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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

ぶるぅの弟子入り

マザー、無休のままで冬が終わったソルジャー補佐です。色々と役得もあったので無休でも構わないんですけど「そるじゃぁ・ぶるぅ」が楽しそうに出歩いているのを見ると羨ましいな、と思ったり。でも…お休みを貰ってもシャングリラから出られませんし、それならソルジャーのお顔を拝んでいられる生活の方がお得ですよね。

シャングリラの外は暖かくなってきたのに青の間にはまだコタツがあります。ソルジャーは「桜が咲いたら流石にコタツ布団は片付けないとね」とおっしゃりながらも今日も朝からコタツの中。「コタツに入っていると寺にいた頃を思い出すんだ。懐かしいな」と、アルテメシアでお坊さんの修行をしてらした時のお話をして下さいました。
「冬はコタツと火鉢以外に暖房が無くてね。もう本当に寒くて寒くてたまらなかった」
「シールドを使ったらミュウだとバレてしまいますしね」
「いや。バレないようにするのは簡単だけど…それじゃ修行にならないだろう?冬でも素手で雑巾がけをしたりするからアカギレも霜焼けもできたっけ。…アルタミラで実験体だった頃を思えば大したことじゃなかったが」
一緒に修行なさったヒルマン教授や同期のお坊さん達とお寺を抜け出して宴会を開いて大目玉を食らったこととか、托鉢の苦労話とか…。高僧になられるまでには色々あったみたいです。楽しくお話を伺っていると、フィシス様がいらっしゃいました。フィシス様もコタツにお入りになり、三人でお茶を飲みながらソルジャーのお話が続きます。
「そういえば、SD体制以前は小さな子供の間にお坊さんになることも多かったようだよ。…そうだ、ぶるぅを修行に出してみようか。悪戯好きな根性を叩き直してくれるかも…」
「…ソルジャー、それは…可哀相ではないでしょうか…」
「無駄でしょう。さっさと脱走してきますよ」
可哀相というのはフィシス様のお言葉で、脱走と決め付けたのが私です。
「分かってるよ、冗談だ。ぶるぅを弟子入りさせてくれるような心の広い道場は無い。面接で断られるに決まっている」
「良かった。ぶるぅはまだまだ子供ですもの」
「確かに…お寺の方にもお弟子さんを選ぶ権利はありますよねぇ…」
フィシス様と私がそれぞれの答えを返したところでエレベーターが動き、朝から花見弁当の試食会にお出かけしていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が帰ってきました。
「かみお~ん♪」
両手にアイスキャンデーならぬピンクの大きな綿菓子を持って口の周りは綿飴だらけ。桜もそろそろ咲き始めましたし、お花見の人を当て込んだ露店で買ってきたのでしょう。
「ブルー、これ凄く美味しいよ!お弁当より気に入っちゃった」
トコトコと走ってきた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の足がツルッと滑り、綿菓子を持ったままツーッと床を滑っていって…。
「きゃーーーーーっ!!!」
「きゃああ!!」
ドンッ、と突き当たったのはフィシス様の背中でした。

