忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

節分の鬼に御用心

マザー、着任以来一度も休日のないソルジャー補佐です。考えてみればソルジャーが休暇を取られることはなさそうですし、そうなると当然ソルジャー補佐も…。申請すれば休暇は貰えるのかもしれませんけど、この職場、役得も多そうなので無休で頑張るつもりです。

今日も青の間に出勤した私はコタツにおいでのソルジャーの専用湯飲みに昆布茶を注ぎ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」専用湯飲みも用意しました。ソルジャーがクリスマス前に「サンタさんからのプレゼント」用にお買いになった湯飲みは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお気に入り。サンタさんに貰ったと信じてとても大事にしています。
「かみお~ん♪」
ご機嫌な歌声と共に、朝からお出かけしていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が現れました。
「ブルー、恵方巻、予約してきた!」
節分を控えてあちこちで宣伝されている恵方巻。去年の節分には生後1ヶ月ちょっとだった「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、恵方巻を買うのは今年が初めてとあって張り切っています。
「美味しそうなの全部予約したけど、当日販売だけのもあるから節分に買いに行かなくちゃ。ブルーやハーレイたちのもちゃんと予約をしてきたよ。おみくじ付きの大吉開運恵方巻ってヤツ」
「シャングリラでも恵方巻を作るよ、ぶるぅ。…ぼくは2本食べなきゃいけないのかな?」
「食べきれないなら、シャングリラのはぼくが食べてあげる。大吉開運の恵方巻を食べてほしいもの。少しでも早く地球に行けますようにって思ってそれにしたんだ。おみくじ、大吉だといいね」
サンタさんに「ブルーと一緒に地球に連れて行って」とお願いしようとした「そるじゃぁ・ぶるぅ」。今度は恵方巻に地球への夢を託すようです。ソルジャーに地球を見せてあげたいと一所懸命なのでしょうね。
「ありがとう、ぶるぅ。楽しみにしているよ」
「ブルーとフィシスと…ハーレイたちと。お正月みたいにみんなでここで食べたいな。かまわない?」
「恵方巻は黙って食べるものだけどね」
「でも!みんな一緒に食べたいよ。みんなで大吉開運だよ!!」
「じゃあ、そうしようか。…ん?…誰か来る。ハーレイだな」
ソルジャーがおっしゃった途端、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はサッとコタツにもぐりました。
「ブルー、ぼく、いないからね。いないってことにしておいて!」
コタツの中から声がします。キャプテンにネコ耳をくっつけた事件はありましたけど、それくらいで逃げ隠れする小心者ではない筈ですが…。また何か悪戯でもして逃走中かもしれません。私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」専用湯飲みを奥のキッチンに片付けました。湯飲みがあってはバレバレですし。

間もなくキャプテンがおいでになりました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は見つからないようコタツの中で息を潜めて丸まっているものと思われます。
「ソルジャー、節分の豆まきですが」
キャプテンはコタツにお入りになり、すぐに用件を切り出されました。
「シャングリラの全員が「そるじゃぁ・ぶるぅ」を鬼に指名したいと言っております」
「ぶるぅを鬼に?」
「はい。我々、長老の意見も同じです。去年まで鬼は子供たちの豆まきにしか出ませんでしたが、今年は全員参加で鬼を相手に豆まきしたい、と。その鬼に適役なのがぶるぅです。…ぶるぅも去年は子供たちと一緒に豆まきをしたりして、まだ可愛げがありました。ところが今では悪戯ばかりしております」
「…ぶるぅがやった悪戯の仕返しに鬼にしようというのかい?」
「いけませんか?」
真剣なお声でおっしゃるキャプテン。ご自分のネコ耳事件の恨みも入っていそうです。
「いけないとは言わないが…。ぶるぅだって黙ってやられる子じゃないよ」
「ですから、お願いに参りました。当日、ぶるぅの顔にサイオンで鬼の面を付けて頂きたいと」
「鬼の面?」
「はい。私が精魂こめて彫ります。それを顔にくっつけてしまえば噛み付き攻撃はできません。ついでに鬼をやらせる間はサイオンも封じて頂きたい。…皆、鬱憤晴らしがしたいのです」
ソルジャーは右手をそっとコタツ布団の下にお入れになりました。キャプテンは気付いてらっしゃいませんが、コタツの中には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が隠れています。ソルジャーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が怒って飛び出してきて噛み付かないよう、撫でて宥めておられるのでしょう。
「あまり酷いことをすると、後で倍返しされるかもしれないよ」
「かまいません!」
断固とした口調でキャプテンがきっぱり言い切られました。
「このままではやられっぱなしです。一度でもいい、やり返したいというのが総意なのです」
「…分かった。ぶるぅに鬼の面をかぶせてサイオンを封じればいいんだな」
「感謝いたします。豆まきの間だけで結構です。終わりましたら、後は野となれ山となれ、です」
キャプテンは深々と頭をお下げになり、晴れやかなお顔で帰って行かれたのでした。

