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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

美肌を求めて

※シャングリラ学園番外編の専用掲示板、なんと容量オーバーしてしまいました。
 5周年記念でキリ良くオーバー、投稿不可能とは素晴らしすぎる偶然かも…。
 アルト様のサイトには思い切り御迷惑をかけてしまって申し訳ない限りですけど。

 今後は、こちら 『シャン学アーカイブ』 にて 「毎月第3月曜」 更新です。
 第1月曜にもオマケ更新をして 「月2更新」 の場合は前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいねv





学園祭も無事に終わった初冬の週末。私たち七人グループは会長さんのマンションへ向かって歩いていました。今年も学園祭での売り物は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーを謳ったサイオニック・ドリームで大人気。つまり会長さんがサイオンを使いまくっていたわけで…。
「…今日で何回目の慰労会だっけ?」
ジョミー君が指を折り、キース君が。
「諦めろ。気が済むまでやるに決まってるだろう、あいつなんだし」
「いいけどね…。御馳走は思い切り食べられるんだから」
でもねえ…、とジョミー君は深い溜息。私たちだって同じです。えっ、御馳走三昧の慰労会の何処に不満があるのかって? それは会長さんの慰労会だからで…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
マンションの最上階に着くと元気一杯の「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお出迎え。学園祭のサイオニック・ドリームでサイオンを使いまくったのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」も同じですけど、こちらは元気印です。慰労会の御馳走にも腕を揮っているわけですし…。
「あのね、ブルーはもうちょっと時間がかかりそうなの!」
待ってあげてね、と案内されたリビングで飲み物と焼き立てのクッキーが配られ、キース君が早速摘みながら。
「美味いな、これは。…カロリーの方も高そうだが」
「アーモンドの粉のクッキーだよ。バターは…ちょっと多めかも…」
でないとコクが出ないんだ、と答える「そるじゃぁ・ぶるぅ」にキース君は。
「で、今日のメニューは何なんだ? 昼飯じゃなくて、ブルーの方の」
「えっと、えっとね…。なんだったかなぁ、乾燥してくる季節だからって…。海藻エキスでお肌しっとり、タラソテラピーって言ってたかな?」
「そう来たか…。この前はヨーグルトパックだったな」
「果物を何種類もすりおろして作るってパックもやってなかった?」
ホントに美肌にこだわるよねえ、と呆れ顔をしているジョミー君に、スウェナちゃんが。
「顔は男の命だからでしょ。…ジョミーたちは違いそうだけど」
「あー、そっか…。ブルー、モテるの大好きだもんねえ、シャングリラ・ジゴロ・ブルーだから」
仕方ないか、と愚痴を零しつつ待つこと半時間くらい。
「ごめん、ごめん。待たせちゃって」
リビングの扉が開いて会長さんが現れ、廊下の方へと手を振って。
「じゃあね、ハーレイ。帰り道は鼻血に気を付けて」
「う、うむ…。安全運転を心がけよう」
ティッシュで鼻を押さえた教頭先生の声は既に鼻血の危機であることを示していました。私たちも挨拶する中、そそくさと帰ってゆかれましたが…。
「ふふふ、これだから癖になる。慰労会は何度やってもいいねえ」
大きく伸びをする会長さんの目的は会食ではなく、教頭先生のスペシャル・エステ。普段からエステを頼んでいる筈ですけど、教頭先生を私たちの視線に晒すのがお目当てなのです。エステの最中はプロと化してしまう教頭先生、鼻血は一切出しません。けれど終わると一気に来てしまうようで…。
「今日も駐車場から出て行くまでにかなり時間がかかると見たね。さあ、賭けようか。ぼくは三十分で行くけど、君たちは何分?」
始まったのは鼻血賭博。教頭先生が復活して車を運転出来るようになるまでの時間を当てる賭けでした。当てた人は次の慰労会の時に一品注文出来るのです。食事でもデザートでも、好きなのを一つ。
「十五分だ。教頭先生は克己心が強くてらっしゃるからな」
キース君が言えば、他のみんなも次々と賭けに乗ってゆきます。私はキース君に便乗して十五分。会長さんが全員の分をメモした所で…。
「二十分! ぼくも一口乗らせて貰うよ」
紫のマントがフワリと揺れて、ソルジャーがリビングに立っていました。しばらく見ないと思っていたのに、来ちゃいましたか、そうですか…。

