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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

スプーンの使い方

(ふむ…)
 面白いものを見付けたな、とハーレイは開いていた本のページを眺めた。夕食を終えて片付けを済ませ、風呂に入る前の寛ぎの時間。今夜は書斎で読書だったが、その本の中に。
(こういうものがあるとはなあ…)
 木彫りのスプーンの写真が幾つも。それも相当に凝った作りで、柄の部分に様々なものが彫ってある。蹄鉄だとか、鎖だとか。実用品と言うよりも飾り。
(こいつはブルーに教えないとな?)
 スプーンの写真を端から頭に叩き込んだ。自分の本ならブルーの家まで持って行けるが、借りた本ではそうもいかない。もしもブルーが読みたがっても、貸してやることが出来ないから。
 同僚から借りたガイドブック。夏休みの間に旅行に行った、と話していたから、ガイドブックを貸して貰った。いつかブルーと旅をする時の参考にしよう、と。
 ブルーとは何度も約束していた。結婚したら旅に行こうと、地球のあちこちを回ってみようと。
(好き嫌いを探そうなんて話もあったな)
 お互い、好き嫌いというものが全く無いから。
 好き嫌いなど言ってはいられなかった前の生の名残がそれだろうか、と二人で話した。それでは人生つまらないから、嫌いな食べ物を探しに行く旅。嫌いなものが見付からなくても、好きなものならきっと見付かる。その地まで是非食べに行きたい、と思うような何か。
 二人で旅をする未来に備えて、ハーレイは情報収集に励んでいるのだけれど。



(まさに棚から牡丹餅ってな)
 本を閉じると鼻歌混じりにキッチンへ行って、サラダなどを取り分ける時に使うスプーンを手に取ってみた。木で出来た、かなり大きめのスプーン。その柄を握って考える。
(これよりはずっと小さかったが…)
 形の方はそっくりだな、とスプーンの縁を指でなぞって、元の位置へと戻しておいた。それから薄いコーヒーを淹れて、書斎に戻る。かき混ぜるほど砂糖は入れていないのに、銀色のスプーンをマグカップの中に突っ込んで。
(さて、と…)
 机の前に座ると引き出しを開けて日記帳を持ち上げ、その下から一冊の写真集を出した。表紙に前のブルーの写真が刷られた『追憶』という名のソルジャー・ブルーの写真集。
 表紙の真正面を向いたブルーは、青い地球を背景にして憂いを秘めた瞳だけれど。
 いつもは目にすると辛くなる写真だけれども、今日のハーレイは少し違った。遠い昔に失くしてしまった恋人の写真に微笑み掛ける。
「おい、知っていたか?」
 俺はお前に凄いプレゼントをしていたらしいぞ、俺たちはまるで気付かなかったが。
 今の俺も今日まで知らなかったが…。
 これだ、とマグカップに突っ込んで持って来たスプーンを持ち上げて見せた。
 この本にスプーンが載っているのだと、由緒正しいスプーンらしい、と。
「なあ、ブルー?」
 スプーンだぞ、スプーン。
 世の中、実に広いもんだな。青い地球にも来てみるもんだなあ…。



 次の日、嬉しいことに仕事が早めに終わったから。帰りに車でブルーの家に寄り、夕食を一緒に食べることにした。ブルーの母が笑顔で迎えてくれて、夕食が出来るまではティータイム。二階のブルーの部屋で紅茶と軽い焼き菓子。
 テーブルを挟んでブルーと向かい合いながら、ハーレイは早速尋ねてみた。
「ブルー、覚えてるか? 前の俺が最初に作った木彫り」
「どれのこと?」
 ブルーは少し首を傾げて。
「宇宙遺産のウサギじゃないよね、あれはトォニィのために彫ったヤツだし…」
 ウサギじゃなくってナキネズミだっけ、それに最初じゃなくって最後?
「そうだな、俺の最後の作品かもしれん」
 いや、違うか…。ナスカの子たちには彫ってやったか、一人に一個。
「律儀だね…」
「トォニィだけだと不公平だろうが」
「それって不幸の間違いじゃないの?」
 不公平じゃなくって不幸だよ、それ。あんな下手くそな木彫りを貰っちゃっても困るよ。
「こらっ!」
 みんな大事にしてくれたんだぞ、だから今でもウサギがあるんだ。
 宇宙遺産になって残っているんだ、前の俺が作ったナキネズミがな。



