シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
晩秋のとある日曜日のこと。ブルーは昨日と同じように部屋を掃除してハーレイを迎え、二人で向かい合わせに座ったのだけれど。この次の週末もこんな土曜日と日曜日とがやって来るのだ、と頭から信じていたのだけれど…。
「すまん、次の土曜日は夕方まで来られそうにない」
「えっ?」
ハーレイの思わぬ言葉に、ブルーは飲みかけていた紅茶のカップを手にしたままで固まった。
「夕食には間に合うように来るがな、それまでは駄目だ」
「……なんで?」
夕食を一緒に食べるだけなんて。それでは平日の仕事帰りに訪ねて来てくれる時と変わらない。土曜日と日曜日は一日中、一緒に過ごすのが基本なのに。
もっとも、ハーレイにも事情は色々とある。夕食だけどころか、顔も見られない土曜日や日曜もある。ブルーにもそれはちゃんと分かっているのだけれど。
分かってはいても、せっかくの土曜日が台無しと聞けば理由を問わずにはいられない。どうしてハーレイは来られないのか、どんな用事が出来たのか、と。
落胆しているブルーの様子に、ハーレイは「すまん」と繰り返した。
「もっと早くに話しておけば良かったなあ…。しかしな、天気次第のことだったしな」
次の土曜日が雨なら中止になってしまう行事なのだ、とハーレイは言った。
しかし週間予報も発表されたし、次の土曜日は天気が崩れたとしても、せいぜい曇り。雨だけは無さそうだと踏んでいるから、このタイミングでの話になった、と。
「柔道部の登山マラソンの日でな。朝一番から走り始めるから、遅くとも昼過ぎには終わる予定になってるんだが…」
「お昼過ぎに終わるのに、夕方まで来てくれないの?」
「おいおい、ちゃんと最後まで聞け。一番遅いヤツらが戻って来るのが昼過ぎくらいで、そこから昼飯になるからな。作って食わせて片付けをしてだ、解散してからだとどうなると思う?」
「……そっか……」
そういうことか、とブルーは納得せざるを得なかった。
昼食の用意に後片付け。それは時間もかかるであろうし、夕方でも仕方ないだろう…。
ハーレイが夕方まで来てくれないらしい、次の土曜日。
柔道部の登山マラソンがある日。登山マラソンと聞いてもブルーは全くピンと来ないが、昼食の方が気になった。
柔道部をはじめ、運動部に属する生徒たちは食堂で食べるランチも常に大盛り。一度だけ大盛りランチを注文してみて、食べ切れなかったことがある。たまたま食堂に現れたハーレイが代わりに食べてくれなかったなら、ランチを無駄にしていただろう。
ブルーにとっては信じ難い量のランチを平らげる柔道部員たち。普段の食事量も多い彼らが登山マラソンとやらをした後で食べる昼食となれば、どんな量になるのか想像出来ない。それを作るとハーレイは言ったが、いったい何を作るというのか。
「ハーレイ。…お昼御飯って、何を作るの?」
「飯か? そっちは大釜でドカンと炊いてだ、後は豚汁だな」
「豚汁?」
ブルーは思わず目を見開いた。豚汁といえば汁物だけれど、御飯と豚汁で足りるのだろうか?
