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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

王子様

(うーん…)
 未だにこうか、と新聞を眺めて大きな溜息。学校から帰って、制服を脱いで、おやつの時間。
 ママが「どうしたの?」って訊くから、「これ!」って指差したら、「あらまあ…」と笑顔。
「ブルー、きちんと載ってるじゃないの」
「そうだけど…」
「昔からこうねえ、王子様よね」
 だけどブルーは小さすぎね、とママはクスクス笑ってる。
「もっと頑張って食べなさいよ? でないと王子様になれないわよ?」
「分かってるけど…」
「ママは小さくてもかまわないのよ、今の可愛いブルーも好きだし」
 ゆっくり大きくなりなさいな、と言ってくれるママはとても優しい。ぼくの背が百五十センチのままで止まっちゃってても、叱るどころか可愛がってくれる。パパだって同じ。
 二人揃って、そういう子供のための上の学校へ行くといい、って本気で思っていてくれる。
 でも…。
(ぼくは上の学校へ行くより、ハーレイと結婚したいんだけどな…)
 それなのに伸びない、ぼくの背丈。前のぼくと同じ背丈にならない限りは、ハーレイはキスさえ許してくれないのに…。
(この顔にならないと結婚も無理?)
 駄目だ、溜息が倍になりそう。ママは勘違いをしているらしくて、「いいじゃないの」と新聞を覗き込んで来た。
「人気があるのはいいことよ? だけど…」
 今度のブルーはどんな王子様になるのかしらねえ、と前のぼくの写真とぼくとを見比べてから、ママはダイニングを出て行ってしまって、残されたぼく。
 溜息の元の新聞と一緒に、おやつのケーキのお皿と一緒に置いて行かれてしまった、ぼく。



(あーあ…)
 前のぼくの写真が載ってる新聞。お堅い記事とは全然違う。娯楽のためのコーナーかな?
 女の子向けのお遊びの一種、簡単な質問に答えていくと似合いの恋の相手が分かるというヤツ。どんなタイプが向いているか、って説明と一緒に挙げられる例。
 童話の主人公のことも多いけれども、それに負けないくらい前のぼくたちも引っ張り出される。ちゃんと写真が残っている上、遥かな昔の英雄だから。うんと人気の人物だから。
(今日もそっちかあ…)
 こうした時に登場するのは前のぼくとジョミーとキースと、それからトォニィ。この四人が必ず載せられることになってて、たまにマードック大佐が入る。場合によってはマツカも加わる。
(だけど…)
 絶対に入ってこないハーレイ。今のハーレイじゃなくて、前のハーレイ。
 何度眺めてもハーレイが入ってないのが悔しい。
 この手のヤツには絶対にハーレイが入ってないんだ、前のぼくの王子様なのに。
 キャプテン・ハーレイは前のぼくの恋人で、大切な王子様だったのに…。



(ぼくが王子様っていう扱いなんだよ!)
 いつも、いつだって王子様な枠に分類されてる前のぼく。
 フィシスを連れていたせいなんだろうか、「白馬の王子様」って扱いをされてる前のぼく。
 挙げられる例が童話の方なら、王子様が載ってるポジションに置かれる前のぼく。解説にだって「王子様」の文字がしっかりと入る。
(分かりやすくっていいんだろうけど…)
 女の子たちがドキドキしながら読んでいく分には、王子様でもいいんだけれど。
 ジョミーやキースたちにはコレっていうお決まりの言葉が無いのが引っ掛かるけど、その辺りは今のぼくにはどうしようもないことだから。「なんで、ぼくだけ?」って文句を言えはしないし、王子様扱いについては諦めてるけど…。
(それは諦めがつくんだけれど…)
 納得がいかない、理不尽な事実。今日の新聞にも突き付けられた現実。
 王子様のぼくが恋したハーレイ。前のぼくが愛したキャプテン・ハーレイ。
 なんだって此処に入らないのか、どうして入っていないのか。
 マードック大佐もマツカも枠を持っているのに、何故ハーレイの枠を設けてくれないのか。
(いつもなんだよ!)
 いくら眺めても出て来てくれない、ハーレイの枠。本当にいつも、いつだって、そう。
 毎回、腹が立ってくるから、今日もバサリと新聞を投げた。
 閉じるだけでは収まらないから、乱暴に閉じて畳んで、投げた。
 前のぼくの王子様を全く載せないだなんて、絶対、何かが間違ってるから!



 ケーキのお皿と紅茶のカップをキッチンに居たママに渡して、階段を上って部屋に帰った。でも収まらない、ぼくの胸の中。
(うー…)
 コロンとベッドに転がったけれど、まだ腹が立つ。どんどん腹が立ってくる。
 あの手の女の子向けのお遊びの記事が次から次へと浮かんでくるから。幾つも幾つも思い出してしまって、全然消えてくれないから。
(あんなの、読むんじゃなかったよ…)
 女の子向けの記事なんだから、読まずに放っておけばよかった。後悔先に立たずだけれど。
 前世の記憶が戻る前には、「面白いな」とよく見てたんだ。
 だって、質問に答えていったら「あなたにはこんなタイプが似合います」って出るんだもの。
 つまりは自分がやっていたわけで、大抵はキースだったと思う。
(当たらないんだよ、ああいうのは!)
 このぼくに、キース。
 キースが前のぼくに何をしたかは放っておいても、好みじゃない。
 あんなのは絶対に好みじゃないのに、辿り着いた答えは圧倒的にキースが多かったような…。
(ハーレイが入ってなかったからだよ!)
 そうに違いない、と記事を作る人たちのせいにした。
 もしもハーレイの枠を作ってくれていたら、ぼくは真っ直ぐハーレイに辿り着けたんだ…。



 絶対に入っていないハーレイ。枠さえ作って貰えないキャプテン・ハーレイ。
 それなのに必ず王子様扱い、不動のポジションを誇るソルジャー・ブルー。
 前のハーレイと前のぼくの扱いの違いは酷過ぎる。
 ああいう記事を作る人たちは、なんて見る目が無いんだろう。
 王子様な前のぼくが一目惚れ……だかどうかは知らないけれども、心の底から好きだった人。
 生まれ変わって来てからも好きで、大好きでたまらないハーレイ。
 そのハーレイを数に入れないだなんて、つくづくどうかしていると思う。
 目が節穴と言うか、まるで分かっちゃいないと言うか。
(ホントのホントに腹が立つったら…!)
 ぼくのハーレイの枠が無いなんて、と怒鳴り込みたい気分になる。
 ハーレイよりも素敵な人なんかいない。ハーレイが誰よりも素敵で、大好き。
 でも……。



(…薔薇のジャムが似合わないハーレイだっけ…)
 シャングリラの女性クルーが趣味で作っていた薔薇の花びらのジャム。
 量が少ないのに人気だったから、作る度に希望者がクジ引きをしてた。クジを入れた箱を抱えた女性クルーがシャングリラ中を回っていたのに、箱が素通りしていたハーレイ。
 ブリッジではゼルもクジを引くのに、ハーレイの前では一度も止まらなかったクジ入りの箱。
(声を掛けなかったハーレイだって悪いんだけど…)
 ぼくは女性クルーの「キャプテンには似合わないわよね」っていう心の声を知っていた。薔薇の花もジャムも似合いそうにないと、そういうタイプの人間じゃないと。
 だけど彼女たちは、ぼくには薔薇が似合うと思っていたんだ。薔薇のジャムだって似合うからと作る度にプレゼントしてくれた。クジなんか引かなくっても貰えた。
 そのぼくがハーレイを愛していたのに、薔薇のジャムのクジ引きはハーレイ抜き。クジの入った箱は決して、ハーレイの席の前で止まりはしなかった。



(…シャングリラでもハーレイって枠の外だったよ…)
 あの頃から見る目のない人ばかりが揃っていたんだろうか、と情けなくなる。
 ハーレイに憧れていた女性というのを全く知らない。誰一人として記憶には無い。
(憧れてたのは男性だよね?)
 小さな子供から、大人まで。ハーレイに憧れていた男性はとても多かった。
(多かったんだけど…)
 前のぼくみたいな恋ではなかった。あくまで憧れ、カッコよくて素敵な憧れの人。
 巨大なシャングリラを自在に操り、船の進路を決めるキャプテン。ブリッジで指揮をし、舵を握っていたハーレイの姿に憧れない方がどうかしている。
(みんな、キャプテンのハーレイに憧れてたんだよ!)
 もしもハーレイがキャプテンにならずに、元の通りに厨房でフライパンを握っていたら。調理の責任者のままでいたなら、憧れる男性はグッと減ったか、皆無だったか。
(…ぼくはフライパンとお鍋のハーレイでも全然気にしないのに…)
 どうしてキャプテンのハーレイでないと駄目なんだろう。
 なんでそうなっちゃうんだろう?
 ぼくはハーレイしか見えなかったのに。
 前のぼくには、ハーレイだけしかいなかったのに…。