 ブルーの頭を軽く小突いて、ハーレイは話を元へと戻した。
「宇宙遺産のウサギはともかく、俺の最初の作品だ」
 一番最初に作った木彫りだ、忘れちまったか?
「何だったっけ?」
「お前にやったろ、前のお前に」
「ぼく?」
 キョトンとしたブルーは遠い記憶を暫く探っていたようだけれど。
「ああ、スプーン…。木彫りのスプーンをくれたっけね」
 あれはマシだったね、宇宙遺産のウサギと違って。
 ちゃんとスプーンの形をしてたし、使ってもちゃんと使えたし。
 一番最初の作品にしてはいい出来だったよ、器用なんだな、と思ったもの。
「俺なりに頑張って彫ったつもりだ、お前に使って欲しくてな」
「そう言ってたよね、木の味わいがどうとかって」
 金属で出来たスプーンと違って温かいとか、優しいだとか。
 使えば使うほど味が出るとか、とてもハーレイらしかったよ。
 前のハーレイ、木の机を大事にしていたもの。せっせと磨いて、手入れをして。



「そうだったな。でもって、あの時の俺のスプーンなんだが…」
 俺はお前にプロポーズをしていたらしいぞ、あの時に。
「えっ?」
 赤い瞳を丸くするブルーに、ハーレイはパチンと片目を瞑った。
「そしてお前はオッケーしたんだ、俺のプロポーズ」
「…どういう意味?」
 分かんないよ、と狐につままれたような顔をしている小さなブルー。それはそうだろう、と苦笑しつつも、ハーレイの愉快な告白は続く。
「お前、受け取っただろう、俺が作った木彫りのスプーン」
「そうだけど?」
「あれを受け取ったら、それでプロポーズを受けたことになる」
「ホント!?」
 嘘じゃないの、とブルーは疑いの目で見ているけれども、ハーレイには自信があったから。
「本当だとも」
 男が木彫りのスプーンを作って、意中の女性に贈るんだ。
 受け取って貰えたらプロポーズ成功、後は結婚するだけだ、ってな。
 そういうプロポーズの方法が存在したんだ、ずうっと昔に。
 前の俺たちが生きていた頃よりも、もっと遥かな昔の地球にな。



「スプーンを贈ってプロポーズって…」
 信じられない、とブルーが何度も瞬きをする。
「ハーレイ、何処でそんなの聞いて来たの?」
「聞いたんじゃなくて、読んだんだ。学校の同僚から借りた本でな」
 今の地球にもあるだろ、イギリスって地域。
 其処が本物のイギリスって島国だった時代の、ウェールズってトコの習慣らしい。
 今じゃ文化も復活していて木彫りのスプーンも土産物に買えるが、昔は自分で彫るものだった。好きな女性が出来た男が、心をこめてせっせと彫るんだ。その名もズバリ、ラブスプーンってな。
 こんなヤツだ、とハーレイはブルーの手に触れて写真の記憶を送った。
 覚えておこうと昨夜頭に叩き込んでおいた、幾つもの木彫りのスプーンの写真を。



「ラブスプーン…」
 ホントだ、とブルーは送り込まれた記憶の写真を頭の中で眺めながら。
「これ、ハーレイのスプーンよりもずっと凝ってるよ?」
「意味があるからな、このモチーフに」
 あの頃の俺が知っていたなら、もっと頑張って彫ったんだが…。
「ハーレイ、あのスプーンって、プロポーズのつもりで渡してた?」
「いや、あれは単なるプレゼントだが」
「それじゃモチーフに凝っても意味は無いんじゃない?」
「まあな。だが、こうして今頃、思い出すなら…」
 ラブスプーンなんて代物に出会えるんなら、凝っておいたら良かったなあ、と。
「どんな風に? 意味があるって言ったよね?」
「モチーフを上手く組み合わせて作れば、メッセージになるらしいんだ」
 頑張って働いて幸せにするから結婚してくれとか、欲しい子供の数とかをな。
「ぼくは子供は産めないんだけど…」
「そいつは俺だって充分に分かっているさ」
 だからさっき見せた写真の、枠の中に珠が入っているヤツ。
 あれは彫らなくてもかまわないんだ、あの珠の数が欲しい子供の数だしな。
 初心者には珠はハードルが高い。彫ろうとしたって無理だったろうが、不要だった、と。



 欲しい子供の数を示すモチーフは要らないけれども、作りたかったラブスプーン。
 そういう習慣があったことさえ知らなかったが、こうしてブルーと巡り会えるなら、モチーフに凝ったスプーンを贈りたかった。当時は全く意味が無くても、生まれ変わって来た今、その意味を二人で読み解けるのなら。
 ハーレイの思いが通じたのだろう、ブルーが「ねえ」と問い掛けて来た。
「スプーンに何を彫りたかったの?」
「柄の所に鎖を付けたかったが…」
 木から鎖を彫り出すだなんて、初心者には難しいからなあ…。
 きっと失敗していただろうな、鎖の輪っかが壊れちまうとか、そもそも鎖にならないとか。
「鎖って…。意味は何なの?」
「モノが鎖だから、文字通り繋ぐためのものだな」
 そいつをプロポーズに使うとなったら、「お互いの人生が繋がれていること」だ。
 お前の人生と俺の人生を繋ぎたかったな、決して離れずに済むように。
「それ、欲しかった…。彫るのがうんと難しくっても」
「俺も彫りたかったさ、知っていたならな」
 それでも前のお前は一人でメギドへ飛んで行っちまったろうが…。
 俺たちの人生はきっと繋がっていたんだろうなあ、また地球の上で出会えたしな?
「うん。その印、彫っておいて欲しかったな…。ハーレイのスプーンに」
「鎖は無理だと言っただろうが。だが、輪の形を代わりに付ければ良かった」
 柄の所に輪くらいだったら彫れたな、努力すればな。
「輪だとどういう意味になるの?」
「輪には端っこが無いだろう?」
 クルンと繋がっていて、何処も切れていない。
 切れていないから離れないしな、「永遠に離れない」って意味になるそうだ。
「そっか、輪っかでも良かったね」
 永遠に離れない、っていうメッセージ。
 前のハーレイから貰いたかったな、スプーンがプロポーズの印だったら。



 欲しかったな、とブルーが繰り返すスプーン。前のハーレイが作った木彫りのスプーン。
 ブルーが贈られたスプーンはシンプルなもので、何の飾りも無かったけれど。遥かな昔の地球にスプーンを贈ってプロポーズをした地域があった、と聞いたら欲が出て来たらしい。
 スプーンにメッセージをこめて欲しかったと、凝ったスプーンが欲しかったと。
 ハーレイはブルーに教えた甲斐があった、と笑みを浮かべる。前の自分がスプーンを贈ったのは偶然だけども、それを喜んで貰えたと。
 長い長い時を飛び越えて辿り着いた青い地球の上で、小さなブルーが喜んでくれたと。
「あのスプーン、お前、ずっと持っててくれていたよな」
 いつも使っていたってわけじゃなかったが、俺の記憶じゃ最後まで持っていた筈だ。
 前のお前が長い眠りに就いてしまう前も、見てた覚えがあるからな。
「恋人の力作は捨てられないしね?」
「捨てられないって…。お前、あのスプーン、要らなかったのか?」
 たまにお義理で使っていたのか、捨てないで今も持っています、と。
「そうでもないけど…。いつも使ってたら壊れてしまうよ」
 木で出来たスプーンなんだもの。
 味わいが出ても、酷使してたらヒビが入るかもしれないし…。
 だから滅多に使わなかったよ、ハーレイに貰ったスプーンだもの。
 大切に持っていたかったもの…。



 プレゼントなんて滅多に貰えなかったし、とブルーは微笑む。プレゼントを貰っても大抵の時は食べ物だったと、手元に残るものは殆ど無かったと。
「仕方ないだろう、シャングリラの中じゃ気の利いたプレゼントは無理だったんだ」
 今みたいに店で買うなんてことは出来んしな?
 第一、前のお前と俺との仲は秘密だ。他人に見られて仲がバレるものは贈れんさ。
「そうだけど…。前のぼくもそれは分かっていたけど、まさかプロポーズをされてたなんて…」
 しかもオッケーしていただなんて、知らなかったよ。
 ハーレイ、知らずに堂々とプロポーズしちゃってたんだね、前のぼくに。
「そうらしい。おまけに成功していたらしいな、プロポーズに」
 もっとも、アレをプロポーズだと解釈すると、だ。
 木彫りのスプーンをプレゼントすればプロポーズになる習慣がシャングリラにも存在してた、ということになると多少困ったことになるがな。
「ハーレイのスプーン、人気だったものね。他の木彫りと全然違って」
 動物とかを彫ったヤツとか、芸術だとか。
 そういうのは何を彫ったのか分からないほど下手くそだったし、誰も欲しがらなかったけど…。
 彫って下さいとも言わなかったけど、スプーンやフォークは頼まれて幾つも彫ってたものね。
「うむ。直接頼む度胸が無いから、ってブリッジクルー経由の注文とかな」
 若いヤツらにも彫ってやったし、腕にも自信がついてきたから後の方のは凝ってたぞ。
 頼まれりゃハートも彫ったりしたなあ、スプーンの柄にな。
 ハートは「愛してます」の意味だし、正真正銘、ラブスプーンだなあ…。



「ハーレイ、ハートがついたスプーンも彫ったんだ…」
 他にもスプーンを彫ってたんだし、木彫りのスプーンを沢山贈っていたわけで…。
 前のぼく以外にもプロポーズってヤツをしちゃったわけだね、不特定多数の人を相手に。
「おい、妬くなよ?」
「妬かないよ」
 あの時点じゃプロポーズだって思わなかったし、お互い、今まで知らなかったし。
 木彫りのスプーンをプレゼントされたらプロポーズだなんて、ビックリだよ。
 だけどちょっぴり嬉しいかな。
 前のぼくもプロポーズをして貰ってたんだ、って考えるとね。
「おっ、そう言ってくれるのか?」
「うん。今度のぼくは、いつかプロポーズをして貰えるけど…」
 前のぼくはして貰えないままで終わっちゃったしね、プロポーズ。
 だけど本当はちゃんとプロポーズをされてたんだ、って考えたら嬉しい気持ちになるよ。
 前のぼくは気付いていなかったけれど。
 ハーレイだって知らなかったんだけれど、プロポーズにスプーンを贈って貰った。
 そうしてぼくはオッケーしたんだ、ハーレイと結婚してもいいよ、って。



 素敵だよね、とブルーが嬉しそうにティーカップに添えられたスプーンに触れる。
 これくらいのスプーンを前の自分が持っていたのだと、それは木彫りのスプーンだったと。
「前のハーレイのプロポーズかあ…。木彫りのスプーンで」
「お前限定だったと思いたいなあ、スプーンを渡してプロポーズはな」
 不特定多数に贈っちまったこともそうだが、他にもなあ…。
 ジョミーだってスプーンを貰ってプロポーズをされちまったんだ。
「ハーレイ、ジョミーにも作ってあげたの?」
「俺も作ったが、別口でな」
「別口って…」
 ハーレイ以外に木彫りが趣味の人っていたの?
 前のぼくは全然知らないんだけど、寝ちゃった後で若い誰かが始めたとか?
「若いヤツには違いないが、だ。木彫りどころの騒ぎじゃないぞ」
 石のスプーンだ、古い工作機械を使って石でスプーンを作ったんだ。
 木彫りなんかよりずっと上だな、俺には作れない石細工ってな。
「へえ…! 凄いね、石でスプーンが作れちゃうんだ?」
「若いヤツがナスカの石を使って彫ってくれたとジョミーは自慢していたが…」
 トルコ石みたいな色のスプーンだったな、使い心地までは聞いてない。
 愛用してたかどうかも知らんな、ブリッジまで披露しに来たのを見ただけだしな。
「ジョミー、プロポーズを受けちゃったんだ?」
 スプーンを貰って自慢してたなら、そういうことになるんだよね?
「そのようだ」
 だからだ、スプーンを渡せばプロポーズになるのは前のお前だけってことにしておきたいが…。
 でないと俺は不特定多数にプロポーズしていた節操無しだし、ジョミーも不名誉なことになる。石で出来たスプーンを貰ったばかりに、誰かとカップルになっちまうからな。



「ふふっ、前のぼくだけの限定イベント?」
 それがいいよね、せっかくのハーレイのプロポーズだもの。
 前のぼくにプロポーズしてくれたんだもの…。
 木彫りのスプーンで、とティーカップの脇のスプーンを指先でつついて、ブルーが尋ねる。
「ハーレイ、今は木彫りの趣味は無いって言っていたよね?」
「ああ。だから木彫りのスプーンでプロポーズは出来んな、木彫りをやってないからな」
 そういった趣味は今度は無いんだ、運動ばかりだ。柔道に水泳、知っているだろ?
「分かってるけど…」
 ちょっと残念。
 今度はハーレイが作った木彫りのスプーンでプロポーズっていうことは無いんだ…。
「なら、作るか?」
 お前が木彫りのスプーンを欲しいと言うなら、頑張ってみるが。
 前の俺の記憶を持ってるんだし、練習を積めば勘が戻ってくるだろう。
 今からコツコツ練習したなら、お前にプロポーズ出来る頃には腕だってグンと上がるしな。
 さっき言った鎖も余裕で彫れるぞ、そういうスプーンを作ってやろうか?
 うんと沢山のモチーフを入れて、とびっきりの愛のメッセージ。
 幸せにしますって意味の蹄鉄、結婚の意味の教会の鐘。
 「永遠に離れない」って意味も輪っかじゃなくって結び目で彫れば値打ちが出るさ。



 凝ったスプーンを彫ってやろうか、とハーレイは提案したのだけれど。
 小さなブルーは「ううん」と首を左右に振った。
「木彫りのスプーンは前のぼくが貰っちゃったから…。それは前のぼくの分のプロポーズ」
 だから木彫りのスプーンは要らない。もっといいことを思い付いたから。
「…いいこと?」
「うん。今度も前と同じでサプライズがいいな」
「サプライズ?」
 意味が掴めないハーレイに向かって、ブルーが「サプライズだよ」と笑顔で繰り返す。
「前のぼくはスプーンをプレゼントされたらプロポーズだってこと、知らなかったでしょ?」
「…それで?」
「今になって聞いてビックリしたから、それがサプライズ」
 そういうのがいいよ、今度のハーレイのプロポーズも。
 後からプロポーズだって分かって、ぼくがビックリするのがいい。
 その時はそうだと分からないのが素敵だから。
 分かった時の幸せな気持ちがグンと大きく膨らみそうだよ、サプライズ。
 ぼくがうんとビックリしそうな凄いプロポーズを探して欲しいな、前のぼくのに負けないのを。
 木彫りのスプーンに負けてないのを探して見付けて、プロポーズしてよ。



「おいおい、サプライズになりそうなプロポーズの仕方を探すのはかまわないんだが…」
 なんたってお前の希望だからなあ、手間暇を惜しむつもりは無いが。
 そいつで俺がプロポーズをして、お前がそうだと気付くまでにどれだけかかるんだ?
 お前、直ぐに調べてくれるのか?
 俺にプロポーズをされたのかどうか、どうやって気付いてくれるんだ?
「あっ、そうか…」
「それにだ、スプーンみたいに受け取って貰えたらオッケーだった場合は、だ」
 俺はプロポーズが成立したと思って準備を始めてしまっていいのか?
 肝心のお前が気付いてないのに、俺が一人で結婚式とかの準備を進めて決めていいのか?
「ハーレイが一人で始めちゃうの?」
 それは困るよ、ぼくだって一緒に準備したいよ。
 結婚式の場所を決めるのも、二人で住む家を用意するのも。
 ハーレイと相談しながら色々と決めて、うんと素敵な結婚式にするんだもの。
「ほら見ろ、プロポーズってヤツは通じていないと意味が無いだろ」
 サプライズもいいが、その後のことまで考えないとな?
 気付かなかったら俺が勝手に決めてしまうぞ、お前はオッケーしてくれたから、と。
「それもそうかも…」
 だけどサプライズもいいんだけどなあ…。
 前のぼくみたいに知らない間にプロポーズされて、オッケーしてて。
 今頃になって「そうだったんだ」って分かるのも、とってもロマンティックなのに…。

 

 生まれ変わってから気付いたほどのプロポーズはまさに運命なのに、と夢見る瞳の小さな恋人。
 前のハーレイがそれと知らずにプロポーズをした、ソルジャー・ブルーの生まれ変わり。
 プロポーズに使った木彫りのスプーンを、今のハーレイは作れないけれど。
 木彫りのスプーンは今度は要らない、と小さなブルーは言ったけれども。
(…サプライズとまでは行かなくっても、ロマンティックなのが憧れらしいな?)
 今度はどんなプロポーズをすることにしようか、とハーレイは微笑んでブルーを見詰める。
 前の生から愛し続けて、今も変わらず愛おしいブルー。
 サプライズがいいと強請ったブルー。
 この愛らしい恋人にプロポーズする時は、今度は何を贈ろうかと…。




        スプーンの使い方・了

※前のハーレイがブルーに贈った木彫りのスプーン。単なるプレゼントだったのに…。
 そういうプロポーズもあったそうです、今のブルーにプロポーズする時が楽しみですよね。
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv






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