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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

コーヒー騒動

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv





一学期の期末試験も無事に終わって、夏休みが始まるのを待つばかり。とはいえ授業があと数日と、終業式と。期末試験の打ち上げパーティーは済んじゃいましたし、ここで土日が挟まるというのも中途半端な気分がします。というわけで…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
私たちは土曜日の朝から会長さんの家へ出掛けてゆきました。「遊びにおいでよ」と御招待を受けてますから遠慮も何もありません。学校へ行く日と同じ時間に家を出て午前9時前には揃って到着。お目当てはリッチな朝御飯です。
「えとえと、パンケーキ、すぐ焼けるからね!」
入って、入って! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が案内してくれたダイニングには会長さんが。
「やあ、来たね。ぶるぅも思い切り張り切っているよ、普段はサムしか来ないから」
好きなのをどうぞ、と焼き立てパンが籠に山盛り、種類も色々。ソーセージやチーズも用意されてますし、すぐにパンケーキがドッサリと。
「焼けたよ~! 卵料理は何にするの?」
「俺、オムレツ!」
「ぼくは目玉焼きがいいですね」
「スクランブルエッグ!」
バラバラな注文も「そるじゃぁ・ぶるぅ」は慣れたもの。幾つものフライパンを同時に火にかけ、チャチャッと仕上げて自分の分もお皿に盛って。
「出来上がり~! お代わりも作れるから沢山食べてね!」
ぼくのはチーズ入りだもん、と早速パクパク。ハーブも入ったチーズ入りオムレツは美味しそうです。アレをお代わりに注文すべきか、焼き立てパンを全種類制覇するべきか。どっちも非常に魅力的ですし、どうしようかな…とポタージュスープを飲みつつ悩み中。他のみんなも…。
「美味いな、朝から来た甲斐があった」
ウチの朝飯とは全然違う、とキース君が言えば、サム君が。
「やっぱりそうかよ…。今日はいつもより豪華だけどよ、朝のお勤めに来たら基本の朝飯はこうだよなぁ…。寺だと全然違うんだ?」
「当然だろう。御本尊様に御飯をお供えするから白米の飯は欠かせないわけで」
「パンって選択肢がねえのかよ?」
「無いこともないが…」
レアケースだな、との答えにジョミー君が「だから坊主は嫌なんだよ!」と脹れっ面。夏休みに入れば恒例の璃慕恩院の修行体験ツアーが待っていますし、そこでもきっとパンの朝食はないんでしょうねえ…。



思わぬ所から話題はお寺の朝食談議に。元老寺なんかはまだマシな方で璃慕恩院だと精進だとか、修行道場へ行けば精進に加えて麦飯だとか、色々と。最終的に、お肉や卵が食べ放題でパンやパンケーキも好きなだけ食べられる朝食万歳という結論になり。
「食った、食った! 美味かったぜ!」
サム君が褒めちぎり、私たちも「そるじゃぁ・ぶるぅ」と招待してくれた会長さんに感謝です。みんなでペコリと頭を下げると、二人は「どういたしまして」とニッコリ笑顔。
「腕を奮えて良かったね、ぶるぅ」
「うんっ! わざわざ朝御飯を食べに来てくれて嬉しいな♪ 紅茶にする? コーヒーにする?」
「俺、コーヒー!」
「ぼくは紅茶でお願いします」
またしても注文がバラバラな上に、アイスだホットだと夏ならではのリクエストも。それを難なくこなす「そるじゃぁ・ぶるぅ」は流石の腕前、アッと言う間に飲み物バッチリ。軽く摘めるクッキーも出て来て、このまま午前のティータイムが始まりそうですが…。
「あっ、君たちもコーヒーなんだ?」
「「「!!?」」」
誰だ、と振り返った先に会長さんのそっくりさんが立っていました。トレードマークの紫のマントではなく、まさかの私服。朝っぱらから何処へ出掛けて来たんだか…。それとも会長さんの家に来るために着替えてきたとか?
「ふうん…。リッチな朝食だったみたいだけれども、まだまだだねえ」
勝った、とソルジャーは得意そう。
「食後の締めも甘すぎるよ、うん」
「なんだって?! ぶるぅの料理にケチをつける気!?」
会長さんが憤然と食ってかかって、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「頑張ったつもりだったけど…。何か足りない? ブルーのシャングリラの方が凄いの?」
「ぼくのシャングリラ? あっちは普通に朝の定食! ぼくは豪華にノルディの家でね」
「「「えぇっ!!?」」」
何故にエロドクターの家で朝食? まさか泊まりに行ったとか? 会長さんも顔が真っ青です。
「ま、まさか…。君はノルディと…!」
「うん、最高のモーニングコーヒーを御馳走になってきたんだけどねえ?」
「…モ、モーニングコーヒー……」
会長さんの顔色が更に悪くなり、血の気が完全に引きました。モーニングコーヒーって何でしたっけか、今、キース君たちが飲んでいるのも朝のコーヒーだと思うんですけど?