「ブルー…。ハーレイがぼくに何かしようとしてる、って感じ取ったから隠れてたけど…」
コタツから出てきた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は怒ってはおらず、すっかりしょげてしまっていました。
「ねぇ、ブルー。本当にぼくにお面をくっつけちゃうの?…サイオン使えないように封じちゃうの?」
「みんなが決めたことだよ、ぶるぅ。悪戯ばかりしてたからだね」
「ブルー、ぼく、まだ1歳だよ。シャングリラで一番小さいのに、ひどいよ!」
「でも悪戯は一人前だ。みんな仕返ししたくてたまらないんだから、1回くらいさせておあげ」
ソルジャーは肩を落としている「そるじゃぁ・ぶるぅ」の姿にクスクス笑っておられます。
「鬼のお面だなんて名案じゃないか。お面があったら噛み付けないし、みんな安心して豆まきできる」
「でも…。サイオンが使えないとシールド張れない。みんなが豆をぶつけてくるのに…」
「ぶるぅ、豆まきを何だと思っているんだい?シールドで防がなくちゃいけないほどの勢いで豆を撒かれたら、シャングリラに被害が出てしまう。そんなことをするわけないだろう?」
「そっか。なら、いいや。鬼ごっこだと思えばいいね」
豆まきが怖いものではないと知った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自信がついたようでした。
「ぼく、走るのは得意だし。…豆が一粒も当たらないよう、シャングリラ中を逃げて回るよ」

そして節分の朝。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は当日販売のみの恵方巻をゲットするべく勇んで出かけて行きました。その後、青の間にキャプテンが持っておいでになったのは…。
「木彫りの趣味は知っていたけど、よくできているね」
「寝食を忘れて…とまでは申しませんが、頑張りました。これ以上のものは作れないかと」
風呂敷包みから出てきたものは見事な赤鬼の面でした。形相すさまじく牙を剥き出した迫力のあるお面です。小さな子供が見たら恐怖のあまり泣いてしまうかもしれません。
「これをぶるぅにかぶせてサイオンを封じる。…それでいいのかな?」
「ぶるぅを庇わないようお願いします。あなたが庇ってしまわれたのでは豆は一粒も当たりません」
「分かった。一切、手出ししないよ」
キャプテンがお帰りになった直後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大荷物を持って入ってきました。
「ブルー、恵方巻、バッチリだよ!…今、ハーレイが来ていたね」
「ああ。お前がつける鬼のお面を持ってきたんだ」
ソルジャーが風呂敷包みを開いて鬼のお面をお見せになると…。
「このお面、まるで生きてるみたい。街で売ってたお面と違ってとっても怖い顔してる」
「ハーレイは自信作だと言っていたよ」
「ひどいや、ハーレイ!…これじゃ節分じゃなくて、なまはげだよ。怖すぎだよ!!」
プイッ、とそっぽを向いて「そるじゃぁ・ぶるぅ」は拗ねています。ソルジャーが試しにお面を頭にのっけてご覧になると…あらまぁ、なんともユーモラス。ちっちゃい身体に恐ろしい鬼のお面はアンバランスで、もう笑うしかありません。頭の上じゃなくて顔にかぶせたら、もっと笑えることでしょう。マントの代わりに蓑を着せれば『なまはげ』かも。
「…お面をつけたら可笑しいんだ。…笑い者になるんだ、ぼく…」
ソルジャーと私の表情を見た「そるじゃぁ・ぶるぅ」は傷ついてしまったみたいです。
「ブルー、ぼく、ハーレイに仕返ししたい!こんなお面をかぶらせるなんて、あんまりだもの」
「駄目だよ、ぶるぅ。節分の鬼は追われて逃げるだけなんだ」
ソルジャーは膨れっ面の「そるじゃぁ・ぶるぅ」の肩をポンと叩いておっしゃいました。
「いいかい、絶対に仕返ししないこと。…約束だ。我慢して鬼をやっておいで」

