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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

久しく待ちにし

    ※2009年ぶるぅお誕生日記念の短編です。




  久しく待ちにし 主よ、とく来たりて
  御民(みたみ)の縄目(なわめ)を 解き放ち給え
  主よ、主よ、御民を 救わせ給えや
              (讃美歌94番)



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悪戯とグルメとショップ調査に日々忙しい「そるじゃぁ・ぶるぅ」。クリスマスの日が彼の3歳の誕生日だ。前の日がクリスマス・イブだから誕生日の朝にはサンタクロースからのプレゼントもある。シャングリラの公園でクリスマス・ツリーの点灯式があった頃から浮かれ気分は最高潮で、もう毎日が絶好調の悪戯日和。
「かみお~ん♪」
「「「うわぁぁぁっ、出たぁぁぁっ!!!」」」
艦内のあちらこちらで悲鳴が上がり、噛まれる犠牲者も後を絶たない。去年はブルーのアイデアが功を奏して悪戯が封じられたのだったが、今年はそういう気配もなかった。
「…ソルジャーは何を考えておいでなのかしら…」
「お身体の調子が優れないとか…?」
「そういうことなら無理を言ったらダメだよなぁ…。我慢するか」
まだ痛むけど、と腕を擦るのは昨夜噛まれた内の一人だ。食堂の壁に下手くそなサンタとトナカイの絵を落ちない塗料で描きなぐった上、食堂中の椅子の座面に接着剤を塗りたくっていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」を止めようとして被害に遭った清掃チームのリーダーである。
「今夜あたりは紙吹雪だぞ。…なんでブリッジに入れないくせにブリッジを攻撃するんだよ…」
「ブリッジが苦手な場所だからだろ? 鬱憤晴らしというヤツさ」
「それで膝まで埋まる勢いの紙吹雪をドカンと放り込むのか? 掃除するのも大変なのに…」
「最初が白でこないだがピンク、今度は何色が降るのやら…。トイレットペーパーが混ざってるかもしれないな」
泣きたくなるぜ、と公園からブリッジを見上げるリーダー。男女入り混じった清掃チームの受難の日々はまだまだ続きそうだった。なにしろ「そるじゃぁ・ぶるぅ」ときたら、ソルジャーと同じタイプ・ブルーだ。サイオンを使えば何処であろうと神出鬼没、悪戯を仕掛けて逃亡するのは朝飯前のことなのだから。
「あら? ねえ、こんな時間にキャプテンがいらっしゃらないわ」
航海長も機関長も、とコアブリッジを指差す女性。
「…本当だ…。珍しいなぁ、お茶の時間なら揃ってお留守もよくあるんだが」
「ソルジャーの所へ行かれたんだと思いたいな。ぶるぅを止めに」
「無理無理、それは有り得ないって!」
仕事に戻るぞ、とリーダーが通路に入って行った。清掃チームは今日も一日「そるじゃぁ・ぶるぅ」に振り回されて、散らかりまくった艦内を片付ける内に残業となり、全て綺麗になった頃には日付が変わっている…かもしれない。

「…ソルジャー…。今日は折り入ってお話が」
難しい顔をしたキャプテンを筆頭とした長老たちが青の間に顔を揃えていた。今年も「そるじゃぁ・ぶるぅ」が買い込んできた青く静かに輝くツリーが青の間の奥に飾られている。しかし厳粛な雰囲気をブチ壊すのはソルジャーその人が座るコタツだ。お約束のミカンがコタツの上に乗っているのも長老たちにはもはや馴染みの光景だったが。
「…話? ぶるぅが悪戯したのかい?」
座って、と促すブルーの言葉でソルジャー補佐の女性が人数分の厚い座布団を出してくる。長老たちがコタツに入ると昆布茶と羊羹が並べられた。
「いただきます」
ハーレイが昆布茶を一口啜り、湯飲みをコトリと茶卓に戻して。
「…実はフィシスの予言のことなのですが…。どうお思いになられますか?」
「どういう意味の質問なんだい? 的中率は高いと思うが」
「いえ、我々の未来についての予言です。…我々に目覚めが訪れるとか、大きな力が注ぎ込むとか…」
「ああ…」
