シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
今や夏休みの恒例行事となったマツカ君の家の別荘への旅。海の別荘の方はソルジャーとキャプテン、「ぶるぅ」が一緒にくっついてくるのがお約束です。今年もしっかりそのパターン。出発を明後日に控え、今頃、ソルジャーとキャプテンは向こうの世界で大車輪で仕事を片付けている筈ですが…。
「ブルーもホントに頑張るよねえ…」
今年も来るとは、と会長さんが苦笑しています。
「たまには欠席すればいいのに、一度も欠席しないんだものね」
「そりゃそうだろう。今となっては来ないわけがない」
キース君がアイスコーヒーを一口飲んで。
「海の別荘はあいつらが結婚した場所なんだぜ? 結婚記念日と重ねたいから、と日付指定までしやがるじゃないか」
「それも迷惑な話だけどね…。まあ、一緒に祝えと押し付けられるわけじゃないからいいけどさ」
勝手にイチャイチャしてるだけだし、と会長さんが言うだけあってソルジャーとキャプテンは今もバカップルです。明後日からもベタベタやるのでしょうけど、目の毒な旅にももう慣れました。適当にスルーしておくべし、と私たちは会長さんの家のリビングを舞台に今年も誓っているわけで。
「そうそう、スルーするのが一番! …出来ないのが若干一名いるけど」
会長さんの言葉に、シロエ君が。
「教頭先生は仕方ないですよ…。今年もおいでになるんですよね?」
「ハーレイも海の別荘行きを毎年楽しみにしているからね。あそこで色々あったというのに、ぼくと一緒に旅行ってだけで食いついてくるのが笑えるよ」
本当によくも懲りないものだ、と会長さんが数えているのは教頭先生が海の別荘でかいた恥の数々。会長さんやらソルジャーやらの悪戯に引っ掛かった挙句に両手の指では足りないほどです。
「他にも忘れているヤツがあるかもね。あ、忘れるで思い出した。…ぶるぅ、改装はいつからだっけ?」
「えーっと…。確か来週だったかなぁ?」
「それはマズイな、忘れそうだ。…悪いけど、明日にでも行って来てくれる?」
「かみお~ん♪ 今から行って来る!」
お昼の支度は出来ているから、と言うなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」は瞬間移動で消え失せました。えっと、行くっていったい何処へ…? 私たちの視線を一身に浴びた会長さんは。
「デパートだよ。いつもの売り場が改装で閉まっちゃうらしいんだよね。移転して営業するとは聞いているけど、売れ筋じゃないものは扱わないかもしれないし…」
「ああ、売り場面積が縮小するならそういうこともあるかもな」
在庫を置く場所が狭くなるから、とキース君が頷いています。会長さんが押さえておきたい品物というのは何なのだろう、と思いましたが、フィシスさんへのプレゼントとかなら聞くのは野暮。他のみんなも同じ考えに至ったようで、誰も追求しない間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がヒョイと戻って。
「買ってきたよ、いつもの紅白縞!」
「「「紅白縞!?」」」
それだったのか、と頭を抱える私たちの横で会長さんが包装された箱を受け取っています。青月印の紅白縞のトランクスを五枚。会長さんは新学期を迎える度にこの悪趣味な贈り物の箱を教頭室に届けるのでした。確かに紅白縞のトランクスなぞは売れ筋だとは思えません。
「……それを買う客は少ないだろうな……」
あんたくらいのものじゃないか、とキース君が疲れた口調で言えば、会長さんは。
「ハーレイも買っているだろう? ぼくが贈るのはとっておきのヤツで、普段用に自分でね。だけど他にも売れてるかどうか、そこはホントに謎だってば。取り寄せになっちゃった事もあるんだ。だから改装となれば早めに確保しておかないと」
これで二学期が来ても安心、と会長さんがポンと箱を叩いた所へ。
「そんなにレアなものだったのかい?」
不意に空間がユラリと揺れて、紫のマントが翻りました。ソルジャーは明後日からの旅に備えて忙しくしている筈だというのに、何故にいきなり来るんですか~!