やがて夜になり、豆まきの時間の到来です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はソルジャーにサイオンを封じられ、鬼のお面をサイオンで顔にくっつけられて青の間の外へ出て行きました。恐ろしげなお面と小さな身体の取り合わせは想像以上に滑稽でしたが、この鬼に出くわした人たちの方は笑うどころではないようで…。
「鬼だ、鬼が来たぞ!鬼は外~っ!!!」
あちこちで起こる派手な騒ぎが青の間のモニターに映し出されます。普段は監視カメラに映らない「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですが、サイオンを封じられている今はそんなわけにはいきません。行動を追跡されてシャングリラ中の人々に追われ、行く先々で激しい豆攻撃を浴びながら必死に船内を走っています。
「思った以上の騒ぎだね。悪戯のツケは大きかったか…」
「豆鉄砲まで持ち出すなんて驚きました。あれ、機関銃並みの連射式ですよ」
「戦闘班が作ったんだろう。豆鉄砲だけで済めばいいけど…」
モニターの中の「そるじゃぁ・ぶるぅ」はマントを翻して豆を防いだり、床に伏せたり、飛び上がったり。それでもやっぱり当たる時には当たってしまうわけで、その度に歓声が上がるのでした。あっという間に豆まきタイム終了時間が近づき、追い詰められた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が公園に飛び出していった時。
「ふっふっふっ。…待っておったぞ!!」
ゼル様がモニターに大写しになり、ロングになると…そこには裃をお召しになったゼル様、キャプテン、ヒルマン教授と巫女装束に金の烏帽子という福娘姿のブラウ様とエラ様が勢揃いしてらっしゃいました。皆様、金色の枡を持っておいでですけど、中央に置かれた大砲みたいなモノはいったい…?
「さぁ、シャングリラに福を呼ぶのじゃ!豆大砲発射用意!鬼は~外!!!」
「きゃーーーーーーっ!!!」
ドッカーン!…大砲から大量の豆が発射されました。さすがの「そるじゃぁ・ぶるぅ」もマントで直撃は防いだものの吹っ飛ばされて芝生に倒れ、そこへ裃と福娘姿の長老方が勢いよく豆を撒きながら。
「福は~内、福は~内、福は~内!!!」
招福の言葉を唱和なさって豆まきタイム終了です。起き上がった「そるじゃぁ・ぶるぅ」の顔から鬼のお面がポトリと落ちて転がりました。エラ様が笑顔で屈み込み、助け起こしていらっしゃいます。豆大砲の衝撃がどれほどのものかは分かりませんけど、ソルジャーが微笑んでおいでですから大したことはないのでしょうね。

