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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

花咲く特注品

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






シャングリラ学園は新年を迎えて様々な行事が目白押し。新春恒例のお雑煮大食い大会に闇鍋、水中かるた大会と寸劇などなど、騒ぎまくって気付けば一月後半です。会長さんが入試で売り歩く合格グッズも着々と揃い…。
「ふふ、今年もチョロイものだったよねえ」
これでバッチリ、と会長さんが試験問題のコピーをチェックしています。場所はもちろん、毎度の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。教頭先生の耳掃除をする代わりに問題ゲットというイベントに付き合わされるのも何度目でしょう? その隣には今年も見物しに現れたソルジャーが。
「相変わらずだよね、こっちの世界のハーレイは…。年に一度の耳かきサービスで満足だなんて、ホントに信じられないよ。おまけにシールドに入った見物人がゾロゾロいるのにも気が付かないし」
「気付くようならハーレイじゃないさ。柔道なんかをやってる割には鈍いんだ。…さて、これで入試の準備はオッケー! ここから先は丸投げってね」
会長さんは壁をすり抜けて生徒会室の方へ出てゆき、暫くしてから戻って来ました。書記のリオさんを呼んで試験問題のコピーを頼んだみたいです。ここまで来れば会長さんの仕事は入試当日の売り子のみ。私たちは未だに売り子にもなれないわけですが…。
「えっ、君たちに売り子かい? ダメダメ、まだまだ迫力不足。見た目がソレだし、これで絶対合格出来ますって保証できない感じなんだよ」
ただの一年生だろう、と言われてみればそのとおり。いくら特別生の生活が長いとはいえ、見た目には高校一年生です。受験生と1学年しか変わらないヒヨコな生徒に「合格しますよ」と囁かれても心は動かないでしょう。ましてやシロエ君なんかは、受験生と同学年な外見で…。



「そっかぁ、やっぱり無理があるよね…」
残念そうなジョミー君ですけど、会長さんは。
「実は一人だけ、使えそうな人材が混じってるんだ。ただ、扱いが難しくって」
「もしかして、ぼく?」
唯一のタイプ・ブルーだもんね、と顔を輝かせるジョミー君に「まさか」と返す会長さん。
「力に目覚めているならともかく、他に芸でもあるのかい? 朝のお勤めには全く来ないし、お経は忘れてばかりだし…。ここまで言ったら分かるかな? 使えそうなのはキースだよ」
「「「あー…」」」
それはそうかも、と納得してしまった私たち。元老寺の副住職でもあるキース君はシャングリラ学園の生徒をやりつつ、お葬式や法事をこなしています。檀家さんとのお付き合いもあり、人生経験が豊富なわけで。
「分かったかい? キースだけは少し毛色が違っているから、使えないこともない…かもしれない。でもね、本人が学園生活と坊主生活とにキッチリ線引きしている所が問題なんだ。シャングリラ学園の制服に袖を通したら、たちまち普通の高校生」
副住職としての迫力が出ない、と会長さんは零しました。
「だからと言って法衣を着せたら、托鉢か宗教の勧誘だしねえ…。とてもじゃないけど売り上げは期待出来ないさ」
「それは確かに逃げられますね…」
近寄りたくはないですよ、とシロエ君が苦笑しています。そういうわけで合格グッズ販売とは御縁が無いまま、私たちは過ごしてゆくことに…。
「ほらほら、そんなにガッカリしない! 入試が済んだら今年もアレだよ」
美味しいバレンタインデー、と会長さんが指を一本立てて。
「ハーレイの腕も随分上がった。ゼルの味にも負けないってね」
「うんうん、アレが楽しみなんだよ」
ぼくにもお裾分けをよろしく、とソルジャーがすかさず予約したのは教頭先生から会長さんへのバレンタインデーの贈り物でした。いえ、貢物だと言うべきか。ダメで元々、あわよくば。ホワイトデーのお返しを夢見る教頭先生、毎年、せっせと贈ってるんです…。