「悪いね、御馳走になっちゃって」
狙ってたわけじゃないんだけれど、と口にするソルジャーに会長さんが深い溜息。
「どうなんだか…。おやつの時間と食事の時間は出現率が高いよね」
「美味しそうなモノを見ちゃうと、つい…ね。だけど今回は違うってば。でも美味しいや、これ」
ソルジャーが褒めているのは野菜たっぷりのトムヤムラーメン。スパイシーなトムヤムクンのスープがラーメンをグンと引き立てています。
「要するに食べに来たんだろう? やるべき仕事はどうなったわけ?」
「それはハーレイに押し付けて来た。だって紅白縞が気になるじゃないか、売れ筋じゃないって聞いちゃうとさ」
「売れ筋だと思っていたのかい!?」
「…そこそこ定番商品かなあ、って…」
いつも贈っているんだから、と答えたソルジャーに会長さんは額を押さえて。
「悪趣味だからプレゼントするんだってば! ぼくとお揃いだと思い込ませてあるんだってことも前に教えた筈だけど?」
「うん、その話は知ってるよ。…でもさ、店を改装している間は扱わないほど需要が無いとは思わなくって…。商品として売ってるからには一日に何枚かは売れるものだと…」
「売れないよ! 褌よりかは売れるかもだけど、何枚も替えを持つような人が好き好んで選ぶわけないだろう!」
もっとお洒落な柄が沢山ある、と会長さん。
「あんなのを喜んで履くハーレイの気が知れないね。百年の恋も醒めるってヤツだ。…想像してごらんよ、君のハーレイがアレを履いてたらどうするんだい?」
「…えっ、ハーレイはハーレイだろう? 肝心なのは中身であって、そっちがビンビンのガンガンだったら別に全く気にならないけど」
「その先、禁止!」
猥談をするなら今すぐ帰れ、と会長さんが眉を吊り上げましたが、ソルジャーは。
「うーん…。あれがダサイと思うかどうかは、文化の違いかもしれないよ? ぼくは事情を知っていたのに、ある程度の数は売れるものだと思ってた。ということは、ぼくにとってはダサくはないということだ」
「…思い切りダサイと思うけどねえ…」
「ぼくの世界じゃ紅白縞は売られていない。その辺の関係もあるのかな? ぼくのハーレイが履いていたって、こっちの世界で買ったヤツだなと思うだけだよ。ひょっとしたら逆にときめくかもねえ、なんと言っても地球の下着だ」
「…そうなるのかい?」
信じられない、と会長さんが呻き、私たちも口がポカンと開いたまま。紅白縞といえば笑いの対象でしかないというのに、ソルジャーはそれにときめくと…?
「可笑しいかなぁ? ぼくのシャングリラに持ち込んでみても笑われたりはしないと思うよ。…話を上手く持って行ったらブレイクだってするかもね」
「「「ブレイク!?」」」
「そう、シャングリラ中で紅白縞が大流行! 絶対に無いとは言い切れないさ、異文化なんだし」
世界が違えばセンスも別モノ、とソルジャーはトムヤムラーメンを啜り、スープも綺麗に飲み干してから。
「…ちょっと仕掛けてみようかな? 紅白縞が流行るかどうか」
「「「は?」」」
「ぼくのシャングリラで実験するんだ。地球で虐げられている可哀想な下着をブレイクさせるのも面白いよね。ファッションリーダーは勿論、ハーレイ!」
キャプテンが流行の最先端だ、とソルジャーは思い切りブチ上げました。
「ぼくとハーレイでデザインしました、って宣伝するのはどうだろう? 紅白縞の赤い色はさ、ほら、この襟元の石の色! 誰の服にもこの石はあるし、ミュウのシンボルみたいなものだ。でもって白はシャングリラの白! 誂えたようにピッタリじゃないか」
「「「………」」」
とんだ解釈もあったものです。けれどソルジャーはやる気満々、紅白縞を売り込むつもり。
「この際、憧れの地球を絡めてみるのもいいかもねえ…。明後日からは旅行じゃないか。その間にこっちの海辺を舞台にCMを撮影するんだよ。でもって、ぼくのシャングリラで全艦放送!」
イメージ戦略も大切だから、とパチンとウインクするソルジャー。
「撮影用の機材とかはさ、こっちのを使ってデータを変換すればいい。…マツカ、手配をお願い出来るかな?」
「え、ええ…。機材だけでいいんですか?」
「スタッフもお願いしたいところだけれど、ぼくは別の世界の人間だしねえ…。というわけで、撮影スタッフは君たちだ。腕もセンスも期待してるよ。そうそう、撮影用の紅白縞も何枚か買っておいてくれるかな? やっぱり新品で撮らないとね」
明後日からの旅をよろしく、と一方的に話を決めてソルジャーは帰ってしまいました。今年の海の別荘行きは紅白縞のCM撮影。全然嬉しくないんですけど、今更どうにもなりませんよね…?
