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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

初物が欲しい

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv





今年の梅雨は雨が少なく、いわゆる空梅雨っぽい感じです。真面目に登校し続けている私たちは傘が要らない日が多くて嬉しいですけど、農家の人たちは困っているかもしれません。それでもやっぱり雨の日よりかは断然、曇りか晴れの日なわけで。
「今日もいい感じに降らなかったね、帰る時間まで大丈夫かな?」
放課後の中庭でジョミー君が曇り空を仰げば、シロエ君が。
「さっき調べたら明日の予報は曇り時々晴れでしたよ。梅雨前線も下がっていますし、今日は降らないと思います」
「やったぁ! 実はさ、傘を忘れて来ちゃってさ…。降ったら送って貰うしかないなぁ、と思ってたわけ」
「誰にだ?」
俺の家は反対方向だぞ、とキース君が眉を寄せると「俺だろ」とサム君。
「スウェナもおんなじ方向だけどよ、相合傘になっちまうしさ…。消去法で俺しか残らねえよな」
「男同士の相合傘か…。そいつは俺は御免蒙る」
どのみち反対方向だが、とキース君。
「大体、今朝の予報じゃ微妙な所だったんだ。折り畳み傘くらい鞄に入れておけ」
「そりゃそうだけどさ…。ママにも入口に置いといたわよ、と言われたんだけどさ…」
靴を履いたら忘れてしまった、と頭を掻いているジョミー君に、サム君もすっかり呆れ顔。
「そこまで言われて忘れたのかよ…。もしも降っても濡れて帰れよ、でなきゃ買うとか」
「同感だ。それが嫌なら降る前に帰れ」
今すぐ帰れば大丈夫だ、とキース君が校門の方向を示し、スウェナちゃんが。
「そうね、早く帰るのが一番よ。今日はキースたちも早かったのに残念だけど」
「酷いや、なんでぼくだけ!」
降ったらブルーかぶるぅに瞬間移動送って貰う、とジョミー君に帰る気はありません。え、なんでキース君たちが今日は早いのかって? 今日は柔道部がお休みなんです。この間の日曜日に大会があって遠征したため、代休と言うか、お疲れ休み。キース君たちは大会には出ていませんが…。
大会に出ない理由は特別生だからで、試合の代わりに応援のみ。高校一年生を何度も繰り返し続けているわけですし、出場しちゃったら実力が違いすぎるんです。
「キースたちもいるのに帰ったりなんかしないもんね! 今日は絶対、ぶるぅが凄いおやつを作ってそうだし!」
帰るもんか、とジョミー君は先頭に立ってスタスタと。いっそゲリラ豪雨に降られてしまえ、とも思いましたが、そうなっちゃったら一蓮托生でしたっけ。普通に曇りでいいです、はい…。



降る、降らないと揉めながら生徒会室のある校舎に入り、生徒会室の壁の奥に隠された「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと。壁の紋章に触れて入って行けば…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
フワンと漂う甘い香り。テーブルに大きなタルトが乗っかっています。わぁっ、桃がたっぷり豪華に並んでる~!
「今日のおやつは桃のタルトにしてみたよ♪」
シーズンだもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が切り分けてくれて、焼き立てのタルトに舌鼓。うん、美味しい! 帰らないとゴネていたジョミー君も満足そうです。
「ところで、ジョミー」
会長さんの声にハッと顔を上げるジョミー君。
「えっ、なに?」
「凄いおやつがありそうだから帰らないとか言っていたけど…。これは凄いわけ?」
普通に桃のタルトだけれど、と訊かれたジョミー君は暫し悩んで。
「ママはここまで大きいのは作ってくれないからね! 凄いんじゃないかな」
「…なんだ、予知能力に目覚めたってわけじゃなかったのか…」
「「「は?」」」
予知能力って何ですか? 目を丸くする私たちに、会長さんは。
「そのまんまだよ、予知能力さ。ぼくは全く得意じゃないけど、フィシスの占いは凄いよね? あんな感じでジョミーも予知に目覚めたかと…。一応、タイプ・ブルーだし」
「えーっと…。それって、ぼくのことだよね…。このタルト、ホントにスペシャルだとか?」
食べても分からなかったけれども、とジョミー君が尋ね、私たちもコクコクと。素材が変わっていたのでしょうか? それとも焼き方が特別だとか?
「違うね、桃は桃でもタルトじゃないんだ」
「「「へ?」」」
タルトじゃないって、どう見ても桃のタルトですよ? それに「そるじゃぁ・ぶるぅ」も確かに桃のタルトだと…。
「まあ、これだけで分かれば君たちも凄いわけだけど…。ぶるぅ、持ってきて」
「オッケー!!!」
キッチンに駆けてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」。凄い粉でも出てくるのかな? それともこだわりのお砂糖だったり…?