そんなこんなで入試も終わり、学校を挙げてのバレンタインデーが。チョコの贈答をしない生徒は礼法室で説教の上、反省文を提出という規則は今も変わりません。ジョミー君たちは友チョコ保険に毎年入っていますけれども、年々、人気は上昇中。貰えるチョコの数も増え…。
「今年もけっこう貰っちまったな…」
ぶるぅには全く敵わないが、とキース君。学園祭でサイオニック・ドリームを売るようになって以来、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーは注目の的になっていました。「個人的に化かされたい」生徒がメッセージを添えてチョコをプレゼントするのです。
「かみお~ん♪ いつかブルーに勝っちゃうかもね!」
「…まさに強敵現る、だよ。ぶるぅに負けたらシャングリラ・ジゴロ・ブルーも形無しだ」
もっと女性にアピールしないと、と危機感を募らせる会長さんの背後で空間がユラリと揺れて。
「負けたらハーレイに貰ってもらえば?」
こんにちは、と現れたソルジャーに、会長さんは。
「ハーレイにあげる義理は無い! ぼくが貰ったチョコなんだから! それにハーレイはチョコを貰っても困るだけだし!」
甘い物なんか食べないし、と眉を吊り上げる会長さんですが、ソルジャーはチッチッと指を左右に振ると。
「誰がチョコレートをあげろと言った? 貰ってもらえばいいと言ったのは君のこと! 女性に相手にされなくなったらハーレイに嫁げばいいじゃないか。結婚生活は素晴らしいよ。今日もね、バレンタインデーだからチョコを贈り合う約束で…」
「その先、禁止!」
アヤシイ話を口にするな、と即、釘を刺す会長さん。
「でないと遠慮なく追い出すからね? アレが届く前に」
「それは困るよ、予約したのに!」
アレを食べないとバレンタインデーが来た気がしない、とソルジャーにとっても年中行事な教頭先生からの贈り物。届くのは会長さんの自宅で、帰宅した頃合いを見計らって宅配便が来るのです。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋でワイワイ騒いでから、会長さんの家へと瞬間移動。



「えーっと…。そろそろ届く頃かな?」
会長さんがリビングの時計に視線をやると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「今日のメインはデザートだもんね! お料理は手抜きしていないけど、みんなデザートが楽しみでしょ?」
今日の夕食はポルチーニ茸のスープと白トリュフのパスタだよ、と告げられた所でチャイムの音が。玄関へ駆けて行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が抱えてきた荷物はリボンが掛かった箱でした。
「来たよ、ハーレイのザッハトルテ!」
たちまち上がる大歓声。最初は教頭先生から会長さんへのホワイトデーのお返しだったザッハトルテは、いつの間にやらバレンタインデーの貢物として定着していました。今やプロ級の仕上がりとなった品をみんなで食べるのがバレンタインデーの夕食の席で。
「はい、お待たせ~!」
ホイップクリームの準備完了、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がケーキ皿と飲み物などを載せたワゴンを押してくると、会長さんがザッハトルテ入りの箱を開け…。
「「「うわぁ…」」」
スゴイ、と誰もが見詰めています。教頭先生の手作りだとは思えないようなザッハトルテ。表面のチョコはツヤツヤで滑らか、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が切り分けるために銀のケーキプレートに移動させると更に見栄えが良くなって。
「うん、美味しい!」
来た甲斐があった、とソルジャーは御機嫌、私たちも重厚なチョコレートケーキとホイップクリームの絶妙なハーモニーに夢中になっていたのですけど。
「…貰ってばかりじゃ芸が無いかな、やっぱりさ」
「「「は?」」」
会長さんの言葉で顔を上げると、そこには悪戯を思い付いた時の楽しそうな笑みがありました。
「ハーレイも何かを期待しながら贈ってくるんだ、ここは素敵なお返しをしたい」
「あんた、返していないだろうが!」
毎年、貰いっぱなしだぞ、と指摘したキース君に、会長さんは肩を竦めて。
「そうなんだよねえ、これは単なる貢物だし…。チョコならお返しが必須だけどさ、ハーレイが要らないと言うから返していない」
「返されたら困るからでしょう?」
シロエ君の的を射た突っ込みに私たちはコクコク頷き、ソルジャーが。
「うんうん、ロクなお返しを貰えそうにないしね、君からは。…それでも贈ってくるのがハーレイだ。で、いいアイデアを思い付いたわけ? 是非、聞きたいな」
「…明日は土曜日だから、日を改める。今の君に話すと悲惨なことになりそうだから」
「ふうん?」
いかがわしいモノを贈るのかな、と興味津津なソルジャーでしたが、改めて明日に仕切り直しと言い切られると無理に食い下がりはしませんでした。キャプテンと過ごすバレンタインデーの夜が待っていますし、素直に帰って行きまして…。
「要は俺たちにも出直してこいと言うんだな?」
嫌な予感がするんだが、というキース君の言葉に、会長さんは微笑んだだけ。明日が思いっ切り怖いんですけど、断れる立場じゃないですよね…。



