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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

魅惑の肖像画

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv




残暑が終わってようやく秋。よく言われるのが芸術の秋で、美術の特別授業で美術館へお出掛けというのもありました。外国の美術館から来た展示物をシャングリラ学園だけで貸し切り観賞。悪戯防止に担任以外にも付き添いの先生多数なイベントだったわけですが…。
「「「肖像画?!」」」
数日後の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で思わぬ言葉にビックリ仰天。リンゴと胡桃のパウンドケーキをフォークに刺したり、頬張ったままだったりで目を白黒な私たち。けれど会長さんは紅茶のカップを傾けながら。
「…らしいよ、けっこう本気で言ってるみたいで」
「しかしだな…!」
どうしてそうなる、とキース君。
「教頭先生は写真を山ほどお持ちだったと思うのだが…。いやその、隠し撮りがメインかどうかは知らないが」
「ぼくの写真なら掃いて捨てるほど持ってるよ。圧倒的に隠し撮りだけど」
「それなら肖像画は要らんだろう?」
「隠し撮りとは違うしねえ…。ぼくにモデルも頼まなきゃだし、ぼく公認? それに目線も自分の方に向けるとか注文できるし、こう、色々と美味しいらしい」
この間の美術鑑賞で思い付いたようだ、と会長さん。
「それでモデルを頼めないかと言って来たわけ。時給が高けりゃ行ってもいいけど、ハーレイの家で描くんだったら、ぼく一人ではマズイしね?」
「「「あー…」」」
会長さんが教頭先生の家に一人で出掛けて行くことは禁止されています。つまり私たちに一緒に来いと言われているのも同然で。
「あんたがモデル料を稼ぎに行くのに、俺たちの方はタダ働きか?」
「食事くらいは出ると思うよ、ハーレイの家で」
「だが、バイト料は出ないんだな?」
「無理だろうねえ…。ぼくへのモデル料と、画家さんに払う代金と…。けっこう高くつくだろうから、ハーレイの財布に余裕は無いかと」
腕のいい画家を頼むようだし、と会長さんは深い溜息。
「その辺、適当にケチッておけばいいのにねえ? 写真を元に仕上げます、っていう肖像画なら料金安いよ、そっち系のにしとけばいいのに」
安く上がってモデル料も写真を撮る時の一回だけ、と愚痴っているということは…。モデルとやらは一回こっきりで済まないんですか?



「モデルかい? …何回か行くことになるんじゃないかな」
画家によるけど、と会長さんはグチグチグチ。
「肖像画ってヤツはイメージが大事って、この間の授業で習ってないかい?」
「「「え?」」」
そんな記憶はありませんでした。沢山の絵だの彫刻だのを見て回っただけで、説明の方は解説文を読んだだけ。何点かの作品の前で美術の先生が喋った中身も主に作者のプロフィールです。
「…なるほど、適当に見ていただけ、と…。ぼくは参加はしてないからねえ」
「かみお~ん♪ ブルー、面倒って言ってたもんね!」
「面倒な上に、特に美味しいネタも無いしね」
せめてお弁当を持ってお出掛けだったら、と言う会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は美術館には行っていません。面白みのない学校行事は全てスル―が会長さんの基本です。
「…というわけで、ぼくは行ってないけど…。肖像画はねえ、モデルの見たままをそのまま描くのは二流、三流。芸術の域に達するためにはイメージが命になるんだよ」
「「「…イメージ?」」」
「そう。モデルが売りたいイメージだね。美人をアピールしたいと言われれば何割増しかで美人に描くっていうのが常識。実物よりも美人に描いてある肖像画の類は王道だよね」
「その手の話はよく聞きますね」
シロエ君が頷きました。
「お見合い写真代わりの肖像画を見て、美人の奥さんに決めたつもりが大ハズレだとか」
「うん。よくあったらしいトラブルだけどさ、美人に描くなんて序の口でねえ…。神話の人物に似せて描くとか、英雄風にとか、注文色々」
それを見事にこなした作品が芸術なのだ、と会長さん。
「こんな薄着と綺麗すぎる馬で険しい山が越えられるのか、って突っ込まれたら「無理!」としか言いようのない肖像画でもさ、イメージ戦略の一種なんだよ。コロコロに着ぶくれてロバに乗ってちゃ英雄なんかに見えないからね」
そういう芸術作品もある、と説明されて「ふうん」と納得。売りたいイメージで描くものでしたか、肖像画! それだと画家のプロ魂が凄くなるほどモデルも一度では済みそうになく…。
「そうなんだよねえ、顔はどうでもいいから全体の見た目をカッコ良く、なら一回こっきりで済むかもだけど…。どうせハーレイの注文だからさ、ぼくの魅力を最大限にとか言い出すんだよ。どうやったらそれが出来るのかなんて考えもせずに」
そして画家さんの仕事が増える、とブツブツブツ。確かにそういう注文をされても、画家さんの方だって困りますよねえ?



教頭先生が思い付いたらしい、会長さんの肖像画。それがどういう作品になるのか、全く予測不可能です。会長さんがイメージ云々と言い出す前には漠然と上半身を描いた絵くらいに思っていたのに、芸術作品となれば話は別で。
「やっぱアレかよ、あのソルジャーの衣装で描くのかよ?」
サム君が首を捻れば、キース君が。
「それだけは有り得ないんじゃないか? あれだと教頭先生のお好みから外れそうだぞ」
「だよねえ、英雄の方になるよね、あの服だとさ」
マント付きだし、とジョミー君。
「画家さん、ソルジャーなんて職業、知らないもんねえ…。王子様とかそっちの方で」
「そうよね、かっこいい絵が出来上がりそうね」
きっとポーズもそれなりよ、とスウェナちゃんが言い、マツカ君も。
「イメージが膨らんで小道具が付くかもしれません。剣とか、もしかしたら白馬なんかも」
「戴冠式まで行くかもしれんぞ」
キース君の意見に「おおっ!」と手を打つ私たち。そのイメージはありそうです。剣を片手にポーズもいいですが、戴冠式ってカッコイイかも…。
「だろう? そこまで行ったら教頭先生もダメ出しどころかゴーサインかもしれんがな」
「会長の顔さえ美人だったら、それなりにイイ絵になりそうですしね」
いけそうです、とシロエ君。
「会長もその方がいいんじゃないですか? 下手に美しさだけを追求した絵を描かれるよりは」
「…まあね。でもハーレイがどういう注文をするかだよ、うん」
ソルジャー服の線には期待していない、と会長さん。
「あれを着られれば画家さんがイメージを固める前にソルジャーの表情でビシッと決めてさ、凛々しい方向に持って行けるけど、ハーレイが用意しそうな服っていろんな意味で間違ってるしね…」
「まさかガウンは無いと思うが」
いくらお好みでも何かと物議を醸しそうだ、とキース君が応じれば、会長さんは。
「堂々と客間に飾ってあったらマズイだろうけど、寝室だったら基本は誰も見ないしねえ? ゼルとかが踏み込んで見たとしてもさ、ケッタクソに叱られて終わりだよ、うん」
「…そういうモンか…」
「ぼくが一人でモデルをしたなら問題だけどさ、付き添いは大勢いたんです、って言えば厳重注意で終わる。エロ教師とかの罵詈雑言はハーレイはとうに覚悟の上だし」
そしてその手の服で来そうだ、とめり込んでいる会長さん。注文主は絶対でしょうし、イメージが大切ってことになったらガウンだと何が描き上がるやら…。



ソルジャーの衣装ならカッコイイ絵が出来そうなのに、教頭先生が用意しそうな衣装はガウン。会長さんに似合うと決め付けて集めてらっしゃるレースたっぷり、フリルひらひらの色とりどりのガウンってヤツは今までに何度も見ています。
「ああいうガウンで描くとなったら、ブルーのイメージ、間違わねえか?」
サム君の問いに、シロエ君が。
「間違うでしょうけど、教頭先生のお好みにはピッタリ合いそうですよ」
「ぼくは断りたいんだけどねえ…」
そのイメージは、と会長さん。
「だけど画家さんは一般人だし、その前で派手に大ゲンカはねえ…。いっそ最初からソルジャーの服を着て行こうかとも思うんだけどさ、そしたら刷り込みでいけるかも、と」
「刷り込みか…」
いけるかもしれん、とキース君が腕組みしています。
「最初に颯爽と現れたなら、その後にどんな格好をしてもイメージってヤツは覆らないかもしれないな」
「そうですね…」
マツカ君も少し俯き加減で考え中。
「たとえガウンを着せられたとしても、描き上がった絵が女装と言うより男装の麗人風って言うんですか? 凛々しさが先に立つ絵が仕上がるかも…」
「ですね、上手く行ったらガウンが消滅するかもですよ」
レースたっぷりが何処へやら、とシロエ君。
「モデルのイメージではあっちの方が、とソルジャー服をゴリ押しするとか」
「いいじゃねえか、それ!」
ソルジャー服で出掛けようぜ、とサム君が膝を叩きました。
「どうせ瞬間移動で出掛けるんだろ、教頭先生の家までは? 着替えさせられる前に画家さんに顔を見せとけよ! ソルジャーの服で!」
「やっぱりそれが良さそうかい? そうしようかな…」
「俺も大いに賛成だな」
「ぼくも賛成!」
キース君にジョミー君、その他全員、ソルジャー服に清き一票。妙な肖像画が出来上がるまで付き合うよりかはカッコイイ絵が断然いいです。それにすべし、と方向性が決まった所で。
「…そうか、そういうモノなんだ?」
「「「!!?」」」
誰だ、と一斉に振り返った先に、只今噂のソルジャーの衣装。なんでこの人が来るんですかー!



いきなり現れたソルジャー服のお客様。紫のマントを翻して部屋を横切り、ソファにストンと腰掛けたソルジャーは、当然のようにパウンドケーキを要求しました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が紅茶とセットで用意をすると、満足そうに。
「うん、美味しい! …それで肖像画を描くんだって?」
「描くんじゃなくって、描かれる方だよ!」
実に迷惑な話なのだ、と会長さんは文句たらたら。
「美術観賞に行ったくらいで感化されないで欲しいんだけど、思い付いちゃったものは仕方ない。どう切り抜けるかで相談中!」
「らしいね、この服でカッコ良さを演出するとか言ってたし…。で、カッコイイわけ?」
どう見える? と微笑むソルジャー、右手にティーカップ、左手にフォーク。フォークの先には齧りかけのパウンドケーキが刺さっています。
「「「………」」」
せめてカップかフォークかどっちかにしろ! と突っ込みを入れたい気分でした。ソルジャーの仕草は優雅ですけど、礼儀作法はイマイチどころか破壊的と言っていいレベル。ソルジャーに言わせれば「マナーなんぞを気にしていたら生き残れなかった」らしいんですけど…。
「その沈黙は何なのさ? カッコイイんだろ、ぼくの格好」
「ポーズが全くなってないから! 最悪だから!」
紅茶とケーキを同時に食べるな、と会長さんが怒鳴り付けました。
「両手に食べ物ってマナー違反だよ、それでカッコイイも何もないから!」
「えーっ? ナイフとフォークは両手じゃないか」
「そっちは元からセットものだし! 言ってるそばからやらなくてもいいっ!」
しかしソルジャー、ケーキをモグモグ、紅茶もズズッと。
「パウンドケーキに紅茶って合うよ、しかも胡桃と相性最高!」
ここは一緒に頬張るべき、と食べる姿はカッコ良さとは対極に位置する光景です。この人だけは肖像画のモデルをしに行く時には排除せねば、と互いに頷いていると。
「…カッコ悪いと思ってるだろ、ぼくは普通にしてるのに! でもねえ…。カッコイイとか悪いとかって、顔が同じで同じ格好でも変わるんだったら、人が違っても変わるよね?」
「「「は?」」」
「いや、イメージで描くって言ってたからさ…。同じブルーでもカッコ良かったり、美人だったりと変わるんだったら、カッコいいハーレイもアリかと思って」
「「「えぇっ?!」」」
それはどういう発想なのだ、と目を剥いてから気が付きました。ソルジャーはキャプテンと相思相愛、もしかしなくてもソルジャーの視点で見た場合には教頭先生だってカッコイイとか…?



会長さんがカッコイイならともかく、教頭先生がカッコイイ。それは絶対無いだろう、と反対したい所ですけど、相手は教頭先生そっくりのキャプテンとバカップル夫婦なソルジャーで。
「ハーレイもカッコイイと思うけどねえ、ぼくから見れば」
「それは君のパートナーのハーレイだろう!」
こっちのハーレイと一緒にするな、と会長さんは不機嫌MAX。
「同じ顔だろうが服装だろうが、ぼくはハーレイをカッコイイとは間違ったって思わないから!」
「そこをさ、カッコイイように見せるというのが肖像画ってヤツじゃないのかい?」
「絶対、無理っ!」
「…そうかなあ? でも、同じハーレイがお金を出すなら、君の肖像画よりもメリットが高いと思うけど? 君の肖像画でハーレイが惚れ直すとしても、元から君に惚れてるし…。その点、ハーレイの肖像画がカッコ良く仕上がって君が惚れたら素晴らしいよね」
ハーレイには断然、そっちをオススメ! とソルジャーは拳を握りました。
「高いお金を払った挙句に妄想の種を増やすよりはさ、此処は一発、勝負に出るべき! 自分をカッコ良く描いて貰って君のハートをガッチリ掴む!」
「うーん…。それで惚れるような安い人間ではないつもりだけど…」
でも、と思案する会長さん。
「ぼくがモデルで苦労するより、ハーレイを煽ててモデルをさせた方が面白いかな? どんな肖像画が出来上がるかにも興味があるし」
「教頭先生がアピールなさりたいポイントによって変わるんだろうな、絵の内容も」
俺も何だか気になってきた、とキース君が顎に手を当てました。
「やはり武道家としての凄さだろうか? 普段は謙遜なさって締めておられない赤帯を締めてポーズなさるとか、でなければ俺が投げられるとか…」
その一瞬を捉えた絵なら凄そうだ、と言われて頭に絵柄がポンッ! と。動きのある肖像画はカッコイイかもしれません。教頭先生のヘタレな面ばかり見て来てますけど、柔道の技は文句なし。キース君を投げた瞬間が絵になったならば、それは武道家の肖像画で…。
「「「…カッコイイかも…」」」
いいね! と頷き合う私たちの姿に、会長さんも「まあね」と肯定。
「その絵は確かにハーレイだとも思えないほどカッコイイ絵になるだろう。ぼくでも文句はつけられない。でもねえ…。面白いかと聞かれれば、ちょっと」
ぼくがハーレイに求めるものはタフさと同時に面白さ! と主張する会長さんにとって、教頭先生はオモチャ扱いです。面白みが無ければダメなんですか、そうですか…。



「だったらさ、その辺は後で考えるとして…。ハーレイの肖像画を描いて貰うって路線でどうだろう? ハーレイにとっては旨味があるし、君は頭痛の種が消えるし」
モデルをするのは嫌なんだよね、とソルジャーは会長さんに向かってパチンとウインク。
「ソルジャーの衣装で先手を打つとか、そういう努力をしなくて済むよ? 努力するのはあくまでハーレイ! 如何にカッコ良く描いて貰うか、君のアドバイスを参考にしつつ色々と!」
「…ぼくの肖像画を描かれるよりかはマシそうだねえ…」
それでいくか、と会長さんは壁の時計を眺めました。
「よし、夕食後にハーレイの家に押し掛けよう。モデルの返事は保留にしてたし、ブルーの意見で気が変わったということで…。ハーレイが描いて貰えばいい、って突撃あるのみ!」
「ちょっと待て! 俺たちもなのか?!」
キース君の叫びに「何か?」と返す会長さん。
「ぼくがハーレイの家に一人で行くのは禁止だよ? だからモデルをしに行く時にも頼む、って話だったよねえ? 当然、今夜も行って貰わないと」
「「「うわー…」」」
そんな、と不満を垂れ流しそうになった私たちですが。
「かみお~ん♪ みんなが来るなら御馳走しなくちゃーっ! 今から材料買うんだったらステーキもいいね♪」
マザー農場に行って美味しいお肉を分けて貰おうかなぁ? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。マザー農場の美味しいお肉って、高級店にしか卸さないという幻の肉じゃないですか! それのステーキが出るとなったら、会長さんの付き添いくらい…!
「「「喜んで!!」」」
何処かのチェーン店で聞いたような返事が景気良くハモり、ソルジャーもそれに乗っかりました。普段なら迷惑なソルジャーですけど、肖像画の件についてはキャプテンにベタ惚れのソルジャーが居た方が話が上手く進みそう。そもそもソルジャーが発案者ですし…。
「じゃあ、決まり! とりあえず、ぼくの家に移ってのんびりしようか」
ハーレイが家に帰るまでには時間があるし、と会長さんが言い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「うんっ! お肉を分けて貰ってくる間、お菓子を食べて待っててねー!」
昨日、クッキーを沢山焼いたんだよ、と聞いて歓声、拍手喝采。ソルジャーも「それ、お土産に分けてくれるかい?」と尋ねています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のクッキーは絶品、おまけにステーキの夕食も。教頭先生のお家くらいは喜んでお供いたします~!



最高級のステーキ肉を「そるじゃぁ・ぶるぅ」が好みの焼き加減に仕上げてくれて、大満足の夕食パーティー。気力体力もググンとアップで、教頭先生の家へいざ出陣! 会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、ソルジャーの青いサイオンがパァァッと溢れて…。
「な、なんだ?!」
教頭先生がソファで仰け反っておられます。夕食後のひと時、リビングで寛いでいらっしゃったようですが…。
「御挨拶だねえ、肖像画の件で返事に来たのに」
会長さんの言葉に教頭先生の顔が輝きました。
「モデルになってくれるのか!?」
「…それなんだけど…。同じ肖像画を頼むんだったら、モデルは君の方がいいんじゃないか、ってブルーがね」
「…は?」
怪訝そうな表情の教頭先生に、会長さんは「実はさ…」と先ほどの芸術談議を。
「つまりね、イメージが肖像画の命だったら、そこを活用すべきというのがブルーの意見。ぼくを描かせても、ぼくに対する君のイメージが劇的に変わるわけじゃない。せいぜい惚れ直すくらいかな? でもさ、君の肖像画なら君のイメージを思い切り変えられるかもね?」
ヘタレ返上! と会長さんが微笑み、ソルジャーも。
「そうだよ、君は本当はカッコイイんだとブルーの考えが変わるかも…。ブルーの肖像画でデレデレするより君の魅力をアピールすべき! 君のセールスポイントは何?」
「私のセールスポイントですか…。自信を持って人に誇れるのは柔道ですが、ブルーは柔道に特に興味は無さそうですし…」
「なんかキースが言ってたよ? キースを投げ飛ばす瞬間とかだとカッコイイだとか、そういう話になってたけれど…。ブルーもそれには異論が無さそう」
「本当ですか?!」
教頭先生、一気に自信が出たようです。
「柔道自体に興味は無くても、技を出せば惚れて貰えそうですか…!」
「どうなんだろうね、その辺は肖像画のモデルになるまでに考えるだとか言ってたけども…。どうする、君の肖像画にする? それともブルーの肖像画にする?」
ソルジャーの問いに、教頭先生はキッパリと。
「私のにします!」
そしてブルーにアピールです、と決意も新たな教頭先生。画家さんは既に話をつけてあるそうで、この週末でもオッケーだとか。会長さん好みの肖像画にすべく、教頭先生は「来てくれるな?」と会長さんにお伺い中。言われなくっても絶対来ますよ、オモチャにしたいみたいですしね?



翌日から私たちはソルジャーも交えて作戦会議。放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋からサッサと会長さんの家に移動し、ティータイムから夕食までを楽しく過ごしつつアレコレと。
「ハーレイの売りって柔道以外に何があるかな、古式泳法も達人だけど…」
泳ぐ姿は絵にならない、と会長さん。
「肖像画っていうイメージじゃないし、かと言って褌一丁で立たれるのもねえ…」
「それは何かが間違ってますね」
肖像画ではないですよ、とシロエ君。
「肖像画って顔がポイントでしょう? 肉体美とは別の次元です」
「顔と決まったわけでもないけど…。前にもチョロッと言ったけれどさ、顔の仕上がりはどうでもいいから全体の見た目をカッコ良く、っていう肖像画だってあるんだよ。そっち系で描かせていた人なんかだと肖像画の数だけ顔があったりしちゃうしね」
「「「へ?」」」
「基本の目鼻立ちは押さえていてもさ、仕上がりがいい加減だから…。どれが本当の顔だったんだか、今となっては謎ってケースも」
なんと、そういう肖像画が! イメージ戦略恐るべしです。カッコ良さを売るなら顔が一番と思ってましたが、顔は二の次、三の次。そこまでして描くカッコ良さって…?
「えっ、どういうカッコ良さかって? 馬に跨ってポーズを決めたり、騎士風に剣を翳したり…。でもハーレイにはどれもイマイチ不向きと言うか、コスプレにしかならないと言うか…」
「似合わないよね…」
それは分かる、とジョミー君。会長さんなら白馬に乗ったら王子様ですし、剣を持ったら騎士でしょう。けれども教頭先生の場合、どちらも仮装かコスプレの世界。
「…売りは筋肉だと思わないでもないんだけどね?」
ソルジャーが口を挟みました。
「ブルーとシロエは却下したけど、ぼくは褌一丁の絵でも構わないかな。だってね、ハーレイの売りは逞しさだよ? ぼくとの体格の違いにグッとくるんだ、特にベッドじゃ」
「その先、禁止!」
会長さんがビシッと遮りましたが、ソルジャーは。
「そっちの方には行かないよ。とにかく、ぼくなら肉体美だけでも惚れ惚れするね。あの体格の良さと筋肉を売りにしないでどうすると? 此処は肉体美で攻めるべき!」
「……お勧めは褌一丁なのかい?」
「それも何だか芸が無いねえ…」
筋肉を売りにする方法は、と額を集める私たち。ボディービルダーとか、そっち系かな?



ヒソヒソ、コソコソ、コソコソ、ヒソヒソ。ああだこうだと相談しまくり、ついに纏まった筋肉を売りにするポーズ。それを引っ提げ、私たちは週末の土曜日、教頭先生のお宅にお邪魔しました。
「「「おはようございまーっす!!」」」
ソルジャーもセットで瞬間移動。会長さんの家で遅めの朝食をたっぷり食べて元気一杯、声だって元気一杯です。
「おお、来たか。画家さんはもうすぐ来るのだが…。どうだろう、これでキマッているか?」
教頭先生は柔道着を着て赤帯を締めておられました。髪の毛の方もビシッと撫で付け、何処にも隙がありません。この格好でポーズをつけたら、キース君を投げなくってもカッコいい絵が仕上がりそうです。でも…。
「ダメダメ、それじゃイマイチどころか全然ダメだね」
会長さんが派手にダメ出しを。
「君の売りは其処じゃないだろう? ブルーが言うんだ、肉体美だ、って。鍛え上げられた筋肉を纏った身体を描かずして何を描く、ってね」
「うーむ…。もう少し胸元を開けた方がいいか?」
「そうじゃなくって! 下はそのまま履いてていいけど、上は脱ぐべき!」
でないと見えない、と会長さんに言われ、教頭先生はアタフタと。
「ぬ、脱ぐだと…? 肖像画だぞ!?」
「イメージが肖像画の命なんだって言わなかった? 君のイメージを売るんだよ! ぼくにはサッパリ分からないけど、ブルーが肉体美だと言ってる以上は筋肉なんだよ!」
出し惜しみせずにアピールしろ、と会長さん。
「でもって、ポーズは上半身の筋肉を見せつけるためにゴリラのポーズ!」
「……ゴリラ?」
「そう、ゴリラ! よく見かけるだろ、胸をボコボコ叩いてるヤツ!」
とにかく脱いでやってみろ、と会長さんは容赦しませんでした。そう、これこそが作戦会議で決まったポーズ。上半身裸で胸をボコボコ、いわゆるゴリラの決めポーズで…。
「……こ、こんな感じでいいのだろうか?」
上半身の道着を脱いだ教頭先生、両手の拳で胸をボコボコ。しかし…。
「それじゃゴリラになってない! もっと胸を張る!」
「こ、こうか?」
こうだろうか、とボコボコしてみる教頭先生の姿に、ソルジャーが。
「…いいねえ…。なんだかドキドキしてきたよ。筋肉の凄さをアピールするには最高かもね」
「そうですか? そう言われると嬉しいですね」
ボコボコ、ボコボコ、ゴリラのポーズ。やがて訪れた画家さんも、教頭先生の筋肉アピールにインスピレーションを受けたらしくて…。



「うんうん、凄くいい絵が出来たね。思った以上のカッコ良さだよ、ねえ、ブルー?」
会長さんが手放しで褒める教頭先生の肖像画。画家さんが何度も通って仕上げたソレは教頭先生の家のリビングに飾られ、今日は土曜日でお披露目の会にお邪魔しています。肖像画の言い出しっぺだったソルジャーも私服で参加していますけれど。
「……この背景は何なんだい?」
この家じゃないよね、と指差すソルジャーに、教頭先生が「ああ、それは…」と解説を。
「より雄々しさを高めるためにと、わざわざ描いて下さいまして…。これを描くのに植物園なども回って下さったらしいです。写真だけでは雰囲気が掴めませんからね」
「「「………」」」
そこまでするか、と画家魂に恐れ入る私たち。ただのジャングルだと思ってましたが、写実性の高さはプロならではの技らしいです。…そう、教頭先生の肖像画の背景は鬱蒼と茂ったジャングルでした。ゴリラのポーズを引き立たせるため、ゴリラが出そうな風景で。
「なるほどねえ…。おまけに岩の上で裸足なんだね?」
「ええ、裸足の逞しさを活かして描くにはゴツゴツした岩が良いとかで」
床や地面ではダメだそうです、と語る教頭先生は肖像画の出来に大満足の様子でした。会長さんにも褒めて貰えましたし、何より会長さん指定のゴリラのポーズ。それに相応しく岩とジャングルまで描いて貰って、後はアピールするだけで…。
「どうだろう、ブルー? これで私に惚れてくれたか?」
「…君にかい? …この絵は凄いし、カッコイイとも思うんだけど…」
実物がねえ、と会長さんは溜息を一つつきました。
「君がこの絵のとおりだったら、逞しくてワイルドな魅力ってヤツだ。…でもさ、本当にこの通りかい? こういうポーズを取らなくっても筋肉をアピール出来そうかい?」
「…そ、それは…。柔道部の部活を見に来てくれれば…」
「柔道部じゃ道着を着てるよねえ? この絵よりかは何割減だろ、それにジャングルも岩も無い。その状態で此処までの魅力は多分、出ないと思うんだけど…。この絵は本当にいいんだけどね」
筋肉の美しさに惚れ惚れしそう、と会長さんがホウと溜息。さっきの溜息一つとは違って熱い溜息というヤツです。
「肖像画どおりの君だったらねえ…。ブルーが惚れるのも少しくらいは分からないでもないかな、うん。でも肖像画ってヤツは芸術だからさ、何割増しかで描いてあるのが常識だしね」
「……つまりアピールは出来たんだな? この絵の私なら惚れるんだな?」
「うん、本当に素敵な絵だしね」
「よし、分かった!」
私も男だ、と教頭先生、肖像画のポーズとは違った意味で胸を叩いておられます。何が「分かった」で、どう男なのか、サッパリ見当がつかないんですが…。



「「「えぇっ?!」」」
あの肖像画で全て終わったんじゃなかったのか、と唖然呆然の私たち。教頭先生は会長さんに自分の長所をアピールなさって、それで満足なさったのでは…?
「違うね、ぼくも絵だけを褒めて終わった気でいたのにさ…」
「かみお~ん♪ ハーレイ、頑張ってるの! あの絵みたいになるんだってー!」
筋肉モリモリでムキムキなんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がポージング。小さな身体でポーズを取っても可愛いだけで、ムキムキも何も無いのですけど…。
「あのね、あのね! なんか色々と体操してるし、筋肉がつくお薬もー!」
ぼくもお手伝いしてるもん! と胸を張る「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、教頭先生が「筋肉づくりにいいらしい」と調べて来た食材の調理方法などを指導しているらしいです。
「せっかく栄養つけるんだもん、食事もバランス良くしなきゃ! お肉ばっかり摂ってもダメだし、お野菜も果物も大切なんだよ!」
スポーツ栄養学って言うの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は得意そう。教頭先生も柔道部を指導してらっしゃるだけに詳しいそうですが、今以上にパワーアップとなると孤独な戦いを続けるよりも、会長さんと一緒に暮らす「そるじゃぁ・ぶるぅ」とタッグを組みたいらしくって…。
「それでね、ブルーもお手伝い頑張ってるのー!」
「「「は?」」」
何故に会長さんが頑張るのだ、と会長さんの顔を見詰めれば。
「違う、違うってば、ぼくじゃなくって!」
「……呼んだかい?」
ヒョイと姿を現したソルジャー、小さな箱を抱えています。もしやブルーもお手伝いって…?
「ぼくだけど?」
ソルジャーはアッサリ答えてくれました。
「あの肖像画を目指すと言われちゃ、ぼくだって期待が高まるよ。運動の方は無理だとしてもさ、食事と薬でパワーアップが可能だったら是非とも応用しなくちゃね。ハーレイの肉体美に惚れたのは、ぼく! ぼくのハーレイがパワーアップしたら嬉しいし!」
これも大切な薬なのだ、とソルジャーが箱を開けると、中身は小さな瓶に入った液体だとか、いろんな種類の錠剤だとか。
「ぼくの世界で開発された筋肉増強用の薬を色々と…ね。ぼくのハーレイにも使ってみたけど、どうも効果がイマイチで…。こっちの薬と飲み合わせたら劇的な効果が出るのかな、って!」
「「「うわー…」」」
それは人体実験では、と言いたい言葉を必死でゴクンと飲み込みました。教頭先生が御自分の意志でガンガン試してらっしゃる以上は、実験じゃなくて試飲と呼ぶべき状態ですしね?



会長さんに褒められた筋肉をアピールな肖像画。そういう姿になりさえすれば会長さんが惚れてくれる、と頭から信じた教頭先生、運動に食事に筋肉増強用の薬に、と努力を重ねて頑張って。
「えっ、なんて?」
とある土曜日の午後、会長さんの家に教頭先生から電話がかかって来ました。
「まだまだダメだと思うんだけど…。そ、そう…。それじゃ今から行けばいいのかな、幸か不幸か、みんなもいるしね」
受話器を置いた会長さんは「あーあ…」と情けない声を。
「ハーレイが披露したいんだってさ、筋肉を! 是非来てくれと言ってきたから行くしかないね。こういう時に限ってブルーが居ないのが腹が立つけど!」
「…呼ぶ方がリスクが高いと思うぞ」
キース君が言えば、会長さんも。
「分かってる。週末に姿が見えないってことは特別休暇か何かなんだよ、よくあるパターンだ」
「そういうわけでもないんだけれど?」
「「「で、で、で…」」」
出たーっ! と響き渡った悲鳴。ソルジャーがニヤニヤしています。
「特別休暇は今日の夜から! どんなプレイを頼もうかなぁ、って朝から考えていただけで」
「それなら帰って考えたまえ!」
さっさと帰る! と会長さんが指を突き付けても、ソルジャーはフンと鼻で笑って。
「もう来ちゃったし! ハーレイの筋肉自慢だってね、どうせ暇だから見ておきたい。それにさ、ぼくが居ないと腹が立つんだろ?」
「…どっちでもいいよ、ぼくは思いっ切り疲れたし! せめて瞬間移動は手伝ってよね」
「それはもちろん。じゃあ、行くよ?」
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
タイプ・ブルーのサイオン、三人前。身体がフワッと浮いたかと思うと教頭先生の家に到着です。リビングで待ちかねておられた教頭先生、肖像画を前に自信たっぷり。
「見てくれ、あの絵に近付いたのだ!」
「…どの辺が?」
「見た目は大して変わらないのだが、パワーだな。昨夜、風呂場で気が付いたんだ。今の私はこう、筋肉に力を入れると!」
ワイシャツ姿の教頭先生がグッと胸を反らし、拳を握ってグググググ…と。おおっ、筋肉がシャツ越しに見ても盛り上がってますよ、それでこれから…?
「筋肉だけでシャツのボタンが弾け飛ぶのだーっ!!」
なんと、そこまで行かれましたか! 見に来た価値はあったかもです、シャツのボタンが…!



ブチブチブチッ! と音がし、弾け飛んでゆくワイシャツのボタン。アンダーシャツもベリベリと裂け、自慢の筋肉が現れました。肖像画並みとまではいかなくっても、これは凄すぎ。
「どうだ、ブルー! 私の本気を見てくれたか?」
「う、うん…。と、とりあえず…」
凄いね、と会長さんが告げたお愛想に気を良くなさった教頭先生、フンッ! と両足を踏ん張り、更に力を籠められた……のですけれど。
「「「え?」」」
ビリビリビリッ! と布が裂ける音。いったい何が、と思う暇もなく視界にかかったモザイクの場所は教頭先生のズボンの前で。
「何するのさーーーっ!」
会長さんが絶叫し、ソルジャーは目がまん丸に。
「ちょ、ハーレイ! これって何?!」
「し、失礼を…! す、すみません、私にも何がなんだか…!」
こんな所を鍛えた覚えは、と大慌ての教頭先生の前にソルジャーがストンとしゃがみ込むと…。
「副作用かな? それとも相乗効果かな? ズボンも下着も引き裂くようなパワーだなんて、これは研究しなくっちゃ。えーっと、気になる感度の方は、と…」
ちょっと失礼、とソルジャーの手にもモザイクがかかった次の瞬間、教頭先生は噴水のような鼻血を噴いて仰向けに倒れてゆかれました。ドッターン! と床と家とが揺れて…。



「…あーあ、これだけのパワーがあるのに、秘密が解明出来ないなんて…」
此処だけはビンビンのガンガンなのに、とモザイクのかかった辺りを眺めるソルジャーは心底、残念そう。教頭先生のズボンと下着を破ったモノとは、いわゆる大事な部分です。
「頭の打ちどころが悪かったのかな、それともパニックで消し飛んだかな? ハーレイが飲んだ薬とか食事の記憶が綺麗サッパリ無いんだけれど…。その記憶さえ残っていれば…!」
「君のハーレイで試せばいいだろ、適当に!」
このハーレイも持って帰れ、と会長さんが教頭先生をゲシッと蹴れば、ソルジャーは。
「嫌だね、ぼくのハーレイで実験する気は無いんだよ。こっちのハーレイで継続をお願いしたいんだけれど、してもいい?」
「却下!!」
こんな実験をされてたまるか、と会長さんは怒り心頭。
「ハーレイの記憶は消去するから、肖像画ごと! でないと迷惑なだけだから!」
「ええっ、芸術は残すべきだよ、こんなに素敵な肖像画だし!」
「君の眼にしかそう映らない!」
とにかく消す、と喚き立てている会長さんと、断固阻止を叫ぶソルジャー。私たちとしては肖像画も筋肉増強の妙な薬もこれっきりにして欲しいのですけど、どうなるでしょう? 筋肉とセットでオトナな部分がパワーアップって、二度と勘弁願いたいです~!




          魅惑の肖像画・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生の肖像画、素晴らしいのが出来たようですけど…。後が大いに迷惑なオチ。
 ちなみに「画家の数だけ顔がある」というのは実話。昔の肖像画は嘘八百が基本だとか。
 今月は月2更新ですから、今回がオマケ更新です。
 次回は 「第3月曜」 9月19日の更新となります、よろしくです~!

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 こちらでの場外編、9月は、秋のお彼岸の季節。はてさて今年はどうなりますやら。
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