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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

素肌を飾ろう

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv




シャングリラ学園の新年はお雑煮の大食い大会から。この大会で優勝すると担任の先生の他に二人の先生を指名し、闇鍋を食べさせる権利が貰えます。1年A組は例年無敵の優勝を誇り、今年もグレイブ先生と教頭先生、それにゼル先生の三人に超絶マズイのを食べさせたのですが…。
「諸君、おはよう」
翌朝のホームルームに現れたグレイブ先生の御機嫌もまた超絶最悪というヤツでした。
「闇鍋の件で私は文句を言うつもりはない。諸君は学校からの指示のとおりに食品を一品ずつ持ち寄っただけに過ぎないからな。…だが!」
グレイブ先生は教室を見回し、一番後ろに机が増えていないことを確認すると。
「ブルーは何処だ? 来ていないのか?」
「「「来てませーん!」」」
一斉に答えるクラスメイトたち。会長さんが出て来る時には机が一つ増えるのです。無いんですから来るわけがなく、来るつもりもないのは自明の理。グレイブ先生もそれは分かっている筈で…。
「そうか、いないなら仕方ない。ブルーは1年A組だったな? それでは諸君にお願いしよう」
「「「???」」」
「昨日の闇鍋は最悪だった。ここ数年でも屈指の出来で、私は今朝までトイレと友達だったのだ! この鬱憤を晴らすためにはトイレ掃除しかないだろう。諸君! 放課後は諸君に全校のトイレ掃除を命じる。終礼までに分担を決めておくから覚悟したまえ」
「「「えーーーっ!!!」」」
それはない、とクラス全員がブーイング。闇鍋は恨みっこなしがルールです。なのに…。
「やかましい! 1年A組では私が法律だ! やれと言ったら必ずだ! ブルーがいたなら一人でトイレ掃除をさせたが、いないからには諸君が連帯責任なのだ!」
分かったな、と言い捨てたグレイブ先生は靴音も高く出てゆきました。教室の中は一気にお通夜な雰囲気です。
「…トイレ掃除かよ…」
「あれって普段は業者さんだよな? 学校中ってトイレが幾つあるんだ?」
「さ、さあ…。職員用のも入るのか?」
「どうするのよ、まさか素手でやれとか言わないわよね?」
手が荒れちゃう、と嘆く女子やら、ひたすら文句の男子やら。私たち七人グループも思わぬ出来事に頭が回らず、会長さんに思念波で連絡どころか休み時間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ駆け込むことさえ考え付きませんでした。その結果…。



「諸君、覚悟は出来ているかね?」
分担表を作って来たぞ、とグレイブ先生が終礼で黒板に紙を張り出しました。
「各班ごとに受け持ちのトイレとトイレの場所が書いてある。掃除のやり方は別紙を見たまえ。掃除を終えたら順に報告に来るように。業者さんがチェックし、OKが出たら解散だ。一つでも不可の班があったら、完了するまでクラス全員下校は出来ん。そのつもりでキリキリ頑張るのだな」
「「「………」」」
掃除も連帯責任ですか! 各班の代表が黒板を見に行き、項垂れています。一つの班が掃除するトイレは男女別に二ヶ所か三ヶ所、職員用も含まれていて。
「…ウチは本館ばかり二ヶ所だ」
戻って来た班長さんの台詞で私の班がババを引いたことが分かりました。本館のトイレは教職員専用になってますけど、学校に来た偉い人たちも使います。それだけに充実の設備と備品で、掃除の手間は生徒用に比べて何割増しかは考えたくもない所。他の班も落ち込みポイント多数のようで。
「…仕方ない、行くか…」
「行かないと終わらないからな…」
帰るためにはやむを得ない、とガタガタとあちこちで立ち上がる音が聞こえた時です。
「かみお~ん♪」
ガラリと教室の前の扉が開き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が入って来ました。
「グレイブ、みんなを苛めちゃダメ~! 闇鍋は恨みっこなしだもん!」
「ほほう…。だったらブルーはどうした? まずはあいつが顔を出すのが筋だろう」
お前ではな、と鼻先で笑うグレイブ先生。
「文句があるなら子供ではなく、しかるべき責任者が出て来るものだ」
「だから来たもん! 責任者だもん! コレはぼくしか出せないもん!」
ズイッと突き出された「そるじゃぁ・ぶるぅ」の小さな左手。
「ブルーが押して来なさいって! 気合を入れて丸一日は効く分で!」
「な、なんだと?!」
グレイブ先生が訊き返すのと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び上がったのとは同時でした。小さな左手がグレイブ先生の右の頬っぺたにペタン! と押し付けられて、其処に真っ黒な手の痕が。落款よろしく白抜きで「そるじゃぁ・ぶるぅ」の名前入りです。
「わぁーい、押しちゃったぁー! 左の手形はアンラッキー!」
トイレ掃除をさせるんだったらもっと押すよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコニコ。グレイブ先生はスーツの胸ポケットから取り出した鏡で自分の顔を呆然と眺め、トイレ掃除の刑は取り止めに。クラスメイトは狂喜乱舞で「そるじゃぁ・ぶるぅ」は胴上げですよ~!



得意満面の「そるじゃぁ・ぶるぅ」を先頭に立てて、私たちはいつもの溜まり場へ。生徒会室の奥の壁を通り抜けて入った部屋では会長さんがお茶の用意をしていました。
「やあ。今日は災難だったようだね」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
あんただろうが、とビシィと指差すキース君。けれど会長さんは涼しい顔でアップルジンジャーのショコラタルトを切り分け、ホットココアを配ってから。
「助け舟なら出しただろう? ちゃんとぶるぅを行かせたじゃないか」
「…それはそうだが…。しかしだな!」
「放課後までの間、生きた心地がしなかったって? ぼくに連絡が無かった辺りがパニックぶりの証明だけどさ、たまには普通の学生気分もいいと思うよ」
グレイブの八つ当たりは今に始まったわけじゃなし、と会長さん。
「それにね、黒い手形を披露したいと思わないかい? ぶるぅの手形は有名だけれど、それは右手の赤いヤツ。左手で押された黒い手形の効き目の方もさ、披露しといて損は無い」
生徒相手に使うつもりは無いけれど、と会長さんが言えばキース君が。
「当然だろうが! アレを一般人に使うな!」
「ふふ、究極の破壊兵器だしねえ? 早速始まったみたいだよ」
パチンと会長さんの指が鳴らされ、壁に中継画面が出現。その中ではグレイブ先生が頭からビショ濡れで廊下にへたり込み、バケツを抱えた業者さんが平謝りです。
「拭き掃除中の業者さんと目出度く正面衝突ってね。謝ってるのは業者さんだけど、グレイブが先に足を滑らせてぶつかった。目撃者多数だし、非はグレイブの方に在りだよ」
目撃者は通行人の生徒たち。グレイブ先生は怒るに怒れず、気を取り直して立ち上がったものの、今度は濡れた床で滑って顔からズベーッ! と廊下を磨く羽目に。
「「「……スゴイ……」」」
なんと激しい効き目なのだ、と見ている私たちも衝撃です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の黒い手形はアンラッキー。押されたが最後、それが消えるまで不運に見舞われる代物ですけど、久しぶりに見た効果のほどは凄まじく…。
「まだまだ続くよ、ぶるぅには丸一日のコースで行けって言っといたしね。明日の終礼くらいまでかな。…他の先生たちも手形に気付くし、災難は増える一方かと」
アンラッキーに加えて人的災難も大いに招く、とほくそ笑んでいる会長さん。あっ、中継画面の向こうにブラウ先生が出て来ました。グレイブ先生の頬の手形を見付けたらしくてニヤニヤニヤ。おおっ、早速、携帯端末で写真を撮って送信ですか! グレイブ先生の不幸、一気に拡散…。



右の頬っぺたに黒い手形をペッタリ押されたグレイブ先生。手形パワーに引き寄せられた不運の数々もさることながら、他の先生方が仕掛ける悪戯や罠も半端ではなかったらしいです。
「…諸君、そろそろ消えただろうか?」
憔悴しきったグレイブ先生。翌日の終礼の席で頬を指差し、私たちが。
「「「まだついてまーす!!!」」」
揃って答えた次の瞬間、黒板の上に飾られていた額が落下してグレイブ先生の頭を直撃。はずみで突っ伏した教卓で顔面を強打し、暫く呻いておられましたが…。
「「「…あっ、消えた…」」」
フラフラと身体を起こしたグレイブ先生の頬から黒い手形が消えていました。グレイブ先生は直ぐにポケットから出した鏡で確かめ、ホッと息をついて。
「…やっと消えたか…。諸君、これが恐ろしい手形パワーというヤツだ。在学中に押されないよう、くれぐれも気をつけることだな」
「「「分かってまーす!」」」
元気一杯のクラスメイトたち。黒い手形が生徒に押されることはない、と私たちが説明したため、1年A組を含めた全校生徒がグレイブ先生のアンラッキーを高みの見物だったのです。おまけに頬っぺたの手形があまりにも見事だったため、その次の日から。



「なんかすげえな、大流行りだぜ」
サム君が言う通り、先生方の間でフェイスペイントが大流行。一日目はグレイブ先生を嘲笑うように全員揃って右の頬っぺたに真っ黒なマーク。手形あり、猫やアヒルの足形ありとバラエティ豊かにキメて来ました。次の日からは思い思いのペイントで。
「これは当分、流行りそうだが…。かるた大会くらいまでか?」
それが済んだら入試前だし、とキース君。
「いくらなんでも下見の生徒が来る時期まではやらんだろうしな」
「さあ、どうだか」
なにしろウチの学校だし、と会長さんが放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋でクスクスと。
「自由な校風が売りだからねえ、生徒の服装さえキチンとしてれば逆に好感度はアップかも…。先生方の実力の方は昔から評判なんだしさ。三百年を超える実績!」
「そうだっけ…。じゃあ、当分は続くわけ?」
ジョミー君が今日の先生方のフェイスペイントのユニークさを挙げれば、シロエ君が。
「続いても不思議はないでしょう。…ぼくの読みでは鍵は教頭先生かと」
「「「教頭先生?」」」
「そうです。未だに何も描いてないのって、教頭先生だけですし」
「「「あー…」」」
そういえば、と記憶を遡ってみる私たち。フェイスペイントが流行り始めて一週間ほどになりますけれど、教頭先生だけは一度も描いてらっしゃらないのです。初日の黒いマークで揃えた日でさえ、我関せずと不参加で。
「教頭先生、柔道部の部員に訊かれて「私の柄ではないからな」と仰ってましたけど、相手はウチの学校です。柄じゃないからってやらないでいるとノリが悪いと看做されそうです」
絶対そっちの方向です、とシロエ君。
「ですから、まだまだ続くと思うんですよ。…教頭先生が参加なさるか、あるいは無理やり参加させられるか。先生方が全員揃ってフェイスペイントを披露なさる日まで、ブームは収まらないと見ました」
「そうかもなあ…」
サム君が頷き、スウェナちゃんが。
「有り得るわね。かるた大会の寸劇が済んでも教頭先生が今のままなら、入試シーズンに突入しようとフェイスペイントは続くわよ」
寸劇は弾けるイベントでしょ、とスウェナちゃん。
「それをやってもフェイスペイントをなさらなかったら、ノリが悪いじゃ済まされないわ。強制参加の方に行くわね」
きっとそうよ、というスウェナちゃんの読みが正しかったことを、それから間もなく私たちは知ることになったのでした。



新年恒例の闇鍋と並ぶシャングリラ学園の冬の名物、かるた大会。プールに散らされた大きな百人一首の取り札を奪い合うクラス対抗イベントです。これで学園一位に輝くとクラス担任の他に先生を一人指名し、寸劇をして貰えるという仕組み。これまた1年A組の学園一位がお約束で。
「…諸君、おはよう。昨日は楽しんでくれたかね?」
グレイブ先生、かるた大会の翌朝のホームルームで咳払い。今日は頬っぺたにヒエログリフが輝いています。えーっと、あれって意味があるんですよね、どう読むんだろ?
「今日のペイントは昨日の寸劇に因んでみた。…あの寸劇が誰の趣味かは知らんがね」
うぷぷぷぷぷ…。クラス中が笑いを堪えています。グレイブ先生は自分の右の頬を示すと。
「語学と歴史は私の専門ではないが、笑い物で終わるのは頂けない。これはヒエログリフと言って昨日の寸劇の舞台になった世界の文字だ。それだけではないぞ。この文字を囲む模様にも意味がある。教養の足りない諸君には何に見えるかね? 位牌かね?」
どうだ、と訊かれた模様は位牌のようにも、墓石のようにも見えました。ヒエログリフを取り囲んでいる線のことです。キース君なら知ってるかも、と盗み見れば答えを知っている様子。けれどクラスメイトたちは私と同じで分からないらしく、グレイブ先生は勝ち誇った顔で。
「この模様はカルトゥーシュと呼ばれている。王の名前を囲むためだけに存在している記号なのだよ。ヒエログリフの文章にこれを見付けたら王の名前だと思いたまえ。…そしてカルトゥーシュに囲まれたこの文字はメンフィスと読む」
「「「メンフィス!?」」」
それは昨日の寸劇でグレイブ先生が演じた役名。ピラミッドの国の王の名です。
「昨日の劇は『王家の紋章』という少女漫画から取ったらしいが、男子生徒には知らない者も多いだろう。この機会にカルトゥーシュの存在を覚えることだ。そうすれば少し教養が増える」
馬鹿騒ぎだけで終わらせるな、と靴の踵をカッと鳴らしてグレイブ先生は出欠を取り始めました。寸劇は例によって会長さんの企画です。グレイブ先生は長い黒髪のカツラを被って少女漫画のファラオを演じ、教頭先生がヒロインでしたっけ…。そしてホームルームが済み、一時間目が。
「………おはよう」
チャイムが鳴って入って来た古典の先生。いわゆる教頭先生ですけど、誰もが声を失いました。
「「「………」」」
「そんな顔をしないで欲しいのだが…。私の方も恥ずかしいのだ」
決して私の趣味ではない、と強調している教頭先生。
「これは朝からブラウとエラが…。本当だ、私が描いたのではない!」
違うのだ、と叫ぶ教頭先生を他所に1年A組は爆笑の渦に。教頭先生の顔には両目を黒々と縁取るアイラインやら、濃すぎる緑のアイシャドウやら。昨日のヒロイン、王妃キャロルさながらの派手なメイクはフェイスペイントの一種でしょうねえ…。



