乗る予定だった電車が走り去ろうが。
「…踏切、ホントに最強っぽいね…」
アレに捕まったらおしまいだもんね、とジョミー君も言ってますけど、事故防止には欠かせないのが踏切。遮断機が下りてくれるからこそ、電車とぶつからずに済むわけで…。
「…それはそうだが、俺のような目に遭ってしまうと恨むぞ、踏切」
「なまじ最強の相手なだけに、文句も言えませんからねえ…」
文句があるなら黙って電車とぶつかってこい、と叱られそうです、とシロエ君が零した言葉に、会長さんが「そうか、踏切…」と呟いて。
「踏切があったらいいんだけどね?」
「「「へ?」」」
踏切って、何処に踏切があればいいんでしょう? 通行人には迷惑っぽい踏切ですけど…?
キース君が捕まってしまった開かずの踏切。そうでなくても通行するには困り物なのが踏切だという流れだったと思いますけど、「あったらいいのに」と会長さんの妙な台詞が。
「あんた、踏切の肩を持つのか、いくら自分は引っ掛からないのか知らないが!」
俺はあいつのせいで欠席になってしまったんだが、とキース君が噛み付くと。
「えーっと、本物の踏切じゃなくて…。それっぽいモノ…?」
「「「それっぽい…?」」」
ひょっとしてオモチャの踏切でしょうか、電車の模型を走らせる時とかについてくるヤツ。電車好きの人だと本格的なのを家の敷地内で走らせて駅だの踏切だのと…。
「ううん、電車を走らせるわけでもないんだな。…相手は勝手に走って来るから」
「「「はあ?」」」
何が走って来るというのだ、と顔を見合わせ、キース君が。
「イノシシか? 確かにヤツらは墓地で暴れるしな、踏切で遮断出来たら有難いんだが…」
こう、警報機が鳴って遮断機が下りたらイノシシが入れない仕組みとか…、と。
「そっち系で何か開発するなら、ウチの寺にも是非、分けてくれ!」
「うーん…。それはイノシシを止める方だし…」
ぼくが思うのとは逆のモノかも、と会長さん。
「ぶつかりたくないという意味ではイノシシに似てはいるんだけどさ…。止めるよりかは、通過させた方がマシっぽいかな、と」
「なんですか、それは?」
意味が全く謎なんですが、とシロエ君が口を挟むと、会長さんは。
「アレだよ、アレ。…何かって言えばやって来る誰か」
「「「あー…」」」
理解した、と無言で頷く私たち。その名前を出す馬鹿はいません、来られたら真面目に困りますから、名前を出すのもタブーなソルジャー。別の世界から来る会長さんのそっくりさんで…。
「アレが来た時に遮断機が下りて、ぼくたちとアレの間をキッチリ分けてくれればねえ…」
「なるほど、アレだけが勝手に走り去るわけだな、遮断機の向こうを」
そういう踏切なら俺も欲しい、とキース君。
「たとえ開かずの踏切だろうが、有難いことだと合掌しながら通過を待つな」
「ぼくもです! お念仏は唱えませんけど、踏切に文句は言いませんよ」
アレとぶつからずに済むのなら…、とシロエ君も。私だって欲しい踏切ですけど、会長さんのサイオンとかで作れませんかね、その踏切…?
