シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
冷え込みがグンと厳しくなって、街にクリスマスのイルミネーションが輝き始める十二月。まだ始まったばかりですけど、今年のクリスマスパーティーはどうしようかと心が弾む季節です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」のお誕生日もクリスマスですし…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、なんだかフンワリいい香り。スパイシーなコレは、もしかして…。
「あのね、今日はね、うんと寒いからグリュ―ワインにしてみたの!」
赤か白かどっちがいい? と訊かれてワッと大歓声。グリュ―ワインはクリスマス用品を売るマーケットの名物だとかで、この季節にたまに出て来ます。え、学校でお酒なんか飲んでもいいのかって? 特別生でもそこは当然、禁止ですけど…。
「ぼく、赤で!」
「俺は白で頼む」
ジョミー君とキース君が早速注文、他のみんなも次々と。私は赤にしてみました。すぐにマグカップに注がれたホカホカのグリュ―ワインがテーブルに。
「ちゃんとアルコールは飛ばしたからね! 先生が来ても平気だよ♪」
「いや、それ以前に俺たちは一応、未成年だが…」
まあ俺は酒も経験済みではあるが、と言うキース君は大学を卒業しています。在学中も今も同期の人や先輩たちと飲むようですけど、お酒好きではありません。しかし…。
「ぶるぅ、ぼくのは煮すぎないでよ?」
ついでに赤で、と会長さんがニコニコと。
「ぼくも一応、未成年だけど三百年以上生きてるからねえ、ぶるぅと同じで」
「うんっ! ぼくの分と一緒に作ってくるねー!」
元気に返事する「そるじゃぁ・ぶるぅ」は六歳になる前に卵に戻ってしまいますから立派な子供。そのくせにチューハイなんかも大好き、年だけが二十歳を超えた私たちとは大違い。凄いなぁとは思いますけど、そのお蔭でお料理上手なのかも…。子供舌だと味見は難しい気がします。
「あのね、みんなのプディングもすぐに出来るよ♪」
グリュ―ワインにはクリスマスプディング! と飛び跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですが。
「ちょっと待ったぁ! ぼくにも赤で!」
でもってアルコールは飛ばさないで、と嫌というほど馴染んだ声が。紫のマントがフワリと翻り、会長さんのそっくりさんがしっかり湧いて出ましたってば…。
「うん、クリスマス前はやっぱりコレだね」
身体も心も温まるよ、とソルジャーは御機嫌で大きなマグカップを傾けています。私たちもアルコール抜きのを飲みつつ、出来たてのクリスマスプディングをフォークで切って…。
「プディングもいいけど、なんだったっけ…。ほら、アレ」
白い粉のヤツ、というジョミー君の言葉にマツカ君が。
「シュトーレンですね、あれも美味しいですよね」
「今年もちゃんと作ったよ! もう少し待てば美味しくなるし♪」
味が馴染むと美味しいもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。こんな調子でクリスマスのお菓子や御馳走だのの話になって、パーティーの料理の注文なんかも派手に飛び交っていたのですけど。
「…そうそう、パーティーと言えば、こっちのハーレイなんだけど」
ソルジャーの台詞に会長さんが「何?」と胡乱な視線。
「パーティーにはちゃんと招待するけど、正直、今は近付きたくない」
「あー、やっぱり……。そうじゃないかと思ってさ」
人肌恋しい季節だしねえ、とソルジャーは手袋を外した手をホットワインのカップで温めながら。
「なんか毎晩、寂しいキモチを噛み締めているみたいじゃないか」
「自業自得だよ、独り寝が寂しいと愚痴るんだったらサッサと結婚しとけばいいんだ」
「…嫁に行く気になったわけ?」
「まさか!」
ぼくを外せば候補は大勢、と会長さんは吐き捨てるように。
「ハーレイが気付いていないだけでさ、いろんな意味でハーレイの嫁の座は美味しいんだよ。あのガタイだから筋肉好きには憧れな上に、柔道と水泳の評価も高い。ついでにシャングリラ学園の教頭となれば嫁に行って損は無いってね」
その気になれば嫁は来る筈なのだ、と会長さん。
「ハーレイにその気が全く無いから誰も紹介しないだけ! ずっと昔にゼルとヒルマンがお見合いを仕組んだことがあったろ? あの時だってちゃんとお相手が見付かったしさ」
「ああ、アレね! 君たちが派手にブチ壊したヤツ!」
ソルジャーはお見合い騒動の一部始終を知っていました。当時から既に出入りしてましたし、根掘り葉掘り聞いていたのです。
「結局アレだろ、君もハーレイが結婚するのはイヤなくせにさ。つくづく歪んだ愛だよねえ…」
「愛なんか無いっ! ぼくはオモチャを失くしたくないだけ!」
結婚されたらオモチャに出来ない、と唇を尖らせる会長さんですが、それは歪んだ愛なんじゃあ?
