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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

シャングリラ雪便り

マザー、相変わらず無休のソルジャー補佐です。シャングリラの外はまだまだ冬。展望室は人工降雪機で雪景色ですし、青の間にはコタツが鎮座しています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は最近、甘酒がマイブーム。アルコール分を含まないので、ソルジャーもお気に入りみたいですね。

今日も「そるじゃぁ・ぶるぅ」は専用湯飲みで甘酒を飲んでいましたが…。
「ねえ、ブルー。甘い雪が降ってくる所ってあるのかなあ?」
「甘い雪?」
ソルジャーが怪訝なお顔をされました。
「うん。ぼく、冬になってから何度も雪が降る日に出かけたよね。雪ってフワフワして美味しそうだから、いつも口を開けて見上げるんだけど、水の味しかしないんだ。アイスみたいに甘い味がする雪はないのかな?」
「雪は雨と同じだから…無理だね。かき氷だってシロップが無ければただの氷だ」
「そうなんだ…。とっても美味しそうなのに…。ぼく、何回も食べてみたのに」
甘い雪が存在しない、と聞いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は不満そうです。
「じゃあ、味をつければ甘くなる?…展望室の降雪機にシロップを入れてもかまわない?」
「シロップを入れて甘い雪ができるかどうかは分からないよ。やってみたい気持ちは分からないでもないけれど…失敗したら展望室が台無しだ。せっかく綺麗な雪景色なのに」
「綺麗?…あれが?…一面の雪っていうだけだよ。景色なんかないじゃないか」
景色が…無い。言われてみればそうでした。展望室に雪は沢山あって子供たちのいい遊び場ですけど、公園と違って木の一本もありません。雪が降っている時以外はあまり風情はないですね。
「そうだ。ブルー、一緒に本物の雪を見に行こう。山の方、今、雪が深くて綺麗なんだ」
「それは…出来ないよ。ぼくがシャングリラを留守にするなんて」
「ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ…行こうよ、ブルー。5分だけでも」
「駄目だ。たとえシャングリラに危険がなくても…ぼくだけが雪を見に行くなんてことはできない。この船のみんなは外へ出たくても出られないんだ。お前と違って、ね」
そうおっしゃったソルジャーのお顔はとても悲しげで、胸を締め付けられるようでした。
「だから…雪は一人で見ておいで。ぼくはお前を通して見せてもらえるし、それで十分幸せなんだよ。本当はみんなにも見せてあげたいけれど…それだけの力を使うのは今のぼくには厳しいな…」
「…そっか……。じゃあ…行ってくるね」
寂しそうに俯きながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」の姿が消え失せました。甘い雪が降らないかな、なんて思っている1歳児にはソルジャーのお話は重すぎたかもしれません。本物の雪景色…。今のままだと私も二度と目にする機会はなさそうです。シャングリラに来る前は当たり前だった沢山のことが手の届かないものになったんですね。

出かけていった「そるじゃぁ・ぶるぅ」は昼前に戻ってきましたが…妙にはしゃいだ様子でした。
「いいこと思いついたんだ!展望室、好きに使ってもいい?ぼくが雪景色を作ってあげる」
「ぶるぅ?…いったい何を…」
「えっとね、木とか、石とか、運びたいんだ。雪を降らせれば綺麗になるよ。ブルーに雪景色を見せてあげられる。だから1日だけ…ううん、今日準備するから、今日と明日だけ…展望室をぼくに貸して」
「…その景色を見てもいいのはぼくだけかい?だったら許可はできないな」
ソルジャーがピシャリとおっしゃいました。
「ぼくだけじゃなく、シャングリラの皆が楽しめるようにするというなら…何日でも好きに使っていい。ぼくにしか見せられないというなら一切駄目だ。展望室は皆のものだから」
「…見せたいの、ブルーだけなのに…。じゃあ最初はブルーだけで、その後は誰でも入れるように…。それならいい?最初から誰でも入れるようにしなきゃいけないんなら、ぼく、いやだよ」
「分かった。そういうことなら許可してもいい。ハーレイたちにはぼくが伝えよう」
「ほんと?…約束だよ。じゃあ、展望室に誰も来ないようにしてね」
展望室の使用許可を貰った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は昼食を食べ終えると早々に青の間を出て行き、アルテメシアに向かったようです。雪景色を演出するための資材を調達するのでしょうけど、いったい何が出来上がるやら…。
「大真面目だよ、ぶるぅは。変なものが出来る心配はない」
展望室を閉鎖するように指示を出されたソルジャーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の行動を思念で追っておられるらしく、微笑を浮かべておいででした。
「展望室に雪景色を創り出そうだなんて、思いつきもしなかったな。もっとも、ぼくはシャングリラを長く空けるわけにはいかないから…思いついたとしても実行できなかっただろうけれど」
「どんな景色が出来そうですか?」
「そうだね…雪が積もりやすい木を何本か選んで植えるつもりのようだ。あとは自然に岩を配置して人工に見えない庭を作ろうと考えている。庭師顔負けの仕事を見せてくれそうだよ」
庭師の仕事をしたこともある私は驚きました。展望室はかなり広いのですが、あそこに庭を作るとなると庭師チームが総がかりでも数日間はかかりそうです。それを「そるじゃぁ・ぶるぅ」は1日で…?
「多分、夕方までかからない。夜には降雪機を動かそうと思っているみたいだし」
ソルジャーのお言葉どおり、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は夕食前に全ての作業を終えて戻ってきました。満足そうな顔で大量のご飯とおかずを平らげ、コタツで横になったかと思うともう寝息が…。
「疲れたんだね。…ぶるぅ、明日を楽しみにしているよ」
ソルジャーは爆睡している「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭を優しく撫でてらっしゃいました。