紅白縞のCMの件を撤回しようにも機会が無いまま、別荘へ旅立つ日がやって来て。いつものようにアルテメシア駅に集合した私たちは数時間後にはマツカ君の海の別荘に…。
「海はいいねえ、何回来ても」
ソルジャーが大きく伸びをしているのはプライベートビーチ。まずはひと泳ぎ、と皆で出て来たわけです。砂浜にはお馴染みの竈が据えられ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトウモロコシをジュウジュウと。
「かみお~ん♪ トウモロコシ、もう焼けてるよ! 次はホタテも焼く?」
「そうだね、今日は獲物がまだ無いし」
獲りに行くのは明日からかな、と会長さんが言えば教頭先生が。
「その辺でアワビが獲れる筈だぞ。皆を引率して行くとなったら遠征になるが、私一人ならサッと行って来るだけだしな」
先に食べ始めているといい、と教頭先生は網袋とアワビを剥がすための道具を持って泳いで行ってしまいました。少し先の岩場に網袋を引っ掛け、そこを基点に潜るようです。海中と岩場を往復すること十五分ほど、再び泳いで戻ってくると。
「どうだ、獲れたてのアワビとサザエだぞ。バター醤油も壺焼きも美味い」
「流石、ハーレイ。こういう時には役に立つよね。ぶるぅ、ぼくはアワビをバター醤油で」
会長さんの笑顔を教頭先生が満足そうに見ています。アワビもサザエも会長さんへの貢物でしょうが、それを気前よく分けてしまうのも会長さん。私たちは有難くお相伴にあずかり、ソルジャーやキャプテン、「ぶるぅ」も獲れたての海の幸を頬張って。
「うん、こういうのは新鮮さが命! ぼくの世界では出来ない贅沢」
そもそも海で遊べないから、とソルジャーは地球の海を満喫中。ソルジャーのシャングリラが在るアルテメシアという惑星には人工の海があるそうですけど、其処で遊べるのはIDを持つ市民だけ。ミュウと呼ばれて隠れ棲んでいるソルジャーたちには海辺のリゾートは無理なのです。
「この海を入れて撮影すればさ、それだけで思い切り非日常だよね。でもって字幕を入れたりするんだ、憧れの地球で過ごすひととき……なんて」
「「「!!!」」」
忘れたわけじゃなかったのか、と私たちの背筋がピキンと凍り、キャプテンが怪訝そうに首を傾げて。
「…なんの話です? 非日常だとか、撮影だとか」
「コマーシャルを撮影するんだよ。お前が主演で、舞台はこの地球」
「…コマーシャル…ですか?」
「たまにはファッションリーダーになってみるのもいいだろう? お前が履いてみせたパンツをシャングリラ中で流行らせるんだ」
ニッコリ笑ったソルジャーの唇が紡いだ言葉に、キャプテンはウッと息を飲み。
「……パンツ……。そ、それはいわゆるパンツなのですか、私はズボンと呼んでいますが」
「パンツだけど? こっちのハーレイが履いているだろ、赤と白の縞のパンツをさ。あれを流行らせたいんだよ」
「「は…?」」
キャプテンの声と教頭先生の間抜けな声が重なりました。そりゃそうでしょう、二人にとっては寝耳に水な話です。CMに出ろと言われたキャプテンも、紅白縞を愛用している教頭先生も、ソルジャーの妙な企画なんかはまるで知らないわけですから。
「こっちの世界じゃ紅白縞はあまりメジャーじゃないらしい。そしてブルーはそれが当然だと思ってる。そのマイナーな紅白縞がぼくの世界でブレイクしたら素敵じゃないか」
「…どうして私になるんです?」
キャプテンの疑問に、ソルジャーは。
「こっちのハーレイにそっくりだから、っていうのもあるけど、お前が履いたパンツが人気になったら嬉しいという気持ちもあるかな。…シャングリラ中で流行りのパンツを一番最初に履きこなした人物をパートナーに持つのは最高だろう? 中身の方も最高なんだって気分になるよね」
いろんな意味での中身だよ、とキャプテンに熱く囁くソルジャー。
「人物だけじゃなくて、パンツの中身もシャングリラで一番凄いんだ。ヌカロクなんかは朝飯前で、ぼくを一生満足させてくれるってわけ」
「退場!!!」
