シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
二学期がスタートして九月の中旬。厳しい残暑は去りつつありますが、制服が半袖なだけに夏休み気分を引きずったまま。特別生は成績も出席も無関係ですし、なおのことです。そんな中、キース君が用事があるとかで一日欠席。そういう日があったのも忘れるほどにお気楽な日々で…。
「あれっ、その紙袋、何なのさ?」
ある朝、ジョミー君が校門前でキース君に声を掛けました。バスの路線が違いますから、同じ時間に登校してきて面子が揃ったのが門の前。なるほど、キース君が大きな紙袋を提げています。
「あら、それ、デパートの紙袋よね? 柔道部の後輩に差し入れなの?」
スウェナちゃんが尋ねると、キース君は「いや」と即座に否定。
「欲しいんだったら、誰でも貰ってくれればいいが」
「なんだよ、それ。なんか思いっ切り怪しいじゃねえか」
燃えないゴミか? とサム君が袋を覗き込んで。
「…普通にプレゼントみたいだな?」
「そうなんだが…。サムにやろうか?」
「えーっと…。特にプレゼントが欲しいってわけじゃねえしな」
他のみんなは? と視線を向けられたものの、挙手する人はいませんでした。
「キース先輩、それは一つしかないんですよね?」
シロエ君の問いに「ああ」と頷くキース君。
「だったら放課後でいいですよ。ぶるぅの部屋でジャンケンしましょう」
「いいね、それ! 負けた時には恨みっこなしで!」
何が入っているんだろう、とジョミー君はワクワクしている様子。私もちょっとドキドキです。この前、欠席していた時に日帰り旅行に出掛けたのかもしれません。そのお土産なら期待大。
「そうか、土産って線があったよな!」
食い物だといいな、とサム君も。紙袋の中身は綺麗にラッピングされた袋でリボンなんかもかかっていますし、食べ物だとしたら焼き菓子詰め合わせセットとか…。
「お菓子が沢山入ってるんなら貰った人はお裾分けだよね!」
そういうコトにしとこうよ、というジョミー君の意見に誰もが賛成。放課後が楽しみになってきました。お菓子だったらジャンケンに負けても一個くらいは貰えそうですし、そうでないならジャンケン勝負に勝つまでです、うん!
ドキドキ、ワクワク、紙袋の中身。授業中もキース君の方をチラチラ見ながら放課後を待って、待ち続けて…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日はキャロットプディングなんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ニンジンたっぷりのふんわりしっとりらしいです。切り分けられて出て来たプディングは見た目は普通にケーキみたいで。
「「「いっただっきまーす!」」」
好みの飲み物も淹れて貰って、一切れ目はアッと言う間に食べてしまいました。プディングだけにお味はプリン。お次はお代わり、と二切れ目をお皿に載せて貰った所で、会長さんが。
「キース、あそこの紙袋は?」
「…すまん、存在を忘れていた。一名様限定でプレゼントなんだ」
「ふうん? で、誰が貰えるわけ?」
「ジャンケンです!」
勝った人です、とシロエ君が声を上げましたが。
「…それは面白くないんじゃないかな、ぼくとぶるぅはサイオンで誰が何を出すか分かるしね? ここは王道でどうだろう? プレゼント交換でよくやるヤツで順番に回す!」
「あー、音楽が鳴り終わった時に持ってたヤツを貰えるアレかよ」
あったっけな、とサム君が相槌。それもなかなか面白そうです。ジャンケンだと会長さんや「そるじゃぁ・ぶるぅ」に掻っ攫われる可能性が大きいですし…。
「じゃあ、音楽に合わせて回すことにしよう。BGMは、と…」
「かみほー!」
アレがいいな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の鶴ならぬ子供の一声。キース君が持って来たプレゼントの袋は『かみほー♪』が一曲鳴り終わるまで順送りに回すと決定です。回しやすいように座り直して、キース君がラッピングされた袋を手に持って…。
「かみお~ん♪ 音楽、スタート!」
賑やかに鳴り響く『かみほー♪』に合わせてプレゼントの袋は手から手へと。私の所も何度も通過して行きましたけれど、何が入っているのか謎です。重さからして、やっぱりお菓子? 何なんだろう、と想像しながらどんどん回している内に…。
「♪ 美しいその名は、地球~、テ~ラ~~~♪」
ジャンッ! と音楽が終わり、さて、肝心のプレゼントは、と…。
「「「あーーーっ!!!」」」
ズルイ、と皆の妬みの目線が集中。リボンつきの袋は会長さんの手の中にあったのでした。
「違うよ、わざとじゃないってば! いくらぼくでもこういう時にはズルは無理だよ!」
BGMの速さを変えるとかも絶対してない、と言われても日頃の行いが全て。プレゼント欲しさにジャンケンよりも公正と見せかけて掻っ攫ったに違いない、とブーイングの嵐。
「狙ったみたいにブルーのトコだし!」
絶対ズルイ、とジョミー君が頬を膨らませ、私たちも文句三昧なのに。
「…悪いね、ホントに偶然なんだよ。というわけで、コレは貰った!」
お菓子だったら分けてあげるよ、と会長さんはリボンを解いて袋を覗き込んだのですけど。
「………。何さ、これ?」
袋の中に突っ込まれた手が掴み出したモノに、私たちの目がまん丸に。それ、腹巻とか言いませんか? しかもなんだか手編みっぽい…?