間もなく戻って来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」は立派な箱を頭の上に掲げていました。いわゆる桐箱というヤツです。桐箱入りのメロンとかサクランボとかは聞きますけれども、さっきの桃ももしかして…? なんか平たい桐箱ですし…。
「かみお~ん♪ 見て、見て!」
凄いんだから、とテーブルに置かれた桐箱の蓋が開けられ、中身はズラリと並んだ桃。綺麗に整列している上に減った形跡はありません。あれっ、だったら桃のタルトは?
「ふふ、タルトの桃は普通なんだよ」
ぶるぅが選んで買ってきたから立派な桃ではあるけどね、と会長さん。
「だけど、この箱の桃は特別なんだ。ジョミーはそれを予知したのかと思ったけれど、ただのまぐれか…。ちょっと残念」
「どうせ、まぐれだし!」
サイオンだってサッパリだし、と拗ねるジョミー君を他所に、キース君が。
「見事な桃だな。…特別と言うからには銀青様へのお届け物か?」
「それもハズレ。これはぼくへのお届け物だよ、マザー農場からソルジャーへのね」
「「「ソルジャー!?」」」
ソルジャーと言えば会長さんの肩書きです。そう呼ばれることを嫌っていたんじゃなかったっけ、と思いましたし、キース君もすかさず突っ込みましたが。
「いいんだよ、この桃は役得だから」
物を貰って悪い気分になるわけがない、と会長さんは上機嫌。
「特別も特別、もうスペシャルに特別ってね。正真正銘、初物なんだよ」
「初物を食べると寿命が延びるというアレか?」
まだ延ばす気か、と溜息をつくキース君ですけど、悪気なんかはありません。あくまで冗談、あくまでジョーク。会長さんにはいつまでも元気でいて欲しい、というのが私たちの共通の思いです。
「そう、それ! やっぱり寿命は延ばさなきゃ! 三百歳を超えたからには四百歳も超えてみたいし、四百まで行ったら五百歳超えを目指したいよね」
「……ついでに生涯現役なんだな?」
「もちろんさ。シャングリラ・ジゴロ・ブルーに定年は無いよ」
目指せ、元気な五百歳! と会長さんの夢は果てしなく…。縁起担ぎに初物を、と言いたいことは分かりました。でも、この桃の何処がスペシャル?
「マザー農場って言っただろう? そこが重要」
有難い桃を拝みたまえ、と桐箱を指差す会長さん。うーん、普通に桃なんですけど…?



