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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

公認カップル

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






シャングリラ学園には今日も平和な時間がゆったり流れていました。学園祭の準備なんかも始まりつつある秋ですけれど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を公開するのが恒例になった私たちには慌ただしさなど無関係。ぶっつけ本番でも行けるというのが自慢です。
「今年も喫茶で決まりだよね?」
ジョミー君の問いに会長さんが頷いて。
「売り物はそこじゃないからねえ…。サイオニック・ドリームが売りだし、喫茶店とまで凝らなくっても缶ジュースだって無問題だよ」
「おい、ぼったくりな観光地価格は感心せんぞ」
キース君が突っ込みましたが、会長さんは。
「あれは最初にやった年からの伝統なんだよ? 遠隔地への旅を売りにするなら観光地価格はお約束さ。それが嫌なら仮装系だね、これなら均一価格でいける」
「まあな。あれはあれで人気が高いようだし、今年もアンケートで決める事にするか?」
仮装系とはサイオニック・ドリームを初めて売り出した年の後夜祭から派生したもの。サイオニック・ドリームで好みの衣装を体験出来るというヤツです。椅子に座って飲み物やカップ麺を食べる間だけしか着られない上、写真撮影も不可能なのに大人気で…。
「アンケートで行くか、儲け重視で世界の旅か。…今年はどっちにしようかなあ…」
急ぐわけではないからね、と会長さんが大きく伸びをした時です。ユラリと部屋の空間が揺れて、紫のマントが翻り。
「こんにちは。今日も暇そうにしているねえ」
お邪魔するよ、と現れたのはソルジャーでした。勝手知ったる様子で空いた席に腰掛け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に紅茶を注文しています。
「美味しそうだね、栗のミルフィーユ! やっぱり、おやつはこうでなくっちゃ」
「…要するに食べに来たってわけだね?」
またか、と顔を顰める会長さんに、ソルジャーは早速ミルフィーユにフォークを入れながら。
「だってさ、食べたくなるじゃないか。それともアレかい、別の用事の方が良かった? 君が嫌いな猥談とかさ」
「退場!」
会長さんがレッドカードを突き付けましたが、ソルジャーの方は余裕の笑み。



「まだ何も話していないんだけど? それに生憎と猥談のネタも無くってねえ…。ほら、ぼくとハーレイは円満だから特に刺激も求めていないし」
「その先、禁止!」
「だから無いんだってば、持ちネタが。…どうしてもって言うんだったら昨夜の話をしてもいいけど、ホントにいつものコースだよ? それでも幸せなんだけどね」
刺激が無くてもそれが幸せ、とソルジャーは惚気モードに入っています。かつてのドタバタっぷりが嘘だったかのように、結婚してからのソルジャーとキャプテンは絵に描いたようなバカップル。二人が揃うと御馳走様としか言いようのない光景になるのはお約束で。
「してみるものだね、結婚ってさ。…あのハーレイが日々、頑張ってくれるんだ。一生満足させてみせます、って誓った言葉はダテじゃなかった。だから君にもお勧めしたいな、結婚を」
「誰と!?」
「決まってるじゃないか、ハーレイだよ」
「お断りだってば!」
絶対嫌だ、と嫌悪感も露わな会長さん。これもよくあるパターンでした。ソルジャーは自分が幸せなだけに、会長さんも教頭先生と結婚すれば幸せになれると煽るのです。もう何度目の勧誘なんだか、と私たちは横目で見ながら紅茶やコーヒーを啜っていたのですけど。
「…うーん…。ハーレイの何処がダメなんだろうねえ、サムは大事にしているくせに」
「「「は?」」」
思わぬ言葉にサム君を含めた全員が『?』マークを浮かべる中で、ソルジャーは。
「サムだよ、ブルーの愛弟子にして公認カップル! ハーレイとの差は何なんだろう?」
顔が好みとか、性格とか…、と不思議そうに首を傾げるソルジャー。そう、会長さんとサム君は今も公認カップルなのです。朝のお勤めをデート代わりに付き合い続けて長いですよね…。