別の世界から踏み込んで来ては、迷惑を振り撒いて去ってゆくソルジャー。歩くトラブルメーカーと名高いソルジャーと遭遇せずに済むなら、踏切の設置は大歓迎です。遮断機が下りているせいで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入れなくなるとか、会長さんの家に行けないオチでも。
「あんた、作れるのか、その踏切を?」
サイオンでなんとか出来そうなのか、と開かずの踏切の恨みも忘れたらしいキース君。
「作れるんなら、是非、作ってくれ! アレとぶつからない踏切を!」
「会長、ぼくからもお願いします! 文句は絶対、言いませんから!」
ぶるぅの部屋に入れなくても表で待っていますから、とシロエ君も土下座せんばかりで。
「会長の家に出掛けた時にエレベーター前で三時間待ちでも、本当に黙って待ってますから!」
「俺もだぜ。まだ遮断機が上がらねえのかよ、なんて言わねえよ、それ」
踏切は事故防止のためにあるんだからよ、とサム君も賛成、ジョミー君たちも。
「作れるんなら作ってよ! 閉まりっ放しの踏切になってもいいからさ!」
「そうよね、開かずの踏切になってしまっても、ぶつかるよりずっといいものねえ…」
「ぼくもです。…踏切、作れそうですか?」
マツカ君までがお願いモードで、私たちもペコペコ頭を下げたんですけど。
「…どうだろう? なにしろ相手はアレだからねえ…」
接近を感知して遮断機を下ろす所からして難しそうだ、と会長さん。
「電車と違って、定刻に走っているわけじゃないし…。信号機だって無いんだし…」
「そうだな、時刻表も信号も無視の方向だな、アレは」
俺の家の墓地に出るイノシシと変わらん、とキース君が溜息を。
「これから行きます、と予告して走って来るわけでもなし、踏切は無理か…」
「ぼくのサイオンがもう少しレベルが高かったらねえ…」
来るぞと思った所で遮断機を下ろすんだけれど、と会長さんも残念そうに。
「でもって、後は通過待ちでさ…。走り去るのを待つってだけなら、どんなにいいか…」
「やはり無理だというわけだな?」
開かずの踏切以前に設置が無理なんだな、とキース君が尋ねると。
「それもそうだし、アレの方がね…。踏切があっても、乗り越えて走って来そうだってば」
「「「うわー…」」」
電車の方から飛び出して来たのでは勝てません。けれど相手はアレでソルジャー、踏切できちんと待っていたって、遮断機の向こうから出て来そうです、はい~。
あったら嬉しいソルジャー遮断機、けれども実現は不可能っぽい夢のアイテム。それさえあったら何時間でも通過を待てる、と誰もが思っているんですけど。
「…いろんな意味で難しいんだよ、ぼくも出来れば欲しいんだけどね…」
アレとぶつからないで済む踏切、と会長さんが言った所へ。
「こんにちはーっ!」
遊びに来たよ、と飛び込んで来たのが当のソルジャー、ふわりと翻った紫のマント。空いていたソファにストンと腰掛け、「ぼくにもおやつ!」と。
「オッケー、ちょっと待っててねーっ!」
キッチンに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」がイチゴのジャンボシュークリームと紅茶を持って戻って来て、ソルジャーは「ありがとう」とシュークリームにフォークを入れながら。
「…キースが災難だったんだって?」
「あ、ああ…。飛行機に乗り損なったというだけなんだが」
「開かずの踏切だったんだってね、踏切は何かと面倒だよねえ…」
ノルディとドライブしている時にも捕まっちゃうし、とソルジャー、相槌。
「車ごと瞬間移動で抜けられないこともないんだけれど…。こっちの世界のルールもあるしね」
踏切くらいは我慢しようと思っていた、と言うソルジャー。
「だけど、ブルーとぶるぅは我慢してないみたいだねえ? さっきの話じゃ」
「う、うん…。まあ…。時と場合によるけれど…」
「かみお~ん♪ ちゃんと待ってることも多いよ、踏切!」
電車がすぐに通るんだったら待つんだもーん! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコと。
「どんな電車が走って来るかな、って見てて、手を振る時だってあるし!」
「そうなのかい?」
「うんっ! 運がいいとね、沢山の人が電車から手を振ってくれるの!」
それが楽しみ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。確かに小さな子供が手を振っていたら、振り返してくれる人も多そうです。ソルジャーは「なるほどねえ…」と顎に手を当てて。
「踏切はコミュニケーション手段としても役立つわけだね、手を振るとかで」
「それはまあ…。ぶるぅみたいな子供の場合は…」
「だったら、作ってみる価値はあるね! その踏切!」
「「「はあ?」」」
ソルジャーとぶつからないように踏切を作れないかという話だったと思うんですけど、ソルジャーが自分でその踏切を作るんですか…?