しげしげと桐箱入りの桃を見詰める私たち。サイズも形も皮の色までも見事に揃った白桃です。初物と謳うからには今年最初の収穫でしょうが、その段階で数を揃えるのが難しいとか? あれこれと知恵を出し合ったものの、農作物のことは良く分かりません。
「…お手上げだ。この桃の何処が特別なんだ?」
俺には分からん、とキース君が代表で口を開きました。
「農業も果物も管轄外でな…。御本尊様へのお供え物のチェックはするが」
傷んだ果物をお供えしては失礼だから、とキース君。お供えの果物、普段は旬の物を供えてあるそうですけど、本堂で法要を行う時にはグレードアップするらしいです。法事なんかだと檀家さんの懐具合に合わせてメロンになったりすることも。
「このメロンが後で揉めるんだ。親父はメロンが好物でな。…ウカウカしてると食べ頃にササッと下げて来て冷蔵庫で冷やして一人メロンだ」
あれは許せん、とキース君の眉間に皺が。
「俺だって法事を手伝うんだし、おふくろも裏方で忙しいんだぞ? なのに一人でコソコソと…。普段は包丁も持たない親父がメロンを真っ二つに切ってガツガツとな」
スプーンで掬って食っているのを見付けた時の腹立たしさと言ったら…、と拳を震わせているキース君。けれど私たちの感想の方は違いました。
「…お供え物でもバレバレなんですか、法事のランク…」
袈裟でバレるとは聞きましたが、とシロエ君が呟き、スウェナちゃんが。
「なんだかシビアねえ…。うっかり法事も頼めないわね」
「お、おい! それはだな、そこは気にせず日頃からお寺との付き合いをだな…」
必死に菩提寺との御縁を説き始めるキース君。でも、所詮は袈裟とお供え物でバレるんですよね、法事のランク? お布施が少ないとモロバレなんだ…。
「仕方ないだろう、寺も色々と物入りなんだぞ!」
お供え物で赤字を出すわけには、と言われてみればそんな気も。袈裟だって洗濯機で洗える類のモノじゃないですし、必要経費というわけですか…。
「そんなトコだね、副住職ってヤツも大変なんだよ」
アドス和尚に言われて経理も手伝ってるし、と会長さん。なるほど、メロンの値段なんかにも詳しいのかもしれません。それでも目の前の桃は管轄外で…。
「分からないかな、マザー農場からソルジャー宛のお届け物って辺りでさ」
しかも桐箱、と会長さんは箱を示しています。そういえば会長さんの家で使う野菜はマザー農場の名前が入った段ボール箱入りだったような気も…。桐箱って所が大切ですか?



特別な桃のヒントは桐箱。桐箱入りの果物イコール高価な物のイメージですけど、桃は元々高い果物。桐箱入りだってあるでしょう。うーん、やっぱり分かりませんよ…。
「みんな揃ってお手上げかぁ…。この桃は今年初めて実った桃なんだよ。品種改良を重ねて生まれた新しい木から」
「「「えっ?」」」
「新種だってば、それの初物! もう究極の初物だよね」
それをこれだけ揃えてくるのは大変で…、と会長さんは得意げに。
「何本も育てている木の中から最高の実を選んでお届け! ソルジャーだけの特権さ」
「…ソルジャーだと何度も言ってるな? すると、この桃は宇宙用か?」
きっとそうだな、とキース君が訊けば、大きく頷く会長さん。
「流石、キースは察しがいいね。シャングリラ号で美味しい桃を提供するために改良したのさ、桃はクルーに人気だし…。今までのヤツでも充分に美味しい桃が採れるけど、これは実の数も多めなんだな。ついでに糖度もググンとアップ!」
地球で育てれば更に糖度が増している筈、と会長さんはウキウキと。
「せっかくだから君たちと食べようと思ってね。食べる直前に冷やすのが美味しく食べるコツだし、こうサイオンでいい感じにさ」
「かみお~ん♪ 一人一個ずつ食べるんだよね?」
よいしょ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の小さな右手が人数分の桃を取り出し、テーブルの上へ。そこに会長さんが両手をかざすと青いサイオンの光がふうわりと。
「よし、出来た! ぶるぅ、剥いてよ」
「うんっ!」
涼しげなガラスのお皿に一人分ずつ盛られる桃。食べやすいサイズに切られてフォークつき。
「「「いっただっきまーす!」」」
さあ食べるぞ、と全員がフォークを握った所で。
「ちょっと待った! ジョミーは食べながら笑うんだね」
「「「へ?」」」
なんのこっちゃ、と奇妙な命令を出した会長さんを見れば、澄ました顔で。
「初物を食べると寿命が延びると昔から言うけど、その時に「笑いながら食べる」と言う人もいる。西を向くとか東を向くとか、そこは地域で変わるようだし…。とりあえず前を向いて笑いながら食べたまえ。傘を忘れたくせに食べ物目当てでやって来たんだ、そのくらいはやって貰おうか」
「えーーーっ!!!」
ヒドイ、と叫んだジョミー君の声は私たち全員に無視されました。人生、笑ってなんぼです。他人様の笑う姿を肴に食べる初物、さぞかし寿命が延びるかと~!



「…う、うう……。食べた気がしない…」
笑いながら食べるって無理すぎる、と突っ伏しているジョミー君。喉に詰めたり咳き込んだりと、ジョミー君と初物の桃の相性は最悪だったみたいです。それを見ていた私たちだって笑いが止まらなかったんですけど、桃はとっても美味しかったですよ?
「そりゃあ、みんなは笑う合間に食べてたし! ぼくのは笑いながらだし!」
逆に寿命が縮んだ気がする、とジョミー君はまだゲホゲホと。
「縮んだって? それはいけないねえ…。もう一個、普通に食べるかい?」
もう笑わなくていいからさ、と会長さんが差し出した桃にジョミー君はマッハの速さで飛び付きました。
「食べる!」
「はいはい、分かった。他のみんなは?」
「そうだな…。今度はしっかり味わいたいな」
さっきは笑い過ぎで味わう暇が、とキース君が手を挙げ、私たちも一斉にハイ、ハイと。桃はまだたっぷりと残っています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が桐箱から数えて出していると。
「ぼくにも一個!」
「「「!!?」」」
誰だ、とバッと振り返った先で優雅に翻る紫のマント。来ちゃいましたよ、ソルジャーが…。
「桃だってねえ? しかも寿命が延びるって?」
これは絶対食べないと、とソファにストンと腰を下ろした会長さんのそっくりさん。
「こないだノルディの家で桃を御馳走になったんだけどさ、そんな話は無かったよ」
「……ノルディの家?」
また行ったのか、と会長さんはあからさまに嫌そうな顔。しかしソルジャーがその程度で怯む筈もなく…。
「そうなんだよね。いつもは外で食事だけれどさ、たまには家もいいでしょう、って! あそこのシェフも腕がいいから美味しかったな、デザートも特別に作ってくれたし」
ピーチメルバのブルー風、とソルジャーが宙に取り出したメニューには本当にその文字がありました。ソルジャー曰く、凝った外観で美味だったそうで。
「でね、その時にノルディが言ったわけ。「桃というチョイスに私の願望が入っているのですけどねえ」って! 初物の桃を使いました、とも言っていたけど寿命の話は…」
聞いてないなぁ、と呟くソルジャー。エロドクターは如何に高価な桃を取り寄せたかを熱く語っていたようですけど、その前に願望とやらが気になります。桃を選んだら何ですって?



降って湧いた災難ならぬ空間を超えて来たソルジャーは桐箱入りの桃に期待MAX。早く冷やせ、と会長さんにせっつき、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が剥いて器に盛り付けた後はもう夢中。
「うん、美味しい! 宇宙用に開発したんだっけ? ぼくのシャングリラにも欲しいくらいだ」
こっちの植物を持って帰れる環境だったら育てたいな、とパクパクと。
「これで寿命も延びるとなったらお得だよ。そうだ、ハーレイに…」
一切れお裾分けしておこう、とフォークの先から桃が瞬時に消え失せました。空間移動でソルジャーの世界のシャングリラに届けたみたいです。
「ふふ、ハーレイの笑顔もいいねえ…。ブリッジの空気も和むってね」
「「「は?」」」
「え、笑いながら食べるんだよ、って思念を送って口の中に放り込んだのさ。律儀に笑顔でモグモグやったし、ブリッジ中が笑いの渦! キャプテンが執務中に間食なんかをしてるんだから」
甘い果物とは誰も知らない、とソルジャーは楽しげにクスクスと。
「ゼルとブラウにガムを食べたと責められてるよ。もっとバレないモノにしろ、って説教されてる真っ最中。ガムの食べかすが残ってないのも証拠隠滅だと突っ込まれちゃって…。でも、ぼくからの差し入れだろ? それを思うだけで顔が緩むし、緊張感の欠片も無いよね」
あちらのキャプテン、反省の色が無いということで責め立てられているらしいです。それでもソルジャーからの桃の差し入れが嬉しくてたまらず、幸せ一杯、高鳴る鼓動。
「甘い桃の実を食べさせられても幸せ一杯って所が凄いよ。「寿命が延びる初物だってさ」とも伝えといたし、余計かな。あれで大して甘くなければホントに最高だったんだけど…」
ハーレイにはちょっと甘過ぎたかも、とソルジャーは甘い物が苦手なキャプテンの舌を気遣っています。昔は面白がって甘い物を無理やり食べさせたりもしていたくせに、すっかりバカップルになっちゃって…。結婚とはかくも偉大なものか、と感慨深く思っていると。
「ああ、それ、それ! ハーレイに桃を送った時点で忘れてたけど、ノルディの願望!」
その話をしていなかったっけ、とソルジャーがポンと手を叩いて。
「なんで桃をチョイスしてきたら願望なんだ、と思うだろ? だから当然、訊いてみたわけ。そしたらキッチンから生の桃を持って来させてさ…。そう、こんなの」
コレみたいに綺麗な桃だったよ、と桐箱を覗き込むソルジャー。
「で、ノルディが桃をこう指差して」
「触っちゃダメ~ッ!」
パッシーン! と弾ける青いサイオン。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が頬っぺたをプウッと膨らませています。そういえば桃って触ると傷むんでしたっけ…?