「…………ぶるぅ…………」
ソルジャーの低い低いお声が響き、赤い瞳が据わっています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は綿菓子ごとフィシス様の長い金髪に突っ込んでいて、しかも下手に暴れたせいで身体中に金髪が絡まっているではありませんか。
「…わざとじゃないよ、ブルー!…ほどけないよぅ…」
「わざとだったら許さない。フィシス、すまない…。痛いかい?」
「ソルジャー、私は大丈夫ですわ。それより、ぶるぅが怪我をしたのでは…」
「ピンピンしてるよ。だが、どうすればいいんだろう。…ぶるぅを外すのはテレポートでできるが、絡まってしまった髪を元に戻す方法が…」
フィシス様の見事な髪は「そるじゃぁ・ぶるぅ」を飲み込んでグシャグシャに縺れ、綿菓子もくっついて悲惨なことになっています。ぶつかられたのが私だったら服が汚れる程度だったのに…。
「私の髪なら…切って下さってかまいませんわ」
「駄目だ!そんなことをしたら背中の半分ほども残らない。せっかく綺麗に伸ばした髪が台無しになる」
ソルジャーは絡まった「そるじゃぁ・ぶるぅ」が動かないようサイオンで手足を押さえておられるようです。解決策が見つかるまではこのまま膠着状態でしょうか。もつれた髪を元に戻すのはソルジャーのサイオンでも出来ないか、あるいは凄く根気が要るのか。なにしろ相手は髪の毛です。それもフィシス様の背丈よりも長いのですから。
「…あ。もしかしたら…」
私の頭を掠めたのは、子供の頃に伸ばしていた髪にガムがくっついた事件でした。ガムを核にして鳥の巣のようになってしまった髪。パパが切ろうとして鋏を持ってきた時、ママが助けてくれましたっけ。
「リンスです、ソルジャー!…時間はかかるかもしれませんけど、リンスをつけて根気よくほどいていけば切らずに解決できるかも…。いくらかは切らなきゃ駄目かもですけど」
「なるほど…」
思念で伝えた『ガム事件』の顛末にソルジャーは頷かれ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がフィシス様の髪の中からテレポートで放り出されました。
「お前はそこで反省していろ。…フィシス、辛いだろうが我慢してくれ」
ソルジャーはサイオンで自由を奪われたままの「そるじゃぁ・ぶるぅ」を床に転がし、フィシス様を両手で抱え上げて。
「…とにかくリンスで洗ってみよう。手伝いを頼む」
お姫様抱っこでバスルームに運ばれるフィシス様を心底羨ましく思いつつ、私は後を追いかけました。ソルジャーはバスタブの横に椅子を運び込んでフィシス様を座らせ、長い髪の毛をバスタブに入れてお湯を張ってゆかれます。
「フィシスのリンスをありったけ運んでみたが、足りるかな」
サイオンで取り寄せられたリンスをバスタブに溶かし、更に髪の毛にたっぷり擦り込んで…後はブラシで梳かすのみ。ソルジャーはマントと手袋を外し、腕まくりをしてらっしゃいました。
「あ、ソルジャー、毛先から梳かしていかないと…もっと縺れてしまいます。大変ですけど、少しずつです」
「分かった。毛先から少しずつ、だな」
「ソルジャー、お手を煩わせて申し訳ありません…」
「気にしなくていいよ、フィシス。ぼくがやりたくてやっていることだ」
ううっ、フィシス様、羨ましいです。お姫様抱っこの次はソルジャーに髪を洗ってもらえるなんて…。フィシス様の髪を元通りにすべく奮闘し始めたソルジャーと私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のことを完全に忘れ、バスルームでひたすら金色の髪を洗って梳かし続けました。

