シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
賑やかだった学園祭が終わると晩秋、冬の気配が忍び寄って来ます。日も目に見えて短くなって夕暮れが早く、人恋しい季節と言うのでしょうか。とはいえ、高校一年生ばかりを繰り返しているシャングリラ学園特別生の私たち七人グループはそんな気持ちとは無関係で…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
授業お疲れ様ぁ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれる放課後タイム。居心地のいいお部屋でワイワイやるのが日課です。
「今日のおやつはフルーツケーキ! 栗とナッツがたっぷりだよ!」
もちろんドライフルーツも、と切り分けられたケーキが配られ、飲み物も。学校がある日はこんな感じで、お休みの日は遊びに行ったり、会長さんの家にお邪魔してみたり。人恋しいなんて思う暇もなく、来る日も来る日も人だらけですが。
「…そうじゃない人がいる筈なんだけど」
「「「は?」」」
会長さんが口にした脈絡のない台詞。何が「そうじゃない」で、誰のこと?
「ああ、ごめん、ごめん。…人恋しい季節だよね、って考えが零れてきてさ。昔からそういう話はあるなぁ、と追い続けてたら、人だらけだからそう思う暇も無いってさ」
「間違いないな」
キース君が応じました。
「俺の家の方だと夜には鹿が鳴くんだが…。百人一首にもあるだろう。声聞く時ぞ秋は悲しき、とな。ピィーッ! という笛に似た声を聞いたら物悲しいような気持ちになるが、此処だとそういう気分も吹っ飛ぶ」
「うんうん、それは間違いねえよな、いつもワイワイ賑やかだしな!」
人恋しいとか言ってられるかよ、とサム君も。しかし…。
「…そうじゃない人が絶対にいると思うんだけどな…」
まだ言っている会長さん。この中に誰か落ち込み気味の人でも混じっているのでしょうか? ジョミー君もシロエ君も元気そうですし、マツカ君とスウェナちゃんも平常運転。サム君とキース君は言わずもがなですし、そうなると……誰? みんなもキョロキョロしています。
「…誰のことだよ?」
「ぼくにもサッパリ分かりません」
サム君とシロエ君の言葉に全員が首をコクリと縦に。ということは、誰も該当しませんが…?
「違う、違う! 君たちじゃなくて」
もっと他に、と会長さんが挙げた名前に私たちは目が点になりました。その名前だけは掠めもしませんでしたってば…。
「なんで教頭先生の名前が出るわけ?」
ぼくたちとは全く無関係だよ、とジョミー君がケーキを頬張りながら。
「それにさ、いつも普通にしてるじゃない。…どっちかと言えば機嫌がいいかな、古典の宿題、特に出ないし」
「柔道部でも普通でらっしゃいますよ」
特にお変わりありませんね、とシロエ君も。
「熱心に稽古をつけていらっしゃいますし、ぼくやキース先輩たちにも色々と指導して下さいますけど」
「…その程度なら誤差の範囲内かな」
あれでも一応、教師なんだし…、と会長さん。
「でもねえ、ぼくに会ったら笑顔なんだよ! それって変だと思わないかい?」
「思わないが?」
キース君は即答でした。
「あんたが会うのは校内だろう? わざわざ家まで出掛けて行くとも思えんし…。それともアレか、買い物に出掛けた朝市とかか?」
「出先では最近、会ってない。だから学校の中庭くらいってトコロかな」
「だったら笑顔で当然だろうが!」
学校でしか会えないんだぞ、とキース君は半ば呆れた口調。
「教頭先生があんたに惚れていらっしゃるのは間違いのない事実だし…。学校の中でも笑顔くらいは出るだろう。あんたに揚げ足を取られて大惨事な過去が多数でもな。あんた、前科は何犯だ?」
「別に数えてはいないけど…。一度や二度では無いだろうねえ」
「分かってるんなら何をブツブツ言っているんだ、ごくごく普通の反応だ!」
「……普段ならね」
だけどもうすぐ冬なんだ、と会長さんはフルーツケーキを口の中へと。
「朝晩は寒いと言ってもいいほど冷えるし、日も目に見えて短くなるし…。すぐそこに冬って感じがするのに、あのハーレイがニコニコしてるって有り得るかい?」
「「「ニコニコ?」」」
それは確かに変と言えるかもしれません。教頭先生は眉間の皺がトレードマーク。生徒には穏やかに接してらっしゃいますから笑顔も出ますが、ニコニコとなれば相当なレベル。ましてや会長さんを相手にニコニコとなると、下心アリか、勘違いか。
「…ね? 君たちも変だと思うだろ? だけどホントにニコニコなんだ」
ホントのホント、と重ねて念を押す会長さん。…教頭先生が会長さんに会うとニコニコって、会長さんの錯覚でなければ何やら裏がありそうな…?
