シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「うーん…」
なんだか変、と夜の夜中に目が覚めた。
ベッドの感じがいつもと違う。寝心地が違うって言うのかな?
(なんで?)
どうして、と思ったぼくの頭の下、無くなってる枕。ぼくのお気に入りの大きな枕。ふんわりと頭を受け止めてくれる筈の枕が消えちゃってる。
あれっ、と手さぐりで探しても無い。少なくとも頭の近くには無い。
(何処…?)
ゴソゴソしてたら目が冴えちゃうよ、と目を瞑ったままで探すけれども、無いみたい。
こういった時に前のぼくなら簡単に解決出来たのに。
わざわざベッドを探らなくても、枕、って考えたらちゃんと出て来た。前のぼくの得意技だった瞬間移動で何処からか、パッと。
だから全然困らなかったし、目も冴えないで眠り直せた。大きな枕に頭を預けて、起きる時間が来るまでの間、眠りの世界に戻ってゆけた。
(…寝相は悪くはなかったんだけどね?)
前のぼくの寝相は良かったと思う。今のぼくみたいに枕が消えたりはしなかったと思う。寝てる間に上掛けを蹴飛ばしてしまうことも無かったと思うんだけど…。
(……でも……)
青の間で一緒に眠ったハーレイが起きて行った後。
枕が頭の下に無いこともあった。頭の下はシーツということがあった。
そんな時には瞬間移動でヒョイと戻して、頭の下に入れた。前のぼくが使っていた大きな枕を。今のぼくの枕よりも大きかった、青の間のベッドに見合った枕を。
あれほどに大きな枕が行方不明になるってことは…。
(…悪かったっけ?)
前のぼくの寝相。
悪かったなんて自覚はゼロだし、寝ていた間は、枕はきちんと頭の下に…。
いつだって頭の下に在ったと記憶している枕。
それがどうして消えたんだろう、と考え始めたぼくの意識はとっくに冴えていたけれど。眠気は飛んでしまっていたけど、気になる前のぼくのこと。
眠っている間中、前のぼくの頭を支えていた枕。
ハーレイが起きて行った後には消えてたってことは、犯人はハーレイだったんだろうか?
同じベッドで眠ったのだし、起き出す時にウッカリ触って何処かへ動かしてしまっていたとか。あれだけ大きい身体なんだもの、腕に引っ掛けただけで枕は動いてしまうと思う。足でも同じ。
(…うん、ハーレイが犯人なのかも…)
腕とかで連れて行っちゃったんだよ、と連れ去られた枕と犯人の腕を思い浮かべた。逞しかった褐色の腕。あの逞しい腕に引っ掛けられたら、大きな枕でもひとたまりも無かったことだろう。
(持って行っちゃったなら、元に戻してくれればいいのに)
頭の下に入れてくれればいいのに、と気配りの足りない前のハーレイに文句を言いたくなった。
だけど大抵は枕は頭の下にあったし、きっと忙しかったりしたんだろう。前のぼくの枕の面倒を見ていられないほど、急いで起きなきゃ駄目だったとか。
(…朝一番にブリッジに行ってた日もあったしね?)
朝食は青の間でハーレイと一緒に。
それがソルジャーとしてのぼくの習慣で、キャプテンだったハーレイの仕事。様々な報告などをしながら会食をするのだと誰もが信じていた。二人分の朝食を用意する係も居た。
その朝食の時間よりも前に、キャプテンの制服を纏ってブリッジに出掛けたハーレイ。緊急事態とかではなかったけれども、打ち合わせだとか、夜勤のクルーからの引き継ぎだとか。
そうした時には急いでいたから、ぼくに「おはよう」のキスもしないで出掛けて行った。ぼくの方でも分かっていたから、「ああ、出掛けたな」と気付いた時でも起きはしないでベッドの中。
大きな枕に頭を預けて、上掛けをすっぽり被り直して。
(そういえば…)
ハーレイが出掛けた後、ヒョイと直していた枕。
急ぎの用事で早く起きて行った日が多かったかな、と思い出す。でも…。
(…普通の日だって、消えてなかった?)
ぼくはもう少し眠りたいのに、「朝ですよ」って起こす前のハーレイ。啄むようなキスを何度も落として起こしたハーレイ。「もうちょっと…」と駄々をこねた、ぼく。ハーレイが溜息をついてベッドから出ても、「もう少しだけ」と寝ようとしたぼく。
どうせバスルームは一つしか無いし、ハーレイがシャワーを浴びて身支度を整えるまでは眠ったままでもかまわないから、と眠り直した。
何処かに行ってしまった枕を探して、頭の下にヒョイと戻して。
(暇があった時にも消えてたなんて…!)
ぼくの枕を連れ去るだなんて、しかも放って知らんぷりだなんて、酷い恋人だと詰りたくなる。ウッカリ動かしてしまったんなら、元に戻せと怒りたくなる。
(普段は戻してくれたんだろうけど、こういうのって…)
一事が万事。
忘れ果ててシャワーに出掛けるなんて心配りが足りなさすぎだ、と頬をプウッと膨らませた。
犯人は此処には居ないけれども、いつか文句を言ってやろうと。
(今度やったら絶交なんだよ)
一日ハーレイと口を利かないとか、そういうの。
前と違って今度は結婚するんだから。うんと大事にして貰わなきゃ、と思うから。
ぼくの枕を行方不明にしてしまう酷い恋人は論外、おまけに今のぼくは枕をヒョイと戻せない。今みたいに意識が冴えてしまって眠れなくなるし、それでは困る。
(忘れないで枕を入れておいてよ)
今度は絶対、と考えた所で「あれっ?」と思った。
忘れずに入れておいて欲しい枕と、枕が連れ去られてしまう前。
感触が違ったような気がする。前のぼくの頭の下にあった枕の感触。柔らかい枕と、硬いのと。枕を二つ持っていたのだろうか、と遠い記憶を探ろうとして。
(違った…!)
一晩中、前のぼくの頭を支えていた枕。硬かった枕。
あの枕は枕なんかじゃなくて。
(…前のハーレイの腕だったんだ…)
どおりで朝には消えていた筈。
ハーレイが本物の枕を代わりに置いてくれたんだろう。
たまに忘れて枕が無い時、ぼくが自分で探していた。瞬間移動でヒョイと探して置いた…。
(…いつもハーレイの腕だったんだよ、夜の間は)
いつ目が覚めても、ハーレイの腕がぼくの頭を支えていた。ぼくの頭の下にあった。
一晩中、前のぼくの頭を支えて眠っていたハーレイ。ぼくを抱き締めて眠ったハーレイ。ぼくの頭が腕に乗っかったままで一晩だなんて、ハーレイは重たくなかったんだろうか?
(…えーっと…)
訊いてみたことがあったっけ、と思い出した。
ハーレイと結ばれて、同じベッドで眠るようになって。ハーレイの腕が枕代わりになっていると気付いて、何度か訊いた。
こんなことをして腕が痺れないかと、重くないのかと。
ヒトの頭が重いことくらい、前のぼくはちゃんと知っていたから。
五キロくらいはあるんだってこと、充分に承知していたから。
きっと重いに違いない、と心配しながら尋ねたのに。
「私の宝物ですからね」と笑ったハーレイ。
宝物は重いほど価値がありますから、と。
シャングリラは宝物と縁が全く無かったけれども、金や宝石。そういったものはとても重いし、金の塊は見た目よりもずっと重いものだと。
「ずっしりと重いそうですよ。ほんのこのくらいの大きさでも」
生憎と手に取ったことはありませんが、とハーレイが金塊の大きさを手で示したから。
前のぼくの頭なんかより遥かに小さなものだったから。
「…重いのかい? ぼくの頭は」
「いいえ」
ハーレイは笑顔でそう答えた。「いいえ」なら、つまり軽いということ。宝物は重いほど価値があるなら、ぼくの頭は…。
「じゃあ、軽いのなら宝物の価値が…」
宝物としては失格だろう、と項垂れたぼくに、「まさか」と直ぐに返したハーレイ。
「この世の中には軽い宝物だってありますからね」
「…どんな?」
「それは色々ありますよ」
今の時代には何がそうかは分かりませんが…。
遠い昔には、同じ重さの金よりも高い値段で取引された。そんな品物も沢山あったそうです。
「ああ…。香料とかだね、本で読んだよ」
「そういうものなら、軽くても宝物ですよ」
重い宝物の金よりも軽い。
それなのに値段は金よりも高い、うんと軽くて価値の高い宝物ですとも。
重いほど価値がある宝物。ずっしりと重い、金や宝石。
その一方で、金よりもずっと軽いものでも宝物。金よりも高い宝物。
どちらも宝物だと言うなら、ぼくの頭はどうなんだろう、と余計に気になるものだから。
「…ねえ、ハーレイ。ぼくの頭は重いのかい?」
それとも軽い?
君は一晩中、ぼくの頭を腕に乗っけているけれど。
重いのかい、それとも軽いのかな?
「さあ…?」
どちらでしょうね、とハーレイは微笑んだだけで答えてくれなかったけど。
重かったのかな、前のぼくの頭。
それともハーレイの逞しい腕なら軽かった?
五キロという重さは見当がつくし、ぼくには軽いと思えないけれど。
サイオンでとてつもない重量の物体を運ぶことが出来た前のぼくでも、自分の腕を使うのならば五キロは「軽い」とは言えない重さ。スプーンを持ったりするのとは違う。
五キロはそういう重さなのだ、と思うけれども。
でも、いつだって前のぼくの頭の下にはハーレイの腕。
夜中に目覚めても、朝の微睡みの中でも、ハーレイがベッドに居てくれた間はハーレイの腕…。
(…今のぼくなら前より軽いと思うんだけど…)
小さい分だけ、頭だってきっと軽いと思う。
キロ単位で違うかどうかは分からないけれど、絶対に前のぼくよりも軽い。ハーレイが腕を枕に貸してくれたら、「これは軽いな」と気付く筈。
でも試してはくれないよね、と悲しくなった。
ぼくの頭が重いか軽いか、ハーレイに言っても試してくれない。
今のぼくはハーレイと同じベッドで眠れないから。
腕を枕に借りるどころか、キスさえ許して貰えないんだから。
(軽い宝物も試して欲しいのに…)
腕に乗っけて楽なのかどうか、軽い頭も試して欲しいと思うのに。
せっかく今なら軽い頭を持っているのに、試してくれさえしないだなんて。
腕を枕に貸すぼくの頭は、前とおんなじ重さでなければいけないだなんて…。
残念だよ、と思ったけれど。
今のぼくの軽くて小さな頭も腕に乗っけてみて欲しいよ、と思うけれども。
(でも、どうだろう…?)
ぼくの小さな頭を乗せるには、ハーレイの腕の枕は太くて大きすぎかもしれない。
あの腕を借りて枕にするのに丁度いいサイズが、前のぼくの頭だったかもしれない。
ハーレイの腕にピッタリの頭。あの腕の枕にピッタリの頭。
(…うーん…)
何かと言えばハーレイに言われる、「大きくなれよ」って、お決まりの台詞。
「しっかり食べて大きくなれよ」とか、「ゆっくりでいいから大きくなれ」とか。
大きくなれ、っていう言葉の中には頭のサイズも入っているのかな?
今は小さい、ぼくの頭。前のぼくより軽い筈の頭。
この頭も小さすぎてダメかもしれない。
前のぼくの頭がいいのかもしれない。
重たくっても、ハーレイが腕に乗っけておくには丁度いいとか…。
どうなんだろう、と知りたくてたまらない頭の重さ。
ハーレイが「私の宝物ですからね」と笑っていたぼくの頭の重さ。
重たかったのか、軽かったのか。
どう思っていて、ハーレイの腕には丁度良かったのか、そうではないのか。
とても知りたくてたまらないのに。
重かったならば「今のぼくの頭は軽いよ?」って言ってみたいし、軽かったのなら大きくなった後も安心して枕に出来るんだけど…。
前のぼくが毎晩借りてたみたいに、頼もしくて硬い腕の枕を。
(…ハーレイ、絶対、教えてくれないんだよ)
訊いてみたって、教えてくれない。「知らんな」って言われるか、無視されるか。
前のぼくだって宝物の話で誤魔化されて終わっていたんだから。
重いか軽いか、教えてくれなかったんだから。
今のぼくに教えてくれっこない。
腕の枕を貸す必要も無い、小さなぼくには教えてくれない…。
(ハーレイの腕の枕…)
一晩中、前のぼくの頭を支えていてくれた腕。太くて逞しい褐色の腕。
絶対に逃げていかない枕。
前のぼくの寝相がどうだったとしても、逃げて行きはしなかった頼もしい枕。
いつだって、前のぼくの頭の下にきちんと在った。
ハーレイが起きて行ったら無くなったけれど、代わりに普通の枕が貰えた。ハーレイがウッカリ忘れない限り、急いでいて忘れてしまわない限り、腕の代わりに普通の枕を置いて貰えた…。
(…ぼくの枕は?)
普通の枕を思い浮かべるまで忘れちゃってた、今のぼくの枕。行方不明になっちゃった枕。
すっかり忘れてしまっていたけど、身体の周りを探って、見付けて。
(…蹴飛ばしちゃってた?)
ベッドから落っこちかけていたのを腕を伸ばして引っ張り戻した。
これで良し、と頭の下に入れた所で、違和感。
お気に入りの枕だというのに、違和感。
(…ハーレイの腕と全然違うよ…)
あの腕がいい。ハーレイの腕の枕が断然、いい。
少しでも近づけようと思って、枕を二つに折ってみたって、違う。
丸めてみたって、全然違う。
枕は、枕。
今日まで何とも思わなかったし、柔らかすぎるなんて思いもしない。頭がふわりと沈む感じも、頭を支える力加減も、ぼくにピッタリだったのに。
とても眠りやすいと思っていたのに、頼りなさすぎる大きな枕。
大きいばかりで、役に立たない。
ぼくの頭を受け止めるには役に立たない、見掛け倒しの大きな枕…。
(…あのハーレイの腕がいいのに)
あの腕がとても良かったのに、と溜息をついた。
前のぼくがとても好きだった枕。安心して眠っていられた枕。
ハーレイが側に居てくれるのだと、ぼくのために腕を枕に貸してくれていると…。
寝心地としては、実際、どうだったのかは分からないけれど。
前のぼくがぐっすり眠れるようにと計算し尽くされていた青の間のベッド専用の枕と、どっちが前のぼくの頭に合っていたかは分からないけれど。
好きだった枕はハーレイの腕。前のハーレイが貸してくれた腕。
ハーレイもきっと分かってくれていたんだろう。
ぼくが好きな枕は自分の腕だと、ベッドとセットの専用の枕よりも好きなのだと。
だから重たくても、ぼくの頭を乗せるために腕。
前のぼくの頭が重たくっても、腕に乗っけて眠ってくれた。
重たいだなんて一度も言わずに、一晩中、枕に貸してくれていた…。
(でも…)
ハーレイの逞しい腕には、前のぼくの頭は軽かったかもしれない。
ぼくが「重いだろうな」と勝手に思ってただけで、ハーレイには重くなかったかもしれない。
(…どうだったんだろう?)
分からないや、と誤魔化されてしまった答えを思う。
重くても軽くても宝物だと、どちらも宝物に違いないのだと。
軽かったのか、逆に重かったのか。
前のハーレイが教えてくれなかった、前のぼくの頭の本当の重さ。
ハーレイがどんな風に感じていたのか、聞けないままで終わった重さ…。
(…今のハーレイだと、どうなるんだろう?)
今のハーレイも、前のハーレイと見た目は全く同じ。
がっしりとした大きな身体も、逞しい腕も前のハーレイと全く同じ。
だけど前よりも、もっともっと鍛え上げた腕。
見た目には前と変わらないけれど、鍛え方がまるで違う腕。
前のハーレイは体調管理に気を付けていたし、体力や筋力が衰えないように運動することも日課ではあった。シャングリラがうんと狭かった頃も、出来る範囲で運動していた。
それでも運動はキャプテンの仕事じゃないから、あくまで健康維持のため。身体を鍛えるのとは全然違うし、人と競えるレベルじゃなかった。ミュウにしては頑丈だったというだけ。
けれども、今のハーレイは違う。運動が好きで、柔道も水泳も、大会に出たり記録を出したり。今だって指導が出来る腕前、ジョギングだって凄い距離を走っていくことが出来る。
選手をやってる人にも負けない、鍛え上げられたハーレイの身体。
力強く水を掻いて泳げて、柔道だと相手を軽々と投げてしまえる腕。筋肉の強さが前とは違う。そんな腕をぼくに枕代わりに貸してみたなら、どうなるだろう?
(…前より軽いって思うかもね?)
それとも同じ?
ぼくはぼくだから、感じる重さも前とおんなじ?
ハーレイは今度も「宝物だ」と言って思ってくれるんだろうし、宝物なら前とおんなじ?
どうなんだろう、と凄く気になる。
だけど前のぼくでも教えて貰えずに終わった答え。
今度だって絶対教えてくれやしないし、今の小さなぼくだと訊くだけ無駄なことだし…。
とても知りたい、ハーレイの答え。
ぼくの頭が重いか軽いか、知りたくてたまらないハーレイの腕が感じる重さ。
(…今度の目標にしようかな?)
せっかく二人で生まれ変わって来たんだもの、と考える。
ハーレイの腕には重いか、軽いか。
訊き出してみるのもいいかもしれない。
普段は絶対無理だろうけど、ハーレイが寝ぼけている時だったら訊けるかもしれない。
(今のハーレイはキャプテンじゃないものね?)
キャプテンだった頃のハーレイは時間厳守で、いつだって目覚まし時計をセットしていた。青の間に泊まる時だって同じ。
ベッドに入る前には、前のぼくも好きだったアナログ式の置時計のアラームを必ず確認してた。次の日の朝、それが鳴ったら、起きて身支度。
ぼくが枕にしていた腕もベッドから出て行っちゃうから、代わりに枕を置いてってくれた。
たまに忘れるとか、急いでいてウッカリしてたとか。そういう時には枕が無かった。
時間通りに律儀に動いたキャプテンだけれど、今度は違う。今のハーレイはただの先生。
何の用事も無い休みの日にまで目覚まし時計をセットしたりはしないだろう。
朝寝坊だってするかもしれない、寝坊したって何の問題も無いんだから。
ぼくとベッドで恋人同士の幸せな夜を一緒に過ごして、それから眠って。
もちろん、ぼくはハーレイの腕を枕に貸して貰って、目覚ましもかけずに二人で眠って。
次の日の朝、運良くぼくが先に起きたら、まだ眠っているハーレイに小声で訊いてみるんだ。
しっかりと腕を枕にしたまま、「重い?」って。
「ぼくの頭、ハーレイの腕に乗っかってるけど、これって重い?」って。
重いと答えが返って来たなら、きっと嬉しい。
重たくても支えてくれていたんだ、って、ずうっと支えてくれてたんだ、って。
腕が重くても、乗っかってるのが宝物だから。
ぼくの頭はハーレイの宝物なんだ、って胸がじんわり熱くなると思う。
もしかしたら、ぼくは泣くかもしれない。涙が一粒、ポロリと零れて落ちるかもしれない。
幸せすぎて、とても嬉しくて。
ハーレイの宝物だと言って貰えたと、嬉しすぎて涙が出るかもしれない。
逆に「軽い」と返って来たって、ぼくはやっぱり嬉しくなる。
軽いものは扱いが大変だから。
ぼくの枕が行方不明になったみたいに、軽かったら何処かへ失くしてしまう。
その「軽いもの」を一晩中、しっかりと腕に乗せてくれているなら、失くさないよう気を付けてくれているってことだから。
とても大事に、何処かへ失くしてしまわないように、そうっと、そうっと。
そんな風に扱ってくれているんだと分かったらきっと、ぼくは嬉しくて、幸せで泣く。
幸せな涙がポロリと零れて、ハーレイの腕の枕に落ちる…。
(…どっちなのかな?)
ハーレイが自分の腕に感じる、ぼくの頭の本当の重さ。
重いのかな?
それとも、軽いのかな?
今度こそ答えを訊き出さなくちゃ。
キャプテンじゃなくなったハーレイが寝ぼけてポロッとホントのことを言うまで、何回も訊いて頑張って。
そのために早起きになるかもしれない、今度のぼく。
ハーレイよりも早く起きようと、空が白くなったらパチリと目を覚ます癖がつくかも…。
(頑張らなくちゃね、前のぼくが聞けなかった答えを聞くためだもんね?)
だけどハーレイも負けずに早起きするかもしれない。
ぼくに喋ってたまるものか、って頑張って起きて、早起き競争になるかもしれない。
(でも、負けないしね?)
時間はたっぷりあるんだから。
前のぼくたちと違って目覚ましの要らない朝が沢山、のんびりと過ごせる朝が沢山。
そんな幸せな世界に生まれて、頑張れないなんて有り得ない。
ぼくは絶対、ハーレイに勝つ。
勝って答えを訊き出さなくっちゃ、ぼくの頭は重いか、軽いか。
(よし、頑張る!)
今度の目標はこれだ、と決めた。
まずはハーレイと二人で眠れる背丈に育って、結婚しなくちゃいけないんだけど…。
早く訊きたい、ハーレイの答え。
(ぼくの頭、重いか、軽いのか、どっち?)
そして早くハーレイの腕の枕が欲しいよ、こんな枕じゃ頼りないから。
お気に入りの枕が、ちょっぴり寂しい。
ぼくの本当のお気に入りの枕は、何ブロックも離れた場所にあるから。
ハーレイの身体にくっついたそれは、ハーレイの家のベッドでぐっすり眠っている筈だから…。
お気に入りの枕・了
※前のブルーのお気に入りだった、ハーレイの腕という枕。いつも頭の下にあったもの。
ハーレイが「重い頭だ」と思っていたのか、軽かったのか。気になりますよね。
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