翌朝、私が出勤すると青の間にはリオさんだけ。朝食の片付けが終わったみたいです。
『ソルジャーはお出かけになりましたよ。展望室に何かあるようですね』
「そるじゃぁ・ぶるぅが庭を造ったんです。ソルジャーに見せたいと言って…」
『庭ですか…。あ、ソルジャーが…呼ぶまでは来なくてもいいとおっしゃってました』
「そうでしょうね。最初はソルジャーの貸切らしいですから」
リオさんがワゴンを押して出て行った後、私はコタツに入りました。ソルジャーのお呼び出しがあるまで暇ですし、キャプテンに漫画でもお借りしてこようかな、などと思っていると…。
『早くから留守にしていてすまない。展望室に来てもらえるかな?』
ソルジャーの思念が届き、大急ぎで展望室へ。扉を開けると、そこは見事な雪景色でした。針葉樹や常緑樹、枯れ木にたっぷり雪が積もって、深い雪には自然石が埋もれています。積雪は軽く1メートルはあるでしょう。
「うわぁ、凄い…。山の中みたい」
雪国に迷い込んだかと錯覚しそうになる風景の中に東屋があり、そこにソルジャーと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。東屋は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が降雪機を壊して遭難者が出る騒ぎが起こったのがきっかけで建てられたもので、この程度の雪なら埋もれません。暖房と床暖房も効いてますから、雪見にもってこいなのです。そこまでの道の雪は固められていて、東屋の中にはちゃんとコタツが置かれていました。
「ぶるぅが休憩室から運んでくれた。…今、ハーレイたちも呼んだんだよ」
ソルジャーはコタツで甘酒を飲んでおいででした。専用湯飲みごと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が運んだようです。すぐに青の間のコタツも運び込まれてきて、そこへキャプテンと長老方、そしてフィシス様が…。
「ソルジャー、これは何事ですか?」
驚いてらっしゃる皆様の中で最初に口を開かれたのはキャプテンです。
「見てのとおりの雪景色だが?…ぶるぅの力作なんだけど」
「はあ…。では、これを見せるために我々をお呼びになったのですか?」
「無粋だね、ハーレイ。明日からの一般公開に先駆けて内覧会だ。皆もゆっくり楽しんでいくといい。…フィシス、今のところ、不穏な気配は無いと言ったね」
「はい、ソルジャー。占ってみましたけれど何も動きはございませんわ」
フィシス様のお言葉にソルジャーは頷かれ、皆様にコタツをお勧めになって。
「聞いてのとおり、羽根を伸ばしても大丈夫なようだよ。ぶるぅが湯豆腐にしようと言っているから、雪見酒なんかいいんじゃないかな。…ぼくとぶるぅは甘酒だけどね」
コタツの上に卓上コンロと鍋、食器、湯豆腐の材料が並び、雪見酒のためのお銚子やお猪口もサイオンで運ばれてきました。お酒はちゃんと熱燗です。湯豆腐の鍋がぐつぐつと煮え、キャプテンの御発声でまずは乾杯。私はコタツに入りきれないのでは…と思いましたが、エラ様が詰めて下さいました。雪見で甘酒もオツなものですね。