しばらくすると「そるじゃぁ・ぶるぅ」がヨロヨロと青の間に戻って来ました。
「ああ、酷い目に遭っちゃった。お腹ぺこぺこだよ。…恵方巻、早く食べたいよぅ」
そのままコタツに入ろうとするのをソルジャーがお止めになり、ご自分の隣を指差されて。
「狭いけど、ぼくと一緒にこっちにお入り。シャングリラの今の位置からすると、ここから見た先が今年の恵方の南南東だ。恵方巻はちゃんと恵方を向いて食べなきゃね」
「そうなんだ…。ありがとう、ブルー」
並んでコタツに入った「そるじゃぁ・ぶるぅ」の前にソルジャーは豆を2粒置かれました。
「ほら、年豆だよ。ぶるぅは1歳だから数え年で2歳。2粒だ。…忘れないように食べておかないと」
「ブルーは?ちゃんと三百と…幾つだっけ…もう食べたの?」
「流石に三百個はちょっと無理だな。ぼくは10歳分で1個の計算なんだ」
取り出された年豆の数はそれでも30個以上です。私も頂き、ありがたくポリポリ食べました。間もなく普段の服に着替えられた長老方がフィシス様と一緒においでになって、恵方巻を食べる会の始まりです。
「よく来てくれたね。恵方を向くには不便だけれど、コタツで寛いでくれたまえ」
いつの間にかコタツが二つに増えていました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお正月用に買い足し、その後は休憩室にあった二つ目のコタツ。きっと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がテレポートで運んできたのでしょう。
「ぶるぅがおみくじ付きの大吉開運恵方巻というのを買ったんだ。シャングリラで作った物も運ばせてある。両方食べるか、どっちかにするか、好きに選んでくれればいい。ぶるぅ、用意してくれるかな?」
「うん!…大吉のヤツは八種類の具が入ってて末広がりだと書いてあったよ」
コタツの上にサイオンで並べられたのはシャングリラの全員に配られる恵方巻と、それよりもずっと大きくて太い大吉開運恵方巻。ソルジャーは迷うことなく「そるじゃぁ・ぶるぅ」が『地球へ行けますように』という願いをこめて買った開運恵方巻をお取りになると、笑顔で宣言なさいました。
「ぼくはこっちにしておくよ。大吉開運で末広がりだというんだから」
「おみくじ付きとは楽しいねえ。あたしもそれにしてみよう」
「わしも運試しに挑戦じゃ!…なぁに、ウサギ耳より悪い運なぞ無いて」
次々に手が伸び、大吉開運恵方巻が全員の手に。嬉しいことに私の分までありました。早速、みんなで南南東を向いて無言のままで丸かぶり。なかなか美味しい恵方巻です。食べ終わった人から「おみくじ」を開け、大吉の文字に大喜び。でも残念なことにキャプテンだけは末吉でした。そして一番に食べ終えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は…。
「まったく凄い食べっぷりだねえ。幾つ食べれば気が済むんだい?」
ブラウ様が呆れておられます。大吉開運恵方巻はかなりボリュームがあり、キャプテンとゼル様以外は全員、シャングリラで作られた恵方巻を食べずに残したのですが…「そるじゃぁ・ぶるぅ」はそれをペロリと平らげた上、自分が買った何種類もの恵方巻をせっせと食べているのでした。ソルジャーの隣で恵方を向いて。
「話しかけても無駄だと思うよ、ぶるぅはとても真剣だから。…ね、ぶるぅ?」
ソルジャーのお言葉に「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコクンと頷き、黙々と食べ続けます。もしかしたらクリスマスにソルジャーに言った「サンタの代わりにぼくが地球へ連れてってあげる」という夢を実現しようと頑張って願掛けしているのかも。…単なる食いしん坊だと思ってましたけど、今夜は大真面目みたいです。

