シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
ママが焼いてくれたフルーツケーキ。ラム酒に漬けたレーズンやアプリコット、プルーンとかがたっぷり入って、真っ白なアイシングがかかってる。アイシングの上に載った紫色のアクセント。スミレの花の砂糖漬け。雪の中から顔を出したかのような紫のスミレ。
ぼくの部屋でハーレイと向かい合わせでのティータイム。ハーレイがフォークで紫色のスミレをチョンとつついた。
「…スミレもこうすれば食えるんだよなあ、面白いもんだ」
口に入れればスミレの香りがふうわりと広がる砂糖漬け。ママの手作りではなかったけれども、お菓子のデコレーションとしてお気に入り。ケーキに添えたり、ラスクに載せたり。小さな頃から何度も目にした。そう、今日みたいに。
「シャングリラでは作らなかったよね、砂糖漬け。子供たちが花束にしてたくらいで」
「ああ。こういう洒落た菓子を作って食えるほど優雅な日々でもなかったしな」
シャングリラにもお菓子はあったし、ハーレイと過ごすお茶の時間もあったのだけれど。紅茶は今のように香り高くはなく、お菓子もお洒落なものではなかった。
もっとも、そんなティータイムでも充分すぎるほどに贅沢なもの。アルタミラでの研究所時代を思えばお茶の時間が持てるというだけで夢のようだったし、幸せだった。
そういう暮らしをしていたぼくたちが、今は青い地球の上でティータイム。地球の太陽を浴びて育ったスミレの花の砂糖漬けが載ったケーキを二人で食べてる。なんて幸せなんだろう。こんなに幸せでいいんだろうか。
スミレの花を食べるだなんて、シャングリラに居た頃は思い付かなかった。
公園にスミレは沢山咲いていたけれど、あくまで目で見て楽しむもの。子供たちが摘んで花束にするもの。たまに愛らしいスミレの花束を子供たちがくれた。
「ハーレイも子供たちから貰っていたよね、スミレの花束」
「うんうん、ゼルもブラウも貰っていたな。クローバーとかと一緒で摘み放題だったしな」
子供たちが摘んで作ったスミレの花束。香りがいいから、貰うとガラスのコップに挿して枕元のテーブルに飾っていた。ハーレイは航宙日誌を書いていた机の上に飾った。
「実にいい香りがしたんだよなあ、あの花束は」
「あんなに小さな花なのにね。貰うと幸せな気分になれたよ」
「そうだな、部屋に公園が引っ越して来たような感じがしたな」
限られた空間しか無かったシャングリラの中。公園と居住区に散らばる庭だけが自然を思わせる緑のスペース。其処で咲いたスミレの花束は外の世界も運んで来てくれたように思えたものだ。
「ぼくは好きだったよ、スミレの花束。地面の上に居るような気持ちがしたから」
新しく見付けたミュウの救出や戦闘の時しか、シャングリラの外には出なかった。ぼくの力なら自由に何処へでも行けたけれども、他の仲間たちはそうではないから。
ぼくだけが自由に出歩くことはしたくなかった。そうやって自分に課した禁を破って出るようになったのは、偶然フィシスを見付けた時だけ。フィシスの地球を見に通った時だけ。
だからスミレの花が咲く地上でゆっくりと過ごしたことは無い。シャングリラの中だけがぼくの世界で、スミレの花束は外の世界を夢見るための小さな小道具。
「いつかスミレが咲いている地上で過ごしたいな、と思っていたよ。ハーレイは?」
「俺も同じだ。子供たちを思い切り走らせてやれる時が来ないかと願っていたな」
シャングリラの公園じゃなくて、広い大地で。
走っても走っても果てが無いような、花いっぱいの野原を何処までも……な。
遙かに過ぎ去った時を懐かしんでいたハーレイが「ん?」と顎に手を当てて。
「そうか、しまった…。お前と出会うのが遅すぎたな」
「えっ?」
そりゃあ、再会は早ければ早いほど良かったけれど。
ハーレイともっと早く会えていれば嬉しいけれども、その分、ぼくは今よりもっと小さな子供。ハーレイは何をしたかったんだろう?
