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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

半分ずつの荷物
(重たそうな荷物…)
 ドッサリだよね、とブルーが眺めた若い女性。学校からの帰りに乗り込んだバスで。
 先から乗っていた女性だけれども、彼女が座った座席の横の床。其処に置かれている荷物。膝の上にあるバッグとは別に、それは重そうな荷物が一つ。
(ワインの瓶まで入ってる…)
 蓋が無いタイプの買い物袋で、溢れるほどにギッシリ詰まった中身。ワインの瓶も覗いている。町の中心部の食料品店まで行って来たのだろう。珍しい食材も豊富に揃った、大きな店へ。
(あれだけ重たい荷物だと…)
 サイオンを使って持っていたって、マナー違反とは言われない。
 誰もがミュウになった時代は、「人間らしく」が社会のマナーでルール。出来るだけサイオンは使わないのが、一人前の大人というもの。本当に困ってしまった時や、必要な時を除いては。
 手に余る重さの荷物を持つなら、サイオンを使ってもかまわない。サイオンも「力」の一つではある。筋肉の力ではないというだけで。
 それを使って「重い荷物」を軽々と運んでいたとしたって、皆、温かく見守るだけ。落とさずに頑張って運べるようにと、心の中で応援しながら。
 あの女性だって、きっとそうしたのだろう。買った荷物をそうやって持って、バスに乗り込んで家に帰る途中。今は荷物は床の上だし、持つ必要は無いのだけれど。
(ぼくだと、サイオン、無理なんだけどね…)
 どんなに重い荷物であろうと、腕の力だけで持つしかない。不器用すぎる今の自分のサイオン、使いたくても使えない力。「これを持ちたい」と考えたって。
(いいな…)
 ああいう荷物を、サイオンで軽く持ち上げること。それが出来たら、と願ってしまう。
 そうする間に、女性は降車ボタンを押した。次のバス停で降りるために。
 バスが停まったら、バッグを持つのとは違う方の手で、床の買い物袋を持った。腰掛けていた席から立ち上がりながら。
(やっぱりサイオン…)
 軽そうにスッと持ち上げたから、間違いない。サイオンで支えて軽くした荷物。空気みたいに。
 なのに…。



(えっ?)
 羨ましいな、と眺めた女性の足がよろけた。降りるために、お金を払った所で。
 いきなり、重たくなったらしい荷物。あの重そうな買い物袋に、引き摺られるようにバランスが崩れてしまった身体。一瞬だけれど。
(…失敗したの?)
 もうサイオンでは支えていない買い物袋。とても重そうに提げている女性。よろけていなくても見ただけで分かる、「荷物が重い」という事実。さっきは軽く持ち上げたのに。
(サイオンで上手く支えられないんだ…)
 集中していれば出来るけれども、何かのはずみで駄目になる人。「お金を払おう」と意識が別の方へと向いた途端に、サイオンが使えなくなったのだろう。それで慌てて、元には戻せないまま。
(ホントに重そう…)
 ぼくみたいに不器用な人なんだろうか、と降りてゆく女性を見送っていたら…。
(あ…!)
 降りた先のバス停にいた、若い男性。彼が女性の大きな荷物に手を伸ばした。ごくごく自然に、「ぼくが持つよ」という風に。
(持ってあげるんだ!)
 恋人だったら当然だよね、と思った荷物。あれほど重い荷物なのだし、おまけに女性は不器用でサイオンを上手く扱えない。此処は恋人の出番だろう。
 けれど女性は、重そうな買い物袋の持ち手の片方しか…。
(渡してない…)
 もう片方は女性の手の中、男性と二人で買い物袋を持つ形になった。半分ずつ、というように。
 男性と女性と、一緒に仲良く提げてゆく荷物。ワインの瓶まで入った袋。
 サイオンはもう使っていないのか、ズシリと重たそうなのを。
 それでも二人で笑い合いながら、それは楽しそうに、足取りも軽く。
(んーと…?)
 どうしてサイオンを使わないの、と思っている間にバスが動き出して、遠ざかっていった二人の姿。重たい荷物を、分け合うように持ったまま。
 二人で一つの買い物袋を、半分ずつ提げて重さを分かち合いながら。



