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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

南極の花
(確かに花には違いないけど…)
 ちっとも綺麗な花じゃないよ、とブルーが眺めた新聞記事。学校から帰って、おやつの時間に。
 一度は滅びて死の星だったのが、青く蘇った今の地球。遥かな昔にそうだったように。
 青い水の星が宇宙に戻って、「大抵の場所には花が咲きます」という記事だから飛び付いた。
 なんて幸せな時代なんだろう、と。
 平和になった今の時代は、花が何処にも無い時なんかは無い時代。地球はもちろん、他の星でもそうだろう。戦争などは何処にも無いから、武器の代わりに花がある時代。
(資源採掘用の基地でも、きっと誰かが育てているよ)
 緑の一つも無い所ではつまらないから、丈夫な植物。花が咲いたら楽しめるように。
 この地球のような惑星だったら、花屋さんの店先に溢れている花。家の庭で育てる花たちが眠る真冬にだって。
(地球の反対側は春だし、そっちから運んでくる花も沢山…)
 反対側まで出掛けなくても、赤道に近いほど暖かくなる。温暖な場所なら花が咲くから、其処で育った花たちも。それに温室で早めに咲かせて、店先に並ぶ花だって。
 とにかく花が絶えない世界。それだけでも素敵になったと前から思っていたけれど。前の自分が生きた時代より、ずっと豊かで幸せな時代だと思っていたけれど…。
(今の地球なら、南極でも花…)
 蘇った青い地球の上では、南極にも花が咲くという。文字通り地の果てになるのが南極、厳しい気候が支配する場所。死の星でなくても、植物たちが生きていくのは大変そうな場所なのに。
 けれど、其処にも咲くらしい花。今の時代は地球はすっかり青くて、緑を育てられるから。
(南極に花があるなんて…)
 いったいどんな花なのだろう、と心を躍らせたのに。雪と氷に覆われた大地、其処に咲くという強い花たちに夢を描いていたのに…。
 南極の花はたった二種類、それしか花をつけないという。他の植物には花が咲かない。
 「これが南極の花たちです」と添えられた写真、それを目にしたら零れた溜息。頭の中に描いた花とは、まるで違ったものだったから。
 ナンキョクコメススキとナンキョクナデシコ、南極に咲くのはその二種類だけ。おまけにとても地味な花。特にナンキョクコメススキの方は。



 しげしげと見詰めた二つの写真。南極の地面を彩る花たち。花と言われれば花だけれども…。
(こんなの、ススキじゃないんだから…)
 ススキはもっと綺麗だもんね、と思い浮かべたススキの穂。お月見の時に、ハーレイがススキを持って来てくれた。「今夜は中秋の名月だしな」と。
 煌々と輝く月を仰いで、庭でお月見。冴え冴えとした月にも見劣りしなかったススキ。もっともあれはススキの穂だから、花の時にはもう少し…。
(地味だろうけど、でもこれよりは…)
 ちゃんとススキに見える筈だよ、と眺めるナンキョクコメススキの花。何処となく稲に似ている花。けれど稲ほど立派ではなくて、まるで雑草。道端や庭の嫌われ者の。
 「また生えて来た」とヒョイと抜かれて、捨てられてしまう雑草の花。それの一つだと書かれていたって、きっと疑わないだろう。ナンキョクコメススキの花は。
 もう一つの花のナンキョクナデシコ、そちらもナデシコらしくない。ナデシコだったら、もっと花びらが目立つのに。花を見たなら「ナデシコだよね」と分かるくらいに。
 けれどナンキョクナデシコの花は、まるでナデシコに似ていない。その上、花もうんと小さい。これから咲くのかと思いそうなほど、控えめすぎる白い花。
(…ちょっとガッカリ…)
 せっかく花が咲くというのに、こんな花では見応えがない。咲いていたって、気付きもしないで通り過ぎそうなくらいに目立たない花。ススキも、それにナデシコだって。
(砂漠に出来る花園だったら、綺麗なのにね…)
 雨が降ったら生まれるという砂漠の花園。その花たちの写真もある。何も無い時の砂漠の写真も添えて、「花が咲いたらこう変わります」と。
 色鮮やかな砂漠の花たち、そちらは如何にも花らしい。見に行くツアーも人気だという。花園が生まれそうな季節に、砂漠がある地域に滞在する旅。雨が降ったら、砂漠に出発。
(砂漠の花園も、ヒマラヤに咲く青いケシの花も…)
 青い地球の上に生まれたからには、見てみたい気がするけれど。前の自分が焦がれ続けた、青いケシは是非、と思うけれども、南極の花は要らないかな、という気分。
 ハーレイといつか出掛けてゆくには、あまりにも地味な花だから。こんな所にも花があるよ、と眺める相手が雑草だなんて、旅に出掛ける甲斐が無いから。