小さなぼくを連れて野原へ行こうと思ったんだろうか、スミレを摘みに?
キョトンとするぼくの目の前、ハーレイはスミレの砂糖漬けをフォークでつつきながら呟く。
「もう二日ほど早ければ…。いや、四月の間に出会うべきだった」
「なんで?」
たったの二日ほど早いだけでいいの?
四月の間だとか、ほんの少ししか早くないけれど…。
「忘れちまったか? 俺たちが会ったのが五月三日で」
「そうだけど?」
「五月一日と言えばスズランの花束の日だったろうが。この地域には無いようだがな」
「あっ…!」
それを聞くまで忘れていた。五月一日はスズランの日だった。
「今もフランスではやってるらしいぞ、今の地球でのフランス地域だ。…いわゆる文化の復活ってヤツで」
「そうなんだ…」
SD体制の時代には無かった、かつてフランスと呼ばれた地域。地球が青い星として蘇った後、その名を冠した地域が生まれた。ぼくたちの住む地域が日本で通っているように、フランスだって地球の上に在る。遙かな昔のフランスの文化を追い求めて楽しんでいる地域。
「お前に堂々と贈っても問題無いんだよなあ、今の世界じゃ。なにしろ日本にはスズランの文化が無いからな? …ついでにスズランも山ほどあるんだ、シャングリラと違って」
「うん…」
あるね、とぼくは頷いた。
鈴の形をした白い花を沢山つけるスズラン。
シャングリラでは公園に咲いていただけだけれど、今の世界なら公園だけじゃなくて個人の家の花壇やプランター、もちろん花屋さんにだってある。
珍しくもないスズランの花。でも、シャングリラでは特別だった。
愛する人への五月一日の贈り物。
贈られた人に幸運が訪れますように、と祈りをこめて贈るスズランの花を束ねた花束。
シャングリラの公園で初めてのスズランが花開いた年に、ヒルマンが皆に説明してくれた。
恋人同士で贈り合ったり、夫から妻へ、妻から夫へ。
遠い昔には、わざわざ森までスズランの花を探しに出掛けて摘んでいた時代もあるらしい。森に咲くスズランは香りが高くて希少価値があるから、と後の時代には五月一日には高値で売られた。子供たちが森まで採りに出掛けて、たった一本のスズランが栽培種の花束と同じ値だったり。
小さなスズランの花を前にして、ヒルマンが語った遙か昔の素敵な習慣。
ぼくはハーレイにスズランの花束を贈りたくなった。
沢山の幸運が訪れるようにと祈りをこめて、五月一日にスズランを摘んで。
ハーレイはぼくに贈りたくなった。
ぼくが幸せになれるようにと、五月一日にスズランの花を摘んで束ねて。
でも、スズランの花は花束に出来るほど沢山咲いてはいなかった。
増えて来た頃にはそれを必要とするカップルたちがいて、ぼくとハーレイの分は無かった。
ぼくたちは誰にも仲を明かせない、秘密の恋人同士だったから。
五月一日にスズランの花束を作りたいのだと、誰にも言えはしなかったから…。
スズランの株は順調に増えて、花束を幾つも作れるようになったのに。
五月一日になると恋人たちが公園や居住区の庭で摘んでいるのに、ぼくたちはそれを微笑ましく見守るだけの立場で、スズランの花束は手に入らない。
いくらスズランの花が増えても、贈りたい人に贈れはしない。
五月一日が何度も巡って、ある年、ハーレイが「やはり今年も無理でしたね」と溜息をついて。
「いっそ私の部屋で育てようかとも思うのですが…。そうすれば私の分ですから」
「バレるよ、掃除に来たクルーに」
ハーレイの気持ちは嬉しかったけれど、部屋にスズランの鉢だかプランターだかを置くなんて。何をしているのか直ぐに知られる。スズランは特徴があり過ぎるから。
「私が好きで育てている花だと言えば問題無いかと」
「それはそうだけど、五月一日に花がそっくり消えた理由を何と説明するんだい?」
