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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

温もりと灯り

「ブルー。右の手、温めてやろうか?」
 庭の木の葉が色づき始めて、朝晩は肌寒く感じる日も混じり始めたから。休日にブルーの部屋を訪れたハーレイが問えば、「うん」と嬉しそうに小さな右手が差し出された。
 お茶とお菓子が置かれたテーブルを間に挟んで、ハーレイの大きな右手がブルーの手をそうっと握って包む。
「ふふっ、温かい」
 くすぐったそうに微笑みながらもブルーの心が幸せに満ちてゆくのが、ハーレイの心にも握った手を通して伝わって来た。
 遠く過ぎ去った遙かな昔に、前の生の最期に、温もりを失くしてしまったブルーの右の手。
 忌まわしいメギドでハーレイの温もりを失くした右の手。
 ソルジャー・ブルーだった時のブルーが最期まで覚えていたいと願った、シャングリラを離れる前にハーレイの腕に触れた手に感じた確かな温もり。それを抱いて逝きたいと願った温もり。
 けれどもブルーは失くしてしまった。銃で撃たれた痛みの酷さがブルーから温もりを奪い去ってしまった。
 最期まで共に在りたいと願ったハーレイの温もりを失くしてしまって、メギドにブルーはたった一人きり。恋人の温もりは消えてしまって、ハーレイはもう何処にも居ない。
 もう会えないと、独りぼっちになってしまったと、泣きじゃくりながらブルーは逝った。右手が冷たいと、凍えて冷たいと泣きじゃくりながら、温もりを取り戻す術も無いまま…。



 ソルジャー・ブルーだった自分の悲しい最期を今のブルーも覚えている。
 右の手が冷たく凍えた記憶は小さな胸に深く刻まれている。
 だから小さな右の手はハーレイの温もりを求め、幾度も幾度も縋って来た。前の自分が失くした温もりを取り戻すかのように、それが欲しいと縋って来た。
 再会した春から暑い夏を経て、秋までの月日を共に過ごして。
 ずいぶん落ち着いたブルーだけれども、今でもやはり右の手の温もりは特別なまま。
 以前ほどに強請って求めはしないけれども、こうして問われれば右手を差し出して来る。それが欲しいと、ハーレイの温もりを移して欲しいと。
 今も右の手を包み込まれて、ブルーは幸せそうだから。
 利き手を握られているというのに、何の不自由も無いとばかりに湯気の立ち昇る紅茶のカップを放っているから、ハーレイは前のブルーがどれほどの寂しさと悲しみの中で逝ってしまったのかを思わずにはとてもいられない。
 こうして今もなお、自分と向かい合っていてさえ、ブルーの心は癒えていないのかと。
 熱い紅茶を楽しむことより、失くした温もりを取り戻す方が大切なのかと…。
 そうしてハーレイは溜息をつく。
 前のブルーを失くした自分がどうであったかを思い出したから。



「…人の思いとは分からんものだな」
 ハーレイの口から零れた言葉に、ブルーが「何が?」と小さく首を傾げる。
 不思議そうに見詰める赤い瞳を見詰め返して、ハーレイは言葉の続きを紡いだ。
「まさか温もりとは思わなかった」
 前のお前が最期に欲しかったものが、温もりだったとは思わなかった。
 前の俺は勘違いをしていたようだ。
 てっきり灯りだと思っていたんだがな…。
「灯り? …なんで?」
 なんで灯り、と小さなブルーが目を丸くした上、パチクリと瞬きまでもしているから。
 それも忘れてしまったのか、とハーレイは恋人の手をキュッと握って。
「忘れちまったか? お前が俺に教えたんだろうが、遙か昔には蝋燭だった、と」
「……蝋燭?」
 ますます意味が分からない、といった体のブルーだったけれども。
 暫くしてから「ああ…!」とコクリと頷いた。
 忘れていたことを思い出したと、ソルジャー・ブルーだった頃の話だった、と。
 遠い遠い昔に、白いシャングリラで暮らしていた頃。
 ブルーは確かにそれを口にした。
 蝋燭を灯してやりたいのだと、死んでいったミュウたちのために灯りを灯してやりたいのだと。