 ハーレイの他に好きな人なんていなかったよ、と遠い昔の記憶を手繰った。
 フィシスは女性だから数に入れずに、男性限定で考えてみた。前のぼくが誰をどう思ってたか。
(やっぱりハーレイしかいないんだけど…)
 前のぼくが恋をしてた人。前のぼくが大好きだった人。
 それなのに今じゃ、お似合いの恋のお相手の例にも挙がってこないハーレイ。ああいった記事に顔を連ねる面々は決まっているんだけれども、前のぼくは誰も何とも思っていなかった。
(ジョミーはほんの子供だったし、トォニィはもっと小さかったし!)
 キースなんかは論外だよ、と言いたい気分。
(…今のぼくなら…)
 ジョミーをかっこいいと思うだろうか、と金色の髪の青年の姿を思い浮かべて「ううん」と首を左右に振った。英雄になったジョミーに出会ったとしても、ぼくの心は惹かれはしない。
 トォニィも…。ソルジャーを継いだ大きなトォニィが目の前にいても、やっぱり要らない。
(えーっと、キースは…)
 記事の定番の写真はナスカに来た頃の若かったキース。前のぼくを撃ったことは除外したって、ぼくはキースに恋したりしない。女の子向けの質問に答えた時に出て来た回数は多かったけれど、「気が合いそうだな」って考えただけで、好みだとは一度も思わなかった。
 マードック大佐もちょっと違うし、マツカはちょっぴり頼りない。
(断然、ハーレイが一番なのに!)
 なんで誰一人として、ハーレイに目をつけてくれなかったんだろう。
 誰よりもかっこ良かったハーレイ。前のぼくが恋をしたキャプテン・ハーレイ…。



 目が節穴な人たちばかりだ、とベッドに転がったままで怒り続けて。
 怒りを通り過ぎてしまってふて腐れていたら、ハーレイが仕事帰りに寄ってくれたから。ぼくの部屋で夕食の前のお茶を飲むことになって、向かい合わせで座ったから。
「ねえ、ハーレイ。腹が立たない!?」
「はあ?」
 ポカンと口を開けたハーレイ。
 いけない、大前提ってヤツが綺麗に抜け落ちていた。それほど怒っていたんだろう。
「えーっと…。今日の新聞に載ってたんだけど…」
 ぼくは例の記事の説明と、ぼくの怒りとをハーレイに真正面からぶっつけて。
 腹が立たないのかと訊いたんだけれど、ケロリと返って来た答え。
「そんなのは昔からだろうが」
 シャングリラの頃からの伝統だ、うん。
 前のお前は大人気だったが、俺はキャプテンの肩書きが無けりゃ誰も寄っては来ないってな。



「だけど…!」
 酷いよ、みんな見る目が無さすぎだよ!
 ぼくはハーレイが好きだったんだし、ハーレイは素敵だったんだよ!
「そう来たか…」
 ならば、とハーレイは腕組みをしてぼくを見詰めた。
「だったら、お前。…ライバル多数が嬉しかったか?」
「ライバル?」
「恋敵とも言うな、俺に惚れてる女性や、男や」
 そういった連中がわんさといる中、ぼくのものです、って威張りたかったか?
 ハーレイはぼくのものなんだ、とな。
「もちろんだよ!」
 ぼくは勢い込んで答えた。
 ハーレイを好きな人が沢山いる中、ハーレイはぼくを選んでくれたんだから。
 大勢の中から選ばれたなんて、幸せすぎて威張らないではいられない。
 腕を組んで、ハーレイにくっついて。
 ぼくのものだと、ぼくのハーレイだと自慢せずにはいられない。
 そうしてハーレイにキスして貰って、それから、それから…。
 なんて幸せなんだろう。ハーレイを好きな人が大勢いるのに、ぼくを選んで貰えたなんて。



 素敵だよね、と夢を見ていたら、ハーレイが「ふむ…」と顎に手を当てて。
「ライバル多数も大歓迎、というわけか」
「うんっ!」
「なるほどなあ…。しかしだ、お前、大事なことを忘れていないか?」
 ソルジャーがそういう宣言、出来るか?
 前の俺がお前を選んだってな、お前はソルジャーだったわけだが。
「あっ…!」
 前のぼくの立場を忘れてた、ぼく。ソルジャー・ブルーだった、前のぼく。
 ハーレイとの恋は誰にも明かせなかった。
 ソルジャーとキャプテンが恋人同士だと知れてしまったら、シャングリラに支障を来たすから。今後の進路も、会議の行方も、円滑に進みはしないから…。