ただでも人恋しい季節。会長さん一筋に片想い歴を更新中の教頭先生が溜息に埋もれていらっしゃるなら分かりますけど、ニコニコ笑顔は不思議すぎです。それも惚れた相手の会長さんにバッタリ出くわしてニコニコだなんて、なんだか余裕がありすぎなのでは…。
「そこなんだよねえ、もう余裕なんていうレベルじゃなくて!」
そうだよねえ? と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に同意を求めました。
「うんっ! ハーレイ、とっても機嫌がいいの! いい子だな、って褒めてくれたよ♪」
頭も撫でて貰ったの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は嬉しそうです。私たちが授業に出ていた間に会長さんと二人で散歩していて、教頭先生に会ったのだとか。
「今日がそんなで、この前も…。ぶるぅにまで笑顔全開だなんて不気味すぎだよ、何か妄想してなきゃいいけど」
「「「あー…」」」
それは大いに有り得るかも、と私たちは天井を仰ぎました。教頭先生の夢は会長さんとの結婚生活です。会長さんをお嫁さんにして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」を養子に迎えて、家族三人、水入らずの日々。そっち系の妄想スイッチが入ってしまった可能性大。
「ほらね、そういうわけで普通じゃないって言ってるんだよ。人恋しいを通り過ぎちゃって人肌恋しいとか考える内に、自分一人に都合のいい方へ勘違いして爆走中とか!」
でなきゃイヤラシイ下心だ、と会長さんは断言しました。
「笑顔でぼくを油断させておいて、ぶるぅの方も懐柔してさ。…でもって家へ上がり込もうとか、引っ張り込もうとか、良からぬことを企むとかね」
「…それは考えすぎだと思うが…」
キース君が反論を。
「教頭先生は礼儀作法に重きを置いていらっしゃる。勘違いならあるかもしれんが、陰謀の線は無いだろう」
「さあ、どうだか…。なにしろ相手はハーレイだけに、何があっても驚かないけど」
あんな変態、と会長さんは一刀両断。
「ある日突然、玄関チャイムがピンポーン♪ と鳴って、花束抱えて夜這いに来たって納得だよ、うん。そのくらいにイッちゃってる顔だと思うね、アレは」
脳内妄想がMAXの世界、と見も蓋も無い言いようですけど、否定出来ないのも確かです。…ところで夜這いって何でしたっけ?
「ああ、それはね…。って、教えても良かったんだっけ?」
「「「!!?」」」
いきなり背後から他人様の声。バッと振り返った私たちの視線の先には会長さんのそっくりさんが私服姿で立っていました。エロドクターとデート帰りか、はたまたこれからお出掛けか。どちらにしても困ったものです、それで、夜這いって何なんですか?
「ふふ、夜這いって言うのはねえ…。あ、その前に、ケーキ!」
美味しそうだ、とソルジャーは空いていたソファにストンと腰掛けてケーキと紅茶を注文。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がサッと用意し、ドライフルーツとナッツたっぷりのケーキにソルジャーは御機嫌で舌鼓。
「いいねえ、この味! 地球の秋って感じがするよ。秋の夜長は夜這いにもいいね」
「「「???」」」
「夜が短い夏でも夜這いはアリだろうけど、それだと何かと慌ただしい。粘ってせいぜい夜明けまで? 夜がすっかり明けてからだと夜這いにならない」
なんのことだか、と首を傾げる私たちに向かって、ソルジャーは。
「ハーレイの担当は古典だってね、そっちの授業で出て来ないかい? 夜の間に好きな女性の家を訪ねて大人の時間を」
「その先、禁止!!」
会長さんの鋭い制止が。
「説明はそこで終わりにしてよね、ぼくが教えてもそこで終わりだし!」
「…そうなのかい? 君が自分で夜這いと言ったし、もっと具体的に言ってもいいかと…」
「基礎知識だけで充分なんだよ!」
それでも明日には忘れてそうだ、と私たちを見渡す会長さん。
「ブルーが喋ったとおりの意味なんだけどね、女性の立場がぼくなわけ。ハーレイがそんな目的で来たら丁重にお断りするだけだけどさ」
「「「………」」」
そりゃそうだろう、と思ったのですが、割り込んだのがソルジャーで。
「…ハーレイ、そこは重々、承知の上だと思うけど?」
「「「は?」」」
なんでソルジャーがそんなことを断言出来るのでしょう? 別の世界の住人な上に、あちらの世界に住む教頭先生のそっくりさんのキャプテンと熱々バカップルな夫婦のくせに…。会長さんだってキョトンとした顔でソルジャーの方を見詰めています。
「どうして君が知っているわけ?」
「え? …だって、そういう契約だしね?」
「「「契約?」」」
ソルジャーの答えは斜め上というヤツでした。何故に契約、何処から契約?
