シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
(えーっと…)
何なんだろう、とブルーはテーブルに置かれたものをまじまじと眺めた。ブルーの部屋の窓際、ハーレイと向かい合わせで座る場所。
ハーレイが訪ねて来るとお茶とお菓子や、昼食などの器が鎮座するのが普通だけれど。
母が運んで来た緑茶。それにお煎餅が盛られた菓子鉢。
緑茶とお煎餅は特に不思議ではないが、どうしたわけだか、その他に空のお茶椀が二つ。一つはブルーが使っているもので、もう一つの茶碗は来客用。
お箸も二組、おまけに御杓文字。
(なんでお茶碗?)
お煎餅を食べるのに要りはしないし、お箸も同様。御杓文字だって。
何が起きたというのだろう、と見詰めていると、ハーレイが「これだ、これ」と提げて来ていた紙の袋を持ち上げてみせた。
「此処へ来る途中で買って来たんだ」
まあ食ってみろ、と出て来る包み。四角い箱だけれど、包装されていては中身が分からない。
箱の感じからしてお菓子だろうか、と考えていたら。
「…お赤飯?」
何かのお祝いだったっけ、とブルーは赤い瞳を見開いた。
遠い昔にハーレイと暮らしたシャングリラにお赤飯は無かったけれども、生まれ変わってからは馴染みのもの。ブルーとハーレイが住んでいる地域では、お祝い事の時に炊かれるお赤飯。
「祝いってわけじゃないんだが…」
通りかかったら、出来上がった所だったんだ。
此処のは栗がたっぷりでな。元から塩味がついているから、塩を振りかけなくてもいい。
その塩加減がまた絶妙なんだ。
「美味いんだぞ」と勧めるハーレイ。
祝い事でなくてもたまに食べたくなるのだと。
「でも、ぼく…。さっき、朝御飯…」
「食べたトコだってか?」
それくらい、俺にも分かっているさ。
昼飯用にと買って来たんだが、出来立てのヤツも味見してみろ。
まだ温かいから、とびきり美味い。温め直すより、断然、こっちが美味いんだ。
「…ふうん?」
それなら少し食べようかな、とブルーは思った。
ハーレイお気に入りの味というのも、是非味わってみたかったから。
「よし、それじゃ味見といこうじゃないか」
ハーレイが赤飯の包みを開けると、ありがちなパックなどとは違って薄い木で作られた箱が出て来た。いわゆる折箱。それだけでも店のこだわりが分かる。
折箱の蓋が取られると、ぎっしりと詰まった栗赤飯。南天の葉もきちんと添えてあった。
本物だぞ、というハーレイの言葉通りに、作り物ではない艶やかな本物の南天の葉。
「この辺りもおふくろのこだわりに似ていてな」
「え?」
「俺のおふくろだ。赤飯を炊いて折箱とかに詰める時には、南天の葉っぱを添えるんだ」
庭の南天の葉を採って来てな。
南天は難を転じると言うから縁起がいい。そしてお裾分けだと配るわけだな。
「へえ…!」
「祝い事でなくても作ってるなあ、好きなんだろうな?」
しかも炊くと言っても実際には蒸して作るんだ。こういった店と同じでな。
だから此処のは同じ味なんだ、おふくろが作る赤飯の味だ。
こういう味だ、とハーレイが杓文字で茶碗に入れてくれた栗赤飯をブルーは早速味わってみた。口に入れると、ほんのり塩味。
「美味しい…!」
「そうだろ、此処のは本物だからな」
赤飯を専門に扱う店は何処もそうだが、とハーレイも自分の分を頬張る。
他のお弁当などと一緒に店頭に並ぶものは些か違うものだと、色の付け方からして違うのだと。
「色の付け方? …お赤飯って赤い御飯でしょ?」
これも赤いよ、とブルーは指差したけれど。
「どうだかな? 如何にも赤って感じがしないか、くすんでいなくて」
「…そうかも…」
言われてみれば御飯粒の赤に透明感があるようにも見えた。透き通ってはいないが、艶々と光る御飯粒。普通はもう少し暗めの赤だったかな、という気がする。
「この赤色はどうやってつけるか知ってるか?」
「小豆の色でしょ?」
赤い豆だもの、あの色だよ。
お赤飯を炊いてる間に、小豆の色が移るんだよ。
「違うぞ、こいつはキビガラというヤツを使っているんだ」
「キビガラ?」
「キビっていう穀物の一種だな。そいつの実の殻を煮出すと赤い水が出来るから、その水に糯米を浸けておく。そうやって赤くするわけだ」
キビガラを使わないと本物の赤飯の色にはならん。着色料なんかは論外だな、うん。
もちろん、おふくろもキビガラ派だぞ。
ブルーはお赤飯をほんの少しと、栗を一個が限界だったけれど。
栗赤飯を持ち込んだハーレイの方は、軽くとはいえ茶碗に一杯を盛り付けていて。
「この赤飯に入ってる栗もだ、こうして鮮やかな黄色にするには秘訣があるんだ」
ちゃんと自然の素材だぞ。クチナシの花は知ってるだろう?