桃を触ろうとしたソルジャーに「そるじゃぁ・ぶるぅ」はおかんむり。
「あのね、食べる時しか触っちゃダメなの! 傷んじゃうから!」
「し、知らなかった…。だってノルディは触っていたし…」
こんな感じで、と手を伸ばしかけたソルジャーから「そるじゃぁ・ぶるぅ」が桐箱を抱えて遠ざけ、触れないように蓋をしようとするのを「ちょっと待って」と会長さん。
「なんだか嫌な予感がするから、この際、きちんと聞いとこう。…ノルディの願望が何だって? この桃で教えて貰おうか。ぼくがサイオンで傷まないようにガードしておく」
ほら、と会長さんがテーブルに一個だけ置いた桃はサイオンで表面がガードされている模様。ソルジャーは「分かった」とスッと右手を出して。
「ノルディは言ったよ、これは何かに似ていませんか、って。生憎とぼくには分からなくってね…。だって、どう見ても桃だろう? 似ているも何も、まるっきり思い付かなくて」
「それで?」
早く、と会長さんが先を促し、ソルジャーの指先が桃に触れ…。
「ノルディがさ、「分かりませんか?」と触ってみせて指でツツーッとね」
この部分を、とソルジャーの白い指がツツーッとなぞった桃の割れ目。私たちは首を傾げましたが、会長さんの頬が見る間に真っ赤に。
「も、もういいっ! もう分かった!」
「本当かい? それでさ、ノルディが言うには、ノルディが本当に食べてみたいのは君らしいよ? ぼくは結婚しちゃったからねえ、前みたいなわけにはいかないし…。でも、気が向いた時に食べさせてくれると嬉しいです、って気持ちをこめてのデザートが桃」
要するに君のお尻だよね、とソルジャーは桃を撫で撫で撫で。そっか、そういう意味だったんだ…。それでデザートにピーチメルバのブルー風か、と私たちは納得、会長さんはズーンと激しく落ち込み中。サイオンに影響しないんでしょうか?
「早い話が、ノルディは一度は突っ込みたいっていうメッセージをデザートに托して寄越したわけだよ、君の柔らかな桃にグッサリ!」
この辺に、とソルジャーが押し込んだ指が初物の桃の割れ目の端にグッサリと。
「「「あーーーっ!!!」」」
「…ご、ごめん……。ガード、緩んでしまってたんだ?」
本当にごめん、と謝りつつもソルジャーは指先を左右にグイグイグイ。
「やっぱり初物は優しく拡げて欲しいよね? そういうテクニックならノルディにお任せ!」
一度食べられてみないかい、と会長さんに微笑みかけたソルジャーですが。
「退場!!!」
その桃を持って今すぐ出て行け、と会長さんが大爆発。今の発言、マズすぎですよね…。