そして翌日。再び会長さんの家に集まり、熱々のボルシチの昼食を御馳走になっている間、延々と聞かされたのはソルジャーの猥談スレスレの惚気。バレンタインデーだっただけにキャプテンが頑張ったみたいです。会長さんが何度レッドカードを叩き付けても効果はゼロで。
「…日を改めて正解だったよ、普通にこういう調子じゃねえ…」
ドッと疲れた、と食後の紅茶を飲みながら嘆く会長さんに、ソルジャーが。
「ぼくが聞いたら悲惨な結果になるモノって何さ? 夜のグッズは贈るだけ無駄だろ、こっちのハーレイには使える機会も根性も無いし…。それともアレかな、贈って鼻血を出させるのかな?」
「鼻血と言うより笑い物かな」
「えっ? 笑い物ネタでぼくにどうしろと?」
そんなのでハーレイと盛り上がれるわけがない、とソルジャーは唇を尖らせましたが。
「話は最後まで聞きたまえ。…ぼくが贈ろうと思ったのは、これ」
カップを置いた会長さんがスッと両手を宙に差し出し、そこに広げて見せたのは…。
「「「!!?」」」
「大丈夫、これは新品だから」
ぶるぅが買いに行ってきた、と説明しつつテーブルの上に下ろされたソレは紅白縞のトランクス。新学期を迎える度に会長さんが教頭先生にプレゼントしている例のヤツです。
「それがどうして笑いのネタになるんだい? 下着をプレゼントするっていうのは、確かに燃えるシチュエーションだとは思うけれどさ」
だけど君の場合は年中行事、とソルジャーはガッカリした様子。こんなことなら特別休暇でハーレイと過ごすべきだったとか、ブツブツ言っていますけど…。
「気に入らないなら帰ったら? これからハーレイと採寸に行こうと思ってるのに」
「「「は?」」」
「聞こえなかった? オーダーメイドの下着をプレゼントするんだよ! キッチリ測ってぴったりフィットの紅白縞!」
げげっ。ぴったりフィットの紅白縞って、それじゃ採寸する箇所は…。
「そうさ、うんとデリケートな場所を色々、採寸することになるだろうねえ? でもって、こっちのハーレイで測ったデータは応用が効く。ブルーがその気になりさえすれば、オーダーメイドの下着ってヤツを」
「その話、乗った!」
オーダーメイドの下着とやらを是非作りたい、とソルジャーは拳を握り締めて。
「下着のサイズってヤツは大切なんだろ? なんと言っても大事な場所を保護するわけだし、ぴったりフィットの下着を着ければパワーアップも夢じゃないかも…。今でも充分満足だけれど、パワーアップしたら嬉しいよね」
「だろう? だから最後まで聞けって言ったのに」
「…でもさ、それの何処が笑い物なわけ? ぼくには美談としか思えないけど」
「あのハーレイが採寸に連れて行かれるんだよ? 採寸される過程を眺めて楽しむわけ。君たちはシールドで隠れていたまえ、指揮を取るのはぼくだしね」
それじゃ行こうか、と立ち上がった会長さんの姿に私たちは震え上がりましたが、もはや逃亡は不可能でした。女子にはモザイクをサービスだとか言ってますけど、なんでこういう展開に~!