「クチナシ?」
強い香りがする白い花ならブルーも知っていた。
しかしクチナシは白い花だし、何処から黄色になるのだろう?
キビガラとやらのように煮るのだろうか、と尋ねてみたら。
「煮るっていうのは間違ってないが、花じゃない」
花が咲いた後に出来る実だ。
白い花からはまるで想像出来ないだろうが、あの花の実から綺麗な黄色が出て来る。
おふくろはサツマイモを煮る時なんかにも使うぞ、美味そうな黄色になるからな。
「…黄色って、サフランだけじゃないんだ…」
「おっ、サフランは知ってたか?」
「ママが使うもの、サフランライスとかパエリアだとか」
サフランの花の雌しべだよね、とブルーは母が常備している乾燥したものを思い浮かべた。
赤い糸のようにも見えるサフラン。
赤いのに黄色い色が出るのか、と幼い頃には不思議だった。
「サフランなあ…。昔はとてつもなく高かったそうだぞ、金よりもな」
「そうだったの?」
あんなものが、とブルーは驚いたのだが、「本当だとも」と答えが返る。
「同じ重さの金よりも高い時代があったという話だ」
SD体制よりもずっと昔だ、今はそこまで高くはないがな。
「そうなんだ…。キビガラだとか、クチナシだとか。いろんな自然の着色剤があるんだね」
「ああ。自然の色はいいぞ、自然と共に生きてるっていう感じがするからな」
中にはユニークなのもある。ツユクサなんかは面白いぞ。
「青いんでしょ?」
「ただ青いっていうだけじゃない。染物の下描きに使える優れものだ」
下絵を描いた後で布を蒸すとか、水に浸けるとか。
それで下描きが綺麗に消えちまうそうだ、ちゃんと青色で描いたのにな?
「消えちゃうんだ…」
凄い、とブルーは感心した。
SD体制よりもずっと昔の時代に、今、ブルーたちが住んでいる地域にあった小さな島国。その国で染物の下描きに使われたというツユクサの文化も今では復活しているらしい。
キビガラで染めるお赤飯が復活したのと同じで、日本らしさを楽しんでいる地域の文化…。
昔の人の知恵はなんと素晴らしいものだろうか、とブルーは呟く。
シャングリラにはそうした自然の着色剤は何も無かったと、全て合成のものだったと。
「そういう発想、前のぼくには全然無かったよ…」
「俺もだが…。シャングリラにも木とか草はあったし、前の俺たちが頑張っていれば草木染とかは出来たかもなあ…」
タマネギの皮でだって染物は出来る。
データベースで色々調べて工夫してれば、自然の染料が作れたかもな。
「それで制服なんかも作れたのかな?」
「出来たかもしれんが、お前のマントがとびきり高そうな感じだな」
「なんで?」
どうしてマント、とブルーが訊くと「紫だからさ」とハーレイは答えた。
「紫ってヤツはSD体制よりもずっと昔は高貴な人しか着られなかった。何故だか分かるか?」
染めるのが高くつくからだ。簡単に作れる色なら高くはならん。
日本じゃ草の根っこで染めたが、貝で染めてた地域もあったそうだ。
「貝!?」
ブルーはビックリ仰天した。
どうやって染めるのかは分からなかったが、シャングリラで貝は飼育していなかったから。
「…それ、シャングリラじゃ無理そうだね…」
「無理だな、マントを染めるためだけに貝を飼うなんぞはな」
草の根っこにしてもそうだぞ、野菜ってわけじゃないからな。
食えもしないのに育てられるか、シャングリラの中じゃ植える場所に限りがあるってもんだ。
それでも紫草……そういう名前の草だったんだが、そいつを育ててマントを染めたら。
ソルジャーだけが使える色だな、とびきり高貴な色だったってな。
「うーん…」
ブルーだけしか使えない紫。
前の自分はソルジャーだったけれど、その地位を示す色を特別に作らせるほど偉くはなかったとブルーは思う。他の仲間たちと同じでも一向に構わなかったし、それでいいとも思っていた。
けれども纏っていたソルジャーの衣装。前のハーレイのキャプテンの制服などと同じく、立場を表すための服装。区別が出来ればそれで充分、紫のマントにこだわらなくても…。
「ねえ、ハーレイ。自然の素材で服を染めてたら、地味だったかな?」
服の形でしか区別出来なかったかな、ぼくとか、前のハーレイとか。
マントを着けているのがぼくとか、その程度の違いしか無かったかな?
「いやいや、色なら沢山あったさ。昔の日本じゃ色の組み合わせの決まりもあった、と俺の授業で教えただろう?」
この話をした日は色付きの紙のセットが飛ぶように売れる、と言ってた昔の人のラブレターさ。
あれこれと紙の色を選んで、花を添えて出してた手紙だな。
「あったね、そういう手紙の話」
「思い出したか? あの時は手紙の話だけだが、服の色にも決まりがあったのさ」
この色とこの色を重ねて、こういう花を表します、とか。
同じ花でも咲き始めの頃と盛りの頃とで色を変えます、とか、こだわったわけだ。
「そこまでしてたの!?」
「他にも季節に合わせて色々とな。秋の紅葉とか、冬の氷とか」
もちろん自然素材の色だぞ、合成の染料なんかは無かった時代だ。
それだけバラエティー豊かに染めていたんだ、地味どころかうんと華やかだったさ。
遥かな昔には自然の染料だけで様々な色があったと言うから。
シャングリラの中でも同じことが出来たかもしれない、とブルーは考えた。
「そっか…。だったら、シャングリラでも沢山の色を作れていたかも…」
「努力してれば出来たかもなあ、前のお前の苦労が増えるが」
あの頃のシャングリラにあった植物だけでは全然足りなかっただろうしな。
「苗を調達しろってことだね、草とか、木とかの」
「そういうことだ。色を染める以外にも役に立つ植物と言ったら紅花とかか」
「紅花って油を採るんじゃないの?」
食用油として有名だったから、それしか知らなかったブルーだけれど。
「あれは本来、染料だ。紅花という名前があるくらいだから、赤色だな」
ジョミーのマントを染めるんだったら紅花になるか…。
もっとも染料は油と違って簡単には出来ん。
油は種を搾れば出来るが、染料の材料は花びらなんだ。
そいつを摘んで、うんと手間暇をかけて赤い染料が出来上がる。
サフランと同じで高価だったそうだ、沢山の花からほんのちょっぴりしか採れないからな。
「紅花から赤が採れるんだったら、お赤飯も出来る?」
ジョミーのマントみたいに鮮やかな赤だ、とハーレイに訊かされて、そう思ったのに。
「油はともかく、染料の方は食用じゃない」と笑われた。
食べても害は無いのだろうが、お赤飯を染めるには高価に過ぎると。復活してきた文化の一つで今も作られてはいるのだけれども、手間がかかる分、値段も張ると。
「紅花の赤で赤飯を染めたら高いだろうなあ、色は鮮やかかもしれんがな」
「キビガラだったらうんと安いの?」
「そりゃなあ、キビの実の殻だしな?」
本来は捨てるような部分だ、高くなるわけがないだろう。
「キビガラでも充分綺麗だしね」
それに美味しい。
キビガラの味かどうかは知らないけれども、美味しいお赤飯だったよ。
「おっ、そうか?」
お前、少ししか食わなかったから心配だったが…。
そうか、美味いか。
俺のおふくろもキビガラ派で、作り方はコレと同じだからな。
楽しみにしてろよ、いずれ食わせてやるからな。
きっと張り切って作るだろう、とハーレイはブルーに微笑みかけた。
「うんと沢山作ると思うぞ、お前を連れて行ったらな」
親父と二人で糯米を蒸して、ドッサリだ。
栗の季節なら栗もたっぷり入れるだろうなあ、クチナシで染めて。
「…ぼく、そんなに沢山食べられないよ?」
お茶碗に一杯くらいだと思うよ、二杯は無理。
沢山作らなくてもいいって言っておいてよ、お母さんたちに。
「お前が食うかどうかはともかく、配って回らんといけないからなあ…」
「えっ?」
どうして配るの、と驚くブルーに、ハーレイがパチンと片目を瞑る。
「俺が未来の嫁さんを連れて行くんだぞ?」
目出度いじゃないか、親父とおふくろにしたら。
これを祝わずにどうするんだっていうことになるだろ、幸せな気分をお裾分けしなきゃな。
そりゃもう沢山の赤飯を作って、隣近所に配って回るだろうさ。
ちゃんと庭の南天の葉っぱも添えてな。
マーマレードを配っている範囲に配りに行くのは確実だな、うん。
「そうなるわけ!?」
ブルーの頬が真っ赤に染まった。
いつか隣町にあるハーレイの両親の家に出掛けて行ったら、作られるというお赤飯。
おめでたいからと隣近所に配られるらしい、南天の葉を添えたお赤飯…。
嬉しいけれども、恥ずかしい。
ハーレイのお嫁さんになれることはとても嬉しいのだけど、お赤飯を配られてしまうだなんて。
「…それじゃ、ハーレイが結婚すること、アッと言う間にご近所さんに…」
「広がるだろうなあ、お前が俺の家でのんびり赤飯を食ってる間に」
ついでにお前を見たいって人も多いと思うぞ。
俺がガキだった頃から馴染みのご近所さんたちだ。
どんな嫁さんを貰うことにしたのか、見ようと集まってくるかもな?
「…そうなっちゃうの?」
「生垣越しに中を覗いている人がいたらだ、庭に出て手を振ってやるといい」
とびきりの笑顔で手を振ればいいさ、向こうさんだって手を振ってくれる。
なんたって俺の未来の嫁さんだからな。
「手を振るだけでいいの? ご挨拶じゃなくて?」
「そこまで堅苦しいことは要らんさ、昔の地球じゃないんだからな」
俺が嫁さんを貰う、それだけのことだ。
挨拶はいずれ道とかで会った時でいいのさ、ペコリと頭を下げるだけでな。
ずっと昔は挨拶も大変だったらしいが、とハーレイはSD体制よりも遥かな昔の習慣をブルーに教えてくれた。
近所や親戚の家を回って結婚の報告をしていたものだと、菓子折りなども持って行ったのだと。
「何を持って行くかは、同じ日本でも場所によって違ったという話だが…」
その時の作法も色々なんだが、とにかく面倒なものだったんだ。
お前がそういう挨拶を是非やりたい、と言うんだったら調べてやらないこともない。
親父もおふくろも昔の習慣とかが好きだし、喜んで協力してくれるだろう。
お前、そういった挨拶をして回りたいか?
「それ、ハーレイも一緒に来てくれるの?」
「お前が行きたいんだったら止めはしないし、必要とあらば一緒に行くが?」
「えーっと…」
それって、ちょっぴり恥ずかしくない?
ぼくがハーレイのお嫁さんです、って顔を見せに出掛けて行くんでしょ?
お嫁さんだったら、ホントに本物の恋人同士…。
前の生ではハーレイと結ばれていたブルーだったけれど、今はキスすら出来ない仲。
晴れて本物の恋人同士となり、それを公表できる機会が結婚。
そういう仲になったんです、と隣近所に挨拶をしに行ける度胸はブルーには全く無かった。
ところが結婚相手となるハーレイの方は澄ましたもので。
「恥ずかしいだと? 俺はお前をあちこち自慢して回れるんだから、何ともないが?」
「平気なの!?」
どうしよう、とブルーは耳の先まで真っ赤になった。
挨拶は出掛けなくてもかまわないとして、ハーレイの母が作って配るというお赤飯。隣町にある家を訪ねたら、「ハーレイがお嫁さんを貰うから」と配られるらしいお赤飯。
お赤飯を貰った人たちはブルーがハーレイと何をするのか、当然、知っているわけで。
ハーレイがどういう相手とそれをするのか、ブルーの顔を見に来るわけで…。
(…ど、どうしよう…)
恥ずかしすぎる、と俯くブルーに、ハーレイがクックッと喉を鳴らして。
「その調子だと挨拶回りは無理だな、おふくろの赤飯に期待しておけ」
ご近所さんにドカンと配ってくれるさ、うちの息子が今度結婚するんです、とな。
キビガラで沢山の糯米を染めて、庭の南天の葉っぱを添えて。
「もしかして、初めて行ったらそれなの!?」
悲鳴にも似たブルーの声に、ハーレイはプッと吹き出した。
「まさか。最初は遊びに行けばいいのさ、普通にな」
そして親父と釣りに行くとか、キャンプ場に遊びに出掛けるとか。
「…良かったあ…」
ホントに良かった、とブルーは安堵したのだけれども。
「良かった、か…。いつまでそう言っているものやら…」
今年いっぱい持つかどうか、とハーレイが難しい顔をしてみせるものだから。
「なんで?」と首を傾げたブルーに、笑いを含んだ答えが返った。
「俺が思うに、じきに変わるぞ、お前の台詞」
早く赤飯、と俺にせっつくんだ。
親父とおふくろの家に早く連れて行けと、そして赤飯を配って貰うんだと。
お前の夢は結婚だろうが、その前に赤飯を配らないとな?
「そ、そっか…」
じゃあ、お赤飯! とブルーは叫んだ。
早くお赤飯を配って欲しいと、ハーレイの母にキビガラで染めるお赤飯を作って欲しいと。
専門の店と同じように蒸して作った、絶妙な塩加減のお赤飯。栗の季節ならばクチナシで染めた黄色い栗がたっぷりと入るお赤飯。
庭にある南天の葉っぱを添えて、折箱に詰めて配って欲しい。
今度ハーレイが結婚するのだと、おめでたいからお赤飯を沢山作ったのだ、と。
「ふむ…。この赤飯はまさしくおふくろの味なわけだが」
そして本格派の赤飯なんだが、とハーレイはテーブルに置かれた折箱を指差した。
「俺はとりあえず軽く一杯食ったが、お前は少ししか食ってないしな?」
お前のお母さんに昼もこれにします、と言っておいたから、昼飯には温め直してくれるだろう。「お赤飯にピッタリのおかずを作りますわね」とも言っていたなあ、お母さんは。
何を作ってくれるのか知らんが、一つそいつで前祝いといくか?
いずれお前が俺の家に来て、おふくろが赤飯を配りに行く日の前祝いだ。
「気が早すぎだよ!」
何年先の話になるわけ、とブルーは頬を膨らませたけれど。
いつかはハーレイの母がキビガラで染めた糯米を蒸して、お赤飯をドッサリ作ってくれる。
ハーレイがブルーを嫁に貰うのだと、お祝いなのだと隣近所に配ってくれる。
その日が来たなら、ハーレイとの結婚はもうすぐそこ。
今はまだチラリとも見えない何年も先の話だけれども、ハーレイと結婚して一緒に暮らせる。
百五十センチしかない自分の背が伸び、百七十センチになったなら。
ソルジャー・ブルーだった前の自分と同じ背丈になったなら…。
(それと、結婚出来る年だよ)
十四歳の小さな自分が十八歳の誕生日を迎えたら結婚出来る年。
背が伸びて、十八歳になったらハーレイと結婚することが出来る。
(…お赤飯、早く配って欲しいな…)
キビガラで染めたお赤飯。
ハーレイが買って来てくれたお赤飯と同じ味がする、南天の葉を添えたお赤飯。
(もうちょっとだけ食べてみようかな?)
ほんの少し、と杓文字で掬って、自分の茶碗に二口分ほど入れてみた。
箸で口へと運んでみれば、ほんのりと感じる優しい塩味。
本物はいつになるのか分からないけれど、これがハーレイの母の味かとブルーは思う。
早く配りたいような、恥ずかしいような、と頬をちょっぴり桜色に染めて……。
お赤飯・了
※いつかハーレイと結婚する時は、配られるらしいお赤飯。ハーレイの母が炊いたのが。
今は恥ずかしがるブルーですけど、その時が来たら、幸せ一杯の筈ですよね。
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