歪んだ愛だの愛は無いだのと会長さんとソルジャーの舌戦を他所に私たちはグリュ―ワインのおかわりを。先の注文とは違う色にしたり、同じだったりとバラエティー豊か。
「美味しいですねえ…」
本当に気持ちがホッとしますよ、とシロエ君がコクリと飲めば、サム君も。
「美味いよなあ! なんかあっちは喧嘩だけどよ」
「酔っ払ってはいないよねえ?」
あの程度でさ、とジョミー君がチラリと目をやり、キース君が。
「あいつらはハッキリ言ってザルだぞ、樽で飲んでも酔わんと思うが」
「うわー、そこまでかよ! 樽で飲むのかよ」
なんか姿が目に浮かんだぜ、と呻くサム君。
「今年のクリスマスパーティー、樽が出そうな気がしねえでも…」
「かみお~ん♪ ワイン、樽で買っとく?」
「いや、それだけはやめておいてくれ!」
飲んだくれが揃うと何が起こるか、とキース君が大袈裟にブルブルと。
「あいつらに加えて教頭先生と向こうの世界のそっくりさんと…。その四人は確実に飲むからな。誰かが潰れないという保証は無いんだ、騒ぎは勘弁願いたい」
「そうですね…。樽はとっても危険そうです」
やめときましょう、とシロエ君が相槌を打った時。
「何が危険でやめときたいって?」
奇遇だねえ、とソルジャーが割って入って来ました。
「こっちもそういう話なんだよ、やっぱり危険でなんぼじゃないかと」
「「「は?」」」
「だからさ、人肌恋しい季節! 独りで寂しいこっちのハーレイに心温まるプレゼントを」
「しなくていいっ!」
会長さんの怒声が響き渡って、「おっと」と首を竦めるソルジャー。
「いい話だと思うんだけどねえ、危険なんかは全く無いし」
「ありすぎだってば!」
まかり間違って乱入したらどうしてくれる、と会長さんは眉を吊り上げていますけれども、何の話かサッパリです。何が危険で何が乱入…?
互いに別の話をしていただけに、「危険」と「やめておきたい」というキーワード以外は共通点が見付からないという状態。ソルジャーが何を話しているのか謎としか言えない私たちですが。
「えーっと…。もしかしなくても分かってないねえ、ぼくたちの話」
ソルジャーの問いに、キース君が。
「俺たちは聞いていなかったからな。それにあんたの心は読めん」
「了解、それじゃ手短に! 要はさ、こっちのハーレイに見学させてあげようかと…。ぼくのハーレイとぼくとの熱い夜をさ」
「「「!!!」」」
あまりのことに私たちは声も出ませんでした。それをいいことにソルジャーは…。
「あ、君たちも感動した? ホント、この季節は心も寂しくなるから、せめて妄想のお手伝い! ぼくの世界のぶるぅに任せればシールドの方もバッチリだしね」
ベッドごと見学会に参加はどうか、とニコニコニコ。
「盛り上がってくれば自分のベッドで色々出来るし、いい思い出になると思うよ」
「危険すぎるし!」
絶対反対、と会長さん。
「ハーレイはヘタレが基本だけれども、馴染んだベッドごとの移動となったら妙なスイッチが入るかも…。勢いづいて乱入しちゃったら大惨事だよ!」
「そうかなぁ…? ぼくは全然かまわないけど」
むしろ歓迎、と笑顔のソルジャー。
「ハーレイが二人って憧れなんだよ、ぼくのハーレイは後で文句を言いそうだけど…。ぼくを誰かとシェアする趣味は無いらしいしね。でもさ、その場では絶対、燃える筈!」
「君のハーレイがどうこう以前に、ぼくが怒るし!」
ハーレイは万年童貞でこそ、と会長さんは自説をブチ上げました。
「オモチャ扱いしていられるのはヘタレだからで、ヘタレっぷりを維持するためには童貞が必須! 君を相手にヤッちゃったら最後、ぼく相手でもヤリかねないし!」
「それも素敵だと思うけどねえ、君だってきっと新たな世界が見えてくる筈で」
「ぼくは根っから女好き! 女性専門!」
ハーレイとは趣味が合うわけがない、とバッサリ切り捨てる会長さん。
「というわけでね、君がプレゼントしたいと言っても見学会はお断りだから!」
「…そこの決定権、君じゃなくてハーレイにあると思うんだけど」
どうだろう? というソルジャーの台詞に会長さんどころか私たちもサーッと青ざめました。言われてみれば、その通り。会長さんがお断りでも教頭先生がオッケーしたら済む話では…?
なんとも凄すぎる落とし穴。私たちは完全に声を失い、会長さんもオロオロと。
「…そ、それは……。確かに君の言うとおりだけど、流石にそれは……」
「ハーレイがオッケーしないって? 有り得ないねえ」
むしろ喜ぶ、と指を一本立てるソルジャー。
「日頃あれこれと妄想している世界が形になるんだよ? おまけに人肌恋しい季節! これ以上のプレゼントは何処を探しても見付からないかと!」
「で、でも…。そ、そうだ、君のハーレイは見られていたらダメだったんじゃあ…」
「ああ、それかい? そこはシールドでバッチリだってば、乱入してきた時はその時!」
その場で大いに楽しめばいい、と言われましても危険どころか大惨事。せめて乱入不可な状態で覗きに行くとか、テレビ画面越しの生中継とか、そういう形で安全性を高めて欲しいものですが…。
「えっ、中継?」
ソルジャーの声にハッとしましたけど、ジョミー君たちもキョロキョロと。考えは同じだったみたいです。うん、中継なら絶対安心、間違えたって乱入不可能!
「うーん…。中継もいいけど、臨場感がイマイチだしねえ…」
「それで良しとしておきたまえ!」
ヘタレなハーレイにはそれで充分、と会長さん。
「覗き見気分で充分なんだよ、それ以上を望むのは贅沢ってヤツ!」
「…本物の覗きなら臨場感もタップリなんだけどねえ…。世界が別だと中継をしても…」
なんかイマイチ、とソルジャーはとても不満そう。
「覗きってヤツは壁一枚を隔ててとかが味わい深いんじゃないのかい? 前にノルディがそういう話をしていたけどねえ?」
「ノルディの話は聞きたくないっ!」
「そう言わずにさ。…一人エッチを目の前で観賞するのもいいけど、隣の部屋からコッソリ覗くのも美味しいものだとノルディが言ったよ? ぼくは見るよりヤる方がいいし、覗かないけど」
そういえば…、とソルジャーの赤い瞳が会長さんをハッタと見据えて。
「君って、こっちのハーレイを覗き見するのが好きだったっけね、一人エッチの観賞会とか?」
「な、な、な………!」
会長さんは口をパクパク、私たちの方は目が点です。一人エッチって何のことかと疑問でしたが、教頭先生の妄想タイムがソレですか…。
「そう、それ、それ! ブルーは大好きみたいだねえ?」
「そういう視点で見てるんじゃないっ!」
またしても始まる同じ顔同士の大喧嘩。意味の不明な専門用語も飛び交ってますし、ここは無視しておくのが一番!
我関せずとグリュ―ワインを味わい、クリスマスプディングのおかわりも。会長さんとソルジャーの不毛な喧嘩など知ったことか、と放置を決め込んでどのくらいの時間が経ったでしょうか。
「オッケー、それじゃそういうことで!」
会長さんがソルジャーと和やかに握手しています。
「ぼくの方こそ、前代未聞のチャレンジだからワクワクするよ。こっちのハーレイ、乗ってくれるといいんだけれど…」
「まず間違いなく乗ると思うよ、居ながらにして覗きが出来るんだから!」
「「「は?」」」
どういう話になっていたのだ、と頭に『?』マークが乱舞。いつの間に喧嘩が終わったんだか…。
「喧嘩ならとっくに終わったよ。落とし所が見付かったからね」
会長さんはとても楽しげな顔で、ソルジャーが。
「覗き穴を作ろうって話で決定したんだよ。ぼくの世界とこっちの世界を繋ぐんだ」
「「「えぇっ?!」」」
そんな方法があるんですか? ソルジャーと「ぶるぅ」はサイオンを使って空間を超えて来ますけれども、世界を繋ぐなんていうのも可能?
「やってみないと分からないけど、覗き見の応用みたいなものかな。ぼくがこっちの世界を覗き見してるのは知ってるだろう? ブルーも集中すればぼくの世界が見えるらしいし」
「…君のシャングリラの中だけだけどね」
「シャングリラだけ見えれば充分だってば! なにしろ覗きは青の間限定、それもベッドに限定だしさ」
其処に向かって穴を開ける! とソルジャーは拳を握りました。
「大切なのは「見よう」って気持ちと集中力だよ、それさえあれば穴は開けられると思うんだ。…固定できるかは分からないけど、やるだけやって損は無いかと」
「まあねえ…。穴を覗くのはハーレイだしね?」
失敗したって問題なし、と会長さん。
「穴がきちんと開かなくってもガッカリするのはハーレイだけ! それを肴に一杯やるのもオツなものだと思うしさ」
「ぼくとしては開けてあげたいけどねえ…。それで、いつ?」
「別に今日でもいいんじゃないかな、覗くだけだし」
週末まで待ってやらずとも…、と言う会長さんは思い立ったが吉日なタイプ。こうして覗き穴を開ける話はトントン拍子に実行へ向けて走り出したのでした。
完全下校の時間を待たずに瞬間移動で会長さんの家へ。寄せ鍋の夕食を囲む間に教頭先生も仕事を終えて帰宅で、夕食も済んだみたいです。会長さんの合図で私たちとソルジャー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は教頭先生の家のリビングへと瞬間移動で飛び込んで…。
「うわっ! な、なんだ?!」
ソファで仰け反る教頭先生に、会長さんが艶やかな笑みを。
「御挨拶だねえ、とびっきりの美味しい話を持って来てあげたっていうのにさ。…こんばんは、今夜も寂しい独り寝だって?」
「…ま、まさかお前が来てくれるのか?」
教頭先生の喉がゴクリと。この流れでは会長さんが泊まりに来てくれるものと勘違いなさるのも無理はなく…。
「そういうことなら大歓迎だが、もう少し早く言ってくれたら…」
「何か準備があったわけ?」
「いや、そのぅ…。お前と二人で過ごすわけだし、こう、美味い物を買っておくとか」
そして最高の夜にするのだ、と教頭先生は既に妄想の域に片足を突っ込んでらっしゃる様子です。けれど会長さんは人差し指をチッチッと左右に振って。
「残念だけれど、そこまでする気は無いんだな。…でもねえ、ブルーが君の境遇を憐れんでてさ。せめて覗き見はどうだろうか、と君には美味しい申し出をね」
「…覗き見?」
「そう、覗き見! 君の家からブルーの青の間まで穴を開けてさ、其処を覗けばブルーとあっちのハーレイが過ごすベッドを覗き放題っていう凄い仕掛けで」
「な、なんだって…?!」
教頭先生は覗き穴にマッハの速さで食い付きました。
「の、覗き放題とは本当なのか!?」
「うん、穴掘りが上手くいけばの話だけれど…。君が欲しいならブルーがチャレンジするらしい。こっちの世界とブルーの世界を繋げるかどうか、イチかバチかで。そうだよね、ブルー?」
「ぼくも初めてのチャレンジだしねえ、上手く行くかは謎だけど…。出来るかどうか此処は一発、思い切って穴を開けてみる?」
「是非!!」
光の速さで返った即答。教頭先生、自分が覗きを出来るかどうかのヘタレ具合も考慮していないに違いありません。覗くだけでも鼻血じゃないかと思うんですけど、覗き放題と聞けばガップリ食い付くこの凄さ。ベッドごと移動なコースだったら踊り上がって喜んでたかも…?
「…えーっと、何処に開けようか…」
やっぱり寝室? と教頭先生に尋ねるソルジャー。
「気分が盛り上がってきたらベッドに行けるし、その場でゴソゴソするとしてもさ、落ち着くのは多分、寝室だろうし」
「そ、そうですね…。リビングなどでは落ち着きませんし」
コーヒー片手に寛ぐ場所にはいいのですが、と教頭先生は慌てて付け加えました。そりゃそうでしょう、普段からのんびりしていらっしゃる場所がリビングです。其処が落ち着かないと言おうものなら会長さんにどう揚げ足を取られるか…。
「ふうん…。君はリビングでは落ち着かない、と」
案の定、会長さんが鋭い突っ込みを入れました。
「だったらリビングがいいんじゃないかな、少し正気を保てる場所が断然オススメ! 君は何かと言えば鼻血で、すぐに失神コースだし? せっかくの覗きを楽しみたいなら浸れない場所が良さそうだけどね?」
「…そ、それはそうかもしれないが…。こんなに広いとどうも気分が…」
「乗らないって? じゃあ仕方ないね、寝室コースで。ブルー、寝室の方で頼むよ」
「了解。二階の一番奥だね」
勝手知ったる他人の家。ソルジャーはスタスタと先頭に立ってリビングを出てゆき、階段を上って二階へと。後ろにゾロゾロと私たちが続き、教頭先生はもじもじしながら最後尾で。
「さーて、っと…」
バアン! と寝室の扉を開け放ったソルジャーは部屋中をグルリと見回しました。
「覗き穴の定番は壁だと聞くけど、此処じゃ隣の部屋が何かはハーレイは熟知しているし…。部屋じゃない方だと廊下か庭だし、壁じゃ気分が出そうにないね」
「ぼくもその辺は考えたんだけど、床じゃないかな」
床を指差す会長さん。
「…床? この下って何があったっけ? …って、普通に部屋だよ?」
サイオンで透視したらしいソルジャーが首を捻って。
「壁と同じで思い切り日常が見えそうだけど?」
「まあね。…でもさ、立って覗くより床に屈んで覗く方がドキドキしないかい? 君のベッドを上から覗く形でさ」
「なるほど! 壁だと横からの視点になるしさ、何処に繋ごうかと思っていたけど、上から覗くなら天蓋に繋げばバッチリだねえ!」
繋ぐ目標が決まっている分、穴を開けるのが楽らしいです。そうか、そういうモノなんだ?
教頭先生の寝室の床と、ソルジャーのベッドの天蓋と。繋ぐ対象を決めたソルジャーは教頭先生のベッドのすぐ脇の床に指先でクルッと輪を描きました。サイオンを乗せていたのでしょう。床に敷かれた絨毯の上に仄かに青く輝く線が…。
「こんなトコかな、ハーレイ、ちょっと」
ソルジャーは教頭先生に手招きをして、穴の縁へと屈ませてみて。
「…うーん、もう一回り大きめの方がいいみたいだね」
「いえ、これで充分、頭は入ると思うのですが」
「ダメダメ、どうせだったら上半身を突っ込めるほどの広さがいいよ。文字通りアレさ、身を乗り出してベッドを覗けるってもので」
「そ、それはいいかもしれませんねえ…!」
私たちという大勢のギャラリーの存在も忘れて、教頭先生は穴にすっかり夢中。ソルジャーが新たに描いてみせた円に身体を合わせて満足そうに。
「このくらいあれば良さそうです。肩も楽々、通りそうですし」
「オッケー! それじゃ試しに穴を開けてみるね」
ソルジャーの指が青い線の上をスーッと滑って、円を一周し終えた途端に床からパァッと青い光が立ち昇りました。一瞬、部屋中が青白い光に包まれ、思わず目を閉じてしまいましたが…。
「よーし、成功! これでどうかな?」
「す、凄いです…。これがあなたの世界の青の間ですか!」
おっかなびっくり穴を覗いた教頭先生、感無量。ソルジャーは得意げに胸を張り…。
「正確に言うとぼくのベッドの真上ってね。こっちからは穴が開いているけど、ベッドの天蓋は透視の形になっているから穴は無し! ぼくのハーレイもこれで安心!」
なにしろ見られていると意気消沈なタイプだから…、とソルジャーは深い溜息を。
「ぼくは見られていても平気で、ハーレイが意気消沈型だろ? 見られていることで熱く盛り上がるには程遠いんだよ、残念ながら」
せっかく穴を開けたのに…、と残念そうなソルジャーですけど、教頭先生は大感激で。
「いえ、もうこれだけで充分です! そして今夜から見せて頂けると!」
「穴を維持出来ればの話だけどね。ぼくも初めてのチャレンジだからさ、どのくらいの間この穴が開いているかが分からない。維持に必要なものは見当がつくけど、ぼくも忙しい身だからねえ…」
「必要なものとは何ですか?」
「精神力だよ、穴を繋いでおきたいという強い意志があれば開けっ放しにしておけるけど…」
正直、ぼくはそこまで穴に未練は無いし、と言うソルジャー。そりゃそうでしょう、覗かれていると盛り上がるんなら根性でキープするでしょうけど、無関係ならどうでも良さそう…。
覗き穴の維持に必要なものは精神力。穴を繋いでおきたいという思いさえあれば開けっ放しに出来るようですが、ソルジャーにそこまでする気は無くて。
「今日の所は開けた義理もあるし、ぼくの理性が続く間は穴のキープを約束すると言えれば格好いいんだけれど…。それも少々、自信が無くてね」
「そ、そうなのですか?」
さっきまで狂喜していた教頭先生、俄かに心配そうな顔。
「では、せっかくの穴が閉じてしまうかもしれないと…?」
「その可能性は大いにある。実際に穴を開ける前には楽勝かも、とか思ったけどねえ…。これが意外に集中力が要るんだな。今も心の一部で穴を意識していないとヤバイ状態」
思った以上に難しいらしい、とソルジャーは両手を広げて見せました。
「というわけでさ、君に覗きをサービスするなら急いだ方が良さそうだ。今日の所は失礼をして、ぼくのハーレイとベッドインってね」