「どうした、豚汁、知ってるだろう? あれを大鍋で作るだけだが」
「…それだけで足りるの? 御飯と豚汁…」
「決まってるだろう! 美味い豚汁だと飯も進むし、下手な弁当よりよっぽどいいぞ」
俺が学生だった頃にも、よく豚汁を食ってたな。
運動の後の豚汁ってヤツはいいもんだ。出来たての味は最高なんだぞ。
懐かしそうな顔で語るハーレイ。豚汁に纏わる思い出も沢山あるのだろう。
そうなれば今度は豚汁が気になる。柔道部員たちに振舞われるという作りたての豚汁。
「豚汁って、ハーレイが作るんだよね?」
「ああ。俺と柔道部のOBたちだ。登山マラソンは毎年恒例だからな、手伝いに来てくれる」
だが、仕切るのは当然、俺だ。
柔道部の顧問だというのもあるが、俺の豚汁は昔から評判が良くってな。
みんな頑張って走るんだ。美味いのを食わせてやりたいじゃないか。
「…いいな…」
ブルーはハーレイが作る豚汁を食べてみたくなった。駄目で元々、と尋ねてみる。
「ねえ、ハーレイ。…ぼくも見に行ったら食べられる?」
「こらこら、勘違いをするんじゃないぞ。豚汁を食えるのは参加者のみだ。お前、ヤツらと一緒に登山マラソンなんかは出来んだろうが」
何処の山だと思っているんだ、と挙げられた山は町の郊外に聳える高峰。千メートルには僅かに及ばないものの、ハイキング感覚で気軽に登れる高さではない。
「あの山だったの!?」
あれを走って登るの、とブルーは仰天したのだけれども、柔道部員たちにとっては恒例の行事。速い者なら二時間とかからずに山頂までを軽々と往復してくるという。
「昼過ぎまで帰って来ないヤツでもバテてはいないな、俺の経験からしてな」
「経験って…」
「他所の学校でもやってるってことさ、運動部ではな」
今までにハーレイが顧問をしてきた、あちこちの学校の柔道部や水泳部。登山マラソンは何処の学校でもあったという。標高千メートル近い山を走って登って下りてくるなど、ブルーにはまるで未知の世界で、もちろん出来るわけもない。
しょんぼりと肩を落とすブルーの姿に、ハーレイが「まあ、お前には絶対無理だな」と笑う。
「お前、ただでも弱いしな? 登山口から少し走ったら倒れるだろうな」
そうなっちまったら担架の出番だ。
本来は足を挫いたりした怪我人用だが、OBどもに担がれて下りて、三日間ほど欠席か?
「うー…」
どうにも反論出来ないブルー。
ハーレイが言ったとおりの結末を迎えそうなことは分かっていたから。
悔しげな瞳で鳶色の瞳を見上げたブルーに、別の選択肢が示される。
「豚汁を食えるのは参加者のみだが、作り手は参加者に含まれる。手伝ってくれたOBたちの分も作って昼飯にするわけだ。お前も手伝いに来るんだったら食わせてやれるぞ」
ただし、朝一番に柔道部員たちが走り出すのを見送る所から参加しないとな?
OBたちも早起きをして来て万一に備えて待機するんだ、ちゃんと最初から居ないと駄目だ。
「それって何時に集合なの?」
「登山口の広場に朝の七時だが?」
「…七時…!」
登山開始は八時らしいが、OBたちへの挨拶やウォーミングアップなどがあるから、余裕を見て一時間前に集合だという。
(…七時だなんて、絶対、無理だよ…)
ブルーは早起きは苦手ではないが、朝の七時から屋外で過ごした後での豚汁作りは考えただけでバテそうだった。座る場所くらいはあったとしても、何時間外に居ればいいのか。
(…マラソンも手伝いも、どっちも無理だよ…)
自分には無理だ、と諦めざるを得なかった。
しかしウッカリ聞いてしまったばかりに、ハーレイの豚汁が気になってたまらない。
評判がいいのだとハーレイが語った自慢の豚汁。
いつも作ってくれる「野菜スープのシャングリラ風」とは違って、豚汁。
シャングリラに居た頃は無かった豚汁。
豚汁は母も作ってくれるのだけれど、評判も何も、ブルーは母の豚汁と学校の給食や食堂で出る豚汁しか食べたことがない。
わざわざ外食するようなメニューではないし、ハーレイが「美味いんだぞ」と言った豚汁の味がどれほどのものか、想像することも出来なくて…。
登山マラソンに参加する柔道部員たちが食べる豚汁。
手伝いに出掛けるOBたちも味わえるという、ハーレイ御自慢の豚汁の味。
食べてみたくて、味わいたくて。
一度は「無理だ」と諦めたくせに、ハーレイと二人で昼食を食べたら、また思い出して食べたくなってしまった。母が作ってくれた昼食に味噌汁はついていなかったのに。
スープとパスタの昼食だったのに、食後の紅茶が置かれたテーブルを前にしてブルーは呟く。
「……豚汁……」
未練たっぷりに桜色の唇から零れた言葉に、ハーレイが呆れたように目を丸くした。
「豚汁って…。まだ諦めていないのか、お前」
「……やっぱり、手伝う…」
朝一番から行って手伝う、とブルーは頑張る決意をしたのだけれど。
「手伝う? 俺としては別にかまわんが…」
お前、本当に分かっているのか?