「…ソルジャー?…ソルジャー、いったい何事ですか?」
フィシス様の髪の五分の一ほどにブラシが通るようになった頃、バスルームの扉がいきなり開いて入ってこられたのはキャプテンでした。脇に「そるじゃぁ・ぶるぅ」を抱えてらっしゃいましたが、繰り広げられていた光景に息を飲んで立ち尽くしておられます。
「ハーレイ、ちょうどよかった。フィシスの髪が大変なんだ。手伝いが欲しいが、騒ぎが大きくなっても困るし…ブラウとエラを呼んできてくれ」
「…分かりました。で、原因はぶるぅですか?」
「それ以外に何があるというんだ。…悪意は全くなかったようだが」
「ごめんね、ブルー…。ぼく……ぼくも手伝うから…」
キャプテンに抱えられた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は手足の自由が利かないままらしく、目だけで訴えてみたものの。
「お前の手では無理だ。…だいたい、お前が上手くサイオンを操れたなら…フィシスにぶつかったりはしなかったろうし、ぶつかったとしても絡まったりはしなかったろう。お前に足りないのは集中力と器用さだ。不器用な手には任せられない」
しゅんと項垂れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキャプテンに連れられてバスルームから消え、しばらくするとブラウ様とエラ様がおいでになりました。
「こりゃまた派手にやったもんだねえ。外でぶるぅがしょげてたよ」
「…まさか、こんなに酷いだなんて…」
それから先は4人がかりでリンスで洗ってせっせと梳かして…フィシス様の髪はなんとか切らずに済んだのでした。私達の腕は筋肉痛になり、フィシス様もぐったり疲れてしまわれましたが、無事に一件落着です。
「ぶるぅの悪戯かと思ったら、事故なんだって?…いや、原因はぶるぅだけどさ」
仕上げのドライヤーをかけながらブラウ様がおっしゃいました。
「ああ、事故だ。だが、ぶるぅがサイオンに見合った集中力や器用さを持っていたなら結果は違っていただろう。まだ1歳の子供だから…と思っていたが、修行をさせるべきかもしれない」
「ええっ!?」
私は仰天して声がひっくり返りました。
「ソルジャー!…修行させてくれるお寺は無いとおっしゃっていたじゃありませんか。それとも何処かあるんですか、そるじゃあ・ぶるぅでも入れるお寺が?」
「ぶるぅを寺に入れるだって!?大暴れして逃げるのがオチだよ」
「あの子が修行に耐えられるとは思えませんが…」
「ソルジャー、許してあげて下さい。よけられなかった私が悪いんですわ」
1歳になって間もないグルメ大好き「そるじゃぁ・ぶるぅ」にお坊さんの修行は辛すぎるでしょう。でもソルジャーが行けとおっしゃったなら、ソルジャーのことが大好きなだけに我慢するかも…という気もします。
(なんだか可哀相。綿菓子を持って転んだ先にフィシス様がおられたばっかりに…。フィシス様はやっぱりソルジャーにとって特別なんだわ)
フィシス様はもちろん、ブラウ様たちもソルジャーが本気でらっしゃるのかも…と心配になってこられたらしく、口々に反対しておられます。
「…やれやれ。寺に入れると言った覚えはないんだけどね」
「でも…修行って、お寺なのでは…」
「修行と言っても色々あるさ。まだ1歳のぶるぅにシャングリラの外での修行は無理だ。そして普通のミュウの教育プログラムもぶるぅには向いていないだろう。…集中力と器用さの修行をさせてみたいが、ブラウ、頼めるか?」
「えっ!?…あたし、かい?」
「そうだ。君の特技を見込んで、ぶるぅの指導を頼みたい」
ソルジャーは私たちを連れてバスルームをお出になり、床に転がされていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の所へ行かれました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は手足の自由を奪われたまま、涙目でソルジャーを見上げています。
「ぶるぅ、お前の不注意でとんでもないことになりかけたことは分かっているね?」
辛うじて動く頭でコクンと頷き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小さな声で謝りました。
「…ごめんね、ブルー…。ごめんね、フィシス…」
「分かっているならいいだろう。でも、これを機会に集中力を鍛えておいた方がいい。明日からブラウに弟子入りだ。ブラウの指導は厳しいからね…真面目に練習するんだよ」
ソルジャーはサイオンの拘束を解いて「そるじゃぁ・ぶるぅ」にブラウ様への挨拶をさせておられましたが、弟子入りって…指導って…ブラウ様の特技ってなんでしょう?明日になれば分かるよ、とおっしゃってソルジャーはフィシス様を送って行かれ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も意気消沈して自分の部屋へ。…綿菓子で喜んでいた「そるじゃぁ・ぶるぅ」、こんな騒ぎになっちゃうなんて…。
青の間を退出した後、私はこっそり「そるじゃぁ・ぶるぅ」にアイスを差し入れに出かけました。きっと土鍋で泣いているものと思っていたら、なんとそこには先客が。
「…君も来たのか。ぶるぅ、よかったね。ちゃんと心配してくれる人がいて」
コタツにソルジャーとフィシス様がおられ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大きな綿菓子に夢中でした。ソルジャーたちの前には焼きたてのタコ焼きが置かれています。ソルジャーがシャングリラを抜け出して夜桜見物のお客目当ての露店でお買いになったのでしょう。私はアイスを冷凍庫に入れ、ほっとした気分で自分のお部屋に帰りました。