ソルジャー…いやソルジャー・ブルーは穏やかな声音でフィシスの予言を語ってみせた。
「我らに…獅子に目覚めが訪れる。何か大きな力が我らの源流に注ぎ込む……、か。正直、ぼくにも正確な意味は掴めない。力とは何だ? 武器か? それとも人材か…。それを得れば空へ飛び立てるのか? 空というのは宇宙のことだが」
「そう、それです。その予言が告げる力というのが…実はぶるぅなのではないかと」
「ぶるぅが!? …まさか…」
「…我々もかなり悩みました。ですが、ぶるぅは間違いなくタイプ・ブルーです。アルタミラを脱出してからの長い年月、あなたの他にタイプ・ブルーは誰一人としていなかった。けれど今ならぶるぅがおります」
長老たちが一斉に頷く。ブルーは青天の霹靂といった様子で固まっていたが、ハーレイは構わず話を続けた。
「フィシスが予言した大きな力がぶるぅであれば、もうこうしてはおられません。早々にきちんと教育を受けさせ、あなたの右腕として十二分に力を揮えるようにしなくては。そして一刻も早く地球を目指して飛び立ちましょう。あなたも望んでおいでの筈です。…我々が地球へ辿り着くことを」
「…しかし……ぶるぅはまだ……」
「子供なことは承知しています。だからこそ早期教育が必要なのだとエラも申しておりますが」
「そうです、ソルジャー。悪戯ばかり繰り返すのはエネルギーが余っている証拠。サイオンのコントロールは全く問題ないのですから、余分なエネルギーを学習と礼儀作法に振り向けてやれば立派なソルジャー候補として…」
そこまで言ってエラはハッと自分の口を押さえた。
「も、申し訳ございません。失礼なことを申しました…」
「かまわないよ。後継者探しが必要なほどに弱っているのは事実だから。…そして後継者はまだ見つからない。ぶるぅは違うと思うのだが…」
「お言葉を返すようですが…身近だからこそ見えない真実というのもございますぞ」
重々しい口調で告げるヒルマン。
「あなたはぶるぅを可愛がっておいでですから、厳しい現実に巻き込みたくない…とお思いになっておられるのだろうとお見受けします。現にぶるぅはショップ調査にグルメ三昧と人類の世界で楽しく遊び暮らしておりますし。…ですが、今の我々に必要なのは力と確かな未来なのです」
「そのとおりじゃ。ぶるぅにはソルジャーにはまだ及ばないまでもタイプ・ブルーの力がある。今から訓練して伸ばしていけば近い将来、ソルジャーの助けになる筈じゃて」
ゼル機関長も乗り気だった。そしてブラウも。
「あたしもゼルに全面的に賛成だ。何かと問題のある子だけども、素質は十分持ってるだろう? ソルジャー候補に据えちまったら頑張ってくれると思うんだけどね。あの子はソルジャーが大好きだから」
「………」
ブルーには何も言えなかった。自分の命数が尽きかけているのは本当のことで、後を継ぐ者が現れないのもまた事実。もしも自分に何かあったらミュウはソルジャーを失うのだから。
「…よろしいですか? ソルジャーが賛成して下されば、ぶるぅの教育を開始したいと思うのですが」
畳みかけるようにハーレイが言う。
「来年からという案もございましたが、ここ数日で悪戯が一層酷くなりまして……苦情が沢山来ております。これを機会に躾も兼ねてソルジャー候補の教育を是非に」
「…今からなのか…?」
「御賛成頂けるのならすぐに、です。鉄は熱いうちに打てと申しますから」
ハーレイに続いてヒルマンが言う。
「三つ子の魂百まで、だとも申しますな。子供への教育は早ければ早いほど良いと私も日頃から思っております。ぶるぅはもうすぐ3歳ですぞ。ソルジャー、どうか御決断を」
長老たちの直談判にブルーは考えを巡らせたものの、他に名案は見つからない。ソルジャーを継がせられる者は強力なサイオンを持つタイプ・ブルーしかいないと分かっていた。長老たちもとうの昔に気付いている。その条件に該当する者が一人いる以上、子供だからと庇い続けては長老たちとブルーの間に溝が出来るかもしれないのだ。
「………分かった。ぶるぅをソルジャー候補にしてもいい。ただし教育は皆に任せる。ぼくはぶるぅを導けない」