 SD体制の時代を迎えて、人を弔う習慣も変わった。
 そもそも家族が存在しない。家族はあっても、ままごとのような作り物の家族。
 育英都市では養父母と、人工子宮から生まれた子供の組み合わせ。
 その他の大人が暮らす都市では、夫婦と息子や娘のいる家族。老夫婦から孫の世代までが揃う家族さえ存在したのだけれども、それらは養子縁組が成された結果。血縁関係などは無かった。
 養子縁組をして家族になっても、気が合わなければそれでおしまい。家族関係は終了となって、息子や娘はまた別の家へと移ってしまう。それが普通で誰も咎めず、不義理だとさえ思わない。
 本物ではない作り物の家族。組み合わせが上手くいった時だけ、孫世代までの家族が出来る。
 そうやって生まれた家族の中では死者を悼み、泣くこともあったけれども。
 死者を葬った墓地を幾度も訪ねて花を手向ける者たちもあったけれども、そうはしない者たちも数多く居た。
 死んでしまえばそれで終わりだと、墓標さえ作る必要は無いと。
 まして葬儀など要りはしなくて、社会的に必要な最低限の死亡通知と広告のみ。それさえも全て機械任せで、骸はマザー・システムが派遣して来る係が処理した。
 そう、弔うのではなくて「処理」だった。人類たちはそれで良しとしていた。



 けれどシャングリラに居たミュウたちは皆、家族にも似た存在であったから。
 人類たちと違って死者を深く悼み、墓碑も花を手向ける習慣もあった。
 居住区に散らばる庭の一つに設けられた墓碑。
 死んでいった仲間たちの名が刻まれた墓碑は木々や花に囲まれて静かに其処に佇んでいた。
 亡き仲間たちを思い出した時は、誰もが出掛けて祈りを捧げる。其処に眠る仲間たちを知らない子供たちも「大切な場所」だと分かっているから、遊びの合間に花を摘んで飾ったりもした。
 何人ものミュウたちが訪れる場所。死者に祈りを捧げにゆく場所。
 亡き仲間たちを前のブルーは大切に思い、決して忘れはしなかったから、幾度となく墓碑の前を訪れ、静かに祈りを捧げていた。ハーレイも共に何度も祈った。
 シャングリラに咲いた花を手向けて、亡き仲間たちが安らかであるようにと。
 そんな中でブルーが零した言葉。
 アルタミラで死んでいった仲間の数だけ、蝋燭を灯してやりたいのに…、と。
 それなのに数が分からないのだと、正確な数が分からないのだ、と。



「蝋燭ですか?」
 青の間でブルーからそれを聞かされた時、ハーレイは酷く驚いた。
 何故、蝋燭などとブルーが言うのか分からなかった。
 シャングリラに蝋燭はあったけれども、それを弔いの場で使ってはいない。墓碑のある庭も花を手向ける場所はあっても、蝋燭を灯す場所などは無い。
 首を捻ったハーレイに、ブルーは「蝋燭だよ」と静かな声音で繰り返した。
「遠い昔には、蝋燭を亡くなった人の数だけ灯して祈った。蝋燭でなくても、灯りだった。小さな器に灯りを灯して、幾つも並べた」
 そんな時代があったんだよ。
 ずっとずっと遠い昔の地球には、そうやって亡くなった人を悼んだ時代があったんだよ…。
「どうして蝋燭だったのでしょう?」
 ハーレイにとって蝋燭は光源だったのだけれど。優しい光だとは思ったけれども、あくまで光を生み出すための道具の一つだったのだけれど。
「さあ…?」
 ぼくにも由来は分からないんだ、とブルーは少し困った風で。
「だけど、ホタルを知っているかい? 暗闇で光る小さな虫だよ。そのホタルを人の魂だと考えた時代があったり、正体の分からない光を人魂と呼んだりもした」
 魂は灯りと結び付きやすいものだったんだろう。だから蝋燭だったんじゃないかな。
 あるいは、亡くなった人が暗闇で迷わないように。
「暗闇?」
「死者の世界へ向かう道はね、暗いと思われていたんだよ。そのための灯りかもしれないね」
 蝋燭を灯して、この灯りを持って行って下さい…、と。
 暗い道でも、蝋燭の光で足元を照らしながら迷わずに歩いて行けるように、と…。



 遠い日にそんな話を交わしていたから、ハーレイは灯りだと思ったと言う。
 ブルーをメギドで失くしたその日に、灯りを届けてやらねばと気付いて、そうしたかったと。
「お前のために灯りを灯してやりたかった。お前が暗闇で困らないように」
 だが、俺の部屋には蝋燭は無くて、貰いに行こうにも、もう深夜だった。
 蝋燭を何処に保管しているのか、それが分かればキャプテンの権限で何とか出来たが…。生憎と俺は知らなかったし、係のクルーはとっくに眠った後だった。
「叩き起こしてまでは訊けんしな? …遅くなったのは俺が悪いんだしな…」
 ハーレイは苦しげに呟いた。
 ジョミーがアルテメシアへの進攻を決めたから、会議や航路の策定などで遅くなったと。
 それだけでも遅い時間になっていたのに、ブルーの面影を求めて訪ねた青の間。ブルーの形見が何か無いかと、それを探しに出掛けた青の間。
 其処でハーレイを待っていたものは、塵一つ無く綺麗に掃除され、整えられた部屋で。
 ブルーの銀色の髪の一本すら落ちていなくて、ベッドには皺の一つも無かった。ブルーが最後に水を飲んだのか、それさえ分からない新しい水を満たした水差し。洗われて光を反射するグラス。
 あまりの衝撃に、ハーレイは声さえ出せなかった。
 其処でどのくらい独り立ち尽くして泣いていたのか、ブルーを失くしたと泣き続けたのか。
 ようやっと我に返って部屋に戻って、ブルーのために灯りを灯さねばと気付いたのに。
 気が付いたのに、とうに深夜になっていた。
 ハーレイの手元に蝋燭は無くて、蝋燭の在り処も分からなかった…。



「…お前が逝ってしまったというのに、俺は灯りの一つも灯してやることが出来なかったんだ」
 俺の部屋には蝋燭が無かった。
 お前のために灯りを灯してやらなければ、と気付いたのに俺は灯せなかった。
 それに、お前の形見すらも。
 お前の髪の一筋さえも手に入れることは出来なかったし…。
「酷い甲斐性なしだろう? 前の俺は…」
 ハーレイの手がブルーの右手を握る。
 甲斐性の無い自分だったから、ブルーを失くした。
 ブルーを追ってメギドへも飛べず、引き止めることも出来ずに失くしてしまったのだ、と。
「甲斐性なしの俺には祈ることしか出来なかった。祈るだけしか出来なかった…」
 お前のために灯す蝋燭も無くて、お前に灯りを渡せないから。
 ただ泣きながら祈り続けた。
 お前が暗い道で迷わぬようにと、真っ直ぐに幸せな地へと歩いて行けるようにと…。



 なのに、とハーレイは辛そうに顔を歪めた。
「…本当に人の思いは分からんものだ。お前が欲しかったものは灯りじゃなかったというのにな」
 お前は温もりが欲しかった。
 温もりを失くしたと泣きながら死んだお前には、それが必要だったのに。
 灯りなんかじゃなかったというのに、俺は灯りだと思い込んでいた。
 俺にはお前の気持ちさえも分からなかったんだ。
「どうしようもない甲斐性なしだな、前の俺はな。…温もりと灯りじゃ大違いだ」
 独り善がりにもほどがある、と呻いたハーレイだったけれども。
 小さなブルーがその顔を見上げて問い掛けた。
「ハーレイ、どうやって祈っていたの?」
「…どうって…」
「祈ってた時のポーズって言うの? …どんな風にしてたのかなあ、って」
「ああ…。あの時の俺か?」
 すまん、と断ってハーレイはブルーの右手を包んでいた手を離すと、祈る形で組み合わせた。
「…こうだったが?」
 どうかしたのか、と訊くとブルーは「うん」と微笑み、「それで合ってる」と嬉しげに言った。
「ハーレイ、それで合ってるんだよ」
 そう言われても、ハーレイには何のことだか分からないから。
 「何がだ?」と怪訝な顔で尋ねれば、「それで正解」と答えるブルー。
「その手の形で正解なんだよ。そのお祈りの形が正解」
 前のぼくが欲しいと思っていたもの。
 ハーレイがくれるなら、それしかないよ。
 そうやって両手を組み合わせないと、手から温もりは生まれて来ないよ…。



 灯りよりもそれの方が正しい、とブルーは幸せそうな笑みを浮かべた。
 ハーレイの祈りは正しかったと、それこそが前の自分が本当に欲しかったものだ、と。
 しかしハーレイには自信が無かった。
 ブルーが正解なのだと言っても、偶然の一致としか思えないから。
 温もりを届けたいと思って祈ったわけではないから、組み合わせていた両手を離すと、もう一度ブルーの右手を包む。そうやって包み込み、温めながらブルーに訊く。
「…だが……。俺の温もりはちゃんとお前に届いただろうか?」
 暗闇を照らす灯りの代わりに、お前の所に届いただろうか?
 お前の手を温められたんだろうか…。
「んーと…。ぼくは覚えていないけれども、届いた筈だよ」
 ちゃんと届いたよ、とブルーは笑顔になった。
「今はハーレイの本物の温もりが此処にあるもの。ぼくの所にはちゃんと届いた」
 届いたから右手が温かいんだよ、今も温かくて幸せだもの。
 甲斐性なしだってハーレイは言うけど、それは間違い。
 ハーレイは前のぼくが本当に欲しかったものを、ちゃんと分かってくれてたんだよ。
 蝋燭の灯りより、温もりがいいと。



「…そうだろうか?」
 ハーレイには全く自信が無いのに、ブルーは「そうだよ」と笑みを湛える。
「ハーレイはちゃんと分かっていたから、祈ってくれた。ぼくに温もりをくれたんだよ」
「…蝋燭が無かっただけだと思うが…」
 その通りだから、そう言ったけれど。
 小さなブルーが「ううん」と首を左右に振った。
「違うよ、ハーレイ。蝋燭が無かったのは、ほんの偶然。もしも蝋燭があったとしたって、灯りを灯したら、それでおしまいにはしないよね?」
「…それはまあ…。蝋燭を灯して、それからやっぱり祈っただろうな」
「ほらね」
 合ってるじゃない、と赤い瞳が煌めいた。
「ハーレイにはちゃんと分かってたんだよ、前のぼくは何が欲しかったのか」
 ぼくは蝋燭の灯りなんかより、ハーレイの温もりが欲しかった。
 右手が凍えて冷たかったから、温もりを分けて欲しかった。
 それを大切に持って、灯りの代わりにしっかりと抱いて。
 そうやって歩いて行きたかったんだよ、行き先が何処かは分からなくても…。



 ハーレイにはぼくの気持ちが通じていたよ、とブルーは微笑む。
 暗闇を照らす灯りの代わりに、ハーレイから届いた優しい温もり。
 それが自分を導いて来たと、青い地球まで連れて来たのだと。
「だからハーレイと一緒に地球まで来られた。青い地球まで来られたんだよ…」
 ぼく一人では来られないよ。
 地球までの道も分からなければ、どうやって行くのかも分からないもの。
「絶対、ハーレイのお蔭なんだよ。前のハーレイは地球まで行ったんだもの。地球まで辿り着いたハーレイが道案内して、連れて来てくれたんだとぼくは思うよ」
「おいおい、神様じゃなくってか?」
 其処は神様の出番だろう、とハーレイは慌てて遮ったけども、ブルーの答えは「両方」だった。
「神様とハーレイと、両方とも。…ハーレイが祈ってくれたからだよ、ぼくのために。前のぼくが神様の所へ行けるようにと」
 前のぼくは神様の所へ行って、其処で地球へ行って来たハーレイと会って。
 それから二人で地球に来たんだよ、ハーレイが道案内をして。
「…そうなのか? そうだといいが…」
 まだ自信の無いハーレイだったが、ブルーは「そうだよ」と自信たっぷりに頷いた。
「きっと、そう。ぼくにはそれしか思い付かない」
 ハーレイに温もりを届けて貰って、ぼくの右手が温かくなって。
 その右の手を引いて貰って、ぼくは地球まで来たんだと思う。
 地球はこっちだ、って引っ張って貰って、ハーレイと一緒に二人で歩いて…。



「だからね、ハーレイ。ぼくはハーレイからちゃんと貰ったよ、欲しかったものを」
 この手がくれる温もりだよ、とブルーは自分の右手を包み込んだ褐色の手を左手で撫でた。
「前のハーレイがくれた温もり。灯りよりも欲しかった、ハーレイの温もり…」
 蝋燭も灯りも要らなかったよ、とブルーの小さな手がハーレイの大きな手に重ねられる。
 この温かな温もりだけが自分を導く。
 暗闇を照らす灯りの代わりに、何処までも導いてくれるのだ…、と。
「ぼくを地球まで連れて来てくれたのも、ハーレイの手だよ」
「それならいいがな…」
 俺には本当に自信が無いが。
 前のお前に温もりを届けた自信も無ければ、道案内が出来た自信も無い。
 蝋燭さえも灯せなかったような俺にだ、其処までのことが出来たんだろうか…?
「出来たと思うよ、ハーレイだもの」
 だって、ハーレイはキャプテンだもの。
 あんなに大きかったシャングリラの進路も、ハーレイが決めていたんだもの。
 舵を握って運んでいたんだもの…。
 小さなぼくの行き先を決めて、連れて行くくらいは何でもないよ。
 ぼくはシャングリラよりもずっと小さくて、ハーレイの腕でも持ち運び出来る大きさだもの。
 地球までの道が遠くて歩き疲れたら、きっと背中に背負ってくれた。
 もしかしたら抱き上げて運んでくれたかもしれないね。
 「あと少しで地球に着くからな」って。
 「地球が見えたら、ちゃんと自分の足で歩くんだぞ」って…。
 そんな風にハーレイに運んで貰って、地球までの道を教えて貰って。
 二人で地球まで来たんだと思うよ、この青い地球に。
 きっと二人で、ずっと遠くから青い地球を見て。
 あれが地球だと教えて貰って、ぼくは感激して泣いたと思う。
 やっと地球まで来られたんだと、青い地球をホントに見られたんだ…、と。



 でもね、とブルーはハーレイの手を、小さな左手と包み込まれた右手でキュッと握った。
「地球に来られたことも嬉しいけれども、ぼくの一番はハーレイだよ?」
 ハーレイと一緒に地球に来られたから嬉しいんだよ、と小さな両手に力をこめる。
 褐色の大きな手には敵わないけれど、ブルーの力の精一杯で。
「蝋燭の灯りを貰うよりも温もりが欲しかった。それを届けてくれた手が大好きだし、ハーレイの温もりも、ハーレイも大好き。ぼくはハーレイのことが誰よりも好き」
 だから、この手を離さないで。
 ぼくの手を握って、絶対に離さないで…。
「ホントに離さないっていうのは無理だし、お茶を飲むにも離さなくっちゃ駄目だけど…」
 だけど、約束。
 前のぼくはハーレイの前から勝手に消えちゃったけれど、今度は消えない。
 今度はハーレイの手を離さないから、ハーレイもぼくの手を離さないで。
「ねえ、ハーレイ。二人で何処までも一緒に行こうよ、地球まで二人で来たみたいに」
 ハーレイがぼくを連れて来てくれたみたいに、何処までも一緒。
 蝋燭の灯りよりも欲しかったものを分かっててくれたハーレイと一緒…。
「ふむ…。本当に俺が分かっていたのかどうかは、正直、自信が無さ過ぎるんだが…」
 お前を地球まで案内してきた自信ってヤツも、俺には全く無いんだが…。
 そんな俺でも、お前が一緒に歩いてくれると言うんだったら。
 俺と一緒に歩きたいなら、光栄だ。
 ブルー、今度こそ二人一緒に歩いて行こう。
 今度こそお前と一緒に行こうな、お前の右手が凍えないように。
 右手が冷たかったことさえ思い出せなくなっちまうくらいに、俺が幸せにしてやるから。
 俺がお前の手を引っ張って歩いてやるから、ずうっと幸せに歩いて行こうな。
 お前さえ側に居てくれるのなら、頑張って道を案内するさ。
 幸せ一杯の道へ案内するから、一緒に行こう。
 なあ、ブルー……。




        温もりと灯り・了

※蝋燭の灯よりも、温もりが欲しかった前のブルー。それをハーレイから貰った筈、と。
 そう信じられる今のブルーは幸せです。ハーレイが地球に連れて来てくれた、と…。
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