次の日、青の間に出勤すると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が先に来ていて神妙な顔でコタツに座っています。
「もう少ししたら、ぶるぅを体育室に連れて行ってくれ。今日の君の仕事は付き添いだ」
「は?」
「ぶるぅの修行の付き添いだよ。明日からは一人で行かせるけれど、初日は心細いだろうし。体育室は知ってるだろう?」
シャングリラには大きな体育館のような部屋がありました。独立した建物ではないので体育室と呼ばれていますが、子供達が体操をしたり、スポーツ好きな人たちが集まって何かやったりしています。そんな所で修行ということはスポーツ関係の何かですね。ブラウ様、何をなさるというのでしょう?
「とにかく行ってみればいい。ぶるぅにも実は分かっていないんだ。昨日はブラウの思念を読めないようにして隠したから。…ぶるぅ、頑張って修行しておいで」
「うん。集中力の修行だよね。ぼく、頑張る!」
昨夜ソルジャーに綿菓子を買って貰ったのが励みになったのか、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は前向きでした。青の間を出て体育室に行くまでの通路も私より先に歩いていきます。体育室の扉が見えてきましたけれど、さて、この向こうには一体何が?シュン、と扉が開いて、そこに立ってらっしゃったのは…。
「よく来たね、ぶるぅ。まずは着替えだよ」
ブラウ様のお召し物はいつもの服ではありませんでした。一般ミュウの男性の服の地色を白にしたようなピッタリサイズのレオタードです。うわぁ、すっごくスタイルがいい…。
「おや、そうかい?お褒めにあずかって嬉しいねえ。この格好も久しぶりさ。…ぶるぅ、お前も着替えるんだよ。更衣室はそっち」
白い服を手渡された「そるじゃぁ・ぶるぅ」は目をまん丸にしていましたが、諦めたように更衣室に入っていって…出てきた時にはブラウ様とお揃いのレオタード姿になっていました。幼児体型なので見た目はとっても可愛いかも。
「まずは柔軟体操からだ。おろそかにしちゃいけないよ」
えっと…体操教室でしょうか?私が壁際の椅子に座って眺めていると、隣の椅子に突然、ソルジャーが…。
「ふぅん、頑張っているじゃないか。ちゃんと真面目にやってるようだね」
ゆったりと足を組んでおいでですけど、ソルジャー、カラオケ新曲発表会にはお出にならないのに、ここへはおいでになるんですか?
「ここにはブラウと君しかいないし、この時間は貸切にしてあるし。ぼくが来ているなんてシャングリラ中の誰も気付かないんだから問題ないよ。…それに面白そうだしね」
面白そうだとおっしゃった理由は柔軟体操が終わった直後に分かりました。ブラウ様が取り出されたのはリボン体操に使う真っ赤なリボンだったのです。
「いいかい、この棒の部分をこう握る。それからこうして…こう。簡単に見えるけど、難しいんだよ」
クルクルクル、とリボンが輪を描き、生き物のように舞い踊ります。
「せっかくだから技も披露しとくか。あたしに弟子入りを志願した以上、このくらいは出来るようになってほしいもんだね」
ブラウ様の身体が機敏に動いて綺麗に撓り、リボンを自在に操りながら見事な舞を見せました。ソルジャーが拍手なさって教えて下さったところによると、ブラウ様はリボン体操の名手なのだそうです。
「どうだい、ぶるぅ?…できそうかい?」
演技を終えたブラウ様に聞かれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はポカンと開けていた口を慌てて閉じて。
「えっ?…え、えっと…。今の、サイオン使ってないよね」
「ああ、使ってない。ほら、頑張って練習しな。リボンに意識を集中するんだ。始めっ!」
パンッ、と手を叩く音を合図に「そるじゃぁ・ぶるぅ」はリボンを回そうとしましたが…初心者に上手く出来るはずがありません。失敗、失敗、また失敗。ブラウ様の指導はスパルタ式で遠慮なく罵声が飛んでいます。ソルジャーは楽しそうに練習風景を見物しながら1時間ほど座ってらっしゃいました。
「…ブラウ。そこそこ操れるようになったらサイオンで操る方法も頼むよ」
「ああ、分かってるさ。でも、まだまだだね。基本もなっちゃいないんだから」
ソルジャーが指導方法に注文をつけて青の間にお帰りになった後も厳しい稽古が正午まで。これから毎日、午前中はブラウ様と一緒に練習、午後は自主練習というメニューです。初日のブラウ様との稽古を終えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はヘトヘトでした。この修行、いつまで続くんでしょう…?

それから連日「そるじゃぁ・ぶるぅ」はリボンと格闘し続けました。上達しないとブラウ様の怒鳴り声から逃げられないと分かっているので必死です。廊下を歩きながらもクルクルとリボンを回す姿を目撃した人はもれなく爆笑したようですが…しばらくすると笑う人は誰もいなくなってしまいました。
「ぶるぅがハエとりリボンを巻き付けて悪戯する、という噂が立っているようだね」
「はい、ソルジャー。…ハエとりリボンでもリボン体操のリボンでもない普通のリボンらしいんですが、くっつけられると鋏で刻むしか取る方法がないという話なんです」
「サイオンで貼り付けているんだな。コントロールが上手になったのはいいことだ。もうフィシスの髪に頭から突っ込む心配もなくなるだろう。…そろそろ修行の仕上げの発表会でも…って、ハーレイ!?」
ソルジャーがコタツから立ち上がられるのと、床の上に何かがドサリと落ちてきたのは同時でした。落ちてきたのは…。
「ハーレイ、なんだ、その姿は?」
床に転がったキャプテンは水色の幅広のリボンでぐるぐる巻きにされていらっしゃいました。
「…ぶるぅ…だと…思います。リボン体操の練習をしているのを見に行きまして…ブラウにしごかれているのを笑ってしまったのがまずかったかと…。休憩室に行こうとしたら後ろからリボンが巻き付いてきたのです。避ける暇もなく、そのまま此処へ飛ばされたようなのですが」
「ソルジャー、このリボン、取れませんよ。ハエとりリボンの接着剤より強力です」
私はキャプテンに巻き付いたリボンを解こうと駆け寄ったものの、結び目すらピクリとも動きません。噂のとおり鋏が要るかな、と思った途端、青いサイオンがキラッと光ってリボンはシュルン、と解けました。
「間違いなく、ぶるぅの仕業だな。………今、ゼルがリボンで簀巻きにされた。廊下に人だかりが出来ている」
「…ゼルも一緒に見に行ったのです」
「では仕返しというわけか。リボンを操れるようになった修行の成果のお披露目中なら、止めるのは無粋というものかな?明日あたり発表会をさせて終わりにしようと思っていたけど、もう1週間ほど…」
クスクスと笑いながら首を傾げておいでのソルジャーに向かってキャプテンの悲痛な叫びが響きました。
「やめて下さい、ソルジャー!…明日、発表会をしてしまいましょう。ぜひ、しましょう!」
「ふぅん?…それじゃそういうことにしようか。観客はお前たち長老とフィシス、そしてソルジャー補佐だけだ。ああ、ブラウに特別出演を頼まないといけないな。ぶるぅだけでは座が白ける」
私は大急ぎで発表会の招待状を作り、キャプテンが配って下さることに。場所はもちろん体育室です。明日で修行が終わりだと聞かされた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜びでしたが、キャプテンとゼル様をリボンで簀巻きにした悪戯の罰で夜のオヤツは無しでした。

翌日の発表会は体育室に椅子を並べてソルジャーも御出席。まずブラウ様の華麗な技が披露され、次は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のリボン体操の筈でしたが。
「ブルーもやってよ、リボン体操。上手なんでしょ?」
レオタード姿の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が無邪気な口調で言いました。まさかソルジャーが…そんな馬鹿な…。でも阿波踊りをなさるのですし、リボン体操もあるいはアリかも…。
「ハーレイとゼルが見に来てた時にそんな思念が聞こえてきたよ。ブルーはとても上手だった、って。…ぼくより上手なら見せてよ、ブルー」
「…仕方ないな。ぶるぅは言い出したら聞かないし…。もう何十年もやってないんだから少しだけだよ。服もこのままでやらせてもらう」
ソルジャーは溜息をついてお立ちになり、マントを外して椅子に置かれました。確かにマントは邪魔になりますよね。ブラウ様からリボンをお借りになり、準備体操もせずにサッとリボンを振り上げられて…。
「…ソルジャー、すごい…」
サイオンを使ってらっしゃるのでしょう、殆ど動かずにリボンを操ってゆかれます。綺麗な軌跡に見とれている間にソルジャーは礼をして下がってしまわれ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の出番が来ました。ブラウ様の特訓のお蔭か、ちゃんと形になっています。ソルジャーと違って体力が有り余っている分、動きはずいぶんダイナミック。いつも土鍋で丸まっているせいか身体の柔らかさも抜群でした。演技を終わってピョコンとお辞儀する姿に皆、拍手です。
「ぶるぅ、頑張ったね。…かなり集中力がついたかな?」
「うん、多分」
マントを着けておられないソルジャーが立ち上がって微笑まれると「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコクリと頷いて答えました。
「でも、ブラウ、とっても…とっても厳しかったけど!とても沢山叱られて、ものすごく沢山怒鳴られたけど!!今日でおしまいだから仕返ししてやるーっ!!!」
ブチ切れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の叫びと共に炸裂したのは青いサイオン。
「ブラウ、危ない!!」
ソルジャーが飛び出してゆかれ、ブラウ様を突き飛ばされた…と思う間もなく宙に出現した赤いリボンがクルクルと舞い、ソルジャーはドサリと床に倒れてしまわれました。お身体にはリボンが幾重にも巻き付いて手足の自由を奪っていますが、あろうことか簀巻きではなく、この結び方はどう見ても…大人向けの世界では…。フィシス様は真っ赤になってらっしゃいますし、長老の皆様方も呆然となさっておいでです。ってことは、やっぱり…そういう結び方なんですね、って…そんな場合じゃなくて大変ですぅ!

「…まったく…。ブラウじゃなくてよかったよ」
大騒ぎになった発表会の後、青の間にお戻りになったソルジャーの白い手首にはリボンの痕がくっきり残っていました。手袋をなされば見えなくなるのに外したままにしておられるのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に反省させるためです。縛られてしまわれたソルジャーはショックのあまりサイオンが乱れ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」もパニックに陥ってしまったせいでリボンが解けるまでにはかなりの時間が必要でした。鋏を持ってこないと駄目かも…と皆が思ったほどなのです。
「ごめんね…。ブルーが飛び出してくるって思わなかった」
「それでぼくを縛ってしまうようじゃ、まだまだ修行が足りないな。一瞬で判断できるようにならないと」
「…もっと練習しなくちゃいけない?リボン体操…」
「いや。ブラウもあんな騒ぎを見てしまったら二度と教えたくないだろう。お前はブラウを狙ったんだし」
ソルジャーは手首の赤い痕にチラッと目をやり、コタツの向かいの「そるじゃぁ・ぶるぅ」をまじまじと見つめておっしゃいました。
「ぶるぅ、あんな縛り方を何処で覚えた?…とても複雑に結び上げられた迷惑極まりない代物だったが」
「…ゼルを縛って転がした時、誰かの思念を拾ったんだ。縛られたのがゼルじゃなくて女の人だったらこんなのがいいね、って考えている人がいたんだよ。だからブラウに仕返しするならこれだって思ったんだけど」
「そうなのか…」
罪の無い「そるじゃぁ・ぶるぅ」の答えにソルジャーは頭痛を覚えられたらしく、眉間を押さえていらっしゃいます。
「いいかい、二度とするんじゃない。本当に…縛られたのがぼくで良かった…」
「ブルー、ごめんね…。もうしないから。リボンで悪戯、もうしないから…」
自分が何をやらかしたのか分かっていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」はソルジャーの手首の痕を眺めては「痛い?」と尋ね、何度も謝り続けました。あの大人向けな縛り方!ブラウ様が縛られたのでなくて本当に良かったと思います。もっともブラウ様は「ソルジャーが身を挺して庇って下さったんだよ」と妙にご機嫌でしたけれども。

マザー、桜が満開になったそうですね。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお花見弁当と桜の枝を毎日せっせと運んできます。シャングリラで本格的なお花見が出来ないのは残念ですけど、リボン体操のお蔭で素敵なものを見ましたし…。
ソルジャーが赤いリボンで縛り上げられてしまわれた時、マントを着けていらっしゃったら眼福とはいかなかったでしょう。でも欲張ってしまうのです。せっかくリボン体操をなさったのですし、白のレオタードをお召しになっておられれば…。そしたら赤いリボンが一層映えてより艶かしい光景が…、と妄想するのは罪ですか、マザー?




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