「…き、き、君は……」
顔を引き攣らせてソルジャーを指差す会長さんの動揺っぷりは只事ではなく、部屋の温度も急降下。クーラーが効き過ぎたのかと錯覚しそうな体感気温の下がりようです。しかし…。
「何か?」
ソルジャーの方は何処吹く風と空いていた椅子にストンと腰掛け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「ぼくにもコーヒー!」
「んとんと…。何かオプションつけるの?」
ホイップクリームたっぷりだとか、リキュールとか、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。締めが甘いと言われただけに頑張ろうとしている姿勢が見えます。なのに…。
「普通に、そのまま! 砂糖とクリームも別に持って来て」
「え? ええっ? それでいいの?」
「違いを味わいたいからね」
最高のモーニングコーヒーとのね、と微笑むソルジャー、普段は紅茶がお好みです。たまにコーヒーな気分の時には最初からお砂糖とクリームたっぷりで淹れて貰って、更に追加で入れる甘い物好き。なのにストレートのコーヒーだとは、これ如何に?
「だから言ったろ、最高のヤツと味くらべ! ぶるぅのコーヒーも美味しいけどさ」
悪びれもなく言い放ったソルジャーに、会長さんがやっとのことで。
「ほ、本当に飲んできたわけ、ノルディの家で?」
「もちろんさ。…ぼくのためにと最高級品を用意してくれて、二人でね」
「なんだってモーニングコーヒーなんか!」
「え? 君たちが朝食パーティーだったし、ぼくも豪華にやりたくってさ」
豪華な食事ならノルディの出番、とソルジャーは片目を瞑りました。
「朝御飯を御馳走になりたいんだけど、と頼みに行ったら即、オッケー! お楽しみにって言われたからさ、今日の朝から出掛けて行って」
「へ?」
会長さんの間抜けな声が。
「あ、朝からって…。朝から出掛けて食事だけ?」
「他に何があると?」
たっぷり食べて帰って来たのだ、と胸を張るソルジャーに会長さんが口をポカンと。
「じゃ、じゃあ、モーニングコーヒーは…?」
「なるほどねえ…。派手に勘違いをしたってわけだ」
お疲れ様、とソルジャーがニヤニヤ笑っています。モーニングコーヒーって、いったい何?



「普通に言うなら文字通りだよ、うん。朝のコーヒー」
誰かさんは勘ぐりすぎだ、とソルジャーは湯気の立つコーヒーカップを前にして。
「ノルディも何度も念を押していたねえ、いつかは本物のモーニングコーヒーをぼくと二人で、って。いわゆる男のロマンってヤツかな、素敵な夜を過ごした後の一杯だってば」
「「「は?」」」
素敵な夜って……その後の一杯って、もしかしなくても大人の時間?
「そりゃもう、ベッドで過ごす時間さ! ノルディの積年の夢なんだよねえ、ブルーそっくりのぼくを食べるというのが。でもって美味しく食べた次の朝、二人でベッドでコーヒーを…ってね」
それがいわゆるモーニングコーヒー、と言われてようやく理解しました。会長さんが真っ青になるわけです。でもソルジャーはエロドクターとコーヒーを飲んできただけで…。
「そうなんだよねえ、ぼくのハーレイにも悪いしね? でもさ…」
これはどうかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が淹れたコーヒーを口にしたソルジャーは。
「やっぱり少し違うかな。ぼくはコーヒーには詳しくないけど、ちょっと味がね」
「えーーーっ!」
ドッカンと自信喪失の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。紅茶もコーヒーもプロ顔負けに淹れられるだけにショックが大きいみたいです。
「…大変、勉強しなくっちゃ! ノルディに淹れ方、習ってこよう!」
即、実行! とばかりに駆け出そうとした「そるじゃぁ・ぶるぅ」に「待った!」とソルジャー。
「淹れ方は関係ないんじゃないかな? 多分、豆だよ」
「豆? ぼくも豆から淹れてるんだけど…」
きちんと挽いて淹れてるもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は手順を指折って確認し始めましたが。
「違うよ、ノルディが自慢してたし、豆が特別なヤツだと思う。なんだったっけか…」
凄く高くて珍しいヤツ、と記憶を遡りながらソルジャーはコーヒーのカップに砂糖を入れてクリームもたっぷり。しっかりかき混ぜて口に運ぶと…。
「うん、この方が断然美味しい! コーヒーは苦いと美味しくないしね」
「君にコーヒーの味がどうこうと語る資格は無さそうだけど!」
会長さんの怒り爆発。モーニングコーヒーに翻弄された分も加算されているに違いありません。
「コーヒーは苦味が命なんだよ、砂糖たっぷりクリームたっぷりで台無しにしてる君には味なんか分からないってば!」
「ううん、分かるよ。最初の一口はノルディに勧められて普通に飲んだし!」
それは素晴らしい味わいだった、と言われましても。苦いコーヒーは美味しくないと甘さを求めるソルジャーなんかに違いが分かるわけないのでは…?



エロドクターが出したモーニングコーヒーとやらが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のコーヒーよりも凄いらしい、という話。コーヒー党のキース君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」の肩をポンと叩いて。
「ぶるぅのコーヒーは本当に美味いと思うぞ、俺は。…他所で出て来るヤツより格段に美味い。みんなで食べに出掛ける高級店のにも引けを取らないと思うがな」
「…ホント?」
ホントに美味しい? と心配そうな「そるじゃぁ・ぶるぅ」にシロエ君たちも。
「美味しいですって! そうですよね?」
「うん、美味いぜ。マツカだってそう思うだろ?」
「ウチのシェフにも負けてませんね。…でも、豆で違いは場合によっては出るのかも…」
どんな豆です? とマツカ君はソルジャーに尋ねました。
「ぼくの家では父の好みでブレンドしてますし、ぼくもそれほど詳しくは…。でも有名どころは分かります。何処の豆でしたか?」
「…何処だろう? えーっと、ルアック? そうだ、ルアック・コーヒーだったよ」
「ルアックですか?」
それは違いが出てしまうかも、とマツカ君が頷き、会長さんも。
「そう来たか…。君に違いが分かるかどうかは置いておいても、確かに最高のコーヒーではある」
「「「…ル…アック…?」」」
なんですか、それ? 会長さんたちと食べ歩く内にコーヒーも多少は覚えましたが、まるで聞き覚えがありません。しかし、キース君は知っている風で。
「…ルアックか…。美味いとは聞くな」
「ルアックだったら負けちゃうかも…」
最高だもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「それってホントに最高なわけ?」
ジョミー君の問いに、会長さんが。
「最高級品だと言われているねえ、ついでにレア度がピカイチなんだよ。もちろん値段もグンと高いし、何処の店でも売っているっていうわけじゃない。如何にもノルディの好みだよねえ」
ついでに自信を持って出しそう、と深い溜息。
「で、ブルー。…本当に美味しかったのかい?」
「それはもちろん! そんなにレアで凄いんだったらお土産に買って帰ろうかな? ハーレイはコーヒーが好きだからねえ」
「…なるほどね。それじゃ手作りルアック・コーヒーはどう?」
もうすぐ夏休みで遊び放題、と会長さん。なんと、最高級のコーヒー豆を手作りで? それってコーヒーの国へお出掛けするとか、超豪華版の夏休み?



ルアック・コーヒーとやらを手作りと聞いて私たちは歓声を上げました。コーヒー豆のことはサッパリですけど、コーヒーは南の国で採れるもの。この夏休みは外国かも、と思うだけでドキドキワクワクです。ソルジャーも手作りという響きに心躍らせているようで。
「手作りルアック・コーヒーかぁ…。ハーレイが感動してくれるかもね。でもって最高のモーニングコーヒーを飲めるとなったら励んでくれそう」
結婚記念日も近いことだし、と壁のカレンダーを眺めるソルジャー。
「その話、乗った! 夏休みだよね?」
「うん。柔道部の合宿とジョミーとサムの璃慕恩院行きが済んでからかな」
コーヒー豆もちょうどシーズン、と会長さん。
「最高のヤツが作れると思うよ、かなり努力が要るだろうけど」
「気にしないってば、ハーレイとモーニングコーヒーを飲むためならね」
「じゃあ、決まり。それでさ…」
会長さんがそこまで言った所で、横から「待った」が。
「ちょっと待て、俺たち抜きで話を進めるな!」
それともあんたたち二人で行くのか、とキース君。
「二人で行くなら止めはしないが、俺たちも行くとしか聞こえんぞ」
「当然だろう? 柔道部の合宿とかが終わった後でと言ったからには君たちもだよ」
「なんで俺たちまで巻き込むんだ!」
勝手に決めるな、とテーブルをダンッ! と叩くキース君に、ジョミー君が。
「えっ、面白いと思うけど? コーヒー豆を手作りだよ?」
「うんうん、豆を摘むとか重労働かもしれねえけどよ、なかなか出来ねえ体験だよな」
俺も賛成、とサム君が。シロエ君やスウェナちゃん、私もやる気満々なのですけれど。
「…いいんですか?」
遠慮がちな声はマツカ君でした。
「ルアック・コーヒーは普通の豆とは違うんですけど」
「それって木が思い切り高いとか? 木登りしなくちゃ届かないほど?」
それならそれで遣り甲斐が、とジョミー君が応じ、私たちもコクコクと。相手は最高のコーヒー豆ですし、おまけにレア物。木登りくらいは必要かもです。
「…木登りはすると思いますけど…」
「いいよ、そのくらい」
お安いご用、とジョミー君が親指を立て、スウェナちゃんと私は「任せた」とばかりに拍手喝采したのに、浮かない顔のマツカ君。キース君も眉間に皺が…?



たかが木登り、されど木登り。もしやコーヒーの木ってサルスベリのように登りにくかったりするのでしょうか? それとも何か特別な品種で一本の木から採れる豆の量が少なすぎるとか?
「…マツカ、ハッキリ言った方がいいぞ」
こいつらは思い切りド素人だ、とキース君が話を引き継ぎにかかりました。
「確かに木登りはする筈だ。でないと豆を食えないからな」
「「「???」」」
コーヒー豆はコーヒーになって飲むものですから、木登りしなくちゃ採れないのなら登って当然、木登り上等。そこは男の子たちに任せるとして…。
「…本当に分かっていないようだな、木登りするのはお前たちじゃない」
「「「えっ?」」」
「ルアックってヤツが登るんだ。そうだな、マツカ?」
確認するキース君に、マツカ君がおずおずと。
「え、ええ…。ルアック、いわゆるジャコウネコですよ」
「「「ジャコウネコ!?」」」
そんなモノが何故登るのだ、と派手に飛び交う『?』マーク。そんな中でシロエ君が何か閃いたらしく。
「アレですか、ヤシの実と同じ理屈ですか? サルを登らせてヤシの実を採るっていうのがありますよね。それと同じで、サルの代わりにジャコウネコとか…」
登りにくい木なら動物もアリです、との意見に「そうか」と納得。ジャコウネコに木登りを仕込むのが難しいためにレアなコーヒーになるのでしょう。よーし、調教、頑張らなくちゃ!
「違うな、ジャコウネコは勝手に登る」
そして食べる、とキース君。
「ヤツらはコーヒーの実が大好きだそうだ。しかも美味そうな実しか食わない。つまり最高の実を選んで食いまくるわけだ、ヤツらはな」
「その前に阻止して毟るんですか?」
獲物を横取りするわけですか、とシロエ君が言い、困難であろう作業に思わずクラッと。木に登ってコーヒーの実を食べる獣の先回り。そこまでして採ったコーヒーとくればレアで高価になるわけです。夏休みの一環で挑むだけの価値も充分に…。と、考えたのに。
「甘いな、それならまだマシだ。人間がヤツらの後を追うんだ、ヤツらはコーヒーの実は大好物だが、コーヒー豆は消化できないらしい。未消化の豆を集めて、洗って」
「ま、まさか、それって…」
糞ですか?! と叫んだシロエ君に「まあな」と頷くキース君。マツカ君も沈痛な顔をしています。よりにもよって糞と来ましたか、それを集めて洗うんですって…?



ジャコウネコが食べたコーヒーの実。グルメな彼らのお眼鏡に適った最高の実の中のコーヒー豆なら、間違いなく最高と思われます。だからと言って何もジャコウネコの身体の中を通過してきた豆を失敬しなくても…。
「…アレってそういうコーヒーなのかい?」
ビックリした、とソルジャーの赤い瞳がまん丸に。
「流石は地球だね、収穫までに生き物の知恵と身体を借りるんだ? 素晴らしいよ、それ」
「「「………」」」
これが価値観の違いというものでしょうか、糞と聞いてもソルジャーは動じませんでした。むしろ感動したらしくって、美味しいわけだと改めてベタ褒め。
「ますますハーレイに飲ませたくなったよ、野生の強さも取り込めそうだ。で、本当に作るわけ? 手作りっていうのは糞を集めて洗うトコかな?」
集めるのはいいけど洗うのは嫌かも、とソルジャーの視線が私たちに。
「ぼくがサイオンで集めて回って、洗う方は君たちにお任せしたいな。凄いコーヒーだとは思うんだけども、糞は糞だし」
「…え、遠慮します!」
シロエ君が必死に叫びましたが、それで勝てるような相手では…。ん?
「そういう役目は最適の人間が一人いるよね」
しかも喜んで引き受ける、と会長さん。
「ぼくと一緒に夏休みを過ごせて、あわよくば手作りモーニングコーヒー! これで釣れないわけがない」
「お、おい…! あんた、まさか…!」
キース君の声に、会長さんはニッコリと。
「もちろん釣るのはハーレイさ。ブルーが最高のモーニングコーヒーを作りたいらしいから手伝うんだ、と言えばホイホイ出て来るよ。ぼくと飲むんだと妄想爆発、一日中でも糞を洗うね」
ぼくたちの仕事はそれ以外、と会長さんは微笑みました。
「ジャコウネコを調達してきて放すトコから始めなくっちゃ。ルアック・コーヒーの本場じゃジャコウネコは普通に生息しているけれども、ぼくたちの国にはいないからねえ」
「「「え?」」」
この国って、コーヒー、採れましたっけ? そんな話は知りません。温室栽培でもしてるのでしょうか、それを横から盗む気ですか?
「人聞きの悪い…。その辺はぼくに任せておいてよ、それとマツカの手を借りなきゃね」
宿の確保だ、と会長さん。何処に行くのか謎ですけれども、お出掛けだけは出来そうです。外国じゃないのが残念とはいえ、山の別荘より楽しいかも?



こうしてルアック・コーヒー手作りプロジェクトがスタートしました。夏休みに入って男の子たちが合宿などに旅立った後は、代わりとばかりにソルジャーがウロウロ。暇を見てはフラリと現れるらしく、会長さんと話が弾んでいます。
「それでさ、ジャコウネコの確保だけどさ…」
「やっぱり瞬間移動でパパッと! 逃げる隙とか与えちゃダメだよ」
見付け出したら即、捕獲! と会長さん。
「とにかく数を捕まえないとね。本当は思い切り違法だけども…。検疫している時間が無いし」
「そこは何とかなるってば。ぼくのシャングリラで検疫に引っ掛かった動物に使う方法、こっちの世界でも有効だよ、きっと」
閉ざされた船の中の方が遙かに危険が多いんだから、とソルジャーはニヤリ。
「検疫部門の情報操作はしておいた。ジャコウネコの十匹や二十匹、三日もあればなんとかなる。今夜、捕まえに行くんだよね?」
「君の方の用意が出来たんならね」
「かみお~ん♪ ぼくも手伝う!」
良からぬ話が進んでいるような気がしましたけど、ルアック・コーヒーを作るためにはジャコウネコの存在が欠かせません。何処の国で捕まえて来て、何処でコーヒーの実を食べさせるのか…。
「ん? 捕まえに行くのは本場の国だよ」
「らしいよ、ブルーが案内してくれるってさ」
ジャコウネコを捕まえた後は現地で名物料理なんだ、とソルジャーは至極ご機嫌でした。自分の世界のシャングリラ号の検疫部門をモーニングコーヒーのために働かせておいて、自分はちゃっかりグルメ三昧。如何にもと言うか、らしいと言うか…。
「え、だって。普段は行かない国なんだしさ…。せっかくの地球を満喫しないと」
「そして君のハーレイにもお土産だっけね?」
「うん! とりあえず本場のルアック・コーヒー!」
きっと感激するだろう、とソルジャーの瞳が輝いています。
「地球ならではのコーヒーだしねえ? でもって、それと同じタイプのコーヒーを手作りするために出掛けて来る、と言えば感動もひとしおだよ。楽しみだなぁ、手作りルアック・コーヒー!」
そしてハーレイと二人でモーニングコーヒー、と陶酔し切っているソルジャー。結婚記念日が間近に控えているだけに、大人の時間に拍車がかかること間違いなし。とはいえ、自分たちの世界で飲むんだったら好きになさって下さいです…。



「「「……スゴイ……」」」
男の子たちが戻って来てから数日後。私たちは南の島に来ていました。同じ国とも思えない植物、それに澄み切った青い空と海。けれど何より驚いたものが目の前の木です。
「…コーヒーの木って大きくなるんだ…」
信じられない、とジョミー君。目の前の木は高さ十メートル以上あるでしょう。それが森となって茂った景色は「凄い」としか言いようのないもので。
「剪定しないと育っちゃうんだよ、コーヒーはね」
こんな風に、と会長さんが指差す広大な森は昔は農園だったのだそうです。
「この国じゃ採算が採れないから、と放置されてから長く経つわけ。野生化しちゃったコーヒーの木は此処の他にもあるんだけども…。宿の関係でこの島にした」
悪いね、マツカ、と会長さんが声をかけるとマツカ君は。
「いえ、ちょうど別荘のある場所で良かったです。ホテルよりも自由に動けますから」
「そうなんだよねえ、今回は目的がアレだしね」
ハーレイの仕事が凄すぎるし、と笑う会長さんの視線の先には教頭先生。ソルジャーとキャプテンのために最高のモーニングコーヒーを作りに行く、と聞かされて見事に釣り上げられたという話です。
その教頭先生、「任せておけ」と頼もしい笑顔。
「糞を洗えばいいのだったな? そしてコーヒー豆を糞の中から選り分ける、と」
「うん。そのコーヒー豆もキッチリ綺麗に洗ってよ?」
「もちろんだ! いずれは口に入るものだし、それに、そのぅ……」
「ぼくも飲むかもしれないしね? 君と一緒にベッドの上で…ね」
モーニングコーヒーはやっぱりベッドで! と餌をちらつかされた教頭先生、鼻血の危機。ウッと息を飲み、鼻の付け根を強く押さえておられますけど…。
「ふふ、味見は先にぼくのハーレイとぼくの二人で! 最高のコーヒーを期待してるよ」
結婚記念日ももうすぐだしね、とソルジャーの極上の笑みが。
「君も頑張れば結婚出来るさ、ブルーとね。そしたら毎日モーニングコーヒー!」
「は、はいっ! 頑張ります!」
目指せ結婚! と決意漲る教頭先生の声に会長さんが「まずは糞から!」と被せていたのを私たちはハッキリ耳にしました。教頭先生は結婚に向けて頑張る所存でらっしゃいますけど、会長さんが期待するものは糞洗い。両者の距離は隔たり過ぎてて、重なりそうもないですってば…。



野生化してしまったコーヒーの木の森。ルアック・コーヒーを作るためには木に実っている赤い実をジャコウネコに食べて貰わなければいけないのですけど。
「「「…夜行性?」」」
「そうだけど?」
生憎と昼間はこの通りで、と会長さんとソルジャーが瞬間移動させてきた大きな檻。中ではハクビシンに似た生き物が丸くなって熟睡しています。その数、一匹、二匹どころではなくて…。
「全部で二十匹、確保した。ブルーのシャングリラの検疫部門で薬を飲ませたり消毒したりしてあるからねえ、生態系とかに影響は無い筈だ。本当は勝手に持ち込んで放すのは違法だけどさ」
「用が済んだら返すんだから問題ないだろ、元の国まで」
しかし帰国までは役立って貰う、とソルジャーが。
「目を覚ましたらコーヒーの実をガンガン食べて貰わなきゃ! そりゃ虫とかも食べていいけど、基本はコーヒー!」
森ごとまるっとシールドしてやる、と闘志に溢れているソルジャー。会長さんも負けじと檻を背にして私たちに発破を。
「いいかい、ジャコウネコは夜になったら森に放して自由にさせる。だけどブルーも言っているとおり、コーヒーの実を食べてなんぼなんだよ、そこが大事なポイントだから! 君たちの役目は森の監視で、ジャコウネコが下をうろついていたら木に登らせる!」
「「「えぇっ?!」」」
そんな無茶な、と悲鳴を上げたのに配られてくる鞭ならぬハタキ。ストレスを与えないよう周りの地面や草をパタパタはたいて木に追い上げろとはハードそうな…。
「もちろん、ぼくとブルーも発見したら追い上げるように努力はするさ。ぶるぅも追いかけて走ると言ってる。でもねえ、ルアック・コーヒー作りはジャコウネコを木に登らせてこそ!」
それが出来ないなら糞を洗え、と出ました、恐怖の選択肢。
「糞洗いは主に昼間の仕事になる筈だ。夜の間は糞も見えにくい。拾い逃がしを見付けた時には拾っておくけど、そうならないよう昼間の間にキリキリ努力をして貰いたい」
というわけで、と会長さんは教頭先生にビシィッと指を突き付けて。
「君の出番は昼間なんだよ、ぼくたちとは逆のシフトだね。ぼくたちが寝てる間に糞を拾って洗って、出て来た豆を乾かしておく! 分かったかい?」
「…で、では、お前と顔を合わせられるのは…」
「今日はこのまま徹夜で行くけど、明日からはしっかり寝なきゃだし…。次に会うのは帰る日になるかな、頑張って」
「……そ、そんな……」
会えないのか、と泣きの涙の教頭先生。ジャコウネコ追いから脱落したら教頭先生と同じシフトにさせられた上に糞洗いなわけで、これは絶対、避けないと~!



夜行性のジャコウネコが動き始めるまで、マツカ君の別荘でのんびり待機。クーラーの効いた部屋でゲームをしたり、お菓子を食べたりと平和な時間が流れましたが、教頭先生は会長さんとの別れを惜しんでしんみりと。
「…ブルー、本当に最終日まで会えないのか?」
「そうなるねえ…。でもさ、ぼくたちは一応、共同作業なんだよ? 夜の間にぼくたちがジャコウネコを追う。そのジャコウネコが落とした糞をさ、君が集めて洗うわけでさ」
どちらが欠けてもルアック・コーヒーは出来ないのだ、と会長さんは教頭先生の褐色の手をギュッと握って。
「この手の働きに期待してるよ、ブルーのモーニングコーヒーのためにもね。…そしていつかは君と二人でモーニングコーヒーを飲めるといいねえ」
「そ、そうだったな! 私には夢があるのだったな」
お前とモーニングコーヒーだ! と燃え上がっておられる教頭先生は、会長さんがペロリと舌を出したことに全く気付いていませんでした。おめでたいとしか言えませんけど、それでこそ教頭先生なのですし…。
「ブルーのために頑張るぞーっ!」
「はいはい、間違えないように。あくまであっちのブルーだから!」
ぼくとは運が良かったらの話、という会長さんの言葉も耳に入ってはいないようです。そんな教頭先生ですから、糞洗いが文字通りのババなことにも気付かないわけで。
「ブルーと共同作業なのだな、こう、初めての共同作業と言えば…」
ウェディングケーキに入刀だとか、キャンドルライトサービスだとか…、と心は一気に会長さんとの結婚式まで飛んでいる模様。糞洗いで此処まで夢を見られる妄想体質、大いにババならぬ糞を洗って下さいとしか…。



日が暮れる前に早めの夕食を終えた私たちは教頭先生を別荘に残し、コーヒーの木が茂る森へと出発しました。ジャコウネコの檻は森の入口に置いてあり、部外者に見られないようシールドつき。
「かみお~ん♪ みんな目が覚めたみたい!」
動いてるよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。私たちの方も一応はサイオンで夜目が効きますし、夜の森でも大丈夫です。気になる虫や蛇の類は会長さんたちがシールドを。
「それじゃ放すよ、頑張って木に追い上げて」
開けるからね、と会長さんが。
「「「はーい!!」」」
ガチャリと檻の鍵と扉が開けられ、お腹をすかせたジャコウネコたちが次々と飛び出しました。流石はルアック・コーヒーの生産を担うだけあって、一目散にコーヒーの木へ。絡まった蔦や蔓を頼りにスルスルスル…と。
「よーし、登った! 後はそのまま登っててくれれば…」
そして食べまくれ、とソルジャーは御満悦でしたが、そこは生き物。一時間と経たない内に他の味を求めて下りてくるヤツも何匹かいます。
「そっち、行ったぜー!」
「おい、登れと言っているだろうが! 早く登らんか!」
でないと念仏を唱えるからな、と妙な台詞を言い出す人やら、ひたすらハタキを振り回す人やら。スウェナちゃんと私は女子なこともあって…。
「かみお~ん♪ ぼくもお手伝い!」
こっちはダメーッ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がサイオンの壁を作って助けてくれます。後は追い込めば木に登りますし、これってけっこう楽勝かも…。
「何処が楽勝なのさ、大変だってばー!」
「ジョミー先輩、また逃げてます!」
反対側から下りられました、と暗い森の中でドタドタ、バタバタ。肝心の糞がどうなったのかは誰も全く考えておらず、その内に白々と夜が明けて来て…。
「あ、下りてきた…」
「檻に帰って行くみたいですね?」
家だと分かっているんでしょうか、とマツカ君が首を傾げると。
「躾けておかないと困るじゃないか。ブルーと一緒に頑張ったんだよ」
これが家だと教えてあるよ、と会長さん。ん? 糞は…?
「さあねえ…? 檻の中でする分は楽に拾えるだろうけど、他はさぞかし大変だろうね」
範囲はしっかり区切ってあるから頑張って拾え、と会長さんはソルジャーと顔を見合わせてニヤリ。
糞洗い担当の教頭先生、踏み荒らされた森の中でひたすら糞探しですか…。



夜な夜なコーヒーの森でジャコウネコを追い、夜明けと共に疲れて爆睡。目を覚まして朝食ならぬ夕食を食べ始める頃、一日のノルマを終えた教頭先生が戻って来る日々。教頭先生は戦果を報告しようと会長さんに声を掛けるのですが…。
「明日にしてくれる? 今はそういう気分じゃないんだ、食事中だよ!」
デリカシーの無い、と一喝されて会話終了、肩を落としてスゴスゴ退場。けれど教頭先生の仕事の成果は毎朝チェックされていました。
「うん、いい感じに増えてるよ。今夜の分でまた増えるだろうねえ」
会長さんが朝日の中で豆の置き場を覗き込み、ソルジャーも。
「有難いねえ…。これだけあれば当分の間、ハーレイと二人で最高のモーニングコーヒーを楽しめそうだ。こっちのハーレイに感謝しなくちゃ、糞探しに糞拾い、糞洗いだし」
誰もが嫌がる仕事だよね、と感慨深げに言うソルジャー。
「ぼくは綺麗に洗い上がった豆を持って帰って焙煎させるだけだけれどさ、君たちの分はどうするんだい? ぶるぅが煎るわけ?」
「まさか! 謹んで進呈させて貰うよ、あるだけ全部」
ケチつくつもりは毛頭ない、と会長さんは太っ腹ですが、それじゃ私たちはタダ働き…。殺生な、と嘆く気持ちが伝わったらしく。
「なんだ、ルアック・コーヒー作り体験では満足出来なかったんだ? だったら幾らか分けて貰ってコーヒーを飲むとか、お菓子にするとか」
「かみお~ん♪ コーヒーゼリーとか美味しいよ! ケーキとかにも使えるし!」
「…そ、そうだな……」
美味いだろうな、とキース君が呟いたものの、相手はルアック・コーヒーです。たった今、檻に戻ったばかりのジャコウネコたち。彼らが夜っぴて食べたコーヒーの実がお腹を通って…。
「……要らないかも……」
欲しくないかも、とジョミー君がボソリと零して、サム君が。
「…あいつらのケツから出るんだもんなぁ…」
それはちょっと、と誰もが思った所へ、教頭先生が起きて来ました。
「おお、おはよう。みんな揃って元気そうだな、今日も頑張って糞を洗うぞ!」
「「「……ふ、糞……」」」
絶句する私たちの横から会長さんが声を張り上げて。
「デリカシーが無いって言ったろ、君は一人で糞にまみれてればいいんだよ! 運がつくから!」
「そうか、運がつくか! お前とモーニングコーヒーなのだな、糞にまみれるのも最高だな!」
フンフンフン…と鼻歌を歌いながら糞拾いに去ってゆかれる教頭先生は妄想MAXでらっしゃいました。ルアック・コーヒーでモーニングコーヒーはソルジャー夫妻限定じゃないかと思いますけど、お幸せならいいのでしょうか? フンフンフン…糞、糞、糞…と多分幸せ、きっと幸せ…。




        コーヒー騒動・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 ルアック・コーヒーの話は嘘じゃないです、知る人ぞ知る名物コーヒー。
 愛飲している方がいらっしゃったらゴメンナサイです、ネタにしちゃって…。
 来月は第3月曜更新ですと、今回の更新から1ヶ月以上経ってしまいます。
 よってオマケ更新が入ることになります、6月は月2更新です。
 次回は 「第1月曜」 6月6日の更新となります、よろしくです~!

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 こちらでの場外編、5月は、キース君が持っている住職の資格が災難を呼ぶとか。
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