教頭先生が無理やり施されたフェイスペイントは悪質なことに油性でした。よほど強力なものを使ったのか、その次の日も取れないまま。その一方で他の先生方はフェイスペイントをピタリと止めてしまっただけに悪目立ち度は群を抜いていて。
「かみお~ん♪ ハーレイ、今日も凄かったね!」
似合ってないね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が子供ならではの遠慮の無さで言い放つ放課後。
「劇と違って服もカツラも無いもんね♪」
「…あった方が怖かったんだが…」
夢に出そうだ、とキース君。
「しかしスウェナが言ったとおりにフェイスペイントは収まりそうだな。教頭先生のメイクも週末までには消えるだろう」
「だろうね」
会長さんが頷いています。
「ぶるぅの手形から思わぬ方向に発展したけど、楽しかったよ。手形を披露した甲斐があった」
「うん、その点はぼくも同意見!」
えっ、会長さんの声が二人分? なんで、と振り返った先で紫のマントがフワリと揺れて。
「こんにちは。なんか凄いね、ハーレイのメイク」
似合わないなんて次元じゃなくて、と言いつつ現れた会長さんのそっくりさん。ソルジャーはスタスタと部屋を横切り、空いていたソファに腰掛けました。
「ぶるぅ、今日のおやつは何があるわけ?」
「えっとね、恵方巻ロールケーキの試作品!」
こんな感じで、と運ばれてきた大皿の上に乗っかったロールケーキはまさしく節分の恵方巻。海苔の代わりに黒いクレープで巻かれた太巻き寿司です。
「「「うわぁ…」」」
こんなケーキもアリなのか、と驚いている間に切り分けられて各自のお皿に。
「シャリの代わりにお米の粉のケーキなの! でね、中の具を何にしようかなぁ…って」
カンピョウとか色々入れるでしょ、と説明してくれる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。色とりどりの具は甘く煮た果物だったりピューレだったり、クリームだったり。
「キュウリは今日は固めのピューレにしたけど、ホウレンソウのケーキで作ってもいいし…。節分までに色々試してみなくっちゃ!」
ケーキ作りの醍醐味だよね、と供された試作品とやらは充分に美味しいケーキです。節分の日にはきっと絶品の恵方巻ロールが出来るでしょう。これは今から楽しみかも~!