豆まきの話で盛り上がった後、長老方とフィシス様はソルジャーに御挨拶なさってそれぞれのお部屋へ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は恵方巻を食べるのに夢中で、スーパーの袋の中にはまだ何本も入っていました。
「では、ソルジャー…私も失礼いたします」
最後まで残っておられたキャプテンが退室しようとなさった時。
「待て、ハーレイ。話がある」
ソルジャーがキャプテンを呼び止められて、ひそめた声でおっしゃいました。
「すまないが、ぶるぅが部屋に帰るか、寝るまで待っていて欲しい。…とても大事な話なんだ」
キャプテンは頷いてコタツに戻られましたが、大事なお話って何でしょう?…その内に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は恵方巻を残らず平らげ、ソルジャーにもたれかかると無邪気な笑顔を見せました。
「ブルー、いっぱいお願いしたよ。ブルーを地球へ連れて行ってあげられますようにって、何度も何度も。これだけ食べれば叶うよね。…ぼく、いつか…ブルーを連れてってあげるよ、地球に…」
言い終えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はお腹一杯になったのと豆まきの鬼の疲れとで、コトンと寝入ってしまったようです。ソルジャーは何度か声をかけ、返事がないのを確認なさるとキャプテンを真顔で御覧になりました。
「ハーレイ、落ち着いて聞いて欲しい。…お前だから話すことなんだ」
あ。…私、席を外した方が良さそうです。え?…『かまわない』って…今の思念はソルジャーですよね?どうしたものかと迷ったものの、私、ソルジャー補佐ですし…このまま様子を見てみましょうか。

しんと静まり返った青の間でソルジャーは深く息を吸い込み、静かに口を開かれました。
「ハーレイ、お前はシャングリラのキャプテンでぼくの右腕。…誰よりも頼りに思っている」
「光栄です、ソルジャー」
「これから話すことはお前の胸だけにしまっておいて欲しいが、誓ってくれるか?…生涯、誰にも漏らさないと」
「誓いましょう。…ソルジャーのお望みとあらば」
なんだか深刻そうな会話です。本当に聞いてていいんですか、ソルジャー?
「ありがとう。…ぼくは謝らなければならない。この前、お前とゼルがぶるぅにくっつけられたネコの耳とウサギの耳を用意したのはぼくだったんだよ。…ほら、どちらもぼくの行きつけの店だ」
空中から取り出した2枚の写真をソルジャーがキャプテンにお渡しになり、次の瞬間。
「………っっっ!!!!!」
キャプテンは思い切りのけぞられ、白目を剥いてしまわれました。
「ぶるぅが耳のついたカチューシャを欲しがっていたから貰ってきたが、あんな風に使うとは思わなかった。だから潮時だと思ってね。…隠し事をしていてすまなかった。ハーレイ、ぼくを許してくれるかい?」
「……………」
ひらり、とキャプテンの手から写真が落ちてコタツの上に乗っかりました。そこに写っていたものは…補聴器を外し、ハイネックの黒い服をお召しになったソルジャーのお姿。ストローで緑色の液体を飲んでおられて、両脇にはウサギの耳を頭に着けた黒いレオタードの女性が写っています。金髪の女性と青い髪の女性。なんとソルジャーを通して見えてしまった「そるじゃぁ・ぶるぅ」の記憶の中のバニーガールさんではありませんか!
「…やはり軽蔑している、か…。もうソルジャーとも呼びたくないかな」
「……い、いえ……。いいえ、ソルジャー……」
キャプテンはやっとのことで声を絞り出され、苦悶の表情でおっしゃいました。
「…ソルジャーにも…息抜きは必要かと…。……ですが…」
「すまない…。一生、話すつもりはなかったんだ。ぶるぅが悪戯しなかったなら、何も言わずに終わっただろう。…すまない、ハーレイ…心からすまないと思っている。ぼくの趣味のことは一切誰にも…」
「……分かっております。…誓って、誰にも……」
フラリと立ち上がられたキャプテンの手から、もう一枚の写真が落ちました。そこには同じく私服のソルジャーと、ソルジャーを囲む「ネコの耳をつけたメイド服の女の子」たち。この女の子たちにも見覚えが…。
「頼んだよ、ハーレイ。…お前だからこそ打ち明けたんだ」
「…ご安心を…。……決して生涯、口外しません…」
キャプテンはよろけながら青の間を出てゆかれました。ソルジャー、どうしてあんな嘘を?ネコの耳とウサギの耳は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手に入れたものじゃありませんか。しかも記念写真なんて無かった筈です。ソルジャーが入手されたのかもしれませんけど、御覧になったキャプテンはショックで寝込んでしまわれるかも…。