「どうして君が出て来るのさ!」
ダイニングに移動してカボチャとサツマイモのパイ包みを頬張る会長さんは文句たらたら。本日の鼻血賭博は二十分に賭けたソルジャーの勝ちで、会長さんの御機嫌は最悪なことに。
「部外者のくせに賭けに勝つなんて酷いじゃないか! ぶるぅの料理が目当てだったら普通に遊びに来ればいいだろ、鼻血賭博は娯楽なんだし!」
「そうだろうねえ、君はハーレイの鼻血の危機を見せびらかしたいだけみたいだしさ。…毎回、見ていて飽きないよ。そこまでオモチャにされまくっているハーレイはとても気の毒だけど」
ぼくなら情が移るのに、とソルジャーは会長さんをひたと見詰めて。
「君の身体を一所懸命ケアしているのに、なんの御褒美も無いなんて…。せめて仕上げのフラワーバスは一緒に入ってあげようとか思わないわけ?」
「お断りだよ!」
「いいけどね、君に全くその気が無いのは知ってるし。…ところで、ハーレイのプロ根性。あれが崩れたらどうなるだろう?」
「「「は?」」」
ソルジャーの台詞に全員が首を傾げましたが。
「プロ根性だよ、エステのプロ! ぼくも何度か受けているけど、ホントに鼻血は出ないよねえ…。それを崩してみたくてさ。ブルーが掛けた暗示が勝つか、ぼくが暗示を見事に解くか。…暗示の性質からして一度解いても次回までには元通りだよね? 一度挑戦してみたいんだ」
「き、君はどういうつもりなわけ!?」
会長さんの声が裏返る中、ソルジャーは赤い瞳を悪戯っぽく煌めかせて。
「そのまんまだよ、君の暗示に挑戦! ちょうどエステも受けたい気分だし、明日の予約をお願いしたいな。最近、ちょっと肌に疲れが…。救出作戦が続いちゃってさ」
嘘だろう、と誰もが心で突っ込みましたが、SD体制を持ち出されると断れないのもまた事実。こうしてお肌ツヤツヤのソルジャーは帰宅したばかりの教頭先生に会長さんの名前で明日のエステの予約を入れさせ、御満悦でポルチーニ茸のパスタをフォークに巻き付けています。
「楽しみだなぁ、明日は久しぶりの全身エステ! そっちはしっかり受けなくっちゃね。暗示を解くのは最後の最後! 盛大に鼻血を噴いて倒れてくれたらいいんだけども」
「…君のハーレイが嘆かないことを祈っているよ。大切な君が他の男の手でベタベタと…」
会長さんの嫌味はソルジャーにサラリと受け流されて。
「ああ、そこの所は大丈夫! お肌しっとりになるわけだからね、感謝こそすれ怒りはしないさ。大切なのは抱き心地と肌の手触りだろう?」
「ストーップ!」
その先、禁止! と会長さんが止めに掛かりましたが、時既に遅し。ソルジャーは延々と私たちには意味不明な大人の時間について熱く語って、それから帰ってゆきました。鼻血賭博で勝った権利を明日のおやつに行使するのも忘れずに…。
「栗のババロアが何だって言うのさ!」
代替品で作ってしまえ、と会長さんは怒っていますが、栗がサツマイモに化けたところで明日のエステが中止になるわけじゃありません。ソルジャーは何も分かっていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」に暗示を解く瞬間の中継なんかも頼んでましたし、私たちも全員、巻き添えです。
「…鼻血賭博が鼻血に化けたか…」
キース君の疲れた口調に色濃く滲む会長さんへの恨み節。会長さんが慰労会を繰り返しさえしなかったなら、こんな悲劇は無かった筈で…。けれど会長さんもまたドン底でした。
「…ぼくの暗示に挑戦だって? ブルーに勝てるわけないだろう…」
ぼくと瓜二つの身体を撫で回しながら鼻血なのか、と泣きの涙の会長さん。その気持ちもまた分かってしまうだけに、明日がなんとも心配です…。

