シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「ハーレイ、分かる?」
学校があった日の、夕食前の時間。仕事帰りに寄ってくれたハーレイと自分の部屋でテーブルを挟んで向かい合いながら、ブルーは頭を指差した。今日はちょっぴり御自慢の頭。
学校が終わって帰宅した後、カットしに出掛けて行った髪。以前は休日に行ったものだけれど、今は平日が普通になった。それも毎回、事前に予約を入れておいて。
(だって、ハーレイが寄ってくれた時に家にいなかったら困るしね?)
予約無しで出掛けて混んでいたなら、必然的に帰りが遅くなってしまう。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれても、ブルーが留守では何にもならない。
お茶でも飲んで待っていてくれれば問題は無いが、いつ戻るのかも分からないブルーを待つほどハーレイは暇ではないだろう。他にもやりたいことがある筈。例えば気ままにドライブだとか。
せっかく来てくれたハーレイが帰ってしまったら悲しいから。
そうならないよう、ブルーは予約を忘れない。もっとも、予約は母任せだけれど。
おやつも食べずに急いでカットに出掛けた髪。
ハーレイが来てくれるまでに、きちんと整えて貰った髪。
髪型を変えたわけではないから印象は変わっていないけれども、それでも誇らしい気分。今日は綺麗に整っていると、プロに仕上げて貰ったのだ、と。
その、髪の毛。今日、学校でハーレイに会った時より短くなっている筈なのだが。
ハーレイは気付いてくれるだろうか?
ほんの僅かな自分の変化に、ちゃんと気付いてくれるだろうか…?
「ふうむ…。今日はサッパリしているな」
学校で見た時は普通だったが、ちょっと短くなったじゃないか。
「切ったの、分かった?」
「そりゃ分かるさ」
恋人の見た目が変わったことにも気付かないようじゃ、話にならない。
これが女性だと「鈍感すぎる」と文句を言われたりするらしいぞ。
俺もせっかく気付いたからには、何か気の利いた褒め言葉でも出ればいいんだが…。
生憎とお前の髪型ってヤツは、いつでもそいつのままだしな。
「前よりもうんと可愛くなった」だの「その髪型も似合うじゃないか」だのと言いようがない。
なんとも困った髪型だよなあ、前のお前だった頃から変わらないとはな。
「ふふっ」
ちっちゃい頃からこれだったしね?
パパもママも「ソルジャー・ブルーみたいだから」って言ってて、こればっかり。
髪の色も目の色もそっくり同じじゃ、前のぼくみたいにしたくなるよね、似合いそうだもの。
アルバムの写真は全部これだよ、赤ちゃんの頃は流石に違うけれども。
「そりゃまあ、なあ…。赤ん坊では無理だよな」
髪の毛を伸ばすどころじゃないし。
短いようでも、その髪型ってヤツにしたなら、赤ん坊には長すぎるしな。
「うん。だから、幼稚園に入る前くらいからかな、これになったの」
今よりずっとチビのぼくでも、ちっちゃなソルジャー・ブルーみたいに見えるでしょ?
パパやママがぼくを連れて出掛けた時には、大抵、声を掛けられてた、って。
「可愛いわね」って頭を撫でて貰ったり、キャンディーとかをくれる人もいたって。
「なるほど、人気者だったってわけだ」
俺もその頃のお前に出会いたかったな、さぞかし可愛い子供だったろうに。
たとえ記憶が戻ってなくても、頭を撫でてやったと思うぞ。
もっとも、俺は身体がデカイからなあ、お前の方では泣き叫んだかもしれないが。
「怖いよ、って?」
「そんなトコだ」
まあ、そうはならなかったと思うがな。
これでも子供には受けがいいんだ、ガキの頃から年下のヤツらの面倒を見ていたせいかもな。
子供ってヤツは勘がいいから、子供好きかどうかを直ぐ見抜くってな。
小さかった頃のお前に会いたかったな、とハーレイはブルーを見詰めながら。
「それで、その髪。二センチほどは切ったのか?」
俺も切る時にはそのくらいなんだが。
たった二センチでも伸びちまったという気がするしな。
「当たってる! 今日は二センチ」
伸びましたね、って言って切ってくれたよ、いつもの人が。
髪の毛は普通に伸びるのに…。
どうして身長は止まってるんだろ、髪の毛みたいにぐんぐん伸びてくれればいいのに。
「おい、無茶を言うな」
俺は背なんかもう伸びないって、誰が見たって分かるよな?
それでも髪の毛は毎日伸びるし、伸びたら切りに行かなきゃならん。
髪の毛ってヤツはそうしたものだぞ、それを背丈と一緒にするな。
「ハーレイの年だったら、それでも全然不思議じゃないけど!」
ぼくは子供だよ、成長期だよ?
まだまだ大きくなる予定なのに、背は伸びなくって髪の毛ばっかり。
ハーレイと会ってから髪の毛は何度も切りに行ったけど、身長はちっとも伸びないんだよ!
「そう慌てるな」
ゆっくり大きくなれと言っているだろ、いつも、何度も。
急いで慌てて育たなくっても、のんびり育てばいいじゃないか。
子供時代っていうのは楽しいモンだぞ、そいつを充分に味わっておけ。
「だけど…」
ぼくは大きくなりたいんだってば、前と同じに。
前のぼくと同じ背丈に早く育って、ハーレイと本物の恋人同士になりたいのに…。
それなのにまるで伸びてくれない、とブルーは嘆いた。
前の自分の身長との差は二十センチから縮まらないのだと、一ミリも縮んでくれないのだと。
「髪の毛だったら、二十センチくらいは簡単に伸びてくれそうなのに…」
背だと無理だよ、髪の毛みたいに凄い速さじゃ伸びないよ。
ハーレイと会ってから、止まらずに伸びてくれていたって、二十センチは遠いんだよ。
ただでも遠いのに止まっちゃったよ、背が伸びるのが。
伸び始めたって、二十センチも伸びるまでにはきっと時間がかかっちゃうんだ…。
「だろうな、相手は身長だしな」
髪の毛みたいに単純な仕組みじゃないからなあ…。
骨を伸ばして、周りの筋肉なんかもそれに合わせて伸ばしてやって。
成長痛っていうのを知ってるか?
「…成長痛?」
「小さな子供に多いものだが、膝とかが酷く痛むんだ。病気ってわけじゃないんだけどな」
成長期だから骨がぐんぐん成長するのに、そいつを周りの筋肉が強く引っ張る。
すると軟骨に負担がかかって、痛みが出て来るという仕組みだな。
お前くらいの年でも起こることがあるし、痛みはうんと酷いものらしい。
小さな子供だと泣いちまうほどで、痛くて眠れないこともあるそうだ。
俺は経験していないんだが、お前、やりたいか、成長痛?
毎晩ベッドで「痛いよ」と膝とか擦っていたいか、半泣きになって。
「嫌だよ、そんなの!」
「なら、欲張るのはやめておけ」
身長は髪の毛のようにはいかん。
そうそう簡単に伸びやしないのさ、伸びる時期が来るまで大人しくしてろ。
髪と背丈では伸びる仕組みが全く違う、と聞かされたけれど。
背が伸びる時には成長痛などという怖いものもあると教えられたけれど。
それでもブルーは髪の毛が伸びてゆく速度が羨ましい。背丈よりもずっと早く、毎日伸びる髪。
「髪の毛だったら、一年あったら二十センチでも伸びそうなのに…」
「そうだろうなあ、よく伸びる人なら夢ではないな」
「でしょ?」
髪の毛が伸びる速さが羨ましいよ。
ぼくの背だって、そんな風に伸びてくれればいいのに…。
一年で二十センチも伸びるんだったら、直ぐに目標に届くのに。
前のぼくの背と同じ背丈になれるのに…。
「髪の毛なあ…。確かに背よりは早く伸びるが…」
あまり伸びるのが早すぎると…、だ。
昔は嬉しくなかったらしいな、SD体制よりもずっと昔の時代のことだが。
「なんで?」
「髪の毛が早く伸びる人は、だ。助平だという俗説があった」
「スケベって、なに?」
「その、まあ…。なんだ、いわゆる好色。そういう人を指した言葉だ」
根拠は全く無かったそうだが、そういう風に言われていた。
だから嬉しくないってわけだな、「お前は助平だ」とからかわれたりするからな。
「えーっと…。ハーレイは早い?」
ハーレイ、髪の毛、伸びるのは早い?
「お前、何かを期待してるな?」
チビに手を出すほど飢えてはいないぞ、ついでに好色でもないが。
「ホント?」
ねえ、本当に?
キスをしたいとか、ぼくに触ってみたいとか。
そんな気持ちにならない、ハーレイ?
「こら、煽るな!」
そういう台詞はまだ早いんだ、とブルーの頭に拳がゴツンと下りて来た。
力はこもっていないけれども、頭の真上に落ちた一撃。
ブルーは「痛いよ!」と大袈裟に騒ぎ、それから赤い瞳でハーレイの瞳を覗き込んだ。
「…それでホントはどうなの、ハーレイ?」
ハーレイの髪の毛、早く伸びるの?
スケベかどうかは別の話で、ぼくの純粋な興味なんだけど。
「普通だと思うぞ、特に言われたこともないしな」
いつも行ってる理容店でも、早い方だとは言われていない。
俺がこの町にやって来て直ぐから、世話になってる店なんだが…。
そう言うお前はどうなんだ?
髪が伸びるの、早い方なのか?
「…早くない…。多分、普通だよ」
「ほら見ろ、つまりお前も助平なんぞとは無縁だってな」
キスだの本物の恋人同士だのと騒いでいたって、そういう以前の問題だ。
お前が自分で思ってるほどに、そういったことに縁は無いんだ。
本当に我慢出来なかったら助平ってヤツで、髪の毛も早く伸びそうなもんだ。
「ハーレイ、それは俗説だって…!」
「そうではあるが、だ。今のお前には俺が当てはめておく」
チビで髪の毛も普通の速さでしか伸びない間は、背伸びしなくてもいいってな。
キスだの何だのと騒ぎ立てる前に、子供らしく生活しとけってことだ。
諭されたブルーは唇を尖らせ、もう一度ハーレイに訴えてみた。
「早くなくても、髪の毛は普通に伸びるのに…」
普通の速さで伸びてくれるのに、ぼくの背は全然伸びないんだよ。
遅くてもいいから、ちょっとずつでも伸びて欲しいと思っているのに…。
「背だって伸びるさ、いつかはな」
そうして前のお前とそっくり同じな姿になるんだ、俺もその日が楽しみだな。
「いつかって、いつ?」
今年の内には伸び始める?
それとも今年の間は無理なの?
ねえ、いつになるの、ぼくの背がちゃんと伸び始めるのは?
「時が来たら、だ」
お前が充分に子供時代の幸せってヤツを取り戻したなら、背も伸びるさ。
前のお前が失くしちまった、成人検査よりも前の幸せな記憶。
今みたいに本物のお父さんとお母さんではなかったが…。
血の繋がっていない養父母だったが、前のお前にとっては親だった。
その人たちと暮らした温かな家や、優しい思い出。
機械に消されて失くしちまった幸せの分まで、今のお前が幸せな時を生きたなら。
もう充分だと、沢山の幸せを手に入れたんだ、と満足したなら子供時代も終了だってな。
ゆっくり幸せに育ってくれ、とハーレイはブルーの頭を撫でた。
カットしたばかりの銀色の髪を、ブルーの手よりもずっと大きな褐色の手で。
けれどもブルーは「早く伸びないかな…」と尚も続ける。
「前のぼくの背と同じ、百七十センチ。あと二十センチ…」
十八歳までには間に合わせたいよ、ゆっくりだなんて言ってられないよ。
だって、十八歳になったら結婚出来る年なんだよ?
それまでにはちゃんと伸ばしたいのに…。
「どうだかな?」
チビのままなら、十八歳になっても結婚どころじゃないんだが…。
そいつは神様次第ってトコだな、お前が育つか、チビのままかは。
「…伸び始めてたら、結婚式の準備、してくれる?」
ぼくの背が伸びるようになったら。
結婚式を挙げられるように、ハーレイ、準備をしておいてくれる?
「その前にまずはプロポーズか?」
「うん」
そうだよ、それが一番大切。
今度はプロポーズをして貰えるんだもの、前のぼくたちの時と違って。
「お前の背丈が十八歳までに百七十センチになりそうならな」
「えーっ!?」
早めにプロポーズしておいてよ、とブルーは強請った。
百七十センチになってからでは間に合わないのだと、結婚式のための準備も要ると。
「あらかじめ準備をしておけってか…」
百七十センチに届かない内からプロポーズか、とハーレイは腕組みをしてニヤリと笑った。
「俺に準備をしろと言うなら、お前の方でも準備しておけ」
「…何を?」
怪訝そうなブルーにハーレイが答える。
「その髪の毛。今日、切って来たばかりの髪の毛だ」
十八歳で結婚するなら、結婚式に間に合うように十センチほど伸ばしておくんだな。
「…なんで伸ばすの?」
「ウェディングドレスを着るんだろ?」
それなら肩に届くほどは要る。
でないとドレスに似合った髪が結えんし、余裕を見て伸ばしておいてくれ。
十センチだったら半年くらいか…。
間に少しは揃えるために切ったりするだろうから、半年ではちょっと足りないかもな。
結婚に備えて髪を伸ばせ、と注文をされたブルーは驚いた。
ブルーの誕生日は三月の一番末の日だったし、十八歳を迎える頃には義務教育を終えている。
だから直ぐにでも結婚しようと考えていた。誕生日の日が結婚式でもかまわないと。
ところが、結婚式を三月の末に挙げるのならば。
それに合わせて髪を伸ばすなら、在学中から伸ばすしかない。それも半年近くの間。
「…ぼく、その髪の毛で学校に行くの?」
肩まで届く長さに伸ばして、それで制服を着て学校に行くの?
「もちろんだ。卒業したら結婚するんだ、という夢を実現させたいのなら準備をせんとな」
校則だと、長い髪の毛は束ねるんだったか?
いや、肩までなら束ねなくてもかまわないのか…。
そうだ、どうせなら二十センチ伸ばすというのはどうだ?
お前の目標の二十センチだ、今のお前は背を二十センチ伸ばすってことが目標だろう?
「二十センチって…」
そんなに伸ばしてどうするわけ?
肩どころじゃないよ、背中まで届く長さだよ?
「白無垢を着るなら、そのくらい要るさ」
お前、白無垢もいいなって前に言ってただろうが。
二十センチあれば付け毛をすればな、綿帽子を被れる髪だって結える。
大抵の人はカツラなんだが、自分の髪の毛で結ってみないか?
「…二十センチ…」
ブルーにはまるで想像がつかない長さ。十センチだったら肩までか、少し過ぎるくらいか。
けれども二十センチとなったら、今の長さの何倍だろう?
それに…。
「ハーレイ、二十センチも伸ばすんだったら、一年くらいはかかってしまうよ?」
「そうなるだろうな、だから早めに準備をしろよ」
卒業する学年が始まったら直ぐに伸ばし始めて丁度じゃないか?
十七歳の誕生日から後は、揃える程度で伸ばしておけ。
「一年も…!?」
そんなに伸ばすの、結婚式の準備をするために…?
それに、校則…。そんな長い髪、束ねて学校に行かないと…。
「別にいいじゃないか、そういう男子生徒もいるし」
要は個性だ、校則さえ守れば何も気にする必要は無いさ。
背丈とセットで髪の毛も伸ばせ、お前の目標の二十センチで。
十センチだの、二十センチだの。
ハーレイは簡単に言ってくれるが、ブルーにとっては衝撃だった。
前の生から同じ髪型、幼稚園に入る前から今の髪型。
それを変えろと言われても困る。自分の姿がどんな風になるのか、全く想像出来ない世界。
髪の毛を長く伸ばした自分は、前の自分と同じ姿形に見えるのだろうか?
いくらハーレイと結婚式を挙げるためでも、今の姿を変えたくはない。
前世の記憶が戻る前から「ソルジャー・ブルーみたいね」と言われた姿を変えたくはない…。
けれどハーレイは「うむ、二十センチ伸ばしてみるのがいいな」などと言うから。
ブルーは「嫌だよ!」とハーレイの言葉を遮った。
結婚式の準備はしてみたいけれど、髪を伸ばすのは嫌なのだと。
たとえ十センチでも伸ばしたくなくて、二十センチはもっと嫌だと。
「だって、ぼくの髪は…!」
前からずっとおんなじなんだよ、今のぼくだって前とおんなじなんだよ!
パパとママが決めて、小さい頃からこの髪型で。
前のぼくと同じで過ごして来たのに、伸ばせだなんて言わないでよ…!
「ソルジャー・ブルーと同じ髪型のままにしておきたいのか?」
「そうだよ、それで結婚したいよ!」
「それはかまわないが、ドレスはどうする」
お前、今の所は白無垢よりもドレスだったよな?
白無垢だったらカツラでいけるが、ドレスもカツラを被って着るのか?
「カツラも嫌だよ、似合うように何とかして貰うよ!」
「うーむ…。プロならどうとでもするんだろうが…」
花を飾るとか、そういった風に。
ショートカットの花嫁っていうのも、いないってわけではないからなあ…。
お前が髪型にこだわってるなら、其処の所は動かせそうにないな。
とんだ制約が出来たもんだ、とハーレイは首を捻るけれども。
ブルーには譲るつもりなど無く、真正面から宣言した。
「絶対、今と同じがいい。今の髪型、変えたくない!」
どうしても伸ばさなきゃならないってことになったら、式が終わったら直ぐに元に戻す!
切りに行くんだよ、今のぼくの髪型と全く同じに。
ソルジャー・ブルー風でお願いします、って走り込むんだよ、切ってくれるお店に!
「おいおい、そこまでの勢いなのか?」
何故、それほどに髪型にこだわる?
今の髪型、そんなにお気に入りなのか?
「それもあるけど、前のぼくと同じがいいんだよ!」
前のぼくとそっくり同じがいい。
だって、前のぼくはハーレイと結婚出来なかった。結婚どころか、恋人同士なことさえ秘密。
だから今度は、きちんとハーレイと結婚したい。
前のぼくとそっくり同じ姿で、ハーレイと結婚したいんだよ。
…前は叶わなかった分まで。
前のぼくには出来なかった分まで、同じ姿でうんと幸せな結婚式を挙げたいんだよ…。
メギドで散ったソルジャー・ブルー。
ハーレイとの恋を誰にも明かせないまま、逝ってしまったソルジャー・ブルー。
彼への想いは今もハーレイの内に残っているから。
小さなブルーを前にしていても、未だに忘れることが出来ないほどに深く愛した人だったから。
ハーレイは「…実は、俺もだ」と告白した。
「同じ結婚式をするなら、前のお前とそっくりな姿のお前がいい」
俺だって、叶うものならば。
前のお前と結婚式を挙げたかったし、その分をお前と取り戻したい。
前は叶わなかった分まで、お前にきちんと誓いたいんだ。
幸せにすると、今度こそ俺がお前を誰よりも幸せにしてやると。
出来なかった誓いをやり直すんなら、前のお前とそっくりなお前に誓わないとな。
髪型がドレスに似合っていようが、どうであろうが。
前のお前と同じ髪型のお前に誓って、ちゃんと結婚しなくちゃな…。
そう語った後、ハーレイはブルーの銀色の髪をクシャリと撫でた。
カットしたばかりの銀色の髪を、ソルジャー・ブルーと同じ髪型をしているブルーの髪を。
「よし。お互い、この髪型がいいと言うんだったら、だ」
ドレスに似合った髪ってヤツはだ、プロに任せておくとしようか。
「こんなに短くては困ります」と言われようがだ、アレンジしてこそプロだしな?
その代わり、頭が花だらけになっても文句を言うなよ?
これでもかってくらいに沢山の花を、一杯に飾られちまってもな。
「うんっ!」
花なら外せばそれで済むしね、伸ばしてしまった髪の毛みたいに急いで切りに行かなくっても。
それに前のぼくとそっくり同じ姿で結婚出来るよ、花だらけでも。
前のぼくだって、シャングリラの子供たちが作った花冠を被ってた。
一度に幾つも被せられちゃって、ハーレイたちにも「お裾分けだよ」ってあげてたくらいに。
あの頃よりもずっと幸せな世界に来たんだもの。
花が増えたって、気にしない。
花冠よりも沢山になった花の分だけ、幸せもドッサリ増えるんだから。
「そう来たか…。そう言えばあったな、花冠」
俺も貰ったが、ゼルまで貰っていたっけな。お前のお裾分けの花冠を。
「そうでしょ? だから頭に花なら慣れてるんだよ、前のぼくだった頃から、とっくに」
今度は花冠よりも豪華になるよね、ぼくの頭に乗っける花。
それ専用に咲かせた花を幾つも、プロが飾ってくれるんだものね。
「そういうことになるわけだが…」
だが、その前にだ。お前の背丈を前と同じにしないとな。
でないと結婚どころじゃないんだ、頑張って伸ばせ。
「結局、そこに落ち着くの?」
「うむ、そこだ」
しかしな、急ぐ必要は無いぞ?
慌てなくっても、いつかはちゃんと大きくなる。前のお前とそっくりに育つ。
その日までうんと幸せに生きろ、前のお前が失くしちまった子供時代というヤツを。
「いいな、ブルー? 焦るんじゃないぞ、背が伸びなくても」
ゆっくりでいいから大きくなれよ、とハーレイは微笑む。
前のお前とそっくり同じに育ったお前を嫁に貰う日を、俺は楽しみにしているから、と…。
前と同じ髪型・了
※運命の17話放映から、9年目の7月28日です。定期更新日と被りました。
生まれ変わって幸せなブルー、きっと普通が一番だよね、と。
ソルジャー・ブルーだった頃から、変わっていないブルーの髪型。幼い頃から同じスタイル。
結婚式を挙げる時にも、前と同じがいいそうですけど…。美容師さんは大変かも?
「7月28日は、やっぱり特別なんだ!」と仰る方には、ハレブルじゃないですけど…。
pixiv 専用サイト用にと書いてみた記念作品をどうぞ。タイトルをクリック。
「青い星まで」:シリアスなショート。2016年7月28日記念創作。
「老人とメギド」:ネタ系ショート、ブルー生存。こちらも記念創作です。
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