会長さんが叫ぶのと、教頭先生が鼻を押さえるのとは同時でした。またも出て来た謎の単語がヌカロクです。未だに意味が不明ですけど、猥談とセットで出て来るからにはディープな何かなのでしょう。ともあれ、ソルジャーがCM撮影を敢行する気でいるのは確か。これから一体、どうなるのやら…。
平和なビーチをブチ壊してくれた紅白縞がカメラの前に登場したのは夕食の後。まだキャプテンはCMに出るのを渋っていますが、ソルジャーの方は気にしていません。別荘の二階の広間にマツカ君が手配したカメラを運び込み、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が買い込んで来た紅白縞の内の1枚を出して。
「ハーレイ、これをよく見てごらんよ。赤と白とのストライプだ。…こっちの世界じゃ紅白はお祝い事のシンボルになっているんだけれど、ぼくたちの船でも赤と白には意味があるよね」
「…そうですか?」
首を捻るキャプテンに、ソルジャーは「分かってないなぁ…」と舌打ちをすると。
「キャプテンのくせにどうかと思うよ、その鈍さ! 赤はアレだろ、ぼくたちの服についてる石! デザインによって付けてる場所は変わってくるけど、誰でも1個は持っているんだ」
「…そ、そういえば、そうですね…」
「デザインしたのは服飾部でもさ、キャプテンとして把握していて欲しかったな。それじゃ白は? このくらいは君でも分かるだろう」
「ええ。あなたの上着の基本色です」
自信たっぷりに答えたキャプテンの見解にソルジャーは暫しテーブルにめり込み、正解を先に聞かされていた私たちは笑い転げました。ソルジャーと結婚したキャプテンの頭の中ではシャングリラよりもソルジャーが優先らしいです。仲が良いのはいいことですけど、シャングリラのキャプテンとしてはどうなんだか…。
「…ハーレイ、そこは違うだろう…」
ようやく復活したソルジャーが指をチッチッと左右に振って。
「お前にとっては白はそれかもしれないけどね、他のミュウたちに尋ねてみたら答えは全く別だと思うよ。白はシャングリラの船体の色だ」
「………。た、確かにシャングリラも白かったですね…。あまり外から見ないものですから…」
「それは言い訳として通用しない。シャングリラの船体は常に様々な角度からモニタリングされている。…そのデータは全てブリッジに向けて送られていると思ったが?」
「す、すみません……」
大きな身体を縮こまらせるキャプテンに向かって、ソルジャーは。
「鈍かった上に色ボケだなんて、シャングリラの皆が聞いたら泣くだろうねえ…。そんな最低なキャプテン像を払拭するためにも、ここは一発キメなくちゃ! 特別な色の赤と白とをあしらったパンツで華麗に登場! 憧れの地球の海辺を颯爽と歩いて男の魅力をアピールするんだ」
「…パンツで……ですか?」
「流行らせたいのはパンツなんだし、そうでなきゃ意味が無いだろう。カメラの向こうのぼくに向かってアピールする気で頑張るんだね。…あ、いくらぼくへのアピールと言っても、臨戦態勢になっちゃダメだよ? シルエットが崩れてしまうから」
臨戦態勢は二人きりの時に、とソルジャーが注意し、横から「ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ 大人の時間が始まる時にはパンツが窮屈になるもんね!」
「そうそう、ぼくには嬉しい変化だけどね」
今夜も期待してるんだ、と微笑むソルジャーの顔面に会長さんが叩きつけたのはレッドカード。
「退場!!!」
「ま、待ってよ、今夜は紅白縞の赤と白の意味をリポートしながら撮影を…」
「だったら真面目にやりたまえ! テーブルの上にそれを広げて!」
でないと部屋から叩き出す、と怒鳴り散らされたソルジャーはブツブツと文句を零しながらも紅白縞を1枚テーブルに広げ、縞の部分を指差しながら色にこめられたメッセージを説明し始めました。キース君がカメラを担ぎ、ジョミー君がマイク担当。シロエ君はモニターに向かってチェックし、会長さんが。
「カーット! …こんな感じでいいんじゃないかな」
「どれどれ? あ、しまった…。ぼく一人だと重みが無いよね、ハーレイの語りも入れるべきかも…」