会長さんの暗示への挑戦と、全身エステと。お楽しみを二つも抱えたソルジャーが上機嫌でやって来たのは翌日の朝のことでした。会長さんが入れた予約の時間は午前十時。それに合わせて私たちも早めに会長さんのマンションに集まり、ソルジャーも一緒にお茶を飲みながら待っている内にチャイムの音が。
「かみお~ん♪ ハーレイが来たよ!」
パタパタと駆けてきた「そるじゃぁ・ぶるぅ」に続いてリビングに顔を覗かせた教頭先生は居並ぶ私たちの姿にポカンと口を開け、ソルジャーが。
「こんにちは。今日のエステをお願いしたのは、ぼくなんだよ。最近、肌に自信がなくて…。ぼくのハーレイに申し訳ないから、スペシャル・ケアを…ね」
「そ、そうでしたか…」
教頭先生、思わぬ展開に頬を赤らめておいでです。しかしエステに関してはプロ中のプロ、立ち直りの方も早くって。
「この季節は乾燥しがちですから、肌にもダメージが出るのでしょう。…ああ、あなたの世界では関係無いかもしれませんが…。状態を見てからケアをさせて頂きますので、どうぞこちらへ」
会長さんの家にはエステ専用の部屋があったりします。教頭先生は先に立ってソルジャーを其方へと促し、廊下に消えてゆきました。ソルジャーも続いてリビングを出る時、ヒョイと後ろを振り返って。
「じゃあ、ぶるぅ。合図をしたらよろしくね」
「オッケー!」
元気のいい返事を聞いたソルジャーはパチンとウインクをしてエステにお出掛け。何も知らない教頭先生はきっとエステティシャンの仕事に燃えているでしょう。覗き見してみた会長さんによると、どうやらタラソテラピーのコースらしくて。
「…例によって下着無しだよ、ブルーはさ。今の所はハーレイは無事だけど、暗示云々の件が無くても今日の鼻血は酷かったろうね。…なにしろ下着無しなんだから」
あの度胸だけはぼくには無い、と会長さんは呻いています。私たちの前にはカボチャのパウンドケーキのお皿が置かれていますが、あんまり食が進みません。ソルジャーは二切れも食べてからエステなのに…。
「あれっ、カボチャのケーキは嫌いだった?」
ごめんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に謝られてしまい、私たちは慌ててパクパクと。
「ち、違うよ、これはソルジャーのせいで!」
「ああ。どう考えてもあいつのせいだ」
心配で食欲減退中だ、とジョミー君とキース君が答えてくれたので「そるじゃぁ・ぶるぅ」はホッと安心したようです。
「よかったぁ~。あのね、ブルーなら心配いらないよ? とっても気持ち良さそうだもん」
お昼寝してる、と無邪気な報告を受けた私たちは更にズズーンと暗い気分に。全身エステを満喫中のソルジャーが仕上げのマッサージを受け、フラワーバスに向かう直前が惨劇の時間になる筈です。暗示を解かれた教頭先生が鼻血を噴いて倒れるわけで…。
「仰向けに倒れることを祈るよ、でないとブルーの上にバッタリ」
それは避けたい、と会長さんが嘆きまくっている間にも時計の針は刻一刻と進み、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「あっ、合図だ! もうすぐだって!」
言うなりリビングの壁が中継画面に変わって映し出されるエステ部屋。専用ベッドに寝そべったソルジャーの身体を施術用の服を着た教頭先生が丁寧にマッサージしています。アロマオイルを肌にすり込み、しっとりと仕上げて微笑んで。
「…如何ですか?」
「うん。ありがとう、また一段と腕を上げたよね」
嫣然と笑みを浮かべたソルジャーの瞳がキラリと光った次の瞬間、教頭先生はボンッ! と音がしそうな勢いでトマトみたいに真っ赤な顔に。耳の先まで赤く染まるのと鼻血が出たのは同時だったと思います。ボタボタボタッとソルジャーの胸に鼻血が落ちて、それからドターン! と教頭先生は床に仰向けに…。
「「「あー…」」」
やっちゃった、と溜息をつく私たちの隣では会長さんが頭を抱えていました。ソルジャーは中継画面越しにウインクを寄越し、「これからお風呂」とタオルを巻いてスタスタと…。教頭先生を救出すべきか、放置すべきか迷いますけど、どうなるんでしょう?

