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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

クラス発表

クラス発表 ・第1話


入学式の会場を出て廊下に行くと、クラス別の名簿が張り出してありました。全部で5クラスあるみたいです。まずはA組から見てみましょうか。えっと、えっと…。あった、ありました、私の名前!他に知ってる名前はあるかな?あ、ジョミー君が一緒です。マツカ君の名前もあります。そしてキース君といえば、会場前で見かけた人ですね。女の子は、と…。わぁ、スウェナちゃんの名前だ!
「ぼくたち、A組だね。サムだけ別になっちゃったけど、スウェナもいるし、楽しいクラスになるといいなあ」
振り向くとジョミー君が笑顔で立っていました。
「早く教室に行ってみようよ。担任の先生は誰なのかな?」
クラス発表の名簿の横に『担任は見てのお楽しみ』と書いてあります。どんな先生が来るのでしょうか。男の人?女の人?…優しい先生だと嬉しいなあ。

教室に入ると黒板に座席表が張り出してありました。ジョミー君やスウェナちゃんの近くに座れるといいな、と思ったんですけれど…残念、ちょっと離れちゃってます。私の席は…。
「君が隣か。キース・アニアンだ。よろしく頼む」
キース君と挨拶した瞬間、合格発表の日の出来事を思い出しました。確か柔道一直線の…。でもなんだか頭も良さそうな感じ。キース君の後ろの席にはマツカ君が座っています。よしよし、後で入学式で聞いた謎のメッセージについて尋ねてみようっと!クラスの生徒は40人。ワイワイ、ザワザワと声がしてますが…。
「諸君、静粛に!」
ガラッと扉が開いて男の先生が入ってきました。眼鏡で長身、気難しそうな顔の先生です。うわぁ…これはハズレかも…。先生はツカツカと教卓に向かい、靴の踵をカッと鳴らして立ち止まりました。
「…なんとも騒々しいクラスだな。嘆かわしいことだ。私はA組の担任のグレイブ・マードック。グレイブ先生と呼びたまえ」
教室は水を打ったように静まり返り、空気の温度も下がったような…。
「私が受け持ちのクラスに望むことは1つ。他のクラスに遅れを取るな。勉学はもちろん、学校生活の全てにおいて我がクラスが常に1位をキープするのだ!」
えぇぇっ!?そ、そんな無茶な!あちこちで悲鳴が上がっています。

「他のクラスはホームルームをしているようだが、A組では実力テストをしてもらう。私の担当は数学だ。今から配るプリントに全力で取り組んでくれたまえ」
前から順番にプリントが回ってきました。裏返しのまま机に置いて筆記用具を出しましたけど…なんだか凄く嫌な予感が…。
「合図をしたら始めてもらう。言い忘れたが、5割以下の点しか取れなかった者は……そんな馬鹿はまずいないと思うが……当分の間、放課後に居残りで補習だ。クラスの足を引っ張るようなクズがいたのでは迷惑だからな」
私の顔からサーッと血の気が引きました。数学は苦手なんてものじゃないんです。ど、どうしましょう…。とんでもないことになっちゃった…。
「はじめっ!」
合図と共にめくったプリントには暗号にしか見えない謎の数式と文章題がビッシリ書かれてありました。あああああ、終わった、私の人生…。


 


クラス発表 ・第2話


突然の実力テストは私には難しすぎました。計算問題が少し解ける程度で文章題はお手上げです。5割どころか3割も取れないのは確実。コツコツと足音を立てて回ってきたグレイブ先生が私の白紙に近い答案を見て「フッ」と笑ったのが聞こえ、それから間もなく…。
「よし、終わりっ!後ろから答案用紙を前に送るように。採点結果は明日、発表する。5割以下の点数の者は補習だからな」
どう見ても私は補習組でした。キース君を見ると余裕の笑みを浮かべています。やっぱり頭がいいんですね。補習、一人だけだったらどうしよう。元々、補欠合格ですし、それも「そるじゃぁ・ぶるぅ」のおかげだという話もあります。実力が無いのは当然かも。答案用紙の回収が始まる音が聞こえてきました。もうダメ~!と心で叫んだ、その時です。