意味不明どころか謎の契約。何を指すのかまるで分からず、会長さんも目を白黒と。
「……契約って…。誰が、どういう契約?」
会長さんの問いに、ソルジャーは紅茶を一口飲んで。
「誰が、と訊かれたら、こっちの世界のハーレイだねえ」
「「「え?」」」
教頭先生、いったい誰と契約を? まさか悪魔と契約したとか? まさか、まさか…ね…。
「なるほど、悪魔というのもアリか…。魂を売ってブルーをゲットとか、ロマンだねえ? でもさ、ハーレイは基本がヘタレだし、悪魔召喚は無理じゃないかな。あれってなかなか難しそうだよ」
生贄とかも必要だから、と言われてみれば…。ヘタレはともかく、教頭先生が魔法陣だの生贄だのって、キャラではないって気がします。似合わないと言うか、絵にならないと言うべきか…。
「うん、絵にならないってトコは賛成! あんなガタイじゃ雰囲気がねえ…」
ブチ壊しだよ、とソルジャーも。
「それに比べて、こっちのハーレイが交わした契約は平和! ハーレイはお金を払うだけだし」
「誰に? それから何の契約?」
ハッキリ言え、と会長さんが促すと…。
「支払う相手はぼくなんだよ。でもって君が心配するようなサービスは一切しない約束!」
ここが大切、とソルジャーは親指を立てました。
「人恋しい季節にピッタリのサービス、名付けてお友達代行業! あくまで友達の範囲限定のサービスのみだし、キスも契約違反になるね」
「「「………!!!」」」
どんな仕事を始めたのだ、とビックリ仰天。けれどソルジャーは得々として。
「ノルディが勧めてくれたんだよねえ、お暇だったらピッタリの仕事がありますよ、って。…ぼくのハーレイはキャプテンだから毎日忙しいんだけど、ソルジャー業は基本、暇なんだ」
戦闘以外は出番がなくて、と改めて説明されるまでもなく、暇だというのはよく分かります。何かと言えば「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に来てはティータイム。会長さんの家への出現頻度もかなりのものですし、恐らく相当に暇なのでしょう。
「それでね、ノルディとデートするのもいいけど、こっちのハーレイと遊んでみたらどうですか、と言われたわけ。あ、遊ぶと言っても変な意味じゃないよ? 一緒に仲良く食事をしたり、お喋りしたりと友達限定! ハーレイはブルーそっくりのぼくで癒されるし、心も満ち足りて幸せ一杯!」
そんな稼業をしているのだ、とソルジャーは胸を張りました。
「今日も食事の約束なんだよ、だから私服で来てるわけ。まずは二人で買い出しから!」
本当に健全な友達付き合いなのだ、と言われましても。えっ、スーパーの前で待ち合わせ? うーん、ホントに健全かもです、いったいどういう仕事なんだか…。
フルーツケーキのお代わりまで食べたソルジャーは『お友達代行業』とやらについて、あれこれ喋っていきました。キャプテンが残業の日は教頭先生の夕食にお付き合い。教頭先生がお休みの日にキャプテンの仕事が入っていれば、教頭先生の車でドライブなどなど。
「支払いの方は時給制でね、会ってからサヨナラするまでの時間に応じて払って貰うという契約! 待ち合わせの場合は決めた時間からスタートだね」
「…まさか、ハーレイが妙に機嫌がいい理由って…」
会長さんの疑問に、ソルジャーはパチンとウインクをして。
「それは幸せ一杯だからだよ、電話するだけでいいんだし! ぼくが暇なら友達ゲット!」
「…何か勘違いをしてないだろうね?」
「してない、してない! 友達限定っていう約束だし、デート感覚で依頼しててもキスさえ出来ないわけだしねえ? 多少の妄想は入るかもだけど、実行不可能な仕組みだってば!」
だから夜這いなんぞは論外、と指を一本立てるソルジャー。
「そういうドキドキ気分になっても、あくまで友達限定だよ? どうにもこうにも進みようがないし、いい雰囲気だけを味わって貰ってサヨナラなんだよ」
そこはしっかり分かっている筈、とソルジャーは笑ってみせました。
「契約しているぼくが相手でもそうなんだからね、無関係な君に夜這いをかけても無駄だってことは知ってる筈さ。だけど心はポカポカのホカホカ、人恋しい季節も何のその…ってね」
余裕を持って振舞えるのだ、と自信に溢れているソルジャー。
「現にハーレイ、下心アリと疑われるほどに笑顔全開なんだろう? これからますます寒くなるしさ、お友達稼業も忙しくなってくると思うな」
「…妙なサービスは一切抜きだね?」
本当にやっていないだろうね、と心配そうな会長さんですが。
「それはやらない! 第一、これは人助けだよ? ノルディも言ったさ、一種のボランティアだと言えますね、って! 気分が沈みがちなシーズン、友達がいれば人生バラ色!」
「ボランティアって…。それは何かが違うと思う。ボランティアならタダでやりたまえ!」
「ダメダメ、そこを無料でやってしまうと話が違ってくるからね。ハーレイに気があるのかとか思われそうだし、お金はキッチリ頂くよ、うん」
あくまでビジネスということで、とソルジャーのスタンスは「友達」ではなく「友達代行」。友達ですらないというのが強烈ですけど、教頭先生が満足ならそれでいいのかな?