昏倒してしまった教頭先生は着て来た服や車もセットで「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動で家まで送り届ける結果に。一時間やそこらで立ち直るわけが無いからです。騒ぎの元凶のソルジャーの方はフラワーバスにゆったりと浸かり、全てが終わってからバスローブのままでリビングに。
「サイオン勝負はぼくの勝ちだね。あの程度の力で解ける暗示だとは思わなかった」
「どうせ場数を踏んでいないよ! ぼくは実力不足だよ!」
それよりも、と会長さんは眉を吊り上げて。
「ハーレイの鼻血は諦めてるけど、君の格好は何なのさ! 女の子もいるのにマナー違反だよ!」
「ああ、これかい? マナー違反は百も承知だけど、見てほしいものがあるんだってば」
ここ、とソルジャーがバスローブの胸元をグイと開いて。
「ほらね、ここと……ここと……それから、ここ。他よりしっとりしていないかい?」
「「「は?」」」
「分からないかな、そういう感じがするんだよ。ハーレイの鼻血が落ちた場所なんだけど、なんだか艶が出たって言うか…。血ってヤツには美肌効果があるのかなぁ?」
「あるわけないだろ!」
ブチ切れたのは会長さんです。
「単なる視覚のマジックだよ、それ! そういう風に見えるだけ! ぼくたちの目には他と同じに見えてるんだし間違いない。それにハーレイは人間だしね」
「…目の錯覚ねえ…。そういえば戦いの最中に返り血は何度も浴びているけど、美肌効果は無かったか…」
恐ろしいことをサラッと口にしたソルジャーですが。
「ん? ちょっと待ってよ、ハーレイは人間だからって言ったよね? 人間でなければ効果があることもあるのかい? 生き血ってヤツに」
「…スッポンの生き血なら効くかもね。ぼくは試したことが無いから保証の方はしかねるけれど」
大真面目に答える会長さん。そういえばスッポンには美肌効果がありましたっけ。でも、生き血ではなくて肉の方ですよね、多分…。
「スッポンだって? アレは精力絶倫なんじゃあ?」
そう聞いてるよ、と返すソルジャーに、会長さんはフウと吐息を吐き出して。
「そっちの他に美肌効果でも有名なんだよ。だから生き血を浴びて美肌というのがスッポンだったら納得だ。だけどハーレイでは有り得ない。まして鼻血じゃ美肌どころか汚いだけだよ、しっかり洗い落としておきたまえ」
せっかくのエステが台無しだ、と言われたソルジャーは「なんだ、残念…」とブツブツ呟きながらバスルームへ。いやはや、鼻血で美肌とはビックリ仰天な話です。会長さんの言葉のとおり目の錯覚というヤツでしょうが、もしも錯覚でなかった場合は教頭先生はどうなったやら…。
「まったく、もう…」
何処の伯爵夫人なんだ、と会長さんがぼやいています。えっと…伯爵夫人って、なに?
「知らないかな? ブルーみたいな錯覚が元で、生き血を浴びるために六百人もの少女を殺した女貴族さ。血の伯爵夫人と呼ばれてけっこう有名」
「いたな、そういう名門貴族が」
俺も連想してたんだ、とキース君が頷き、シロエ君も。
「ですよね、似たようなことって起こるんですねえ…。教頭先生が生き血ならぬ鼻血を搾られることになったらどうしよう、と焦りましたよ、一瞬ですけど」
「うへえ…。そんな怖いのがいたのかよ…」
考えたくねえな、とサム君がブルッと肩を震わせ、ジョミー君が。
「鼻血だって出過ぎちゃったら貧血だしね…。ソルジャーなら本気でやりかねないからシャレになってないよ、鼻血で美肌」
「あいつは突き抜けているからな。スッポンの生き血だって浴びかねないぞ」
スッポンを六百匹ほど搾って生き血風呂、とキース君が首を竦めてみせる姿に会長さんが笑っています。
「別のベクトルで効きそうだよ、それ。美肌効果もあるんだろうけど、それ以外にさ」
「…ふうん? スッポンの生き血風呂が何に効くって?」
「「「!!!」」」
いきなり聞こえたソルジャーの声。バッと振り返った私たちの前には私服に着替えたソルジャーが悠然と立っていました。これってヤバかったりするのでしょうか? どうなんですか、会長さん…?