それなら辛うじて間に合うだろう、とパチンとウインクするソルジャー。
「ハーレイはまだブリッジだけどさ、緊急事態だって思念を送ってサボらせる。その辺は多少の融通が利くし、ぼくがベッドで待機していれば直ぐに大人の時間ってわけ」
「…は、はあ……」
「急いで帰って、まずはシャワーだ。シャワーを浴びたら君へのサービスに裸でベッドへ」
「やめたまえ!」
せめてバスローブを着ておいてくれ、と会長さんが待ったをかけに。
「君の身体はぼくそっくりだし、その手のサービスはしなくていいっ!」
「え? でもさ、こっちのハーレイは鼻血体質で」
「ぼくの裸を見た程度では倒れないんだってば、腹が立つけど!」
無駄に美味しい思いをさせてたまるか、と拳を握る会長さんは教頭先生で遊ぶ気満々。穴からの覗きで失神させて笑い物にするのが目標だろうと思われます。それだけに余計なサービスは不要、自分そっくりのソルジャーのヌードは披露しなくてもいいらしく…。
「そうなのかい? …それじゃ裸は申し訳ないけど無しってことで」
「……そうですか…。私もブルーに嫌われることは避けたいですから仕方ありません」
肩を落とす教頭先生に、ソルジャーは「少しの我慢!」と親指を立ててみせました。
「ぼくのハーレイが来たら直ぐに脱ぐしね、でなきゃ脱がされるか、どっちかで裸! その後はもう、お待ちかねの覗き見タイム到来、穴が持つように祈っていてよ」
グッドラック! と教頭先生にエールを送ってソルジャーはパッと姿を消しました。自分の世界へ帰ったようです。つまりこれからシャワーを浴びて、ベッドに行くってことですか~!
ソルジャーが帰ってしまったことで我に返るかと思われた教頭先生、さに非ず。私たちがズラリ揃っているのに、いきなり穴にガバッと頭を。
「おおっ…! 本当に向こうが見えている…!」
素晴らしい、と独り言を漏らした教頭先生、心はすっかりソルジャーの世界。穴に頭を突っ込んだ以上、私たちの姿はもう見えません。
「…いいのかよ、これで?」
サム君が誰にともなく声を上げれば、キース君が。
「最初からそういう話だったし、こういうことでいいんだろう。で、俺たちは帰るんだよな?」
会長さんに向けての質問でしたが、それに返った答えはといえば。
「……まさか」
「「「は?」」」
まさかって、帰らずにこのままですか? 此処にぼんやり突っ立っていろと?
「此処で帰ってどうするつもりさ、これからが面白くなりそうなのに」
「し、しかしだな…!」
「どの段階で鼻血を噴くのか、それを見届けずに帰るだなんて…。どうせハーレイはぼくたちなんか見えていないし、その分、余計に楽しめるってば」
穴の向こうはぼくにお任せ! と会長さんの指がパチンと。教頭先生が覗き込んでいる穴のすぐ横に中継画面が出現しました。今の所は無人のベッドが映し出されているだけですが…。
「この景色だってレアものなんだよ。ぼくの力ではブルーのシャングリラを覗き見するのが精一杯だし、君たちに見せてあげることなんて絶対不可能。ブルーが穴を開けていったお蔭でこうして映せる。せっかくだからしっかり見る!」
「「「………」」」
言われてみれば超レアものの景色です。ソルジャーが住む世界についてはソルジャーが思念で伝えてくれるイメージくらいしか未だ見たことが無いですし…。それにしても青の間のベッドとやらは私たちの世界のものにソックリ、まさか此処まで似ているとは!
「青の間かい? シャングリラの設計図はブルーの世界から貰ったらしい、と何度も言っているだろう? だから青の間の構造も同じ、ベッドもそっくり同じってわけさ」
住んでいる人間が違うだけ、と会長さんが言った所へ人影が。シャワーを浴びて来たソルジャーがバスローブを纏って現れ、ベッドに腰掛けて手を振っています。
「あれってさあ…」
教頭先生にだよね? と、ジョミー君。私たちが頷き、教頭先生はグイと身体を乗り出しました。バスローブ姿のソルジャーを拝むだけでもそこまでしますか、そうですか…。
身を乗り出した教頭先生ですが、穴の広さにはまだ余裕が。上半身を突っ込めるサイズになっていますし、まだまだいけそう、と私たちがクスクス笑い合っていると。
「…い、いかん…! 穴が閉じそうになっているのか?」
教頭先生が慌て始めて、中継画面も少し画像がぼやけたような…。其処へキャプテンの姿が映ってソルジャーといきなり熱いキスを。もしかして画像がボケたのは…。
「ブルーの注意が穴から逸れたってことなんだろうね」
会長さんが腕組みをして。
「あの穴は本当に集中力が要るらしい。普段のブルーは、たとえヤってる最中だろうがシャングリラ中に張り巡らせた自分の思念を途切れさせないらしいけど…。そのブルーでもハーレイの姿を目にした途端に穴のキープがヤバイとなったら、この先は…」
「閉じちゃうわけ?」
ジョミー君の言葉を待つまでもなく、覗き穴の向こうの景色はどんどん薄れ始めてゆきます。何より穴の形の中継画面の縁が不安定に揺らぐ状態ですから、これはもう…。
「ま、待ってくれ! まだこれからだと思うのだが…!」
教頭先生が穴に頭を突っ込んだままで叫びましたが、ソルジャーに声は届かない模様。こちらからは穴が開いてますけど、ソルジャーのベッドの天蓋には穴なんか無いんでしたっけ…。そうする間にもキャプテンが船長の服を脱ぎ捨て、ソルジャーはバスローブを脱がされてしまい。
「…とりあえず君たちには此処までかな」
この先はちょっと、と会長さんが中継画面を消した途端に教頭先生の叫び声が。
「な、何故いい所で切れそうに…! 頼む、切れないでくれ、頼むから…!」
どうやら穴の向こうの景色も消えそうになっているらしいです。けれどソルジャーが頼りにならない以上は、此処まで覗き見出来ただけでも良しとしておいて頂くしか…。あれ? 会長さん?
「頑張ればキープ出来る筈!」
行け! と会長さんが教頭先生のお尻を蹴り飛ばしました。
「穴の維持には精神力! ブルーがアテにならない以上は自分でやればいいだろう!」
「む、無理だ、私にはそこまでは…!」
あら。教頭先生、ちゃんと話が通じてますよ? そっか、会長さんだからかな、覗き見したいソルジャーだって会長さんそっくりだからですし…。そんな教頭先生のお尻を会長さんはゲシゲシと。
「その穴、君の身体のサイズに合わせてあったんだよねえ? まずは身体で目一杯!」
身体を張って穴をキープだ、と蹴りまくられた教頭先生、身体を穴へグイグイと。上半身を全て突っ込んだ所で穴に余裕は無くなりました。…これでキープは出来るのでしょうか?
「どう、ハーレイ? ちゃんと見えてる?」
会長さんに訊かれた教頭先生のお尻が僅かに動いて。
「…う、うむ……。さっきよりはクリアになってきたようだ。おおっ!」
「ブルーとハーレイがヤッてるって?」
「いや、その段階にはまだ遠そうなのだが…。これはなかなか…」
「それは結構」
努力あるのみ、と会長さんが唇に笑みを湛えています。
「君の「見たい」という根性が穴の維持に大いに役に立つ。まだまだ見るぞ、もっと見るぞと燃えれば燃えるほど画面はクリアになる筈だ」
「…ほ、本当だ! す、素晴らしい…。ブルー、感謝する!」
「どういたしまして」
そう言いつつも会長さんの微笑みは冷たく、何やら良からぬ気配がヒシヒシ。穴に蹴り落とそうと思っているとか、そういう系の企みをしている顔ですけれど…。
「えっ、蹴り落としたりはしないよ、それはマズイし」
落ちたら最後、どうなるのやら…、と会長さんは顎に手を当てて。
「こっちの世界とブルーの世界の間に幾つの空間が存在するのか、ぼくにも全く分からない。この穴だって直通のように見えているけど、そうじゃないかもしれないんだよ」
「…あいつの世界に落ちるとは限らんというわけか…」
キース君の言葉に「そう」と頷く会長さん。
「他所に落ちてもブルーなら捜しに行けるだろうけど、ぼくには無理だ。ハーレイ絡みで借りを作るのは絶対嫌だし、落とすつもりはないけれど…。でもね」
「「「でも?」」」
いったい何が、と訊き返すのと、教頭先生の歓喜の声とは同時でした。
「よしっ、いよいよこれからか…!」
「ハーレイ、ブルーたちは何処までいった?」
「シッ! これからがいい所なんだ!」
「じゃあ頑張って見てることだね、気を失ったらおしまいだから」
クスッと笑う会長さん。
「その穴は君の身体と精神力とで持っている。ブルーの力はもう感じないし、君はいわゆる人柱! 君が失神してしまった時に何が起こるか楽しみだよね」
「な、なんだって…!?」
それは困る、と仰った教頭先生でしたけれども、その瞬間に穴の向こうで素敵な何かが起こったらしくて、そちらに魂を持ってゆかれてしまわれて……。
「……抜けないよ、これ」
「無理なようだな…」
ジョミー君とキース君とがギブアップをして、他の男子もお手上げ状態。教頭先生の上半身は絨毯に深く埋まったままで、お尻と両足が床に投げ出されています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が教頭先生の足の裏をチョンチョンとつつき、それから軽く擽ってみて。
「んとんと…。ハーレイ、ホントに気絶してるね」
「だから身体が抜けねえんだろ?」
どーすんだコレ、と嘆くサム君。
「教頭先生の上半身ってヤツは何処だよ、下の部屋から上を見たけど無かったぜ?」
「真面目に言うなら穴の中だよ、人柱としてキープ中!」
会長さんがニヤニヤと。
「たとえ身体は気絶してもね、サイオンはゼロじゃないわけで…。そのサイオンと身体の嵩とで例の穴をハーレイが維持してるわけ! だからハーレイの意識が戻れば、ハーレイには穴の向こうが見える。ブルーとハーレイがコトを終えてグッスリ寝てればいいけど…」
続きをしている真っ最中だと再び鼻血で失神コースなのだ、と会長さんは嘲笑いました。
「失神する前に身体を引っこ抜いたら人柱ではなくなるけどねえ、なんと言ってもハーレイだし? 素晴らしいモノが見られるとなれば後ろへ引くなんて絶対ない、ない!」
「「「………」」」
ソルジャーが覗き見用にとプレゼントした穴は、維持するために人柱が要る穴でした。そうとも知らない教頭先生、上半身を突っ込んだままで只今、絶賛失神中。意識が戻るのはいつか分からず、戻ったとしても穴の向こうでソルジャー夫妻が大人の時間をやらかしていたら…。
「…教頭先生、このままにしておいていいんですか?」
シロエ君の問いに、会長さんはニンマリと。
「世の中、穴の向こうに夢中になって詰まってしまうバカはいるものでねえ…。ぶるぅ、確かこういう熊がいたよね、穴に詰まってお尻が部屋に」
「かみお~ん♪ クマのプーさんだね! ハーレイ、プーさんごっこをしてるの?」
「本人に自覚は無いみたいだけど、どう見てもソレしか浮かばないかと」
せっかくだから飾ってしまえ! という会長さんの号令一下、私たちは家のあちこちから板だのテーブルクロスだのをかき集めて来て教頭先生の下半身を思い切り飾り立てました。それだけで済めばマシだったのに…。
「うん、いい感じに仕上がったねえ…。こんな芸術、壊しちゃったらもったいないよ」
壊す前にブルーに披露しなくちゃ、と会長さんは教頭先生が這い出せないよう下半身をサイオンでガッチリ固定。テーブルに仕立て上げられた下半身の上には大きな花器も乗っかっていて、会長さんが「少し早いけど」と生け込んだ葉ボタンや松などが。
「クリスマスが済んだらお正月だし、お目出度い感じで素敵だろう? ハーレイの家にこの手の花器があるとは思わなかったな、貰い物かな? ぼくの腕を披露出来て良かった、良かった」
坊主は華道も必須でねえ…、と自画自賛する会長さんはプーさんと化した教頭先生の現状をソルジャーに披露するまで救助する気は無いようです。
「…おい。明日は普通に学校がある日だと思ったが?」
キース君の言葉に、会長さんは「そうかもねえ?」と笑っただけ。
「ブルーは今夜は来ないだろうしさ、明日は無断欠勤ってコトで問題無いだろ。ひょっとしたらゼルかヒルマンあたりが様子を見に来るかもだけど…。見に来た時にはコレってね」
そして大いに笑われるのだ、と言い放った会長さんとプーさんごっこだと信じ込んでいる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の二人だけしか教頭先生を助けられる人はありません。覗き穴にはまった教頭先生、ソルジャーに生け花などを披露するまで詰まっているしかないようです。
「…やっぱり明日は欠勤かなあ?」
「欠勤でしょうね…」
確定ですね、とジョミー君に返すシロエ君。私たちは会長さんの会心の作の生け花をお尻に乗せた教頭先生に心で合掌、瞬間移動でサヨウナラ。人を呪わば穴二つとは言いますけれども、穴が一つでもイケナイ心で覗き込んだらヤバイってことでよろしいですか?
穴の向こうは・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
人を呪わば穴二つ。けれど一つでも危険すぎたのが、ソルジャーが作った覗き穴。
プーさんになってしまった教頭先生、いつまで覗きをするんでしょうねえ…?
シャングリラ学園、来月は普通に更新です。いわゆる月イチ。
次回は 「第3月曜」 10月17日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、9月は、秋のお彼岸の季節。またもスッポンタケの法要だとか。
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