公認カップルが誕生したのは私たちが特別生になった年の春。ソルジャーと出会う前のことです。けれどソルジャーは公認カップル誕生に至るまでの事情をしっかりすっかり把握していて。
「…半ばブルーの冗談にせよ、公認カップルを名乗っていられる所がね…。サムがブルーに気に入られた理由は何処にあるのかなぁ? 頼りがいならハーレイの方が断然、上だと思うんだけど」
「頼りがいだって? ハーレイの何処が!」
あんな妄想爆発男、と会長さんはバッサリ切り捨てましたが、ソルジャーは。
「えっ、頼りがいはあるだろう? ノルディとは比較にならないけれど、ちゃんと大人で稼いでる。今までに君に貢いだ金額、サムには工面出来ないよね。…そうだろ、サム?」
「えーっと…。俺の全財産をはたいたとしても……多分、食事が一回くらいじゃねえのかな」
みんなで打ち上げに出掛ける時の、とサム君は真面目に答えています。ソルジャーは満足そうに頷き、微笑んで。
「ほらね、ハーレイの方が甲斐性がある。それとも財力と言い換えようか? 君を養う力があるのはハーレイの方だ。なのにどうしてサムが優遇されるわけ?」
「養う以前に何も想定してないからだよ!」
結婚だとか婚約だとか、と返したのは会長さんでした。
「サムは単純にぼくが好きだってだけで、ただそれだけ。結婚なんか夢見ちゃいないし、その先のことは更に夢見ていないわけ。…そもそも夢見ることもないしね」
「ああ、そうか。万年十八歳未満お断りってヤツだったっけ…。結婚生活がどうこう以前にサムには想像もつかない世界なわけだ。もしかして、そこがポイント高かったりする?」
「…まあね。害が無いのはいいことだよ」
安心してお付き合い出来るから、と会長さんがサム君を見詰めればサム君は頬を赤らめています。私たちの前では公認カップルの話題は滅多に出て来ませんから、照れるサム君を見るのは久しぶりかも…。



「なるほど、君の好みは草食系ってヤツなんだ? この言葉もとっくに死語みたいだけど…。要するにガッつく男は駄目、と。…でもさ、それだと永遠に結婚できないよ?」
寂しい独身人生だ、と溜息をつくソルジャーに会長さんは。
「前から何度も言ってるだろう! 結婚するならフィシスとするさ。だけど女神は結婚なんて俗なことには向いてないんだ。生活感が漂う女神はアウト! 今のまんまが最高なんだよ」
「そりゃあ君にはぶるぅもいるし、寂しくはないのかもしれないけれど…。ぼくのお勧めは結婚なのに、する気が無いのは悲しいねえ…。おまけにハーレイは選択肢にも入っていないだなんて」
守られてる感じがいいんだけどな、と零すソルジャー。
「結婚相手がフィシスだったら、守るのは君の方だろう? そうじゃなくって守られる生活! 自分の方が力は上でも、こう……守ってやりたい、守りたい、って思ってくれる人と暮らすというのは癒されるんだ」
「君の好みを押し付けないで欲しいね、ぼくはこれでも高僧だよ? 他人に癒しを求めるようでは僧侶失格と言うべきか…。とにかくハーレイは必要無いのさ、財布以外の意味ではね。あ、それと楽しく遊べるオモチャと」
その二つがあれば充分だ、と会長さんはキッパリと。教頭先生が会長さんの財布とオモチャに過ぎないことは分かってましたが、改めて口にされると気の毒な感じがググンとアップ。ソルジャーもフウと吐息をついて。
「…財布とオモチャねえ…。同じオモチャでも夜のオモチャならマシだったのに」
「退場!!」
レッドカードを持ち出す会長さんにソルジャーは肩を竦めながら。
「分かってるってば、君にはそっちの趣味が全く無いっていうのはさ。…だけどサムとはどうだろう? 少しは進展させてみようとか、そういう発想も出てこないわけ?」
「進展って…何さ?」
「ん? 朝のお勤めがデート代わりだって聞いているから、その辺をもっと普通の方向に修正するとか! デートもけっこう楽しいものだよ」
この間も夜景を見に来てたんだ、とソルジャーが語り始めたのはキャプテンとのデートの話でした。エロドクターから貰ったお金で私たちの世界のホテルで食事し、夜景が綺麗な展望台で二人で過ごしていたそうで…。
「他にもカップルが何組か居たね。…いきなり夜景はハードル高いし、とりあえず二人で公園とかから始めてみたら? 朝のお勤めがデートじゃねえ…」
夢もロマンも無いじゃないか、と言われてみればその通りかも。サム君が喜んで通ってますから朝のデートだと思ってましたが、普通のデートじゃないですよねえ?