宴会は次第に盛り上がり、ゼル様が「どぶろくは無いのか」とおっしゃった辺りから怪しい流れに。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は注文どおり『どぶろく』をサイオンで取り寄せましたが、既に酔っておられたゼル様は…。
「これはのぅ、ちょっとアルコールが入った甘酒なんじゃ。美味いぞ、飲んでみぃ」
ドポドポドポ、と『どぶろく』を「そるじゃぁ・ぶるぅ」専用湯飲みに注いでしまわれたのでした。
「ゼル!そんなもの子供に飲ませちゃ…」
ブラウ様が叫ばれるのと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がクイーッと一気に飲むのは同時で。
「どうじゃ、美味いじゃろう?」
「うん。なんだかポーッとしてくるね」
「そうか、そうか。小さいが、なかなかいけるクチじゃな」
そんなやり取りがあって、ソルジャーが気付かれた時には「そるじゃぁ・ぶるぅ」は完全に酔っていました。それでもサイオンは衰えを見せず、ブラウ様の「カラオケが欲しいところだねえ」という声に応じて愛用のカラオケセットが出現します。コタツを囲んでいる面々でアルコールが入っていないのはソルジャーと私だけでした。フィシス様も何か飲まれたらしく、妙にはしゃいでおいでです。最初にマイクを握られたのは言いだしっぺのブラウ様。
「それじゃ1曲、やらせてもらうよ。せっかくの雪だ、ここはやっぱり津軽海峡・冬景色だね」
こぶしのきいた見事な歌声を披露なさると拍手喝采。マイクを奪い取るようにゼル様が『兄弟船』を歌われ、その次は意外にもエラ様の『天城越え』でした。マイクはヒルマン教授に回り、曲は『風雪流れ旅』。ここで「そるじゃぁ・ぶるぅ」が乱入し、調子っぱずれな『かみほー♪』が…。SD体制前の古い歌ばかりですけど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の日頃のカラオケの選曲と重なっています。長老方の十八番を歌っていたんですね、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ハーレイ。あんた、まさか歌わない気じゃないだろうね?」
「お神酒が足りんのじゃ、お神酒が!ささ、ぐっと飲め!一気に飲め!!」
ブラウ様とゼル様のダブル攻撃にソルジャーの楽しそうなお声が加わりました。
「もちろん聞かせてもらえるよね?…期待してるよ、ハーレイ」
キャプテンがマイクを握って披露なさった十八番は…。
「♪いいえ私は さそり座の女~♪」
皆様の歓声と拍手が響き、キャプテンは上機嫌で歌っていらっしゃいます。『さそり座の女』は日頃のお姿からは想像もつかない名調子でした。もしかしてこの後はソルジャーとフィシス様のデュエットだったりするんでしょうか。お二人で相談してらっしゃるところをみると、そのようです。いったい何をお歌いに…、と期待していた所へ怒鳴り声が聞こえてきました。え?…露天風呂がなんですって?