「…見てのとおりだ」
キース君がフンと鼻を鳴らして、袋の中身がテーブルの上に次々と。貼るカイロやら手袋、襟巻。あまつさえ最後に明らかに子供が描いたと分かる絵と「げんきでながいきしてください」の文字。
「「「………」」」
何なのだ、と言いたい気分はプレゼントを貰った会長さんも、私たち全員も同じだったと思います。どんなプレゼントですか、その袋!
「…キース、もしかして喧嘩を売っているのかい?」
だったら喜んで買うんだけれど、と会長さんのドスの利いた声。
「ち、違う! まさかあんたに当たるとは思っていなかったんだ! あんただとシャレにならないだろう!」
他のヤツなら笑われておしまいだったんだ、とキース君は顔面蒼白。会長さんの方はといえば。
「…シャレにならないってコトは、いわゆる敬老グッズってわけ? この前、済んだばかりだものねえ…。敬老の日が」
「…す、すまん…。それはだ、お達者袋と言って」
「「「お達者袋?」」」
なんじゃそりゃ、とハモる私たちに、キース君が額にビッシリ汗を浮かべて。
「…こないだ、休んでいただろう? 先輩のお寺が経営している幼稚園の手伝いに駆り出されたんだ、こいつを詰めてラッピングしに…」
御近所のお年寄りとか老人ホームに配るのだ、という説明を聞いておおよそは理解出来ました。敬老の日の慰問グッズが『お達者袋』とかいうヤツです。でも、なんでまたキース君がそれをお持ち帰りに…?
「………。敬老の日に配り終わったら一個余っていたとかで…。手伝いの御礼に、と先輩が昨日届けに来てくれたんだ」
菓子とセットで、と口を滑らせたキース君の頭の上でパンッ! と弾ける青いサイオン。会長さんが眉を吊り上げて睨んでいます。
「それでお菓子は家に残して、お達者袋を持って来たと!?」
「お、俺のせいじゃない、菓子はおふくろの好物だったんだ! 御馳走様、と箱ごと部屋に持っていかれてそれっきりなんだ!」
「それじゃ、お達者袋は何なのさ!」
家に置いとけばいいだろう、と激しく詰る会長さんに、キース君は「そ、それが…」と逃げ腰で。
「実は親父に怒鳴られたんだ。わしはまだまだ現役じゃぞ、と…」
「「「…贈ったわけ?」」」
見事に重なった私たちの声。よりにもよってアドス和尚に敬老グッズとは大胆な…。
「俺が贈るわけないだろう! あれは不幸な事故だったんだ!」
止めに入る間も無かったんだ、と泣きの涙のキース君。先輩さんがお菓子とお達者袋を届けに来た時、アドス和尚は在宅だったらしいです。「お客さんか?」と出て来た所でお菓子の箱をゲットしたイライザさんに会い、ならば自分も、とラッピングされた袋をキース君から奪ったとか。
「意地汚い親父が悪いんだ! いそいそと部屋で開けた挙句に、俺を呼び付けて怒鳴りやがって! 馬鹿にしてるのかと罵倒する前に、自分の行動を思い出せ、と!」
理不尽すぎる、と嘆くキース君は「師僧を侮辱した罪は重い」と叱られ、御本尊様の前で五体投地を三百回。挙句の果てに「これは要らん!」と、お達者袋を返された次第。
「…そういうわけで、誰かに押し付けて憂さ晴らしをしようと思ったんだ。返品不可とか偉そうに言って、恩着せがましく貰わせようと!」