朝のお勤めはデートではない、と異を唱えたソルジャーは公認カップルの仲をググッと進展させる気満々。曰く、進展させても結婚生活に繋がらない以上、実害は無いのでオッケーだとか。
「でもってサムとの仲が少しずつ進展していったらさ、ブルーも物足りなさを感じてくるかも…。ここでサヨナラじゃ名残惜しいと思っていたって、サムだとホテルに誘ってくれない! そこでハーレイの出番になるわけ」
「なんでハーレイ!?」
会長さんの悲鳴にソルジャーはニッコリ笑ってみせて。
「そりゃあ…。寂しくなった君を広い心でドッシリ受け止め、慰める役にはピッタリだろう? そういうことを繰り返す内に、君の心もハーレイの方に傾いていくと思うんだよね。そしていずれは結婚、と」
「無理すぎるってば!」
有り得ないし、と会長さんはテーブルを叩いて抗議しましたが、ソルジャーの方は馬耳東風。
「うん、我ながら素敵な案だという気がしてきた。ブルーも認めるサムとの仲を後押ししてれば、今の歪んだ構図が解消! いくらこっちのハーレイがヘタレだとしても、ブルーと結婚してしまったら努力を惜しまないのは間違いないよ」
ぼくのハーレイもそうだったし、とソルジャーは懐かしそうな顔。
「何度も家出して、夜の生活に効きそうな薬を色々飲ませて…。それでもヘタレが直らなかったのに、結婚してみたらヘタレるどころか正反対! きっと、こっちのハーレイだって似たようなものだと思うんだ。結婚生活には向かないサムを踏み台にしてさ、ハーレイとの結婚に踏み切ってみれば?」
「ちょ、そんな…! そもそも無茶だし、第一、サムの気持ちはどうなるのさ!」
踏み台だなんて、と会長さんが反対する隣でサム君が。
「…俺は踏み台でも構わねえかな…」
「「「えっ?」」」
あまりにも自虐的すぎるだろう、と誰もが耳を疑ったのに、サム君は人の好い笑みを浮かべると。



「俺さ、ブルーが幸せそうに笑ってるのを見るのが好きなんだ。隣にいるのが俺じゃなくても気にならないし、教頭先生と結婚するならそれでもいいって思えるもんな」
「おい、サム、落ち着け!」
話をちゃんと聞いていたか、と割って入ったのはキース君。
「お前は踏み台にされるんだぞ? おまけにブルーは教頭先生と結婚する気は全く無いんだし、踏み台以前の問題として振り回されるだけだと思うが」
「んー…。朝のお勤めでも構わねえんだけど、普通のデートってヤツもいいかもなぁ…って。でも、ブルーがその気になってくれなきゃダメなんだけどな」
元からダメに決まってるよな、とサム君は頭を掻いています。
「ごめん、ブルー。今までどおりに朝のお勤めで行くのがいいよな、ブルーだってさ。俺もその方が気楽でいいし…。デートなんてコースも分からねえから」
「確かにサムには似合わないよね」
身も蓋も無いことを言ってのけたのはジョミー君でした。
「ブルーはデートのエキスパートだし、そのブルーをデートに連れ出すなんてさ、きっと大恥かくだけだって! 教頭先生の方がずっとデートに向いてる筈だよ」
「そうですよね、データ集めにも励んでおられるでしょうし」
財力だってありますよ、とシロエ君が相槌を打てば、マツカ君も。
「サムには気の毒ですけれど…。ぼくも教頭先生の方がデート向きだと思います」
「うへえ…。みんな正直に言ってくれるよなあ…」
でも本当のことだよな、とサム君が苦笑し、笑い転げる私たち。サム君は踏み台になれるほどの器ではなく、それだけの欲も無さそうです。言い出しっぺのソルジャーは名案だと決めてかかってましたけれども、この話、見事にお流れですよ~。



会長さんと公認カップルを名乗るサム君を踏み台にして、教頭先生との仲を発展させようというのがソルジャーの案。ところが肝心のサム君は会長さんも認める無害さもあって、踏み台になる前に退場しようとしています。会長さんはサム君にウインクすると。
「ありがとう、サム。やっぱりサムは優しいね。…その気遣いがハーレイにもあれば、結婚云々って話はともかく、毟ったりとかオモチャにしたりとかはしなかったかも…」
「え? 俺は別に教頭先生と張り合うつもりは…。甲斐性もねえし」
踏み台にだってなれねえもんな、とサム君が照れ笑いした所へ。
「だったら、下僕なコースで踏み台!!」
響き渡ったのはソルジャーの声。
「「「下僕?」」」
なんですか、下僕なコースというのは? サム君も会長さんもキョトンとしてますし、私たちだって話が全く見えません。いったい何処から下僕なんて言葉が出るんでしょう? けれどソルジャーは得意げな顔で。
「下僕と言ったら下僕コースさ、甲斐性なしが通る道! サムには財力も無ければブルーをデートに引っ張っていくだけの甲斐性とかも無いんだろう? それって似てるよ、誰かにね」
「「「…誰に?」」」
「ぼくのハーレイ!」
ソルジャーは悪びれもせずに言い放ちました。
「結婚する前のハーレイがどんな風だったか覚えてる? ぼくに家出をされては土下座で、ヘタレと詰られては土下座三昧。でもって全てはぼくの言いなり、あれが下僕で無ければ何だと?」
「うーん、確かに…」
君の扱い方は酷かったよね、と会長さんが遠い目をしています。かつてのソルジャーは会長さんが教頭先生を酷い目に遭わせるのに負けず劣らず、キャプテンに無茶な要求をしては困らせまくって、我儘と文句の言い放題で…。



「思い出してくれた? 甲斐性が無ければ下僕でカバー! サムもひたすらブルーの言いなり、一所懸命にお世話してればブルーとの仲が進展するかもしれないよ」
「サムが下僕ねえ…」
何かが違うと思うけど、と会長さんは呟きましたが、ソルジャーの方は譲りません。デートで進展が望めないなら下僕あるのみという方針で…。
「騙されたと思って下僕コースでどうかな、サム? 踏み台になるのはいいんだろう?」
「そりゃそうだけど…。ブルーに迷惑は掛けられねえし…」
「下僕は迷惑を掛けないよ? ブルーに従うだけなんだからさ」
ここは男らしく頑張りたまえ、と主張し続けているソルジャー。とはいえ、いくら下僕なコースといえども、会長さんの方にその気が無ければ無理な注文というヤツです。下僕コースもお流れになるに決まってる、と私たちは思ったのですが…。
「仕方ない、下僕コースで行こう」
「「「えっ!?」」」
会長さんが出した答えに目が点になる私たち。…下僕コースと言ったんですか、会長さん? まさかサム君を自分の下僕に…?
「このままブルーを放っておいたら何を言い出すか分からない。ぼくとハーレイをくっつけようと実力行使に出られる前に、自主的に…ね。要はサムとの仲が進展するかどうかだろう? そうだよね、ブルー?」
「う、うん…。まあ、そうだけど?」
「だったら下僕コースをお試し期間で一週間! それで全く進展ゼロなら君の企画は白紙撤回ってことにしないかい? もちろん進展しちゃった場合は自然に任せるということで」
「いいね、それ。で、サムの意見は?」
ソルジャーに尋ねられたサム君は迷いもせずに。
「下僕コースで構わねえぜ。ブルーに従うだけだもんな」
楽しそうだ、と明るく笑うサム君を誰も引き止めはしませんでした。下僕コースの内容までは分かりませんけど、ソルジャーが一歩も譲らない今、下手に口出しして縺れるよりかは犠牲者一名の方がマシですもんねえ…。



公認カップルの仲を進展させるという企画を押し通したソルジャーは、栗のミルフィーユの残りをお土産に貰って自分の世界に帰りました。さて、これからが大変です。ソルジャーの得意な技は覗き見。会長さんが下僕コースを実行するかどうか、監視するのは確実で…。
「あんた、これからどうする気なんだ!」
下僕コースなんて、とキース君が怒鳴ると会長さんは。
「ああ、大体は決めてるよ。…サムは今日から住み込みだ」
「「「住み込み?」」」
「そう、泊まり込みとは意味合いが違う。ぼくの家に同居しながら家事一切をして貰おうかな」
「「「えぇぇっ!?」」」
それはあまりに酷すぎないか、と私たちが息を飲めば「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ ぼくもお手伝いするから大丈夫だよね!」
「ダメだよ、ぶるぅ」
監督するのとチェックだけ、と会長さんが鋭く注意。
「ぶるぅも見たことあるだろう? 璃慕恩院の偉いお坊さんたちのお弟子さんは何をしてたっけ?」
「んーと、んーとね…。お部屋の掃除とお世話係?」
「よくできました。それも修行になってるんだよ、サムには同じ事をやらせるわけさ。だから修行の邪魔をしちゃダメだ」
「「「修行?」」」
下僕コースは修行でしたか! それなら住み込みも当然です。朝のお勤めコースが思い切りバージョンアップしちゃったわけで、一気にお泊まりなんですけども…。
「ぼくの家で一緒に暮らすわけだし、おまけに下僕だ。ブルーに文句は言わせない。サムの修行にも役立つコースで一石二鳥というものだろう? どうかな、サム?」
「お、おう! 一週間くらいの我慢が出来なきゃ本物の修行って出来ねえよな?」
「それはもう。住職の資格を貰うどころか、その前の段階で挫折だろうね。そういう話はキースが詳しい。どう思う、キース?」
話を振られたキース君は。
「一週間の侍者体験か…。修行より遙かにマシだろうな。師僧と一緒に暮らすわけだし、住環境も食生活も修行僧とは比較にならん。修行中の生活ってヤツは粗末な部屋と粗食が大前提だ」
「そうなんだよね。つまりサムは恵まれた環境で修行が出来るわけ。まずは早速、今夜の夕食作りからお願いするよ」
その前に一度家に帰って住み込み用の荷物をね…、と会長さんは笑っています。必要最低限の衣服と持ち物、それがサム君に許された荷物。いきなり始まる修行ライフにはサム君の御両親もビックリでしょうが、住み込む先はソルジャーの家。それに会長さんはサム君の師僧でもありますし…。
「下僕コースって、修行だったんだ…」
ぼくにはとても耐えられないけど、とジョミー君が呆れる横でサム君は鼻歌交じりに荷物リストを作成中。今日から一週間も公認カップルな会長さんと同居ですから、そりゃ鼻歌も出ますってば…。



会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に連れられて住み込みな下僕コースに飛び込んで行った勇者、サム君。どうなったやら、と翌朝こわごわ登校してみれば顔色も良くて御機嫌で。
「おう、おはよう! なんだよ、俺の顔に何かついてるか?」
「い、いや…。今朝は何時に起きたんだ?」
キース君の質問にサム君は威勢よく。
「三時半! ブルーがさ、璃慕恩院の一番偉いお坊さんの弟子はそのくらいの時間に起きるモンだって言うからさ…。でもって四時に阿弥陀様にお茶とかをお供えしてからブルーを起こして」
役得、役得…と嬉しそうなサム君は会長さんの寝顔を見られて幸せ一杯らしいです。おまけに着替えも手伝ったのだそうで、教頭先生が耳にしたなら涎が出そうな役どころ。あまつさえ…。
「「「お風呂!?」」」
放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に出掛けた私たちを待っていたのは会長さんの衝撃的な発言でした。
「そうだよ、弟子の仕事は着替えの手伝いだけじゃない。お風呂で師僧の背中を流すのも大事な修行の一つでねえ…。ついでだからシャンプーとリンスもお願いしちゃった」
髪の毛のある坊主の特権、と銀色の髪に指を絡める会長さんの隣でサム君が真っ赤になっています。住み込みの修行なんて機会でも無ければ、会長さんの背中はともかく髪の毛は洗えないでしょう。朝から役得、役得と上機嫌だった理由が分かりました。下僕コースは美味しすぎです。
「でね、朝御飯もぶるぅの指導で美味しいオムレツを作ってくれたし、サムはとっても使えるよ。昨日の夕食も頑張ってたさ。…シチュー鍋の底が少し焦げたけど」
「かみお~ん♪ お掃除も一生懸命だったよ! 学校へ来る前に綺麗にお掃除したもんね♪」
「掃除機を使わせて貰えたしなあ…」
ホントは和室は箒だってな、と言うサム君は一日にして下僕コースに馴染んでいました。今夜は会長さんの肩や腰を揉んだりするのだとかで、もう見るからに心浮き立つといった風情です。ソルジャー御推奨の下僕コースはサム君にとっては旨味たっぷり、特典たっぷり。
「ふふ、サムでないとこうはいかないね。住み込みの弟子がジョミーだったら文句たらたらで使えないだろうし、キースだったら使えはしても面白みが無い」
「あんた、そういう基準で弟子とか侍者を選ぶのか!?」
噛み付いたキース君に、会長さんは。
「まさか。ただ、今回はブルーが色々とうるさかったし、実験的にやってみただけ。…ところが、これがなかなか癖になる。ぶるぅも一緒に自分の家で上げ膳据え膳、下へも置かぬおもてなしっていうのは気分がいいよね」
期間延長もいいかもしれない、と会長さんが差し出したカップにサム君が恭しく紅茶のお代わりを注いで砂糖を入れて…。御馳走様です、と言いたい気分を私たちはグッと飲み込みました。会長さんとサム君の仲が進展するとは思えませんけど、仲がいいことは疑いようのない事実です…。



下僕なサム君と会長さんの同居生活は順調に続き、ソルジャーとの約束の期限の一週間目を迎える頃には見事な師弟関係が。会長さんはサム君をこのまま住み込ませたいという意向でしたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が寂しそうに。
「えーと、えっとね…。サムがいるのは楽しいんだけど、ぼくのお仕事、なくなっちゃったの…。お洗濯もアイロンかけもサムがしちゃうし、このお部屋でしか何もお料理出来ないの!」
つまんないよう、と嘆く「そるじゃぁ・ぶるぅ」は家事万能なだけあって家事が趣味です。会長さんの広い家を隈なく掃除し、美味しい料理やお菓子なんかを作りまくるのが生甲斐で…。
「そこなんだよね…。ぶるぅがそろそろ限界なんだ。だからと言ってサムを家事から解放したら弟子入りという意味が無くなる。ちょっと困った状況なんだよ」
どうしようかな…、と会長さんが腕組みをして考え込んでいた時です。
「だったら、そのまま同居しちゃえば?」
「「「!!!」」」
前触れもなく出現したソルジャーがソファにストンと腰を下ろして。
「サムとの仲は同居を続けたいと思う程度に進展したってわけだろう? この先どうなるか分からないけど、一緒に暮らして家事だけ抜きで下僕コースを続けていれば更に進展する…かもしれない。シャンプーとリンスは王道なんだよ」
「「「は?」」」
「だからバスタイムの王道だってば、よくハーレイに洗わせてるんだ。気持ちよく洗って貰っている内に気分が乗ってさ、バスタブの中で第二ラウンド突入ってことも多いよね」
「ちょ、ちょっと…」
止めに入った会長さんをサラッと無視したソルジャーは。



「ブルーもその内にそういう気分になるんじゃないかな? シャンプーとリンスだけでは物足りないって感じるようになってきたなら大成功! 物足りなさを埋められるのはサムじゃなくってハーレイだしねえ」
「そっちの趣味は無いってば!」
「少しずつ目覚めてくると思うよ、ぼくとそっくりなんだから。…サム、今の調子で頑張りたまえ。いずれ最高に幸せそうなブルーの笑顔が見られるさ。ハーレイの所へ嫁ぐ時にね」
「お断りだよ!」
どうしてそういうことになるのだ、と会長さんはテーブルに拳を叩き付けましたが、ソルジャーは我関せずといった風で。
「いやもう、こういう事っていうのはデリケートでねえ…。ある日突然、恋に目覚めることもある。それに身体は正直なんだよ、サムのシャンプーが気持ちいいなら素質は充分あると思うな。…大丈夫だってば、君の場合は目覚めちゃってもハーレイがいるし」
振り向いてくれない相手だったら最悪だけど、と続けるソルジャーに会長さんの地を這うような声が。
「誰が素質があるんだって? シャンプーが気持ちいいのは普通のことだと思うんだけど?」
美容院でも気分がいいし、と会長さんは柳眉を吊り上げて。
「せっかく人が気持ちよく弟子を住まわせていれば、横から出てきてゴチャゴチャと…。君が言い出した下僕コースは一週間! 進展ゼロなら今回の企画は無かった事になる筈だよね?」
「進展ゼロじゃないだろう! サムと一緒に住みたい気持ちは、その方面に芽が出た証拠で!」
「それを言いがかりと言うんだよ! 見込みのある弟子を手元に置いて育てたくなるのは自然な感情! 現にぼくだって璃慕恩院に初めて入門を願い出た時、ぜひ老師の弟子にって言われたんだ!」
「そうだったんだ? じゃあ、もしかして、その老師とかいう人と…」
一緒にお風呂とかそれ以上とか、と興味津々で問いかけたソルジャーの顔面にヒットしたものは…。



「退場!!!」
よくも老師を侮辱したな、とレッドカードをソルジャーに叩き付けた会長さんは青いサイオンを背負っていました。これは本気で怒っています。
「老師こそ無縁でいらっしゃるんだよ、そういう下世話な世界とは! だけど君には言うだけ無駄だし、理解するとも思えない。…老師の名誉とぼくの平穏な日々のためにも、サムの住み込みは今日で終わりだ。残念だけれど潮時ってヤツ。…分かったね、サム?」
「はい。…一週間、御指導ありがとうございました!」
ソファから立ち上がり、絨毯に平伏して会長さんに御礼を述べるサム君は何処から見ても弟子でした。役得な日々に御機嫌だったサム君とは別人みたいな印象です。そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」もホッと息をついて。
「よかったぁ~! これで今日から普通に戻るよ、お料理出来るし、お皿も沢山洗えるし! ありがとう、ブルー」
ピョコンと頭を下げた相手は会長さんではなくてソルジャーの方。
「えっ、なんで? お礼は君のブルーの方に…」
「ううん、ブルーが来てくれたからサムはお家に帰るんだよ! だってね、ブルー、朝からサムとお話してたの、今年いっぱい住み込まないか…って。だから御礼はブルーになの!」
懸命に御礼を言う「そるじゃぁ・ぶるぅ」の無邪気な瞳にソルジャーは言葉を失っています。会長さんはレッドカードを突き付けてますし、これには流石のソルジャーも…。
「わ、分かったよ! 良かったね、ぶるぅ。ブルーと末永くお幸せに…としか言えないかな?」
本当は其処にハーレイを混ぜて欲しいんだけど…、と言い残して消えた背中に向かって投げ付けられて、吸い込まれていったレッドカード。あちらの世界に届いたかどうかは謎ですが…。
「やれやれ…。もう少しサムを仕込もうかな、と思っていたけど、仕方ないねえ…。じゃあ、明日からは今までどおりに朝のお勤めコースってことで」
仏の道を目指して頑張ろう、とサム君を激励している会長さん。公認カップルの健全な日々が再びです。教頭先生が紛れ込む余地は何処にも無いと思いますけど、もしかしていつかはそんな日が…? 来ないといいなと切に祈りつつ、サム君の朝の仏道修行は今後も応援していきますよ~!




                  公認カップル・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 殆ど忘れられているであろう公認カップルを書いてみましたが、如何でしたか?
 来月は 「第3月曜」 更新ですと、今回の更新から1ヵ月以上経ってしまいます。
 ですから8月も 「第1月曜」 にオマケ更新をして、月2更新の予定です。
 次回は 「第1月曜」 8月5日の更新となります、よろしくお願いいたします。 
 
 そして今月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 7月28日に 『ハレブル別館』 の方に短編をUPする予定です。
 生きて青い地球に辿り着く前のブルーとハーレイのお話、読んで頂けると嬉しいです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv



毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、7月は大荒れの七夕を経ての夏休みです。さて、どうなる…?
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv








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