桃を会長さんのお尻に譬えたソルジャー。いえ、元々はエロドクターが始めた譬えのようですけれど、誰が言おうが結果は同じ。よりにもよってエロドクターに「食べたい」と言われ、ソルジャーからは「食べられてみたら」などと言われた会長さんは怒り心頭。
「よくも初物を傷めた上に、気持ち悪いことをベラベラと! 君が食べられてくればいいだろ、ノルディがダメなら君の世界のハーレイに!」
「うーん…。ぼくは食べられて当たり前だし……」
今更どうにも、とソルジャーは退場せずに居座っています。
「それに初物でもないからねえ? もう散々に食べ尽くされたよ、ハーレイにさ」
前も後ろも、と言われましても何のことやら意味不明です。会長さんがレッドカードをぶつけましたし、ヤバイ内容だとは分かるんですけど…。
「退場だってば、君の居場所はもう無いし!」
「そう言わずにさ。なんかこう…。何か無いかな、初物の桃で…」
丸齧りしたら思い付くかな、と自分の指が刺さった桃を皮ごと齧ろうとしたソルジャーですが。
「あっ、そうだ! 究極の初物があったじゃないか!」
初物のダブル、と何か閃いたらしいソルジャー。
「でも、その前に…。桃って温まっても傷むんだよね?」
「…もう傷んでると思うけど…」
思いっ切り、と会長さんが指摘し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大真面目に。
「傷んじゃうよぅ、食べるんだったら早く食べてね? 食べないんだったらシロップ煮にして…」
「あっ、シロップ煮は勿体ない! 美味しい桃だし、ここは生食!」
キィン! と青いサイオンが桃を包んで、一気に冷却。ソルジャーは「はい」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に手渡して。
「剥いてよ、ぼくが食べるから」
「うんっ! だけど他のは触らないでね」
桃はとってもデリケートなの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は素直に剥き剥き。親切に切ってソルジャーのお皿に一切れずつ入れ、それをソルジャーがポイポイと口に。ああ、せっかくの初物が…。マザー農場の新種に実った最高の初物が勿体ないことに…。
「え、食べてるんだからいいだろう? すぐに食べたし、味は落ちてないよ」
多分ね、と言いつつフォークで刺しては口の中へと。このソルジャーに本当に味が分かるのかどうか、甚だ疑問ではありますが…。



こうしてソルジャーも二個目の桃を完食。そう、一個目の時はいませんでしたし、二個目です。それを考えれば私たちと同じ数だけ食べたのですから特に問題は無いような…。ただ、桃の扱いが最悪だったというだけで。
「美味しかった―! そうだよ、ぼくも君たちと同じで二個食べただけ!」
だから四の五の言わないで、とソルジャーは桃の果汁が付いていた指先を舌でペロリと。
「でもって、究極の初物だけどさ。初物を食べるのに相応しい人物を思い付いたよ、それだと初物のダブルになるんだ」
「「「???」」」
初物のダブルって何でしょう? 如何にも有難そうですが…。
「分からないかな、こっちのハーレイ! 初めての相手はブルーだけって決めているよね、そのハーレイがブルーを食べれば初物同士でダブルだってば!」
「お断りだよ!」
何故ハーレイに食べられなくてはいけないのだ、と会長さんは拳をブルブルと。
「ノルディも嫌だしハーレイも嫌だ! 大体、食べられたいなんて思ってないから!」
「…それは残念。初物のダブルで凄く寿命が延びそうなのに」
「だったら君が食べればいいだろ!」
ハーレイだけなら好きにしろ、と柳眉を吊り上げる会長さん。
「ぼくは絶対ご免だけどね、初物にこだわりたいならハーレイを食べてもかまわない。ただし許すのは食べる方だよ、食べられる方は許可しない!」
そっちだとぼくのリスクが上がる、と会長さんは厳しい声で。
「君がハーレイに食べられちゃったら、ハーレイは童貞喪失だ。開き直った上に経験値も上げたハーレイなんかに押し倒されるのは最悪すぎる。やるなら君が食べる方!」
「…それって、ぼくに襲えと言ってる?」
「そうだけど? 君のハーレイとそっくり同じのハーレイに突っ込む度胸があるなら、褐色の桃を食べてきたまえ。もちろんハーレイは初物だから!」
げげっ。なんてことを言い出すんですか、会長さん…! 私たちにはイマイチ分かっていませんけれども、ソルジャーに教頭先生を食べてしまえと唆していることは火を見るよりも明らかです。
「褐色の桃ねえ…。そりゃあ絶対、初物だろうね、褐色の桃も。…童貞なんだし」
「あんなのを食べたがる人はいないよ!」
いるわけがない、と怒鳴る会長さんに、ソルジャーはチッチッと指を左右に振って。
「それはどうだか…。蓼食う虫も好き好きだからさ、中にはそういう趣味の人も……ね。ぼくは違うけど、食べて食べられないことはない!」
褐色の桃にいざチャレンジ! とソルジャーは燃え上がってしまいました。初物を食べて寿命を延ばす魂胆なのか、単に食べたいだけなのか。どちらにしても理解不能な世界ですってば~!