「……ひでえな、お前。そんなんだからブルーに当たっちまうんだぜ」
まさに仏罰、というサム君の台詞の正しさは間違いなし。会長さんにボコられてしまえ、と心の中で毒づいていると。
「…いいねえ、お達者袋って」
「「「!!?」」」
振り返った先でニッコリと笑う会長さんのそっくりさん。敬老グッズが欲しいのでしょうか、まさか、まさか…ね……。
とんでもない騒ぎの真っ最中に降ってわいた別の世界から来たお客様。ソルジャーは空いたソファにストンと腰掛け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」にキャロットプディングと紅茶を注文してから。
「せっかく素敵なプレゼントなのに、ブルーが拒否してるんだって?」
「何処が素敵なのさ!」
思い切りコケにされたのに、と叫んだ会長さんに、ソルジャーは指をチッチッと。
「分かってないねえ、生涯現役を目指したい人たちのためのグッズだろ?」
「「「…は?」」」
お達者袋で生涯現役って、グラウンドゴルフとかゲートボールとか、そういうシニアのスポーツですか? 確かに足腰が達者でないと生涯現役は無理そうですが…。身体を冷やすといけませんから腹巻に手袋、襟巻なんかも納得のチョイス。貼るカイロだって冬場は絶対欠かせません。
「えっ、スポーツ? まあ、スポーツと言えばスポーツかもねえ…」
アレもけっこう消耗するし、と頷くソルジャー。
「でもって冷えるのも良くなさそうだ。腹巻とかを装着したままだと興醒めだけどさ、全裸で待機しているよりかは直前まで保温するのもいいと思うし」
「「「???」」」
「でもねえ、ぼくがシャワーから出て来た時には脱いでて欲しいな、腹巻は! もちろん手袋と襟巻もだよ。でないと百年の恋も冷めちゃう」
ソルジャーが何を言っているのかサッパリ分かりませんでした。けれど会長さんは握った拳をブルブルと震わせ、テーブルをダンッ! と殴り付けて。
「退場!!!」
えっ、今の話って猥談でしたか? どの辺が、と顔を見合わせているとソルジャーが。
「なんだ、君たちも分かってないんだ? ハーレイとの大人の時間の話さ。青の間は室温をきちんと調整してるけれども、冷えすぎて風邪を引かれたら困る。二人でシャワーに行くならともかく、ハーレイが先に入った時には腹巻で保温するのもいいな、と」
裸腹巻! とブチ上げられて、ゲッと仰け反る私たち。もしや生涯現役とは…。
「決まってるだろう、夫婦の時間! こっちの世界じゃお年寄りにも激励グッズを配るくらいに奨励されているんだねえ…。実に素晴らしい話だよ」
「そうじゃないから!」
間違ってるから、と会長さんが突っ込みましたが、ソルジャーは聞いていませんでした。
「元気で長生きして下さい、かぁ…。小さな子供に書かせるんなら妥当な言葉と言えるよね。本音を言えばさ、元気で長持ちして下さい、ってハッキリと書いて欲しいけど…。あ、でも女性にも公平に配ってるんなら長生きの方が自然かな?」
元気で長生き、生涯現役! と派手に勘違いをしているらしいソルジャー。この際、キース君のお達者袋はソルジャーに譲るべきなのでは?