キャプテンが仰天なさった2枚の写真。ソルジャーはそれを弄びながら笑みを浮かべておっしゃいました。
「節分の鬼は何もできずに逃げるだけ。…だから、ぶるぅが仕返ししたがっていたハーレイにぼくが代わりに仕返ししてみた。嘘をついただけで噛み付いたりはしてないよ」
サイオンの青い焔が上がり、記念写真はソルジャーの手の中で瞬時に灰に。
「ぶるぅの記憶にあった景色にぶるぅが化けたぼくの姿を嵌めた写真を作ってみたんだ。ハーレイは見事に騙されたけど、本当のことは何日くらい黙っていようか。…ねえ、ぶるぅ?」
何も知らない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は気持ち良さそうに眠っています。でもキャプテンはお休みになるどころではないでしょう。普段から胃薬を常用しておられるキャプテンだけに、胃潰瘍にでもなってしまわれたら…。
「大丈夫。そうなる前にちゃんと話すよ。…ハーレイに倒れられてはぼくだって困る」
ソルジャーはクスリと笑って「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭を撫でて。
「ぶるぅ、節分の鬼、頑張ったね。…ハーレイにはぼくが仕返ししておいたよ。お前が仕返ししていた方がましだったかもしれないけれど、節分の鬼は仕返ししてはいけないから」
うーん…。仰せのとおり、あの嘘よりは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の仕返しの方がキャプテンの胃に優しそうです。せいぜい噛み付き攻撃でしょうし。ソルジャーがつかれた嘘はといえば、胃の中で金棒を振り回して暴れる鬼のよう。
「鬼か。ぶるぅがかぶってたお面、ぼくがかぶれば似合うかな?」
とんでもない!微笑んでらっしゃるだけで十分に凄みがおありです。お顔立ちが整っておいでですから、伝説に出てくる美女と見まごう美形の鬼とはこんなものかと思えるほどで…。
「なるほど。ハーレイは今頃、ぼくの顔をした鬼が出てくる夢にうなされているかもしれないね。…ぶるぅには内緒の仕返しだから、ハーレイが寝込むようなことになったらぶるぅは不思議に思うだろうな」
「…ブルー、ぼく、もうお腹いっぱい…」
むにゃむにゃ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が口にしたのは寝言でした。
「…だからきっと……いつか二人で地球に行けるね…」
恵方巻を願掛けしながら死ぬほど食べた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。こんなに頑張っているんですもの、どうかソルジャーと一緒に地球へ辿り着ける日が来ますように。そしてキャプテンが綺麗な鬼に突き落とされた奈落の底から、無事お戻りになれますように…。

マザー、例の写真と大嘘のせいでキャプテンは3日間寝込まれました。欠勤初日の夜にソルジャーがお見舞いに出向かれましたし、そこで真相をお知りになった筈なのですが…それから2日も欠勤だなんて最初のショックがあまりに大きすぎたんでしょうね。なんといっても『ソルジャー・ブルー御乱心!』な記念写真が2枚ですし。
そして恵方巻でお腹一杯になった「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、翌朝に目を覚ました時には豆まきの鬼の屈辱などすっかり忘れて御機嫌でした。「キャプテンに仕返ししたかった」ことも忘れてしまっていたんですから、キャプテンはとんだ災難です。末吉のおみくじが予兆だったのか偶然なのか、フィシス様なら分かるでしょうか?
大騒ぎだった節分の夜、シャングリラには2匹の鬼がいたようです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」鬼は豆まきで退治されましたけど、キャプテンの前にだけ姿を見せたソルジャーそっくりの鬼は豆なんか浴びていませんでした。そして鬼はそれっきり行方不明に。今もシャングリラにいそうですか、マザー…?




PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]