「だから!露天風呂は無理なのかい、って聞いてるんだよ」
キャプテンの歌が終わるのを待たずにブラウ様が「そるじゃぁ・ぶるぅ」を揺さぶっておいでです。
「これだけの雪景色があったら露天風呂が欲しいじゃないか。できないのかい?」
「ひっく、できるよ。…もちろんできるよ~♪」
酔っ払った「そるじゃぁ・ぶるぅ」がふにゃふにゃと答え、東屋のすぐそばの雪面がボコッと陥没したかと思うと8畳ほどの立派な露天風呂が出現しました。雪をサイオンで固めて湯船を造り、温泉を貯めてあるようです。湯船の縁の雪は丸石を並べた形に器用に固められ、お湯は熱々。…恐るべし、酔っ払い。
「よおし、よくやった!それじゃ早速入ろうかねえ」
「ほほぉ…。混浴ですかな」
ブラウ様とヒルマン教授が立ち上がりながらタオルと浴衣を要求なさっておられます。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は人数分のタオルと浴衣を用意して寄越しましたけど、もしかして私も入るんですかぁぁぁ!?…って、エラ様、行っちゃわないで下さい!ゼル様も…。キャプテンまで?そりゃあ…露天風呂、気持ち良さそうですけど…。
「入らないんですの?」
フィシス様に聞かれて私は思い切り飛び上がりました。
「あ、あ、あのっ!…わ、わ、私、か、か、風邪気味で…」
「あら…。それは残念ですわね。…ソルジャーはお入りになりますでしょう?」
フィシス様は当然のようにソルジャーを…シラフでらっしゃるソルジャーをお誘いになり、ソルジャーも頷かれました。ソルジャー…だてに三百年以上も生きておいでじゃないようです。混浴ごときで引いておられません。露天風呂の方はワイワイととても賑やかです。恥ずかしいので今まで外の景色を見ていましたが、ここで見ないと後悔するかも。なんといってもソルジャーの…。よしっ!
「いいお湯だね、ぶるぅ」
「うん、アタラクシアの源泉から直送だよ~」
あう。時すでに遅く、私が顔を向けた時にはソルジャーは湯船に首まで浸かっておいででした。み、見逃してしまいました…ソルジャー服をお脱ぎになるところを!ソルジャーの横では「そるじゃぁ・ぶるぅ」がタオルを頭に乗せて泳いでいます。ゼル様とキャプテンはお銚子を入れた桶を浮かべて酒盛りを続けておられました。
「ぶるぅ、酒じゃ!酒が足りんぞ!!」
「ふむ、空だな。…もう1本つけてくれ」
お銚子が空になってしまったらしく、お二人の注文が入ります。
「ん~、ちょっと待っててね~…。今、忙しいの~」
そう言いつつ「そるじゃぁ・ぶるぅ」はのんびり泳いだり、湯船にぷくぷく潜ってみたり。どう見ても忙しいようには見えません。ああ、それにしても…ソルジャー、ちょこっとでも動いて下さらないかなぁ…。
「ぶるぅ!!酒じゃと言っとろうが!!!」
「忙しいようには見えんぞ、ぶるぅ!!」
ゼル様とキャプテンがザバッと立ち上がられました。あひゃあ!…私が見たかったのはお二人じゃなくてソルジャーの…って、お二人とも、何をなさるんですか!
「いひゃい!!」
ゼル様とキャプテンは「そるじゃぁ・ぶるぅ」を湯船から引っ張り上げて揺さぶりながら「お酒の追加」を早く寄越せ、と怒鳴りつけておいででした。ゼル様はともかく、キャプテンって…お酒が入ると大トラに?
「早いとこ酒を寄越すんじゃ!!」
「ブリッジに逆さハリツケにするぞ!!」
「うるさいーーーっっっ!!!」
ゼル様とキャプテンの怒声を上回る叫び声と共に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が青く発光し、湯船から三人の姿が消えました。ゼル様とキャプテンが腰に巻いておられたタオルだけを残して。
「…やれやれ。…どうしたらいいと思う、フィシス?」
「カードが無くては占えませんわ…」
ソルジャーとフィシス様の緊迫感の無い語らいが聞こえ、他の皆様は我関せず、と気持ちよさげに露天風呂を楽しんでおられます。ここは私も、ソルジャーが上がってこられる瞬間を心待ちにして過ごしましょうか。それにしても雪景色の露天風呂っていいものですねえ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が消えてしまった今、湯船を維持しつつ、お湯の温度を保ってらっしゃるのはソルジャーでしょうけど。