「それで? 是非とも聞かせて貰いたいねえ、スッポンの生き血風呂の効能ってヤツを」
聞くまでは絶対に帰れない、とソルジャーの目は完全に据わっています。あれからオマール海老と帆立貝のクリーム煮がメインの昼食を食べ、今、テーブルに乗っているのは鼻血賭博に勝ったソルジャーがリクエストしていった栗のババロア。此処に至るまで会長さんは懸命に話題を逸らしていたのに…。
「教えてくれないのなら君の心を読むまでだ。うん、その方が早いかな?」
「ちょ、ちょっと待った! 暴力反対!」
余計なことはされたくない、と会長さんは悲鳴を上げました。
「君のサイオンのレベルはハーレイの鼻血でよく分かったよ! 君に逆らって心を読まれたら何をされるか…。ハーレイを好きになるように暗示を掛けられたりするかもだし!」
「…そこまでは無理。出来るものならとっくにやってる」
クスクスクス…と笑いを漏らすソルジャー。
「だけどハーレイにキスをしろとか、その程度なら可能かもね。ぼくの信用ってヤツに関わってくるからやらないけどさ。…で、喋る気になったって? 生き血風呂の効能」
「話すってば! だけど本当に効くかどうかは知らないよ?」
「憶測の域でも大いに歓迎。美肌効果は確実みたいだし、他にも何かあるとなったら興味がある。それも話したくない内容となれば尚更だ。…もしかしなくても精力絶倫、もうビンビンのガンガンとか?」
「………。言わなくても分かっていたんじゃないか……」
ガックリと項垂れる会長さんに、ソルジャーは。
「やっぱり今ので当たってたんだ? ふふふ、それなら試してみる価値はあるかもねえ…」
「試した人の話が無いから空振りになるかもしれないし!」
スッポンってヤツは高いんだから、と会長さんは厳しい口調。
「生き血だけでバスタブを満たそうとしたら何匹要るやら…。どうしてもって言うんだったらキースが言ってた六百匹にしておきたまえ。足りなかったらお酒を足すとか」
「お酒?」
「スッポン料理の専門店で生き血を出す時はお酒で割るんだ。飲みやすいようにって話だけれど、殺菌の意味もあるかもね。なにしろ相手は生き物なんだし」
「なるほどねえ…。具体的なプランを聞いたら試したい気分が高まってきたよ。ぼくのハーレイと二人で入れば最高じゃないか! ぼくは美肌効果でお肌ツヤツヤ、ハーレイは精力絶倫ってね」
ダメ元でやってみる価値はある、とソルジャーは思い切り乗り気でした。
「スッポンって何処で買えるんだろう? せっかく来たんだ、六百匹をお土産にしたいんだけど」
「えーっと…。そりゃあ、養殖場に行けば…」
だけどお金はどうするんだい、と会長さんが心配そうに。
「スッポンが高いってことはスッポン料理を食べてるんだから知ってるだろう? ノルディにたかるのは止めてほしいな、そういうネタで」
「え、ダメかい? いつもお世話になってるよ? ぼくのハーレイと泊まるホテル代とか」
「ぼくの知らない間に知らない所でたかってるのは諦めがつく。だけどね、目的も事情も分かった上でたかりに行かれるのはキツイんだ」
ぼくと瓜二つの姿の君に、と止められてしまったソルジャーは…。
「分かったよ。それじゃ今回は別の財布をアテにする。君のハーレイから毟っていくさ」
「「「えぇっ!?」」」
どうしてそういうことになるのだ、と誰もが息を飲んだのですけど、ソルジャーは涼しい顔をして。
「慰謝料だと思ってくれればいいよ。エステティシャンとして有り得ないよね、顧客の胸に鼻血だなんて…。その慰謝料にスッポンを買って貰うわけ。六百匹くらい軽いってば」
「そう来たか…。ノルディにたかりに行かれるよりかはマシなんだろう、きっと。…ぼくが血迷ったハーレイに生き血風呂に誘われた時は丁重にお断りすればいいだけだしね」
頑張って毟りに行きたまえ、と会長さんは許可を出しました。栗のババロアを美味しく食べ終えたソルジャーは会長さんにスッポンの養殖場を探して貰い、六百匹をまず確保。それから教頭先生を財布にするべく瞬間移動で姿を消す前に。
「今日は色々ありがとう。スッポンの生き血風呂は帰ったら早速試してみるね」
「無益な殺生だと思うけどねえ…。でも、君は言い出したら聞かないか…」
今更だった、と諦めの境地の会長さんにソルジャーは。
「六百匹は酷すぎるって? 人類側の戦艦を一隻沈めたらそれどころの人数じゃないんだけれど…。一応、心には留めておくよ。スッポンがぼくたちに何をしたわけでもないからねえ…」
それじゃ、と軽く手を振ってソルジャーは帰ってゆきました。いえ、正確には教頭先生の家とスッポンの養殖場経由でのお帰りですけど、知ったことではありませんです~!

スッポンの代金、六百匹分。何かと物入りな年末年始までに二ヶ月も残っていないという慌ただしい時期に、教頭先生のお財布は綺麗さっぱりスッカラカンに。会長さんとの結婚に備えて貯金しているキャプテンとしてのお給料にまで手を付けたのは言うまでもありません。
「ハーレイにはとんだ災難だったらしいよ、スッポンはね」
だけど転んでもただでは起きない、と会長さんが呆れているのは翌週の週末。恒例だった慰労会は無くなり、会長さんのマンションでダラダラ過ごすだけの時間なのですが。
「…ハーレイときたら、スッポン貯金を始めるようだ。六百匹分の資金が貯まったら生き血風呂にぼくを誘うつもりで燃えてるよ。そんな血生臭いイベントに高僧のぼくが乗るとでも? 馬鹿だよねえ、ホント」
「それで、あいつはどうなったんだ? 生き血風呂は?」
実行したのか、とキース君が怖々といった風情で尋ねれば、会長さんはアッサリと。
「やらないわけがないだろう? 泥抜きをした方がいいと養殖場で言われたらしくて、しばらく青の間の水に泳がせて飼ってたけどねえ…。週末だから、と昨日の夜に全部捕まえて搾っちゃったさ」
「「「………」」」
スプラッタな光景を思い浮かべた私たちですが、そうではなかったみたいです。ソルジャーはサイオンを自由自在に扱えますから、六百匹のスッポンの生き血を搾るのもサイオンで。バスタブの上の空間で纏めてギュウッと圧縮したらしく、生き血は一滴残らずバスタブの中に収まって…。
「でもって、やっぱり量が足りなかったからお酒で増量。それからハーレイと二人で仲良く浸かって、その後はもうお約束ってヤツ」
お盛んなんてレベルではなかった筈だ、と舌打ちをする会長さんの覗き見ライフは二人がバスタブに入った所で終了だったということでした。
「それ以上は見たくもないからね。本当に効くかどうかはともかく、精神的に盛り上がっているのは確かだろう? スッポンを食べると猫でも凄い。ましてあの二人だとどうなるか…」
「「「猫?」」」
「そう。まだ一戸建てに住んでた頃にね、スッポン鍋を食べて残りを庭に来た野良猫にやったことがある。そしたら一晩中、ニャーニャー、ギャーギャー。…いわゆる精がつきすぎたって状態」
うるさくて眠れたものじゃなかった、と会長さんは遠い目をしています。ということは、生き血風呂に入ったソルジャー夫妻は…。
「まず間違いなく、この週末は特別休暇状態だろうね。元々、二人揃って申請していたみたいだし…。あっちのぶるぅが可哀想になってきちゃったよ。丸二日間、防音土鍋に籠りっぱなしになるのかな? 要領のいい子だから適当に食事はするだろうけど…」
なんとまあ、そこまでの勢いですか! ただでもバカップルなソルジャーとキャプテンなのに、スッポン六百匹分の生き血風呂。週末だけで効果が切れればいいが、と心の底から祈りたくなってしまいました。可哀想な「ぶるぅ」のためにも、全く途切れない大人の時間はこの土日だけでお願いします~!

