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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

金平糖

(ふふっ)
 綺麗だよね、とブルーは星の形の砂糖菓子を一つ、摘んで眺めた。
 父に貰った色とりどりの金平糖。会社の誰かが何かのお祝いで配ったらしい。模様が綺麗だった陶器の器は母が貰って行ったけれども、金平糖はブルーが貰った。
 透明な袋の中に詰まった砂糖菓子。手のひらに収まってしまうほどの小さな袋でも、可愛らしい金平糖の数は沢山ありそうだ。一つ一つが指先よりも小さいのだから。



(星の形かあ…)
 金平糖は幼い頃から食べて来たけれど、前世の記憶を取り戻してからはこれが初めての出会い。以前は何とも思わなかった星の形が、今ではまるで違って見える。
(前のぼくが見てたら大感激だよ)
 星の形をしたお菓子。ツンツン尖った角を生やした、沢山の色がある砂糖菓子。
 金平糖がシャングリラにあったら、喜ばれただろうと思うけれども。
(無かったんだよね…)
 こういう砂糖菓子は無かった。
 口に入れてみれば暫くの間はキャンディーのようで、やがてホロリと崩れてゆく。甘くて儚い、束の間の夢を思わせる菓子。
 一粒だけでは物足りないから、一つ摘んで、またもう一つ。
 今までに食べた金平糖には一袋まるごと同じ味のもあったけれども、様々な味のものが詰まった袋の方が好きだった。
 どれを食べようか、次はどれかと選べる楽しさ。ソーダ味やら、レモン味やら、他にも色々。



(シャングリラにもあれば良かったのに…)
 きっと子供たちに人気があったことだろう。
 子供好きだったゼルのポケットにも常備されたに違いない。
(ポケットの中には金平糖が一つ、ってね)
 ゼルが得意だった、サイオンを使ったちょっとした魔法。
 大勢の子供たちに取り巻かれる中、マントの上からポケットをポンと叩いてお菓子を出した。
「ポケットの中には金平糖が一つ、ポケットを叩くと金平糖は二つ…」
 ブルーはゼルの真似をして懐かしい歌を歌ってみた。
 元の歌詞では金平糖ならぬビスケット。ゼルもチョコレートなどに替えて歌っては、歌いながらポケットをポンと叩いた。其処から次々に出て来る菓子。子供たちが歓声を上げていた菓子。
(金平糖があったら喜ばれたのに…)
 夜空に輝く星の形の砂糖菓子。雲海に潜むシャングリラからは見られない星。
 シャングリラに迎えられて間もない頃の子供たちは星を見たがったものだ。
(どうしてシャングリラには空が無いの、って訊いた子供もいたっけね)
 夜空どころか、青い空さえも何処にも無かったシャングリラ。雲海しか見えないシャングリラ。
 子供たちはいつしか本物の星を忘れてしまって、天体の間で星を仰いでいた。
 映し出される地球の星座を、作り物の夜空を仰いでいた…。



 もしもシャングリラに金平糖があったなら。
 星の形をした金平糖が常にあったら、子供たちは本物の星を覚えていてくれたろうか?
 夜を迎えれば暗くなる雲海。
 暗くなった雲の上には幾つもの星が瞬いていると、夜には星が輝くものだとシャングリラの外の世界を懐かしく思い出してくれただろうか。
 その星々が広がる宇宙の何処かに地球があることも、いつかは其処へ旅立つのだとも。
(金平糖はただのお菓子だけれど…)
 閉ざされた世界だったシャングリラの中なら、たった一粒の金平糖で夢を見られた。
 夜空に輝く本物の星に思いを馳せ、遠い地球までも。
 子供たちだけでなく、大人たちだって金平糖に夢を見ただろう。
 いつか地球へと、星々が輝く宇宙を渡って青い地球へと。



(あれば良かったのにね、金平糖…)
 砂糖菓子だから簡単に作れただろうと考えるけれど、シャングリラには存在しなかった。
 前の自分も金平糖を知らなかった。
 あの時代にはきっと作られておらず、何処にも無かったに違いない。
 けれど…。
(あったら夢のお菓子だったよ、星の形の)
 ハーレイも同じように思ってくれるだろう、と恋人の姿を思い浮かべた。
 シャングリラのキャプテンだった恋人。
 船の仲間を気遣い続けた彼ならばきっと、金平糖に同じ思いを抱いてくれる。
 星の形の菓子は夢があると、シャングリラにもこれが欲しかったと。



 次の日の夕刻、仕事帰りのハーレイが訪ねて来た。
 夕食の支度が出来るまでの間、ブルーの部屋でお茶とお菓子を前に過ごすのが習慣だから。窓の側のテーブルを挟んで向かい合わせに座る間に、ブルーの瞳が金平糖を捉えた。
 勉強机の上に置いてあった金平糖。父に貰った小さな袋。
 そうだ、と思い出し、取って来てハーレイに「ほら」と袋ごと差し出してみれば。
「金平糖か…。これがどうかしたか?」
「シャングリラにあったら良かったと思わない?」
 星の形のお菓子だよ。きっと子供たちに人気があったよ、大人でも喜んでくれたと思う。
 だって星だよ、いつかは地球まで星の海を渡って行くんだよ?
「ああ、まあ…な」
 予想に反して、ハーレイの反応は鈍かった。しかも嬉しそうな顔には見えない。
「どうかした?」
「…いや、その…」
 困ったような顔をするから、ブルーはもう一度念を押してみた。
「星のお菓子だよ、星の形だよ?」
 とても素敵なお菓子じゃないかと思うんだけど。
 ハーレイは金平糖、あれば良かったとは思わないの?



 星の形の金平糖。夢が広がる砂糖菓子。
 何故ハーレイは直ぐに賛成してくれないのか、とブルーは首を傾げたのだけれど。
「そういえばお前は知らないのか…」
 ならば無理もないか、と呟くハーレイ。
「何を?」
「思考機雷だ」
「…思考機雷?」
 金平糖とはおよそかけ離れた代物だけに、ブルーの瞳は真ん丸になった。
 思考機雷とは何だろう?
 確かに自分は知らないけれども、どうしてそれが出て来るのだろう?
 ポカンとするブルーに、ハーレイが「あれはな…」と苦々しい顔で語り始めた。



「思考機雷というヤツはだ。前の俺たちのために作られたような物騒な…」
 いや、俺たちのためだろうな。
 その名の通りだ、思考能力を持った機雷だ。目標を自分で探すんだ。
 宇宙に適当に放ってあってな、サイオンを感知すると寄って来るという厄介なヤツだった。
 恐らく普通の宇宙機雷にサイオン・トレーサーを載せたんだろう。
「それが?」
「少しばかりこいつに似ていたな、と」
 金平糖だけでは思い出さんが、シャングリラと言われたら思い出した。
「どんな形?」
 ブルーの問いに「こうだ」とハーレイが手に触れて思念で送り込んで来た形。
 金平糖とはまるで似ていない、球体に棘のようなアンテナが何本か生えているだけの思考機雷。
「これが金平糖って…。そんなに似てる?」
「似ていないか?」
「うん」
 どっちかと言えばウニに似てるよ、真っ黒だし。
 だけど金平糖もウニも、思考機雷よりもずっと沢山、角とか棘がありそうだけど…。



 全然違う、とブルーは金平糖と思考機雷が似ていないことを指摘した。
 するとハーレイは苦笑いをして、「客観的には別物なのか」と金平糖の袋を指先でつつくと。
「…なら、アレだ。俺のトラウマってヤツなんだろうな」
 散々な目に遭わされたからなあ、あちこちで。
 人類軍のヤツら、至る所にこいつをバラ撒いて俺たちが網に引っ掛かるのを待っていたしな。
「ハーレイ、そんなに苦労したわけ?」
「苦労したとも。サイオン・キャノンで撃っても撃ってもキリが無いしな」
 大抵はワープで逃げてたんだが、そのワープさえも間一髪って時があったさ。
 こいつに囲まれ、後ろからは人類軍の船が追って来やがる。
 しかも前には三連恒星と来たもんだ。凄い重力場で、もう太陽に投身自殺以外に無いってな。
 重力の干渉点からワープして辛うじて逃げ延びたんだが、後でゼルたちから吊るし上げだ。
「三連恒星って…。聞いていたけど、あの時ってコレに追われてたんだ?」
「お前はのんびり寝ていたがな」
 俺が頑張らなきゃ、前のお前もあそこでおしまいだったわけだが。
 ベッドで寝たまま天国行きだな、何が起こったかも分からないままで。



「そっか…。ハーレイ、思考機雷で苦労したんだ」
 金平糖も嫌いになるかも…、とブルーは溜息をついたのだけれど。
「安心しろ。今の俺は別に嫌いじゃないぞ?」
 思考機雷さえ思い出さなきゃ、金平糖は可愛い菓子だ。
「ホント?」
「今の俺たちが住んでる地域の菓子だからなあ、愛着もあるさ」
 これぞ日本の菓子ってな。伝統ある文化の一つだ、うん。
「金平糖って、古典に出て来る?」
「出て来ないことも無いが、縁が深いのは歴史の方だな」
 金平糖ってヤツは、うんと昔に他の地域から来た菓子なんだ。
「これって、日本のお菓子じゃないの?」
「日本の菓子だが?」
「でも、他所からって…。他の地域から来たお菓子だ、って」
「他所から伝わった菓子ではあるが、だ」
 独自の発展を遂げたわけだな、この地域で。
 その点、前の俺たちと少し似ているかもしれないな。
 シャングリラは元は人類の船だったんだが…。
 人類の船にはサイオン・キャノンも、ステルス・デバイスも全く無かっただろうが。



 元になった船に改造を重ね、形状はおろか、機能さえも別の物に変わったシャングリラ。
 備えられていたサイオン・シールドは人類の船には無かったという。
 地球を目指しての最後の戦いに挑んだ時さえ、人類軍の艦船はシールドを持たなかったと。
「そのせいで旗艦が危なかったようだな、傍受していた通信では」
「そうだったの?」
「うむ。操縦不能に陥った船が激突しかけたのを、他の船が砲撃して破壊し、防いだ」
「…味方なのに?」
 酷い、とブルーは思ったけれども、戦争というのはそうしたもの。
 シールドを開発しておかなかった人類軍だから、味方の船でも撃つしか無かった。
 シャングリラならば、そういう時でもシールドで受け止められるのに。
 味方の船なら壊すことなく、そのまま収容可能だったのに…。



 まるで違った機能を備えた船になってしまったシャングリラ。
 独自の発展を遂げて変わったシャングリラ。
 金平糖が他の地域から来て、日本で発展していったように。日本の菓子に変わったように。
「前のぼくたちって、シャングリラを金平糖みたいに変えちゃったんだね」
「そうだな、まさに金平糖だな」
 元になったものより凄くなった、というのが金平糖にそっくりだ。
 金平糖の元になった菓子を作っていた地域。
 其処ではSD体制よりもずっと前には、ちゃんとそいつを作ってた。
 この辺りが日本だった時代に、元になった菓子も金平糖と同じように存在してたんだが、だ。
 どういうわけだか、そいつには綺麗な角が無くって、こんな風に見事な星じゃなかった。
 一本だけ妙に長くなったり、星みたいに尖っていなかったり、とな。
「へえ…!」
「不思議だろう?」
 そのせいで金平糖は他の地域への土産物に喜ばれるという面白いことになっていたんだ。
 自分の住んでいる所に元になった菓子があるというのに、喜んで買って帰るのさ。
 これは凄いと、日本には綺麗な菓子があるな、と。
 金平糖は日本で進化したんだ、元の菓子より優れた菓子にな。



「元のお菓子より凄いお菓子になっちゃったんだ…」
 ブルーは金平糖の袋をまじまじと見詰め、それからポンと手を打った。
「金平糖って、なんだかミュウみたいだね」
「ミュウ?」
「うん。人類から派生した新人種がミュウってわけだったんでしょ、結局のところ」
 前のぼくは知らずに死んじゃったけど。
 前のハーレイは地球で見ていたんでしょ、キースの発表。
 ミュウは進化の必然だった、っていう歴史的な映像が流れた時には地球に居たでしょ?
「あの映像なあ…。あれは驚いたな、俺たちは単なる異分子なんだと思っていたしな」
 まさか人類から進化したとは思わなかったさ。
 前の俺はその後を何も知らんが、キースのメッセージのとおりになったな。
 今はミュウしかいない世界で、人間はみんなミュウへと進化しちまったってな。
 なるほど、人類が金平糖の元になった菓子で、ミュウが金平糖だってか。



 あの時代には元の菓子と金平糖とが混ざっていたのか、とハーレイは笑う。
 金平糖はまだまだ数が少なくて、元の菓子だった人類の方が幅を利かせていた時代なのか、と。
「そうなってくると、前のお前は完成された金平糖だったというわけだな」
 何と言っても最初は一人しかいなかったタイプ・ブルーだ。
 サイオンだって最強だしな?
「どうだろう?」
 ミュウなら誰でも完成品の金平糖だろうと思うけど…。
 きっと味だけの問題じゃないかな、タイプ・ブルーだからソーダ味とか。
 この袋の水色の金平糖はソーダ味だよ、水色がタイプ・ブルーだよ。
「そうなると俺はメロン味か?」
 此処に緑のが入っているが…。こいつはメロン味だったか?
「うん、メロンだった。ゼルはタイプ・イエローだから黄色だね」
 黄色の金平糖はレモンだったよ、レモン味がゼル。
「エラはイチゴだな?」
「うん、赤いのはイチゴ」
 タイプ・レッドはイチゴ味だよ、これがエラの金平糖だけど…。
 でも…。



 でも、とブルーは金平糖の袋を眺めた。
「だけど他にも色が沢山、味も色々入っているから…」
 シャングリラのみんなが金平糖なら、みんなの数だけ色があったかも。
 サイオン・タイプで分けるだけじゃなくて、みんなの個性。
 金平糖だって、どれも星の形に見えるけれども、よく見てみたら全部違うよ?
 おんなじ形でそっくり同じってわけじゃないもの、型で作ってるわけじゃないしね。
「そういうものかもしれないなあ…」
 見た目は同じ金平糖でも、みんな何処かが違うってな。
 それでこそ立派な人間ってわけで、機械に管理されてた人類とは事情が全く違う。
 人類は記憶まで機械に書き換えられては、都合のいいように動かされていた。
 時には文字通り捨て駒にもされた。
 今のお前なら知っているだろ、ジョミーの幼馴染だったサムがどうなったのか。
 あんな風に機械に使い捨てられるヤツがいたって、人類ってヤツは機械に縋った。
 もっとも、それもジョミーとキースが終わらせたがな。



 忌まわしい時代はとっくの昔に終わっちまったな、とハーレイの目が細められて。
「知ってるか?」
 綺麗な金平糖が出来るまでには、うんと時間と手間とがかかる。
 核になるほんの小さなザラメに何度も何度も糖蜜をかけて、少しずつ大きくしてゆくんだ。
 一日かけてたったの一ミリ、それだけしか大きくならないそうだ。
 出来上がるまでの間、せっせと糖蜜をかけて育ててやって。
 ようやくこうして袋に詰まって、俺たちの所へ来るってわけだな。
 前の俺たちは長い長い時間をかけてミュウの存在を認めて貰えたわけだし、時間と手間って点を考えたとしても金平糖だと思わないか?
 核になったのはザラメじゃなくって、前のお前で。
 せっせと糖蜜をかけて育てていたのもソルジャーだった前のお前だ、金平糖を作ってたんだ。
 ミュウは元々、金平糖だったかもしれないが…。
 前のお前が店に出せるような立派なサイズに育てました、ってな。
 お前がいなけりゃ、俺たちは地球まで辿り着けずにナスカで終わりになってたただろう。
 せっかく生まれた金平糖でも、元の菓子よりも立派になる前におしまいだったさ。



「うーん…。金平糖だけで、そんなに大きな話になるの?」
 壮大すぎるよ、とブルーは首を竦めた。
「ぼくは星の形のお菓子だな、って単純に思っただけなんだけど」
 シャングリラにあったら良かったよね、って。
 星の形のお菓子があったら、きっとみんなが喜んだよね、って…。
「金平糖を復活させた切っ掛けは前のお前だろ?」
「えっ?」
「前のお前がメギドを沈めなかったら、青い地球だって無いってな」
 地球が蘇らなきゃ、地球の文化だって戻って来ない。
 此処に日本って地域は無くって、死に絶えた星の荒れ果てた砂漠だっただろう。
 そんな所に人は住めんし、金平糖だって出来ないままだ。
 星の形の金平糖はお前のお蔭で蘇って来た。
 ミュウっていう名の金平糖をだ、せっせと育てた前のお前のお蔭でな。



 金平糖も、金平糖のようなミュウたちも。
 前のブルーが始まりになって此処にあるのだ、とハーレイは言う。
 ソルジャー・ブルーだった頃のブルーがいたから、青い地球とミュウが住む世界があるのだと。
「前のぼく、そこまで偉かったかな?」
「今でも伝説の英雄だろうが、ソルジャー・ブルーは」
「そうなんだけどね…」
 ぼくにあんまり自覚はないや、と小さなブルーはクスッと笑って金平糖が詰まった袋を開けた。紅茶のカップをテーブルに置いて、空いたソーサーに金平糖の粒をコロコロと落とす。
 夕食に差し支えが出ない程度に、ハーレイと二人でつまむ分だけ。



「それで、ハーレイ。この金平糖、今でも思考機雷だと思う?」
 どう? と問われたハーレイは「いいや」と笑顔でブルーに応えた。
「ミュウだな、という気がするな」
 こいつがエラで、こいつがブラウで。
 ハーレイの褐色の指が金平糖を指す。それぞれのサイオン・カラーの色の。
「それじゃ、こっちはゼルにヒルマン?」
 ブルーが真似ると、「うむ」と満足そうに頷くハーレイ。
「そんな感じだ、こいつはシドかもしれないな。こいつがリオで」
 でもって、これがヤエでルリかな。
 キムにハロルド、トキにショオンに、カリナにニナだな。



 ハーレイの大きな指が指し示す度に、ソーサーの上にシャングリラの仲間が増えてゆく。
 前のブルーは子供時代しか記憶に無いような者たちの名までが金平糖につく。
 サイオン・カラーで選んでいたのは最初の内だけ、後は個性を考えて決めているのだろう。
 仲間の名前がついてしまった金平糖では食べられないかも、とブルーは悩んだのだけど。
「気にせずに食っていいんじゃないか?」
 ハーレイが片目をパチンと瞑った。
「俺たちは青い地球にいるんだ、その俺たちの血肉になったら無事に地球まで御到着ってな」
 だが、まあ…。
 第一号に誰を食うかって話になったら、俺はゼルから食っちまうがな。
 勝敗がつくよりも前にお互い死んじまったし、此処で頭からバリバリと食うさ。
「あははっ、頭からなんだ?」
「別に尻からでもかまわんがな」
 金平糖には尻も頭も無いだろうが。
 こうして口に放り込んだら、ゼルを丸飲みにも出来るってな。



 ハーレイは喧嘩仲間のゼルの名を付けた金平糖をつまみ、口にポイッと放り込んでしまった。
(食べちゃった…!)
 舌触りを楽しんでいるらしいハーレイを見ながら、ブルーは悩む。
 仲間の名前の金平糖を食べれば彼らが地球に着くと言うなら、自分はどれを食べるべきだろう?
「食わないと俺が食ってしまうぞ、次はシドにするか」
「えーっと、ぼくは…」
 誰にしようか、とブルーは頭を悩ませた。
 ソーサーの上の色とりどりの金平糖。
 シャングリラで暮らした仲間たちの名をハーレイが付けた、星の形の砂糖菓子。
 金平糖に仲間の名前が付くとは思わなかったと、ミュウに似ているとは思わなかった、と。
 元になった菓子よりも進化したという金平糖。
 星の形の砂糖菓子が辿った歴史と、ミュウの歴史が似ていたとは、と。



「ブルー、いいのか?」
 食わないんだったら、次はヒルマンを食うが。
「あーっ!」
 ヒルマンのサイオン・カラーの金平糖がハーレイの口の中へと消えた。
 キャプテン・ハーレイの飲み友達だった、いつも穏やかだったヒルマン。
「食わないお前が悪いんだ。うん、ヒルマンもなかなか美味いぞ」
「そうなの?」
「ゼルには負けていないってな。こいつはブラウも期待出来そうだ」
「ブラウも食べるの!?」
 ぼくの分は、と決めかねている間にハーレイはブラウと名付けた金平糖を口へと。
 次のターゲットはエラらしい。「イチゴ味だっけな」とブラウを食べながら尋ねるハーレイ。
(エラまで食べられちゃったら、ぼくの知り合い…)
 リオとかシドとか、と迷う端からハーレイの指につままれ、ヒョイヒョイと消えてゆく金平糖。
「うむ、どの金平糖も実に美味いな」
 いい味だ、と笑顔のハーレイに全部食べて貰うのもいいかもしれない、とブルーは思った。
 シャングリラを地球まで運んだハーレイ。
 金平糖の仲間を青い地球まで運ぶ役目は、ハーレイにこそ相応しいかもしれないと。



(だって、ハーレイ、キャプテンだしね?)
 ソルジャーだった自分は地球まで行けなかったし、仲間に地球を見せられなかった。
 けれどハーレイは地球に辿り着き、キャプテンの役目を全うして逝った。
 だから金平糖になった仲間たちもハーレイに任せておこう、と微笑むブルーにハーレイが訊く。
「おい、ブルー? 本当に全部食っちまうぞ?」
「いいよ、キャプテンはハーレイだから」
「はあ?」
「仲間を乗っけた船を運ぶのはハーレイの役目!」
 運んであげてよ、青い地球まで。
 みんな一緒に、青い地球まで運んであげてよ。
「そういうことか…。責任重大って気になるじゃないか、金平糖で」
「ハーレイがミュウに似てると言い出したんだよ、金平糖!」
「お前だろ? 俺が似ていると言ったのは思考機雷で…」
 言った、言わない、と言い争いながら、金平糖がまだ沢山詰まった袋を二人で眺めて笑う。
 青い地球まで二人で来たから喧嘩も出来ると、つまらないことで喧嘩が出来ると。
 ソルジャー・ブルーもキャプテン・ハーレイも、もう今はいない。
 そっくりな姿形の二人が金平糖を巡って言い争いをし、笑い合うだけ。
 星の形の砂糖菓子。
 金平糖がごく当たり前にある、青い地球の上のブルーの家で…。




          金平糖・了

※お菓子の金平糖を眺めたら、思考機雷を思い出してしまったのがハーレイ。
 けれど金平糖は個性的でもあるお菓子。ミュウの仲間たちのようにも見えるのです。
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv








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