シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
庭で一番大きな木の下に据えられた白いテーブルと椅子とのセット。ブルーのお気に入りの場所なのだけれど、今日は少しばかり事情が違った。
ハーレイと午後のお茶にしようと、母に頼んでティーセットとお菓子を運んで貰ったのに。
いつも通りに向かい合わせで、ハーレイもブルーも今や指定席となってしまった互いの椅子へと腰掛けたのに。
のんびりとお茶を飲みながら他愛ないお喋りを始めて間もなく、ブルーの足元に忍び寄る気配。ズボンの裾から覗いた足首あたりに、何かが触れようとしている気配。
あれっ、とブルーが思った時にはチクリと微かな痛みがあって。
(刺されちゃった…!)
蚊だな、と直ぐに気付いたけれども、ハーレイがブルーの大好きな笑顔で自分の子供の頃の話をしてくれていた最中だったから。屈み込んで蚊を追い払うだとか、叩くだとかで話の腰を折りたくなかった。此処は我慢だ、とテーブルの下で足首を軽く擦り合わせた。
それで刺した蚊が逃げてくれるか、あるいは上手く潰せるか。そのどちらかを願っていたのに、ブルーの目論見は見事に外れた。
逃げてゆく羽音は聞かなかったけれど、満足するまで血を吸った挙句に、蚊は悠然と飛び去って行って。ブルーの足首には蚊の置き土産の痒みだけがしっかり残ってしまった。
ハーレイは身振り手振りも交えて楽しい話をしてくれている。お行儀悪く身体を屈めたりしたくなかったけれども、刺された場所が痒くて我慢の限界。
どうにも我慢がし切れなくなって、ブルーは「ごめん」とテーブルの下を覗き込んだ。
直ぐに痒み止めの薬を塗らなかったから、ぷっくりと赤く腫れ上がってしまった刺された箇所。長い靴下を履いておけば良かった、と思うけれども既に手遅れ。ズボンの裾と短い靴下との間から覗いた僅かな隙間を小さな吸血鬼に思う存分吸われてしまった。
屈んだままで手を其処に伸ばして、爪の先でポリポリと引っ掻いて。
「…痒い……」
思わず唇から漏れた泣き言で、ハーレイは何が起きたか悟った。
「刺されたのか?」
向かい側からテーブルの下を覗いて、ブルーが掻いている足首を見る。それから「掻くなよ」とブルーを止めると、椅子から立って庭の隅へと歩いて行った。
「…ハーレイ?」
「ちょっと待ってろ、確かこの辺りに…。うん、あった、あった」
しゃがんで、何かの濃い色の葉をプツリと一枚、毟り取ってテーブルに戻ってくる。ハート形をした小さな草の葉。
「なに、それ?」
「ドクダミだ、匂いで分からんか?」
「ああ…!」
ハーレイは独特の匂いを漂わせているドクダミの葉を太い指先で揉んで潰すと、ブルーの椅子の脇に屈んで「足、見せてみろ」と刺された方の足を出すように言った。
「足?」
「痒み止めの薬を塗るのもいいんだが、こいつも効くんだ」
「ドクダミが?」
「そうさ、痒み止めなんかを持ってない時には一番なんだぞ、覚えておけ」
蜂やアブにも効くんだからな、と潰したドクダミの汁を赤く腫れ上がった箇所に擦り込む。この雑草は何処にでもあるから、覚えておくと便利なのだと。
ブルーの家では雑草扱いされているドクダミ。それでも白い花は涼しげだから、とブルーの母は根絶しないで庭の隅っこに残していた。
まさか薬になるなんて、と驚くブルーに「ドクダミは立派な薬草だぞ?」とハーレイが元の椅子へと座りながら笑う。
「まあ、知らなくても無理はないがな…。ドクダミにはジュウヤクって名前もあるんだ、十の薬という意味だ。生の葉は化膿や切り傷にも効くし、乾かしたヤツは神経痛とかに効くんだぞ」
「ホント?」
「本当だとも。SD体制よりもずっと昔の人間たちの知恵ってヤツだな」
誰もが薬を買えた時代じゃないからな?
薬は今よりうんと高くて、普通の人には手が出なかった。だから色々と知恵を絞って、こういう薬を見付けてきたのさ、自然の中で。
一度は地球と一緒に滅びちまったが、今じゃこうして誰でも使える。
どうだ、痒みはマシになったか?
「うん。…ハーレイ、ドクダミも古典の授業の範囲内なの?」
「授業で教える範囲の内には入らんなあ…。それに俺のは親父に教えて貰ったヤツだ」
釣りが趣味だと言っただろ?
虫の多い場所で釣ることも多いし、虫除けも痒み止めも必須ではあるが、だ。
忘れて出掛ける時もあるしな、こういった知識も必要になる。
釣り仲間の間じゃ常識らしいぞ、虫に刺されたらドクダミだ、ってな。
「そうなんだ…」
ブルーは感心して聞いていたけれど。
痒みも引いてきたのだけれども、さっきの蚊。ハーレイの思わぬ薀蓄が聞けて、ドクダミの葉で薬まで作って貰ったとはいえ、刺されたことには腹が立つから。
「ハーレイ、何処も刺されていないの?」
「俺の方には来なかったな」
お前の方が美味そうなんだな、柔らかいしな?
それに俺よりずっと若いし、蚊も刺す相手を選ぶんだろうさ。
「夏の間は一度も刺されなかったのに!」
何度も此処に座っていたのに、と膨れっ面になったブルーに、ハーレイは「ふうむ…」と視線を巡らせると。
「其処のゼラニウム、刈ったからじゃないか?」
テーブルから近い庭の一角を指差した。
この間まで其処にゼラニウムが茂っていた筈だ、と。ゼラニウムには虫除けの効果が高い種類もあるから、植わっていたのはそれなのだろう、と。
「ママは何にも言ってなかったよ、趣味で植えてたヤツだと思うよ?」
「そうだろうなあ、刈っちまったんだし…。親父の家では虫除けに植えているんだが」
庭にもあるんだが、鉢植えのもな。
蚊が多い季節は玄関先とかに置いておくんだ、人が出入りする時に虫が一緒に入らないように。
其処に植わっていたヤツと似てるし、あれも虫除けになってたんだろうな。
「…虫除けの草が無くなったんなら、ぼく、これからも刺されちゃうの?」
「そうかもなあ…。よし、明日は虫除けを持って来てやろう」
お前、明日も此処でお茶を飲もうと思っているだろ?
顔に出てるぞ、此処に来たいが蚊は嫌だとな。
秋の蚊ってヤツはキツイからなあ、俺の虫除けに期待していろ。
(ハーレイが持って来てくれる虫除けかあ…)
虫除けスプレーみたいなものかな、とハーレイが帰った後でブルーは想像してみた。それとも、蚊が嫌がるという匂いを仕込んだブレスレットみたいなものだとか。
どれも虫除けとしてはポピュラーなもので、小さな頃には両親と一緒に郊外の山に出掛ける時に使っていた。そういう類の、きっとハーレイ御用達の品。
(どんなのだろう?)
ハーレイの大きな身体にはブレスレット型は無理かもしれない。きっとスプレーか、薬の匂いが染み込んだシール。服などに貼っておく虫除けのシール。
期待していろ、と言われたからにはお勧めの品に違いない、と翌日を楽しみにしていたのに。
「…なんなの、それ…」
午後のお茶の支度が出来た、と母に呼ばれて返事をした後。
ハーレイが提げて来ていた袋の中から出て来た物体に、ブルーの瞳は真ん丸になった。
しかしハーレイの方は平然として。
「蚊取り線香、知らないのか?」
「…知ってるけど…」
蚊取り線香は知っているけど、と言っている間に、蚊取り線香もちゃんと出て来た。渦巻き型の深い緑色。ハーレイは煙草を吸わないけれども、ライターも。
手際よく蚊取り線香の端を炙って火を点け、煙が上がるのを確認してからハーレイは「よし」と頷いた。
「行こうか、ブルー。これで虫除けになる筈だぞ、うん」
親父の気に入りのメーカーのでな。
除虫菊とか、天然の原料だけで出来ているんだ、混ぜ物は無しだ。
蚊取り線香はこうでなくちゃな、前の俺たちの時代には無かったけどな。
ハーレイは蚊取り線香のある今の文化を褒めちぎりながら階段を下りて、庭のテーブルと椅子へ向かったけれど。遠い昔の人間たちの知恵が詰まった虫除けなのだ、と語るけれども。
ブルーにも蚊取り線香の良さは分かるし、地球の自然にも優しそうだと思うのだけれど…。
(うーん…)
どうにもこうにも、理解不可能な謎の物体。
ハーレイが「此処でいいな」とテーブルの真下に据え付けた、生まれて初めて見る物体。それはコロンと丸い形で、蚊取り線香が入っていた。開いた穴から立ち昇る煙。
どう見ても蚊取り線香を入れる道具だけれども、あまりにも変なものだったから。
「…その入れ物、なに?」
テーブルの下を覗き込みながら、そう訊かずにはいられなかった。
これもハーレイの趣味なのだろうか?
しげしげと蚊取り線香の入れ物を眺めるブルーに、ハーレイはいとも簡単に。
「蚊遣り豚だ」
「…えっと…?」
「聞こえなかったか? 蚊遣り豚と言う名前だ、これは」
蚊遣りは蚊を追い払うって意味の言葉だってことは分かるだろう?
中に蚊取り線香を入れるための豚だから、蚊遣り豚だな。
SD体制よりも前の時代の定番だったらしいぞ、蚊遣り豚は。
この辺りにあった日本って国では、夏の夕涼みの絵なんかにも描かれていたくらいにな。
「そんなに古いの?」
「蚊取り線香を入れるならコレだ、ってくらいの伝統はあったみたいだぞ」
「この豚が…?」
ブルーは丸っこい豚をポカンと見詰めた。
白い陶器で出来ている豚。お尻の部分と鼻の部分とに穴が開いていて、ハーレイはお尻の方の穴から蚊取り線香を入れていた。
その蚊取り線香から出て来る煙が豚の鼻から立ち昇っている。
鼻から煙を漂わせる豚。ユーモラスな形の丸っこい豚…。
「意味があるの、これ?」
豚の形に、とブルーは尋ねた。
遠い昔の定番だったなら豚でなければいけないものかと、蚊取り線香には豚なのかと。
「さてなあ…。養豚場で生まれたって説もあるようだがな」
土管の中に蚊取り線香を置いて、蚊を追い払っていたらしい。
その土管から出る煙の加減を工夫する内に豚の形が出来上がった、っていう話があるのさ。
徳利の底を抜いて蚊取り線香を入れていたのが豚の形に似ていたから、というのが一番の有力説らしいし、俺もそうかと思いはするが…。
昔の蚊取り線香は今ほど安全じゃなくて火事の原因になりやすかったし、火伏せの神様。火事を防いでくださる神様のお使いのイノシシに似た豚にしたとか、豚は水の神様のお使いだとか…。
そういった昔の信仰と結び付いた説も、古典の教師としては魅力的だな。
「それじゃ、これだって決め手は無いんだ?」
「どうやら昔から謎だったらしい。そんな具合で諸説あるが、だ」
豚という動物は世界的に縁起が良かったらしいぞ。
幸運を運んで来ると言われたり、お金が貯まると言われたりしてな。
豚の形をした貯金箱が多かった地域もあるんだ、もちろんSD体制よりも昔の地球だ。
そんな幸運のアイテムと聞けば、蚊遣り豚への愛着も深まると思わんか?
親父もおふくろも昔からこいつを使っているしな。
ハーレイは豚が幸運のシンボルとされた理由を幾つか挙げた。
沢山の子供を産むからだとか、肉になる豚は大きな財産であって、お金持ちの象徴だったとか。幸運が舞い込んだ時の慣用句が「豚を手に入れた」だった地域もあったくらいなのだ、と。
「というわけで、豚は幸運を運んで来るそうだからな。俺もこいつを愛用している」
俺の家でのバーベキューには定番の豚だ。
お前は今日まで出会えなかったが、柔道部のヤツらは夏休みに対面していたぞ。
柔道部のヤツらもお前と同じで、「何ですか、これ?」と訊いていたがな。
「そっか…。ハーレイの大事な幸運の豚の入れ物なんだ?」
よろしくね、とブルーは蚊遣り豚にペコリと頭を下げた。
「ぼくが刺されないよう、今日はよろしく」
挨拶が遅くなっちゃったけれど、これからもきっと何度も会うから。
いつかはハーレイの家で会えるようになるから、ぼくのことをちゃんと覚えておいてね。
忘れないでね、きっとハーレイの家まで会いに行くから…。
丸っこい蚊遣り豚に挨拶を終えて、ブルーは椅子に座り直した。
テーブルを挟んだ向かい側にはハーレイが座り、テーブルの下には蚊遣り豚。頼もしい虫除けの煙の匂いがするから、今日は刺されたりしないだろう。
けれども、自分が刺された昨日。テーブルの下にはハーレイの足もあったというのに、どうして自分だけが刺されたのか、と不公平な気分になったから。
「ねえ、ハーレイ。昨日の蚊、なんでハーレイは刺されなかったの?」
ぼくだけ、たっぷり血を吸われたよ。
ハーレイの足だって刺してもいいのに、なんでぼくだけ…?
「タイプ・グリーンを馬鹿にするなよ?」
気配がしたからシールドを張った。
蚊に刺されそうな気がしたテーブルの下だけ、俺のガードはバッチリだったさ。
「そういう使い方、出来るんだ!」
サイオン・シールドで虫除けなんて、とブルーはビックリ仰天した。
今の自分は満足にシールドも張れないけれども、前の自分は巧みに張れた。しかし、シールドはあくまで攻撃や危険から身を守るために展開するもの。
(…蚊みたいに小さな虫を相手に張るなんて思いもしなかったよ…)
爆発の恐れがある場所で張るとか、それこそメギドの火を防ぐとか。
前の自分が最後に張ったシールドで防ごうとしたものは、キースが撃って来た銃弾で…。
かつての自分のシールドに比べると平和に過ぎる蚊よけのシールド。
本当に思い付かなかった、と蚊遣り豚の持ち主を尊敬の眼差しで見上げていると。
「前のお前はどうしていたんだ? そういう虫除け」
ハーレイに訊かれ、「やってなかったよ」とブルーは答えた。
「アルテメシアに蚊はいなかったし、山に降りても要らなかったよ」
「なるほどなあ…」
必要が無かったからシールドなんかは張らなかった、と。
アルテメシアは上手くテラフォーミングされた星だったが、やはり人工の星だったってことか。
蚊は害虫って話もあったし、SD体制よりも前の地球では病気を媒介したとも言うし…。
そんな虫まで放さなくてもいいと判断したんだろうなあ、マザー・システムは。
しかし今ではこの地球の上で、害虫の蚊までしっかり生きてる。
野菜を食べる青虫もいるし、その青虫が綺麗な蝶になってヒラヒラ飛んでるんだしな。
自然は実に偉大なもんだと思わんか?
たとえお前が蚊に刺されても、だ。
虫除けのシールドを展開できるか出来ないかも大きな違いだが、とハーレイは笑う。
「昨日も言ったが、お前の方が俺より美味いんだろう」
子供だから肌も柔らかいしな、肉だってずっと柔らかい。
蚊だって美味い方を選ぶさ、同じ刺すなら美味そうな方にしたいだろうが。
「…ぼく、シールドは下手なんだけど…。大きくなったら刺されなくなる?」
ハーレイと二人でいたって刺されなくなる?
ぼくがハーレイよりも美味しそうに見えなくなったなら。
「おいおい、俺と同じくらいに年を取るつもりか?」
前のお前と同じ姿で成長を止めるつもりだったら、せいぜい十八歳ってトコだぞ。
十八歳じゃあ酒も飲めないし、立派に子供の部類だと思うが?
結婚出来る年ではあっても、蚊の目から見たら美味い子供だと思うがなあ…?
「………」
あんまりだ、とブルーは唇を尖らせた。
「ぼくって一生、蚊に刺されるわけ?」
「嫌ならサイオンを鍛えることだな、虫除けのシールドを張れるようにな」
でなきゃ蚊遣り豚のお世話になっとけ。
さっき挨拶していただろうが、「よろしく」ってな。
「…そうだけど…」
そうなんだけど、とブルーは顔を曇らせた。
昨日、ハーレイが蚊に刺された足を手当てしてくれたドクダミの葉を潰したもの。
ハーレイが父から教わったという天然の薬は良く効いた。夜には腫れも赤みも無くなり、まるで薬局で売っている虫刺されのよう。
そうした知識をハーレイの父は豊富に持っているのだろう。釣りが趣味だと聞くハーレイの父。ブルーを釣りに連れて行ってやりたいと言ってくれたとも聞いていた。釣りにキャンプに川遊び。ブルーのためにと提案してくれたハーレイの父。
その人と一緒に出掛けてみたい。大きくなったら出掛けたいのに、釣りやキャンプにはもれなく蚊までがついてきそうで。
「ぼく、ハーレイのお父さんと釣りに行きたいのに…」
それにキャンプも、川遊びも。
蚊遣り豚、そんな所には持って行けないよ。
持って行けても、あちこち連れては歩けないよ…。
刺されちゃうよ、とブルーは嘆いた。蚊遣り豚を持っていない自分は蚊の餌食だと。
ブルーの悩みを聞いたハーレイが喉の奥でクックッと笑い出す。
「安心しろ、腰から下げるタイプの蚊取り線香入れもある」
蚊遣り豚の形はしていないんだが、向きが変わっても火は消えないという優れものだぞ。
それにだ、虫除けの道具も色々あるだろ、それこそ虫除けスプレーだとか。
「でも、ハーレイのお父さんたち、蚊取り線香派だよね?」
「それと虫除けのゼラニウムだな。お前の家にもこの前まであったし、お前はゼラニウムとかでもいいんじゃないか?」
天然素材を目指すんだったら、ゼラニウムを編んで腕とかに巻くって手もあるが。
別にそいつでかまわないじゃないか、蚊取り線香にこだわらなくても。
「ハーレイとお揃いがいいんだよ!」
蚊取り線香にこだわりたいよ、とブルーは叫んだ。
釣りに行くなら、ハーレイお勧めの腰から下げるタイプの蚊取り線香。
普段もゼラニウムよりも蚊取り線香の方がいいのだと、幸運の豚の入れ物がいいと。
「なら、お母さんに頼んで蚊遣り豚を買って貰うのか?」
子供が持つには渋い趣味だが、欲しいんだったら売っている店を教えてやるぞ。
「…どうしよう……」
「笑われるだろうなあ、お前が蚊遣り豚を連れて家の中をウロウロしてたらな」
お前の家では蚊取り線香も見かけないしな、最新式の虫除けを使っているんだろう。
そんなお父さんとお母さんが居る家で、子供のお前が蚊遣り豚なあ…。
憧れのハーレイ先生とお揃いの蚊遣り豚なんです、で通すのも俺は止めないが。
(…蚊遣り豚…)
ハーレイがコロンと丸い豚を持って帰っていった後で、ブルーは悩んだのだけど。
蚊取り線香にこだわりたいのだ、と両親に強請って買って貰おうかと思ったのだけれど。
ブルーが庭で蚊に刺されたことを知った母は後日、しっかりとゼラニウムを植え直したから。
苗を売っている店で虫除け効果の特に高いものを選んで買ったと言っていたから。
(…おまけに大きな株なんだよ、あれ…)
母が刈り取ってしまったゼラニウムは一年草だったらしいが、今度の株は多年草。直ぐに効果を発揮するものを、と立派な株を買われてしまった。前に植わっていたものに負けない大きさ。
それほどの大きさで虫除け効果も高いとくれば、庭の椅子でも二度と刺されはしないだろう。
二度目が無ければ蚊取り線香を買う必要は無くて、蚊遣り豚は頼めそうにない。
(…欲しいんだけどなあ、蚊遣り豚…)
夏のバーベキューでは大活躍だという蚊遣り豚。
ハーレイの家に居る気分になれるんだけどな、とブルーは悩む。
それにハーレイとお揃いの持ち物が一つ増えるし、あの豚が欲しい。
コロンと丸くて、鼻から煙を出していた豚。
火を点けた蚊取り線香をハーレイがお尻から入れて、庭まで連れて行っていた豚。
(ホントのホントに欲しいんだけどな…)
両親には笑われるかもしれないけれども、愛嬌たっぷりの蚊遣り豚。
幸運を運ぶ豚の形の蚊遣り豚。
ハーレイとお揃いで一つ欲しいと、インテリアに買って貰おうかな、と…。
蚊遣り豚・了
※ハーレイ愛用の虫よけグッズは蚊遣り豚。レトロな趣味は今も健在らしいですね。
蚊遣り豚に惚れ込んだブルーですけど、インテリアに買うのはどうなんでしょうか…。
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