「気付いたか、馬鹿」
 俺と恋人宣言なんかは出来ないだろうが、内緒なんだぞ?
 ソルジャーとキャプテンが恋人同士だなんて言えやしないし、知られるわけにもいかないな。
 そうしてあちこちで噂が立つんだ、俺とお前以外の誰かの恋の噂が。
「……嘘……」
 なんで恋の噂?
 ハーレイはぼくを選んでいるのに、なんでそういう噂が立つの?
「そりゃ立つだろうさ、お前は表に出られないんだし」
 俺がお前に決めたってことは、誰にも分からないわけだ。
 だから相手を探したくなる。恋人は誰だ、とシャングリラ中で噂が立つ。
 ブラウは確実に渦中の人だな、軽口を叩き合ってた仲だしな?
 前の俺の身近にいたヤツとなると、エラも危ないし、シドもターゲットになりそうだ。ついでにリオも危ないかもなあ、お前の使いでよくブリッジに来ていたからな。



「…そんな…」
 酷い、と無責任な噂に顔を顰めたけど、ハーレイは「事実だろうが」とバッサリ、一言。
「そういった話になっちまうのさ、お前が表に出られない以上」
 いくらお前と恋人同士でも、それらしい場面が無いんじゃなあ…。
 如何にも偉そうなソルジャーなんかより、ブリッジで一緒のヤツらの方がそれっぽいよな?
 俺がコーヒーを渡してやっていたとか、受け取ってたとか。
 食堂で飯を一緒に食っていたとか、そうした所を目にしてたヤツらが噂を始める。
 いくらでも立つぞ、その手の噂は。
 そしてアッと言う間に広がっていくんだ、尾鰭がついてな。
 俺にそういう覚えが無くても、誰かの部屋に泊まりに行ったとか、俺の部屋に誰か泊めたとか。そんな噂まで流れ始めるだろうな、何の根拠も無いままで。
 そういう状態になっていてもだ、お前は表に出られはしない。
 俺は青の間に居たんだと本当のことを言えはしないし、黙って見ていることしか出来ない。
 お前、耐えられるのか、その状況に?



(………)
 ちょっと想像してみた、ぼく。
 ハーレイは間違いなくぼくの恋人で、夜は青の間で過ごすんだけれど。
 本当のことを知らない誰かが勘違いをして、其処から広がり始める噂。ハーレイに恋人がいるという噂。それだけだったら、ぼくは我慢が出来ると思う。仕方がないと我慢が出来る。
(…でも…)
 ハーレイの恋人だと噂の誰かが、ハーレイと並んで歩いていたなら。
 前のぼくはキャプテンだったハーレイを後ろに従えて歩いていたけど、そのハーレイが何処かで恋人と噂される人と二人並んで歩いていたなら…。
 普通に隣を歩いているだけの人が恋人に見えてしまうだろう。前のぼくは歩けない、ハーレイの隣。ソルジャーの立場では歩くことが出来ない、ハーレイの隣。其処を親しげに歩く人がいると、まるで本物の恋人みたいに、と。
 そう気が付いたら、きっと辛くてたまらない。ぼくは歩けないハーレイの隣。ぼくが立てない、ハーレイの隣。
 もう絶対に悔しいし、悲しい。
 本当は恋人なんかじゃなくってただの噂だ、と分かっていたって泣くだろう。声を上げて泣いてしまうだろう。どうして隣にぼくじゃないんだと、別の人が歩いているんだ、と。
 ううん、泣くだけじゃなくって、悲しくて悔しくて怒ってしまう。
 怒りをぶつける所が無くって、ハーレイに当たり散らしてしまうと思う。
 どうして並んで歩いていたのかと、ぼくは隣を歩けないのに、と。



 みっともないことになってしまいそうな、ライバル多数だった場合の前のぼく。
 独占欲の塊になって、ハーレイを困らせてしまいそうなぼく。
 考えれば考えるほどに、悲惨な結果になりそうなことが見えて来たから、呟いた。
「…ぼく、無理かも…」
 ホントはぼくが恋人なんだ、って分かっていたって耐えられないかも…。
 ハーレイの恋人は他の誰かだ、なんて噂が流れていたら。
「そうだろうが」
 な? と、ハーレイの大きな手がぼくの頭をクシャリと撫でた。
「だからライバルなんぞはいなくていいのさ、俺はモテない男でいいんだ」
 お似合いの恋人のタイプとやらに名を連ねなくとも別にかまわん。
 腹も立たんし怒りもしないさ、お前にモテればそれでいいんだ。
 お前だけが俺に惚れててくれれば、もうそれだけで充分だからな。



「でも…。ハーレイ、ホントにかっこいいのに…」
 誰よりもかっこいいと思ってるのに、なんでぼくだけになっちゃうのかな?
「さあな? ただし、今度の俺は前の俺とは一味違うぞ」
 何度も言ったが、学生時代の俺には女性ファンがけっこうついてた。
 柔道も水泳も、大会や試合を応援しに大勢来てくれたもんだ。
 見る目があるヤツが多かったわけだが、そこをどうする?
 お前だけではないってことだな、今の俺をかっこいいと思ってくれるヤツは。
(…それを言うわけ!?)
 よりにもよって女性ファンの数を恋人のぼくに自慢するなんて。
 ものすごーく腹が立ったけれども、そういう時代は確か学生時代の終わりまで。
 ハーレイがプロのスポーツ選手じゃなくって教師になったら、女性ファンたちは去って行ったと聞いているから。
 腹を立てた分を仕返ししようと、ぼくはニッコリ笑って言った。
「それ、キャプテンだったハーレイに憧れてた男の人たちと同じなんじゃない?」
 ハーレイそのものじゃなくて柔道と水泳に憧れてたんだよ、そっちの腕前のお蔭だよ。
 シャングリラのキャプテンはかっこいいな、って憧れるのときっと同じだってば。
 柔道と水泳の選手を辞めたら消えちゃったんでしょ、その人たちって。



「こらっ!」
 コツン、とハーレイの拳がぼくの頭に降って来た。
「一人で勝手に落ち込んでるから、せっかく元気づけてやったのに…」
 お前は恩を仇で返す気か、俺だって少しは自慢したっていいだろう!
 どうせモテない男なんだから、今度はモテたと少しくらいは!
「ううん、ハーレイ、モテなくっても凄いんだよ」
 かっこいいんだよ、ぼくの恋人だもの。
 前のぼくは今じゃ王子様っていうポジションなんだよ、恋人のタイプの例が並んでいる中で。
 王子様のぼくがハーレイのことを大好きなんだよ、ハーレイ、威張っていいんじゃない?
 俺は世界一かっこいいんだと、王子様より上なんだと。
「ふうむ、そういう考え方も出来るか…」
 王子様のお前が惚れているなら、俺の方が上か。
 俺は王子様よりも上のランクの男だっていうことになるのか、その説で行くと。
「そうだよ、ハーレイが世界一かっこいいんだよ」
 王子様よりも上で、世界で一番。
 宇宙で一番かっこいいのがハーレイなんだよ、王子様のぼくの王子様だもの。



 本当に宇宙で一番だよ、とぼくはハーレイに微笑みかけた。
 前の生からのぼくの恋人。誰よりも大切な、ぼくのハーレイ。
 そのハーレイは「うーむ…」と低く唸って。
「…なんだか落ち着かないんだが…」
 お前よりも上だと言われる分には嬉しいだけだが、こう、具体的に…。
 世界一だの、宇宙で一番だのと絶賛されると、俺の柄ではないような…。
 そこまでかっこいいってことになるとだ、どうもこそばゆくて落ち着かんな。
「大丈夫!」
 心配しなくても大丈夫だよ、と自信たっぷりに答えてあげた。
「だって、ハーレイに注目する人はいないから!」
 お似合いのタイプにランクインしないハーレイだよ?
 かっこよくても誰も気付かない、気付いてくれないハーレイだから大丈夫!
「お前ってヤツは、俺を何だと思っているんだ!」
 褒めるかけなすか、どっちかにしろ!
 どっちがお前の本音か分からん!
 この蝙蝠めが、と軽い拳が降って来たから、ペロリと舌を出したけれども。
「じゃあ、褒める!」
 ホントのことだよ、ぼくが考えてる、本当のこと。
 ぼくはハーレイのことが好きだし、誰よりも好きでかっこいいと本気で思っているから。
 王子様だって言われる前のぼくの頃から、ハーレイが好きでたまらないから。
 だから、ハーレイが世界で一番。
 宇宙で一番かっこいいから、ぼくはハーレイが大好きだよ。
 この世界の人たちの目は、みんな節穴。
 かっこいいハーレイに気付かないだなんて、本当に信じられないけれど…。
 お蔭でハーレイを独占出来るし、みんな節穴の目のままでいい。
 だって、ハーレイはぼくのハーレイ。ずうっと、ぼくだけのハーレイでいてほしいから…。




          王子様・了

※ブルーにとっては王子様なのがハーレイですけど、世間では全く違う扱い。
 でも、ハーレイがモテてライバル多数だと辛いのも事実。今の状態がいいんでしょうね。
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらからv






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