シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
入学式 ・第1話
待ちに待った入学式の日がやってきました!桜は満開、お天気も最高です。
バレンタインデーの後はパンドラの箱を使って「そるじゃぁ・ぶるぅ」と文通を続けていたんですけど、昨夜は「明日は入学式だね。やっと学園へ来てくれるんだね!」と書かれたメモが入っていました。ええ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は長い手紙は書いてこないので、文通はとても楽でしたとも。面倒な日は「今日も一日、元気にしてた?」と書くだけで喜んでもらえましたから!入学したら色々と情報を教えてくれるでしょうし、ご縁は大切にしないと、です。
えっと…校門まで来ましたけれど、入学式の看板の横で写真撮影してる人が沢山いますね。私も初めて着るシャングリラ学園の制服にドキドキです。ああ、やっぱりママと一緒に来ればよかった。一人前になったような気分で「入学式くらい一人で行けるもん。パパやママが来てる人なんて少ないに決まってるし!」と言っちゃったのを早くも後悔しています。どうしよう…記念写真も撮れないよう…カメラも持って来てないし…。
「やあ!君も新入生?…一人なのかい?」
いきなり声をかけられて振り向くと、金髪の男の子が明るい笑顔で立っていました。優しそうなパパとママが一緒です。
「ぼくはジョミー・マーキス・シン。…ジョミーでいいよ。君、カメラ持ってきてないみたいだし、ママがうちのカメラで撮ってあげましょうかって言ってるんだ」
「えっ、いいんですか?」
「うん。ママ、撮ってあげてよ。看板の隣あたりがいいかな?」
ジョミー君のママはとても優しくて、カメラをパパに任せて私の制服の襟を直したり、髪を整えたりしてくれました。お蔭で記念写真は綺麗に撮れ、ジョミー君や友達のサム君、スウェナちゃんと一緒に写して貰ったものも合わせてプリントして下さるということに…。うわぁ、早速お友達が出来ちゃいましたよ。
「一人で来るなんて偉いのねえ。私、恥ずかしくなっちゃった」
スウェナちゃんが言うと、ジョミー君とサム君も頭をかいています。サム君もスウェナちゃんもパパとママが来てるんです。
「ジョミー、そろそろ式が始まるわ。ちゃんといい子にしてるのよ」
「分かってるってば、ママ!…ちぇっ…ぼくもかっこよく一人で来ればよかったかなぁ」
溜息をつくジョミー君。でも保護者が来ていない新入生の方が圧倒的に少数派です。見回した限り、そんな子は…。あ、あそこの男の子たちはそうかも?…と、颯爽と会場へ歩いていく二人連れに目を留めたのですが…。
「待って、キース!肩にゴミがついてるわ」
「シロエ、校門の所にいるから、勝手に帰ったりしないでね。キース君と出かけるんなら必ずメールを入れるのよ!」
あああ、二人ともママがついてきています。…そっか、保護者なしで入学式に行こうだなんてかなり生意気だったかも。
パパ、ママ、ごめんなさい…。入学式、居眠りしたりしないようキチンとするから許してね。
入学式 ・第2話
入学式の会場に入ると「前から順に着席するように」と先生方がおっしゃっています。私はジョミー君、サム君、スウェナちゃんと並んで座ることになりました。右隣はスウェナちゃんで左側はグレーの髪に金色っぽい不思議な色の瞳の男の子です。制服でなかったら女の子と間違えてしまいそうな、とても可愛い顔立ちですけど…話しかけてみようかな?
「こんにちは、はじめまして。私、みゆといいます」
「…あ、ああ…。こんにちは…。ジョナ……マツカです」
んーと。…内気なのかな?挨拶だけで話が終わっちゃいましたよ。いやいや、前の学校でいじめられてたとか、そういうこともあるかもですし!だったら新しい環境で心機一転、明るい学校生活を楽しまない手はないですよねえ。なんたって今日から新入生です。よ~し、私も頑張るぞ!
壇上には大勢の先生と来賓の方が座っておいでになりました。生徒と保護者が会場に入り終わると扉が閉められ、入学式の始まりです。
「新入生の諸君、シャングリラ学園へようこそ。私は教頭のウィリアム・ハーレイ。我々は厳しい試験を突破してきた君たちを心から歓迎する」
先輩方が校歌を歌って下さり、続いて校長先生のご挨拶。大きな目ばかりがやたらと目立つ妖怪じみた顔の校長先生が演壇の前に立たれた時、奇妙なことが起こりました。スーツ姿の男の先生が二人がかりで大きな土鍋を壇上に運び込み、演壇のすぐ脇に置いたではありませんか。なんでしょう、あれは?
「皆さん、入学おめでとう。この良き日を祝して、学園からの贈り物です。君、蓋を取って」
校長先生の指示で土鍋の蓋が取られると、土鍋の中からパーン!とクラッカーが弾け、子供のような影が飛び出しました。
「かみお~ん!…あ、間違えた、間違えちゃった。カミング・ホーム!ようこそ、シャングリラ学園へ。ぼくの名前は、そるじゃぁ・ぶるぅ。今日からここが君たちの家だと思って楽しい学校生活を送ってね!」
銀色の髪に銀の上着、紫のマントをなびかせた姿は間違いなく「そるじゃぁ・ぶるぅ」でした。校長先生の半分ほどしか背がないくせに威張ってふんぞり返っています。えっと…「先生や生徒でも滅多に会えない座敷童のような存在」だというのは単なる噂で、本当は出不精なだけだったとか?こんなに堂々と出てきてますし。
「新入生の諸君、そして保護者の皆さん。あなた方はとても幸運なのです」
校長先生が「そるじゃぁ・ぶるぅ」をよいしょ、と抱き上げて演壇の上に座らせました。
「そるじゃぁ・ぶるぅはシャングリラ学園のマスコットですが、誰でも、いつでも会えるというわけではありません。そして彼の姿を見た者にはもれなく幸運が訪れる、と言われています。今日は特別に姿を見せてくれました。さぁ皆さん、おめでたい入学式を祝い、そるじゃぁ・ぶるぅのご利益にあずかれるよう、三本締めをいたしましょう。ヨーッ…」
「シャシャシャン、 シャシャシャン、 シャシャシャン 、シャン」
「ヨー、 シャシャシャン 、シャシャシャン、 シャシャシャン 、シャン」
そるじゃぁ・ぶるぅも演壇の上で楽しそうに手を叩いていました。いくら「シャン」グリラ学園だからって、入学式に三本締めって…第一、締めちゃったら入学式はそこで終わっちゃうんじゃあ!?
でも、ジョミー君もサム君もスウェナちゃんも…マツカ君も掛け声と共に手を叩いていますし、まぁ、いいか。
「ヨー 、シャシャシャン、 シャシャシャン、 シャシャシャン、 シャン」
…私たち、これからどうなっちゃうんでしょうか~。
入学式 ・第3話
校長先生の音頭の三本締めで終了なのかとビックリしちゃった入学式ですが、終わりではありませんでした。三本締めが済むと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が演壇から飛び降りて土鍋に入り、気持ちよさそうに丸くなります。どこかでこんなのを見たような…。あ、そうか。猫が土鍋で寝ている姿が人気の『ねこ鍋』に似ているんですね。校長先生もご自分の席に戻られ、来賓の挨拶などが続きました。皆さん、お話が長いです。なんだか眠くなってきたかも…。
『居眠るな、仲間たち!』
ウトウトしかかっていた私の頭の中に、突然、声が響きました。驚いて見回しましたが、来賓のおじさんの声とは全然違う声だったような気がします。もっと若くてハリのある声…。気のせいかな?
『シャングリラ学園へようこそ。今、そるじゃぁ・ぶるぅの力を借りて、君たちにメッセージを送っている』
え?…ええっ、誰かの声が頭に直接…。どうなっているんでしょう?キョロキョロするとマツカ君と目が合いました。
『このメッセージを受け取ったなら、クラス分けが終わって帰宅する前にある場所に集合して欲しい』
メッセージは途切れなく続いていて、マツカ君が目をパチパチしながら私の顔を見つめています。もしかしてマツカ君にもこの声が聞こえているんでしょうか?
「何か聞こえてる?」
思い切って小声で囁くとマツカ君が頷きました。
『集合場所は…もう分かるね?君たちが来るのを待っているよ』
頭の中に構内の地図らしきものがパァッと広がり、行くべき場所を示されたかと思うと…それっきり声は聞こえなくなってしまったのです。来賓の退屈なお話が響いているだけで…。
「これで入学式を終わります。新入生の皆さんは廊下に張り出してある名簿でクラスを確認し、教室に入るように」
教頭先生の合図で私たちは立ち上がり、会場を出ることになったのですが…さっきのメッセージはなんでしょう?マツカ君に聞こえていたのは確かですけど、スウェナちゃんには聞こえなかったようでした。私、おかしくなっちゃったのかな?
『おかしくなんかないよ、大丈夫。こっちを見て!』
さっきとは違う声に呼ばれて壇上を見ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が土鍋の中からニコニコ顔で手を振っていました。そういえばこの声は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の…。といっても銭湯で「ありがと~!」と叫んだのと、さっきの挨拶しか聞いたことないんですけどね。
『ほらね、ちゃんと聞こえてるでしょ?心配しなくていいからね~』
そっか…。頭が変になったわけではないみたいです。きっと何か仕掛けがあるのでしょう。メッセージのことは後でマツカ君に聞いてみればいいし、まずは自分のクラスを確認しなくちゃ!どんな人と同じクラスでしょうか。友達が沢山できるといいな♪