マザー農場からのお届け物に端を発した初物騒動。白桃ならぬ褐色の桃、すなわち教頭先生のお尻を食べようと狙い定めてしまったソルジャーを止められる人はいませんでした。そもそも煽ったのが会長さんです、私たち如きでは手も足も…。
「じゃあ、明日の夜に食べに来てみるよ。土曜日だしね」
君たちもおいでよ、とソルジャーは心浮き立つ様子。
「見事食べたら拍手喝采! それにダメでも土曜の夜だし、帰ればぼくのハーレイがいるさ」
「…そっちは食べられる方のくせにさ」
それに初物でもないと思う、と会長さんが突っ込みを入れれば、ソルジャーは。
「うん。初物を食べる方は上手く行けばの話だからねえ、失敗した時は仕方ない。褐色の桃を食べ損なったらハーレイに慰めて貰うんだよ。土曜の夜の基本はヌカロク!」
ハーレイの方もそのつもりだし、とソルジャーは自慢していますけれど、未だにヌカロクは謎の言葉です。ソルジャーが喜ぶ大人の時間の内容なのだ、と漠然と掴んでいるだけで…。
「それじゃ、また明日! 行く時はちゃんと声を掛けるから!」
御馳走様~! とソルジャーが姿を消した直後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「あーーーっ!! 一個、減ってる!」
慌てて覗き込んだ桐箱の中身を数えてみると、一人二個ずつ食べた数より余分に一個、減っていました。初物にこだわっていたソルジャーが持って帰ったに違いありません。褐色の桃だけでは足りないのか、と会長さんが怒っていると。
『かみお~ん♪ 桃、美味しかったぁ~!』
一口でペロリと食べちゃった、と届いた思念は大食漢の「ぶるぅ」のもの。ソルジャー、「ぶるぅ」にも初物を食べさせたかったのか、と少し見直す私たちに「ぶるぅ」は「うんっ!」と元気に思念を送って寄越しました。
『種も飲み込んじゃったんだけど…。えとえと、お腹から桃が生えるってホント?』
『『『は?』』』
『ブルーが笑って言ってたの! 来年はお前のお腹の上で桃が採れるよ、って!』
そしたら食べ放題だよね、と食い気満々の「ぶるぅ」はソルジャーに似たらしいです。お腹から桃が生えて来ちゃったら食べるどころじゃなさそうですけど、あの「ぶるぅ」なら食べるかも…。でもってソルジャー、「ぶるぅ」が飲み込んだ種が排出されたら栽培しようとしていたりして?



そうこうする内に来ました、土曜日。自分の家から拉致されるよりは、と会長さんの家に集まっていた私たちの前に、夕方になってからソルジャーが。
「こんばんは……には少し早いかな? この間は桃、ありがとう。ぶるぅが一口で食べたお蔭で種は一応、手に入れた。あっちの世界のアルテメシアから持ち帰ったってことで検査中だよ」
問題無ければ育てるんだ、とソルジャーは自家製の桃を夢見ています。マザー農場で作った桃がお役に立つなら幸いですけど、褐色の桃は…?
「もちろん、そっちが今日の目的! ぼくのハーレイと仕切り直しになるケースも考えて早めに…ね。こっちのハーレイはちょうどお風呂に入っているし」
もうすぐ食べ頃、とソルジャーは私たちを見回して。
「寝室に隠れててくれるかな? シールドはブルーとぶるぅでいいだろ、モザイク係も」
「かみお~ん♪ みんなでお出掛けだね!」
わぁーい! と飛び跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何が何だか分かってはおらず、会長さんも野次馬根性。私たちは抵抗の声を上げる暇も無く瞬間移動で運ばれてしまい…。
「ふふ、来た、来た。行ってくるね~!」
食べてやる、とソルジャーがシールドから出てゆき、寝室に入って来た教頭先生と鉢合わせ。バスローブ姿の教頭先生、声も出ないほどビックリ仰天でらっしゃいますが。
「こんばんは、ハーレイ。実はね、君にお願いがあって」
「…は、はあ……」
「君のさ、此処に用事があるんだけどね」
バスローブの上からソルジャーの手が教頭先生のお尻をサワサワと。教頭先生、耳まで赤く染めつつ、それでも必死に。
「お、お気持ちは嬉しいのですが…。私は初めての相手はブルーだと決めておりまして…」
「分かってる。だからそっちの初めてじゃなくて、こっちのね」
初物を是非欲しいんだけど、とバスローブの下に手を突っ込まれた教頭先生がギャーッと悲鳴を。
「そ、そっちは…! わ、私にはそっちの趣味は全く…!」
「ぼくは初物を食べたいんだよ。ケチついてないで食べさせてってば、こっちなら別にかまわないだろう?」
将来に向けての勉強にもなるし、と反則技のサイオンでベッドに押し倒されて裸に剥かれた教頭先生に圧し掛かるソルジャー。これは本気でヤバそうです。教頭先生はバタバタと暴れ、ギャーギャー喚いておられましたが…。



「…うーん、ダテに古典の教師をやってはいなかったか…」
ああいうオチとは、と会長さんが自宅のリビングで大きく伸びを。私たちは瞬間移動で戻ったばかりで、ソルジャーだけが足りません。教頭先生の家へ置いてきたのかって? いいえ、とっくに自分の世界にお帰りで…。
「んとんと…。終わり初物だっけ?」
初めて聞いたよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。初物狙いのソルジャーに向かって教頭先生が絶叫した言葉が「終わり初物」というヤツでした。曰く、「あなたの世界のハーレイこそ、立派な終わり初物だと思いますが!」。
「…旬を過ぎてから成熟したヤツのことを言うんだったか?」
俺も初耳だが、とキース君が確認すると、会長さんは。
「そうだよ、そう呼んで珍重される。でもってハーレイが叫んだとおり、あっちのハーレイはそれだろうねえ…」
「結婚した時点で旬が終わっています、って必死に叫んでらっしゃいましたね」
確かに結婚はゴールでしょうけど、とシロエ君。
「いいんじゃねえか? それで納得して帰ったんだしよ、あっちの世界に初物を食べに」
終わり初物でも初物だよな、とサム君が言えば、マツカ君が。
「そっちも寿命が延びるんでしょうか?」
「さあね」
そこまでは保証の限りではない、と会長さんが宙に目を凝らして。
「…少なくともこっちのハーレイの寿命は延びたね、終わり初物なあっちのハーレイに助けられたって感じかな? お風呂に入り直してホッと一息、丁寧にお尻を洗っているさ。命拾いした褐色の桃を」
「「「………」」」
ソルジャーが何処まで何をやらかしたのかは、モザイクサービスのお蔭で謎だらけ。ソルジャーがダメにしかかった白桃みたいな事態になったか、はたまた撫でられただけで済んだか、どっちでしょう? どちらにしても災難ですけど…。
「災難だって? あの程度で済んだら幸運だよ、うん」
もっと酷い目に遭っていれば、と会長さんは悔しそう。二度と会長さんの前に出られないほどの恥ずかしい目に遭わされてしまえば良かったのにとか言ってますけど、元凶のソルジャーは終わり初物を召し上がっている頃でしょう。ソルジャー、寿命は伸びそうですか? 末永くお元気で地球を目指して下さいね~!




       初物が欲しい・了


※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生受難の巻ですが、ソルジャーが召し上がった終わり初物はソルジャー受け。
 受けであっても「自分が食べる方」だと認識するのがソルジャーです。
 
 シャングリラ学園シリーズは4月2日に本編の連載開始から7周年を迎えます。
 7周年記念の御挨拶を兼ねまして、4月は月に2回の更新です。
 次回は 「第1月曜」 4月6日の更新となります、よろしくです~!


毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、3月もドクツルタケことイングリッドさんを引き摺り中…。
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