会長さんが作りたかったソルジャー遮断機、夢の踏切。けれど無理だと諦めの境地だった所へ来たのがソルジャー、しかも「踏切を作ってみる価値はある」という発言。
「…君が踏切を作るのかい?」
どういうヤツを、と会長さん。
「まさか本物じゃないだろうねえ、それは法律に反するからね!」
踏切は勝手に設置出来ない、とソルジャーに釘を。
「此処に踏切があればいいのに、と思ったとしても作れないんだよ、許可が出ないと!」
「ふうん…? 面倒なんだね、踏切ってヤツは」
「電車がスムーズに走れるようにという意味もあるし、事故を起こさないためでもあるし…。色々と決まりがややこしいんだよ、踏切は!」
「本物はそうかもしれないけれど…。君が言ってたようなヤツならいいんだろう?」
ぶつからないように作る踏切、とソルジャーは会長さんを見詰めて。
「ぼくとぶつからないようにしたいんだっけね、君の理想の踏切は?」
「…そ、そうだけど…。でも、そこまで分かってくれているなら、踏切は別に…」
要らないと思う、と会長さん。
「君が自分で心得てくれればいいだけのことで、踏切で遮断しようとまでは…。君にも事情があるんだってことは知っているから」
こっちの世界でストレス解消してるんだよね、という確認にソルジャーは。
「その通り! SD体制で苦労しているぼくにとっては、こっちの世界はパラダイス!」
ついでに地球だし余計に美味しい、と満面の笑顔。
「おまけに君たちとも遊べるんだしね、今度は踏切で遊んでみたいと!」
「「「踏切?」」」
どう遊ぶのだ、と思いましたが、ソルジャー遮断機な踏切だったら、遮断機を越えて出て来るソルジャーとぶつからないように逃げ回るだとか、そういうゲームをするんでしょうか?
「えーっと…。コミュニケーションとしては、それも面白いんだけど…」
鬼ごっこみたいでいいんだけれど、と言うソルジャー。…その踏切、他に遊び方がありますか?
「遊び方と言うより、踏切の仕組みが別物かな、うん」
「「「別物?」」」
どんな踏切を作る気でしょうか、ソルジャー遮断機と似たような感じで、かつ別物の踏切って?
踏切で遊びたいと言い出したソルジャー、基礎になるものは会長さんのアイデアの筈。ソルジャーが暴走している時でも遮断機が下りて待てば済むだけ、暴走ソルジャーが去って行ったら踏切が開いて通れる仕組みだと思いましたが…。
「そう、そこなんだよ、踏切は電車と人とが出会う場所なんだよ!」
片方は待って、片方は通過してゆく場所で…、とソルジャーは指を一本立てました。
「…でもね、さっき、ぶるぅが言ってたみたいに、電車に手を振る人もいるわけで…。電車の方でも手を振るわけで!」
「それは電車が手を振るっていう意味じゃないから!」
乗客だから、と会長さんが間違いを正すと、「分かってるってば!」という返事。
「そのくらいは分かるよ、だけどアイデアが出来たんだよ! 踏切を使ってコミュニケーション、うんと仲良くなれる方法!」
「「「…へ?」」」
ソルジャーと仲良くなるんでしょうか、踏切の向こうを暴走中の? 今でも充分に仲がいいんだと思ってましたが、もっと仲良くしたいんですかね?
「だから、別物だと言ったじゃないか! 踏切の仕組みが!」
まるで違うのだ、とソルジャー、キッパリ。
「この踏切はね、ある意味、開かずの踏切に近いものかもねえ…」
「「「開かずの踏切?」」」
「そうだよ、行く先々で踏切に出会って通れなかったら、開かずの踏切みたいだろう?」
「…何を作る気?」
何処へ行っても君とバッタリ出会う仕組みじゃないだろうね、と会長さんが訊くと。
「惜しい! もうちょっとってトコだよ、出会いの踏切には違いないしね!」
「「「…出会いの踏切?」」」
ますます分からん、と首を捻った私たちですが、ソルジャーは。
「そのまんまだよ、出会うんだよ! 踏切があれば!」
「…誰に?」
会長さんの問いに、ソルジャーが「出会いで察してくれたまえ」と。
「もうハーレイしかいないじゃないか、こっちの世界の!」
「「「教頭先生!?」」」
教頭先生と出会う踏切って、どんなのですかね、しかも開かずの踏切ですよね…?