「かみお~ん♪」
調子っぱずれな歌声と共に教室の扉がガラッと開き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が入ってきました。グレイブ先生があっけに取られた顔で見ている前でスタスタと教室を横切り、私の机がある通路をこっちへ歩いてきます。幻の存在が何故こんな所に…?「シャングリラ学園のマスコット」はトコトコと私の机に近づき、答案用紙をチラリと見るなり私に笑いかけました。
「大丈夫。はい、押してあげるね」
ペタン!…「そるじゃぁ・ぶるぅ」の小さな右手が答案用紙に押し付けられ、その後には真っ赤な手形がついていたではありませんか!しかも、どんな手をしているんだか…手形の中には白抜きで「そるじゃぁ・ぶるぅ」の文字とネコの足型のような落款らしきものが入っています。いったい何のおまじないでしょう?

「……手形ですか。さっき入学式が終わったばかりですが」
グレイブ先生が不機嫌そうに眼鏡を押し上げています。
「あなたの気まぐれは存じていますが、入学したての新入生なぞにホイホイと手形を出されては困りますな。これは実力テストです。どんな生徒かも分からない内に手形を押したら、あなたも後悔するのでは?」
ネチネチとした口調で言ったグレイブ先生に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が無邪気な笑顔を見せました。
「ぼく、みゆがどんな生徒か知ってるよ。試験があった日からずうっと文通してたんだ。…だから手形を押したんだけど、ダメって言うなら…」
トコトコトコと教卓の前に進んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」は左手を突き出し、ニヤッと笑って。
「届かないから、ちょっと屈んで。はい、押してあげる」
「う、うわぁぁぁ!勘弁してくれ!」
ピョン、と飛び上がった「そるじゃぁ・ぶるぅ」の左手がグレイブ先生の右の頬に真っ黒な手形をつけました。私の答案の手形と同じ文字と落款が入っているようです。

「えへ。押しちゃった♪」
頬を押さえて呆然としているグレイブ先生の横で「そるじゃぁ・ぶるぅ」は教卓に飛び乗り、ふんぞり返って立っていました。
「説明しとくね。シャングリラ学園では、ぼくが赤い手形を押したらパーフェクトっていう印だよ。黒い手形はダメって印。…んーと…グレイブは顔に押してあるから、ダメ人間ってことになるかな?明日の朝まで何をやっても消えないし」
そう言った「そるじゃぁ・ぶるぅ」はバイバイ、と元気に手を振って。
「それじゃ、またね~!」
ガラリと戸を開け、サッサと出て行ってしまったのでした。グレイブ先生は我に返って答案を集めましたが、意気消沈しておいでのようです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の言葉が本当だったら、もしかして私の答案は…5割どころか百点満点!?
(まさかね…。でも、先生、すごく落ち込んでるし…)
右の頬に真っ黒な手形をつけたグレイブ先生に登場した時の迫力はありませんでした。真っ赤な手形と真っ黒な手形、学園のマスコット「そるじゃぁ・ぶるぅ」。シャングリラ学園は奥が深そうです…。

 



クラス発表 ・第3話


頬っぺたに真っ黒な「そるじゃぁ・ぶるぅ」印のダメ手形を押されてしまったグレイブ先生。よほどプライドが傷ついたのか、答案用紙を回収した後は学園生活の心得などを訓示し、「本日はこれで解散とする」と言うなり出て行ってしまわれました。途端にワッと私の周りに人が沢山集まってきて…。
「凄いや!そるじゃぁ・ぶるぅを呼べるなんて」
「あの手形、使えるぞ!全員の答案に押してもらえるようになったら、グレイブ先生なんか怖くないぜ」
ワイワイと大騒ぎになっている中、マツカ君が静かに立ち上がりました。あ、そういえば…誰かに呼ばれてたんでしたっけ。
「ごめんなさい!私、ちょっと今から用事があって。そるじゃぁ・ぶるぅのことは今度詳しく話すから!」
大急ぎで廊下に飛び出し、マツカ君を呼び止めたところへジョミー君が走ってきました。
「待って!…もしかして君たちも呼ばれてる?」
「「え?」」
マツカ君と私が振り返るとスウェナちゃんも追いかけてきています。
「ジョミー!…それに、みゆちゃんも!誰かが呼んでた、って私はなんにも聞いてないわよ。どこ行くの?!…もしかしてあなたも?」
「あ…。ぼく、ジョナ・マツカです。…誰かが確かに…呼んでいるのを聞いたんですけど…」
「ほらね、スウェナ。ちゃんと二人も聞いたって人がいるじゃないか。心配なら一緒に来てみたら?」
「…そうね…」
スウェナちゃんが渋々頷き、揃って構内を歩いていると…。