恵方巻ロールに感動しながらパクパク食べて、美味しい紅茶やコーヒーも。教頭先生のフェイスペイントのことは誰もがすっかり忘れてましたが。
「…あのさ、ハーレイのメイクだけども」
いきなりソルジャーが口を開いて。
「あれってフェイスペイントだってね、物凄いけどさ。…寸劇のメイクも強烈だったし」
「君のハーレイにもやらせたいとか?」
止めないけれど、と会長さんが言うと、ソルジャーは。
「そうじゃなくって…。せっかくフェイスペイントまで辿り着いたんだ。もう一歩踏み込んでみたらどうかな、と思ったんだよね」
「「「は?」」」
「実は昨日はノルディとディナーで」
ノルディの家で、と悪びれもせずに語るソルジャー。
「いいトリュフが入りましたから、って誘われちゃってさ…。今はトリュフの旬なんだってねえ? トリュフ尽くしで御馳走になって、その時の話題がフェイスペイント」
「…それで?」
嫌な予感しかしないんだけど、と会長さんが先を促せば。
「話が早くて助かるよ。ぼくはノルディに「飾るのは顔しかないのかい?」と訊いたわけ。どうせだったらアソコを飾るとか、そういう系のは無いのかなぁ…って」
「退場!!」
さっさと出て行け、とレッドカードを突き付ける会長さんですけど、ソルジャーは。
「嬉しいなぁ、アソコだけでバッチリ通じるなんてね。…つまりさ、ぼくはハーレイの大事な部分を飾るのとかは難しいかな、ってノルディに訊いてみたんだけれど…」
「退場だってば!」
「人の話は最後まで聞く! ノルディが言うにはアソコにチョコレートを塗ってチョコバナナ風とかが王道だけども、飾るんだったらボディーペイントっていうのがあるんだって?」
「「「ボディーペイント?」」」
なんじゃそりゃ、と首を傾げる私たち。フェイスペイントが顔なんですから、ボディーペイントだと身体でしょうか? 飾るとか言っていますから…。
「そう、身体! これがなかなか凄くってさ」
ノルディが色々と画像を見せてくれたよ、とソルジャーの顔が輝いています。ボディーペイントとやらを吹き込んだ人がエロドクターだけに、ロクでもない画像のオンパレードとか?



ソルジャーがエロドクターの家で見て来た画像について話す前から私たちの警戒感は既にMAX。何を言われても心に耳栓、驚かないぞと決めていたのに。
「服を着ているヤツもあるんだよ」
「「「え?」」」
それは普通に当たり前では? ボディーペイントでも最低限の服は必須というものでしょう。
「あれっ、もしかして通じてないかな? 服を着たように見えるヤツって意味だよ。本当はスッポンポンなんだけど」
「「「えぇっ!?」」」
スッポンポンって…全裸ですか? 裸でボディーペイントですか?
「それが王道みたいだよ? 背景の壁と同じ色に塗って透明人間風を気取るとか、動物なりきりでシマウマみたいに塗っちゃうとか…。服を着ていちゃそうはいかない」
な、なんと…! 服は無いのがデフォですって?
「そうなんだよねえ、中には上半身とかだけっていうのもあるけどさ。…ノルディが言うにはアートの域まで達するためには潔く全身ペイントらしいよ。その一環として服を着ているヤツも」
服と見せかけて実は描いてあるのだ、とソルジャーは解説を始めました。
「もうね、服の模様からボタンとかベルトまでキッチリと描いてあるんだな。近寄って見たらスッポンポンだと気付くだろうけど、遠目には絶対分からないね。ああいう世界をハーレイにやらせてみたらどうかと」
フェイスペイントから踏み込んで、と指を一本立てるソルジャー。
「もちろん自分で出来るアートじゃないからねえ? ハーレイの身体はあくまでキャンバス、ペイントするのは他の人! それをブルーがやると言ったら絶対に釣れる!」
「…あまりやりたくないんだけれど?」
スッポンポンのハーレイなんて、と会長さんは全く乗り気じゃないのですけど、ソルジャーは。
「ううん、やったら楽しいって! 漠然とそういう考えでいたら、恵方巻ロールケーキの試作品なんて素敵なモノがね…。どうだろう、ハーレイの身体をお菓子みたいに飾ってみるとか! イチゴを描いたり、クリームを塗ったり、デコレーションケーキのハーレイ風!」
でね、と微笑んでみせるソルジャー。
「デコレーションケーキなペイントにするなら、画材の方も食べられるヤツで! 上手く描けたら食欲アップで君がハーレイを食べたくなるとか、ぼくが味見とか、こう、色々と」
「却下!!!」
「誰も食べろとは言っていないし、食べるとも言っていないけど? 要するにアレだよ、ハーレイをその気にさせる餌だよ」
飾るだけ飾って後は笑い物、とソルジャーはニヤリ。つまり絵を描くだけなんですか?