やがてヒルマン教授が上がってこられ、続いてブラウ様とエラ様。浴衣で寛いでいらっしゃいます。さて…そろそろソルジャーが…。えっと、ソルジャー服は何処に置いてらっしゃいましたっけ。それともまずは浴衣でしょうか。うふふ…。
「牛乳はどこだい?」
私の妄想はブラウ様の声で破られました。
「は?」
「ほら、ぶるぅが運んできてたろう?湯上りには牛乳だね、とかなんとか言って」
そういえば、そんなものがありましたっけ。牛乳はよく冷えていましたし、東屋には冷蔵庫がありませんから、入り口の横の雪の中に突っ込んで冷やすことに決めたのでした。
「そうじゃな、風呂上りには牛乳が美味い。わしも頼むよ」
「じゃあ、私も…」
ヒルマン教授とエラ様からもお声がかかり、私は牛乳瓶を掘りに出かけました。冷たい瓶を3本抱えて戻ってくると、ソルジャーとフィシス様が浴衣姿で東屋の中に…。あああ、見逃してしまったんですね、ソルジャーの…。いいえ、ソルジャー、なんでもございません!
「そうかい?…なら、いいんだけど。ぼくも牛乳を貰えるかな」
「私にもお願いいたしますわ」
ソルジャーの視線を背中に浴びつつ牛乳を取りに行く私の思念はバレバレだった気がします。戻ってきたらクスクス笑っておいででしたから。皆様、牛乳を一気飲みなさった後はコタツで談笑してらっしゃいますけど、消えてしまった「そるじゃぁ・ぶるぅ」たちは一体どこに…?
「そうだ、忘れていた。ハーレイとゼルの分の浴衣があったね」
「はい。あそこに」
思い出したようにおっしゃったソルジャーに、私は東屋の端に置かれた浴衣を指し示しました。大人用が3枚と子供用が1枚。大人用の中の1枚は私の分で、子供用は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のです。
「あたしもすっかり忘れてたよ。ハーレイたちはどうなったんだい?船の外じゃあないだろうね」
「それは大丈夫」
ソルジャーはクックッと笑い出されました。
「三人揃って、ぶるぅの部屋だよ。ぶるぅは土鍋でぐっすり眠ってるけど、ハーレイとゼルはとても困っているようだ。テレポートのショックで酔いがすっかり醒めたのはいいが、ぶるぅの服は小さすぎてね。仕方ないからシーツと毛布を巻いてるよ。あれでは一歩も出られないから、そろそろ服を送ってやろうか」
フッ、と浴衣が2枚消えました。
「ブラウ、後で下駄を二人分、ぶるぅの部屋に届けてやってくれ。ハーレイたちの服と靴は預かっておくから、ぼくの所へ取りにくるよう伝えるんだよ」
「そりゃいいや。ぶるぅの部屋から青の間まではけっこう距離があるからねえ」
ブラウ様、とても楽しそうです。
「ついでだからタオルと湯桶も届けてやろう。持って歩けば温泉気分だ」
「なるほど。みんな驚くだろうね、シャングリラに温泉があったのか、って。この露天風呂を残しておければ喜んでもらえそうだけど…ちょっと無理かな」
バシャン、と水音がして露天風呂の縁が崩れ落ちました。サイオンで保持する人がいないと雪見風呂は難しいみたいです。湯気も少なくなっていますし、明日の朝には凍った池か庭の一部になるでしょう。盛り上がった宴もそろそろお開き。今度こそソルジャーのお召し替えを拝見しなくては…。
「それじゃ、ぼくは先に戻るよ。片付けが終わったら、ハーレイたちの服を持って帰ってきてくれ」
え。ソルジャーは御自分の服をお持ちになってテレポートしてしまわれ、残された私が見られたものは女性陣とヒルマン教授の着替えでした。後片付けは皆様がリオさんを呼んで下さったのでお任せすることになり、ブラウ様とエラ様が畳んで下さったキャプテンとゼル様の服は…風呂敷代わりのゼル様のマントの中。
「楽しかったねえ。ソルジャーによろしく伝えておくれよ!」
ブラウ様の陽気なお声に送られ、キャプテンとゼル様の靴を両手に提げて私は展望室を後にしました。背中にはゼル様のマントで出来た包みを背負っています。服を取りに浴衣姿でおいでになるというお二人もお気の毒ですが、私の姿もかなり変。どうか誰にも会いませんように…。

マザー、青の間までの廊下は無人でした。笑い者にならずに済みましたけど、ソルジャーは既にいつもの服に着替えておられて残念無念。コタツも私より先に戻ってましたし、二人分の服を運ばされたのはソルジャーの悪戯心かもしれません。キャプテンとゼル様が浴衣に下駄履き、湯桶とタオル持参で服を取りにいらした時、こうおっしゃっておられましたから。
「この子の方がよっぽど情けない思いをしたんだよ。お前たちが残した服のせいで」。
服といえば「そるじゃぁ・ぶるぅ」が脱ぎ捨てた服は東屋には残っていませんでした。キャプテンのお言葉ではマント以外は土鍋の横にあったそうですし、ちゃっかり回収したんですね。マントは土鍋の上にかかっていたとか。もしかするとマントの下はスッポンポン…。ええ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の裸は露天風呂での騒動の時、しっかり拝んでしまいました。でも私が見たかったのはソルジャーの…。いえ、これ以上は乙女心で自主規制です。
翌日の午後、露天風呂が崩壊した後の展望室が一般公開されました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作った雪景色の庭は大人気。東屋は宴会予約で一杯になり、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が宴会の酒の肴を奪って逃げたり、悪戯をしかけたりすると噂です。シャングリラはまだ雪の中。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食べてみたいという甘い雪、マザーならお作りになれますか…?




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