 こんな花だとガッカリだしね、と新聞を閉じて戻った二階の部屋。勉強机の前に座って、頬杖をついて考える。さっき見て来た花たちのことを。
 今の時代もある南極。前の自分たちが生きた時代と、大陸の形は違うけれども。それでも地球の南の果てには南極大陸、雪と氷に覆われた世界。
(もっと素敵な花が咲くなら…)
 ハーレイと行ってみたいのに。「凄いね」と南極に咲く花を眺める旅に。
 一度は滅びてしまった地球。それが蘇って南極にまで花が咲くなら、ハーレイと二人で出掛けてみたい。母なる地球は豊かな星だと、きっと実感できるから。
 たとえ寒くても、雪と氷に覆われていても、かまわない。其処で逞しく生きる花たち、その花を見に行けるのならば。…寒すぎて風邪を引いたって。後で寝込んでしまったって。
(雪のシーズンだと咲かないのかな?)
 どうなんだろう、と思った南極に咲く花たち。二種類だけの地味な花たちが咲く季節。
 記事の写真には無かった白い氷と雪。たまたま写っていなかっただけか、違う季節に写したか。南極にも短い夏があるから、その頃に咲く花だとしても…。
(やっぱり地味…)
 雑草にしか見えないススキと、ナデシコらしくないナデシコ。もしもこの辺りで咲いたなら…。
(家の庭ならママが抜いちゃって、道端だったら誰かが抜いて…)
 きっとゴミだ、と断言できる。誰も愛でたりしない花たち。「雑草が生えた」と抜くだけで。
 雑草だって、綺麗な花を咲かせる種類があるというのに。庭の芝生のクローバーだって、雑草の内には違いない。広がりすぎたら芝生が駄目になるから、と抜いたり刈ったりするのだから。
(クローバーの方が、ずっと綺麗な花だよ)
 南極に咲くというススキとナデシコ、あれよりはずっと。白いシャングリラの公園にもあった、花らしい花がクローバー。
 それに比べて地味すぎるのが、ナンキョクコメススキとナンキョクナデシコ。
 地球に焦がれた前の自分も、あれには焦がれなかっただろう。青い地球まで辿り着いたら、見てみたかった色々な花。スズランやヒマラヤの青いケシには夢を抱いていたけれど…。
 あんな花ではとても駄目だ、と思う南極の地味な花たち。前の自分が知っていたって、見たいと望みはしなかったろう。「何かのついでに行くことがあれば」と思う程度で。



 きっとそうだよ、と考える、前の自分が地球に描いていた夢。青く輝く星を見るのが夢だった。青い水の星に持っていた夢は、どれも素敵なものばかり。
(もっと綺麗で夢がないとね?)
 前のぼくの憧れになるのなら、という気がするから、南極に咲く花たちは無理。前の自分の夢のリストに加えて貰えはしない。いくら健気に咲いていたって、地味すぎるから。
 ヒマラヤの青いケシの花なら、天上の青だと思ったけれど。人を寄せ付けない神々の峰に、凛と咲く青いケシの花。地球に着いたら見に行きたいと、ヒマラヤまで空を飛んでゆこうと。
 スズランの花も欲しかった。五月一日には恋人たちが贈り合うから、ハーレイに贈ろうと夢見た花。希少価値が高い森のスズラン、自生しているスズランの花を探して摘もうと。
 そんな具合に描いた夢。沢山の夢を持っていたけれど、南極の花は夢見なかった。花が咲くとは知らなかったし、知っていたとしても、見に行きたいとは…。
(思わないよね、あんな雑草みたいな花じゃ…)
 わざわざ出掛ける値打ちが無いよ、と思っていたらチャイムの音。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれたから、あの花を持ち出すことにした。ハーレイだって、夢が無いと思うだろうから。
「あのね、南極の花って知ってる?」
 南極に行ったら咲いている花。…地球の端っこみたいな所で。
「南極なあ…。咲くだろうなあ、花だって。…今の地球なら」
 前の俺が見たような地球だと、南極でなくても花なんか咲きやしないんだが…。あんな星では、花も緑も無かったんだが…。今なら花も咲くだろう。地球は立派に蘇ったから。
 南極で育つ植物に花が咲くんならな、と頬を緩めたハーレイ。「厳しい気候の場所だが」と。
「二種類だけ咲くって書いてあったよ、今日の新聞に」
「ほほう…。苔だけじゃないんだな。その様子だと」
 どんな花なんだ、俺は詳しくないからな。南極に出掛けたことも無いから。
 それに古典の舞台でもない、と言われた南極。古典と呼ばれる名作を書くには、確かに不向きな場所だったろう。人がのんびり暮らしてゆけるイメージはまるで無いのだから。
「それがね…。花なんだけれど、凄く地味なんだってば」
 ススキとナデシコらしいんだけど…。
 名前だけなら、ナンキョクコメススキとナンキョクナデシコって、立派な名前なんだけど…。



 南極って名前がついているだけ、と差し出した右手。「ぼくの心を読んでみて」と。
 サイオンが不器用な今の自分は、思念を上手く紡げないから。あの花たちの写真を直接、思念で送れはしないから。
「こんな花だよ、手を絡めたら見えるでしょ? …これだってば」
 夢が無いよね、と見せたイメージ。雑草みたいな二種類の花。ハーレイは暫くそれを見詰めて、手を離してから微笑んだ。それは穏やかに。
「確かに地味だな、ススキとナデシコとついてる割には」
 ススキはススキに見えやしないし、ナデシコだって同じ花とも思えないほど地味なんだが…。
 しかし夢なら詰まってそうだぞ、この花たちは。…お前は夢が無いと言ったが。
 この中に夢がたっぷりだ、とハーレイが言うから驚いた。前の自分の夢のリストに、入りそうもない花なのに。青いケシやら、森のスズランとは違うのに。
「…なんで? どう見ても雑草だよ?」
 前のぼくだって、憧れそうにないけれど…。南極の花だって聞かされたって、見に行きたいとも思わなくって。…綺麗な花じゃないんだから。
「そうだったかもしれないが…。その花が咲くのは南極だろう?」
「そうだよ、今の時代の地球の。南極大陸は今もあるしね、形は変わっちゃったけど…」
 地球の南極に行けばあるよ、と答えた花たちが咲いている場所。雪と氷が覆う大陸。
「其処だな、俺が言いたいのは。…夢が詰まっているというヤツ」
 青い地球が立派に蘇ったからこそ、その花たちも咲けるんだ。南極に行けば花が見られる。
 それも大切だが、南極って所はどういう場所だ?
 地味な花しか咲かない場所だ、というのは横へ置いてだな…。南極のことを考えてみろ。
 南極はどんな所なんだ、と尋ねられたから傾げた首。どの辺りが夢に繋がるのだろう、と。
「えーっと…?」
 何も無いよね、南極って…。うんと寒くて、雪と氷の世界だから。
 冬になったら真っ暗になって、太陽が出て来なくって…。逆に夏だと、昼間がうんと長くって。
 後はペンギンが住んでいるんだよね、皇帝ペンギンだったっけ?
 シロクマがいるのは南極じゃなくて、北極だったと思うから…。ペンギンくらい…?



 そういう場所でしょ、と今の自分が知っている南極のことを話した。遠い昔も、あまり変わりはしなかったろう。地球が滅びに向かうよりも前の、元の南極大陸だって。
「それで合ってはいるんだが…。今の南極はそんな具合で、ずっと昔も同じだな」
 人間が地球しか知らなかった時代は、観測所くらいしか無かった所だ。…南極ってトコは。
 あちこちに国があったというのに、南極だけは何処の領土にもならなかった。色々な国が観測に出掛けて、基地を作っていたらしいがな。
 しかし、それだけで終わっちまった。南極にだけは国境線を引かなかったんだ。そうしよう、と全部の国の間で決まったから。「南極は何処の領土にもしない」と。
 そういう決まりを作ってみたって、誰も反対しなかった。戦争だらけの時代だったのにな?
 土地があるなら占領したいし、其処で採れる資源なんかも欲しい。そいつを巡って争いばかりの時代だったのに、南極だけは違ったわけだ。何処も奪いやしなかった。
 それほど自然が厳しかったということだな。是非うちの国の領土に欲しい、と思ってみたって、管理するのも大変だから。雪と氷に覆われてるんじゃ、住むだけでも苦労するだろうが。
 兵隊だって逃げ出しちまう、とハーレイが軽く広げた両手。「寒いんだぞ?」と。
「そうだよね…。人類なんだし、寒くてもシールド出来ないし…」
 防寒具だって、そんな頃だと今よりもずっと落ちるから…。前のぼくたちが生きた頃より、まだ前の時代の話なんだから…。
 凍えちゃうよね、住んでるだけで。…建物の暖房が壊れちゃったら、それでおしまい…。
 中で凍えて死んでしまうよ、と震わせた肩。前の自分がアルタミラでされた低温実験、その時の寒さと恐ろしさを思い出したから。…強化ガラスに幾つも咲いた氷の花を。
「そうなったろうな。暖房器具は壊れてなくても、エネルギーの方が切れちまったら」
 食料も燃料も、他所から運んで行ったんだから。悪天候で補給出来なきゃ終わりだ、暖房設備が止まっちまって。…ありったけの服を着込んでみたって、まず耐えられはしなかったろう。
 そんな場所でも花が咲くんだ、ずっと昔から。
 地球が滅びてしまう前には、さっきお前が見せてくれた花たちが咲いていたってな。
 今の地球では、昔の通りに植物を植えているわけだから…。
 南極に二種類の花があるなら、そいつは元からあったんだ。滅びてなくなっちまう前には。



 ススキに見えないススキもそうだし、ナデシコだって…、と説明されなくても分かる。遠い昔も南極に行けば、あの花たちがあっただろうと。
(だけど地味だし、南極なんかは寒いだけだし…)
 前のぼくは憧れたりはしないよ、と思う南極の地味な花たち。夢は詰まっていそうにない。どう考えてみても、過酷なだけの南極大陸。アルタミラの地獄を思い出したほどの寒さだから。
(夢なんか、何処にも無さそうだけど…)
 誰も欲しがらなかった場所だよ、と不思議でたまらない「夢」のこと。何故、ハーレイは南極の花に夢があるなどと言うのだろう、と。
「…ハーレイ、夢は何処にあるわけ?」
 南極にも花にも、夢は少しも無さそうだけど…、と尋ねてみたら。
「慌てるな。ちゃんと順番に話してやるから」
 南極って所がどういう場所かは分かっただろう。今も昔も雪と氷で、とても過酷な環境だと。
 其処で立派に花が育って咲いてるわけだが、アルテメシアはどうだった?
 前の俺たちがいたアルテメシア、と問い掛けられた。「雲海の星のアルテメシアだ」と。
「え? アルテメシアって…」
 あそこは人が暮らしてたじゃない、育英都市が二つもあって。…アタラクシアとエネルゲイア。
 南極なんかとは全然違うよ、誰も凍えたりしなかったしね。家の中に籠っていなくても。
 でなきゃ育英都市を作りはしないよ、と答えたけれど。あの星は恵まれた星だったけれど…。
「人類が暮らしていた場所だったら、お前が言ってる通りなんだが…。それ以外の場所だ」
 育英都市の外は荒地だったぞ、あそこに花はあったのか?
 俺たちの船が飛んでた雲海の下は、何処でも荒地だっただろうが。あの荒地にも花はあったか、それをお前に訊いている。お前、あそこで花なんか、見たか…?
 前のお前は見掛けたのか、という質問。アルテメシアの荒地に花はあったのか。
「どうだったんだろう…?」
 あんな所には降りてないから、知らないよ。前のぼくは上を飛んでいただけ。
 ミュウの子供を殺す人類、あそこまでは出て来なかったから…。潜む必要だって無かったもの。
 あそこに花が咲いていたって、前のぼくは気付きもしないってば。
 降りて眺めることが無いから、どんな花が咲いていたってね。



 綺麗な花は無かっただろうと思うけど…、と思い浮かべたアルテメシア。
 二つの育英都市の外には、荒涼とした荒地だけ。あそこに花があったとしたって、美しい花ではなかっただろう。それこそ南極の花たちのような地味な雑草、その程度で。
「ほらな、お前も知らないわけだ。ついでに花を目にしちゃいない、と」
 あの時代には、俺も調べちゃいないがな…。あそこに花が咲いてたかどうか、そんな細かいことまでは。…調べても意味が無いもんだから。何の役にも立ちやしないし。
 データを集めてさえもいないが、しかし、今なら俺にも分かる。
 多分、花など無かっただろう。荒地の何処を探してみたって、花なんてヤツは欠片さえもな。
 育英都市は二つもあったが、テラフォーミングをしてあった所は都市だけだ。人間が暮らす都市部分だけで、山だって放ってあったんだから。岩山のままで。
 山を越えるな、という規則を作ったせいだけじゃない。…きっと面倒だったんだ。どうせ誰一人行きやしないし、外に出るのは限られた人間だけだったから。
 そんな所まで整備しなくても誰も困らん、といった具合で放っておいたというわけだ。
 ただ、そうやって放っておかれたアルテメシアの荒地って所。
 お前が言ってた南極に比べりゃ、遥かにマシな環境だろうと思わんか…?
 寒くもないし…、と言われればそう。アルテメシアの雲海の下は、雪と氷の世界ではなかった。荒れ果てた大地が広がる世界で、人間が住んでいなかっただけ。
(ペンギンも住んでなかったけれどね…)
 南極だったらペンギンだよね、と思った生き物。その生き物の影も、アルテメシアでは目にしていない。二つの育英都市の外では。
 いくら降りてはいないと言っても、いたなら気付きそうなのに。植物は動きはしないけれども、動物は動くものだから。「何か動いた」と、何かのはずみに。
「…南極よりかはマシそうだよね…」
 アルテメシアの荒地の方が、よっぽどマシ。寒すぎもしないし、雪と氷の世界でもないし…。
 だけど本当に荒地だったよ、生き物だって見なかったから。
 南極だったらペンギンがいるけど、あそこでは何も見てないんだもの。動くものはね。
 うんと小さなネズミとかなら、見落としたって不思議じゃないけど、それでも群れなら気付くと思う。何かいるな、って気配くらいは分かりそうでしょ?



 何もいない荒地だったみたい、と前の自分が見ていた景色を思う。
 雲海の下を何処まで飛んでも、生き物の影は無かった星。人類が暮らす育英都市に着くまでは。あそこで目にした動くものと言えば、二つの育英都市の間を移動してゆく車両などだけ。
(あれは人類が乗ってたんだし…)
 荒地で生きる動物ではなくて、其処を通ってゆくだけのもの。それ以外に動くものなど無かった不毛の大地。今の地球にある南極よりも、遥かにマシな環境なのに。雪も氷も厳しい寒さも、あの荒れた土地を覆い尽くしてはいなかったのに。
「前のぼく、生き物は何も見ていないけど…。花だってそれと同じかな?」
 ハーレイが無かったって言ってるみたいに、あそこに花は無かったのかな…?
 前のぼくが見てないだけじゃなくって、降りてみたって何処にも無くて。テラフォーミングしていないんだったら、何も植わってないままで…。
「そうじゃないかと思うんだが…。整備しなけりゃ、何も育ちやしないから」
 テラフォーミングした惑星の場合は、そうなっちまう。元は何も無い場所なんだしな。
 アルテメシアがそういう星でなければ、事情は変わっていただろう。最初から植物が育つ環境、そいつを持った星だったなら。
 あの荒地だって、今の地球なら岩砂漠ってことになると思うぞ。岩だらけの砂漠、色々な地域にあるというのは知ってるだろう?
 岩砂漠でも生き物はいるし、植物だって育つんだ。アルテメシアが地球のような星なら、荒地に似合いの植物が。…雲海が影響しないんだったら、うんとデカくなるサボテンだって。
 雲海のせいで湿度が高くなるなら、昔の地球にあったギアナ高地に似ていたかもな。
 岩の具合が少し似てるか…、とハーレイが笑みを浮かべるけれど。
「ギアナ高地って…?」
 それって何なの、今はおんなじ名前の地域は無いの…?
 今もあるなら、ハーレイ、そっちを挙げそうだものね。「知ってるか?」って。
「冴えてるな、お前。…生憎と今は無いんだよなあ、ギアナ高地は」
 新しい陸地が生まれたからって、何もかもが前と同じようにはいかないらしい。流石の地球も。
 ギアナ高地を名乗りたくても、同じ地形と条件の場所が何処にも無かったモンだから…。



 その名の通りに消えちまった、とハーレイが教えてくれた本。ギアナ高地を描いたもの。
 「失われた世界」というタイトルのそれは、紀行文ではなくて、想像だけで記された本。ギアナ高地に近付くことは、当時は不可能だったから。
「失われた世界、と名付けるほどだし、大昔のままの世界だと思われていたんだな」
 テーブルみたいな高い台地が、幾つも聳えていたらしい。切り立った崖で、とても登れそうにはないヤツが。見上げるような岩の壁だな。
 その上に行けば、恐竜が今も生きているんだ、という話まであって、「失われた世界」の中身はソレだ。そういう世界を探検してゆく、冒険物語といった所か。
 読んだヤツらが納得しなけりゃ、物語としては失敗なんだし、当時は信じて貰えたわけだ。あの場所だったら、恐竜がいてもおかしくない、と。
 長い長い間、誰も近付けやしなかった。ギアナ高地の名前ばかりが有名になって。
 それでも雨が多かったせいで、植物がとても豊富に茂っていたそうだ。やっと人間が辿り着いてみたら、恐竜がいる世界の代わりに豊かな緑。
 今の時代も、同じ地形が出来ていたなら、きっと再現したんだろうが…。
 残念なことに、何処を探してもギアナ高地に出来そうな場所は無かったんだ。失われた世界は、名前の通りに二度と戻って来なかった。
 だがな…。そんな具合に人間が眺めに出掛ける前から、ギアナ高地はあったってわけで…。
 この意味が分かるか、と尋ねられた。「人間は誰も見に行かないんだが?」と。
「んーと…。今までの話と関係があるの?」
 その質問、とキョトンとしたら、「大いにな」と返った返事。
「誰も見に来ちゃくれなかったんだぞ、崖を登って行ける時代が来るまでは」
 どんなに綺麗な花が咲こうが、緑がドッサリ茂っていようが、感動してくれる人間は来ない。
 それでもせっせと花を咲かせて、種を落として、次の世代を育て続けていたわけだ。人間の目は気にもしないで、いるかどうかも考えないで。
 南極にしても、それと同じだ。
 ギアナ高地は、恐竜がいると思われたほどだから暖かいんだが…。人間にとっては過酷な場所に出来ていたから、南極とさほど変わりやしない。「誰も来ない」という意味ではな。



 南極の花も、ギアナ高地の花も、人間のために咲いてはいない、と言うハーレイ。今の時代は、ギアナ高地は無いけれど。其処を描いた本のタイトルのように、失われた世界なのだけど。
「人間様がいようが、いまいが、関係ないのが地球って星だ」
 地球を滅ぼしたのは人間だったが、そうなる前は地球が全てを育ててた。植物も動物も、地球が生み出しては育てて来たんだ。
 そんな星だから、花たちだって何処ででも咲いた。南極だろうが、ギアナ高地だろうが。
 今の花たちは蘇った地球に植え直したヤツだが、昔の地球では人間なんかがいなくても咲いて、誰も来なくても咲き続けたんだ。地味な花でも、鮮やかな花でも。
 だから南極で生きている花も、立派に咲く。お前に「地味だ」と言われちまっても。
 しかし、アルテメシアじゃ何も咲いてはいなかった。…育英都市から出てしまったら。あそこに植物は生えていなくて、花だって咲いちゃいなかったんだ。
 その必要は無かったんだから、と言われれば分かる。前の自分が生きた時代の話なのだし、地球さえも死の星だったほど。他の星にまで、余計な手間はかけられない。
「…テラフォーミングは必要な部分だけ、ってことだね…」
 星全体に手を加えられるほど、人間に余裕が無かったから…。アルテメシアを丸ごと全部、緑の星にしてはいられないから。…技術もコストも、かかりすぎて。
 だから荒地に植物なんかは無かったんだね、とアルテメシアの岩砂漠を思う。人類が手を入れていなかった場所に、花は咲かない。元から種など無かったのだし、芽吹くことなど無いのだから。
「あの時代だから、それで当然なんだがな…」
 首都惑星だったノアは、地球のようだと思ったくらいに青かった。人類が最初に入植した星で、長い年月をかけて整備をしていたから。…だが、それ以外の星は何処でも中途半端だ。
 俺たちがナスカに降りた時にも、自生している植物なんかは影も形も無かったな。
 人類が破棄して、撤収しちまった後は、手が行き届かなくなって絶滅だ。せっせと育てただろう作物も、庭に植えてた木や花だって。
 雑草でさえも消えてしまっていたなあ、「何も無い星だ」と誰もが思った。
 トォニィが生まれた時に降った雨、あれで花園が生まれるまでは。…人類が植えた植物は全部、滅びたんだと思われていた。それまでは何処にも、何も見当たらなかったんだから。



 そういう時代に生きていたのが前のお前や俺たちで…、とハーレイは語る。人間が暮らす場所でだけ植物が育った時代。何処の星でも、人間のためにあった植物。
 育英都市が二つもあったアルテメシアも、けして例外ではなかった時代。都市を出たなら、もう植物の影は無かった。人類はそれを育てようともしなかったから。…そんな場所では。
「ところが、今の時代はだな…。人間様が行かないような場所にも花なんだ」
 ギアナ高地は消えちまったが、南極は今もあるってな。相変わらず厳しい気候のままで。
 其処に咲いてる花なんだから、地味でも別にかまわんじゃないか。お前が「地味だ」とガッカリしようが、花たちはまるで気にしちゃいない。そういう姿の花なんだから。
 ナンキョクコメススキも、ナンキョクナデシコも、ずっと昔から同じ姿で咲き続けてる。
 地球が滅びちまった時には、保存用の施設に移住するしか無かったろうが…。今は元通りの所に戻れて、南極で咲いているってわけだ。
 いいか、よくよく考えてみろよ?
 花たちは何のために咲くんだ、どうして花を咲かせるんだ…?
 お前に見て貰うためなのか、とハーレイに覗き込まれた瞳。「どう思うんだ?」と。
「…次の世代を育てるためだよ、花が咲かなきゃ種が出来ないし…」
 種以外で増える植物もあるけど、種で増えるのなら花が咲かなきゃ…。地味な花でも、ちゃんと咲かないと種が出来てはくれないから…。
 ぼくが見てるか見ていないかは関係ないよね、と落とした肩。どうやら自分は、南極に咲く花を誤解していたらしいから。過酷な場所でも咲いているだけで凄いのに。
「分かったか? 南極の花は、「見て下さい」と人間のために咲く花じゃないんだ」
 庭に植えて楽しむ薔薇なんかとは違う、本当の意味での花ってヤツだな。
 薔薇は人間が手を加えすぎて、自分の力じゃ子孫を増やせない品種も多いらしいから…。逞しく生きてゆくには不向きで、ひ弱になった花とも言える。
 本物の花は南極の花で、地味でも立派に咲いて子孫を増やすんだ。雪と氷の世界でも。
 まあ、ヒマラヤの青いケシだって、似たようなものではあるんだが…。
 今のお前が見に行きたくても、そう簡単には見られない。高い山でしか咲かないだけに、酸素も薄くて、登ってゆくのも息をするのも大変だしな。過酷な環境で咲くというのは似てるだろう。
 もっとも、あっちは、高い峠を越えてゆく人間は見ていたそうだから…。



 人間が行ける環境だったら、喜びそうな花が咲くのかもな、とハーレイは笑う。
 「神様も考えて下さっていたかもしれん」と。青い地球の上に花を作る時に、いつか見るだろう人間のことまで考えて。
「ヒマラヤの青いケシならそうだろ、高い峠を越えようとしたら咲いているんだから」
 よく頑張って此処まで来たな、と旅の疲れが癒えるように咲かせて下さった花。…果物みたいに食えはしないが、ホッと一息つけただろう。綺麗な花だ、と心が和んで。
 南極の花も、お前は地味だとガッカリしてるが、神様の御褒美かもしれん。
 地味な花でも、其処まで行こうって探検家たちには、喜ばれそうだと思わないか…?
 彼らは華やかな花には期待していなかったろう、と言われてみればそうかもしれない。雪と氷の大陸に行くなら、植物があるというだけでも奇跡。岩だらけの荒地ではなくて。
(…それに苔とか、そんなのじゃなくて…)
 曲がりなりにも花が咲くもの、雑草のような花だって。庭や道端に生えていたなら、雑草として引っこ抜かれそうな姿を持っているものだって。
「…そっか…。地球だからだよね、何処に行っても花があるのは」
 南極でも、今は無くなっちゃったギアナ高地っていう所でも。…人間は関係なかったから。
 神様が植物を作り出した時に、其処で育ってゆけるように、って色々なのを作ったんだから…。
 地味な花でも花は花だし、地球だから何処に行っても花…。
 テラフォーミングをしたわけじゃなくて、最初から植物が育っていける星だったから。
 それで人間が行ったことのない場所にも花があったんだよね、と遥かな昔に思いを馳せる。今はもう無いギアナ高地は、人間が其処に登る前から豊かな緑を育て続けた。…誰も来ないのに。
 雪と氷に覆われた世界、南極でも花が咲き続けた。南極を目指す探検家たちが、厚く凍った海を乗り越えて、大陸に足を踏み入れるまで。「花が咲いている」と驚く時がやって来るまで。
「分かったようだな、花があるってことの素晴らしさが」
 人間が手を加えなくても、何処にだって花があったのが地球だ。
 あんな崖はとても登れやしない、と見上げるだけだったギアナ高地でも、あまりの寒さに探検家さえも近付けなかった南極でも。
 そいつが昔のアルテメシアなら、育英都市から外に出た途端に、花なんか消えていたんだが…。
 雑草さえも生えはしなくて、荒れ果てた岩の砂漠が広がっているだけだったがな…。



 花がある場所を考えてみれば、夢もロマンもたっぷりだろう、とハーレイに教えられたこと。
 地味だと思った南極の花も、夢がたっぷり詰まっている。あまりに地味な花だったせいで、夢が無い花だと決め付けたのに。…ハーレイにもそう話したのに。
「…南極の花、夢が一杯なんだね…」
 前のぼくが最後まで行きたかった地球、あの頃は青くなかったけれど…。死の星のままで、花は何処にも無かったんだけど…。
 滅びる前の青い地球だった頃は、人間なんか行かない場所でも、いろんな花が咲いてたんだね。
 それから滅びてしまったけれども、今はまた青い地球があるから…。
 ギアナ高地は消えちゃったけれど、南極には今も花が二種類。昔のまんまのススキとナデシコ、ちゃんと今でも咲いてるんだね…。
 ススキにもナデシコにも見えないけれど…、と苦笑した。夢が一杯詰まった花でも、地味な姿は変わらないから。ナンキョクコメススキとナンキョクナデシコは、見た目は雑草なのだから。
「そいつが少々、残念な所なんだがなあ…。南極の花は」
 ヒマラヤの青いケシの方なら、誰が見たって綺麗なんだが…。今も人気の花なんだがな。
 南極の花は、とんと知らんと思ったら…。あんなに地味では仕方ない。
 わざわざ花を眺めに行こう、とツアーを組むには地味すぎる。青いケシとか、雨の後に生まれる砂漠の綺麗な花園だったら、見に行くツアーも多いんだが…。
 あれじゃ無理だ、とハーレイも認める南極に咲く花たちの姿の地味さ。旅に出掛けて、この目で見たい、と誰もが夢見る綺麗な花とは違うから。
「そうだよね…。夢は一杯なんだけど…」
 ツアーの話は、新聞にも載っていなかったよ。砂漠に生まれる花園だったら、ちゃんとツアーがあるって書かれていたけれど…。
 季節になったら出掛けて行って、雨が降るのをホテルで待つ、って。
 ヒマラヤの青いケシの花だって、見に行くツアーがあるんだよね…?
 前にハーレイが言ってたみたいに、ヤクの背中に乗っかったりして山を登って行くツアー。
 だけど、南極のは無いみたい…。花を見に行くツアーなんかは。
 きっと南極ツアーだったら、花を見るよりペンギンだよね…。



 そっちの方が人気がありそう、と思った南極に行くツアー。地味な花より、可愛いペンギン。
 南極に咲く花の価値には、大抵の人はきっと気付きはしないから。…青い地球に焦がれた記憶を持っている今の自分も、「夢が無い」と思ったほどだから。
「…ねえ、ハーレイ。今の地球だと、南極にも花が咲くけれど…。昔の地球と同じだけれど…」
 他の星だとどうなってるかな、今の時代は?
 やっぱりテラフォーミングされた場所しか植物は無くて、人間が住んでる場所だけなのかな…?
 花や緑がある所は…、と訊いてみた。学校の授業では教わらないから、まるで知らない。
「俺もそれほど詳しくはないが…。アルテメシアなら、ずいぶん変わっているようだぞ」
 雲海の星なのは同じなんだが、もう荒地ではないらしい。…昔みたいな岩砂漠が減って。
 アタラクシアとエネルゲイアの他にも町が出来てるそうだし、それを繋いでる道路も出来た。
 前の俺たちが生きてた頃には、アタラクシアとエネルゲイアを結ぶ道路も無かったのにな…?
 機械が決めた規則が消えたら、色々と変わるものらしい、と教えて貰った今の雲海の星。荒地に生まれた新しい町や、町と町とを結ぶ道路や。
「…じゃあ、植物も増えたかな?」
 町や道路が出来たんだったら、その分、緑も増やさないとね。…町には街路樹も公園も要るし、道路にだって街路樹がありそう。
 アルテメシアにピッタリの木が…、と思った街路樹。あの星の上にどんな道路が走って、どんな街路樹が植わったろうか、と。
「そりゃ、植物も増えただろう。お前の言うような木だって増えるし…」
 人間が自由に行き来するんだから、町から離れた道路沿いにだって住んでいる人がいそうだぞ。前の俺たちがナスカでやったみたいに、岩砂漠の荒地を開墾して。
 車で走れば、驚くくらいに広い農場があるかもな。トウモロコシとかをドッサリ植えて。
 見に行きたいか、今のアルテメシアを…?
 あそこにはシャングリラの森もあるしな、と出て来た名前。白いシャングリラを解体した時に、移された木たちが植えられた森。今はどの木も代替わりをして、子孫になっているけれど。
「んーと…」
 シャングリラの森は、見てみたい気もするけれど…。
 でも、前のぼくが知っていた木たちは、とうに寿命で、今は子孫の木になってるしね…。



 どうしようかな、と考えたけれど、アルテメシアに行くよりは地球の方がいい。
 同じように旅をするのなら。
 植物があるかどうかを見に出掛けるなら、南極とか、砂漠の花園だとか。…どの花たちも、人がいなくても咲いていたもの。遠い昔から、この地球の上で。
 一度は滅びてしまったけれども、また蘇った青い地球。ギアナ高地は無くなったけれど、南極は今もあるのだから。…ちゃんと二種類の花が咲く場所が。
「アルテメシアまで旅行するより、南極がいいな」
「南極だって?」
 お前、ペンギンが好きだったのか、とハーレイが目を丸くするから、首を横に振った。
「ペンギンにも会ってみたいけど…。それよりも花を見に行きたいな」
 雪と氷の世界の中で、頑張ってる花を見に行くんだよ。南極って名前がついているけど、地味なススキとナデシコを。
 どっちもうんと地味だけれども、とても頑張って南極で咲いているんだから…。
 花を見に行くツアーも無いのに、ちゃんと毎年咲くんだから。人間が見てくれなくっても。
 それに砂漠に出来る花園、それも見に行きたいんだけど…。
 ナスカに生まれた奇跡の花園、前のぼくは見ていないから…。それの代わりに、今の地球のを。
 砂漠の花園みたいだったんでしょ、とハーレイの鳶色の瞳を見詰めた。前のハーレイの同じ瞳が花園を見た筈だから。…赤いナスカに生まれた奇跡の花園を。
「南極と砂漠の花園か…。俺たちの旅先、また増えるのか?」
 旅行の予定は色々とあるが、今度は南極と砂漠が追加されるってか…?
「…駄目…?」
「いや、いいが…。そいつがお前の夢だったらな」
 植物を見に行く旅もいいよな、前から約束してるのもあるし。
 ヒマラヤの青いケシを見るのと、森のスズランを探しに行くのと…。
 それから砂糖カエデの森だな、メープルシロップの材料になる樹液を集めるシーズンに。
 前のお前と約束していた旅も多いし、今のお前の夢が増えても俺は一向にかまわないから。



 南極と砂漠の花を見る旅も追加なんだな、とハーレイがウインクしてくれたから。
 「お前の夢を叶えてやるのが、俺の役目というヤツだ」と頼もしい言葉もくれたから…。
 いつかハーレイと結婚したなら、南極に咲くという地味な花たちを見に行こう。
 砂漠の花園も素敵だけれども、それにも心惹かれるけれど…。
(同じ花なら、ナンキョクコメススキとナンキョクナデシコ…)
 南極の地味な花がいいよね、と膨らむ今の自分の夢。ハーレイの話を聞いたお蔭で。
 二種類の花は地味だけれども、遠い昔から、人が見なくても咲き続けて来た花だから。
 蘇った青い地球だからこそ、昔の通りに南極で花を咲かせるのだから…。



             南極の花・了


※地味なように見える、南極の花。確かに地味な花なのですけど、咲く環境が凄いのです。
 荒地どころか、酷寒の場所でも花が咲くのが地球という星。それを考えると、夢が一杯の花。
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