手伝いが増えるのは有難いんだが、お前が手伝うのは俺じゃなくて「ハーレイ先生」だ。
頑張って起きて「ハーレイ先生」と豚汁を作るのか、お前?
「…そうだったっけ…」
ブルーはガックリと項垂れた。
柔道部の登山マラソンなのだから、ハーレイは当然、顧問の教師。其処へ同じ学校の生徒が出てゆくのならば、礼儀正しく「ハーレイ先生」と呼ばねばならない。今のように甘えることは厳禁、言葉も敬語にせねばならない。
それは嫌だ、と思うけれども。
ハーレイ先生の手伝いはしたくないのだけれども、食べたい豚汁。
大好きなハーレイの御自慢の味の、美味しい豚汁…。
どうにも諦め切れない豚汁。
ハーレイが作る豚汁を食べてみたくて、ブルーは強請ってみることにした。ハーレイ先生ならば手も足も出ないが、ハーレイなら別。恋人としてのハーレイだったら我儘も聞いてくれるだろう。
そう思ったから、「お願い」とおねだりをする。
「ねえ、ハーレイ。豚汁、ぼくの家で作ってよ。野菜スープのシャングリラ風みたいに」
きっと作って貰えるだろう、と考えたのに、ハーレイの返事は素っ気なかった。
「駄目だ、そんなのでは美味いのが出来ん」
「えっ、なんで?」
「大量に作るからこそ美味いんだ。俺の秘伝もだからこそ生きる」
お前のお父さんたちの分まで作るとしてもだ、四人分にしかならないんだぞ。
美味いのを作るならデカイ鍋でだ、十人分ほどは作らんとな?
「…十人分も?」
「それがギリギリの分量ってトコだ。しかも普通の十人分じゃない」
おかわりの分も含まれるのだ、とハーレイはブルーに説明した。
一人がお椀に一杯だけしか食べないのならば、十人分だと言っている量は十二人分を軽く超えるだろう、と。
「つまりだ、お前のお望みの豚汁を作っちまったら、単純に計算したって一人に三杯。それだけの豚汁を食わねばならない。…お前、三杯も食えるのか?」
「そんなに沢山、食べられないよ!」
「ほら見ろ。…第一、お前、お母さんに何と言って俺に豚汁を作らせる気だ?」
シャングリラで食べていた懐かしの味の豚汁、と嘘をつく気か?
それとも俺の作る豚汁が食べたいんだ、と白状するか?
俺はどっちでも気にはしないが、キッチンを借りるまでのお前の苦労も気にしないからな。
「……そっか……」
この方法も無理があったか、とブルーは俯く。
母が納得してくれるだけの説得力のある言い訳を思い付く自信が全く無かった。
シャングリラで食べた味だと大嘘をつくことはしたくなかったし、ハーレイが作る豚汁を食べてみたいと言うことも出来ない。食べたいと言えば「登山マラソンの手伝いに行けばいいでしょ」と返されるのがオチで、そうなったが最後、「ハーレイ先生」のお手伝いで…。
(…食べたいのに……)
けれど食べられそうにない豚汁。
ハーレイが作る、秘伝とやらが生きた豚汁…。
食べたくても手も足も出ない豚汁。
次の土曜日、ハーレイが夕方まで来てくれない日の昼過ぎに柔道部員たちが味わう豚汁。
一度でいいから食べてみたいと、夢に見そうなほどに食べたいハーレイ御自慢の味の豚汁…。
食べられないと分かっているから、余計に食べたい。
ポロリと唇から本音が零れる。
「…ハーレイが作る豚汁、食べたいのに…」
食べたいのに、と零したブルーに、意外な答えが返って来た。
「なら、四年待て」
「四年?」
ハーレイの言葉の意味が掴めず、ブルーはキョトンとしたのだけれど。
当のハーレイは余裕たっぷり、笑みまで浮かべて「四年だ」ともう一度繰り返した。
「分からんか? 四年経ったら、お前は幾つだ?」
「…いくつ?」
「何歳なんだ、と訊いているんだ」
「えーっと…」
十八歳、と答えようとしたブルーだったが、其処でハッタと気が付いた。
四年経てば十八歳になる。それは結婚が許される歳。
ブルーがそれを望みさえすれば、ハーレイと結婚することが出来る歳。
(…まさか…)
まさか、と息を飲んだブルーに向かって、ハーレイがパチンと片目を瞑った。
「やっと分かったか?」
お前が無事に俺と結婚、もしくは婚約出来たら、豚汁を食える所に連れてってやる。
俺の嫁さん、もしくは未来の嫁さんです、って堂々とな。
「ホント!?」
ブルーは思わず叫んでいた。
考えもしなかった豚汁への道。
「ハーレイ先生のお手伝い」ならぬ「ハーレイのお嫁さん」。
そんなことってあるのだろうか。夢ではないか、と頬を抓りたくなるのに、ハーレイは笑顔。
「本当だとも。俺の友達にも紹介してやろう」
あいつら、ビックリするだろうなあ。
とびっきりの美人に育ったお前を、「俺の嫁さんだ」って連れて行ったらな。
「…ハーレイの友達も柔道部の登山マラソンに来るの?」
OBの中にハーレイの友人がいるのだろうか、とブルーは世間の狭さを思ったのだけれど。
「いや、別口のイベントだ」
登山マラソンとは全く別だ、とハーレイが穏やかな笑みを浮かべた。
「あんな早朝から出掛ける行事はお前には向かん。俺の嫁さんを連れて行くなら、嫁さんの身体も考えないとな」
だから俺が行ってた上の学校でやってるOB会だ。
其処の柔道部に稽古をつけたり、見学したりする会がある。
その時に豚汁を作って御馳走するんだ、現役のヤツらに「頑張れよ」って、な。
OB会なら早朝から出掛けなくてもかまわないから、とハーレイはブルーに微笑みかけた。
現役の柔道部員たちの練習場所に顔を出してから、炊事出来る場所で豚汁作り。
豚汁を作るのに間に合う時間に行けさえすれば問題は無くて、早起きもしなくてかまわないと。
「その代わり、お前も手伝えよ? 嫁さんだしな?」
「うんっ!」
ブルーは張り切って頷いたのだが、ハーレイが「待てよ」と顎に手をやる。
「…いや、手伝いはしなくていいか…。嫁さんを大事にしています、と飾っておいて自慢するのもいいな。お前には手伝って貰わずにな」
なんたって、男の世界だしな?
むさ苦しい男どもが溢れる豚汁作りだ、嫁さんに手伝いなんかをさせちゃいかんな。
ハーレイが真顔で言うから、ブルーは「でも…」と首を傾げた。
「ぼく、男だよ?」
「男でも俺の嫁さんだろうが」
違うのか? と訊かれて、自信が無くなってしまったから。
自分でも常々「ハーレイのお嫁さん」になるのだと思っているから、ブルーの頬が赤くなる。
「…それはそうかも…」
お嫁さんかも、と頬を染めたままハーレイを見詰めた。
「手伝えても、手伝えなくても、どっちでもいいよ」
ぼくがどうすればいいのか、ハーレイが決めてよ。
ハーレイが決めてくれたことなら何だっていいし、何だって聞くよ。
だって、ハーレイと結婚するんだもの。
ハーレイのものになるんだもの…。
「男でもいいし、男だけどお嫁さんでもいいよ」
どっちでもいいよ、とブルーは嬉しそうに微笑んでみせた。
「ハーレイが紹介してくれるんだったら、どっちでもいい。男でもいいし、お嫁さんでも」
「そうか、嫁さんでかまわないんだな?」
じゃあ嫁さんだ、とハーレイが腕組みをして大きく頷く。
「俺はうんと美人の嫁さんを貰うつもりでいるしな、お前は俺の嫁さんなんだ」
「分かった。ぼくはハーレイのお嫁さんだね」
「ああ。俺の自慢の嫁さんってことだ」
やはり手伝いはさせられないな。
むくつけき男どもに混じって豚汁なんかは作らせられん。
見学用の椅子に座らせとくのがきっと一番だな、あの美人が俺の嫁さんです、とな。
ハーレイが通っていた上の学校の柔道部のOB会に連れて行ってやる、という約束を取り付けたブルーは、もう御機嫌で。
OB会は毎年あるものなのか、とか、どの時期にあるのか、とかを散々質問した末に。
「早く四年後にならないかな?」
ハーレイのお嫁さんだと紹介して貰うんだから、と指を一本、二本と数えて四本折ってゆく。
四本折ったらまた手を開いて、一本、二本。
はしゃぐブルーは可愛いけれども、何か勘違いをしていそうだから。
ハーレイは「おい」とブルーに注意した。
「俺の嫁さんはいいとしてだ。…豚汁はどうした、それが食いたいんじゃなかったのか?」
お前、豚汁を食いにOB会に行くんだろうが?
俺の自慢の、秘伝の美味い豚汁を食いに。
「そうだよ? 豚汁を食べに行くんだよ。それとハーレイのお嫁さん!」
両方だよ、とブルーは胸を張ったけれども、
実の所は豚汁よりも「ハーレイの
お嫁さん」。
ハーレイのお嫁さんとして出て行けるイベント、OB会。
それがブルーの今の一番のお楽しみだった。
ハーレイの学生時代の友人たちが大勢集まる席で、「俺の嫁さんだ」と言って貰える日。
本当に「ハーレイのお嫁さん」になれたのだ、と心の底から実感出来そうな席。
其処でハーレイと一緒に豚汁を食べる。
ハーレイが作った秘伝の味の、御自慢の豚汁を二人仲良く、「ハーレイのお嫁さん」として。
(…ふふっ、豚汁…)
どんな味かな、とブルーは楽しみでたまらない。
あと四年。
四年経ったら、ハーレイと結婚出来る歳。
その年に開かれるハーレイの柔道部のOB会には自分も一緒に出席出来る。
もう結婚式を挙げていたなら、「ハーレイのお嫁さん」として。
結婚がまだで婚約だけなら、「ハーレイの未来のお嫁さん」。
「未来の」という言葉がついていたとしても、ついていなくても「お嫁さん」には違いない。
そう、大好きなハーレイのお嫁さん。
今はまだ四年も先の未来でしかなくて、ブルーの背丈も百五十センチのままだけれども。
ハーレイと出会った春の頃から一ミリも伸びていないのだけれど、四年経ったら「お嫁さん」。
誰に会ってもハーレイが紹介してくれる。
「俺の嫁さん」だと、出会う人たちにブルーを紹介してくれる。
そしてハーレイの「お嫁さん」だからOB会にも一緒に行けるし、豚汁だって食べられる。
(…ぼく、お手伝いさせて貰えるのかな?)
ハーレイはどっちに決めるのだろう、とブルーは四年後の自分の姿を考えた。
豚汁作りを手伝っているか、飾り物よろしく見学なのか。
どちらであっても、それがハーレイの決めたことならかまわない。
自分はハーレイの「お嫁さん」なのだし、ハーレイのものになるのだから。
(…早くハーレイと食べてみたいな、秘伝の豚汁…)
あと四年だよ、と夢見るブルーの中では、豚汁はもはや「ただの豚汁」ではなくなっていた。
それを食べられる時には「ハーレイのお嫁さん」になっているという素敵な豚汁。
ハーレイの隣で「ハーレイのお嫁さん」として食べる豚汁。
どんなに美味しい豚汁だろう、とまだ見ぬ豚汁を思い描いて、食べる自分を想像して。
もうそれだけで幸せな気持ちが溢れ出して来る、ハーレイ御自慢の美味しい豚汁。
(…ホントに早く食べてみたいよ、ハーレイが作った美味しい豚汁…)
ハーレイと一緒に食べに行くんだ、と四年後に思いを馳せるブルーは、もう柔道部員たちの登山マラソンなど羨ましいとは思わなかった。
早起きまでしてそんな所へ出掛けなくても、もっと素晴らしい未来が待っているから。
大好きなハーレイの「お嫁さん」として食べられる豚汁が待っているから。
(うん、登山マラソンなんかはどうでもいいよ)
あと四年だけ待てばいい。
そうすれば「ハーレイのお嫁さん」。
ハーレイと二人で、二人一緒に豚汁を食べる。
秘伝の味の御自慢の豚汁を、ハーレイの「お嫁さん」として…。
食べたい豚汁・了
※ハーレイ先生の自慢の豚汁、それが食べたいと思ったブルーですけれど…。
いつかハーレイと結婚したら、食べられるらしい夢の豚汁。お嫁さんになって、幸せ一杯。
←拍手して下さる方は、こちらからv
←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv