シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
まだ十一月の末だというのに本格的な寒波がやって来ました。中旬あたりから「今年は寒いね」と言い交わしていたら、いきなりドカンと真冬並み。初霜だの初氷だのと冬は駆け足、ついに初雪な上に積もったという始末です。
「う~、寒い~!」
風が冷たい、とジョミー君が校舎を出るなり手に息を吐きかけ、私たちも。終礼を終えて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ向かうまでの間、校舎の間をビル風とまでは行かないまでも強い寒風が吹き付けてきます。
「寒いよなあ、耳がちぎれそうだぜ」
サム君も背中を丸めていますが、キース君は。
「この程度で文句を言ってどうする! 璃慕恩院はもっとキツイぞ」
「え? なんで璃慕恩院が出て来るんだよ」
「お前とジョミー限定だ。いずれは住職の資格を取るんだろうが」
そろそろ伝宗伝戒道場のシーズンだぜ、とニヤリと笑うキース君。
「俺が行った年も寒波だったが、お前たちの時はどうなるだろうな? 未だに暖房は無いそうだぞ。寝泊まりする部屋から障子一枚隔てた外はだ、寒風吹きすさぶ外なわけだが」
廊下に戸なんか無いんだからな、と言うキース君の言葉は実体験に基づくもの。道場に行った時、キース君は酷い霜焼けになって後遺症に苦しんでましたっけ…。
「そ、そうか…。だったら覚悟をした方がいいよな、なあ、ジョミー?」
この寒さにも慣れようぜ、とサム君が声をかけるなり。
「なんでぼくが!」
坊主なんかはお断りだし、とジョミー君は脹れっ面。
「行きたきゃサムだけ行けばいいだろ、ぼくは絶対行かないからね!」
「その考えは甘いと思うが」
キース君が即座に否定し、サム君も。
「うんうん、ブルーの弟子だしなぁ…。いつかは道場行きだぜ、お前も」
「ぼくも全く同感です。会長の魔手から逃れられたら誰も苦労はしませんってば」
坊主だけでなく何もかもです、と首を振り振り、シロエ君。
「現に今年の学園祭だって、会長が思い切り仕切ってましたし…。例年以上にぼったくるんだ、と言い出したのは会長ですよ」
「そうよね、オプションを何種類もつけて儲けてたわよねえ…」
逆らえる人はいないのよ、とスウェナちゃんが。学園祭での売り物はサイオニック・ドリームを使った喫茶、『ぶるぅの空飛ぶ絨毯』です。居ながらにして世界のあちこちへ飛べる体験に上乗せ価格でオプショナルツアー。ぼったくり価格でも千客万来、お客様が納得だったらいいのかな?
寒波だ、坊主だと言い合いながら生徒会室に入り、奥の壁をすり抜けて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと。よく効いた暖房が嬉しいです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
「やあ。今日も冷えるね」
でもって坊主がどうしたって? と会長さん。
「な、なんでもないし!」
ジョミー君が逃げを打ちましたが、会長さんは地獄耳。
「君たちが何を話してたかは知ってるよ。キースが行った年の璃慕恩院は寒かったねえ」
「ぼくには関係ないってば!」
「おや、そうかい? まあいいけどね、時間はたっぷりあるんだからさ。でも、せっかくの寒波と坊主の話題なんだし、あやかろうかな」
「「「は?」」」
何の話だ、と首を傾げる私たち。話がサッパリ見えません。
「たまには和風もいいだろう、っていう話。そうだよね、ぶるぅ?」
「うんっ! でも…。ブルーが思い付いたの、ついさっきだし…」
作ってる時間が無かったの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。作るって……何を?
「えとえと…。見れば分かるよ、持ってくるね~!」
待っててね、とキッチンに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」はワゴンを押して戻って来ました。ホカホカと湯気の立つ大きなヤカンと、最中の山と缶ジュース…?
「「「…もなか?」」」
なんでまた、と目を見開けば、会長さんが人差し指をチッチッと。
「見た目だけなら最中だけどねえ、その横の缶で分からないかい?」
私たちは缶を注視し、そこに書かれた文字に仰天。『しるこドリンク』と書かれています。
「おい」
キース君が会長さんをまじまじと見て。
「しるこドリンクとセットだったら、そいつは懐中しるこだな?」
「大当たり! 流石は元老寺の副住職だよ、和のおやつにも詳しいってね」
「…まあな。月参りに行って出てくる菓子は圧倒的に和菓子だし…。冷え込む冬場は、しるこもアリだ。そして正直有難いんだが、何故しるこなんだ」
「あやかろうって言っただろ? 厳しい寒さで坊主とくれば、やっぱりおしるこ! 時間があったらおぜんざいだけどね、時間が無い時はコレが一番!」
というわけで、どっちがいい? と各自に任された好みのチョイス。しるこドリンクか懐中しるこか、私はどっちにしようかなあ…。
少し悩んで、懐中しるこ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がパキッと割ってお椀に入れてくれ、ヤカンのお湯をたっぷりと。しるこドリンクを選んだ人は熱々のお湯を満たした器で熱燗の如く温めて貰い、その間に緑茶が淹れられて…。
「「「いっただっきまーす!」」」
たまにはこんなティータイムもいいね、と懐中しるこ組はお椀を手にして、しるこドリンク派は缶を開けて直接ゴックンと。短い距離でも寒風の中を歩いただけに、熱さと甘さが有難く…。
「なかなかいけるな。正直、期待していなかったんだが」
キース君がしるこドリンクの缶を見詰めると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ブルーのイチオシのメーカーだしね! 璃慕恩院の老師のお勧めだって!」
「えーーーっ?!」
それは困る、とジョミー君が缶を片手に青い顔。
「先に聞いてたら選ばなかったよ、なんか坊主に近付いた気がする…」
「それは結構。御仏縁かもしれないね、ジョミー」
会長さんがからかい、ジョミー君はオタオタと。
「ぜ、絶対関係ないんだから! 偶然だから!」
「どうだかねえ…。そもそも御仏縁というのは、いろんな所にあるものだしさ」
大いに御縁を結びたまえ、と会長さんの法話もどきが始まりそうになった時です。
「ぼくも、おしるこ!」
「「「??!」」」
誰だ、と振り返った先で優雅に翻る紫のマント。いつものソルジャー登場ですけど、御仏縁とは思い切り縁が遠そうな…。会長さんもそう思ったらしく。
「…君がおしるこ? なんで?」
「なんか面白そうだから!」
カップ麺みたいな食べ物だねえ、とソルジャーはソファに腰掛けました。
「おやつは手間がかかるものだと思ってたけど、お湯を注ぐか温めるかだけで出来るんだ?」
「そうだけど…。で、君はどっち?」
「もちろん、両方!」
おしるこだから甘いんだろう、と甘いものには目が無いソルジャー。まずは懐中しるこを味わい、お次はしるこドリンクで。
「…いいねえ、どっちも美味しいよ。思い付いた時にパパッと出来て、熱々っていうのがまたいいよね」
もう一個! と、お代わりを希望。私たちも二杯目や二本目に突入していますけども、後から来たくせに三個目ですか…。
しるこドリンクと懐中しるこを合計四個も食べたソルジャー。気に入ったらしく、自分の世界でも夜食に食べると言い出したまでは良かったのですが。
「悪いね、沢山貰ってしまって。早速今夜から頂くよ。…それでさ、ちょこっと思い付いたんだけどさ…」
「何を?」
胡乱な目をする会長さん。会長さんもさることながら、ソルジャーの思い付きもロクな結果にならないことが多いのです。とはいえ、今日の会長さんのアイデアは美味しいおしるこになったんですから、ソルジャーの方もグルメ絡みかもしれません。
「お湯を注ぐか、温めるだけで直ぐに食べられるなんて最高だよね。この発想を生かせないかと思うんだけど」
「…君のシャングリラで?」
「そう!」
良さそうだろ、と言うソルジャー。なんだ、やっぱりグルメ絡みじゃないですか! ああ良かった、とホッとしたのも束の間で。
「こんな調子で作れないかな、いつでも何処でも美味しいハーレイ!」
「「「はぁ?!」」」
何ですか、それは! 懐中しるこならぬ懐中キャプテン? しかも食べるって…?
「分からない? 思い付いた時に即、食べられるハーレイって素敵だと思うんだよ。ブリッジだとか公園だとか、ヤりたくなったらその場で食べる!」
「退場!!!」
会長さんがレッドカードを突き付け、私たちも遅まきながら理解しました。同じ「食べる」でもソルジャーの「食べる」は全く別物、要するに大人の時間です。そんなモノを即席しること同じ感覚で実行されたら、ソルジャーが住むシャングリラの人たちは大迷惑というものでしょう。しかし…。
「いいアイデアだと思うんだけどねえ? ハーレイは未だにヘタレな部分があるから、ぼくが今すぐって要求したってダメなケースが多くてさ…。青の間でだって、執務時間中だとアウトで」
どうやらその気になれないらしい、と語るソルジャー。
「ぼくに報告に来た時なんかにヤりたくなっても、「後で出直して参りますから」って帰っちゃうんだよ! ブリッジと公園は無理だとしても、せめて青の間では即、食べたい!」
お湯を注いで少し待つとか、ちょっと温めるだけだとか…、とソルジャーはブッ飛んだ主張を始めました。
「そりゃあ、ぼくが御奉仕ってヤツをしちゃえばいいんだけども…。それじゃイマイチ、気分がねえ…。ぼくがハーレイを襲ってるような気がしちゃう時もあるわけで」
自発的にヤッて欲しいのだ、と言われましても、なんでそういう方向に~!
しるこドリンクと懐中しるこは猥談の危機に陥りました。どういう発想の持ち主なのだ、とソルジャーのセンスを嘆いてみても今となっては手遅れです。お坊さんと寒さから来た美味しいおやつがアヤシイ話になるなんて…。
「どう思う? 何かこう、素敵なアイデアってヤツは?」
ソルジャーの赤い瞳は期待に溢れて煌めいています。
「考えてみれば色々あるよね、缶詰とかカップ麺だとか…。そんな感覚でいつでも何処でも!」
「……唐揚げにすれば?」
会長さんがフウと溜息を。えっと、唐揚げって…即席ですか? 確か「揚げずに唐揚げ」ってありましたよねえ、それなのかな? ソルジャーも「唐揚げ?」と首を捻って。
「それ、簡単に作れるのかい? ついでに美味しい?」
「どうだろう? だけど威勢はいいみたいだよ」
「「「???」」」
威勢のいい唐揚げって、どういう意味? 活きがいいなら分からないでもないですが…。でもでも、相手は魚とかじゃなくって唐揚げです。揚げたての味を指すのでしょうか? 疑問だらけの私たちを他所に、料理とはまるで無縁のソルジャーは。
「威勢がいいなら大歓迎かな。ヌカロクを軽く越えられそうとか?」
「聞いた話じゃ、暴れっぷりが凄いらしいね」
「凄いじゃないか! で、どうやるって?」
「唐揚げにするだけだけど」
滾った油に放り込むだけ、と会長さんは答えました。
「油って…。それはどういう例えなんだい? 潤滑剤を多めに使えばいいのかな?」
油だけに、とソルジャーが尋ね、私たちの頭も『?』マークで一杯です。潤滑剤って何に使うの?
「え、潤滑剤っていうのはねえ…。男同士の大人の時間をより円満に」
「その先、禁止!」
会長さんが眉を吊り上げ、ソルジャーは渋々といった様子で。
「分かったよ…。だからさ、早く唐揚げの話!」
「了解。元ネタは猫の唐揚げなんだよ、生きたまま油に放り込むわけ。すると暴れて」
「待ってよ、それって猫はどうなってしまうわけ?」
「もちろん昇天するんだな。…でも、それまでは派手に暴れるっていう話だから丁度いいだろ」
暴れまくって御昇天、と会長さんはニッコリと。
「昇天するまで暴れる辺りが君の好みにピッタリだろうと思うけどねえ?」
「ちょ、死んじゃったらシャレにならないし!」
昇天はヤッた挙句の昇天に限る、と叫ぶソルジャー。なんだ、唐揚げって正真正銘の唐揚げでしたか…って、会長さんったら何処で猫の唐揚げなんていう恐ろしいネタを…。
誰もが青ざめた猫の唐揚げ。本当に聞いた話なのか、と疑っている人もいるようです。とはいえ、会長さんは腐っても伝説の高僧、銀青様。殺生をするとは思えませんが…。
「…もしかして実行したかと思われてる? それは違うよ、璃慕恩院で聞いた話さ。老師にね」
世の中には酷い人間がいるものだねえ、と会長さん。
「実はそういうことをしました、と懺悔に来た人がいたらしい。そして璃慕恩院で頭を丸めて、猫の菩提を弔ったとか…。だからね、ブルー。…君もつまらないことばかり考えてないで、この際、キッパリ縁を切るのがお勧めだよ」
今日のテーマは御仏縁! と会長さんはブチ上げました。
「しるこドリンクも懐中しるこも坊主絡みのネタだったんだし、妙な方向に突っ走るよりも精進潔斎で清く正しく! 君のハーレイと二人仲良く念仏三昧、いずれは極楽往生ってね」
「同じ極楽だか天国だったら、ヤりまくった果てに天国だってば!」
あくまで戻って来られる天国、とソルジャーの方も譲りません。
「気持ち良くって昇天してもね、ぐっすり眠れば元通り! 目が覚めたら食事してパワー充填、いつでも何処でもヤりまくり!」
そっちに限る、とグッと拳を握るソルジャー。
「暴れまくって昇天するのは理想だけれども、君の言う唐揚げは頂けない。…本当の意味での昇天なんかは求めていないよ、ぼくの希望はこの世で昇天! そして望んだ時に、即!」
せめて青の間では昼夜を問わず、とソルジャーの夢は果てしなく。
「それとハーレイがデスクワークで缶詰になって御無沙汰になった後とかさ…。たまにあるんだ、仕事が何日も続いてしまって夜は疲れて寝るだけってヤツ。缶詰が終わっても直ぐには回復しなくって…。お湯を注げば即、復活とか、そういう仕掛けがあればいいのに」
待ちくたびれずに食べたいなぁ…、とキャプテンのお疲れを歯牙にもかけないソルジャーの台詞に涙が出そうになりましたが。
「…そうか、缶詰!」
唐突に声を張り上げたソルジャーの瞳がキラキラと。
「うん、缶詰だよ、しるこドリンクは缶詰じゃないか!」
どうして今まで全く閃かなかったんだろう、とソルジャーの顔は輝いています。しるこドリンクの空缶を手にして御満悦ですけど、いったい何が閃いたのやら…。
ソルジャーは空缶を仔細に検分しながら一人で何やら「うん、うん」と。更には「よしっ!」とポンと両手を打ち合わせて。
「いいアイデアが閃いたんだよ、しるこドリンクに感謝しなくちゃ!」
「はいはい、分かった」
だからサッサと帰りたまえ、と会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「ぶるぅ、お客様のお帰りだ。しるこドリンクと懐中しるこ、この部屋にある分はブルーにプレゼントしたけど、家には残っていなかったっけ?」
「んとんと…。こないだ買った分なら今日のに足したよ、もう無いと思う」
「だってさ、ブルー。悪いけど、譲れる分はそれだけらしいね」
丈夫な手提げの紙袋に詰められたお土産を指差す会長さん。
「もしもハマッて足りなくなったら、懐中しるこはデパ地下で! しるこドリンクはスーパーで買うか、自販機だったら…」
「ああ、そこまでしては要らないよ。それにさ、今は同じ缶詰でも気になる缶詰が出来ちゃったからさ」
「「「???」」」
どんな缶詰のことでしょう? しるこドリンクの他に缶詰は置いてありません。それに「そるじゃぁ・ぶるぅ」は缶詰を使うくらいなら手間がかかってもフレッシュなものを、というスタンスです。料理なんかは絶対にしないソルジャーが缶詰に詳しいとは思えませんが…。
「ん? ぼくの気になる缶詰かい? ズバリ、ハーレイの缶詰だけど」
「「「は?」」」
よりにもよって唐揚げどころか缶詰だなんて、それじゃキャプテンの運命は…。
「ブルー、君のハーレイをどうする気なのさ!」
まさか料理はしないだろうね、と詰め寄る会長さんに、ソルジャーは。
「うーん…。広い意味では料理かな? 唐揚げってわけじゃないけれど」
「当たり前だよ、唐揚げは君が却下しただろ!」
「死なれちゃ元も子も無いからね。…死なない程度に料理しようかと」
そして缶詰にしておくのだ、と言うソルジャー。
「ただねえ、ぶっつけ本番はちょっと…。失敗したら恨まれちゃうか、はたまた萎えて当分、御無沙汰になるか。どっちも困るし、実験したいな」
「「「実験?」」」
「そう、実験。こっちの世界にもハーレイは居るし」
拝借してもいいだろうか、と私たちに訊かれても困ります。教頭先生は立派な大人で、私たちの所有物ではありませんってば…。
教頭先生をウッカリ貸し出してしまわないよう、私たちは口にチャックを。ところが此処に困った人がいるわけで。
「…それって、どういう実験なんだい?」
会長さんが興味津々、ソルジャーの話に食い付きました。そういえば会長さんは教頭先生を日頃からオモチャと呼んで憚らない上、実際、オモチャにする人です。ソルジャーの方も我が意を得たりと微笑んで。
「気になるかい?」
「それはもう! モノによっては喜んで貸すよ、ハーレイを」
「ちょっと待て!」
キース君が横から割って入ると。
「教頭先生はあんたのものじゃないんだぞ! 貸すヤツがあるか!」
「ぼくのものだと思うけどねえ? 少なくとも、そう言えばハーレイは喜ぶ」
あるいは感涙に咽ぶかも、と会長さんは涼しい顔。
「本人が喜んで貸し出されるならいいんだよ。ブルー、実験の内容は?」
「ハーレイにとっても悪くはないと思うんだ。缶詰にされるだけだからねえ、文字通り」
こんな感じで、とソルジャーはしるこドリンクの空缶をテーブルにコトンと置いて。
「これは小さすぎて入れないけど、ハーレイのサイズで特注するわけ」
「…えっ…。そ、それは……。そんなのを被せてどうすると?」
「被せる?」
今度はソルジャーが訊き返す番でした。
「被せるって、何処に?」
「…違うわけ? て、てっきりそうだと…。ご、ごめん、今のは聞かなかったことに…!」
会長さんが耳の先まで真っ赤になって、ソルジャーが派手に吹き出して。
「なるほど、ハーレイの息子の缶詰なんだ? それもいいかも」
「違うってば! そうじゃなくって!」
そんな意味ではなかったのだ、と会長さんは必死に否定しましたが、赤くなってしまった後ではもはや手遅れ。教頭先生の大事なアソコに缶を被せるとは斬新な…。ソルジャーもお腹を抱えて笑っています。
「確かに文字通り缶詰だけどさ…。それも思い切り美味しそうだけど、そんなのを装着した状態で臨戦態勢に入られてもねえ? ぼくは笑うしかないじゃないか」
股間に輝くしるこドリンク、とモロに口にされて、しるこドリンクを楽しんだ面々がテーブルにめり込んでいます。私、懐中しるこにしといて良かった~!
討ち死にした面子の復活を待って、ソルジャーは早速、話の続きを。曰く、ハーレイのサイズの缶とは教頭先生の体格に合わせた巨大な缶だそうでして。
「立って入れるだけじゃなくてね、中には座れるスペースも欲しい。ぼくのハーレイが仕事で缶詰になっちゃう時って、もれなくデスクワークだし…。椅子と机も入るサイズで」
「相当大きな缶になるよ?」
どうするつもり? と会長さん。
「費用も高くつきそうだよねえ、それはノルディに頼むのかい?」
「ハーレイが自分で払うと思うよ、こっちのハーレイ、君に甘いし」
あわよくば美味しい思いも出来るわけだし、とソルジャーは自分の計画を得々と。
「缶の中には快適な環境を整えて、缶詰の間も気持ち良く! そう、いろんな意味でね。疲れたな、とモニターのスイッチを入れれば、君の笑顔が映し出されて「お疲れ様」とメッセージが流れてくるとかさ」
「ふうん? そのモニターとやら、嫌な予感しかしないんだけれど?」
「いいカンしてるね、流石はソルジャー。君の場合はソルジャーの称号で呼ばれてるだけに過ぎないけれど、一応、タイプ・ブルーだし?」
そのくらいは分かって当然か、と唇に笑みを浮かべるソルジャー。
「息抜き専用のモニターなんだよ、「お疲れ様」と再生を繰り返す内にグレードアップをしていく仕組み! 最初は制服でも、ソルジャーの正装でもかまわない。それが一枚ずつ減っていくのはどうだろう?」
「ストリップしろと?!」
このぼくに、と会長さんの顔が引き攣り、ソルジャーが。
「君にやれとは言っていないさ。ぼくのハーレイが使うためのを作るわけだし、モデルはぼくが自分でやるよ。一枚ずつ減らす間の繋ぎに悩殺ポーズも忘れずに!」
「…の、悩殺…」
「色々あるだろ、誘うポーズとか、淫らだとか? でもって最後は一糸纏わず! これで気分が盛り上がらないなんて男じゃないね」
こっちのハーレイの場合は盛り上がる前に鼻血で倒れて終わりかもだけど、と言うソルジャー。
「とにかく、そういう仕掛けをつけた缶詰の缶を作るのさ。デスクワークが終わって蓋を開けたら、即、ベッドイン! 今までだったら「疲れていますから」とバタンキューだったとは思えないほどの漲るパワー!」
これをやらずに何とする、とソルジャーの身体から立ち昇る決意のオーラ。…しるこドリンクと懐中しるこが今日のおやつに出てきたばかりに、話はドえらい展開に…。
ソルジャーを追い出すことは既に不可能になっていました。しるこドリンクの忌まわしい缶を処分し、ソルジャーがお土産の分を自分の世界に送った後も延々と缶詰計画が。下校時間が過ぎてしまうと会長さんの家に瞬間移動で連れてゆかれて…。
「さてと、みんなが食べ終わったらハーレイの家に行かなくっちゃね」
今日は冷えるから、と始めた寄せ鍋をソルジャーが仕切り倒しています。食材も鍋の出汁も「そるじゃぁ・ぶるぅ」に丸投げのくせに「早く食べろ」とせっつかれ。
「ハーレイから缶の制作費を毟り取るのと、実験への協力ゲットだよ。そこはブルーの腕次第だよね、上手くいったら相手をしようと言うとかさ」
「………。どうせ鼻血で轟沈だしねえ、君のストリップは気に食わないけど」
またハーレイの妄想爆発、とブツブツ言いつつ、会長さんも教頭先生をオモチャに出来るチャンス到来に心が揺れてはいるようで。
「きちんと口説き倒しはするから、仕掛けとやらは頑張ってよ?」
「もちろんさ。ぼくのハーレイが缶詰な期間を楽しく待つためのアイテム作りだし、手抜きする気は無いってば」
任せておけ、とソルジャーはやる気満々です。間もなく鍋に締めのラーメンが投入されて、食べ終えてテーブルの片付けが済むと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が元気一杯に。
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
青いサイオンがパァァッと溢れて、私たちは教頭先生の家のリビングに立っていました。一人侘しく一人鍋中だった教頭先生、目がまん丸になっていますよ…。
「こんばんは、ハーレイ。急にお邪魔して悪いんだけど…」
会長さんが口を開くと、教頭先生は「気にするな」と穏やかな笑み。
「一人で晩酌も飽きていた所だ、一杯やるか?」
「お断りだよ!」
間に合っている、と会長さんが突っぱねた横からソルジャーが。
「頂こうかな、せっかくだから」
「嬉しいですねえ、では、お付き合い頂いて…。どうぞ」
教頭先生、食器棚からいそいそと盃を持って来ました。熱燗を注いで貰ったソルジャー、一息にクイッと飲み干して。
「ありがとう。寒い季節は熱燗に限るね、お酒も、しるこドリンクも」
「…しるこドリンク? それは私は飲めないのですが…」
甘すぎますし、と予防線を張る教頭先生。甘いものが苦手でらっしゃいますから、しるこドリンクな攻撃をかましにやって来たと思われたみたいです。
「ごめん、しるこドリンクとは違うんだ。…いや、しるこドリンクな部分もあるけど」
「……はぁ???」
怪訝そうな顔をする教頭先生に、会長さんが。
「しるこドリンクをブルーに御馳走したんだよ。そしたら直ぐに飲めるって所が気に入ったらしくて、缶を開けたら直ぐに食べられるハーレイを希望」
「…缶だと?」
「そうなんだ。あっちのハーレイ、仕事で缶詰がよくあるらしい。その缶詰の専用缶を作りたいっていうプロジェクト。上手くいくかどうか、君でテストをしたいらしくて…。成功したら缶を開けたら臨戦態勢、いつでも準備オッケーが売り」
そこから先をソルジャーが引き継ぎ、滔々と。
「もうビンビンのガンガンってわけだよ、ぼくを押し倒して即、一発! ベッドに運んで更に一発、疲れ知らずで抜かず六発!」
ヌカズロッパツ。これも未だに意味が不明の言葉です。教頭先生が頬を赤らめてらっしゃいますから、大人の時間な単語でしょうが…。
「それでね、君には缶詰のテストと缶の制作費用を出してほしくて…。運が良ければテスト成功の後にブルーとヤれるかもしれないし?」
「やりましょう!」
費用もドンとお任せ下さい、と胸を叩いた教頭先生が鼻息も荒く答えた「やりましょう」。会長さんがチッと舌打ちしていましたから、大人の時間なニュアンスが混じっていたのかも…?
こうしてキャプテンの缶詰を作るプロジェクトがスタートしました。教頭先生の懐をアテにビッグサイズの缶を特注。それも「急ぎで」という注文ですから費用はグンと高くつきます。その代わり納品は一週間後の土曜日とのこと、ソルジャーはもう御機嫌で。
「嬉しいな。お蔭様でクリスマスまでに缶詰ハーレイを味わえそうだよ。だってクリスマスはぼくのシャングリラでパーティーした後、こっちに来るし…。そのための休暇を捻出するために絶対、缶詰な期間があるんだ」
いつもは苛々するんだけども、とソルジャーは缶詰がとても楽しみらしく。
「バストイレ付きの缶を作ったら、もっと気分が出るかもねえ…。今のサイズだと、その時間は外に出なきゃだし」
「そういうのは君の世界で作りたまえ!」
今回の缶が上手く行ったら、と会長さんはツンケンと。
「君のシャングリラにも技術はあるだろ、こういう缶を作れる程度の!」
「もちろんさ。それに備えて、この前に貰って帰った缶を残してあるんだ。参考用にね」
作るなら当然、しるこドリンク! と親指を立てているソルジャー。缶詰にも色々種類があるというのに、最初の出会いが大切だとかで譲れないポイントらしいです。缶が出来るのを待つ間には、自分の世界で撮影を頑張っているそうで。
「こっちの世界で買ったカメラでぶるぅに撮らせているんだよ。君の制服を借りようかとも思ったけれど、テストはともかく、実際に使うのはぼくの世界のハーレイだしねえ…。ソルジャーの正装でないとイマイチかと思って、そっちでやってる」
「……ストリップね……」
好きにしてくれ、と投げやりな口調の会長さん。制服だろうがソルジャーの正装だろうが、教頭先生はどちらでも狂喜なさるでしょう。キャプテンだって、ソルジャーと結婚している身ではあっても仕事で缶詰の真っ最中に「お疲れ様」とストリップをされたら恐らくは…。
「そりゃあ、ビンビンのガンガンだってば!」
間違いなし! と自信に満ちているソルジャー。特製しるこドリンクの缶が出来上がる時が今から怖くてたまりませんよ…。
十二月に入り、街がクリスマスらしく華やいで来た土曜日のこと。しるこドリンクの特大缶が無事に完成、会長さんとソルジャーが引き取りに出掛けて行きまして…。
「かみお~ん♪ すっごく大きいね!」
会長さんの家のリビングに瞬間移動で送り込まれた特大缶はバカでかいという点を除けば立派なしるこドリンク缶。
「凄いだろう? ハーレイを呼んであるから、もうすぐ実験開始だよ」
「こっちのハーレイ、やっぱり鼻血で失血死かな?」
でないと缶は失敗作だ、とソルジャーが缶の中に仕込んだモニターと映像をサイオンでチェックしています。机と椅子も缶の中に置かれ、教頭先生が到着なさったら入って頂く準備万端。やがてピンポーンと玄関のチャイムが鳴って、教頭先生がリビングへと。
「…ほう、この中に入るのか…」
「うん。梯子をかけてさ、缶の上から入るんだ。蓋が閉まったら缶詰の時間。…ちゃんと仕事は持って来た?」
会長さんの問いに、教頭先生は抱えた鞄をポンと叩いて。
「当然だ。冬休みまでに終わらせればいい仕事なんだが、缶詰と聞けば終わらせないとな」
「上出来、上出来。そういう時こそ缶詰ってね」
凄い速さで終わるといいね、と会長さんがウインクすれば、ソルジャーが。
「疲れて来たな、と思った時にはモニターの前のリモコンを…ね。残念ながらブルーじゃないけど、ぼくの映像つきで「お疲れ様」の労いメッセージが流れるからさ」
「そうなのですか。…そういう癒しがあるのでしたら、缶詰明けが楽しみでしょうね。それでブルーが欲しくなったら、一発ヤってもかまわないと…」
「うん。ただしブルーがその気にならなきゃ無理なんだけどね」
健闘を祈る、とソルジャーが教頭先生の背中を叩いて励まし、会長さんは。
「ぼくがその気になる勢いで頑張ってみれば? 君はあくまで実験台だし、そこの所を忘れないようにね」
「もちろんだ! 私も男というヤツだからな」
頑張ろう、と教頭先生は梯子を登ってゆかれました。缶の中にもあるという梯子を伝って下りられた後は蓋が閉められ、外の私たちは見守りモードで…。
「ふふ、気が散って仕方ないみたいだねえ?」
缶詰で仕事どころじゃなさそう、と会長さんが指差す特大しるこドリンク缶。サイオン中継の一種らしくて缶の一部が透けて見えます。机に向かった教頭先生、備え付けの明かりで書類のチェックをしておられますが、何度も視線がリモコンに。
「こっちのハーレイ、君から癒しを貰うどころかオモチャにされる日々だしねえ…。ぼくのハーレイなら、そっちの方は大丈夫! 本当に疲れた時くらいしかモニターのスイッチは入れないよ」
「…それを見習って欲しいんだけどねえ…」
せめて半時間は仕事しろ、と会長さんが缶の外で呆れているとも知らない教頭先生、好奇心に負けて十五分足らずでスイッチを。モニター画面で会長さんそっくりのソルジャーがとびきりの笑顔、さらには「お疲れ様」と普段よりも甘い声音のメッセージ。
『こ、これは…。素晴らしいな…』
いい仕掛けだ、という教頭先生の声も中継で流れ、今のメッセージにハートを直撃されたらしい教頭先生はリピートボタンを押しました。すると…。
『な、なんだ?!』
ムードたっぷりの音楽が流れ、ソルジャーが肩からマントをスルリと落として「お疲れ様」。
『…ま、まさか…。いや、そんなことが…』
どうなんだ、と再度リピートボタン。音楽と共に画面のソルジャーが妖艶なポーズで時間をかけて白と銀のソルジャーの衣装の上着を脱いでゆき、アンダーウェアになって「お疲れ様」の声。
『…な、なんと…! では、この次は…』
教頭先生、再びリピート。ソルジャーが焦らすような視線を向けつつ、アンダーウェアのファスナーを下ろしてゆっくりと…。音楽は妖しくゆったりと流れ続けています。
『も、もしかしたら…。こ、これを最後まで見てゆけば…』
カチカチとせわしなくリピートボタンを押してらっしゃる教頭先生。
「あーあ…。連打したって無駄なんだけどねえ、1カット終わらない間はさ…」
だけど効き目は出て来てるよね、と缶の外のソルジャーは満足そうに。
「あの調子だと、下着一枚までも持たないだろうね? ホントに最後まで撮ったんだけど」
「き、君は何処まで悪ノリしたら…!」
何をするのだ、と会長さんが怒鳴りつけても、ソルジャーはと言えば何処吹く風。
「だってさ、元々がぼくのハーレイ用だし? 最後まで脱がなきゃ珍しくもなんとも…。あっ」
「「「あーーーっ!!!」」」
アンダーの上を脱いでしまったソルジャーの手がズボンにかかり、ファスナーを下ろそうとしかかった所で教頭先生の鼻血がブワッと。そのままドサリと仰向けに倒れ、まだ映像は流れているのに視界が暗転したようです…。
しるこドリンク特製缶は見事な効果を発揮しました。缶詰になって「お疲れ様」な画像を拝めば鼻血MAX、キャプテンの場合は缶詰が終わった途端にソルジャーを食べたくなること間違いなし。
「いいアイテムが出来て嬉しいよ。…ハーレイ、明後日から缶詰の予定で」
もう缶詰明けが楽しみで、とソルジャーはドキドキワクワクです。
「どんな素晴らしい結果になったか、必ず報告するからね!」
「要らないってば!」
会長さんが即座に跳ね付け、私たちも首を左右に振りました。
「えっ、そうかい? こっちでヒントを貰った上に、作った場所もこっちだし…。詳細に報告をさせて貰うのが正しい道だと思うんだけど」
「それは絶対、間違ってるよ! 黙っているのが正しい道!」
その缶を持って早く帰れ、と会長さんが急かすと、ソルジャーは。
「…じゃあ、バストイレ付きの缶を開発した時に纏めて報告ってことでいいかな、年明けにも缶詰シーズンがあるから間に合うように作りたいんだ」
「そっちの報告も要らないよ!」
「うーん…。でも、実験台になってくれたハーレイには報告すべきじゃないのかと…」
でないとぼくの気が済まない、と言い募るソルジャーの視線の先には教頭先生が倒れていました。缶の中から運び出されて、転がされていると言うべきか…。
「好きにすれば? 何かと言えば鼻血なハーレイが報告を聞けると思うのならね」
会長さんの言葉にソルジャーは「それもそうか」と頷いて。
「なら、レポートを書いてプレゼントするよ。しるこドリンクがどう効いたのか、缶詰効果の凄さをさ! ぼくも是非とも聞いて欲しいし、微に入り細に渡った記録を図解付きでね」
「「「……図解……」」」
それは発禁モノなのでは、と思いましたが、しるこドリンク缶を空間を超えて運搬するべくサイオン発動中のソルジャーには言うだけ無駄というものでしょう。教頭先生が更なる鼻血を噴いて失神なさる日は年内に来るか、年明けか。しるこドリンク、当分は遠慮したいです~!
手軽な食べ物・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
缶詰になって「しるこドリンク」、本当に効果はあるんでしょうかね、キャプテンで。
謎ですけれども、思い立ったが吉日な人がソルジャーですから…。
シャングリラ学園、去る4月2日で連載開始から8周年になりました。8年って…。
よくもそれだけ書いたモンだと思いますです、まだ書きますけど。
4月は感謝の気持ちで月2更新、今回がオマケ更新です。
次回は 「第3月曜」 4月18日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、4月は、シャングリラ学園も新年度。やっぱり1年A組で…。
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