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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

予知とレンコン

「ブルー。お前、レンコンは好物か?」
 ハーレイに訊かれて、ブルーは「えっ?」と赤い瞳を丸くした。
 夕食前のお茶の時間で、テーブルの上にレンコンは無い。紅茶と焼き菓子が載ったお皿だけ。
(えーっと…)
 ハーレイは仕事帰りに寄ってくれたから。
 このタイミングでレンコンが好物なのか、と尋ねられたからにはハーレイは此処に来てから多分レンコンを見たのだろう。
(…でも、レンコンって…)
 キッチンにレンコンはあっただろうか、と考えたけれど分からない。母がレンコンを買って来たなら、置き場所は恐らくキッチンの筈。
(レンコン、あった…?)
 学校から帰って、おやつを食べて。空になったお皿とカップをキッチンの母に渡しに行った。
 その時にキッチンに入ったわけだが、レンコンなどは見た覚えが無い。
(テーブルの上には無かったよね?)
 母が常温でも大丈夫な食材を置くテーブル。その日に使う、タマネギやジャガイモ。
 其処にレンコンは無かったと思う。
 食料品店の袋に入ったままなら、気付かなかったかもしれないけれど。



 それにしたって、ハーレイの言葉。
 ハーレイには今夜の夕食のメニューが分かるのだろうか?
 どんな料理になるかはともかく、レンコンを使った何かが出て来る筈だと。
(ママ、レンコンが入った袋を玄関とかに置きっぱなしにはしないよね?)
 買い物に出掛けた母は荷物が軽ければ勝手口から家に入るし、多い時でも玄関から入って置いたままにはしておかない。いつ来客があるか分からないから、直ぐに奥へと運んでいる。
(ぼくも運ぶのを手伝ったりもしているしね…)
 今日は「手伝ってくれる?」とは言われなかったし、帰った時には母は買い物を済ませていた。覗いた冷蔵庫に昨日は無かったものを見かけたのが証拠。
(あれからもう一度、買いに行ったりしないだろうし…)
 しかも、レンコン。
 常備しておく食材では無いから、使うつもりなら忘れずに買って来ただろう。
(やっぱり、レンコン、あったのかな?)
 けれども記憶に無いレンコン。キッチンで見かけなかったレンコン。
 ハーレイが「好物なのか?」と訊いて来たからには、きっと今夜はレンコンの料理。
 でも…。



(なんでハーレイ、ぼくも知らないレンコン料理だって分かるわけ?)
 玄関にレンコンが置いてあるのを見たのだったら、納得だけども。
 母に限って、それだけは無い。来客の目に入る所にレンコンを置いておいたりはしない。
(もしかして、透視…?)
 今のブルーには出来ないけれども、ソルジャー・ブルーだった頃なら簡単に出来た。青の間からブリッジの様子を覗いてみたり、公園や食堂や厨房だって。
 仲間のプライベートな空間を見ようなどとは思わなかったが、公共の場なら眺めていた。
 きっとそれだよ、と考えるブルー。ハーレイはキッチンを覗いたのだ、と。
「ハーレイ、此処からキッチン、見えるの?」
「いや、無理だが? 透視ってヤツだろ、前の俺にも出来なかったぞ」
 キッチンの様子はとんと分からん。集中したなら、ぼんやりと見えるかもしれないが。
「だったら、ママの心を読んだ?」
「読んでいないぞ、そういうのはマナー違反だからな」
 ついでに、お母さんはお前と違ってサイオンのコントロールが出来てる。
 心が零れていたりはしないし、思念の拾いようがない。



「えーっ?」
 透視でもなく、心を読んだわけでもないと言うのなら。
 ハーレイが今夜の夕食のメニューを知る方法は一つしか無い。
「レンコンって…。ハーレイ、それって、予知だったりする?」
「あながち外れというわけではないが」
 返って来た答えに、ブルーはビックリ仰天した。
「ハーレイ、今度は予知が出来るの!?」
 前のブルーにさえ、ほんの僅かにしか備わっていなかった予知能力。
 未来に何が起こるかは読めず、ただ漠然と嫌な予感や悪い予感を感じていただけ。虫の知らせと変わらないレベルで、周りの状況を考え合わせて「こうなるだろう」と予想していた。
 そう、前の自分の命がメギドで尽きてしまうということでさえも。
 本当の予知と呼べる力はフィシスだけしか持たなかった。タロットカードを繰り、未来を読んでいたフィシス。ミュウにとっても神秘の力で、それゆえに皆に頼りにされた。
 そのフィシスにしか無かった力を、今のハーレイは持っているのだろうか…?



「まさか。俺は前の俺とそっくり同じさ」
 予知なぞ出来ん、と可笑しそうに笑っているハーレイ。
 ならばどうしてレンコンなのか。何処からレンコンが出て来たのか。
「えーっと…。今日の晩御飯、ママはレンコンだって言ってた?」
「レンコンも何も、お母さんから晩飯の話は何も聞いてはいないぞ」
 ついでに家に入った時もだ、特に匂いはしていなかったな。
 仮に匂いがしていたとしても、俺の鼻ではレンコンの匂いなんぞは分からん。
 酢バスだったら、酢の匂いがツンと漂ってるから「酢バスかもな」と思いはするが…。
「それなら、なんでレンコンなの?」
「シーズンだしな?」
 食料品店で見かけたのだ、とハーレイは言った。
 本格的な旬はまだ先、十一月頃からの冬レンコンが名高いらしいのだけれど。
 秋口に採れる秋レンコンもまた、柔らかくてあっさりした味わいで美味なものだという。
「そうなんだ…」
「まあ、前の俺たちの頃にはレンコンなんかは無かったしな?」
 シャングリラに無かったというだけじゃなくて。
 レンコンを食うって文化自体が消えちまっていたな、蓮は観賞用だったようだ。
 あの頃の俺は特に調べもしなかったんだが、植物園だとか水と親しむ公園だとか。
 そういう所に植えて花だけ眺めていたんだ、根っこには見向きもしないでな。



 観賞植物だったらしい、前の自分たちの時代の蓮。
 地下茎が食用だったことさえ、忘れ去られていた時代。
 そのレンコンは今のブルーたちが暮らす地域では普通の食材なのだけれども。
 何故ハーレイに好物なのかと訊かれたのかが分からないから。
「それで、どうしてレンコンなの?」
 好き嫌いは無いから、もちろん嫌いじゃないけれど。
 はさみ揚げも、きんぴらも何でも食べるよ。酢バスも、煮物に入ってるヤツも。
「ふうむ…。その割に予知能力は皆無、と」
「予知能力?」
 なんで、何処から予知能力の話になるわけ?
「レンコンだ」
「レンコンって…。あれにそういう成分があった?」
 今のブルーが生まれてからは、まだ十四年にしかならないけれど。
 たった十四年しか生きていないけれど、レンコンで予知能力がアップするなどという話は一度も聞いたことがない。
 予知能力は今でも神秘の能力とされて、フィシスのような人材は皆無。能力があっても占い師として恋愛相談程度が限界、未来を完璧に読み取れはしない。
 未だにそういう状態なのだし、予知能力を強くするための食べ物も薬も無さそうなのだが…。



 しきりに首を傾げるブルーに、ハーレイは「うんと昔の話だがな」と笑みを浮かべた。
「この辺りが日本だった頃。レンコンは縁起物だった」
 縁起を担ぐと言うだろう。そいつの一種だ、レンコンは縁起がいいとされていたのさ。
 食べると先が見通せる、ってな。
「先…?」
「いわゆる未来だ、これから先の未来のことだ」
 それが見えると言われていた。
 レンコンには穴が幾つもあるだろう?
 あの穴を通して未来が見えると、向こうが見えると縁起を担いだ。
 商売をするには先が見えれば有利になるしな、人生だって先が読めたら便利ではある。
 そういったわけでレンコンなんだな、食べて未来を見通そうってな。



「…ホントに見えるの? レンコンで未来」
 昔から言われていたのなら、とブルーは期待したのだけれど。
「そういった例は俺は知らんな…」
 見えたという話も読んだことは無いな、と数多くの古典を目にしたであろうハーレイの答え。
「ただしだ、未来が見えると信じて食ったらアップするかもな、予知能力」
 鰯の頭も信心から、って古い言葉を知ってるだろう?
 思い込みの力は馬鹿には出来んぞ、信じて食ったらどうだ、レンコン。
「ぼくには元々、予知能力は無いんだよ!」
 フィシスにだってあげていないよ、フィシスが持ってた予知能力はぼくのじゃないよ!
「そうらしいな?」
 あれは副作用のようなものだ、と前のお前は話していたが。
「そうだよ、多分、そういうものだよ」
 前のぼくがフィシスにあげた力は、ミュウとして生きていくのに必要なだけのサイオンだよ。
 目が見えないって分かっていたから、それを補うための力も。
 そうして渡したサイオンの内のどれかが、フィシスの中の何かと結び付いたんだ。
 フィシスは無から生まれた生命体。
 常識では計り知れない変化が引き起こされても無理はないよね、前のぼくにも読めなかった。
 まさかフィシスがあれほどに強い予知の力を得るだなんて。



「そうだな、俺も驚いた。元は普通の人間だったんじゃなかったのか、と」
 普通と言っていいのかどうかは分からんが…。
 生まれ以外は、いわゆる人類と同じだった筈だ。
 前のお前もそう言っていた。サイオンは自分が与えたのだと、実はミュウではないのだと。
 それなのに、あれだけの予知能力だ。
 あの頃にレンコンを知っていたら、だ。
 先が見えるという縁起物を、フィシスに食わせてやりたかったな、と。
「…フィシスに?」
「ああ。レンコンを食えば、見えなくなった未来が見えるようになるかもしれないじゃないか」
「そっか…。前のぼくがいなくなった後…」
 フィシスのサイオン、消えてしまっていたんだっけ。
 地球でカナリヤの子供たちをシャングリラまで届けた時には、サイオンがあったらしいけど…。
 見えない目だって補えるだけの力はあったと聞いているけど、予知能力は…。
「うむ。フィシスは体調が優れないふりをしてはいたが、だ」
 俺はお前から聞いていたから、分かっていた。
 予知能力を失くしたんだと、占いたくても占う力が無いんだと。
 どうしてやることも出来なかったが、もしもレンコンがあったならなあ…。
 食べさせてやれば、心理的な効果くらいはあったかもな、と思ってな。



 先が見通せる、未来が見える縁起物。向こう側が見える穴が幾つも開いたレンコン。
 それをフィシスに食べさせたかった、とハーレイは語る。
 フィシスにサイオンを与えたブルーがいなくなったせいで、予知が出来なくなったフィシスに。
「でも、あの頃のハーレイは…」
 とても忙しかった筈だよ、地球を目指しての戦いが始まっていたんだから。
 朝から晩までブリッジに詰めて、ブリッジに居なければ作戦会議。
 キャプテンの部屋で寝てる時だって、人類軍の船が現れたらブリッジに走っていたんでしょ?
「そうさ、フィシスを訪ねるどころじゃなかった」
 たまにぽっかりと時間が空いたら、後悔ってヤツに押し潰されそうになっていたしな。
 どうしてお前を一人でメギドに行かせたのかと、どうして追わなかったのかと。
 青の間に出掛けて立ち尽くしていたり、レインが居たならお前の思い出を話していたり…。
 俺の時間は戦いと前のお前とに埋め尽くされていて、フィシスのことは忘れがちだった。
 第一、レンコンだって知らない。
 そいつを食ったら先が見えると、未来が見えるというレンコンを知らなかった。
 だがな、もしも何かのはずみに耳にしたならば。
 探しただろうな、シャングリラが立ち寄った先々の星で。



「ハーレイ、うんと忙しかったのに?」
 それでもレンコンを探したって言うの、フィシスのために?
 効くかどうかも分からないのに、縁起物だっていうだけなのに。
「もちろん探すさ、どんなに忙しかったとしてもな」
 前のお前の大事なフィシスだったんだ。
 「ぼくの女神だ」と言ってたっけな、青い地球を抱く女神なんだ、と。
 フィシスはお前に地球を見せていたし、お前はフィシスが欲しくて攫った。
 わざわざサイオンを分け与えてまで、ミュウだと嘘をついてまで。
 フィシスの正体は前の俺しか知らなかった。俺しか知らないままだった。
 メギドに飛ぶ前、お前はジョミーのことしか言い残しては行かなかったが…。
 あの時、もう少し時間に余裕があったなら。
 フィシスのことも俺に頼みたかったんじゃないのか、ブルー…?
「…ほんの少しね」
 少しだけだったよ、フィシスへの未練。
 前のぼくが言葉を残して行きたかった一番は前のハーレイだよ。
 時間があったらハーレイと名残を惜しみたかったよ、これが最後のお別れなんだ、って。
「それはそうかもしれないが…」
 フィシスだって忘れてはいなかったろうが。
 お前の女神だ、前のお前が無茶をしてまで手に入れて来た女神だったんだからな。



 前のブルーが遺した女神。
 サイオンを与えてミュウに仕立てた、青い地球を抱く神秘の女神。
 ブルー亡き後、長老たちは進むべき道を求めてフィシスの許を訪れたのだが、タロットカードは繰られなかった。予知の力を失くしたフィシスに、占いは出来はしなかった。
 何度訪ねても託宣を得られず、長老たちの足は遠のき、フィシスは忘れ去られていった。
 そうなるだろうと分かっていたのに、前のブルーには策が無かった。
 フィシスが自分に頼ることなく自らの足で歩んでくれれば、と祈ることしか出来なかったのに。



「…ハーレイ、もしもレンコンのことを知ったら、探しに行ってくれたんだ?」
 前のぼくが置いて行ったフィシスのために。
 ぼくが死んだせいで、予知能力を失くしてしまったフィシスのために…。
「探しただろうな、探すだけじゃなくて自分で採りに出掛けたかもしれん」
 食おうって文化が無かった時代だ、レンコンは植物園だか公園だかの池にしか無いしな?
 船のヤツらに採って来いとはとても言えんし、俺が行くしかないだろう。
 池の底を掘って、レンコンを採って。
 そしてフィシスに食わせただろうな、なんとか料理してみてな。
「…もう一度厨房に立つんだ、ハーレイ…」
 キャプテンになる前は厨房に居たけど、またフライパンを握るんだ…?
「さてなあ、レンコンを料理するとなったら、フライパンだか鍋なんだか…」
 しかしだ、キャプテンが怪しげなモノを料理していたと噂が立つのも考え物だし。
 レンコン掘りは「ちょっと興味が湧いたからな」と気分転換に出掛けたと言えばそれで通るが、そいつで料理を始めたとなればゼルやブラウに怪しまれそうだ。
 そいつを回避するためには、だ。
 昔を懐かしんで料理の試作だ、食えるかどうかを試すだけだ、と言い訳だな。
 あくまで俺の趣味の範囲でリフレッシュなんだと、食える保証は何処にも無い、と。
 だから厨房では調理出来んな、フィシスだけのための料理だからな?
 趣味のついでにメンテナンスをやっておく、と青の間のキッチンで作るのさ。
 フィシスをコッソリ呼び寄せておいて、このレンコンを食ってみろ、とな。



 何のためにレンコンを採りに行ったか、何のために調理しているのか。
 それさえも伏せてレンコン料理を作っただろう、とハーレイは遠い昔へと思いを馳せる。もしもレンコンを知っていたなら、フィシスにそれを食べさせたろうと。
「ハーレイがそこまでしてくれていたら…。戻っていたかもね、フィシスの力」
 未来が見える予知能力。
 先が見通せるレンコンを食べていたなら、予知能力が戻ったかも…。
「プラシーボ効果ってヤツだがな」
 レンコンにそんな成分は無いし、偽薬ってヤツと変わらんわけだが。
 それだけに効くって保証も無いしな、無駄骨に終わった可能性だって大きいんだが…。
「ううん、きっと効いた」
 前のぼくが放って行っちゃった分までフィシスを助けるんだ、って思ってくれているんだもの。
 忙しい中でもレンコンを掘って、料理までしてくれるんだもの。
 きっと効いたよ、フィシスが失くした予知能力はきっと戻って来たよ。
「実際の俺は何も出来ずに終わったわけだが…」
 レンコンは全く知らなかったし、フィシスだってろくに訪ねてやりもしないで。
 何一つとして助けてやらずに、今頃になって夢物語をやらかしてるってことなんだがな?
「夢物語でもいいんだよ。今、ハーレイが思い付いてくれたのが嬉しいんだよ」
 フィシスのことを大事に思ってくれていたんだ、って分かるから。
 あの頃は忙しくって何も出来なくても、ちゃんと気にかけてくれてたんだ、って。
「そりゃまあ、なあ…。前のお前の大事な女神だったんだしな?」
「うん…。ありがとう、ハーレイ…」
 だけど、ぼくが一番大事に思っていたのはハーレイだけどね。
 前のぼくはハーレイが一番だったし、今のぼくだってハーレイが一番。



 ハーレイが一番大好きだよ、とブルーは微笑む。
 前の自分はフィシスを女神と呼んだけれども、そのフィシスよりもハーレイなのだ、と。
 フィシスの正体を知っていながら、側に置くことを許してくれたハーレイが好き、と。
「それで、ハーレイ。…レンコンで本当に未来は見えるの?」
「さあな? そういう例は俺は知らん、と言っただろうが」
 だが、レンコンに開いている穴の話をするなら。
 とりあえず、俺は酒を飲んでみたい。
「えっ?」
 レンコンを肴に飲むのだろうか、とブルーは考えたのだけれども。
「知らないか? レンコンに限らず、蓮ってヤツはだ、穴だらけらしい」
「穴だらけ?」
「見た目に穴が開いているかは、生憎と俺も知らないんだが…」
 蓮の葉はお前も知ってるだろう?
 池に生えてる丸い葉っぱだ、でかいヤツなら子供の傘になりそうなヤツ。
 あの葉っぱの茎には穴が沢山開いてるらしいぞ、水を注げば通すほどにな。
 そいつを使って酒を飲もうって洒落た行事が象鼻杯だ。
「…ぞうびはい…?」
「象の鼻の杯と書くのさ、蓮の葉っぱが象の頭で、茎が鼻だと見立てるわけだ」
 蓮の葉っぱを切り取って来てだ、まずは葉っぱに酒を注ぐんだな。
 そいつが茎の穴を通ってストローみたいに流れて来るのを飲む催しだ。
 蓮の葉が一番勢いのある夏にやるんだ、暑気払いの蓮酒。
 一度飲みたいと思ってるんだが、まだ機会が無い。



「へえ…!」
 面白そうだね、とブルーは象鼻杯なるものを想像してみた。
 ハーレイが「こんな感じだ」と手を通してイメージも送ってくれた。大きな蓮の葉を杯代わりに酒が注がれ、それを茎から飲む人々。暑気払いになるという蓮酒。
「蓮ってホントに穴だらけなんだ、穴が開いてるのはレンコンだけかと思ってたのに…」
「うむ。こうして酒が飲めるくらいだ、水を通す穴はあるってことだな」
 この蓮酒。親父とおふくろは飲んだんだがなあ、二人仲良く出掛けて行ってな。
 俺もいつかはと夢見てるんだが、お前の守り役をしている間は無理そうだな。
「だったら結婚したら行こうよ、ぼくと二人で」
「おい、酒だぞ?」
 お前、酒には弱いだろうが。酔っ払っちまうぞ、たったあれだけの量でもな。
「平気だよ。ちょっとだけ飲んで、ハーレイに渡す」
 ぼくは気分と味見だけでいいんだ、蓮のストロー。
 どんな風かな、って分かればいいから、残りはハーレイに全部あげるよ。
「なるほどな…!」
 それならお前も酔っ払わないし、俺は二人分を飲めるってわけだ。
 あのイベントはうんと人気だからなあ、おかわりを下さいって言えそうもないが…。
 俺にはおかわりがあるってわけだな、象鼻杯。
 お前がちょっぴり口をつけただけの、おかわり用の蓮の葉っぱが。



 二人前をたっぷり飲めるわけか、と笑うハーレイ。
 人気が高いから蓮の葉っぱは一人に一本だろうけれども、自分は二本貰えそうだと。
 酒に弱くて直ぐに酔っ払うブルーの分まで、おかわりの蓮酒を味わえそうだと。
「いいアイデアでしょ? ハーレイの夢の蓮酒だしね?」
「うむ。子供ならともかく、大人だったら酒が飲めるかどうかも確認せずに配るだろうしな」
 一人一本です、と蓮の葉っぱを。
 でもって酒を注いでくれるし、そいつをお前が俺に回す、と。
「うん。ハーレイ、ぼくの分まで楽しんでよ。蓮の葉っぱに入ったお酒」
 いつか蓮酒を自分の分まで、二人前を飲ませてあげなくては、とブルーは思う。
 前の自分が置いて行ってしまったフィシスのことまで、考えてくれたハーレイだから。
 先が見通せるという縁起物のレンコン。
 それを前の自分が知っていたなら、と語ってくれた優しいハーレイ。
 フィシスのためなら、レンコンも探して料理しただろうと話してくれたハーレイだから…。




         予知とレンコン・了

※先を見通せるという縁起物のレンコン。知っていればフィシスに、と言うハーレイ。
 叶わなかったことですけれど、今の時代はレンコンも普通。いつかはブルーと象鼻杯ですね。
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 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv






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