ぼくとハーレイとでデザインしました、っていうのが売りだから、と主張するソルジャーのお蔭で撮った映像はリテイクとなり、振り回されるのは私たち。せめて台本を作って来てくれ、と会長さんが頼みましたが、ソルジャーはフレッシュな映像にこだわっています。
フレッシュ、すなわち、ぶっつけ本番。今後が思い切り心配ですけど、今夜の撮影はなんとか終了~。
翌日からは本格的にCM撮影が始まりました。撮影用の機材をビーチに運んで、ソルジャーの気が向くままに撮影開始。キース君たちを連れて素潜りに出掛けた教頭先生の姿で閃いたから、と撮りたがったのは『海風に紅白縞をはためかせて海辺を歩くキャプテン』で…。
「こ、此処でパンツに着替えるのですか?」
着替える場所がありませんが、と騒ぐキャプテンにソルジャーが差し出したものはバスタオル。
「これを腰に巻けばいいだろう? その下でゴソゴソ履き替えるのが基本なんだと聞いたけど? そうだよね、ブルー?」
「うーん…。ぼくはバスタオルを巻くくらいならサイオンでパパッとやるけどねえ? まあ、こっちのハーレイが他に人のいる所で履き替える時にはその方法かな」
「ほらね、問題ないだろう? さっさと着替えて!」
「し、しかし…」
まだ何か言いたそうな水着姿のキャプテンをソルジャーは強引に紅白縞に着替えさせましたが、そこで海辺に立たせてみれば。
「…あれ? はためかないなぁ、風はあるのに…」
おかしいなぁ、と風向きを調べているソルジャーと、スタンバイしている素人スタッフ。紅白縞は風をはらむ代わりに重そうに重力に従っています。
「えーっと…。こういう時に何か方法は無いのかい? ぼくは撮影には詳しくなくて」
ソルジャーに話を振られた会長さんが少し考えてからアドバイス。
「風力が足りない時には送風機だね。巨大扇風機だと思えばいいけど、そういう道具は此処には無いし…。いっそサイオンでなんとかすれば? それこそ君のイメージどおりになるんじゃないかな」
「サイオンで風を? そういう使い方は確かにあるけど、パンツ限定で使ったことが無いからねえ…」
大丈夫かな、と小首を傾げてソルジャーがサイオンを送った結果は。
「「「!!!」」」
キャプテンがバッと必死に股間を押さえ、会長さんの悲鳴がビーチに。
「やりすぎだってば!」
「ご、ごめん…。力加減が掴めなくって…」
ブワッと舞い上がった紅白縞の裾から、余計な何かが見えてしまった気がします。当然リテイク、撮影データは会長さんが速攻で消去。その間に判明した事実は、キャプテンが身体を拭く暇もなく着替えをさせられたせいで紅白縞が水を吸い、重たくなっていたということ。それでは絶対、はためきません。
「だから言ったんだよ、ぶっつけ本番じゃダメなんだって!」
台本を書け、と主張している会長さんの隣でキャプテンも。
「身体を拭いてから履き替えないと、と申し上げようとしたのですが…」
全く聞いて頂けませんでした、というキャプテンの訴えも、会長さんの提言もソルジャーの耳にはまるで入らず。
「フレッシュさと閃きが命なんだよ、こういうのはね。まだ風はあるし、乾いたパンツで撮り直しだ。ぶるぅが沢山買っておいてくれたし、紅白縞は山ほどあるんだからさ」
「かみお~ん♪ 濡れたヤツはお洗濯して干しておこうね!」
手洗いをして平たい場所に干すんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大真面目です。紅白縞を沢山買ったというのも、一日に洗って干せる枚数などを計算して考えた末のことだそうで…。
「あのね、夏はお日様が強すぎるから、日向だと色が褪せちゃうの! だけど陰干しできちんと乾かすためには時間がかかるし、沢山買っておくのが一番なの!」
「ありがとう、ぶるぅ。さあ、ハーレイ。今度はカッコよくキメていこうね」
ソルジャーに促されたキャプテンが海辺を歩かされ、海風にパタパタはためく紅白縞。あれが下着だと思わなければ、ダンディーなのかもしれません。会長さんの「カーット!」の声が勢いよく響き、撮れた映像を確認したソルジャーも納得の出来で、ホッと胸を撫で下ろす私たち。こんな調子で日が過ぎて…。