フェイスペイントならぬボディーペイント。ソルジャーの提案は実に恐ろしいものでした。教頭先生の身体をキャンバスに見立て、デコレーションケーキ風に仕上げるつもり。あまつさえ食べられる素材で絵を描き、食べて貰えると思い込ませる方向で…。
「いいアイデアだと思うけどねえ? それにさ、万に一つの可能性でさ、君がハーレイを食べたくなるかもしれないし…。食べないなら食べないで笑えばいいしね」
「……うーん……」
会長さんが葛藤していることが傍目にもハッキリ分かりました。日頃から教頭先生をオモチャにしたがる会長さん。フェイスペイントの切っ掛けになった寸劇もその一つです。ブラウ先生とエラ先生にメイクをされた教頭先生の姿も大いに楽しんでいるわけですから、ボディーペイントも…。
「…悪くないとは思うんだけど……」
落とし所をどうするか、と腕組みをする会長さん。
「笑い物にするっていうオチだったら、ボディーペイントをする価値はある。でもねえ、飾って笑ってそれで終わりに出来るかなぁ…?」
ハーレイは諦めが悪いんだ、と会長さんはブツブツブツ。それでも心はかなりボディーペイントへと傾いてしまっているようです。
「面白そうだし、食べられる画材でやるっていうのも楽しいけれど…。全身お菓子なデコレーションケーキに「食べてくれ」って追われるのはねえ…」
それだけは勘弁願いたい、と零す会長さんに、サム君が。
「外へ逃げればいいんじゃねえか?」
「ああ、そうか! 外へ出ちゃったらストリーキングか…」
服を着てないんだったっけね、と会長さんがポンと手を打ち、キース君が。
「いわゆる公然猥褻罪だな、警察を呼ばれても仕方ない。…俺はそこまでやりたくはないし、その前に教頭先生を止めに入るのが筋だと思うが」
「なるほどねえ…。ハーレイがしつこかったら外に逃げる、と。退路があるならやってもいいかな、ブルーのお勧め」
その気になった会長さんに、ソルジャーが至極満足そうに。
「いいねえ、やる気になったんだ? それじゃ顔のメイクが取れそうな頃合いで土曜日はどう? 君がいつでも逃げ出せるようにハーレイの家へ押し掛けてってさ」
「そうだね、ぼくの家では逃げても外の廊下だし…。それにスッポンポンのハーレイを家で拝むのも嬉しくないし」
「決まりだね。土曜日はハーレイをデコレーション! 美味しそうなデザインを考えといてよ、恵方巻ロールの試作ついでに!」
楽しみだなぁ、とワクワクしながらソルジャーは帰ってゆきました。やるんですか、ボディーペイントを? それも食べられる材料で…?



教頭先生の顔のメイクがなんとか消えた金曜日の放課後。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は恵方巻ロールケーキの試作を続けているようですけど、私たちのおやつはフランボワーズのタルトでした。試作品は会長さんと試食した後、「ぶるぅ」に送っているようで。
「あのね、ぶるぅも試食をしたいらしいの! それに一人でうんと沢山食べるしね♪ 一日に三十本でも食べられるよ、って!」
頼もしい協力者の出現で恵方巻ロールは素晴らしい進化を遂げそうです。節分には最高の出来のが出て来るでしょうが、その前に明日が問題で。
「…おい」
キース君が会長さんに声を掛けました。
「教頭先生には言ってあるのか、例の話は」
「言ってないけど? そういうのって基本はサプライズだろ?」
ぼくがハーレイを食べてあげるかもしれないんだよ、と会長さん。
「鼻血を堪えてボディーペイント! 食べられる画材も用意したしね。ね、ぶるぅ?」
「うんっ! お勉強にも行ったんだよ、ぼく!」
「「「お勉強?」」」
何処へ、と尋ねた私たちに「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエッヘンと。
「ケーキ屋さん! イラストケーキとキャラクターケーキのお店なの!」
「「「えっ?」」」
なんですか、それは? イラストケーキ…?
「えっとね、写真とか絵とかをケーキの上に描くんだよ♪ 普通のケーキも作ってるけど!」
こんな感じで、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が見せてくれた写真には会長さんとフィシスさんの似顔絵が描かれた大きなケーキが。フィシスさんはもちろん金髪、会長さんの瞳は赤です。二人の似顔絵の周囲にクリームを絞り出し、フルーツなんかもトッピング。
「お勉強に行って作って来たの! ブルーとフィシスと、ぼくと三人で食べたんだ♪」
「フィシスもとっても喜んでくれたよ、沢山写真を撮ったんだけど…。見る?」
けっこうです、と言うよりも先に会長さんがプリントした写真を何枚も。ケーキを前に笑顔の会長さんとフィシスさんやら、ウェディングケーキの入刀式風やら、御馳走様ですとしか感想の出ない甘々な写真が次から次へと…。
「というわけでね、ぶるぅは食べられる画材の知識はもうバッチリ! どんな色でも作り出せるし、ハーレイをデコレーションケーキに見立てるくらいは朝飯前さ」
「かみお~ん♪ この写真だってケーキに描くなら描けちゃうもんね!」
青でも緑でもドンとお任せ! と胸を張りつつ、こう付け加えるのも忘れなかった「そるじゃぁ・ぶるぅ」はプロ中のプロ。
「でもね、恵方巻ロールは自然の色で頑張るよ!」
食用色素は使わないんだ、との嬉しいこだわり、流石です~!



こうして迎えた運命の土曜日。私たちが会長さんのマンションに行くと、ソルジャーが先に来ていました。私服姿で会長さんと一緒にボディーペイントの材料をチェック中で。
「こんにちは。ハーレイのケーキはチョコレートクリームでいくらしいよ」
「素材の色は活かさなくっちゃね? ぶるぅもそういう意見だし」
だからチョコレートクリームたっぷり、と会長さんが指差すボウル何杯分ものクリーム。教頭先生の肌の色を見事に再現してあるようです。
「これをベースにフルーツとかを描いていくわけ。君たちに絵心は期待しないけど、クリームくらいは手伝ってよね」
「「「えぇっ!?」」」
「ムラが出来ないよう、綺麗に塗る! ケーキだとパレットナイフになるけど、相手はハーレイの身体だし…。刷毛を用意したからコレでお願い。細かい部分はこっちの筆で。ノルマは女子が腕を一本ずつ、残りは男子がジャンケンでどうぞ」
両足と顔から下の身体だ、と会長さんに言われた男子は顔面蒼白。ですが…。
「あっ、待って! 大事な部分はぼくが塗りたい!」
一度は練習しておかないと、とソルジャーが名乗りを。
「ノルディお勧めのチョコバナナをねえ、やろうと思っているんだな。もちろん、ぼくのハーレイで! デコレーション用のチョコペンもピンクとか青とか買ったんだよ。だけどベースのチョコを塗らなきゃ」
そのために予行演習を、と燃えるソルジャーのお蔭で男子の役割分担も決まった模様。私たちは会長さんたちの青いサイオンにパァッと包まれ、瞬間移動で教頭先生の家のリビングへと。



「な、なんだ!?」
教頭先生はソファで寛いでおられましたが、突然の来客に腰を抜かさんばかりです。
「御挨拶だねえ…。素敵な提案をしに来たのにさ」
まあ聞いてよ、と会長さん。
「この間からフェイスペイントが流行ってたけど、君の好みじゃなかったようだね。ボディーペイントはどうだろう? 好みだったらしてあげたいな、と」
「…ボディーペイント?」
「そう。君の身体をキャンバスに見立てて絵を描くわけ。…実はブルーのアイデアでさ。君をまるっとケーキみたいにデコレーション! 美味しそうに描けたら食べたい気持ちになる…かもしれない。ブルーは味見をしたいらしいし」
「あ、味見…?」
教頭先生の頭の中では妄想が渦巻いているようです。頬が赤いのがその証拠。そこへ会長さんが更に重ねて。
「ケーキに仕立てようって言うんだからねえ、服も下着も脱ぐんだよ? さっきシャワーを浴びたトコだろ、脱いでくれたら直ぐに描くから!」
「かみお~ん♪ 絨毯が汚れないように、この上に寝てね!」
ケーキだから寝た方が絵になるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言い、会長さんも。
「全身くまなく塗るってボディーペイントもあるけどね…。今回のヤツは寝たままで! 気に入ってくれたら全身バージョンも考えるよ」
「…ほ、本当か?」
「その様子だと好みらしいね、ボディーペイント? どう、やりたい?」
「是非!!!」
教頭先生は即答でした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がシートを床に広げるとセーターを脱ぎ、ズボンも脱いでお次は下着をいそいそと。スウェナちゃんと私の視界にはモザイクが入り、教頭先生が仰向けに横たわって…。
「こ、こんな感じでいいのだろうか?」
「上等、上等。それじゃベースのチョコクリームから! 君の肌の色にそっくりだろう?」
ぶるぅが頑張ってチョコとかを調整したんだよ、と会長さんがボウルの中身を自慢し、私たちは刷毛を握って自分のノルマを塗り塗り塗り。あっ、教頭先生、くすぐったいのは分かりますけど、身動きしないで下さいますか? クリームがムラになっちゃいます~!



ベースが出来たら会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の出番です。ソルジャーは未だにノルマの部分が上手に塗れないみたいですけど…。
「うーん、ぼくって不器用だから…。ブルー、並行して描いちゃってよ」
「そうだねえ…。そこの飾りは最後でいいかな、食べたい気分になるかどうかも疑問だし」
それじゃお絵描き、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と手分けしてフルーツや絞り出したクリームなどの絵を描き始めました。おおっ、なんだか本格的! 教頭先生の身体が巨大なデコレーションケーキに変身しつつありますよ~!
「…見事なものだな、どうなることかと思ったが」
キース君が感心する横で、マツカ君が。
「確かにこれならアートですね。もうケーキにしか見えません」
「ですね、会長の腕も確かですよ」
シロエ君も手放しで褒めています。でもソルジャーが引き受けた部分の作業は滞り気味で…。
「もうダメだぁ~! ぼくには向いていないよ、コレ!」
ただのチョコバナナじゃダメなのかい、とぼやくソルジャー。
「塗って飾って食べるだけだし、要は食べられればいいんだろう! 塗りが下手でも!」
「ちょ、ちょっと…!」
待った、と会長さんが止めに入ったのに、ソルジャーは。
「ハーレイ、君もそう思うよね? 見た目がどうでも食べて貰えれば嬉しいよねえ?」
「そ、それは…。それは、まあ……」
「だってさ。それじゃ本人のお許しも出たし、少し味見を…」
いっただっきまーす、とソルジャーの口から赤い舌が。私たちはウッと息を飲み、ザッと後ろに下がりましたが…。



「なにさ、ヘタレ!!」
まだ味見だってしていないのに、とソルジャーは眉を吊り上げてプンプンと。デコレーションケーキと化した教頭先生は鼻血を噴いて気を失っておられました。会長さんが大きな溜息を吐き出し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「…こうなる予感はしてたんだよね…。ぶるぅ、例のヤツを」
「かみお~ん♪ お祝いケーキには蝋燭だよね!」
何のお祝いだったっけ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が取り出した蝋燭の太さは一センチ以上ありそうです。色もピンクや緑などなど鮮やかなそれを会長さんがクスクス笑いながら。
「やっぱりケーキは飾らなくちゃね。ついでにお灸も兼ねるんだ、これは」
「「「お灸?」」」
「ぼくが本気でハーレイを食べようと考える筈がないだろう? そこを読み違える妄想男にお灸で罰を下すわけ。この蝋燭をこうして飾って……と」
刺さらないからサイオンで、と会長さんは何十本もの蝋燭を教頭先生の身体の上に並べ終えると。
『もしもし、ハーレイ? 今からお灸をすえるから! 蝋燭が燃え尽きるまで君をサイオンで縛っておくから、しっかり反省するといい。その色ボケを反省しながら熱さに耐えて頑張って!』
タイプ・グリーンなら火傷はしない筈なんだよね、と艶やかに笑ってサイオンで点火。ほ、本当に大丈夫ですか、蝋燭は熱いと思うんですが!
「だからお灸と言っただろう? タイプ・グリーンだし、お灸程度で済むと思うよ」
じわじわとお灸を一時間、と会長さんは悪魔の微笑み。一時間タイプの蝋燭だったみたいです。
『じゃあね、ハーレイ。それじゃ、さよなら~!』
バイバイ、と会長さんが私たちと瞬間移動で逃げる瞬間に教頭先生の意識が戻りました。サイオンで叩き起こしたに違いありません。
「ま、待ってくれ、ブルー! 私は動けないのだが!」
助けてくれ、という教頭先生の絶叫は中継画面の彼方から。私たちはソルジャーも一緒に会長さん宅のリビングで…。
「あーあ…。お灸が君の趣味なんだ? 食べるんじゃなくて?」
如何にも残念そうなソルジャーに、会長さんが。
「ぼくは君とは違うからね? 落とし所を考えてた時から蝋燭の案は出ていたさ」
食べるなら君の世界でどうぞ、と言われたソルジャー、少し悩んで。
「そうだね、帰って食べようかな? 最高級のチョコバナナ!」
恵方巻ロールも完成したら是非よろしく、とウインクを残してソルジャーは自分の世界へと。デコレーションケーキな教頭先生の上ではお灸な蝋燭がゆらめいています。何のお祝いか知りませんけど、歌った方がいいのでしょうか? 教頭先生、バースデーソングでよろしいですか~?




           素肌を飾ろう・了

※新年あけましておめでとうございます。
 シャングリラ学園、本年もよろしくお願いいたします。
 新年早々、下品な話でスミマセンです、でも、こういうのがシャン学ですから!
 ボディーペイントはホントに凄い世界です、画像はネットに色々あります。
 次回は 「第3月曜」 2月15日の更新となります、よろしくです~!

※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、1月は、スッポンタケの形だという粥杖が欲しいソルジャーが…。
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