気儘に生きさせてやりたかったから、とブルーは深い溜息をつく。自由に生きてみたいと願った自分の思いが生み出したらしい「そるじゃぁ・ぶるぅ」に自分と同じ道を歩ませるのはとても悲しく、身を切られるように辛かった。…だがソルジャーたる者が私情に流されていてはいけない。長老たちにもブルーの気持ちは分かったらしく、暫し沈黙が流れたが…。
「ソルジャー、ありがとうございます。では一つだけお願いが…。あなたの口からぶるぅに言って頂きたい。ソルジャー候補として頑張るように、と」
我々が言っても無駄ですから、とハーレイに続いて長老全員が頭を下げる。ブルーは宙を見上げて一声叫んだ。
「ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
クルクルクル…と宙返りしながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」が降ってくる。
「わぁ、おやつだ! 羊羹大好き!!」
長老たちが手をつけていなかった羊羹をペロリと胃袋に収めた悪戯っ子はコンビニの袋を持っていた。中には好物のアイスが一杯。コタツに入って早速アイスを食べ始めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がソルジャー候補の名を背負ったのは、袋の中身が空っぽになって満足そうにニッコリ笑った直後であった。

「最近、ぶるぅの姿を見ないな」
「シッ! 言ってると来るぞ」
「大丈夫だって噂だぜ。…ブリッジのヤツらに聞いたんだが…」
次の瞬間、公園で立ち話をしていた者たちが一斉に悲鳴に近い叫びを上げていた。
「「「ソルジャー候補!?」」」
なんてこった、と頭を抱えて蹲る者や額を押さえてよろめく者。よりにもよって噛み付き癖のある悪戯小僧がソルジャーだなどと誰が進んで認めるだろうか?
「だからさ、そこを教育中らしい。あれでもタイプ・ブルーなんだし、素行を改めて十分な知識を身に付けたなら立派にソルジャーが務まるだろうと…」
「2歳児の言うことを聞けってか? クリスマスが来たら3歳だけどな」
「だからソルジャー候補なんだよ。ソルジャーは御健在だし、あくまで候補。…でもなあ…」
上手くいくとは思えないけど、という言葉が終らない内に凄まじい思念波がシャングリラの艦内を貫いた。
『イヤだぁぁぁーっ!!!』
ビリビリと空気が震え、公園の木とブリッジが共鳴する。
『やだやだ、おやつ抜きなんてヤだーっっっ!!!』
アイスにプリンに肉まんに…と流れ込んでくる鮮明すぎる食べ物のイメージ。
「こ、これは…」
「この雑念だらけの思念波は…」
「「「ぶるぅだな…」」」
何処で喚いているのか謎だが、ソルジャー教育の話は本当らしい。イメージと一緒に大量の情報が津波のように押し寄せたのだ。
「…あいつ、お点前なんかをやらされてたのか…」
「俺には生け花のイメージが見えたぜ」
「そうだったか? 習字だったと思ったけどなぁ、机の上に筆と硯が」
皆が思念で捉えたものはどれも『道』という字を名前に含んだ古めかしい稽古事だった。茶道に華道、おまけに書道。食堂で情報交換してみたところ、写経と座禅もあったらしい。
「要するに集中力をつけろってことか? 雑念が多いとサイオンも乱れがちだしな」
「あいつの場合、礼儀作法も兼ねてるんじゃないか? 頭に来たら噛み付くようじゃ、とてもソルジャーにはなれないし…」
「なるほどなぁ…。長老方のお手並み拝見ってところだな」
お披露目はいつになるのだろう、と噂話に花が咲く。
「多分ぶるぅの誕生日だぜ。でなきゃクリスマス・イブのパーティーあたりか? パーティーならソルジャーもお出ましになるし、披露にはもってこいだろう」
「げげっ、披露されたら俺たち断れないじゃないかよ!」
「…そもそも断る権利なんかがあると思うか? ソルジャーは投票とかで決まるんじゃないし、俺たちはソルジャーの決定に従うだけだ」
「「「うわぁ…」」」
十字を切る者、ブツブツと念仏を唱える者。日頃から現ソルジャーの名をパクッたような「そるじゃぁ・ぶるぅ」の名に親しんではいても、それが次期ソルジャーになるかと思うと誰もが涙を禁じ得なかった。

「かみお~ん♪」
遊びに来たよ、と青の間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が顔を出す。ブルーはソルジャー補佐に命じて夜食を取り寄せ、熱々のラーメンを「そるじゃぁ・ぶるぅ」に振舞ってやった。
「ありがとう、ブルー! お腹ペコペコだったんだ。今日も朝からお稽古ばかりで、おやつ食べさせて貰えなくって…。食事は大盛りでくれるんだけど、あれじゃ全然足りないよね」
ショップ調査に行きたいよう、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は豚骨ラーメンを啜る。
「クリスマス前だから美味しそうなメニューが沢山…。だけど夜には閉店しちゃうし、訓練が終わってから行こうとしてもダメなんだ。お店なんかを見ようとするから気が散るんです、ってエラはしょっちゅう怒るけど…見えちゃうんだもん…」
ケーキもお菓子もお料理も、と涙目になる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ごめんよ、ぶるぅ…。でも教育期間が終了したらショップ調査に行けると思う。今年は無理でも来年にはね」
「うん…。ぼく、頑張る。ソルジャー候補ってブルーを助けるお仕事でしょ? ぼくがブルーを助けてあげられるようになったらブルーも今より元気になるってヒルマンが教えてくれたんだ。ブルー、一緒に地球に行こうよ」
頑張るからね、と健気に言って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は帰って行った。けれど立ち去る小さな背中はソルジャー候補の名の重圧に押し潰されそうなほどに痛々しくて…。
「………。フィシスを呼んでくれないか」
もう休んだかもしれないが、とソルジャー補佐に声をかけると間もなくフィシスがやって来る。
「お呼びですか?」
「ああ、すまない…夜遅くに。でも確かめておきたくて…。君が占った大きな力とは本当にぶるぅのことなのだろうか? 分からないなら占いの方法を変えてみてくれ。ぶるぅの未来はソルジャーなのか、それとも別の未来があるのか。…急がないから占ってほしい」
「…ぶるぅが御心配なのですね?」
「そうだ。ぶるぅは無理をしている。まだ本当に子供なのに…サンタクロースに頼むプレゼントさえも忘れるほどに毎日訓練に打ち込んで…。誕生日に何が欲しいか尋ねてみても思い付かないらしいんだ。去年は大きなお菓子の家をリクエストして半年がかりで食べていたのに」
それは本当のことだった。3歳にもならない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は青の間で夜食を食べると部屋に帰って土鍋に入り、すぐに眠りに落ちてゆく。疲れ果ててしまっているのか、胃袋に直結している食べ物以外は全く意識に上らないのだ。ブルーはそんな「そるじゃぁ・ぶるぅ」を本来の姿に戻したかった。もしも…可能なことなのならば。
「分かりました。ぶるぅの未来を占いましょう。…けれどソルジャーだと出てしまったら…」
「その時は仕方ないだろう。それがぶるぅの運命ならば」
「…それでは…明日でよろしいですか? 長老の皆様方もお呼びしないといけませんわね」
「ぼくも行こう。頼んだよ、フィシス」
賽は投げられた…とブルーは思う。自らの半身だとも思う「そるじゃぁ・ぶるぅ」を次代のソルジャーに指名するのか、普通の子供として育てるか。全ては明日の占いで決まる。…クリスマスはもう目前だった。

天体の間に置かれたフィシスのターフル。カードをめくるフィシスの手元に長老たちとブルーの視線が集まっている。ブルーが『女神』と呼ぶフィシスの占いが告げる結果は託宣とされて絶対であった。占われているのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の未来のこと。ブルーの後を継ぎソルジャーになるのか、勝手気ままに生きていくのか…。
「……これは……」
最後の一枚となるカードをめくったフィシスが小さな声を上げた。
「どうなされた? 何か不吉な未来でも?」
問いかけるゼルにフィシスは「いいえ」と首を振って。
「…ソルジャー、ぶるぅの未来が出ましたわ。でも…これはどういうことなのでしょう? ぶるぅの時間は止まっています。いつまで経っても子供のまま…」
「「「子供のまま?」」」
長老たちの声が重なる。
「ええ。私たちの外見が年を取らないように、ぶるぅも今の姿のままで成長しないらしいのです。そんなこと…。今まで保護したミュウの子たちはちゃんと成長していったのに」
「ぶるぅは生まれが普通じゃないしね」
そう不思議でもないだろう、とブルーは先を促した。
「それで結果は? 成長しなくてもソルジャーを務めることは十分可能だ。ぶるぅは次のソルジャーなのかい?」
「………」
「…フィシス?」
「……申し上げにくいのですけれど……」
ターフルを囲んだ皆の間に緊張が走る。ブルーは目を閉じ、長老たちは拳を握った。フィシスの唇が躊躇うように開かれて…。
「…皆様の努力は報われない、と出ております。ぶるぅはぶるぅ、どう転んでもぶるぅなのだ…と。残念ながらソルジャーには…」
「なれんというのか!?」
血管が切れそうな顔でゼルが叫んだ。ソルジャー候補としての訓練の間、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何度もキレて暴れている。そういう時に取り押さえるのはゼルとハーレイの役目であった。つまり何度も噛み付かれては医務室の世話になったというわけだ。文字通り血の滲む努力をしたのに無駄骨だったとは怒るしかない。
「わしもハーレイも身体を張っておったのに…。あやつはどうにもならんのか!」
「…はい。ぶるぅの未来は次期ソルジャーとは出ておりません」
ああ、とエラの身体がよろめいた。お茶にお花にお習字に…と、ヒルマンと共に持てる知識の限りを尽くして教育してきた師匠である。眩暈を起こすのも無理はなかった。長老たちの失意は大きく、ハーレイも眉間の皺を深くしていたが…。
「すまない、みんな。…無駄な努力をさせてしまった」
ブルーの謝罪に長老たちは翻って我が身を考える。元はと言えば自分たちがブルーに申し出たことだ。それが誤っていたからといって、どうしてブルーを責められようか? ましてや子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」を責めまくるのは完全にお門違いの八つ当たりで…。
「…いいえ、ソルジャー…。我々が勝手にやったことです。あなたが言って下さらなければ、フィシスに確認することもなく教育を続けていたでしょう。…申し訳ありませんでした。あなたは反対しておられたのに」
深々と頭を下げるハーレイに倣って長老たちも謝罪する。こうして「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自由も暇もないソルジャー候補から晴れて解放されたのだったが、明日は早くもクリスマス・イブ。久々の休みを満喫しようと土鍋に入った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は丸々一日眠り続けて、翌日もひたすら爆睡し続け…クリスマス・イブのパーティーが終わった後もぐっすり眠ったままだった。
「…可哀想なことをしてしまいました。あれほど疲れ果てていたとは…」
艦内の照明が暗くなった深夜、青の間のブルーの許を訪れたのはサンタクロースの扮装をしたハーレイである。今だ目覚めない「そるじゃぁ・ぶるぅ」に長老一同とブルーからのプレゼントを届けに行くのが彼の役目だ。
「ソルジャーは今年もクッションですか。去年は土鍋の形でしたね」
「これは一応抱き枕だよ? ぶるぅは丸くなるのが好きだし、抱えて寝るのも気に入るかな…とね。アヒルの形を選んでみた。大好きなお風呂オモチャもトイレも、デザインはアヒルちゃんだろう?」
「なるほど。…では、行ってきます。ぶるぅの分のクリスマス・パーティーの料理は厨房に頼んで保存しました」
大型冷蔵庫に一杯分です、と笑みを浮かべて有能なキャプテンは出掛けて行った。

そして翌朝、やっと目覚めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が見付けたものは…。
「かみお~ん♪ ブルー、サンタさん来てくれてたよ! 靴下を用意していなかったのに、こんなに沢山!」
ハーレイが運んだ数々のプレゼントと共に青の間に駆け込んできた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は弾けんばかりの笑顔だった。ブルーがベッドから降りるのも待たず、あれこれ披露して大喜びだ。
「良かったね、ぶるぅ。とてもいい子で頑張ったから、サンタが色々くれたんだろう。…ソルジャー候補、お疲れ様。もうやらなくていいんだよ」
「本当に? ねえ、本当にやらなくていい? ブルーのお手伝いはどうなるの?」
「さあ、それは…気が向いた時にシールドなんかを助けてくれると嬉しいな。そんな危険はないだろうけど」
その前に、とブルーはシャングリラ中に思念を広げる。
『メリー・クリスマス、シャングリラのみんな。…知っている者も多いと思うが、ソルジャー候補について話そう』
悲鳴のような思念がシャングリラ中から返ってきた。ついに発表の時が来た、と誰もが震え上がっているのが分かる。
『ぶるぅを次のソルジャーに…と長老たちが言ってきた。ぼくが長い年月待ち続けてきた後継者に、と。…タイプ・ブルーは知ってのとおり、ぼくの他にはぶるぅしかいない。ならば…と訓練をさせてはみたが、ぶるぅの未来にソルジャーという道はなかった。これはフィシスの託宣だ』
おおっ、と歓喜の思念が湧き上がるのをブルーは思念で静かに制して。
『それでもぶるぅは頑張ってくれた。昨日のパーティーにも出られないほど疲れ果てるまで頑張ったんだ。次のソルジャーにはなれないけれど、ぶるぅはぼくを手助けしようとしてくれている。ただ、この先もずっとぶるぅは子供のままで生きていくらしい。悪戯もするし、噛むことだろう。それでも…ぶるぅを嫌わないでくれるかい?』
『『『………』』』
シャングリラ中が聞き入っていた。いつも被害を被っていても「そるじゃぁ・ぶるぅ」は愛されている。閉ざされた船に新鮮な風と騒ぎを持ち込む元気印のマスコットとして。
『今日はぶるぅの誕生日だ。3歳になったぶるぅのために、できるなら…』
ブルーの思念が終わらない内にワッと艦内が湧き返った。
『ハッピー・バースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!』
『3歳の誕生日、おめでとう!!!』
シャングリラの仲間たちが祝福する中、昨夜「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食べ損なった数々の料理や今日のために作られたバースデー・ケーキが厨房から青の間に運び込まれて、ソルジャー補佐とリオの給仕でコタツで始まる誕生パーティー。舌鼓を打つ「そるじゃぁ・ぶるぅ」を嬉しそうに眺めるブルーだったが…。
「お誕生日おめでとう、ぶるぅ。流石にこれは食べ切れないかな?」
青いサイオンに包まれてコタツの横に出現したのは山と積まれたプレゼントの箱。包み紙はどれも「そるじゃぁ・ぶるぅ」がショップ調査に出かけられなくて涙を飲んだお店のもので…。
「…ブルー、これってどうしたの? 昨日までしか売ってない筈だよ、全部限定品だもの!」
「ぶるぅがソルジャー候補をやってくれていたから、シャングリラを空けられる時間があってね。シャングリラ全体にシールドを張る練習なんかもしただろう? その間に何度か出掛けて買ってきた。…ぼくからのバースデー・プレゼントだよ」
「ほんと? ぼく、お手伝い出来たんだ! ありがとう、ブルー、ぼく、頑張る! これからもぼく、頑張るからね!」
3歳だもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は胸を張る。ソルジャー候補の話は幻となってしまったけれど、秘めた力は変わらない。ブルーの思いから生まれたらしいタイプ・ブルーな「そるじゃぁ・ぶるぅ」。シャングリラ中で悪戯しても噛み付いていても、きっとブルーを助けるだろう。…そう、きっと……遠い未来まで……きっと、地球まで。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」、3歳の誕生日、おめでとう!




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