シャングリラでは広く知られた五月一日の恋人たちの贈り物。ハーレイがスズランの花を好きかどうかはともかくとして、五月一日を境に花が消えれば誰かに贈ったということになる。この船の何処かに恋人が居て、その恋人のためにスズランを育てていたのだと知れる。
「どう考えても直ぐにバレるよ、恋人用のスズランだった、と」
「…確かに…。そうではない、と言い訳するのは難しいかもしれませんね…」
いい考えだと思ったのですが、とハーレイが残念そうな顔をするから。
「ぼくの青の間でも同じなんだよ。…君がスズランを育てて贈ってくれると言うなら、ぼくだって君に贈りたいけれど…」
この部屋はこんな造りだから。
スズランを育てられそうな自然な光が降り注ぐ場所はもれなく人が入って来る。ベッドの周りは言わずもがなだし、奥のキッチンとかにも人が入るし…。
君のためにスズランを育てたくても、こっそり育てられそうにない…。
二人して自分の部屋でスズランを育てられないことを嘆いて、残念がって。
それでもお互いに贈りたかった。
贈られた人に幸運が訪れるという、五月一日の恋人たちの贈り物。スズランの花を束ねた花束。ぼくはハーレイに贈りたかったし、ハーレイはぼくに贈りたかった。
いつかは贈ってみたいものだ、と語り合った末に。
「いつか…。そうですね、いつか、地球に着いたら」
ハーレイの鳶色の瞳がぼくを見詰めた。
「そうしたらスズランもきっと沢山手に入るでしょう。その時はあなたに贈りますよ」
いつか地球に着いて、五月一日が巡って来たら。
あなたのためにスズランの花束を作って、幸運が訪れるようにと祈りをこめて…。
「うん、ぼくも。…ぼくもスズランの花束をプレゼントするよ」
ハーレイのためにスズランを探すよ、ヒルマンが言ってた希少価値が高いという森のスズラン。地球の森が広くても、ぼくなら探せる。ハーレイには無理でも、ぼくは出来るよ。
「お気持ちはとても嬉しいのですが…。それでは私の愛が足りないような気がするのですが…」
ハーレイが困ったように口ごもるから、「いいんだよ」とぼくは微笑んだ。
「いいんだよ、それで。ハーレイはぼくに沢山の愛をくれているもの、それに沢山の幸せだって。ぼくはハーレイを幸せにしてあげたいんだ、いつも貰ってばかりだから」
「いえ、私こそあなたを幸せにして差し上げたい。あなたはいつも、皆のためにだけ…。御自分のことはいつも後回しで、皆の幸せばかりを祈っていらっしゃるから…」
「ううん、その分の幸せは皆からも、そしてハーレイから沢山貰っているよ」
ハーレイが居てくれるから幸せなんだよ、ぼくはシャングリラの誰よりも…。
いつか地球へ行って、お互いにスズランの花束を贈り合う。
それがぼくたちの夢だった。五月一日が巡って来る度に白いシャングリラでそれを思った。
恋人たちのためのスズランの花を束ねた花束。
ぼくたちが贈りたいと願い続けて、贈れずに終わった夢の花束。
ハーレイがスミレの砂糖漬けを眺めながらフウと大きな溜息をつく。
「…いつの間にかお前は眠ってしまって、五月一日どころじゃなかった…」
「うん…。寝てしまったね、アルテメシアから旅立って直ぐに」
眠るつもりは無かったのだけれど、弱り切った身体はそれを許してくれなかった。
毎晩、青の間に来てくれていたハーレイに「おやすみ」といつものように言って眠って、まさかそれきり目覚めないだなんて思わなかった。
深い深い眠りの底に沈んでしまった、前のぼく。
それでもハーレイは毎晩、ぼくを訪ねて来てくれた。眠り続けるぼくに語り掛けてくれた。
子守唄まで歌ってくれていたことを、夏休みの間にハーレイから聞いた。
今のぼくが小さな頃に大好きだった「ゆりかごの歌」。前のぼくが眠りの底で聞いていた歌。
眠っていたぼくには一瞬とも思えた時だったけれど、ハーレイにとっては十五年間。
十五年もの間、ぼくはハーレイを独りきりにして眠ってしまった…。
「…ごめんね、ハーレイ…。十五年も眠ってしまったままで」
「初めの間は直ぐに起きると思ったんだがな…。そう深刻には考えなかった」
なのに、お前は何年経っても一向に目覚める気配すらなくて。
五月一日にブリッジから見ると、公園でスズランを摘んでいる恋人たちが目に入るんだ。
幸せそうにしている恋人たちを見るのが辛かった。俺の恋人は眠っているのに、と。
しかしだ、ものは考えようだ。
お前は深く眠っていたから、もしかしたら……と俺は思った。
体力的にとても無理だと諦めていたが、お前は地球まで行けるんじゃないか、と。
もしもお前が俺と一緒に地球まで辿り着けたなら。
そうしたらお前にスズランの花束を贈るんだ、とな。
そういう夢を見ていたんだ、とハーレイが昔語りをするから。
夢が叶わなかったことを知っているぼくは、「ごめん」と俯くしかなかった。
「…ごめん。いなくなってしまって、本当にごめん…」
ぼくは地球まで行けなかった。
ハーレイのささやかな夢にも気付くことなく、一人でメギドへと飛んでしまった。
別れの言葉すら告げもしないで、「頼んだよ、ハーレイ」と次の世代を託しただけで。
「…ごめん。…ごめん、ハーレイ……」
「いや、いいんだ。俺の勝手な夢だったしな」
それに俺には思い出している暇など無かった。
五月一日どころじゃなくなってしまったからな、シャングリラ中が。
地球を目指して進むことと戦いだけに明け暮れていたし、いつだって空気が張り詰めていた。
スズランを摘んでいた恋人たちの中の何人もをナスカで亡くして、トォニィたちの世代はきっとスズランの花束なんぞは知らなかったろう。
トォニィの恋人はアルテラだったが、あいつらがスズランを摘んでいるのは見なかった。もしも見ていたなら五月一日だと気付いた筈だし、お前との約束も思い出していたんだろうが…。
とうとう一度も思い出さないまま、俺は地球まで行ってしまった。
地球に着いても、その地球があの有様ではな…。
スズランの咲く森など在りはしないし、水も大気も酷いもんだった。
お蔭で俺は思い出しもせず、地球の地の底で死んじまった。
そして今頃になって思い出したというわけだ。
五月一日といえばスズランの花束を贈る日だったな、と…。
「まったく…。なんで今まで忘れてたんだか」
情けないな、とハーレイは眉間の皺を指先で揉んで。
「…五月一日はとっくに過ぎちまった上に、出会ってもいなかったんではどうしようもないな」
「そうだね、二日ほど遅かったよね…」
ぼくがハーレイと再会した日は五月の三日。スズランを贈る日は終わってしまった後だった。
今、ぼくたちが住んでいる地域にスズランを贈り合う習慣は無いから、それよりも前に出会っていたって思い出さずにいた可能性も高いんだけれど…。
でも、ハーレイは思い出したから悔しいらしい。
「来年の五月に覚えているといいんだが…。この地域にスズランの花束を贈る文化が無いだけに、思い出せるか微妙だな」
その代わり、覚えていたら堂々とお前に贈れるわけだが。
「ママにはなんて説明するの? ぼくにスズランの花束なんて…」
ぼくだって一応、男の子だから。
花束を貰うのは変だと思う。何かのお祝いならばともかく、普通の日に花束、それもスズラン。
だけどハーレイは「ん?」と、ちょっぴり悪戯っ子みたいな表情で。
「恋人に贈るって部分は省略だ。幸運が来ると聞いていまして、って言って持って来るさ」
もしもお前のパパやママに気付かれてしまったって、だ。俺の勘違いだと思われて終わりだ。
俺は古典の教師だしな?
日本の文化なら間違えはしないが、フランスの文化は範疇外だ。
「ハーレイ、勘違いで済ませる気なんだ?」
「それが一番安全だろうが、お前との仲がバレるよりかは勘違いで恥をかく方がマシだ」
もっとも、勘違いで通りそうな古典の教師ってだけに。
来年の五月一日にスズランの花束を覚えている自信も無いわけなんだが…。
忘れていたらすまん、とハーレイが謝る。
本当に済まなそうな顔をしていて、心がキュッと痛くなったから。
「お互い様だよ、ぼくだって忘れていると思うよ」
大丈夫、とぼくはハーレイに笑ってみせる。
思い出したばかりの今はスズランの花束のことがとても懐かしくて、五月一日よりも二日遅れで再会したことが残念だけれど、きっと夜には忘れていそう。フルーツケーキに乗っかったスミレの花の砂糖漬けで思い出したけれども、これを食べ終えたら忘れていそう。
ママのお気に入りのデコレーション。甘いスミレの砂糖菓子。
「ハーレイ、忘れてしまってもいいよ。ぼくも忘れてしまうと思うし」
「…そうか? 来年の手帳はまだ買っていないが、カレンダーに覚え書きを書いておいても…」
新しい年のカレンダーを買う度に、前の年のカレンダーと突き合せながら必要な予定を書き写すことにしているらしいハーレイ。
今年の五月一日の所に「スズランの花束の日」と書いておけば忘れない、と言うのだけれど。
帰宅するまでに忘れないように、メモを書いてポケットに入れようと言ってくれたのだけれど。
「ううん、こういうのって「思い出す」からいいんだよ」
思い出した時が幸せなんだよ、とハーレイの嬉しい申し出だけを貰っておくことにした。
カレンダーにもメモにも書かなくていい。
ぼくたちの思い出は沢山あるから、いちいち予定にしなくてもいい。
予定を書いたら縛られてしまって、嬉しい気持ちが少しだけ減ってしまうから…。
何かの機会にまた思い出して、その日が五月一日だとか。
五月一日の前の日だったとか、そういう方が絶対いい。
幸運は何処からかやって来るもので、予定を決めて来るものじゃない。
だから忘れてしまっていい。
スズランの花束をぼくにくれる五月一日は、ひょっこり思い出した時でいい。
「でも、ハーレイ…」
今日はこのまま忘れてしまっていいんだけれど。
ぼくもきっと忘れてしまうんだけれど。
いつか二人で思い出そうね、そしてスズランを採りに行こうよ。
「いいな、二人で採りに行くのか?」
「うん。どうせ贈るんなら、お店に売ってるスズランよりも、森のスズランがいいと思わない?」
ヒルマンが言ってた森のスズラン。
栽培種のスズランよりも希少価値が高い、いい香りがする森のスズラン。
何処にスズランの咲く森があるのか、ぼくは全く知らないんだけど…。
「そうだな、今の地球なら俺だって森のスズランを見付けることが出来そうだしな」
行くか、とハーレイはぼくの大好きな笑顔になった。
「もっとも、お前が大きく育ってくれんことには二人で出掛けられないわけだが」
「ぼく、頑張って大きくなるよ。だから二人で採りに行こうよ、森のスズラン」
「ふむ…。この辺りだと何処に咲くのか、きちんと調べておかんとな?」
そしてお前より沢山採るぞ、とパチンと片目を瞑るハーレイ。
ぼくの花束よりも大きなスズランの花束を作って、ぼくに贈ってくれるって。
「ぼくもハーレイより沢山見付ける! ハーレイに沢山幸せになって欲しいもの!」
前のぼくだってそう決めてたもの、と決意表明しておいた。
こんな風に約束し合って、意地を張り合っても、明日にはきっと忘れてるんだけど…。
それでもいつか、ぼくたちはきっと思い出す。
思い出して二人、手を繋いで春の森へと出掛けてゆくんだ。
森に咲いている香り高いスズランの花を探しに、五月一日に二人一緒に…。
スズランの花束・了
※シャングリラにあった、スズランの花束を贈り合う習慣。恋人たちが摘んで。
ソルジャーとキャプテンでは無理でしたけれど、今度はスズランを贈り合えるのです。
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