「あれっ? 今日もあっちに人がいるねえ」
何かあるのかな、とソルジャーの赤い瞳が向けられた先には松林。私たちのいるビーチからは相当な距離があるのですけど、三日ほど前から人影がチラチラ見えるのです。時々キラッと光の反射も。
「…バードウォッチングかと思っていたけど、それっぽい鳥は見当たらないね」
なんだろう、と会長さんも不思議そう。松林の中にいるのは主に女性で、双眼鏡を持っているらしいのですが…。光の反射は双眼鏡のレンズだとか。
「毎日となると気になってくる。ちょっと失礼しようかな」
普通の人の心を読むのは反則だけど、と口にした会長さんが一瞬の後にプッと吹き出し、堪え切れずに笑い始めてクスクス笑いが止まらなくなって…。
「お、お、お……」
「「「お?」」」
なんのこっちゃ、と顔を見合わせた私たちを他所に、会長さんはレジャーシートに突っ伏して。
「お、追っかけ…。さ、サイン希望の追っかけ集団……」
「「「はぁ?」」」
「プロと間違えられてるんだよ、毎日撮影してるから! あ、あわよくばサインを希望…」
チャンスを狙って待っているのだ、と涙を流して笑い続ける会長さんと、松林の中の人影と。ようやく意味が繋がりました。何かのはずみで撮影に気付いた地元の人が毎日見に来ているのです。此処がプライベートビーチでなければ、キャプテンはとっくの昔に取り囲まれていたでしょう。
「そうなんだ…。ハーレイの追っかけ集団ねえ…」
ソルジャーの瞳が悪戯っぽく煌めいて。
「じゃあさ、撮影が終わった時にさ、記念にサインもいいかもね? いつかブレイクする予定です、って」
サインしに行ってあげればいいよ、と笑うソルジャーは本気でした。松林の中のギャラリーは地味に増え続け、CM撮影が完了した日にキャプテンは紅白縞だけを纏った姿でソルジャーと一緒にゴムボートに乗り、キース君たち撮影スタッフが海へと漕ぎ出して松林に…。
「やってる、やってる。サインしてるよ、色紙とかに」
ブレイクも何も、と爆笑している会長さん。私たちや教頭先生に松林の中の光景は見えませんけど、キャプテンは色紙やTシャツ、バッグなんかにサインをしているみたいです。おまけに紅白縞一丁で記念撮影にツーショットにと…。
「だけど…。あんなことして大丈夫なの?」
別の世界から来てるのに、とスウェナちゃんが訊けば、会長さんは。
「その辺のことはブルーはプロだよ。ウィリアム・ハーレイとサインしてても、こっちのハーレイと同じ顔でも、気付かれないように情報を攪乱してるんだ。撮った写真のデータも同じさ。この世界よりも遙かに科学が進んだ世界で情報操作をしてきてるだけに、それくらいは朝飯前ってね」
なるほど、そういう理屈ですか! サインを貰った人たちの方はいつかキャプテンがブレイクしたらお宝になる、と喜びますし、ソルジャーだってパンツ一丁のキャプテンであっても自慢のパートナーを見せびらかしたくってたまらないわけで…。
「そうなんだよねえ、ぼくには全く理解不能さ。いくら追っかけがついてきたってフィシスにサインなんかさせないけどなあ…」
ぼくは一人占めするタイプ、と会長さんが呟く隣でスウェナちゃんと私は追っかけ魂の凄さについて語り合っていました。超絶美形のソルジャーがいるのに、サインや写真をねだられるのはキャプテンだなんて…。げに恐るべし、有名人。男は顔ではないんですねえ…。
こうしてソルジャーが完成させた紅白縞のコマーシャル。仕上げは別荘ライフが終わった後で、ソルジャーが自分の世界でテロップなどを入れて編集して…。
「そっか、こんなのになったんだ?」
パンツのCMには見えないね、とジョミー君が感心しています。試写会だとかで会長さんのマンションに呼ばれた私たちが見せられたものは、「地球へ行こう」というコンセプトで作られた見事なCM。青い地球とキャプテンがいる海辺とが交互に重なり、ちゃんと壮大な音楽までが。
「いいだろう? 海は架空の映像だってことにするけど、これで絶大な人気を呼べるさ、紅白縞は。シャングリラと赤い石も組み込んであるし、男ならきっと履きたくなるって!」
来週からオンエアするんだよ、と自画自賛しまくるソルジャーは服飾部の人が困らないように紅白縞の製作ノウハウを仕入れに行ってきたそうです。よりにもよって青月印の紅白縞の会社まで…。
「ブレイクしたら、こっちのハーレイにもシャングリラ製の紅白縞を届けようかな? ブルーが五枚贈ってるんだし、ぼくはドカンと五十枚! それだけあったら暫く買わずに済むと思うよ」
喜ばれるよね、と言うソルジャーに会長さんが。
「どうかなあ? ハーレイのこだわりは青月印だって気がするけれど…。まあ、それ以前の問題として、ブレイクしなけりゃ作れないだろ、五十枚なんて」
絶対無理に決まってる、と笑い飛ばした会長さんが泣きそうな顔でソルジャーに向かって土下座したのは三週間後のことでした。
「ごめん、あの時は悪かった! 君が凄いのは認めるからさ、シャングリラ印をプレゼントするのは絶対にやめて欲しいんだ。そんなのをハーレイが貰ったら…」
「いいじゃないか、究極の勝負パンツな紅白縞だよ? これを履かなきゃ男じゃない、って人気爆発のヤツなんだ。しかも流行らせたファッションリーダーはぼくと結婚しているんだし、君との結婚を夢見て履くなら青月印よりもシャングリラ印!」
それにコマーシャルの製作過程は君のハーレイも見学してた、と勝ち誇った顔で仁王立ちするソルジャーの後ろには紅白縞が五十枚詰まった立派な箱がドカンと鎮座しています。教頭先生の家にシャングリラ印の紅白縞が五十枚届くか、会長さんが阻止するか。
「…どうなるんだろうな?」
心配そうに声を潜めるキース君の隣で、シロエ君が。
「なんとかなるんじゃないですか? 最悪、ぶるぅの料理かおやつで懐柔すればいいんです。向こう十年ほど毎日ケーキを贈る羽目になるかもしれませんけど」
「「「………」」」
それは如何にもありそうだ、と首を振り振り、私たちは会長さんの涙の土下座を見守ることに。…ダサイとばかり思い込んでいた紅白縞はソルジャーのシャングリラで今や品切れするほどの大人気。キャプテンもファッションリーダーとして男を上げたらしいです。世の中ホントに分からないもの、紅白縞の未来に乾杯!
流行と仕掛け・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
教頭先生のトレードマークな紅白縞。所変われば品変わる……といった所でしょうか?
4月、5月と月2更新が続きましたが、6月は月イチ更新です。
来月は 「第3月曜」 6月17日の更新となります、よろしくお願いいたします。
毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にどうぞv
番外編をしのぐ勢いで強烈なネタが炸裂中……かもしれません(笑)
船長と遊べる 『ウィリアム君のお部屋』 の見本画像を下に載せてみました。
よろしかったら、こちらにもいらして下さいね。
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、今月は菖蒲の名所へお出掛け。またしてもソルジャー夫妻が乱入で…。←『シャングリラ学園生徒会室』は、こちらからv
『ウィリアム君のお部屋』 も、上記から。生徒会室の中にリンクがあります。
見本画像はこちら↓
船長に餌(ラム酒)をあげたり、撫でたり出来るゲームです。5分間隔で遊べます。
元のゲームのプログラムをしっかり改造済み。ご訪問が無い日もポイントは下がりません。
のんびり遊んでやって下さい、キャプテンたるもの、辛抱強くてなんぼです。
サーチ登録してない強みで公式絵を使用しております。通報は御勘弁願います。
1時間刻みで変わる絵柄が24枚、お世話の内容に対応した絵もございます。
「外に出す」と5分で戻ってきますが、空き部屋を覗くとほんのりハレブル風味だとか…。
生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv