シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
新入生歓迎会 ・第1話
入学式翌日。実力テストの結果に怯えながら登校した私でしたが、教室に入ってきたグレイブ先生は仏頂面で教卓の前に立たれました。
「諸君、おはよう。昨日のテストだが、5割を切った者が一人もいなかったことを誇りに思う。一年間、初心を忘れず努力するように。今日は新入生歓迎会だ。存分に楽しむように、と校長先生のお言葉を頂いている。では行くぞ」
手形のご利益は本物でした。グレイブ先生に引率されて会場の体育館に入ると美味しそうな匂いがしてきます。沢山のテーブルが用意されていて、壁際には食べ物を満載した机が並び…。うわぁ、立食パーティーだぁ!
「新入生の諸君、シャングリラ学園へようこそ。ぼくは生徒会長のブルー。今日はぼくたち上級生と先生方がホスト役だ。こき使うも良し、無礼講も良し。まずは乾杯!」
美形の生徒会長さんの合図で子供用シャンパンのグラスが配られ、全員で乾杯した後はパーティーです。私はジョミー君とスウェナちゃんに誘われ、早速お料理を取りに出かけましたが…いつの間にやら昨日の面子が同じテーブルに寄っていました。サム君、キース君、マツカ君とシロエ君です。おとなしく見えたマツカ君も意外にすんなり溶け込んでいて、みんなで自分のオススメ料理やデザートを持ち寄りながら昨日の話で盛り上がっていました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に化かされたのではないか、と。
「そうだよなぁ。手形押されたけど、なんともないし」
サム君が手のひらを眺めて呟き、キース君とスウェナちゃんも頷いています。そうですよね…きっと悪戯だったんですよね。
みんながお腹一杯になった頃、生徒会長さんが額に紐を巻いたおとなしそうな先輩にマイクを持つよう促しました。
「新入生の皆さん、はじめまして。書記のリオです。これから食後の運動を兼ねて、恒例のエッグ・ハント大会を開催したいと思います。エッグ・ハントはご存じですか?…イースターという行事の時に行われるゲームですが、我が学園は特に宗教はありませんので、お遊びだと思って下さいね」
先生と先輩方が新入生にバスケットを配って回り、リオさんがルールを説明します。
「皆さんには卵を探してもらいます。校舎や建物を除いた学園の敷地内に沢山隠してありますので、見つけたらバスケットに入れればいいんです。バスケットに入れた卵は自分のものになります」
なるほど。宝探しゲームみたいなものですね。
「卵といっても色々ですよ。チョコレートの卵やお菓子入りの卵、学食の割引券入りの卵もあります。どんなテストでも1回だけ満点にできる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手形券が入った卵は探すだけの価値があるでしょう。そして本日の目玉は十万円の旅行券入りの卵です!」
おおっ、と会場がどよめきました。十万円の旅行券とは!そして闘志に燃えた新入生の群れがバスケットを抱えて学校中に散っていったのでした。
「ん~と…卵、卵、と…。う~ん、なかなか見つからないなぁ…」
私がチョコレートの卵を2つとラムネ菓子入りのプラスチックの卵をバスケットに入れて歩いていると、キース君に出会いました。なんとバスケットは一杯でポケットにも卵が入っています。
「ん?…まだ3個しか持ってないのか。探せばいくらでも見つかるのに」
ヒョイ、と屈んだキース君の手にはまた新しい卵が増えていました。陶器製で中身が期待できそうな卵。
「もう持てないな。俺の代わりに貰っておくか?中身は多分、食堂のランチ券だ」
私はコクコクと頷き、それから後はキース君の卵探しについて歩いておこぼれにあずかっていたのですが…。あれ?向こうに固まっているのはジョミー君たちではありませんか。
「あっ、みゆ、キース!…ちょうどよかった」
ジョミー君が手招きしています。行ってみるとスウェナちゃんが卵を持っていて、サム君とシロエ君、マツカ君が覗き込んでいました。
「変なんだよ、この卵。バスケットに入れようか、どうしようかって悩んでたんだ。君たちはどう思う?」
スウェナちゃんの手には青い卵が乗っていました。ツルッとして綺麗な卵です。この卵のどこがおかしいんでしょうね?
新入生歓迎会 ・第2話
キース君と私はスウェナちゃんが持っている青い卵をじっと眺めました。特に変わったところはないようですが…。
「何処がおかしいんだ?石で出来ているようだが、そんな卵なら俺も幾つか拾ったぞ。よくある飾り物の卵じゃないか」
キース君がバスケットから取り出したのは緑に黒の縞模様が入った卵でした。
「これは孔雀石で出来た卵だ。中身は何も入っていないがチョコレートの卵よりかは値打ちがある」
「うん、石の卵ならぼくも拾った。でもスウェナが拾った卵は違うんだ」
ジョミー君の言葉にサム君たちが頷いています。
「君たちもこれを見れば分かるよ。スウェナ、やってみて」
促されたスウェナちゃんが卵を撫でると、青かった卵がほんのりピンクに変わりました。え?確かに変な卵かも。
「温度で色が変わるんだろう。いろんな石があるからな」
「キース先輩もそう思うでしょ?でも、温度じゃないみたいです」
シロエ君が卵をジョミー君に渡し、ジョミー君が悪戯っぽい笑みを浮かべて…。
「とても可愛いくて不思議なんだよ!…ね?」
チュッ!とキスすると卵はボンッと真っ赤になってしまったのです。もしかして照れてるとか?
「確かに妙だな。…もしかして妖怪の卵なのか?」
キース君が卵を手に取ると、色は元に戻りました。撫でてもキスしても頬ずりしても卵の色は変わりません。
「…俺だと何も起こらないようだ。お前はどうだ?」
手渡されたマツカ君が恐る恐る撫でると、卵はフワッとピンク色に…。
「人を見て反応を変えてくるとは怪しすぎる。…電流でも流してみれば正体を現すかもしれないが、実験室は開いていないだろうし…」
「電流ならなんでもいいんですか?…スタンガンなら、ぼく持ってます」
キース君の呟きに反応したのはマツカ君でした。
「「スタンガン!?」」
私も皆も驚きました。マツカ君にそんな物騒なモノが似合うようには見えません。
「えっと…前に誘拐されかけたことがあって、護身用に持たされているんです。教室に置いてきましたけれど、要るんなら取ってきましょうか?」
「誘拐って…お前、大金持ちの御曹司とか?」
サム君の問いにマツカ君はもじもじとして。
「いえ、大したことありません。…スタンガン、どうします?催涙スプレーも持ってますけど」
「面白い。ぜひ両方とも持ってきてくれ」
キース君が言うとマツカ君は教室へ走っていき、カバンを抱えて戻ってきました。中からスタンガンと催涙スプレーが出てきます。
「わぁ、本当に持ってるんだ!初めて見たよ」
興味津々のジョミー君。キース君は催涙スプレーを手に取り、卵を地面に置くとみんなに離れるようにと指示して、自分もハンカチで顔をガードしながら卵にシューッと吹き付けました。卵はみるみる真っ赤になって、しばらく経っても赤いままです。
「…これだけではまだ足りないか…」
スタンガンを持ったキース君が卵に近づき、押し付けるようにしてスイッチ・オン!…した、次の瞬間。
「ばかやろーーーっっっ!!!」
聞き覚えのある叫び声と共に卵がボワンと消え失せ、そこには顔を真っ赤にした「そるじゃぁ・ぶるぅ」が怒りに燃えて立っているではありませんか!
「我慢してたのに!一生懸命、卵のふりをしてたのに~っ!」
ガブリ!…キース君の肩に「そるじゃぁ・ぶるぅ」の健康優良児な歯が食い込みました。ガブリ、ガブリ、ガブリ…続けさまに噛み付く「そるじゃぁ・ぶるぅ」。私たちはオロオロしながら見ているしかありませんでした。だって噛まれたくないですし…。
「おやおや。…ぶるぅ、仲間に噛み付いたりしちゃダメじゃないか」
ガブリ。…「そるじゃぁ・ぶるぅ」の動きが止まり、生徒会長さんが穏やかな微笑を浮かべて現れました。
「ぶるぅの卵を拾ったのは君たちなんだね。おめでとう、一等賞の十万円の旅行券はぶるぅが持っているんだよ」
わあ!じゃあ、全員で日帰りバスツアーくらい行けるかも。さっそく親睦旅行でしょうか?みんなの顔がパァッと輝き、キース君も一気に立ち直りましたが。
「やだ!」
そう言ったのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。何処からか取り出した旅行券を地面に置くなり、突き出された手は左手で…。
「わぁぁぁ!!」
「ダメぇぇぇ!!!」
ぺったん!…私たちの悲鳴も空しく、旅行券には真っ黒な手形がしっかり押されてしまいました。黒い手形は「ダメ」って印。生徒会長さんがクックッとおかしそうに笑っています。
「無効になっちゃったのか、旅行券。催涙スプレーにスタンガンじゃあ、ぶるぅが怒るのも無理ないよ。いくら知らなかったにしてもね」
「ぼく、毎年、卵の役をやってるけれど。こんな目に遭ったことないよ!撫でてもらったりして気持ちよくなったら賞品を渡すつもりだったのに…」
生徒会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は連れ立って去ってゆきました。それから間もなく合図のチャイムが鳴ってエッグ・ハントは終了です。私たちは無効にされてしまった旅行券を押し付け合いながら、体育館へ帰っていったのでした。
新入生歓迎会 ・第3話
拾った卵とバスケットをお土産に貰って新入生歓迎会はお開きになりました。みんなが帰り始める中、生徒会長さんが私たちの方へやって来ます。
「やあ、さっきは大変だったね。ぶるぅは気まぐれな上、噛み癖があるから気をつけないと。…旅行券は残念なことになっちゃったけど、昨日の約束を覚えてるかな?続きは明日、って」
私たちは一斉に頷きました。何処へ行けばいいのか分からなかったので体育館に残っていたんですから。
「じゃあ、ぼくについてきて。案内するよ」
連れて行かれた先は生徒会室でした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋だと思っていたんですけど…。あれ?生徒会室にはバレンタインデーに入りましたが、あんなモノ、壁にありましたっけ?白い壁の…ちょうど私の肩の高さに紋章が見えます。金色の羽根みたいな模様と赤い楕円形の石を組み合わせた形の、片手サイズのシャングリラ学園の校章。飾りにしては不自然な位置ですし、第一、校章をモチーフにした立派な盾が飾り棚に入っているではありませんか。
「君たち。…これが見えるかい?」
生徒会長さんが壁の紋章を指差し、私たちは顔を見合わせました。見えるも見えないも、そこにあるのに何故?
「ならばいい。順番にこれに手を当ててくれれば扉が開く」
「へえ、扉?…何か仕掛けがしてあるのかな」
ジョミー君が紋章に触った…と思う間もなく、ジョミー君の姿は消えていました。スウェナちゃんと私の悲鳴が響きましたが、キース君がスッと進み出て…。
「昨日の瞬間移動みたいなものか。どれ」
恐れる風もなく紋章に触れ、キース君もフッと消え失せます。
「よ、ようし…俺も男だ!ジョミー、今行くぜ!」
サム君が消え、負けてたまるかとシロエ君も消え…。
「…ぼくたちも行くしかないみたいですね…」
マツカ君が不安を拭いきれない顔で言い、スウェナちゃんと私はマツカ君と一緒に指先を紋章にくっつけました。途端にスウッと身体が吸い込まれるような感覚があって、それが消えると。
「かみお~ん♪ようこそ、影の生徒会室へ!」
目の前にあったのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋でした。生徒会長さんが私たちに続いて部屋に現れ、ニッコリ笑って。
「ここは影の生徒会室。あの紋章が見える者しか直接入ってはこられない。昨日言った仲間というのがそうなんだよ」
「仲間じゃなかった人も手形を押しちゃったから仲間だし。7人も仲間が増えるなんて嬉しいよね、ブルー」
テーブルの上には美味しそうなクッキーがありました。そして紅茶を運んできてくれたのは…。
「ようこそ。副会長のフィシスですわ。皆さんの歓迎会をいたしましょうね。クッキーはぶるぅの手作りですのよ」
「書記のリオです。これからよろしく」
何がなんだか分からないままに歓迎会が始まりました。キース君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」に催涙スプレーとスタンガンの件を謝っていましたが、根に持ってはいないようですね。副会長のフィシスさんは目を閉じたままなので盲目なのかと思ったら…なんと「目を閉じていても見える」のだそうです。閉じているのは「その方が神秘的だから」ですって。影の生徒会室には不思議なことが一杯かも。
「…ぼくのメッセージを聞いた者だけが集まったんなら、問題なかったんだけど…。意外なことになっちゃったから、説明は徐々にした方がいいね」
生徒会長さんが紅茶を飲みながら言いました。
「まず頭に入れておいて欲しいのは、君たちは他の生徒とは違う立場にいるっていうこと。…シャングリラ学園は卒業までに3年かかるけど、君たちは1年で卒業することになるんだよ」
「「えぇっ!?」」
私たち全員の叫びに生徒会長さんは全く動じませんでした。
「それと、ぼくが三百年以上この学園で生徒会長をしていることを信じて欲しい。…校長先生もぼくと同じで、三百年以上、ずっと校長先生だ。ぶるぅも三百年以上ここで暮らしている」
「でたらめを言うな!!!」
怒鳴ったのはキース君でした。
「校長先生のことが本当だというのは認めよう。入学前に調べたからな。だが、生徒会長…あんたは怪しい。三百年も生きているのは校長先生だけの筈だ。それに!」
ビシィ、とキース君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」を指差しました。
「こいつが三百年以上生きているというのは大嘘だ。そこのモニターに出てるじゃないか。そるじゃぁ・ぶるぅ、性別:オス。年齢:生後四百七十三日って。こいつは1歳4ヶ月弱だ!」
「大当たり~♪」
ピョンピョンと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねています。
「ぼく、一昨年のクリスマスに生まれたんだよ!クリスマスはぼくの誕生日。プレゼントをくれるの、忘れないでね♪」
「ぶるぅ!…前の誕生日は違ったじゃないか。その前も全く別の日だったな」
生徒会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭をコツンと小突きました。
「ぶるぅは一度も6歳の誕生日を迎えたことがないんだよ。その前に卵に入ってしまって、また0歳からやり直し。姿形は0歳でも5歳でも今と全く変わりはないし、記憶もちゃんと引き継いでいる」
「卵!!?」
「そう、卵。だから卵に化けるくらい、ぶるぅにとっては簡単なんだ。6歳以上にならない理由は…子供でいたいからなんだよね、ぶるぅ?」
「うん!悪戯いっぱいできなくなるし、子供の方がずっといいもん」
ニコニコと笑う「そるじゃぁ・ぶるぅ」と生徒会長さんを私たちは呆然と見つめていました。この二人が三百歳を超えているなんて本当でしょうか?
「…急には信じられないと思う。だからゆっくりとでいい、ぼくやぶるぅやフィシス、そしてリオたちのことを理解していって欲しいんだ。それが仲間の第一条件」
「なんの仲間?…何をするの?」
聞いたのはジョミー君でした。
「まだ、それを知るのは早すぎる。まずは此処へ何度も通ってお茶を飲んだり、話をしたり…そんなことから始めよう。今日はこの辺で解散かな。フィシス、お菓子の残りを包んであげて」
えっ?…信じられない話を聞かされただけで、もう解散?
「ああ。あまり一度に話すことでもないからね。ぶるぅ、みんなを送ってあげてくれるかな?」
「おっけぇ~♪」
フワッと空気が渦巻き、私たちは校門のそばに立っていました。手にはクッキーが詰まったピンクの袋。何がどうなっているんでしょうか…。もやもやとした沈黙を破ったのはジョミー君の明るい声でした。
「悩んでたって仕方ないよ!答えが出てくるわけじゃないしさ、カラオケに寄って帰らないかい?歌えば気分も変わるって!」
「そうだな…。あまり持ち歌は無いが」
キース君が頷き、サム君とシロエ君が大賛成して…カラオケに行くことになりました。せっかくの仲間ですもんね。歌って親睦を深めるのも有意義に違いないですよ!
- <<校内見学・第1話
- | HOME |
- クラス発表>>