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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

特化する進化

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv




ポカポカと暖かく、穏やかな春。桜は八重桜へと移りましたが、今年の春はゆったりとお花見を楽しむことが出来ました。今日は土曜日、せっかくだからと八重桜が多い公園へお出掛け。ソルジャーとキャプテン、「ぶるぅ」も一緒にお弁当を食べてお花見をして…。
「やっぱりいいねえ、地球の桜は。夜桜が無いのが残念だけど」
そっちがあったら夜の部も…、とソルジャーは八重桜に未練たっぷり。公園はライトアップをしていないため、日が傾いてきた頃にお花見の方はお開きで。
「仕方ないだろ、やってないものは。それに君のハーレイは仕事をサボッて来てたんだよね?」
会長さんが指摘したとおり、キャプテンは休暇を取っていませんでした。普通の桜でお花見した時に特別休暇を取りましたから、続けて取ることは難しいらしく。
「そこなんだよねえ…。それさえ無ければ晩御飯も一緒に食べられたのに」
そっちも残念、とソルジャーが焼肉をつついています。キャプテンは仮病を使ってブリッジから逃げ、こちらの世界に来ていた次第。お花見が終わると「ぶるぅ」の力でシャングリラに帰ってしまいました。「ぶるぅ」は再び戻ってくるかと思ったのですが…。
「ぶるぅかい? 戻って来たけど他へ行ったよ」
「「「え?」」」
いったい何処へ行ったのだ、と尋ねてみれば。
「お花見をしていた間に目をつけた店があったらしくて…。今はお好み焼きを山ほど食べてる」
「それって、お金はどうなるのさ!」
会長さんが突っ込み、シロエ君たちも。
「まさか食い逃げするんじゃないでしょうね!」
「それしかねえだろ、あいつ財布は持ってねえだろうし」
「こっちのぶるぅと間違われることはないと思うが…。いや、待て!」
ツケにされて払う羽目になるとか、とキース君。それはマズイ、と顔を見合わせていると。
「無い無い、それは絶対無いってば!」
保証するよ、とソルジャーが太鼓判。
「ぼくに思念波で訊いてきたんだ、財布を持って行ってもいいか、って。貸してもいいけど、それだとお金が減るだろう? だから「こっちのノルディに貰っておいで」と」
「「「…エ、エロドクター…」」」
「何か問題でも? ノルディは大喜びで札束を渡していたようだけどねえ? あなたのブルーにどうぞよろしく、と」
袖の下か、と私たちは揃ってドッと脱力。エロドクターときたら、ソルジャーとの楽しいデートのためなら「ぶるぅ」の胃袋も買収しますか、そうですか…。



二ヶ所に分かれた夜の部の宴会。私たちは焼肉パーティー、「ぶるぅ」はお好み焼きの店。大食漢の「ぶるぅ」も交えての焼肉となれば戦場ですけど、そうでなければ至って平和で。
「んとんと…。昼間の公園、映ってるかなぁ?」
テレビカメラが来ていたもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がテレビの電源を。おおっ、ちょうどローカルニュースの終盤、八重桜が満開の公園が映っています。
「すっごーい! 桜いっぱい!」
ぼくたちも映っていないかなぁ? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はテレビの前に張り付きましたが、映像は私たちのレジャーシートの端を掠めて桜のアップになってしまいました。これってシールドしていたと言うか、サイオンで撮影お断りの結果とか?
「……映ってなかった……」
録画しようと思ってたのに、とガックリしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。あれっ、だったら映る可能性もあったってこと? ソルジャーやキャプテン、「ぶるぅ」がいても?
「そりゃあ、映る時には映るよねえ…」
その辺はドンと任せておいて、とソルジャーが。
「こっちの世界にもすっかり慣れたし、テレビカメラくらいは平気だよ。たとえ隠し撮りをされていようと映像はバッチリ誤魔化せるしね。…ぶるぅ、残念だったね、映ってなくて」
「…残念だよう…。お花見弁当も映ってるかと思ったのにー!」
自信作のお弁当だったのに、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が肩を落とす間にニュースは終わって次の番組が。『生き物ふしぎ発見』のタイトルが映り、そこでテレビは消されるものかと思ったら。
「わぁっ、可愛い! ネズミさんだぁ!」
これも見るー! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の落ち込み気分が一気に浮上。さっきのガックリを見ているだけに、可愛いネズミで和むんだったらテレビはつけておくべきでしょう。
「ぶるぅ、焼肉はどうするんだい?」
会長さんが訊くと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ笑顔で。
「焼けてる音と匂いで分かるよ、焼き加減! ぼくの分はちゃんと自分で焼くから!」
これと、これと…、とお肉や野菜をホットプレートにヒョイヒョイと乗せて、視線はテレビの画面へと。本当に可愛いネズミです。それに…。
「ぶるぅが好きなら見せておいてやろう。いつも御馳走になっているしな」
キース君の言葉に頷く私たち。凝ったお料理だと困りますけど、焼肉くらいなら「そるじゃぁ・ぶるぅ」に任せなくても大丈夫。たまには食べながらテレビ観賞するのもいいですよね!



焼肉パーティーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の指南抜きでも何とかなるもの。ソルジャーの分のお肉や野菜が焼け焦げる事故は多発しましたが、知ったことではありません。自分の面倒は自分で見ろ、と横目で流して自分の分をジュウジュウと…。
「ちょ、ちょっと!」
いきなりソルジャーが声を上げても、「また焦がしたか」と華麗にスル―。
「大変だってば、これは物凄いニュースだってば!」
「…何が?」
特上の肉を焦がしたのかい、と会長さん。今夜はマザー農場の幻の肉と名高いお肉もたっぷり。それを焦がすとは許し難い、と私たちも睨み付けましたが。
「違うよ、テレビの方なんだよ!」
「ニュースの時間は終わっただろう!」
嘘をつくな、と会長さんが怒鳴り、ソルジャーがそれに負けない声で。
「本当に凄いニュースだってば! ぶるぅも見てたし!」
「…ぶるぅ、テロップでも流れたのかい?」
ニュース速報、と訊いた会長さんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキョトンとした顔。
「やってなかったよ? ネズミさんが走り回ってただけだもん」
「ほらね、やっぱり大嘘じゃないか」
白々しい、と会長さんは一刀両断。けれどソルジャーは怯みもせずに。
「走り回るネズミがニュースなんだよ! ぶるぅが分かってないだけで!」
「「「…ネズミ?」」」
そんなモノがどうニュースなのだ、とテレビに視線を向けてみると。
「「「???」」」
コロンと横たわる小さなネズミ。そして男性の声で流れるナレーション。
「…こうしてキアシアンテキヌスの雄は、その生涯を終えるのである」
え? ネズミが死んだらニュースだなんて、何か変です。それだけでも充分『?』マークなのに、更に「そるじゃぁ・ぶるぅ」の悲鳴が。
「ああっ、ネズミさん、死んじゃったぁー!」
ソルジャーの方も呆然として。
「…嘘だろう? 何もそこまで頑張らなくても…」
死んでしまったら元も子も、と妙な台詞が出て来た所でテロップが。『十二時間』って、なに? いったい何が十二時間で、ネズミの死骸は何なんですか~!



サッパリ意味が不明のテレビ番組。今度はお母さんネズミと沢山の子ネズミ。ナレーションは「この子供たちの中の雄もまた、その父親と同じ生涯を送る」と流れています。…あれっ? テレビのネズミのファミリー、お父さんネズミが欠けているような…?
「…うーん…。これはこれで何とかなるんだろうか…」
しかし死ぬまで頑張らなくても、とソルジャーが再び謎の台詞を。
「でもまあ、ぼくは子供を産むわけじゃなし…。死ぬ前に止めればいいんだよね、多分」
「「「は?」」」
日頃から「ぶるぅ」のママの座をキャプテンと押し付け合っているソルジャー。子供を産むという言葉は禁句の筈ですけれども、いったい何が言いたいんでしょう?
「いや、ちょっと…。このネズミの雄は凄いな、と思ったんだけど、まさか死ぬとは」
「どう凄くって、なんで死ぬのさ?」
分からないよ、と会長さんが首を捻って、テレビの方にはエンディング曲が流れてスタッフ名がズラズラと。これは再放送でも見ない限りは理解不能かもしれません。それとも録画?
「ぶるぅ、今のは録画してた?」
ソルジャーの問いに「そるじゃぁ・ぶるぅ」は首を左右に。
「してないよ?」
「そうなんだ…。名前はバッチリ覚えてるから、まあいいかな」
フクロネズミ、と呟くソルジャー。今のってフクロネズミでしたか! 舌を噛みそうな長ったらしい名前だったと思いましたが…。
「キアシアンテキヌスだったらさっきのネズミ! フクロネズミの一種らしいよ。他にも何種類か似たようなヤツがいるらしくって」
実にパワフルなネズミなのだ、とソルジャーが肉を焼きながら。
「ぶるぅが言ったろ、走り回っていただけだ、って。その時間が実に十二時間! 早回しで流してたからチョコマカチョコマカ、場合によっては十四時間も」
「…走り続けるわけ?」
ジョミー君が疑問をぶっつけ、キース君が。
「それは死んでも不思議ではないな…。マラソン選手じゃあるまいし」
「甘いね、走ってるだけじゃないんだってば! もう飛びっきりのビッグニュース!」
こんな生き物が地球に居たとは、とソルジャーは感動の面持ちで。
「走る目的はひたすらセックス!!!」
「「「えぇっ?!」」」
なんじゃそりゃ、と私たちはポカンと口を開けました。も、もしかしてネズミながらも大人の時間を十二時間? 挙句の果てにコロリと死ぬとか、まさか、まさかね……。



「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「可愛い!」と見始めた小さなネズミを撮った番組。フクロネズミと言うからには有袋類ってヤツでしょうけど、走りまくって十二時間だか十四時間だか。走るだけでも驚きなのに、その目的が大人の時間って…。
「本当だってば、本当にヤッていたんだってば!」
ぶるぅは分かってないかもだけど、と言うソルジャー。
「発情期が来たら、一度に沢山の雌と十二時間から十四時間も交尾をしまくるらしいんだよ。実際、映像が流れてた。パワフルだなぁ、とビックリしたからビッグニュースだと言ったんだけど」
そんなパワーはハーレイにも無い、とグッと拳を握るソルジャー。
「もう絶倫としか言いようがないし、薬か何かに使えないかと思ってさ…。叫んだ時にはそのつもりだった。だけど死んじゃう理由を聞いたら、考えがちょっと変わったんだよ」
「やめとこうって?」
それが吉だね、と会長さん。
「何も死ぬまでやらなくていいし、そんな生き物を薬に使ったらロクな結果になりそうもない。君も困るだろ、ハーレイが死んでしまったら?」
「そこなんだよねえ…。死ぬ所まで行かない程度に留めておけばいいのかなぁ…って」
「やっぱり薬にする気じゃないか!」
どう考えが変わったというのだ、と会長さんは非難の視線。私たちも呆れ果てたのですけど。
「そうじゃなくって! どうして死ぬのか、君たちは聞いていなかっただろう?」
「聞いていないね。そもそも君が騒いでいたから」
テレビのナレーションどころでは、とバッサリ切り捨てる会長さん。
「それにネズミに興味も無いしさ、ヤリ過ぎで死んでも痛くも痒くも」
「そう、ヤリ過ぎ! まさにヤリ過ぎで死ぬらしいんだよ」
まあ聞きたまえ、とソルジャーが座り直した時には焼肉パーティーも終盤で。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が刻んだニンニクなどを炒めてガーリックライスを作っています。小さな子供の頭の中から可愛いネズミは消えたようですが、ソルジャーの方はネズミに夢中。
「あのネズミはねえ、交尾に没頭しすぎるあまりにテストステロンという男性ホルモンのレベルが高くなる。これが引き金になってストレスホルモンが増加しまくり、カスケード効果とやらで体内組織が破壊された上、免疫系が崩壊するわけ」
「「「………???」」」
ソルジャーの語りは専門的すぎて全くピンと来ませんでした。ホルモンはともかくカスケード効果と言われましても、カスタードクリームとは違うんですよね?



「あーあ、全然通じてないし…」
何処がカスタードクリームなのだ、とソルジャーは天井を仰いで深い溜息。その間にガーリックライスがお皿に盛られて紅茶やコーヒーも登場です。お好み焼きを食べに出掛けた「ぶるぅ」はどうなったかな?
「えっ、ぶるぅ? 先に帰ったよ、お持ち帰り用のお好み焼きを山ほど抱えて」
食べたら後は寝るだけだろうし、後はぼくとハーレイとでゆっくりと…、と微笑むソルジャー。
「ネズミの話も伝えなくっちゃね。筋力と体内組織の限りを尽くして持てるエネルギーを使い切るまで交尾三昧!」
ああ、なるほど。その言い方なら分かります。ヤリ過ぎで死ぬってそういう意味かぁ…。
「自分の子孫を確実に残すために死に物狂いで交尾するよう、進化を遂げたらしいんだよね。素晴らしいじゃないか、子育てなんかは我関せずとセックスに特化した進化! お蔭でぼくの考え方も変わったんだよ、そっちの方へと」
「「「は?」」」
今度こそ意味が掴めません。ソルジャーの考えがどう変わったと?
「薬に使うのもいいかもしれない。でも、そういうのに頼る前にさ、ハーレイを進化させちゃった方が確実なんじゃないかってね」
「「「…進化?」」」
進化って……そんな簡単なことですか? 何世代もかけて変わるんじゃあ?
「うん。本物の進化だったら時間もかかるし、とてもじゃないけど間に合わない。ぼくが言うのはハーレイの気持ちの進化かな? 今のハーレイは仕事が優先、ぼくとの時間は二の次だ。そこをセックス優先に!」
ゲッ、と息を飲む私たち。それっていったい…?
「分からないかな、一にセックス、二にセックス! とにかく仕事よりセックス優先、ブリッジにいようが会議中だろうが、ぼくに会ったらセックスあるのみ!」
「…そ、それは……」
どう考えても無理だろう、と会長さんが掠れた声を絞り出しました。
「君のハーレイ、究極のヘタレじゃなかったっけ? 人目がある場所じゃ無理とか何とか」
「見られていると意気消沈って話かい? それも含めてセックスに特化! ブリッジとかでは無理だと言うなら青の間専用に進化させるさ」
この際、キャプテンの職は他の誰かに譲るとか…、とソルジャーの口から恐ろしい言葉が。
「青の間でハーレイを飼うのもいいねえ、ぼくのお相手専用に! それこそ究極の進化だよ。薬に頼るより進化させるのが最高だってば!」
努力あるのみ! とソルジャーの赤い瞳が爛々と。キャプテンはどうなってしまうのでしょう? でもまあ、ソルジャーの世界で進化させるなら私たちには無関係ですよね?



ヤリまくった果てに死んでしまうらしいフクロネズミ。可愛い姿が「そるじゃぁ・ぶるぅ」の気を引いたばかりに焼肉パーティーのバックグラウンドに凄すぎる番組が流れたようです。その内容に感化されてしまったソルジャー、勢い込んで自分の世界に帰りましたが…。
「…あの後、結局、どうなったわけ?」
もうすぐ一週間になるんだけれど、とジョミー君。今日は金曜、あの日が土曜日でしたっけ…。
「どうなったのかな? ぼくも知らない」
あれからブルーの姿を見ない、と会長さん。
「あっちの世界を覗くつもりにもなれないし…。なにしろブルーの目的がアレだ」
「ロクな結果になりそうにないな」
知りたくもない、とキース君がぼやいて、マツカ君が。
「…大丈夫なんでしょうか、そのぅ…」
「あっちの世界のハーレイかい?」
それは心配なんだけどね、と会長さんも顔を曇らせています。
「最悪、キャプテンを解任されて幽閉されているかもねえ…。ブルーはやると言ったらやるから」
「ですよね、ぼくも心配です」
あちらの世界のシャングリラ号も、とシロエ君がフウと吐息をついた所へ。
「ヤると言ってもヤれない時にはヤれないんだよ!」
「「「!!?」」」
会長さんそっくりの声が響いてユラリと揺れる背後の空間。紫のマントがフワリと翻り、其処にソルジャーが立っていました。
「ぶるぅ、ぼくのおやつもあるのかな?」
「かみお~ん♪ 今日はイチゴたっぷりのチーズケーキだよ!」
チーズケーキの上にイチゴがドッサリ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」御自慢のケーキがソルジャーの分まで。紅茶も淹れられ、ソルジャーはソファにゆったりと。
「うん、美味しい! 煮詰まってる時には甘いものがいいね」
「えとえと…。ジャムでも作ってるの?」
煮詰める時には火加減が大切、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がアドバイス。ソルジャーは頷いていますけれども、ジャム作りの趣味なんてありましたっけ?
「んー…。煮詰まってるのはぼくの頭で、どうしようかと悩んでたけど、火加減ねえ…。そこは確かに大切かもだよ、遠ざけすぎてもダメなんだよね」
「「「???」」」
本当にジャムを煮てたとか? お鍋を火から遠ざけすぎてもジャムは上手に出来ませんしね?



遠ざけすぎてもダメな火加減。キャプテンを進化させる話は放置でジャム作りに凝っていたのでしょうか? ソルジャーの行動は読めないだけにジャムもアリか、と思いましたが。
「…ジャムはジャムでもミルクジャムかな、いい感じに出来たら美味しいよね」
「退場!!」
レッドカードを突き付けている会長さん。どうしてミルクジャムの話なんかで退場に?
「ああ、それはね…。原材料のミルクの方だよ、牛じゃなくってぼくの」
「退場だってば!」
サッサと出て行け、と会長さんが怒鳴り付けても、ソルジャーの方は何処吹く風で。
「ぼくのハーレイから採れるアレがね、ミルクに似てないこともないな、と」
「「「………」」」
来たか、と身構える私たち。ソルジャーの日頃の猥談三昧のせいで「アレ」と言われれば嫌な予感がビビッと走るというわけです。あまつさえキャプテンの名前が出たとあっては、もう間違いなく猥談で…。
「とにかく問題はミルクなんだよ。ジャムを作ろうにもミルクが無いとね…。火加減の大切さは流石に身にしみて分かってきたかな」
「「「火加減?」」」
本気でジャムで火加減なのか、と頭の中で『?』マークが乱舞。猥談だったと思うのですけど、その一方ではジャム作りですか?
「…ジャムを作るにはミルクと言ったと思うけど? どうやら火から遠ざけすぎたらしくて、肝心のミルクが失速気味でさ」
「君はいったい何をしたわけ?」
レッドカードをちらつかせながらの会長さんの問いに、ソルジャーは。
「…セックスに特化するよう進化しろ、とハーレイに発破をかけたんだけど…。ブリッジどころか公園でもダメ、サッパリ話にならなくて…。青の間に引っ張り込んでから今日で三日目」
なのにミルクを出さなくなっちゃってねえ、とソルジャーは困ったように首を振りました。
「こんな所でヤッてる場合じゃないとか何とか…。ハーレイもセックスは嫌いじゃないとは思うんだけど…。ブリッジから引き離しちゃったのがマズかったかも」
仕事が気になって勃たないのだろう、とソルジャー、溜息。
「ぶるぅに言われて気が付いた。遠ざけちゃったらダメなんだよ。ハーレイの居場所はブリッジだからさ、戻せばきっとパワフルに! でもねえ…」
それだと別の理由で勃たなくなるし、と悩みは相当に深いようです。しかしソルジャー、キャプテンを青の間に閉じ込めていたとは恐るべし。進化のためなら手段を選ばず即実行。この調子ではキャプテンが進化を遂げる時まで、あの手この手で頑張るのでは…。



キャプテンを青の間に幽閉してまで進化させようとしたソルジャー。進化と言えば聞こえが良くても、その実態はフクロネズミの雄に倣えというもので。
「セックスに特化した人生を送りたくないとは思えないんだよねえ、ハーレイも…。だってヤッてればいいだけだよ? シャングリラならぼくが守るし、どうしてもと言うなら新しいキャプテンを任命するって手もアリだ」
ソルジャーときたら、さっき火加減どうこうでキャプテンはブリッジに置いておかねばと言っていたくせに、この始末。キャプテンをクビにしてまで青の間に…ですか?
「だってさ、仕方ないだろう? ブリッジだと人目があるんだよ。ぼくが姿を見せたとしても、ヤるとなったら色々と…。そこで周囲をキッパリ無視してヤれるトコまで進化できたら最高だけども、あのハーレイには無理そうだしねえ…」
ブリッジでヤれるキャラならキャプテンを解任しなくても済むんだけれど、と言うソルジャー。けれどキャプテンには無理な話で、クビにして青の間に閉じ込める以外、フクロネズミの雄並みの生き方は期待できないとか。
「それは失敗したんだろう? 火から遠ざけすぎたとかでさ」
さっき聞いた、と会長さんが鋭い指摘。
「どっちにしたって無理なんだよ。閉じ込めてもダメ、君が出向いて行ってもダメ。…現状維持で我慢したまえ、君のハーレイはフクロネズミじゃないんだから!」
「だけど諦め切れないんだよ! あんな小さいネズミなんかが十二時間だか十四時間だか! ヤリすぎて死ねとは言わないけれども、死に物狂いには憧れるんだよ!」
そこまでの勢いでヤらせたい、とソルジャーも負けていませんでした。
「ハーレイだって仕事があるからセーブするんだし、人目があるから勃たないんだし…。そういう要素を取っ払ったら一直線! それを思うと諦め切れない!」
なんとしてでもセックスに特化したハーレイを、とソルジャーの夢は果てしなく。
「そういうハーレイが実現したらね、ぼくのサイオンも今よりもグッと高まるかも…。するとシャングリラの防御力が上がる。攻撃の方は言わずもがなさ」
「それなら君のシャングリラで相談したら? そういう方向で検討したいからキャプテンの代理を探して欲しい、とか」
こっちじゃ対応しかねるからね、と会長さん。
「そりゃあ、ハーレイはこっちにも居るよ? でもね、ぼくが君の代わりにソルジャーを引き受けてもシャングリラが危険になるのと同じで、ハーレイも君のハーレイの代わりは不可能!」
君のシャングリラが危ないだけ、と冷たく言い放った会長さんに私たちは思わず拍手喝采。その調子で論破して下さいです、ソルジャーのアヤシイ進化論!



「……こっちのハーレイを代理にねえ…」
その発想は無かったな、とソルジャーが呟き、背筋に悪寒が走りました。ジョミー君たちも顔が引き攣ってますし、会長さんなどはもう真っ青で。
「…い、今のはホントに正論だからね! ハーレイに代理は務まらないよ!」
連れて行くだけ無理、無茶、無駄! と会長さんが叫ぶと、ソルジャーも首をコックリと。
「それはぼくにも分かってる。ぼくと君とで経験値が違い過ぎるのと同じで、ハーレイ同士でも差があり過ぎる。…こっちのハーレイを連れて帰って代理をさせようとは思わないさ」
それくらいなら「ぶるぅ」の方が、と返すソルジャー。えっ、「ぶるぅ」? まさか「ぶるぅ」がキャプテンの代理をしてるんですか?
「代理と言うより影武者かな? ぶるぅはパワー全開だと三分間しか持たないけれど、それ以外ならタイプ・ブルー並みのサイオンを自由自在に使えるからねえ…。おやつを増やそうと提案したら簡単に釣れて、キャプテンのシートに座っているさ」
「「「…か、影武者…」」」
「そう! サイオニック・ドリームでハーレイそのものの外見を保ち、命令とかもそれなりに! たまに思念波で「どうやるの?」と訊いてくるけど、今の所は問題なし!」
操舵の方もサイオンで可能、と不敵な笑みを浮かべるソルジャー。
「というわけでね、ハーレイの代理は今は充分間に合っている。…お蔭でこっちのハーレイという貴重な存在を忘れ果ててた」
もしかしなくても使えそうだ、とソルジャーの唇に微笑みが。
「ハーレイをブリッジに戻すしかないかと思ってたけど、ブリッジじゃハーレイは全く勃たない。それじゃ使えないし、青の間に閉じ込めておいても勃たないし…。どうすればいいか煮詰まってたわけ。そうだ、こっちのハーレイだよ!」
ちょっと借りてもいいだろうか、とソルジャーは赤い瞳を煌めかせて。
「ぼくのハーレイがブリッジだとか公園だとかでヤれない理由は周囲の視線! ヤッてます、という姿を見られたが最後、意気消沈で萎えちゃうんだよ。ぶるぅの覗きもダメなんだけれど、気付いていない間はヤれる。ここが肝心!」
周囲に気付かれなければいいのだ、とカッ飛んだ案が飛び出しました。
「ぼくとハーレイがヤッていてもさ、誰も気付かなきゃいいわけだろう? ぼくはシールドで姿を消せる。ぼくさえ見えなきゃハーレイがせっせとヤッていたって無問題!」
誰も好奇の視線を向けない、とソルジャーは自信満々です。
「ただね、ハーレイのアレの辺りをどう誤魔化すか…。ぼくのシールドでカバー出来ると言ったところでハーレイはイマイチ信用しないし、心許ない気分だろうし…」
その辺をこっちの世界でキチンと検討しておきたい、と言われましても、いったい何を…?



ブリッジで大人の時間をやらかすために教頭先生を借りたいソルジャー。どうする気なのか分かりませんけど、思い付いたら一直線なのがソルジャーで。
「ハーレイ、明日は土曜日だから休みだよね? 少々鼻血を噴いたくらいじゃ死なないだろうし、ちょっと貸してよ」
「何をするかによるんだけれど!」
ロクでもないコトなら貸さないからね、と会長さん。貸すも貸さないも、教頭先生は会長さんの所有物ではないわけですが……って言うだけ無駄かな? キース君たちも遠い目つきになっていますし、貸し出されるのも最早時間の問題かもです。
「何をって…。強いて言うならモデルかなぁ?」
「「「モデル?」」」
「そう、モデル。ぼくとヤッているのがバレないように船長服を調整したい」
「「「は?」」」
ソルジャーの発想は斜め上というヤツでした。鼻血がどうこうと言ってましたし、そもそもブリッジで大人の時間を過ごすために借りたいという話でしたし、てっきりもっとアヤシイ事かと…。
「鼻血は噴くと思うんだよねえ、こっちのハーレイ、童貞だから。…ぼくにピッタリ密着されてさ、アレを取り出せとか言われちゃったら確実に噴くと」
「船長服を調整するって言ったじゃないか!」
話が違う、と声を荒げる会長さんに向かって、ソルジャーは。
「だから調整するんだよ。ぼくの腰がこの位置だったらアレはどの辺で、船長服はどんな風に捲れて皺が寄るかとかそういう部分を」
服の仕立て具合を微調整とか、バレないように素材を少し変えるとか…、と熱弁を奮うソルジャーですけど。
「…君って裁縫は出来たんだっけ?」
会長さんの問いにソルジャーはウッと息を詰まらせ、目を白黒と。
「そ、そうか…。服を改造するとなったら必然的に裁縫も…」
「出来ないんだったら貸し出せないねえ、ハーレイは」
諦めたまえ、と会長さんが勝ち誇った顔で高笑いしそうになった時。
「えっと、えっとね…。ぼく、お裁縫は得意だよ?」
何を縫うの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の無邪気な瞳がキラキラと。ソルジャーは歓声を上げて「そるじゃぁ・ぶるぅ」を強く抱き締め、会長さんは思い切りテーブルにめり込みました。
「やったね、今夜は船長服の改造だ!」
君の家でやらせて貰っていいよね、というソルジャーの喜びに溢れた声がやたら遠くに聞こえます。私たちの人生、終わったでしょうか? ついでに教頭先生も…。



ヤリまくって死ぬフクロネズミの番組を見たのと同じダイニングで夕食会。お裁縫の時間が控えているから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製ハヤシオムライスでお手軽に。私たちは強引にお泊まり会へと巻き込まれてしまい、今夜は家に帰れません。
「…まあ、その方がいいかもしれんな…」
この先の展開を思えばな、とキース君が嘆き、私たちの気分もドン底です。お手軽夕食でもスープや
サラダやデザートなんかでお腹一杯、そちらは文句は無いのですけど…。
「そろそろですよね…」
シロエ君が壁の時計を眺めると同時にピンポーン♪ と玄関チャイムの音が。
「かみお~ん♪ ハーレイが来たよ!」
お出迎えに行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が弾む足取りで教頭先生を案内してきて、私たちは揃ってリビングへ。そこにはソルジャーが自分の世界から空間を超えて運んだ船長服が何着も。
「…なんだ、これは? 言ってくれたら持って来たのに」
わざわざ運んでくれなくても、と教頭先生が言うと、ソルジャーが。
「あっ、それね…。君のじゃないんだ、ぼくのハーレイのクローゼットから失敬してきた」
「は?」
怪訝そうな教頭先生にソルジャーは極上の笑みを浮かべてみせて。
「ちょっとね、君に協力して欲しいんだよ。実はとある生き物に触発されてね、ぼくのハーレイを進化させようと頑張っている最中なんだ」
「…生き物…ですか?」
「うん。キアシアンテキヌスって言ったかな? フクロネズミの一種なんだけど、それの雄がね、もうヤるためにだけ生まれて来たような素晴らしさでさ」
「…何をです?」
教頭先生の疑問はもっともでした。あの番組を見ていなければ普通はこういう反応かと…。
「何って、男のロマンだよ! そのネズミ、こーんなに小さいのにさ」
ソルジャーは自分の手のひらにスッポリ収まりそうなフクロネズミのサイズを示してニッコリと。
「なんと! 十二時間だか十四時間だか、死に物狂いで交尾しまくった挙句にポックリと…ね。まさにセックスするためだけに生まれてくるわけ!」
「……セ、セックス……」
童貞人生まっしぐらの教頭先生は既に鼻血の危機でした。そこへソルジャーが船長服を指差して。
「ぼくのハーレイにもセックスに特化した進化ってヤツを遂げて欲しくて、そのために服を改造しようと思ってるんだ。改造にあたって君の協力が欲しい」
まずは船長服に着替えて、と頼まれた教頭先生がブッ倒れずに済んだ理由は、事態が飲み込めていなかったからだと思われます。素直に着替えて、まずはソファへと促されて。



「此処に座ってくれるかな? そう、シャングリラのキャプテンのシートのつもりで」
「…こうでしょうか?」
「うん、上出来!」
さて、とソルジャーが教頭先生にチラリと視線を。
「ぼくはブリッジでもヤリたいんだけど、ぼくのハーレイ、見られているとダメなタイプだからねえ…。ぼくはシールドで姿を隠してヤることになる。ハーレイのアソコもシールドでカバー! でもねえ、心許ない気分だろうから、船長服にも工夫をね」
ちょっと失礼、とソルジャーの手が教頭先生の股間へと。
「んーと…。ぼくが座るとしたら、こうかな」
ひと撫でした後、ソルジャーは教頭先生の膝の上にストンと腰を下ろして、私たちに。
「どう? 本番だとこれでハーレイのファスナー全開! 上着とかでカバー出来そうかな?」
「「「………」」」
知ったことか、と沈黙を守る私たち。しかし良い子の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大人の時間が分からない上に根っから本物のお子様で。
「えとえと…。上着が変になると思うの、ズボンの前が開くんでしょ?」
「全開だねえ、こんな感じで」
ソルジャーがクルリと身体の向きを変え、教頭先生と向き合う形で膝の方へと少し後退。足の上にしっかり跨ったままでズボンのファスナーをツツーッと開けたからたまりません。
「…うっ…!」
教頭先生が派手に鼻血を噴き、キース君が素早くティッシュの箱を。
「す、すまん…」
ティッシュを鼻に詰めておられる間にソルジャーと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の方は。
「これが全開状態だけどさ、上着、ダメかな?」
「上着のファスナー、下から開かなくなってるし…。この辺とかが引っ張れちゃうよ」
「それじゃ、どうすれば自然に見えるわけ?」
「下からも開くように改造しとけば、勝手に開くから皺は寄らないと思うんだけど…」
大真面目なお裁縫の話が繰り広げられる股間前。教頭先生は必死に鼻血を堪えて試練に耐え抜き、お次は操舵中を想定するとかでリビングの真ん中に立たされて。
「今度はハーレイにも少し協力して貰わないと…。いいかい、ぼくは此処に立つから、こう、後ろからグッと抱き寄せて突っ込むつもりで!」
思いっ切り、とソルジャーが付け足す前に鼻血の噴水MAX、ティッシュは吹っ飛び、ブワッと鼻血が噴き出して……。



「…使えないじゃないか、こっちのハーレイ!」
全然ダメだ、と罵倒されても教頭先生の意識は遠い世界へと旅立ったまま。それでも服の改造を諦めないのがソルジャーの凄い所です。
「仕方ないなぁ…。そこの柔道部三人組! ハーレイを立たせて動かしてくれる?」
腰の辺りはぼくがサイオンで操るから、と顎で使われ、キース君たちは操舵中とやらのキャプテンの立ち位置などを再現する羽目に陥りました。
「そうそう、そんな感じでね。そこでストップ! ぶるぅ、服の皺とかはどうなってるかな?」
「座ってる時ほど変じゃないけど、やっぱり上着のファスナーかなぁ…」
そこの改造は絶対要るよ、という「そるじゃぁ・ぶるぅ」の意見が通って、キャプテンの船長服はソルジャーが持ち込んだ全ての上着に改造が施されました。下からも上からも開くファスナー、それも滑らかな滑りが売りで。
「うんっ、これで綺麗に見えると思うの♪」
試してみる? という「そるじゃぁ・ぶるぅ」の声で教頭先生は気を失ったまま、またもモデルにさせられて…。ソファに座って合格マークで、立った姿勢でもOKが。
「ありがとう! みんなの協力で服は完璧、後は本人の根性あるのみ!」
青の間に閉じ込められて暮らすのが嫌ならブリッジで! とブチ上げて帰って行ったソルジャー、キャプテンの進化に壮大な夢を抱いてますけど…。
「…大丈夫なわけ?」
ジョミー君の疑問に、会長さんが。
「さあねえ…。死に物狂いがどうなるかはともかく、ブリッジはねえ…。船長服を改造したって動きでバレると思うんだ。それくらいなら青の間で幽閉生活を選びそうだよ、あっちのハーレイ」
「「「そ、それじゃあ…」」」
シャングリラは当分キャプテン無しでの航行が続くみたいです。ソルジャーが飽きて放り出すまでキャプテンは青の間でフクロネズミの雄並みの努力を重ねつつ、ブリッジの心配もして胃がキリキリと痛みそう。…ほ、本当に大丈夫かなぁ…。
「このハーレイほどヘタレてないから強く生きるよ、死なない程度に」
こっちのハーレイはヤリもしないで死んでるし、と失神している教頭先生をゲシッと蹴飛ばす会長さん。ヤリまくって死ぬか、ヤらずに死ぬか。フクロネズミの雄だった場合、どちらが本望なのでしょう? キャプテンと教頭先生のどちらが幸せな人生なのか、ネズミに訊いてみたいかも…?




         特化する進化・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 フクロネズミのキアシアンテキヌスは、捏造じゃないです、本当にいる動物です。
 交尾のために走るオスの話も、まるっと真実。進化の世界は神秘ですねえ…。
 シャングリラ学園、来月は普通に更新です。いわゆる月イチ。
 次回は 「第3月曜」 5月16日の更新となります、よろしくです~!

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 こちらでの場外編、4月は、ソルジャー夫妻をキース君に丸投げしようという方向。
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