ソルジャー曰く、出会いの踏切。それを作ると教頭先生に出会うって…。どういう仕組みの踏切でしょうか、まるで全く謎なんですけど…。
「平たく言うとね、ブルー限定の踏切なんだよ、ぼくじゃなくって、こっちのブルーで!」
そこのブルー、とソルジャーが指差す会長さんの顔。
「ブルーが歩くと出くわす踏切、行く先々でハーレイとぶつかる羽目になるってね!」
「「「ええっ!?」」」
どういうヤツだ、と思いましたが、ソルジャーは自信満々で。
「ぼくはブルーと違って経験値が遥かに高いからねえ、もう簡単なことなんだよ! ブルーとこっちのハーレイの間をちょちょっと細工するだけで!」
「何をするわけ?」
会長さんの声が震えていますが、ソルジャーが気にする筈などが無くて。
「出会えるようにと行動パターンをシンクロさせれば、それでオッケー! 何処へ行ってもバッタリ出会えて、挨拶するしか無いってね!」
出会ったからには挨拶だろう、と極上の笑み。
「ただでも教師と教え子なんだし、別の方面だとソルジャーとキャプテンって関係になるし…。無視して通るというのは無いねえ、それにハーレイはブルーにぞっこん!」
たとえブルーが無視したとしても、ハーレイからは挨拶が来る、と鋭い指摘も。
「一度目は偶然で済むだろうけれど、何度も重なれば偶然とは思えないからねえ…。ハーレイにしてみれば運命の出会いで、もう間違いなく赤い糸だよ!」
そういう糸があるらしいじゃないか、とソルジャーは自分の左手の小指を右手でキュッと。
「小指と小指で赤い糸なんだってね、いつか結婚する二人! それで結ばれているに違いないとハーレイが思い込むのが見えるようだよ、出会いの踏切!」
「迷惑だから!」
そんな踏切は要らないから、と会長さんが叫びましたが、ソルジャーにサラッと無視されて。
「素晴らしいよね、運命の赤い糸に引かれて出会う踏切! ブルー限定!」
「だから、要らないと言ってるのに!」
「ダメダメ、こうでもしないと出会えないしね、もう永遠に!」
「出会いたいとも思わないから!」
あんなのと出会う趣味は無いから、と懸命に断る会長さん。けれどソルジャーは自分の素敵なアイデアに夢中、これは諦めるしか道は無いんじゃあ…?
出会いの踏切は御免蒙ると、お断りだと会長さんは必死に言ったのですけど。ソルジャーは「照れないで、ぼくに任せておいてよ」と片目をパチンと。
「踏切の話が出たのも何かの縁だし、キースが開かずの踏切に捕まって飛行機に乗り遅れたのも、神様からのお告げなんだよ! 出会いの踏切を作れという!」
「お、お告げって…。神様って、それは絶対、違うと思う…!」
キースが出掛けた先はお寺で…、と会長さんが「違う」と主張し、キース君も。
「神様の線は限りなく薄いと思うんだが…。そりゃまあ、行った先の寺の境内にはお稲荷さんの祠もあったが、主役は仏様でだな…!」
「そこはどうでもいいんだよ! 神様だろうが、仏様だろうが、細かいことは!」
誰のお告げかは細かいことだ、とソルジャーも負けてはいませんでした。
「とにかく、ぼくはお告げを受けたし、受けたからには引き受けなくちゃね! ブルーよりも強いサイオンを持っているというメンツにかけても、ここは踏切!」
出会いの踏切を作らなくては、とソルジャーが立てた右手の人差し指。
「えーっと…。まずはブルーで…」
スイッと指が円を描いて、私たちは「ん?」と。
「今の、なんだよ?」
サム君が訊いて、ジョミー君が。
「さあ…? 別になんにも見えなかったけど…?」
いつもだったら青いのがキラッと光る筈で、と言い終わらない内に、ソルジャーの指がスッと壁の方へ。あの方向には本館があったと思います。教頭室も入っている本館。
「お次が、こっち、と。よし、ハーレイは仕事中だし…」
こんな感じで、とスイッと円が描かれ、それから左手の指も出て来てチョイチョイと。えーっと、何かを結んでるように見えますが…?
「はい、正解! 結んだってね、別にやらなくてもいいんだけれど…。ビジュアルってヤツも大切かなあ、と思ってね!」
運命の赤い糸を結んでみましたー! とソルジャーは胸を張りました。
「これで出会いの踏切は完璧、行く先々でバッタリと!」
「ちょ、ちょっと!」
ぼくは頼んでいないんだけど、と会長さんが慌てましたが、ソルジャーの耳には聞こえないのか、都合よく聞き間違えているのか。
「遠慮しないで、受け取っておいて! ぼくのプレゼント、出会いの踏切!」
お幸せにー! と消えたソルジャー、自分の世界へ帰ってしまったみたいですねえ…?
「…出会いの踏切って…」
迷惑にもほどがあるだろう、と会長さんはプリプリと。
「行く先々でハーレイとバッタリで運命の糸って、有り得ないから! それ自体が!」
「それは運命の糸の方なのか、バッタリ出会う方か、どっちだ?」
キース君の問いに、「両方だよ!」と会長さん。
「ぼくとハーレイの間に赤い糸なんかがあるわけがないし、バッタリ出会う方だって無いね! ぼくとハーレイの行き先が重なることなんて無い!」
現に今日だって帰るだけだし…、と会長さんがフンと鼻を鳴らして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「えとえと…。瞬間移動で帰っちゃうんだし、ハーレイと会う場所、何処にも無いよね…」
「ほらね、ぶるぅもそう言ってるし! 会うわけがないよ!」
あれはブルーの脅しも入っているのだろう、と会長さん。
「いくらブルーでも、出会いの踏切とやらを簡単に作れるわけが…。信じて引きこもったら負けってことだよ、人間、大いに出歩かないとね!」
今日は帰って寝るだけとはいえ、この先も存分に出歩いてなんぼ! と会長さんは出会いの踏切を否定しました。騙されたらぼくの負けだから、と。
「…というわけでね、ブルーの罠には引っ掛からないよ。あ、そろそろ帰る時間だっけ?」
「そうだな、今日は邪魔をした」
早い時間から押し掛けてすまん、とキース君が謝ると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ううん、お客様は大歓迎! いつでも来てね!」
「そう言って貰えると有難い。…じゃあ、また明日」
帰ろうか、と立ち上ったキース君と前後して私たちも溜まり場に別れを告げることに。鞄を手にして壁をすり抜け、生徒会室から廊下へと出て歩き始めましたが…。
「あっ、忘れたあ!」
ぶるぅの部屋に携帯端末を置き忘れて来た、とジョミー君が鞄の中を探って、「無い…」と。
「ちょっと取ってくる、少し待ってて!」
「ウッカリ者だねえ…。ちゃんと届けに来たってば」
はい、と会長さんが現れて携帯端末を手渡し、ジョミー君が「ありがとう!」と返した所へ。
「おっ、お前たち、今、帰りか?」
良かったら飯でもおごってやろう、という声が。まさかまさかの教頭先生、これって偶然会っただけですよね、そうですよねえ…?
何故だかバッタリ出会ってしまった教頭先生、それに会長さん。もちろん会長さんはギョッとした筈ですが、そこは教頭先生をオモチャにして長いだけあって、平然と。
「晩御飯、おごってくれるって? ぼくの好みの店は高いよ?」
ついでに、みんなのタクシー代も出してくれるんだろうね、と注文を付けられた教頭先生は。
「任せておけ! 何処へ行くんだ、いつものパルテノンの焼肉屋か?」
「それもいいけど、たまに串カツの店もいいかな、と…。ねえ、ぶるぅ?」
「うんっ! 活けの車海老とかを揚げてくれるの、美味しいんだよ!」
あそこがいいな! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。そのお店には何度も行ってますけど、ハッキリ言って高いです。とても串カツとは思えないお値段、そういうお店。けれど教頭先生は…。
「分かった、私の車とタクシーで行こう。誰が私の車に乗るんだ?」
「「「え、えーっと…」」」
どうしようか、と会長さんを除いた面子でジャンケンで決めたんですけれど…。狙ったかのように柔道部三人組が乗ることになったんですけれど…。
「…おい、怖くないか?」
有り得ないことが起こっていないか、とキース君に訊かれたタクシーの車内。そう、教頭先生の車に乗って行く筈だったキース君がジョミー君と一緒に乗っています。
「うん、怖い…。ブルーがあっちに乗ってるだなんて…」
信じられないよね、とジョミー君も。私たちは学校前でタクシーを二台止めたんですけど、どうしたわけだか、タクシーの車内は芳香剤の匂いが効きすぎていました。一台は異様にオレンジの香りで、もう一台は先にお坊さんの団体様でも乗せていたのかと思うほどの抹香臭さで。
「…あいつが自分で選んだ道だが、予言通りになってるぞ」
教頭先生と出会いまくりだ、とキース君がタクシーの後ろを眺めて、ジョミー君が。
「だよねえ、キースと交代だなんて…」
どうかと思う、と頭を振っているジョミー君。運転手さんには言えませんけど、こちらが抹香臭い一台。会長さんならシールドで防ぐとか方法は色々ありそうな気がするというのに、オレンジの香りの車を見送った後のがコレだと知ったらキース君を捻じ込んで行ったのでした。
「…俺なら職業柄、慣れているだろうとは言いやがったが…」
「ブルーも思い切り、同業者だよね?」
しかも緋色の衣なんだけど、とジョミー君。伝説の高僧、銀青様が会長さんのもう一つの顔。遊びに行く時にそっちの顔は遠慮したかったのかもしれませんけど、教頭先生の車に乗って行くだなんて、例の踏切に引っ掛かったりしてないでしょうね…?
これが出会いの踏切の始まり、もう次の日から会長さんは行く先々で教頭先生とバッタリ出くわす運命に陥ってしまいました。学校はもちろん、買い物に出掛けた店でバッタリ、道でもバッタリ会うというのが恐ろしいです。
「…ど、どうしよう…。ハーレイが勘違いし始めてるのが分かるんだけど…」
運命を感じちゃってるみたいで、と会長さんが愚痴る放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。今日も今日とてバッタバッタと出会いまくりで、昼御飯も一緒に食べる羽目になったのだとか。
「教職員専用食堂も悪くないけど…。ぶるぅもおごって貰えるんだけど…」
なんだって二日に一度というハイペースであそこで食事なのだ、と嘆かれたって困ります。教頭先生とバッタリ会うから誘われるわけで、会わなきゃ誘われないわけで…。
「それは確かにそうなんだけど…! 会ったからにはおごらせてやる、と考えちゃうのも間違いないけど、ハーレイの方では、そろそろ運命…」
赤い糸を夢見ているらしくって、と会長さんが見ている自分の小指。
「このまま行ったら、その内、いつも花束を抱えて歩きかねないから! 学校はともかく、外で買い物とか、散歩の時には!」
「…まるで無いとは言い切れないな。そのパターンもな」
元から惚れてらっしゃるんだし…、とキース君。
「出会いの踏切とはナイスなネーミングだったと思うしかないな、あんたが花束を貰うようになった暁にはな」
「そういうつもりは無いんだってば! 運命の糸も、花束を貰うパターンってヤツも!」
会長さんが反論すると、キース君は。
「しかしだ、あんた、婚約指輪も確かあるんじゃなかったか? 受け取らないで突っ返しただけの高い指輪が」
「「「あー…」」」
あったっけ、と思い出してしまったルビーの指輪。教頭先生が思い込みだけで買ってしまって、家に死蔵してらっしゃるヤツが。
「…そいつの出番が来るかもしれんぞ、花束の次は」
「嘘…。ハーレイがアレを持ち出すだなんて…」
「運命だしなあ、後は時間の問題じゃないか?」
今のペースで会い続けていたら、夏休みまでには指輪が出そうだ、とキース君。私たちだってそう思います。ソルジャーが仕掛けた出会いの踏切、それの遮断機が上がらない限り…。
こうして会長さんと教頭先生は出会いまくりで、花束も登場しそうな勢いに。私たちが校内で見掛ける教頭先生はいつも御機嫌、会長さんとセットで晩御飯も何度も御馳走になりました。豪華な食事が食べられるだけに、私たちは教頭先生と同じでホクホクですけど…。
「…今日も会えるかな、教頭先生」
帰りにバッタリ会えるといいな、とジョミー君が大きく伸びをしている放課後。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は今日も平和で、会長さんだけが黄昏れていて。
「…もう勘弁して欲しいんだけど…。この部屋からウッカリ出てしまうパターン…」
「それはあんたの責任だろうが。俺たちは知らん」
「キース先輩が言う通りですよ。気を付けていれば、出ないで済むと思うんですけど…。あ、今日は中華が食べたいですねえ、豪華にフカヒレ尽くしとか」
「美味そうだよなあ、今日はフカヒレで頼んでくれよ!」
よろしく、とサム君に声を掛けられた会長さんは。
「…サムの頼みだったら、喜んで…。ただし、ハーレイと会ったらだけど」
出来れば会いたくないんだけれど、とブツブツブツ。サム君とは公認カップルと称して付き合えるくせに、教頭先生はお呼びじゃないのが会長さんです。でも…。
「今日も会っちゃうと思うわよ? また野次馬とか、そういう感じで」
「…ぼくは自己嫌悪に陥りそうだよ…!」
スウェナちゃんが言う野次馬というのは、会長さんが一番沢山引っ掛かったケース。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋から外に出なければ教頭先生には会わないというのに、何処かのクラブで何かが起こって野次馬多数、というのに釣られて出てしまうパターン。
「今日も野次馬かな、陸上部で新記録が出るかも、って噂だったし」
新記録だったら間違いなくお祭り騒ぎになるし、とジョミー君がフカヒレ尽くしの中華に期待で、私たちもドキドキワクワクです。新記録が出たら、真っ先に走って出掛けなくては…!