 サイオンを使わなかったカップル。女性の方も、本当は上手くサイオンを扱えるのに違いない。バスを降りるまでは軽々と荷物を持っていたのだし、降りる時に使うのをやめただけ。
(うんと軽そうに持っていたんじゃ、荷物は持って貰えないかも…)
 それに二人で提げることにしても、幸せが減るのかもしれない。空気のように軽い荷物を二人で持っても、「半分ずつ」という気がしないだろうから。
 きっとそうだ、と思ったけれども、それよりも前に、あの大荷物。ワインの瓶まで入った袋。
 あれほどの買い物をして来ることを、男性が知っていたのなら…。
(迎えに行ってあげればいいのにね?)
 バスで来させずに車を出すとか、買い物に一緒に出掛けるだとか。
 そうしていたなら、女性は荷物を持たないで済む。車だったら乗せておくだけ。二人で買い物に出掛けたのなら、男性が持つとか、最初から二人で持つだとか。
 そっちの方が、と考えたけれど。女性に重たい荷物を持たせた、男性が悪く思えたけれど。
 仲が良さそうなカップルだったし、もしかしたら…。
(あの女の人、買い物のことは話してなくて…)
 男性の家に招かれただけで、待ち合わせ場所がバス停だったかもしれない。到着時間を知らせておいたら、男性が其処に来てくれるから。
 せっかく家に行くのだから、と女性が用意して来た食材。ワインまで買って。
(家に着いたらお料理を作って、二人でパーティー?)
 それとも友達も招くのだろうか。買い物袋に詰まっていたのが全部食材なら、二人で食べるには多すぎるから。もっと大勢、人がいないと食べ切れない。
(内輪の婚約パーティーとか…?)
 其処まで大袈裟なものではなくても、友達を呼んで「結婚を決めた」と披露するだとか。
(そうなのかもね?)
 男性の方は、ケータリングでも頼むつもりでいたかもしれない。気軽に頼める店も多いし、家で料理をするよりもずっと楽だから。
 けれど、手料理の方がいい、と女性が考えてサプライズ。
 「作るから」とも、「食材も用意していくから」とも伝えないまま、一人で買い物。重たすぎる荷物を一人で運んで、あの路線バスに乗り込んで。



 そうだったのかも、と合点がいった。女性が一人で大荷物なのも、サプライズの内。男性の方はビックリしたろう、「その荷物は何?」と。
 一目で分かることだけど。ワインの瓶まで覗いているから、「食材なんだ」と。
 女性が料理を作ろうと思って買って来たことも、それが「内緒の計画」だったということも。
(そんなのも素敵…)
 待っている恋人を驚かせたくて、重たい荷物を提げていた女性。サイオンで軽く持てる筈のを、降りる時には「腕の力だけで」提げる形に切り替えたのも。
(ビックリして貰って、喜んで貰えて、荷物も二人で一緒に提げて…)
 きっと幸せに違いない。どんなに荷物が重くったって。
 そう思っている間に、着いた自分が降りるバス停。さっきの女性と同じに降車ボタンを押して、席から立ち上がったのだけど。バスのステップも降りたけれども…。
 降りる途中で、描いた夢。
 もしも自分が重たい荷物を、ドッサリと持っているのなら…。
(ハーレイがいたらいいのにね?)
 降りようとしている、このバス停に。今、足がついた、この場所に。
 にこやかな笑顔で、「持ってやろう」と手を差し伸べてくれるハーレイ。「重そうだから」と、「俺に寄越せ」と。
 本当にハーレイが立っていたなら、「持つぞ」と言ってくれたなら…。
(それを断って、二人で荷物…)
 仲良く提げて行くのがいいよ、と思うけれども、自分の荷物は通学鞄。中身はせいぜい教科書やノート、ワインの瓶なんかは入らない。重くなっても、たかが知れている鞄の重さ。
 それに通学鞄というのは、生徒が一人で提げてゆくもの。学校に出掛けてゆく時に。そのために作られた鞄なのだし、一人で持つように出来ている。形そのものが。
 鞄の重さも問題だけれど、形の方も大いに問題。ハーレイと二人では提げられない。
(…まだ早いってこと?)
 結婚できるくらいの年にならないと、ああいう風にして重たい荷物を提げるのは。
 恋人と重さを分かち合うのは、二人で一つの荷物を持って歩くには。
 やってみたいと思ってみたって、自分がバスから提げて降りる荷物は、通学鞄なのだから。



(あんなの、いいな…)
 重い荷物を持ってたカップル、と家に帰っても思い出す。おやつの後で、自分の部屋で。
 勉強机に頬杖をついて、あのカップルの姿を頭に描く。仲が良さそうだった二人は、今頃は何をしているのかと。
 男性の家に着いたら、多分、一休みしただろう。お茶を飲んだり、お菓子をつまんだりして。
 買い物をして来た女性がホッと一息入れた後には、重そうだった荷物の中身の出番。中から色々出て来た食材、それで女性が料理を始めていそうな時間。
 野菜を刻んだり、皮を剥いたり、肉に下味をつけたりして。パーティーの時間に、丁度美味しく出来上がるように、あれやこれやと。
(男の人も手伝うのかも…)
 女性が「私が勝手に決めたことだし、一人でやるわ」と言ったって。
 「ぼくもやるよ」と出来る範囲で、二人一緒にキッチンに立って。腕に覚えがある人だったら、役割分担。「これはぼくが」と、「こっちは君が」と、キッチンでの作業を割り振って。
 料理が下手なら、お皿の用意をするだとか。「その料理に合いそうなお皿は、どれだろう?」と女性の意見を聞いては、使いやすいように並べていって。
 料理が出来たら、お客を迎えてパーティーの始まり。
 重たそうだった袋から覗いていたワイン、あれの封を切って。みんなで賑やかに乾杯して。
(ぼくが、ああいうのをやるんなら…)
 ハーレイの家に行くことになる。
 何ブロックも離れた所で、何も持たずに訪ねてゆくにも、路線バスのお世話にならないと無理。
 ハーレイだったら、時間がたっぷりある休日なら楽々と歩いて来るけれど。…天気が良ければ、軽い運動と散歩を兼ねて。時には回り道までして。
(…ぼくは歩けないし、ただ行くだけでもバスなんだから…)
 バス停に着く時間を知らせておいたら、ハーレイは待っていてくれるだろう。帰りに見掛けた、重い荷物の女性を待っていた男性のように。バス停に立って、「もうすぐだよな」と。
 そのハーレイを驚かせるには、約束の時間よりもずっと早くに家を出る。
 ハーレイの家の近くのバス停、其処へと向かうバスに乗らずに、違う方へと行くバスに乗りに。
 いつものバス停からバスに乗っかって、まずは街まで出掛けて行って…。



 さっきの女性も行ったのだろう、街の大きな食料品店。珍しい食材も沢山揃ったお店に入る。
 ズラリと並んだ食料品の棚。新鮮な野菜や肉のコーナー、瓶詰や缶詰なども一杯。二階にだって棚が山ほど、揃わないものなど無さそうな店。
 どんな食材の名前を挙げても、「それでしたら…」と案内される棚。そういう店で買い物から。
(ぼくは飲めないけど、ワインも買わなきゃ…)
 ハーレイはお酒が大好きなのだし、ワインの瓶は欠かせない。赤ワインにしても、白ワインとかロゼワインでも。…ワインには詳しくないけれど。
(このお料理なら、どれが合いますか、って…)
 店で訊いたら、きっと教えて貰える筈。予算に合わせて、「このワインなど如何ですか?」と、棚から瓶を取り出してくれて。
 ワインの瓶は重たいけれども、店の籠に入れて貰って提げる。サイオンで支えられはしないし、自分の腕の力だけで。ガラスのボトルと、中に詰まったワインの重みが凄くても。
(ワインの瓶には負けないんだから…)
 目当ての食材も、メモを見ながら買い込んでゆく。作ろうと思う料理の分だけ、肉や魚や野菜などを。予算の範囲で、けれど出来るだけ上等なのを。
(婚約披露のパーティーとかじゃなくっても…)
 お客は誰も招いていなくて、ハーレイと二人きりの食卓でも、食材はきっとドッサリ山ほど。
 身体が大きいハーレイは普段から沢山食べるし、かなりの量を用意しなくては。それに数だって多いほど喜んで貰えそう。大皿に盛った料理が一つだけより、二つも、三つも。
(お料理が幾つも並んでいたら、それだけで嬉しくなるもんね?)
 食が細い自分でも、色々な料理があれば嬉しい。どれから食べようか、どういう味かと、並んだ料理を目にしただけで心が躍る。「食べ切れるかな?」と少し心配でも。
 だから沢山食べるハーレイには、料理の数も多いほどいいに違いない。「こんなにあるのか」と目移りするほど、色々な料理を作って並べて。
(それだけのお料理を、ハーレイが満腹するほど作るなら…)
 籠の重さは、とんでもないことになるだろう。
 食材だけでも重いというのに、選んで貰ったワインの瓶まで入った籠。会計のためにレジに行くにも、よろめきながらになるのだろうか。「この籠、ホントに重いんだけど…!」と。



 会計が済んだら、もう後戻りは出来ない荷物。それがどんなに重くても。食料品店の人が詰めてくれた中身が、腕が痺れるほどの量でも。
(普通の人なら、そこでサイオン…)
 バスの中で女性がやっていたように、重たい荷物もサイオンで支えてヒョイと提げてゆく。凄い重さをものともしないで、楽々と店の扉の外へ。
 けれど不器用な自分の場合は、そうはいかない。レジの人が「重いですよ?」と声を掛けながら渡す袋は、もう本当に「重い」もの。「ありがとうございます」と受け取ったって、サイオンでは支えられないから。
(…レジの人たち、「大丈夫かな」って見送っていそう…)
 重たすぎる袋にヨロヨロしながら、店を出て行く客の姿を。「サイオンは使わないのかな?」と不思議がったり、「使わない主義の人なのかな?」と感心しつつも、危なっかしいと思ったり。
 なにしろ荷物を落としてしまえば、ワインの瓶が割れそうだから。ワインの他にも瓶詰だとか、脆い食材が詰まっているかもしれないから。
(卵だって、落っことしたらメチャメチャ…)
 使いたい数の卵が無事でも、割れてしまったらやっぱり悲しい。割れた卵で、予定外のお菓子や料理なんかを作るにしても。
 そうならないよう、頑張るしかない。ワインの瓶も、瓶詰も、卵も割らないように。重たすぎる荷物をしっかりと持って、バス停のある所まで。
(バス停の椅子が、空いていたならいいけれど…)
 運悪くどれも塞がっていたら、重たい荷物を提げたまま。人が少なければ、バス停の所で足元に置いてもいいのだけれども、人が多かったらそれも無理。他の人たちの邪魔になるから。
(大きな荷物は、立つ場所を塞いじゃうもんね?)
 提げたり、抱えたりするのがマナーで、普通の人なら、サイオンの出番。軽々と支えて、バスが来るのを待てばいいだけ。荷物には指の一本だけでも添えて。
(…それが出来たら、苦労しないよ…)
 バス停までの道でよろけはしないし、必死の思いで重い袋を提げてもいない。泣きそうな気分になりもしないし、「バスはまだかな?」と何度も伸び上がるだけ。
 「まだ来ないかな」と時刻表を見ては、バスが走って来る方向を。



 ところが、そうはいかない自分。タイプ・ブルーとは名前ばかりで、サイオンの扱いはとことん不器用。思念波さえもろくに紡げないのだし、荷物をサイオンで支えるのは無理。
(誰も気付いてくれないよね?)
 サイオンで荷物を支えられないから、ヨロヨロと立っているなんて。
 ワインの瓶まで詰まった袋を、腕の力だけで提げているなんて。
(そういう主義の人なんだ、って思われちゃって…)
 誰も声など掛けてはくれない。椅子に座った人が「持ちましょうか?」と言ってくれるだとか、隣に立っている人が「重そうですね」と力を貸してくれるとか。
 とても小さな子供だったら、「あら、お使い?」と持ってくれる人もいるのだろうに。赤ん坊を抱いたお母さんでも、空いた方の手を貸してくれるだろうに。…サイオンを使えば簡単だから。
(だけど、ぼくだと…)
 チビの姿の今でさえ、きっと、「腕の筋肉を鍛えているのか」と勘違いされておしまいだろう。
 ひ弱そうに見える子供だけれども、スポーツでもやっているのだろうと。
(今でもそうだし、ハーレイの家に行くような頃のぼくだったら…)
 前の自分とそっくり同じ姿に育って、見た目はすっかり一人前。サイオンを上手く扱えないとは誰も思わないし、「使わない理由があるんだな」と眺めるだけ。「重そうなのに、大変だ」と。
 誰一人助けてくれないのだから、バスに乗るだけでも一苦労。
 バス停で待って、やっとバスが来て、乗り込む時にも提げてゆく荷物。とても重いのに。
(うんと重たいのを、バスの中まで引っ張り上げて…)
 ようやくのことで乗った車内に、空いた座席はあるのだろうか。ハーレイの家に行く途中だし、きっと世間の人も休日。土曜日だとか、日曜日だとか。
(お休みの日には、空いてる路線も多いけど…)
 それとは逆に混むバスもある。平日の昼間は空いていたって、休日の昼間はギュウギュウ詰め。もしもそういう路線だったら、バスの中でも荷物を提げているしかない。
(空いてる席が一つも無いなら、座れないし…)
 今日の女性がやっていたように、座席の脇の床にも置けない。車内が人で一杯だったら、荷物を置くと邪魔になる。邪魔にならなくても、誰かの足が当たったら…。
(ワインの瓶とかは大丈夫でも、卵は割れちゃう…)
 それが嫌なら、自分で提げているしかない。腕が痺れても、卵が壊れてしまわないように。



 考えただけでも大変そうな、ハーレイの家に出掛けるまでの道のり。
 ハーレイの家だけを目指すのだったら、約束の時間に間に合うバスに乗るだけなのに。ゆっくりのんびり支度をしてから、「そろそろだよね」とバス停に行って。
(でも、ハーレイを喜ばせようと思ったら…)
 先に街まで出掛けて買い出し、それも自分には重すぎる量の食料品だのワインだのを。
 店で買う間も「重いんだけど…」と籠を提げて歩いて、店を出た後はもっと大変。運が悪いと、ハーレイと待ち合わせているバス停に着くまで、重たい荷物を提げ続けるしかないのだから。
 そうは思っても、今日のカップルがあまりに幸せそうだったから…。
 あんな風に自分もやってみたいから、頑張るだけの価値はあるだろう。ハーレイの家に出掛ける前に、街の食料品店へ。食材を買って、作りたい料理に似合うワインも買い込んで。
(物凄く重たい袋になっても、頑張って提げて、バスに乗っかって…)
 ハーレイの家の近所のバス停に着く。
 約束の時間に、よろめきながら重たい荷物を手にして、バスのステップを降りて。
 そんな姿で、自分がバスから降りて来たなら…。
(ハーレイ、きっとビックリして…)
 大慌てで荷物を持とうとしてくれるだろう。
 帰りに見掛けた男性みたいに、「俺に寄越せ」と手を伸ばして。あの褐色の腕を差し出して。
 柔道と水泳で鍛えた逞しい腕は、重い荷物も楽々と持てるだろうけれど。「指でも持てるぞ」と言いかねないのがハーレイだけれど、其処で荷物を渡しはしない。
 渡してしまったら、ハーレイに内緒で買い出しに行った意味が無くなるから。
 ヨロヨロしながら其処まで運んで、頑張った意味も、消えて無くなる。
(ハーレイに持って貰うんだったら、一緒に買い出しに出掛けてるってば…)
 こういう料理を作りたいから、と頼んで車を出して貰って。
 あるいは二人で路線バスに乗って、街の大きな食料品店まで。
 そうしなかったのは、ハーレイをビックリさせたいからでもあるけれど…。
(重たい荷物を、半分ずつ…)
 二人で分けて持ちたいから。
 ハーレイに持ち手の片方を渡して、もう片方は自分が持つ。二人で一つの荷物を提げに。



 そうしたいのだし、ハーレイが手を伸ばして来たって、「いいよ」と断る。
 「だけど、半分だけお願い」と荷物の持ち手を片方だけ。「ハーレイが持つのは、こっち側」と二つある持ち手の片方を託す。ハーレイの、褐色の逞しい手に。
 そうして持ったら、半分になる荷物の重さ。半分だったら、きっとよろけもしなくて…。
(ハーレイとお喋りしながら楽しく歩いて、家に着くんだよ)
 素敵だよね、と考えていたら、チャイムの音。仕事帰りのハーレイが訪ねて来たから、いつものテーブルを挟んで向かい合わせで訊いてみた。
「あのね、ハーレイ…。いつか荷物を持ってくれる?」
 ぼくが重そうな荷物を持っていたなら、ハーレイ、半分、持ってくれない…?
 全部じゃなくって、半分だけ。…半分だけ持って欲しいんだけど…。
「はあ? 半分って…。どういう意味だ?」
 お前の荷物を持つんだったら、お安い御用というヤツで…。重くなくても、引き受けてやるが?
 ついでに重たい荷物にしたって、お前が持てる程度のヤツなら、俺にとっては軽いモンだな。
 半分と言わず、全部纏めて寄越しちまっていいんだが…。俺にわざわざ断らなくても。
 お前が「お願い」と言い出す前から、俺が横から奪ってそうだが?
 恋人に重たい荷物を持たせるような馬鹿はいないぞ、とハーレイは余裕たっぷりだけれど。重い荷物を持っていたなら、ヒョイと取り上げてしまいそうだけど…。
「ううん、全部じゃ駄目なんだよ」
 半分だけっていうのが幸せ。…ぼくとハーレイと、二人で持つのが。
 ぼくが持つ分、半分になっても重たくてもね。ぼくはサイオンで持つのは無理だし、もう本当に重くっても。
 …でも、それまでは一人で持ってたんだし、半分になったら、きっと楽だよ。
 今日の帰りに、そういう人を見掛けたから…。
 ぼくと違って、ちゃんとサイオンが使える女の人だったけど…。
 凄く重そうな荷物だよね、って見ていた時には、サイオンで楽に持ち上げたんだけど…。
 バス停に着いて降りる時には、サイオン、使っていなかったんだよ。
 急によろけたから、ぼくと同じで不器用なのかと思ったら…。
 そうじゃなくって、サイオンを使わなかったのは、わざとらしくて…。そうなったのはね…。



 バス停で恋人が待っていたから、と話した帰り道の光景。二人で一つの荷物を提げて、楽しげに歩いていったカップル。
 ワインの瓶まで詰め込んだ袋、それを半分ずつ持って。サイオンは使わず、重たいままで。
 「あんな風に二人で歩きたいよ」と、「だから半分だけがいい」と。
「ハーレイが一人で持ってしまったら、荷物を二人で分けられないもの…」
 重さも半分ずつにしたいよ、ハーレイとぼくとで、半分こで。
 重たくっても半分がいい、と繰り返した。腕が痺れるほど重たい荷物を提げ続けた後でも、と。
「腕が痺れるほどって…。そんな荷物を提げ続けるって、いったいどういう状況なんだ?」
 お前は何をやらかすつもりだ、家から持って来るんじゃないのか、その荷物は?
 あのバスはそれほど混みはしないぞ、とハーレイが挙げる路線バス。それはハーレイの家へ直接向かう時のバスで、街へ出掛けた帰りに乗ってゆくバスではない。食料品店で買い出しを済ませた後に乗り込むだろうバスとは。
「えっとね…。ぼくが乗るバス、それじゃないから…」
 バスの路線は調べてないから、空いているのかもしれないけれど…。乗ってみたらね。
 でも、今のぼくは知らないわけだし、混んでいるかもしれないじゃない。…バス停だって。
 ハーレイの家に出掛ける前に、買い物をして行きたいんだよ。今日の女の人みたいに。
 バス停で待ってた男の人は、きっと知らなかったんだろうから…。買い物をして来ることを。
 知っていたなら一緒に行くでしょ、そんな重たい荷物を一人で持たせてないで。
 でも…。あのサプライズも素敵だろうと思うから…。
 ぼくも買い出し、と未来の計画を打ち明けた。実行できるのはずっと先だし、話してしまっても大丈夫。その日が「いつ」かは、自分にも分からないのだから。
「サプライズって…。それで食料品店に行くってか?」
 俺と待ち合わせた時間よりも早くに出掛けて、街の方まで回って来て?
 食材を山ほど買い込んだ上に、ワインまで買って来るって言うのか、お前は酒は駄目なのに。
 ついでにバスが混んでいたなら、重たい荷物を提げっ放しで、座れもしなくて…。
 とんでもない目に遭いそうなのに、お前、街まで出掛けたいのか…?
「だって、サプライズっていうのは、そういうものでしょ?」
 ハーレイがうんとビックリしちゃって、喜んでくれるのが一番。荷物がとっても重たくっても。



 だから楽しみに待っていてね、と微笑んだ。そのサプライズは、ずっと未来のことだから。
「ぼくが学校に通っている間は、多分、無理だと思うから…。よっぽど運が良くないと」
 早い間にハーレイと婚約できていたなら、そういうのだって出来そうだけど…。
 今はチビだし、婚約どころじゃないものね。…サプライズはきっと何年も先になっちゃうから。
 でも頑張る、と右手をキュッと握った。
 前の生の最後にメギドで冷たく凍えた右手。ハーレイの温もりを失くした右の手。悲しい記憶を秘めた右手が、今度は凄い重さに耐える。左手も一緒に添えるけれども、重い荷物を持つために。
 山ほどの食材と、作りたい料理に似合うワインが入った袋を提げてゆくために。
「ふうむ…。俺を驚かせるために、買い出しに出掛けて行くってか…」
 そいつがお前の夢なのか?
 俺が待ってるバス停までに、重たい荷物で苦労したって。…サイオンで支えて持てはしなくて、バス停でも、バスの中でも座れないままで…。
 床とかに置けるチャンスも無くって、腕がすっかり痺れちまっても…?
 サプライズで提げて来ると言うのか、とハーレイが訊くから頷いた。
「そうだよ、あれをやってみたくて…。それに荷物を二人で持つっていうのもね」
 あのカップルは、とても幸せそうだったから…。
 見ていたぼくまで幸せになって、こんな夢まで見られるくらいに。半分ずつの荷物がいいとか、ハーレイの家に出掛ける前には、街まで買い出しに行こうとか…。
 いいと思うでしょ、ハーレイだって…?
 そのサプライズ、と鳶色の瞳を覗き込んだ。「ハーレイだって、嬉しくならない?」と。
「…それはまあ…。俺だって、お前と二人で荷物を持つのは、楽しそうだと思うんだが…」
 お前の夢の方はともかく、俺としてはだ…。
 そういった時は、俺がお前を迎えに出掛けて行くのがいいな。…バス停で待っているよりも。
 迎えに行くなら車の出番で、車を出したら、もちろん街での買い出しもだ…。
 お前と一緒にしたいと思うわけなんだが?
 バス停で待つよりそっちがいいな、とハーレイが言うから驚いた。自分の夢とは逆様だから。
「…そうなの?」
 ハーレイは迎えに来る方がいいわけ、バス停で待っているよりも…?
 買い出しもぼくと一緒に行くって、本当にそんなのがいいの…?



 それじゃサプライズにならないじゃない、と首を傾げた。楽しさが半減しそうだから。
「ぼくと一緒に出掛けて行ったら、何を作るのか分かってしまうよ…?」
 メモを見ながら籠にどんどん入れてる間は、分からないかもしれないけれど…。
 ワインを買ったらバレてしまうよ、ぼくはワインの選び方なんか分からないんだもの。…お店の人に訊くしかないでしょ、「このお料理に合うのは、どれなんですか?」って。
 ハーレイも横で聞いていたなら、おしまいじゃない…!
 ぼくが作りたいお料理がバレちゃう、と肩を竦めた。食材だけでは謎のままでも、ワイン選びで料理の名前がバレるのだから。
「バレるって…。そんなに必死に隠さなくても、食材を選ぶ所から一緒がいいと思わんか?」
 こういう料理を作るんだから、と言ってくれれば、俺だって食材を選んでやれる。
 同じ野菜を買うんだったら、こっちの方がお勧めだとか。…肉なら、これが美味そうだとか。
 サプライズも悪くはないんだがなあ、共同作業も楽しいもんだぞ?
 食材選びから二人でやって、料理も一緒に作るってヤツ。…俺がお前を手伝って。
 それに第一、お前の腕ってヤツがだな…。
 お前、サプライズで見事に料理が出来るのか…?
 俺の舌を唸らせるほどの美味い料理が、と尋ねられたら自信が無い。今のハーレイの料理の腕はなかなかのもの。プロ顔負けとも言えそうなほどに。
(前に財布を忘れた時に…)
 昼食代を借りに行ったら、「丁度良かった」と、ハーレイのお弁当を分けて貰えた。
 他の先生たちは留守だから、とハーレイが作って来た特製弁当。「クラシックスタイルだぞ」と自慢していた、二段重ねの本格的な和食のもの。
(あんなのも作っちゃうんだし…)
 パウンドケーキも焼けるハーレイ。
 「どうしても、俺のおふくろの味には焼けないんだが」などと言ってはいても。
 それほどの料理の腕の持ち主、そのハーレイに「美味い」と喜んで貰える料理は、今の自分には作れない。少なくとも、今の段階では。
 料理は調理実習くらいしか経験が無くて、レシピを見ながらそれを再現出来たら上等。
 結婚が決まって母に教えて貰うにしたって、ハーレイほどの腕に上達するには時間が必要。



(…ママに習って、頑張ったって…)
 結婚式の日まではアッと言う間で、サプライズの日は、それまでの何処か。料理の腕は、大して上がっていないのだろう。今と全く変わらないままか、少しはマシという程度で。
「…ハーレイを感心させるお料理、難しいかも…」
 どれも上手に作れないとか、一つくらいしか上手く出来ないとか…。そうなっちゃいそう。
 ぼくは頑張ったつもりでいたって、ハーレイの方が、ずっとお料理、上手だから…。
 凄いお料理はきっと無理だよ、と項垂れた。本当にそうなるだろうから。
「ほらな。お前が一人で買いに出掛けて、重たい荷物を提げて来たって、その有様だ」
 そうなるよりかは、買い出しの時から一緒に出掛けて、食材も俺が選んだ方が確かだぞ?
 何を作りたいのか言ってくれれば、肉も魚も、野菜も選んでやれるから。
 食材選びも、日頃の経験ってヤツが大切で…。お前、目利きも出来ないだろうが。
 違うのか、と言われれば、そう。食材を買いに出掛けた経験はまるで無いから、どういう具合に選べばいいのか分かりはしない。魚だったら、魚としか。肉にしたって、豚や牛としか。
「そうだよね…。ぼくだと、ホントに分かってないから…」
 シチュー用とか、ステーキ用とか、そういう風に書いてあるのしか選べないかも…。
 ハーレイだったら、「この料理にはこれだ」って選べるんだろうけど。色々なのがお店に並んでいても。お勧めの魚が色々あっても。
 だからハーレイに任せておくのがいいんだろうけど、でも、荷物…。
 お店で沢山買った荷物を、ハーレイと二人で持ちたいんだよ。
 お料理に合うワインも選んで、うんと重たくなった荷物を。…レジで袋に詰めて貰ったら、凄い重さでよろけそうなのを。…普通の人なら、サイオンで支えて持つようなヤツを。
 それをハーレイと分けたいんだけど…。ぼくが半分、ハーレイが半分。
 ホントに二人で半分ずつ、と頼み込んだ。それでいいなら、買い出しも一緒に行くから、と。
「おいおいおい…。荷物を二人で持つんだったら、買い出しも俺と一緒でいいって…」
 お前ってヤツは、サプライズで料理をするよりも前に、其処がいいのか?
 俺に内緒で買い出しに行って、重たい荷物を提げて来ようって理由はそれか…?
 美味い料理で驚かせるより、凄い荷物で俺の度肝を抜くのか、バスからヨロヨロ降りて来て…?
 「半分持って」と頼むためにだけ、その大荷物を抱えてやって来るってか…?



 なんてヤツだ、とハーレイは呆れているけれど。「荷物なのか?」と目まで丸いけれども…。
「ぼくが最初に、羨ましいな、って思った時には、荷物を持ってただけだったしね…」
 あのカップルは、二人で一つの荷物を持っていただけ。話の中身も聞こえなかったし…。
 重たそうな荷物を持ってた理由は何だったのかな、っていうのは、後から考えたこと。
 バスが走り出してからと、家に帰ってからとで、本当のことは謎なんだけど…。
 でも、ハーレイだって、ぼくの想像、間違っていないと思うでしょ?
「まあ…。当たりだろうな、お前が色々考えてるヤツで」
 きっと今頃は、パーティーの用意で大忙しって所だろう。二人で料理か、女性の腕の見せ所かは知らんがな。…こればっかりは、現場を見ないと分からんことだ。知り合いでなけりゃ。
 それでお前は、あれこれ想像している間に、色々とやりたくなっちまった、と。
 荷物を二人で持つだけじゃなくて、買い出しに出掛けてサプライズだとか。
 しかし、お前は料理の経験は少ないわけだし、腕を磨けるチャンスの方も無さそうだしな…?
 料理は俺に任せておいてだ、荷物だけ、お前も持ってみるか?
 お前の憧れの山ほどの荷物は、俺が選んで買ってやるから。食材も。それにワインの方も。
 それでどうだ、とハーレイが訊くから、「いいの?」と瞳を瞬かせた。食材選びも、料理に合うワインを選ぶのも全部、ハーレイだなんて。…自分は荷物を持つだけだなんて。
「そんなのでいいの、ぼくは荷物を持つだけなんて…?」
 半分だけ持ってみたいから、って我儘を言ってるだけだよ、それじゃ…?
「我儘も何も、美味い料理の方がいいだろ? 同じ食うなら」
 お前が悪戦苦闘するより、経験者の俺に任せておけ。うんと美味いのを食わせてやるから。
 前の俺は厨房出身だったし、今の俺も料理は好きだしな?
 お前は買い出しの荷物だけ持ってくれればいい、と言われたけれど…。
「ハーレイがお料理するんだったら、手伝いたいな。…料理をするのは無理そうだけど」
 前のぼくだって、ハーレイが厨房にいた頃だったら、タマネギを刻んだりしていたよ?
 ジャガイモの皮も剥いてたんだし、今でも少しは手伝えると思う。
 調理実習でやったこととか、簡単なことしか出来ないけれど…。でも…。
 何もやらないより、ずっとマシだと思うから…。
 買い出しを二人でやった時には、ぼくもハーレイのお手伝い…。駄目…?



 迷惑をかけたりしないから、と頼んでみた。「ぼくも手伝いたいんだけれど」と。
 ハーレイの邪魔にならない範囲で、お手伝い。タマネギを細かく刻んでみるとか、ジャガイモの皮を剥くだとか。
「ぼくがやったら焦げちゃいそうだし、お鍋とかには触らないから…。お手伝いだけ」
 包丁で怪我をしそうだったら、「駄目だ」って止めてくれればいいから。
「手伝いなあ…。そのくらいなら、いいだろう」
 同じ切るのでも、カボチャは任せられないが…。あれは固いし、お前だと怪我をしかねない。
 だから何でもいいわけじゃないが、やりたいことは俺に訊け。「やっていいか」と。
 大丈夫だな、と思った時には任せるから。
 お前のペースでやればいいさ、とハーレイは笑顔で許してくれた。俺は急かしはしないから、と「落ち着いてゆっくりやるといい」と。
「ホント?」
 ハーレイがやるより時間がかかっても、いいって言うの?
 鮮度が命のお魚とかだと、ぼくのペースじゃ駄目なんだけど…。
「安心しろ。その辺のことも、ちゃんと考えて任せることにするから。…お前の分の作業はな」
 お前が楽しんでするんだったら、止める理由は無いんだし…。
 重たい荷物を持ちたがるのも、俺は「駄目だ」と止めにかかってはいないんだから。
 ただし荷物は半分だけだぞ、サプライズとやらで全部を一人で買って来るなよ?
 俺が一緒に買いに出掛けて、最初から半分ずつだからな、と念を押された。一人で重たい荷物を持つなと、「サプライズよりは、二人で料理だ」と。
 料理と言っても、ハーレイが料理をするのだけれど。自分は手伝うだけなのだけれど。
「ありがとう、ハーレイ!」
 最初から半分ずつの荷物でも、二人で持てたら幸せだから…。
 お料理だって、ハーレイがやってるのを横で手伝えたら、それだけでぼくは充分だから…!



 ハーレイが「一緒に行こうな」と約束してくれたから、いつか二人で買い出しに行こう。
 街の大きな食料品店まで二人で出掛けて、山のように買って、重たい荷物を半分ずつ持とう。
 ワインの瓶まで入った袋の、持ち手を二人で片方ずつ。重さを二人で半分に分けて。
 家に着いたら、ハーレイがそれで料理を作る。「今日はこれだな」と、慣れた手つきで。
 そのハーレイを手伝いながら、色々なことを教えて貰おう。料理の他にも、様々なことを。
(お皿は其処とか、お鍋は此処とか…)
 そういう風に習って覚えて、ハーレイの家に慣れていったら…。
(結婚だよね?)
 待ち焦がれていた結婚の日がやって来るから、その頃には料理も覚えていたい。
 幾つも上手に作るのは無理でも、一つくらいは「美味いな」と言って貰えるものを。
 ハーレイに「美味い!」と褒めて貰えて、沢山食べて貰える何かを。
(何でも美味しいって言いそうだけど…)
 嬉しそうな顔で食べて貰える何かが作れたらいい。
 基本の中の基本みたいな料理でいいから、自信を持って作れる料理。
(ママが焼いてるパウンドケーキは、ハーレイのお母さんのとおんなじ味で…)
 おふくろの味だと聞いているから、あのケーキはマスターするつもり。
 そうは言っても、パウンドケーキだけが自慢のお嫁さんより、やっぱり得意な料理も持ちたい。
 「おかえりなさい!」とハーレイを迎えて、「今日はこれだよ」と披露できる何か。
 重たい荷物を提げて二人で買い出しをしたら、そういう料理も覚えられたらいい。
 今の腕ではまるで駄目でも、半分ずつの荷物を持てる時が来たなら…。



             半分ずつの荷物・了


※ブルーが見掛けた、荷物の重さを分かち合うカップル。将来、やってみたいと描いた夢。
 叶う時は来そうですけど、ハーレイに任せる部分が大きいかも。荷物の重さを分ける程度で。
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