リビングで休日の午後を満喫していた教頭先生。いきなり瞬間移動で現れた会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」にビックリ仰天、読んでいた本を落としてワタワタと。
「ど、どうした、ブルー? 何か用か?」
「昨日はザッハトルテをどうも。…いつも貰ってばかりじゃ悪いし、たまにはお返ししたくって」
「い、いや…。そういうつもりで贈ったわけでは…」
「だけど少しは期待しただろ?」
ねえ? と会長さんに手を握られて教頭先生は耳まで真っ赤に。会長さんはクスクスと笑い、その耳に唇を近付けて。
「…ぼくの御礼はオーダーメイドの紅白縞! 採寸に行くから付き合ってよ」
「さ、採寸…?」
「うん。君のサイズが分からないんじゃオーダーしようがないからね」
大事な所の正確なサイズを知りたいんだ、と囁かれた教頭先生が鼻血の危機に陥ったのは当然の結果と言えるでしょう。ソルジャーのシールドで姿を隠した私たちは必死に笑いを堪え、ソルジャーは遠慮なく笑っています。会長さんは私たちにこっそりウインクすると。
「今から鼻血じゃ、どうなるんだか…。ぼくも採寸を見学しようと思ってるのにさ。気合で鼻血を止めててよ? でないと立派な笑い物だ。行き先は君も知ってる店だし」
「…何処だ?」
「ほら、コスプレ用の衣装とかを注文してる店! あそこのオートクチュール部門」
「「「!!!」」」
とんでもない店が出て来ました。仲間が経営しているのですが、コスプレ衣装を作っている方の店はともかく、オートクチュール部門は高級店です。そんな所で紅白縞のオーダーだなんて…。
「驚いた? だけどソルジャー直々の注文だしねえ、断るわけがないってば」
予約もバッチリ、と笑みを浮かべる会長さんの赤い瞳に捉えられた教頭先生は夢見心地というヤツでした。好きでたまらない会長さんからオーダーメイドの紅白縞。それも高級店でのオーダー、会長さんの付き添いつき。これを断るわけがなく…。



「そ、そうか、お前のプレゼントか…。正直、少し照れるのだが…」
「ん? いつかは測ったパンツの中身にお世話になるかもしれないしねえ…」
夫候補のサイズくらいは見ておかなくちゃ、とトドメのセリフを吐かれてしまった教頭先生の鼻血はアッサリ決壊しました。とりあえず鼻血が止まるのを待ち、それから教頭先生は軽くシャワーを。下着を脱いで採寸ですから、これは当然のマナーです。
「じゃあ、行くよ? 鼻血厳禁!」
「うむ、お前に恥はかかせられないしな」
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
青いサイオンが迸り、教頭先生は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」と共に瞬間移動。私たちもソルジャーに連れられてパパッと移動した先は厚い絨毯が敷かれた立派な部屋で。
「いらっしゃいませ。お待ちいたしておりました」
店長さんと思しき紳士やスタッフの人がソルジャーの肩書を持つ会長さんをお出迎え。教頭先生もキャプテンなだけに、丁重な挨拶を受けまして…。
「本日は下着のオーダーだそうで…。どうぞ、こちらで採寸させて頂きます」
ズボンなどは脱いで下さい、とスタッフたちは大真面目。教頭先生が脱いだズボンやステテコは皺にならないようハンガーに掛けられ、紅白縞も同様に。それだけでも笑える光景なのに…。
「普段はこんな感じですね? ですが、このサイズですと窮屈ですので」
「やはり万一の時もございますから、少し余裕が必要でしょう」
スウェナちゃんと私の視界にはしっかりモザイク。笑い転げるソルジャーとジョミー君たちの具合からするに、教頭先生は大事な部分を採寸されているようです。万一だとか余裕だとかが何のことかは保健体育の授業の範囲で分かりますから、私たちだって…。
「「「うぷぷぷぷぷ…」」」
どうせシールドで聞こえませんから、笑っちゃうしかないでしょう。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」もニコニコ笑顔で見守ってますけど、教頭先生は緊張のあまり鼻血どころではないようです…。



こうして無事に採寸が済み、教頭先生を瞬間移動で家まで送り届けて、私たちも会長さんの家に戻ってティータイム。教頭先生の鼻血と採寸風景は格好のネタで、ソルジャーも笑いが止まらなくて。
「こっちのハーレイには申し訳ないとは思うけどさ…。だけど貴重なデータが取れたし、出来上がるのが楽しみだよ。きっと素敵な履き心地だよね?」
「…その件だけどさ。そっちの分まで紅白縞ってわけにはいかないだろう?」
君の趣味ではないと思う、と会長さんに言われたソルジャーは絶句。
「そ、そういえば…。任せて安心と思ってたけど、こっちのハーレイに合わせるんなら紅白縞しか出来ないんだっけ…」
それはマズイ、と呻くソルジャー。
「別料金になるかもしれないけどさ、普通のヤツでお願いしたいな。代金はノルディに頼めばいけるし、色とかはハーレイと相談するから」
「デザインも好きにしていいよ? あのデータを使うってだけだからね」
「…デザイン? ああ、トランクスでなくてもいけるんだ?」
それもハーレイと相談しよう、とソルジャーは大いに乗り気です。キャプテン好みの色と形のオーダーメイドの下着が出来るのは時間の問題のようでした。肝心のデータを採寸された教頭先生の方は選択の余地も無いというのに、この差はいったい…。って、あれ? 会長さん?
「ぼくもデザインで悩んでるんだよ」
なにしろ素人なものだから、と会長さんが出してきたのは出掛ける前に見た紅白縞。デザインも何も、それをどうしろと? トランクスではダメなんですか?
「ううん、そういうわけじゃなくてさ。実は笑いはここからなんだ」
「「「は?」」」
「これをね、どう畳むのかが問題で…」
会長さんは紅白縞をテーブルに広げ、端からクルクル巻いてみて。



「うーん、形にならないなぁ…。やっぱり縞の幅がポイントなのかな、それとカットと」
「巻くことに何か意味があるのか?」
キース君の問いに、大きく頷く会長さん。
「巻いて収納が基本なんだよ。かなり昔の話だけれど、女性用下着のメーカーがヒットを飛ばした商品があった。ブラジャーとショーツを一緒に巻くとね、薔薇の花の形で収納できる」
「………。あんた、買ったな?」
「うん、フィシスに。開発のニュースを聞いて、全色」
喜ばれたよ、と悪びれもしない会長さんは薔薇の下着を当然、何度も組み立てた経験アリで。
「アレを参考にしたいんだけどね、ぼくじゃどうにもならなくて…。ぶるぅに頼むしかなさそうだ。
ぶるぅ、トランクスを巻いてコレにするなら、どんなデザイン?」
参考品、と会長さんがテーブルに置いたのは造花でした。精巧なヤツというわけではなく、和紙で作られた素朴な椿。紅白縞を連想させる紅と白との花弁が交互にくっついています。なるほど、紅白縞をこの形に…って、キース君?
「…おい」
地を這うような声を出したキース君は。
「罰当たりにも程があるだろうが! これを何処から持ってきた!?」
「え、単なる参考品だけど? ぼくの手作り」
「嘘を言うな、嘘を!」
「誓って何もしていないってば、これでも一応、高僧なんだし!」
形を参考にしただけだ、と主張している会長さんと、それでも罰当たりだと怒鳴るキース君と。結局、似たような形の椿の花の匂い袋を見せた会長さんが逃げ切りましたが。
「「「仏事用!?」」」
「違う、仏事じゃなくて法要! キースが勘違いしたのは観音様に供える椿の造花さ」
なんでも春を迎える行事として有名なお寺の法要で造花を使うらしいのです。二週間も続く法要の間、本物の花だと落ちてしまうため、椿の枝にこういう造花を挿すのだそうで。
「紅白になった花だろう? そこを紅白縞でデザインしたいと…。出来るかい、ぶるぅ?」
「んーと…。縞の幅はもっと広くしないとダメだと思うよ、それと花びらに見せるんだったら裾をそういうカットにしなきゃ」
薔薇の下着もそうだったでしょ、とニッコリ笑う「そるじゃぁ・ぶるぅ」はフィシスさんの下着を何度も洗濯済みでした。早い話がそれだけの回数、フィシスさんが泊まったということです。いやもう、ホントに御馳走様としか…。



丸めて畳むと椿の花になる紅白縞とやらは「そるじゃぁ・ぶるぅ」がチャレンジすることになりました。完成品が出来たらデザインなどを例のお店に持ち込み、教頭先生のサイズに基づいた下着が出来上がる勘定です。お裁縫も得意な「そるじゃぁ・ぶるぅ」は頑張って…。
「ねえねえ、こんなの出来ちゃった!」
ちゃんと椿に見えるでしょ、とクルリと丸まった紅白縞が披露されたのは一週間後の日曜日。かなり幅広になった紅白縞のトランクスを何度か折り畳んでからクルクル巻いてあるのだとか。広げて見せられた紅白縞は裾の部分が花びらのように波型にカットされていて。
「凄いね、ホントに椿だよ!」
ジョミー君が叫ぶと、キース君が。
「俺には未だに罰当たりとしか思えんが……椿だな……」
「君たちにも椿に見えるんだったら、パーフェクトだね。これで作って貰ってくるよ」
「し、しかし…。教頭先生にそのデザインは……」
「無理があるって? そこが笑いのツボなんだってば」
ひらひらカットの紅白縞、と会長さんはケラケラと。
「あのハーレイが畳むと椿な下着だよ? おまけに履いたら裾が花びらカットってね。似合わないのは決定だけどさ、是非とも履いて貰わなきゃ! 本人は自慢したくて堪らないだろうし、エライことになるのは間違いないんだ」
「「「???」」」
「三月の末にね、長老たちで慰安旅行に行くらしい。ぼくに一方的に入れ上げてることを日頃からバカにされてるからねえ、ここぞとばかりにオーダーメイドの下着を履いてお出掛けだよ」
履き替え用のも作らなくっちゃ、と会長さんは燃えていました。そこへ本日も、お客様が。



「…なるほど、ハーレイがバカにされるまでの過程も含めて笑いの集大成だったのか…」
笑いは乙女チックな椿の花を贈るという所までかと思っていたよ、と現れたソルジャーはオーダーメイドの下着についてのキャプテンの注文を聞いてきたらしいのですが。
「スタンダードな下着もいいけど、ぶっ飛んだセンスも素敵かもね。…椿の花には全く興味が無かったんだけど…。ぶるぅ、これって蓮の花でも作れるかい?」
「蓮の花? もっとビラビラになっちゃいそうだし、花びらを足さないと無理じゃないかなぁ」
こんな風に、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が描いたデザイン画は花びらを重ねたスカートにしか見えないような代物でした。中身はしっかりトランクスですが花びらを貼り付けてあるのだそうです。
「あのね、ブルーが言ってた薔薇の下着はブラジャーが花びら付きだったの! トランクスも同じように作れば蓮の花になると思うけど…。作ってみる?」
「いいのかい? だったらお願いしようかな。色はね、ハーレイの肌の色が映えるヤツで」
ソルジャーがそこまで言った時です。
「ちょっと待て! あんた、さっきから蓮だ蓮だと言っていたのは…!」
血相を変えたキース君に向かって、ソルジャーは。
「決まっているだろ、極楽の蓮だよ。ぼくとハーレイが御世話になろうと思ってる蓮を象った下着って面白そうだし」
「極楽の蓮を下着にするなぁ!」
「えっ、ブルーの椿も似たようなものだろ、罰当たり度は」
極楽と法要は紙一重だよね、と自信満々で胸を張ったソルジャーは仏教の世界をロクに理解していませんでした。キース君が蓮の有難さを懸命に説き、仏典に蓮はあっても椿なぞは無く、ゆえに同じ下着なら椿の方がまだマシだ、と声を嗄らしても無駄というもので。
「それじゃ、蓮の花の下着もお願いするね。色は何色にしようかなぁ…。ああ、でも、ぼくのハーレイが花びら下着を履いた姿は勘弁して欲しいし、普通に白かピンクにしとこう」
飾って眺めて極楽を思い描くんだ、というソルジャーの希望が通ってしまったのは無理もなく。良い子の「そるじゃぁ・ぶるぅ」がデザインした畳むと蓮の花になるトランクスと椿になる紅白縞、それにキャプテンのための普通の下着が発注されたのは三日後のことで、出来上がったのは翌週で…。



「お待たせ、ハーレイ。やっと下着が出来てきたんだ」
会長さんが瞬間移動で教頭先生の家へお届け物に行ったのは週末の土曜日。教頭先生の家に一人で行ってはいけないという決まりを守って「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお伴しており、私たちは見物に来たソルジャーと一緒にシールドの中です。
「わざわざ届けに来てくれたのか。ありがとう、ブルー」
教頭先生は箱を押し頂いて大感激で、会長さんが。
「せっかくのオーダーメイドだからさ、デザインにもこだわって貰ったんだけど…。開けてみてよ」
「ほう? こだわりのデザインというのは気になるな」
いつものヤツとは違うのか、と包装を解いて箱を開いた教頭先生が固まったのは自然な流れと言えるでしょう。トランクス入りにしては妙に厚みのある箱の中には紅白の花弁を纏った椿。それがコロコロと六つも入っていた日には…。
「な、なんだ、これは!?」
「ぼくがデザインした紅白縞だよ、丸めて畳むと椿になるんだ。畳み方にもコツがあってね、説明書を一緒に入れてある。世界に二つと無いデザインだし、大事にしてくれると嬉しいな」
「…そうか、お前のデザインなのか…。世界にこれしか無いのだな?」
「うん、その六枚しか無いってわけ。ただ、そのぅ…。デザインにちょっと凝りすぎちゃって、形がいつもの紅白縞とは微妙に違ってしまうんだけど…」
言い訳している会長さんの後ろで「何処が微妙だ、どの辺が!」と私たちは口々に突っ込みましたが、教頭先生には聞こえません。ついでに元から会長さんしか目に入らない人だけに…。
「微妙だろうが大きく違おうが、お前がデザインしてくれただけで別格だ。これは大切にしないといかんな、うんと特別な日に履かないと…」
「それなら、長老だけで出掛けるっていう慰安旅行がデビューにピッタリなんじゃないかな? ぼくにプレゼントされた下着です、って自慢してみたらゼルたちの君を見る目が変わるかも…。ぼくにひたすら片想いってだけじゃないんだな、ってね」
ぼくがデザインしたオーダーメイドの下着だよ、と甘い声音で唆された教頭先生は頬を赤らめておられます。これはもう、履いて旅行にお出掛けになりそうなことは確定で。
「そうだな、それは絶好のチャンスだな。最高のデビューになるだろう。…採寸の時は恥ずかしかったが、素晴らしい下着をありがとう、ブルー」
旅行に行く日が待ち遠しいな、と幸せ一杯の教頭先生、その日は一日、椿の形の紅白縞を広げてみたり畳んだり。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が中継してくれる映像を見ては吹き出し、裾が花びらカットのトランクスを自慢しようと考えているセンスをけなして笑いまくり…。
「こっちのハーレイはやっぱり凄いや、君への愛が半端じゃないよね。あれは盲目の域に入ってる。あんな花びらカットのトランクス、誰が見たって爆笑だってば」
ぼくのハーレイには履かせられない、と呆れ返っているソルジャーの前にはピンクと白の蓮の花トランクスが五枚ずつ。使いもしないのに沢山作ってどうするのかと思っていれば。
「これはね、ベッドに散らして雰囲気を出そうと思ってさ…。極楽の蓮にはまだ遠いけれど、あやかりたいって思うじゃないか」
「この罰当たりがぁ!!!」
キース君の怒声に首を竦めたソルジャーはトランクスの箱を抱えて消え失せました。蓮の他にもエロドクターのお金で作らせたスタンダードな下着を色々注文していただけに、当分の間はキャプテンと楽しんでいそうです。一方、教頭先生の方は…。



「やったね、作戦大成功!」
みんなで乾杯しなくっちゃ、と会長さんが大喜びで眺める壁には中継画面。ソルジャーも押し掛けてきて皆でワクワク見詰めていたのは、長老の先生方の温泉旅行の光景でした。ゼル先生、ヒルマン先生と出掛けた大浴場で自信たっぷりに脱いだ教頭先生、花びらカットの紅白縞を笑われて。
「それがブルーのプレゼントじゃと? オーダーメイドの下着じゃと?」
「…私にはお笑いにしか見えないのだがね…。自分で鏡を見てみたかね?」
いやはやまったく、と二人の長老の先生方が会長さんの悪戯であると指摘したのに、教頭先生は違うと主張したのです。挙句の果てに部屋へ戻っての宴会タイムに、畳んで荷物に入れてきていた替えの下着を披露して。
「あんたね、バカじゃないのかい? そりゃ悪戯だよ、どう見てもさ」
「そういえば前に流行ったわよねえ、畳むと薔薇の花になるって下着が…」
あっちは女性用だけど、とブラウ先生とエラ先生にまで馬鹿にされても教頭先生はめげません。会長さんとの愛の絆を守り抜くべく、一所懸命に弁明を…。
「違うのだ、これは本当にブルーがだな…。採寸の時から付き合ってくれて、自分でデザインしてくれて…! 何故笑うのだ、ブルーが聞いたら心の底から悲しむぞ!」
頼むから笑わないでくれ、と懇願している教頭先生を肴に会長さんとソルジャーと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は最高級のシャンパンで乾杯、私たちはジュースで乾杯。さて、これからは宴会です。教頭先生、大いに笑いを提供し続けて下さいね。椿のトランクス、お似合いですよ~!




                   花咲く特注品・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生と言えば紅白縞のトランクス。たまには変わり種で、と書いてみました。
 来月は 「第3月曜」 更新ですと、今回の更新から1ヵ月以上経ってしまいます。
 ですから 「第1月曜」 にオマケ更新をして、月2更新の予定です。
 次回は 「第1月曜」 10月7日の更新となります、よろしくお願いいたします。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv

 そして、ちょこっとお知らせをば。
 6月に発表しました、アルト様のハレブル無料配布本から生まれたお話、『情熱の木の実』。
 元ネタのお話を「アルト様からの頂き物」のコーナーに掲載させて頂きましたv
 アルト様の御好意に感謝、感謝です!
 元ネタになったお話は、こちら→『情熱の果実


※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、9月は敬老の日となっております。教頭先生を招待するようで…。
 
 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv






 

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