「ハーレイかい? 充分満足してると思うよ、気になるんなら覗き見すれば?」
これから行くのは確かだからね、と覗き見推奨な辺りからして、健全なサービスのみだという説明は間違いなさそうです。覗き見すべきか、せざるべきか。…どうなんですか、会長さん?
ボランティアでも料金を取るという強気の友達代行業。結局、覗き見することになって、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋から瞬間移動で会長さんのマンションへ。急な夕食パーティーですけど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜びです。
「かみお~ん♪ ゆっくりしていってね! 覗き見するならガツンと食べなきゃ!」
この季節にはお鍋だよね、と卓上コンロが出て来て味噌仕立てのお出汁がグツグツと。魚介類もお肉も野菜も沢山、好きなだけ入れて食べ放題ですが。
「…いいなぁ、こっちは鍋なんだ?」
ぼくとハーレイも鍋にしようかな、と見ているソルジャー。教頭先生との待ち合わせ時間までの暇を潰すべく、此処までくっついて来たわけで…。
「好きにすれば?」
会長さんが素っ気なく。
「友達代行業なんだろう? 夕食の買い出しから付き合うんだから、鍋をやろうと言うんだね。ハーレイは普段は一人鍋だし、鍋は喜ぶと思うけど?」
「…うーん…。鍋はねえ、微妙なんだよねえ…。まあ、君がいいなら遠慮なく鍋で! …おっと、そろそろ約束の時間!」
それじゃ、とパッと姿が消えましたけど。
「…鍋が微妙って、どういう意味だろ?」
首を傾げる会長さん。
「おまけに、ぼくがいいなら…って、何だと思う?」
「「「さあ…?」」」
そうとしか答えられません。どうして教頭先生と鍋をやるのに会長さんの許可が要るんだか。それに微妙と言っていた割に「鍋にしようか」という発言も。鍋はとっくに経験済みかと…。
「だよねえ、経験済みだよねえ? それなのに何が微妙なんだか…」
「覗き見してれば分かるんじゃないか?」
キース君が鍋にお肉を投入しながら。
「そのために始めた鍋パーティーだろう? 早くしないと見逃すぞ」
「あっ、いけない!」
忘れかけてた、と会長さんの指がパチンと鳴って、出ました、サイオン中継の画面。ダイニングの壁をスクリーン代わりに、ソルジャーの姿が映っています。教頭先生の家から車ですぐのスーパーの入口の前に居るようですが…。
「おーい、ブルー!」
大きく手を振り、教頭先生の御登場。なんとも幸せそうな笑顔でソルジャーに歩み寄り、二人仲良くスーパーの中へ。さて、この先はどうなるのでしょう?
「…ちょ、それは友達じゃないと思うけど!」
友達同士じゃやらないよね、と私たちを見回す会長さん。
「俺はやらんな」
「ぼくもです」
キース君とシロエ君以下、男の子たちは全員が否定しましたけれど。
「…どうかしら?」
「重たかったらアリだと思う…」
スウェナちゃんと私は考えた末に肯定派。教頭先生とソルジャーは一つの買い物カゴを二人で提げていたのです。
「普通、カートを借りるだろ!」
会長さんが突っ込みましたが、スウェナちゃんと私で買い物に行ってカゴしか持っていなかった場合、重くなってきたら二人で提げて歩くかも…。カートを取りに入口まで戻るというのも面倒な話ですもんねえ?