敬老グッズで壮大な誤解をしたソルジャーは、キャロットプディングを食べる間もお達者袋を褒めて褒めまくって、素晴らしいだの凄いだの。アドス和尚も会長さんも侮辱されたと受け取ったのに、どう間違えたら素敵なグッズになるんだか…。
「ホントに凄いよ、こっちの世界! 生涯現役で頑張って下さい、って励ましの手紙までつけてグッズを配布かぁ…」
思った以上に大胆な世界、とソルジャーの勘違いは止まりません。
「今はまだ残暑も残ってるけど、じきに秋が来て冷え込むもんねえ…。お風呂上がりは腹巻とかでしっかり保温! そして本番でいい汗をかいて、身体の方も鍛えましょうって方針なんだね」
「「「………」」」
この人に何を言っても無駄だ、と私たちは学習済みでした。思い込んだら一直線なソルジャーですから、訂正したって馬耳東風。馬の耳に念仏どころかソルジャーの耳に真実という感じ。放っておくしか方法は無く、しかも今回はそれがベストなチョイスなわけで。
「それでさ、お達者袋だけどさ」
要らないんなら貰っていい? と、出ました、究極の勘違い! やった、と心で快哉を叫んだ人はキース君と会長さんの二人だけではなかったでしょう。敬老グッズを押し付けられても困るだけですし、持って帰れば家で爆笑されますし…。
「本当にコレが欲しいわけ?」
中身はコレだよ、と会長さんが念を押してもソルジャーは嬉々とした表情で。
「腹巻に手袋、襟巻だろ? 貼るカイロだって暖かいしね、ハーレイが喜んで使うと思う。ぼくがお風呂に入ってる間、これで保温をしておいて、って言えば絶対、大感激だよ」
ただし、と言葉を一旦切ってから。
「ぼくがバスルームから出て来る時にはきちんと脱ぐように言っとかないと…。幸い、ぼくたちはミュウだしねえ? 気配ってヤツに敏感だ。ハーレイの裸腹巻とか裸襟巻は拝まないで済むと思うな、愛さえあれば」
裸手袋も絶対に嫌だ、と我儘だけは言いたい放題。
「しっかり保温した身体でもって温めて欲しいね、ぼくの身体を! 貼るカイロはバスローブに貼っておくのもアリかな、コトが終わった後でほんのり暖かいのを着せて貰ったら嬉しいかも…」
もう本当に素晴らしすぎ、とお達者袋への惚れ込みようは半端ではありませんでした。幼い子供が頑張って描いた絵と「げんきでながいきしてください」のメッセージもキャプテンへの激励に使うのだそうで。
「こんな小さな子供が励ましてくれるんだから、と言えば元気で長持ち!」
お達者袋は貰っていくね、とプディングを食べ終えたソルジャーは大喜びで帰ってゆきました。所変われば品変わるとでも申しましょうか、お達者袋が大人の時間の激励グッズになるなんて…。
キース君がアドス和尚と会長さんの怒りを買った敬老グッズはソルジャーの世界で有効活用されたようです。えっ、どうしてそれが分かるのかって? それは……。
「でね、ハーレイが凄く感激しててさ…。あれは限定品ですか、って」
数日後の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に現れたソルジャーは御機嫌でお達者袋のその後を教えてくれました。お達者袋を開けたキャプテン、最初は途惑ったらしいのですけど、腹巻などの使い方を知って深く感動したのだそうです。
「なんだったっけ…。敬老の日って言うんだっけか? その日しか出ないグッズですか、と訊かれたんだけど、それで合ってる?」
「…その筈だけど? そうだよね、キース?」
どうなんだい、と会長さんに問われたキース君が「間違いないな」とキッパリと。
「俺が手伝いに行った幼稚園では年に一度しか作らない。…日頃から地域のお年寄りだの老人ホームだのと付き合いの深い幼稚園なら、月イチくらいで作っているかもしれないが」
「…多かったとしても月イチなんだ?」
ソルジャーの言葉に、会長さんが。
「月イチくらいが限界だろうね、中に入れるグッズも揃えなくっちゃいけないし! 作るにしたって買うにしたって、そんなに何度もやってられないよ、幼稚園にも都合ってヤツが!」
「俺もブルーと同意見だな。それに幼稚園にも行事は沢山あるし、敬老グッズ作りが最優先だと保護者から苦情が来るだろう」
そうそう何度も作れはしない、とキース君。
「あんたの世界のキャプテンに言っとけ、年に一度の限定品で今年限りのレアものだ、とな」
「…今年限り!?」
来年は、と目を丸くするソルジャーですけど、キース君はけんもほろろに。
「来年も貰う気だったのか? 無理だな、俺が手伝いに呼ばれるかどうかも分からない上に、余らなければ貰えないしな」
「えーーーっ! あんなに素敵なグッズだったのに、一回きり?」
「レアものだからこそ値打ちが高い。来年の俺に期待はするな」
「…そ、そんな……」
酷い、とソルジャーは会長さんの方へと向き変わって。
「何処か他にも貰える所はないのかい? 君のコネとか、そういうヤツで!」
「無いね。限定品がゴロゴロ幾つも転がっていたら、有難みも何も無いってものさ」
諦めたまえ、と会長さんはスッパリと。お達者袋は敬老の日の限定品。そうそう何度も作って配られたら、私たちだって迷惑です。もれなくソルジャーが来そうですから、年に一度で充分ですよ!
お達者袋は年に一回、敬老の日にしか出ないと聞かされてショックを受けたらしいソルジャー。しかも来年も貰える可能性は限りなく低く、この前に貰って帰った分が最初で最後かもしれないわけで…。なまじキャプテンが喜んだだけに、どうやら諦め切れないらしく。
「…本当にもう何処にも無いわけ?」
「敬老の日が済んだトコだし、無いってば! あれは真心のこもった贈り物で!」
量産品とは違うのだ、と会長さん。
「手紙は子供たちが願いをこめて書いたものだし、絵だってそうだ。中のグッズも手編みの分は保護者の人が編んだと思うよ。元気で長生きして下さい、って気持ちを伝えるための物!」
「…要は気持ちを伝えるための物なんだ? 手紙とグッズで」
「そうだよ、デパートとかのギフトセットと同列に考えないように!」
あくまで伝える気持ちが大切、と会長さんは説いたのですけど。
「…そうか、気持ちとグッズなんだ…。それがあったら作れるんだね、お達者袋」
「「「えっ?」」」
それってどういう発想ですか? まさか私たちに作ってこいとか…?
「ううん、君たちに作れとは言わないよ。相手はぼくのハーレイなんだし、ぼくからの愛と想いとをこめてお達者袋をプレゼント!」
これしかない、とソルジャーはグッと拳を握りました。
「そうと決まれば早速、買い出し! それと後から部屋を貸してね」
「「「部屋?」」」
「此処だよ、此処で詰めるんだってば、お達者袋に入れるグッズと手紙!」
「ちょ、ちょっと…!」
ちょっと待った! という会長さんの叫びも聞かずにソルジャーはパッと瞬間移動。何処へ消えたか姿は見えず、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」もキョロキョロと。
「…ぶるぅ、ブルーはどっちに消えた?」
「えとえと…。あっちの方じゃないのかなぁ? デパートに行ったと思うんだけど…」
前に一緒に下着売り場に行ったから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「あっちのハーレイに褌を買うって言ってた時に行ったデパート!」
「…ああ、あそこ…。あ、いた、いた」
何を買いに出掛けたんだろう? と首を捻った会長さんは間もなくテーブルに突っ伏しました。
「………。そうじゃないかとは思ってたけど…」
「どうした、あいつが何をしたんだ?」
買い物か、と尋ねたキース君への答えは「いずれ分かるよ…」と蚊の鳴くような声。そういえばグッズを詰めに戻って来るんでしたっけ…。ソルジャー、何を買ったんでしょう?
いそいそと買い出しに出掛けたソルジャーは一時間後に戻って来ました。デパートの大きな紙袋を両手に提げて鼻歌交じりの上機嫌。
「地球のデパートは品揃えが充実していていいねえ、お達者袋の作り甲斐があるよ」
まずはコレ、と紙袋から取り出した包みをバリバリと破り、レースたっぷりのネグリジェ登場。
「「「………」」」
そんなネグリジェをキャプテンに着せてどうするのだ、と思いましたが、さに非ず。
「ハーレイに着せると思ったんだろ? 違うよ、これはぼくが着るヤツ! 今日のお達者袋の中身はコレだよね、うん」
きっとハーレイも燃えてくれるさ、とソルジャーはキース君が持っていたお達者袋そっくりの袋にネグリジェをギュウギュウ詰め込んで。
「次は手紙、と。…なんて書こうかな、やっぱり「元気で長持ちして下さい」がストレートに伝わって素敵かな?」
「…好きにすれば?」
知ったことか、と言い捨てた会長さんの台詞にソルジャーの瞳がキラリーン! と。
「いいね、それ! 最高だってば、その案、貰った!」
「は?」
何が、と問い返した会長さんに向かって、ソルジャーは。
「好きにすれば、と言っただろう? それだよ、その台詞の頭に「ぼくを」って付けて、「ぼくを好きにすれば?」って書けばいいかと」
なにしろぼくが着るのはネグリジェ、とパチンとウインクするソルジャー。
「時間をかけて脱がせるのも良し、ボタンが弾け飛ぶ勢いで引っぺがすも良し! 着たままでヤるっていうのもいいよね、ハーレイの好みのシチュエーションってどれだと思う?」