そして訪れた次の週末。またしても会長さんのマンションに集まっていた私たちの前に現れたのは…。
「こんにちは。この間は素敵な提案をしてくれて感謝してるよ」
紫のマントを着けたソルジャーは至極ご機嫌でした。
「スッポンの生き血風呂ってホントに凄いね。先週の土曜日に入ったんだけど、ヌカロクなんてものじゃなかった。ハーレイのスタミナはまるで尽きないし、ぼくだって眠くならないし…」
えっと。ヌカロクって何でしたっけ? 未だに謎の言葉です。けれどソルジャーは気にも留めずに。
「特別休暇を取っていたから日曜日も朝から晩まででさ…。そのまま月曜日の朝までヤッて、ハーレイはブリッジに出勤してった。いつもなら仮眠が必要なのに、それも全く要らなかったし…。もちろん月曜の夜は普段通りに楽しめたしね」
ぼくも全然バテなかった、と自慢するソルジャーは今もってお肌に自信があるそうです。確かに血色が良くてツヤツヤかも…。
「というわけで、六百匹のスッポンにも感謝してるんだ。無益な殺生だと言われたけれども、そうじゃない。大いに役に立ってくれたよ。だけど供養はしたいと思うから連れて来た」
「「「えっ?」」」
「これ。…この中に六百匹分入っているんだ」
ソルジャーが宙に取り出したのは両手で抱えられるサイズの箱でした。
「サイオンで最後の一滴まで搾り出せるように押し潰したから、乾いたらもう粉末なんだよ。それで供養をして貰おうと思ってさ…」
宜しく頼む、とソルジャーが差し出した箱を会長さんが受け取って。
「供養をするのは構わないけど…。でも、本当にいいのかい? スッポンの粉末っていうのは精力剤としてとても人気が」
「前言撤回! これは有効に使うことにするよ、六百匹分を楽しまなくっちゃ」
慌てて箱を取り返そうとするソルジャーと、「供養を頼みに来たんだろう?」と箱を抱え込もうとする会長さんと。じゃれ合いにも似た攻防戦の後、ソルジャーは箱を大切そうに抱えて自分の世界に帰りました。六百匹のスッポンたちは生き血どころか骨まで貪り尽くされるようで…。
「…やれやれ、スッポン供養の卒塔婆でも作った方がいいかな?」
無益な殺生に手を貸してしまった、と溜息をつく会長さんに、キース君が。
「いっそ戒名を付けてやったらどうだ? 動物に戒名を付けるというのは俺たちの宗派の有り様からは外れるが…。心をこめて六百匹分」
「戒名か…。六百匹分の戒名を見たら、ブルーも二度と殺生を繰り返さないかもしれないねえ…」
放っておいたら二度目、三度目がありそうだ、と嘆く会長さんの頭の中には生き血を搾られた六百匹のスッポンの命のことしか無いようでした。教頭先生のお財布のためにも二度目の惨事は避けたいですし、ここは一発、銀青様の有難いお手で六百匹分のスッポンの戒名を宜しくお願い申し上げます~!


             美肌を求めて・了


※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 シャングリラ学園シリーズ、4月2日が本編の連載開始から5周年の記念日です。
 完結後も書き続けて5周年を迎えられるとは、感謝、感謝でございます!
 後日談まで書いちゃいましたし、この先はもう怖いもの無しだという話も…?
 5周年記念の御挨拶を兼ねまして、今月は月に2回の更新です。
 次回は 「第3月曜」 4月15日に更新となります、よろしくお願いいたします。
 場外編は 「毎日更新」 で営業中です。お気軽にお越し下さいませv
 新コンテンツ、『ウィリアム君のお部屋』 では船長がお待ちしております!

 ※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、今月は…。ソルジャーも交えて楽しく(?)お花見でございますv
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらから。

 『ウィリアム君のお部屋』 も、上記から。生徒会室内にリンクがあります。
 キャプテン・ハーレイに餌(ラム酒)をあげたり、撫でたり出来るゲームです。
 サーチ登録してない強みで公式画像を使用してます、通報は御勘弁願います。
 1時間ごとに画像が変わりまして24時間分で24枚、お世話に応じた絵も出ます。
 外に出すと5分で戻ってきますが、留守の間に部屋を覗くとハレブル風味という噂も…?


 生徒会室には過去ログ置き場もございます。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv







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