「…でもさ、ブルーとハーレイだし! って言うか、ハーレイが一人で持てば済む話だし!」
力は人並み以上なんだし、という会長さんの説にも一理あります。でもソルジャーと教頭先生は二人で一つの買い物カゴに白菜とかの鍋材料を次々と。…んん?
「重いだろう、ブルー。ここから先は私が持とう」
教頭先生が買い物カゴをヒョイと持ち上げ、それから後のソルジャーは全くの手ぶら。ということは、友達同士で重さを分かち合っていたわけではなくて、二人一緒に持っていたことが重要だったというわけで…。
「やっぱり友達とは違うじゃないか!」
何かが違う、と柳眉を吊り上げる会長さんに、キース君が。
「しかしだな…。あれを健全ではないと糾弾するのは無理があるぞ? 最初は二人で持っていたのを「重すぎるから」と力自慢の教頭先生が引き受けたというだけだしな」
不健全とは言い難い、との意見に、シロエ君も。
「そうですね…。小さな子供同士で来たなら絶対に無いとは言い切れません。キース先輩にもそういう覚えは無いですか?」
「あったな、ガキの頃に友達と買い出しに行って「俺が持つ!」とレジに運んだな…。最初は一緒に買い物カゴを提げていたような気がするぞ」
確かにやった、とキース君。男の子たちに覚えがあるなら、ソルジャーと教頭先生の買い物スタイルを一概に不健全だとは断定できず、限りなく黒に近い灰色と言わざるを得ないでしょう。恐るべし、お友達代行業。仲良しカップルさながらのスタイルでお買い物ですか、そうですか…。
グレーゾーンな買い物を終えた教頭先生とソルジャーの荷物は教頭先生が全部持ちました。前段階として袋詰めがあり、何でも適当に突っ込もうとするソルジャーに教頭先生が手取り足取り、懇切丁寧に指導しながら手伝ったという…。
「もう傍目にはイチャイチャしてるとしか見えないし!」
ブチ切れそうな会長さんですが、これまたグレーゾーンとしか…。教頭先生が会長さんに惚れているとか、ソルジャーがキャプテンと夫婦であるとか、そういう背景を知っているからヤバイのであって、知らなかったら「いい加減な弟子を指導する師匠」な光景ですし…。
「断定は難しいと思うぞ、残念ながら」
キース君の意見は私たちの総意でもありました。イチャつきながら詰めたのだったら明らかにアウトですけれど…。
「…そうなるわけ? じゃあ、あれは?」
会長さんが指差す中継画面では教頭先生が車を車庫入れ中。助手席にはソルジャーが座ってますけど、会長さん曰く、友達だったら先に降りて荷物を運んでおくべきだそうで。
「うーん、俺ならウッカリ乗ったままかもしれねえなあ…」
サム君が呟き、マツカ君が。
「そこで気を利かせて先に降りた方が却ってアウトじゃないでしょうか」
「だよなあ、友達なら揃って降りるよなあ?」
「判定に悩む所だな…」
何とも言えん、とキース君も。そうこうする内に教頭先生とソルジャーは家に入って明かりを点けて、まずは二人でコーヒータイム。会話が弾んでいるようです。会長さんはアウトだと叫びまくってますけど、日頃のソルジャーの行いからすれば…。
「教頭先生が鼻血も出さずに会話が続いている段階で…」
「友達だよねえ?」
ねえ? と頷き合う私たち。ソルジャーの友達代行業は現段階ではセーフです。会話の内容も教頭先生の仕事の愚痴やら、今日の些細な出来事やら。ソルジャーを口説くわけでもなければ、ソルジャーが誘いをかけるでもなく、ごくごく普通に友達同士で通る会話で。
「グレーゾーンですらなさそうだな、これは」
「どう考えてもセーフですよ」
立派に友達関係です、とキース君とシロエ君が判定を下した所で教頭先生が席を立ちました。食器棚から土鍋を引っ張り出しています。おおっ、いよいよ鍋タイムですか! ソルジャーが微妙と言っていた理由、これで明らかになるのでしょうか?
教頭先生とソルジャーはキッチンに移り、鍋の準備は教頭先生が。ソルジャーは料理など出来ませんから、賢明な選択と言えるでしょう。…あれ? ということは…。
「この辺りからして微妙だよ、既に!」
会長さんが不愉快そうに。
「ハーレイが上機嫌だったわけだよ、ぼくにそっくりのブルーが手料理を食べてくれるんだしね? ハーレイの本音はぼくの手料理を食べたい方だし、その辺は少し違うけど…。でも手料理には間違いない! しかもブルーと二人きりで!」
不健全だ、と会長さんは決め付けましたが、これまたグレーゾーンです。友達の家に遊びに行って得意料理を御馳走になったらアウトでしょうか? それで行くと今、会長さんの家にお邪魔して鍋をやっている私たちもアウトということに…。
「それはいいんだよ、大勢だし! 第一、ぶるぅは子供だし!」
アウトじゃない、と叫んだ会長さんにジョミー君が。
「えーっと…。ぼく、中学生の時にサムの家に泊まりに行ってさ、チャーハン作って貰ったんだけど、アウトになるわけ? あの時はサムと一対一だよ」
「そういや俺が作ったよなあ、チャーハン得意だったしな! …で、アウトなのかよ? だったら正直、複雑だけど…。俺、ブルーは好きだけどジョミーはどうでも…」
「わ、分かったよ、サム! 君はアウトじゃないってば!」
ジョミーもセーフ、と慌てふためく会長さんはサム君と公認カップルです。ソルジャーがやっているグレーゾーンな友達代行業より遙かに健全な仲ですけれども、サム君が会長さんに惚れていることは確たる事実。会長さんとしてはサム君のハートに傷を付けたくはないわけで…。
「…ブルーの友達代行業ってヤツは、どうも色眼鏡で見ちゃうらしくて…。そうか、友達に手作り料理は不健全と決まったわけでもないか…」
「まあ、あいつだしな? そうなる気持ちは分からんでもない」
普段の言動が悪すぎる、とキース君が相槌を。
「しかし、現時点ではグレーゾーンとしか言えないぞ。万人が認める不健全さには程遠いからな」
「…やっぱりかい? 微妙だと言ってた鍋も微妙になるのかな?」
「グレーゾーンだと思っておいた方がいいんじゃないか?」
アウトを取るのは難しいだろう、とのキース君の言葉に会長さんがフウと溜息。グレーゾーンな友達代行業が精神的に堪えるのでしょう。中継画面の向こうでは鍋タイムが始まろうとしています。テーブルに卓上コンロが据えられ、教頭先生が土鍋を乗っけて。
「…では、始めましょうか」
「ハーレイ、言葉!」
「「「!!!」」」
その時、ようやく気が付きました。教頭先生、ソルジャー相手に敬語は今のが始めてですよ!
「…すまん、すまん。…どうも鍋だと……」
「地が出ちゃうって?」
君もつくづく小心者だねえ、とソルジャーが鍋をつついています。
「アレだろ、この鍋がマズイんだろう?」
「…そうです、ブルーと結婚した時のためにと思って買った土鍋ですし…」
「ほら、また! 戻っちゃってる!」
せっかく料金を払ってるのに、と教頭先生に注意を促すソルジャー。
「ブルーを相手にしている気分で幸せになって貰おうというのがコンセプトだよ? それに鍋なら大丈夫! ブルーがいいって言っていたしさ」
「は?」
「君は普段は一人鍋だし、喜ぶと思うと言ったんだよね」
「そ、そうか…。ブルーが私に…。そこまで気遣って貰えたのなら本望かも…」
ならば遠慮なく、と教頭先生は開き直ったらしく。
「…このサービス、酒はかまわなかったか?」
「不埒な振舞いに及ばないなら無問題だよ、一杯やるかい?」
「そうだな、その方が鍋が美味いしな。…話も無理なく続けられるかと」
「敬語に戻っちゃ意味が無いしね、楽しくやろうよ」
ソルジャーの同意を取り付けた教頭先生、早速いそいそとキッチンへ。取っておきらしい大吟醸を取り出し、熱燗にしてソルジャーと二人で差しつ差されつ。
「…美味いな、お前と鍋を食って酒が飲めるとは…」
「もう最高のサービスだろう? ぼくも気分は最高かもねえ、地球で飲み食べ放題だしね」
ぼくのハーレイは今日も残業、とソルジャー、ブツブツ。
「明日も忙しいらしいんだ。暇だったら是非、呼んでほしいな」
「かまわないのか? それなら明日も一緒に晩飯を食おう」
「期待してるよ、また呼んでよね」
二人仲良く鍋を囲んで語り合ったソルジャーと教頭先生、締めの雑炊が終わると緑茶でほっこり。取りとめもない会話をしながら半時間ほどのんびりしていましたが…。
「あ。今日はそろそろ終わりかな? ハーレイの仕事が終わりそうだ。でね、今日は…」
料金これだけ、とソルジャーが告げた代金は安いものではありませんでした。なのに教頭先生は笑顔で支払い、ソルジャーの姿が消えた後も名残惜しげに手を振っています。結局、鍋の何処が微妙だったのかがイマイチどころか、全然分かりませんってば~!
今の鍋はアウトかセーフか、グレーゾーンか。どうなんだろう、と中継画面が消えた後の壁を眺めて悩んでいると…。
「何さ、アレ! ぼくでもないのにデレデレと!」
会長さんがブチ切れ、握った拳でテーブルをダンッ! と。雑炊が終わった後でなければ零れていたかもしれない勢い。
「しかもあんなに払っちゃってさ、ぼくに貢げばいいだろう!!」
「お、おい…! 落ち着け、あいつはサービスの対価としてだな、あの金をだな…」
キース君が止めに入ると、会長さんは。
「それは分かっているってば! でもさ、納得いかないんだよ! 鍋は微妙と言ってたくせにさ、単なるハーレイの口調の問題! それもサクッと解決しちゃって、腹が立つったら!」
あのまま敬語で喋っていれば、と怒り狂っている会長さん。そっか、微妙な鍋って教頭先生がソルジャー相手の地に戻っちゃってサービスを充分に提供出来ないって意味だったんだ?
「そういうことだよ、鍋なんか勧めてやらなきゃ良かった!」
なんでブルーが稼いでいるのだ、と会長さんの論点はズレ始めました。
「もっと際どいサービスとかなら納得するけど、普通じゃないか! ハーレイと二人で買い物をして食べるだけだって? それで稼ぎがあれだけだって!?」
許せない、と不穏な光を瞳に宿す会長さん。
「ブルー相手にデレデレしているハーレイってヤツもどうかと思うよ、おまけにブルーに貢いでるんだよ?! あのお金、ホントならぼくが貰える筈なのに!」
「………。あんた、サービスを提供したのか?」
無茶を言うな、とキース君が宥めにかかったのですが。
「サービスの対価が何だって!? あれであんなに稼げるんなら自分で稼ぐさ、要は友達代行業をすればいいんだろう!」
「「「えっ?」」」
「ハーレイがぼくで妄想するから腹が立つんだ、友達だったら無問題! ブルーがやってるサービスってヤツをぼくがやる! ブルーが暇潰しに始めた遊びで荒稼ぎだなんてムカつくし!」
ブルーをのさばらせてたまるものか、と会長さんは怒り心頭ですけど、アレってソルジャーだからこそ出来るんじゃあ? 会長さんがノコノコ出掛けて行ったらサービスだけでは済まないのでは?
「そこでブルーが言ってた契約! アレがあるから大丈夫!」
キス以上のことはしないのだ、と会長さんはブチ上げました。
「ブルーの代わりにぼくが行く! でもって、明日から小遣い稼ぎ!」
ハーレイから大いに毟り取る、と闘志を燃やす会長さん。ソルジャーが始めた商売を横から掻っ攫った上に儲けようだなんて、果たして上手く行くんでしょうか?
翌日、私たちは戦々恐々で登校しました。教頭先生とソルジャーがどうやって連絡を取り合っているのか知りませんけど、電話一本とか聞きましたっけ? それを会長さんが横取り、自ら友達代行業に打って出ようと言うのですから、放課後になるのが恐ろしく…。
「どうなるんでしょう、アレ…」
考えたくもないんですけど、とシロエ君。ついに迎えてしまった放課後、私たちは重い足を引き摺るようにして「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと。
「かみお~ん♪ みんな、どうしたの?」
元気ないね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「今日はブルーがお出掛けするから、晩御飯を食べに来て欲しいのに…」
「そうだよ、ぶるぅ特製ビーフシチュー! デザートとかも期待しててよ」
会長さんが極上の笑みを浮かべています。
「今日はドカンと稼ぐからねえ、みんなにも御馳走しなくっちゃ。今日からのぼくは一味違うよ、ハーレイに貢がせるのもいいけど、毟り取るのも最高ってね!」
貢がせるだけが能じゃない、と会長さんはやる気でした。例の友達代行業を。でも…。
「あんた、教頭先生と連絡は取れたのか?」
キース君が訊くと、会長さんは「まあね」と微笑。
「先手必勝って言うだろう? ハーレイがブルーに連絡してからじゃ手遅れだからさ、朝イチで電話をかけたんだ。ぼくで良ければブルーの代わりに付き合うけれど、って」
今夜はスーパーの前で待ち合わせ、とウキウキしている会長さんを止められる人はいませんでした。商売を横取りされたソルジャーが怒鳴り込んでくるかと思いましたけど、おやつのアップルパイを狙って現れたソルジャーは。
「商売敵の登場かぁ…。別にいいけど、ぼくも夕食、こっちで御馳走になってもいいかな?」
ハーレイは残業なんだよね、と愚痴るソルジャーに会長さんは鷹揚に。
「暇なんだったら食べて帰れば? 君の商売はぼくが貰うよ、なんと言っても本家本元、ブルーと言ったらぼくなんだからね」
「あの商売が君に務まるならね。なかなかキツイと思うけど…。友達代行業と銘打つ以上はしっかり友達、嫌な顔は絶対出来ないんだし」
「あくまで友達代行業だろ? 友達だったら上手くやるまで!」
ダテに長生きはしていない、と自信溢れる会長さん。やがて日が暮れ、瞬間移動で会長さんの家へ移動し、私たちとソルジャーは特製ビーフシチューの夕食、会長さんは荒稼ぎするために待ち合わせ場所へ。ソルジャーが出してくれた中継画面で会長さんを追っていましたが…。
「そうか、それでお前がブルーの代わりに電話をかけて来たわけか」
実に嬉しい、と微笑んでいる教頭先生。二人は仲良くスーパーで買い物をして教頭先生の家へ。会長さんが現れたことで舞い上がっている教頭先生は特上ステーキ肉を奮発、会長さんの好みに焼いて、スープやサラダなんかも手作り。
「ガーリック抜きだが、美味い肉だぞ。普段はとても買えんがな」
遠慮なく食べてくれ、と照れる教頭先生に、会長さんが。
「ぼくはガーリックも好きなんだけど…」
「そうだったのか? しかしだな、そのぅ…。後のことを考えると遠慮がな…」
「明日は土曜だし学校は無いよ? 何に遠慮をしてるわけ?」
ドカンと入れれば良かったのに、と会長さんはステーキ肉を切り分けて口へ。
「遠慮なんて君の柄じゃないだろ、おまけに有料サービス中! 遠慮してたら損するよ?」
「そ、それはそうかもしれないが…。で、オプションの方の話なのだが」
「…オプション?」
何さ、それ? と怪訝そうな会長さんに、教頭先生がモゴモゴと。
「いや、オプションと言っていいのかどうか…。私も今日まで知らなかったし」
「何を?」
「友達代行業の詳しいシステムだ。実はブルーから電話があってな、友達代行業の契約としてはキス以上のことは一切ダメだが、個人的にはOKだそうだな」
「「「えっ!?」」」
画面の向こうの会長さんと私たちの声とがハモりました。こ、個人的にって、いったい何が? 会長さんもそう問い返し、教頭先生が頬を赤く染めて。
「…そのぅ、キスとか、その先だとか…。料金の方はグンと高くなるそうだが、どの辺りまで頼んでいいのだろうか? 私としては是非、最後まで頼んでみたいと」
「ちょ、そんなのは聞いていないし!」
絶対やらない! と悲鳴を上げた会長さんの隣にパッとソルジャーが瞬間移動。中継は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と交代しちゃったみたいです。
「やらないだって? 友達代行業を廃業するならぼくが代わりに引き受けるけどさ、廃業しないなら責任を持って最後まで! この商売、信用だけで持ってるんだし!」
でね…、とソルジャーが教頭先生に一枚の紙を差し出しました。
「はい、料金表とサービスメニュー! ブルーに頼むか、ぼくに頼むか…って、ハーレイ?」
もしもし? とソルジャーの声が終わらない内に教頭先生は鼻血の噴水、仰向けにドッターン! と倒れてそれっきりでした。メニューの中身が刺激的すぎたらしくって…。
「ちょっと、ハーレイ! ぼくへの料金の支払いは? 今日の分は!?」
払って貰ってないんだけれど、と絶叫している会長さん。怪しいメニューが登場してきた友達代行業とかいうヤツ、今後も継続可能でしょうか? 思いっ切り無理な気がします。人恋しい季節の教頭先生、明日から孤独な日々再びってヤツでしょうねえ、心からお悔やみ申し上げます~!
友達やります・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが始めた、友達代行業なるもの。教頭先生も御機嫌だったんですけど。
商売を横取りしたくなった生徒会長のせいで、気の毒なことに。あーあ…。
シャングリラ学園、来月は普通に更新です。いわゆる月イチ。
次回は 「第3月曜」 7月18日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、6月は、ソルジャーが兄貴の集うバーに突撃するのだとか。
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