「退場!!!」
さっさと帰れ、と会長さんが怒鳴りつけてもソルジャーは我関せずとソファに陣取り、これまたデパートで仕入れたらしい花模様のカードにデカデカと『ぼくを好きにすれば?』の文字を書き、ハートマークを幾つも散らしています。
「…これで良し、っと。今日のお達者袋は出来たし、これで帰るね。あ、他のグッズは預かっといてくれるかな? 奥の小部屋に突っ込んどくから」
万年十八歳未満お断りが大勢いるからシールドの無料サービスつき、などと足取りも軽く運んで行ったグッズ入り紙袋の中身が何かは知りたくもありませんでした。片付けを終えたソルジャーの姿がフッと消え失せ、私たちの方は脱力MAX。
「…ぼくたち、明日からどうなるわけ?」
ジョミー君の質問に全員が深い溜息を。純粋なお子様の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「わぁ~い、明日もお客様だぁ!」と跳ねてますけど、そのお客様が大いに問題なんですってば…。
生涯現役を目指す大人のためのアイテム、お達者袋。元々が敬老の日のグッズだったとは誰に言っても信じて貰えそうにない毎日が続き、会長さんは頭痛を堪える日々。幸か不幸か、私たち七人グループは知識不足で真の恐ろしさが全く分かっていないのだそうで…。
「さっきブルーが詰めてったヤツも大概なんだよ」
いわゆるアダルトグッズというヤツ、と口にしてから「ごめん」と謝る会長さん。
「君たちには理解不可能だっけ…。実際のところ、ぼくにも理解は出来てるかどうか怪しいけどね。なにしろ未知の世界なだけに」
足を踏み入れたくもないけど、と会長さんはブツブツと。
「ああいうのはノルディが詳しいらしい。ブルーがあれこれ相談するから調子に乗って次々と…。でもって、この部屋の奥に怪しいグッズがてんこ盛りに!」
部屋が穢れる、と会長さんが絶叫しても止まらないのがソルジャーのこだわり、お達者袋。毎日、空間を超えて現れ、グッズの買い出しやらグッズ詰めやら、本日の殺し文句やら。殺し文句も日替わりメニューで同じ言葉は二度と使いたくないらしく…。
「だからと言ってね、ネタ本までも買ってこなくていいんだよ!」
あんなエロ本そのものなヤツ、と会長さんが泣きそうになるネタ本とやらは私たちには読めない本です。ソルジャーがテーブルにババーン! と広げて悩んでいても、本全体がモザイクだという天晴れぶり。いったい何処から仕入れたんだか…。
「えっ、アレかい? ブルー本人が言っていただろ、通販限定!」
しかも御法度、と会長さんは肩をブルッと。
「出版したとバレたら法的にアウトになるヤツなんだよ、コッソリと地下で売られてる。…あ、地下と言っても地面じゃないから! 趣味の人たちがコソコソ隠れて買う類だね」
「じゃ、じゃあ、アレがこの部屋にあるとバレたら逮捕ですか?」
シロエ君の疑問に会長さんがマッハの速さで。
「即、補導! とりあえず見た目は高校生だし、まずは補導でそれから逮捕になるのかな? 年齢的には充分に逮捕される年だし」
「…罰金刑か?」
知りたくもないが、とキース君が言えば、返った答えは。
「下手をやったら懲役食らうよ、二年間ほど」
「「「二年!!?」」」
「売る目的で持っていました、っていう時だけれどね。売ろうと思ってはいませんでした、って逃げを打とうにも、今日びはネットで個人で普通に販売出来るし」
「「「………」」」
それは困る、と思いはしても、逃げ場が無いのが今の状態。罰金刑とか懲役だとか、それって退学になっちゃうのでは…。
ソルジャー御用達のお達者袋用の参考書のせいで懲役の危機。しかも二年と聞いてしまうと目の前が真っ暗というヤツです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋にいる限り、サイオンを持った仲間以外は入れませんから安全ですけど、外に出た時が…。
「…そこなんだよねえ…。実はさ、ぼくの家にも例の参考書が」
「「「えぇっ!?」」」
会長さんの思いがけない言葉に仰け反りましたが、なんでネタ本が会長さんの家にまで?