「シロエ、俺には何も聞こえなかったぞ!母さんたちが校門で待っているのに寄り道なんかしてる場合か!」
「ぼくは確かに聞いたんです。じゃ、先輩が先に行って母さんたちに待っててくれって言っといてくれればいいじゃないですか!」
後ろからキース君と、キース君の後輩で今度から同級生になったシロエ君が言い争いながらやって来ました。なんとサム君も…。
「なぁ、シロエ。俺だって何も聞いていないぜ。お前が変なこと言うから気になってついてきたけどさぁ…って、ジョミー?それにスウェナとみゆじゃないか。何処へ行くんだ?」
「呼ばれたんだよ、クラス分けが終わったら来い、って。でもスウェナは聞いてないらしいんだ」
ジョミー君が首を傾げてサム君を見ています。
「えっと…声を聞いたのは、ぼくとみゆとマツカ君と…」
「セキ・レイ・シロエです。シロエと呼んで下さい」
「じゃ、シロエ君。…この4人かな、今のところは」
「おい…。思いっきり、怪しいじゃないか」
サム君が顔をしかめました。
「俺もスウェナも呼ばれてないぜ。妖怪だったらどうするんだ」
「そうだな。俺もそう思う」
冷静に相槌を打ったのはキース君です。
「シロエ、お前とサムのクラスには来なかったようだが、俺のクラスにはそるじゃぁ・ぶるぅが現れたぞ。あんな奇妙なモノが住んでいるんだ、魑魅魍魎が跋扈していてもおかしくはない」
私たちが行く、行かないで揉め始めた時。
『ブルー!ぼく、もう待ちくたびれちゃった。みんな纏めてご招待~!』
いきなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」の声が頭の中に響いて、桜の花びらがパアッと舞い散ったように見えたかと思うと…。

ドスン!…私たちは立派なソファに落っことされるようにして座っていました。この部屋、なんだか見覚えがあるような…。
「かみお~ん♪…ぼくのお部屋へようこそ!」
あ、やっぱり。そこは試験の時に迷い込んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋でした。テーブルを挟んで「そるじゃぁ・ぶるぅ」と…忘れようもない美形の生徒会長さんが座っています。
「ぶるぅの部屋へようこそ。ぼくの名はブルー。君たちをここへ呼んだのは、ぼくだ。…君たちを呼んだ理由と詳しい説明をしようと思っていたが、それどころではないようだな」
「そだね~♪」
ニコニコと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が笑っています。
「ブルー、話は明日にしようよ。呼ばれなかった人まで呼んじゃったけど、人数が多いほど楽しいし。声を聞いてないよ~、って人は手を上げて!」
「お、おう!」
勢いよく挙手したサム君に釣られるようにスウェナちゃんとキース君が手を上げると「そるじゃぁ・ぶるぅ」がテーブルにピョンと飛び乗り、3人の手のひらに自分の右手をパン、パン、パンッ!と押し付けました。
「はい、手形。これで全員、仲間だよ!…新入生歓迎会の後でまた来てね。ね、ブルー?」
「そうだな。どうせ歓迎会をする予定だったし、続きは明日」
生徒会長さんの言葉が終わった途端、私たちはまた桜吹雪に巻かれたかと思うと…もう校庭に立っていました。

「なんだ、なんだ?手形って…」
サム君が右手を見ています。そこには真っ赤な「そるじゃぁ・ぶるぅ」の名前と落款入り手形。スウェナちゃんとキース君の手にも同じ手形がついていましたが、見ている内に皮膚に吸い込まれるように消えてしまって影も形もなくなりました。
「消えちゃったわ!なんだったの?仲間って、何?」
「…赤い手形はパーフェクト…だったか?俺たちはいったい…」
スウェナちゃんとキース君もじっと手のひらを見つめています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と生徒会長さん、そして「仲間」という言葉。何がなんだか分からないまま、私たちは桜の花びらが舞う校庭にポカンと立ち尽くしていたのでした…。




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