「ぼくは此処から動かないからね!」
「…あんた、そう言いつつ、百パーセントの確率で釣られているだろうが!」
自制心というのは無いのか、とキース君が笑った所へ、部屋の空気がユラリと揺れて。
「…自制心…。それがあったら困らないよ…」
ぼくとしたことがやりすぎた、とバタリと床に倒れたソルジャー。お芝居にしては上手すぎですけど、まさかホントに倒れたんですか…?
あのソルジャーが倒れるなんて、と思ったんですが、お芝居ではありませんでした。キース君たちがソファに寝かせて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が額を冷やして、暫く経つと。
「…出会いの踏切、最高だと思ってたんだけど…。ぼくとハーレイにもかけたんだけど…」
会長さんたちの出会いっぷりが素晴らしかったので、ソルジャーは自分とキャプテンに仕掛けたらしいのです。ただし、グレードアップして。
「…ぼくとバッタリ出会ったら、ヤる! 青の間でなくても、とにかく何処かで!」
備品倉庫の奥とか場所は一杯…、と話すソルジャーが仕掛けた出会いの踏切は大人の時間とセットだった模様。これは素敵だと満喫しまくっていたようですけど…。
「…ぼくはハーレイのパワーを舐めてたみたいで、もう限界で…。体力、気力のどっちも限界、三日間ほどこっちに泊めて…」
このままでは確実に抱き殺される、と呻くソルジャー、出会いの踏切を解除するだけの力も無いのだとか。空間移動をしてきたサイオンがあれば出来ると思いますけどね?
「…それがさ…。空間移動はエイッと飛べばいいんだけど、出会いの踏切の解除の方は…」
より繊細なサイオンの操作が必要で…、とソファで伸びているソルジャーは本当に逃げて来たみたいです。自分が懲りてしまっただけに、会長さんに仕掛けた踏切も解除するそうですけど…。
「…今日の所は無理そうですね?」
寝込んでますしね、とシロエ君が言って、ジョミー君が。
「ぶるぅが運んで行ったしねえ…。ブルーの家まで。…あっ、陸上部!」
記録が出たんじゃないかな、という声の通りに騒いでいる声が聞こえて来ます。これは是非とも駆け付けなければ、そして会長さんが釣られて出て来て…。
「「「フカヒレ尽くし!」」」
ダッシュで行けーっ! と私たちは部屋を飛び出しました。出会いの踏切が有効な内に御馳走になってなんぼです。教頭先生、今夜は中華でどうぞよろしく、フカヒレ尽くしでお願いします~!
出会いの踏切・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが考案した出会いの踏切、効果は抜群みたいですけど、ソルジャーもドツボに。
自分とキャプテンにも仕掛けた結果は、心身ともに疲労困憊。倒れるほどって、凄すぎかも。
次回は 「第3月曜」 3月21日の更新となります、よろしくです~!
パソコンが壊れてUPが遅れてしまった先月。今月は無事に間に合いました…。
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こちらでの場外編、2月は節分、恒例の七福神巡り。けれど今年は厄が多めで…。
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