「ほら、土日はぼくの家でグッズ詰めとかをしてるだろ? グッズはこの部屋から気の向いたヤツをお取り寄せだけど、本は確実に使うからって二冊目を買ってぼくの家に…ね」
「それってメチャクチャやばいじゃねえかよ!」
一般人も入れねえことはねえんだよな、とサム君が叫び、マツカ君が。
「管理人さんはいますけど…。警察だったら断ったりは出来ませんよね…」
「そう、出来ない。そして最悪、君たちどころかぼくも補導でソルジャーが逮捕な悲劇なんだよ」
ぼくも一応ソルジャーだから、と会長さんはフウと特大の溜息を。
「何処からも足はつきそうにない、と高をくくっていたんだけどねえ…。ブルーのお達者袋の中身がグレードアップするのに正比例して危険もどんどん高くなるんだな」
ダイレクトに通販をし始めるのも時間の問題、という会長さんにスウェナちゃんが。
「でも…。ネタ本も通販限定なんでしょ? とっくに通販してるわよ?」
「あれはノルディに買わせたんだよ、その頃はまだ大人しかったさ。今はノルディに借りたカタログを見ながら思案中なわけ! ノルディを通さずに直に買ったら特典がつくし」
「「「特典?」」」
「お得意様にだけコッソリ御案内、っていうレアなグッズがあるらしいんだ。ノルディもあれでスキモノだからさ、レアなグッズは自分で使ってしまうらしくて」
ブルーの手には入らないんだよね、と会長さん。
「そのレアグッズをゲットするためにぼくの住所を使う気なんだよ! そうなるとぼくの居場所がバレるし、警察が踏み込む危険性も……ね」
「おい。ソルジャー逮捕はシャレにならんぞ」
どうする気だ、と詰め寄るキース君に、会長さんは「うーん…」と額を押さえながら。
「誰かが人柱になってもいいなら、止める方法は無いこともない」
「「「人柱!?」」」
「そう。逮捕で懲役二年を食らうか、人柱か。ぼくには無理な方法だから、君たちの中から誰か勇者を選ぶしかない」
誰か潔く死んでこい! と言われましても。…それってどういう方法ですか?
その翌日。いつものように放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋にウキウキ現れたソルジャーは
「えっ?」と赤い瞳を見開きました。
「…ヘタレ袋?」
「うん。お達者袋の真逆をいくヤツ」
それを作ろうと思うんだけど、と会長さんはニヤニヤと。
「君が毎日お達者袋を作ってるのを見ている間に閃いたんだ。こっちのハーレイに是非贈りたい」
「…あんまり感心しないけど…。ハーレイは君にぞっこんなんだし」
「だからこそだよ、貰っちゃった時の衝撃の大きさは半端じゃないよね。…そのドン底から這い上がってくるほどの根性があれば、ぼくも少しは見直してもいい」
「なるほどねえ……」
タフさを見極めたいわけか、と考え込んでいたソルジャーですが。
「…ハーレイを見る目が変わるかも、と言うんだったら止める理由は特に無いかな。それで、ヘタレ袋とやらを作るのに知恵を借りたい、と」
「ぼくは経験値が足りないどころかゼロだから! これを贈れば確実に萎える、という凄いアイテムでもあればいいなぁ…って」
理想は一撃必殺なのだ、と持ち掛けた会長さんに、ソルジャーは「分かった」と頷きました。そして会長さんの耳にだけ聞こえるようにヒソヒソと…。
「ふうん…。そうか、そういうのを詰めるのか…。でもさ……」
それは無理かも、とズーン…と落ち込んでいる会長さん。
「ぼくもシャングリラ・ジゴロ・ブルーだからねえ、場数は数々踏んでるけれど…。そっち専門の人の店には入る度胸が全く無いんだよ。せっかく教えて貰ったけれども、買うのはちょっと…」
「…君も大概ヘタレだねえ…。だけどハーレイとの距離を見直してもいい、と言い出した点は褒めてあげるよ。方法は全く褒められないけど、そういうことなら一肌脱ぐさ」
文字通りストリップをしてもいいくらいだ、とソルジャーは片目を瞑ってみせました。
「任せといてよ、ちょうど買い出しに行きたかったし、それもついでに買ってくる。…あ、袋には君が詰めるんだよ? もちろん手紙もきちんと付けて」
「分かってる。…それで、手紙の文章の方も先達の知恵を借りたいな。これで一発でヘタレるという凄い文章を教えて欲しい。…それと、君に買って来てもらうグッズだけども…。ぼくはこれでも小心者だし、分からないように包んで貰って」
「オッケー! ちゃんと専用の包装があるよ、健康食品とか選び放題!」
買ってくるからその間に手紙を書くといい、とソルジャーはまたもコソコソ耳打ち。会長さんが大きく頷き、ソルジャーは買い出しに出掛けて行って…。
「お待たせー! 注文のヤツを買って来たよ!」
はい、とソルジャーが会長さんに渡した包みは乙女チックに可愛くラッピングされていました。
「こっちのハーレイ、君に関しては乙女フィルターがかかってるしね? 君から貰う理想的なプレゼントってヤツを演出してみた。ぼくのハーレイもこういうのは特に嫌いじゃないし」
「ありがとう! 恩に着るよ」
「どういたしまして。…ぼくも今日は新作を仕入れて来たんだよねえ、もう最高に燃える筈!」
ソルジャーは毎度お馴染みのお達者袋に何やら詰め込み、ネタ本を引っ張り出して手紙も書いて袋の中へ。後はおやつのお代わりをして帰るだけというコースですけど。
「かみお~ん♪ クレープシュゼット、もう一回~!」
ワゴンを押して「そるじゃぁ・ぶるぅ」がやって来ました。クレープシュゼットはオレンジの果汁にグラン・マニエルを入れてのフランベが見どころのお菓子です。大歓声と共に明かりが消されて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手際よく…。
「これはいつ見ても綺麗だねえ…」
おまけにとっても美味しいし、と青い炎に見惚れるソルジャー。食いしん坊のソルジャーは全く気付いていませんでした。フランベを見守る面子の中からキース君がコッソリ姿を消したことに…。
「はい、出来上がり~!」
パッと明かりが灯った時にはキース君は元の位置にちゃっかり戻って、その前に熱々のクレープシュゼットを載せたお皿が。みんなでワイワイ楽しく食べて、ソルジャーは「御馳走様~!」と手を振って帰ってゆきました。お達者袋をしっかりと持って…。
「………。俺はやったぞ。お達者袋を最初に持ち込んだ責任を取って」
しかし、とキース君はガバッと土下座。
「阿弥陀様、申し訳ございませんでした! なりゆきとはいえ、いかがわしい物を手に取ったことはお詫びいたします! このキース、罰礼を此処に百回させて頂きます!」
南無阿弥陀仏、と唱えながらの五体投地が始まりました。それを横目に、会長さんが自作のヘタレ袋とやらの中身を覗いてニンマリと…。
「やったね、すり替え大成功! ぼくが動いたらブルーは直ぐに気が付くけれども、ヒヨコな君たちはノーマークってね! 渾身の作のヘタレ袋を自分で作って持って帰ったよ、これで安心!」
あちらのハーレイは立ち直れないほどにヘタレるであろう、という会長さんの予言は成就し、キャプテンは一週間ほど御無沙汰だったと聞いています。ソルジャーがお達者袋を作ることも二度と無かったわけですけども…。
「何だったんでしょう、キース先輩が取り替えたグッズ」
「さあなぁ? 俺らに分かるレベルだったらヘタレねえだろ」
多分一生分かんねえよ、とサム君が言い、すり替えたキース君もモノが何かは全く見当がつかないそうです。お達者袋がヘタレ袋な作戦成功、逮捕や懲役の危険もなくなり、なべてこの世は事も無し。一週間ほど怒鳴り込み続けたソルジャーの大人の時間も無事に戻って、めでたしめでたし~。
元気で達者に・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
恐ろしすぎる、ソルジャー作の「お達者袋」。いったい何が入っていたんだか。
ヘタレ袋の中身ともども、ご自由に想像なさって頂ければ…。
今月は月2更新ですから、今回がオマケ更新です。
次回は 「第3月曜」 6月20日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、6月は、お坊さんの世界と兄貴な世界が近いお話…?
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv