シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
春はやっぱり桜が一番。今年は週末にバッチリ見頃になりました。会長さんのサイオン裏技で場所取り完璧、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の特製お花見弁当で食事も豪華に。その勢いで夜桜ライトアップまで粘って、打ち上げとばかりに会長さんのマンションへやって来たのですが。
「かみお~ん♪ コーヒーの人は手を挙げてーっ!」
「「「はいっ!」」」
パパッと上がった手を数えたら、お次は紅茶の注文取り。ホットココアなんかもあって至れり尽くせり、その中で…。
「ホットココアに砂糖多めで、ホイップクリーム山盛りで!」
「「「………」」」
どう考えてもソレは合わないんじゃなかろうか、と注文主に視線が集中。
「ん? 美味しいよ、豪華お好み焼き! それと焼きそば」
どっちも非常に捨て難い、と屋台グルメならぬ帰り道の店で買い込んで来た持ち帰り用の器をキープする人、その名も会長さんのそっくりさんのソルジャーです。私服でキメて来ていますけども、すれ違う人が思わず振り返る超絶美形がお好み焼きにホットココアって…。しかも激甘。
「もうちょっとマシなチョイスにしたまえ、飲み物くらい!」
会長さんが怒鳴り付けても何処吹く風。
「いいじゃないか、飲むのはぼくなんだしね? 美味しく食べて美味しく飲む!」
「はいはい、分かった。ぶるぅ、激甘ココアだそうだ」
「了解~♪」
キッチンへ跳ねて行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、間もなく全員分の飲み物を持って戻って来ました。ソルジャーの他にも面子は大勢、広いリビングは実に賑やか。
「はいどうぞ!」
「ありがとうございます」
コーヒーを受け取る私服のキャプテン。
「どういたしまして~! ゆっくりお泊まりしていってね!」
「お世話になります、よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げたキャプテン、今夜は私たちと一緒にお泊まり。大食漢の「ぶるぅ」も来ています。更には教頭先生までがお泊まり組で、これだけ聞けば大荒れしそうな感じですけど、何故か滅多に荒れないお花見。満開の桜は場の雰囲気も癒すのかも…。
「「「カンパーイ!!!」」」
紅茶やコーヒーで乾杯も何もないですって? いいじゃないですか、宴会、宴会!
夜桜の後も会長さんの家でワイワイガヤガヤ。ピザだ、うどんだ、いやラーメンだ、と夜食もお菓子もどんどん食べて騒いでいると。
「んーと…。ぼくね、この前、凄いもの見たの!」
唐突に叫んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」ならぬ悪戯小僧の「ぶるぅ」の方。ガツガツとピザを頬張りながらの台詞です。
「「「凄いもの?」」」
「うんっ! すっごく美人の!」
「「「美人?」」」
なんじゃそりゃ、と皆でオウム返しに返したら。
「凄い美人のブルーだったのーっ!!!」
「「「は?」」」
視線はもれなくソルジャーの方に。確かに美形は美形ですけど、見慣れた今ではどうと言うことも…。「ぶるぅ」はもっと見慣れている筈で、凄いも何も無さそうですが?
「…美人?」
ぼくが? と自分を指差すソルジャー。
「すっごく美人って、いつのことかな? それは是非とも参考に聞いておかないと!」
「えとえと、ブルーのことじゃなくって!」
「「「へ?」」」
今度は皆で会長さんの顔を眺めました。凄く美人って、会長さんが? けれど「ぶるぅ」は。
「そっちも違うーーーっ!!」
「「「ええっ!?」」」
ソルジャーでも無し、会長さんでも無し、されども凄く美人のブルー。そんなブルーが何処に居るのか、と暫し悩んでいたところ。
「察するに、それは夢オチだな?」
キース君がズバリと指摘しました。
「凄い美人のブルーが出て来る夢を見たってオチだろう?」
「違うよ、ホントに見たんだもん!」
「何処でですか?」
シロエ君の問いに、「ぶるぅ」はエヘンと胸を張り。
「シャングリラ!」
「「「シャングリラ?」」」
なんだ、やっぱり夢オチってヤツじゃないですか! シャングリラ号とソルジャーや会長さんはセットもの。夢と現実を混同するって、小さな子供にありがちですよね?
夢オチだったか、と回れ右とばかりに宴会モードに戻ろうとした私たち。しかし「ぶるぅ」は「ホントなんだもん!」と脹れっ面で、放置した場合は大惨事っぽい予感がヒシヒシ。なにしろ悪戯小僧です。御機嫌を損ねたらどうなるか…。
「分かったよ。…何処で見たわけ?」
会長さんが尋ねました。宴会場かつお泊まり場所の提供者としては惨事を回避したいのでしょう。
「シャングリラだよ、何処のか分かんないけど!」
「「「え???」」」
「適当に飛んだら落っこちたの!」
きちんと目標を定めずに空間移動をしようとした「ぶるぅ」は、こちらの世界に飛び込む代わりに謎のシャングリラに落ちたのだそうで。
「こっちの世界にもシャングリラはあるって聞いていたから、それかと思って…。だったら見学しとこうかな、って歩いてたんだよ、船の中を」
「それで?」
会長さんが先を促し、ソルジャーが。
「其処に居たわけ? 凄い美人のブルーというのが」
「うんっ! こっちのシャングリラだったら青の間は誰もいないよね、って瞬間移動したら人がいたからビックリしてシールドで隠れたんだけど」
ふむふむ。誰もが興味津々です。別の世界とはまた面白いネタで。
「でね、シールドの中から覗いてみたらブルーがいたの! 用事があって来てたのかな、って思って見てみたんだけど、なんか違うし…」
「美人だったわけ?」
このぼくよりも、と会長さん、些か不満そう。自分の美貌に絶大な自信を持っているだけに、同じ顔形で「凄い美人」と称される別の世界のブルーとやらに対抗心を燃やしているのでしょう。
「んとんと、ブルーよりも、ブルーよりも美人だったあ!」
「「………」」
ブルーの沈黙、二人前。会長さんとソルジャー、憮然とした顔をしています。
「なんでぼくより!」
「ぼくより美人って有り得ないだろ!」
同じ顔だ、とハモった声に、「ぶるぅ」は「でも…」と二人を交互に眺めてから。
「あっちのブルーが美人だった! すっごい美人!」
「「ちょっと!!」」
許すまじ、とばかりに「ぶるぅ」を睨み付けるブルーが二人。お気持ちはよく分かりますけど、凄い美人も気になりますよね?
自分の顔には自信満々の会長さんとソルジャーよりも美人だという何処ぞのブルー。青の間に居たということは間違いなく別の世界のブルーだったわけで、凄い美人だとはこれ如何に。
「ぶるぅ。…ちょっと訊くけど」
ソルジャーが「ぶるぅ」をジト目で見ながら。
「実はこっちのブルーだったってオチじゃないだろうね、特殊メイクの」
「特殊メイクって何さ! ぼくは素顔で勝負だってば!」
会長さんが喚き、「ぶるぅ」の方も。
「…特殊メイクはどうか知らないけど、こっちのブルーじゃなかったよ?」
「なんだ、特殊メイクかもしれないんだ?」
ホッと安堵の吐息のソルジャー。
「それなら美人でも分かるかも…。ぼくもブルーもメイクはしないし」
「えとえと、特殊メイクって、お化粧?」
「化粧の内に入るだろうねえ、塗るものが普通と違うだけでさ」
「…だったら特殊メイクじゃないかも…」
塗ってなかったし、と考え込んでいる「ぶるぅ」。
「頬っぺたとか唇とか綺麗だったけど、お化粧って感じじゃなかったもん!」
「…頬っぺた?」
「唇?」
ソルジャーと会長さんが顔を見合わせ、相手の顔のパーツをガン見してから声を揃えて。
「「なんかムカつく!!」」
「でもでも、美人だったんだもん! こんなのだもん!」
通じないことに業を煮やしたか、「ぶるぅ」が宙に噂のブルーの映像を。こ、これは確かに凄いかもです。会長さんたちと全く同じ顔形なのに、更に美しく透き通るような肌、ほんのり紅をさしているのかと勘違いしそうな桜の唇。それほどなのに、どう見てもすっぴん、ノーメイクで。
「「「……スゴイ……」」」
度肝を抜かれた私たちの横で別の反応が二通り。
「素晴らしすぎる…」
「ええ、本当に…」
凄いブルーです、とキャプテンと教頭先生が熱い溜息、その一方で。
「同じブルーで、なんで此処まで!」
「差がつくわけ!?」
許せねえ、と言わんばかりのブルーが二人。会長さんとソルジャーは映像の中の美人なブルーに牙を剥いてますが、そりゃまあ、こんなに差がついたら……ねえ?
凄い美人なブルーの証拠を示した「ぶるぅ」は映像をパッと消しましたけれど、収まらないのが二人のブルー。特にソルジャーは自分の伴侶なキャプテンが「凄い」発言をして教頭先生と共に見惚れていたのがショックだったらしく。
「…何か秘訣があるんだろうか?」
どう思う? と話を振った先は会長さんで。
「秘訣だなんて言われても…。美肌には規則正しい生活と栄養バランス…」
「その辺、ぼくはガタガタだよ! それでも君との差はついてないし!」
「…其処なんだよねえ、ぼくにもサッパリ謎なんだけど…」
他に何か、と会長さんの視線が私たちに。
「誰か知らない? 美肌の秘訣」
「あんたにだけは訊かれたくないが」
キース君が切り返しました。
「顔には自信アリなんだろうが! 俺たちに訊くな、俺たちに!」
「そうなんだけどさ、この際、何でも意見があればと」
「……サプリでしょうか?」
シロエ君がおずおずと。
「色々あると聞いてますから、あの世界には凄いのがあるかもしれません」
「なるほど、サプリか…」
「それはあるかも…」
至極真面目なブルーが二人。劇的に差がつくアイテムとなればサプリか、はたまた基礎化粧品か。でも、どちらにしても…。
「…あの世界にしか無いわけだよね?」
「無いんだよねえ?」
せめてサンプルの一つでもあれば、と超特大の溜息が二つ。サンプルさえあればソルジャーの世界で分析するとか、エロドクターに分析させるとか…。けれど「ぶるぅ」の空間移動は適当すぎて、件の美人が居たシャングリラには二度と辿り着けそうもないらしくって。
「…サンプルは無理か…」
「せめて盗み出しておいて欲しかった…」
どうして其処で悪戯小僧の本領を発揮しなかったのだ、と残念MAXな二人のブルー。
「他所のシャングリラだからと遠慮しなくても、派手にやらかしてくれればねえ…」
「いや、本当に…」
「えとえと、サンプル?」
サンプルって? と「ぶるぅ」が首を傾げました。
「なんか不思議なお薬だったら、勝手に貰って来ちゃったんだけど…?」
ちょろまかして来たという不思議な薬。それこそが美貌の秘訣なのでは、と私たちは考え、渦中の人な二人のブルーも当然のように思い至ったわけで。
「「それだ、ぶるぅ!」」
重なったブルー二人分の声に、「ぶるぅ」はキョトンと。
「サプリって、お薬のことだったの?」
「薬と言うのか、何と言うか…。とにかく飲んだらいろんな効果が!」
「そうそう、肌が綺麗になるとか!」
サプリは何処だ、と二人が詰め寄り、「ぶるぅ」は「えーっと…」と後ずさりながら。
「怒らない? …悪戯したって怒らない?」
「「怒らない!!」」
むしろ褒める、と二人がタッグ。何としてでもその薬を、と狙っているのが丸分かり。「ぶるぅ」は「分かった」と頷いてから「はい」と空間移動で大きな瓶を取り出しました。中には真珠のような色と形の錠剤がビッチリ、分析するには充分すぎる量があります。
「…こんなデカイのを盗って来たわけ?」
ジャムの徳用瓶もかくやな大きさの瓶。もっと小さい瓶は無かったのか、と突っ込みたい気持ちは分からないでもないのですけど、「ぶるぅ」は「うんっ!」と澄ました顔で。
「悪戯するならスケールはドカンと大きくだもん! あっちのハーレイ、凄く大事そうに持っていたから、小瓶を盗るより大瓶だもん!」
「「「…ハーレイ?」」」
凄い美人なブルー用の薬じゃなかったんですか、この大瓶。ハーレイと言えばもれなく船長、そんな人用の薬を盗っても何の役にも立たないんじゃあ?
「…ハーレイ用の薬だったか…」
「意味が無いねえ…」
バカバカしい、と二人のブルーが言った途端に。
「違うもん!」
ブルー用だもん、と「ぶるぅ」が敢然と反論しました。
「ハーレイがコレを飲ませてたんだよ、美人のブルーに! はいどうぞ、って!」
「「「は?」」」
何処のシャングリラかは分からないものの、船長が美人なブルーにお薬。それはサプリの一種であっても、どちらかと言えば栄養剤では…?
「…健康維持のための薬か…」
「それっぽいねえ…」
こりゃ駄目だ、と匙を投げてしまったブルーが二人。ところが「ぶるぅ」は「そうじゃないし!」と叫んで、真珠の粒が沢山詰まった大きな瓶をリビングのテーブルにドカンと置くと。
「栄養剤なんか盗らないもん! 不思議なお薬だから盗ったんだもん!」
「…不思議な薬?」
そういえばそういう話だったか、とソルジャーが首を捻りつつ。
「その薬はどう不思議なわけ?」
「えっとね、ハーレイがコレをブルーに飲ませるとねえ…」
「「うんうん」」
聞き入っている二人のブルー。ただでも美人な例のブルーが更に美人とか、そういう薬?
「もっと美人になっちゃうの!」
「なんだって!?」
「あれ以上まだ!?」
それはスゴイ、と食らいつく二人。サンプルは「ぶるぅ」が徳用瓶サイズでガッツリ盗み出しましたから、後は分析あるのみでしょうか。
「もっと美人になる薬ときたよ…」
「普段からそれを飲んでいるなら、あのレベルでも納得かも…」
是非飲むべし、と意見が一致するブルーが二名いるのですけど、「ぶるぅ」が「うーん…」と。
「ホントに飲むの?」
「「飲む!!!」」
「…飲んでもいいけど、胸がおっきくなっちゃうよ?」
「「「胸?」」」
二人のブルーに私たちの声も加わりました。胸が大きくと聞こえましたが?
「うん、胸が大きくなるお薬なの!」
「「「はあ?」」」
「だからね、ブルーの胸がうんと大きくなるの! そしたらハーレイが服を脱がせて」
「ちょ、ちょっと待った!」
会長さんが「ぶるぅ」を制止してから。
「そ、それはもしかして女性並み? あのブルーはまさか女になるとか?」
「うんっ!」
元気よく返事した「ぶるぅ」の声に全員、ドン引き。まさかまさかの性転換薬、それが目の前の徳用瓶だと…?
よりにもよって女性になる薬。美人になるのも納得です。日頃からそんなアヤシイ薬を飲んでいたなら、効き目が切れている時にだって美人要素を引き摺るでしょう。男性と女性、どちらがお肌がしっとりツヤツヤ、唇の色も美しいかは考えるまでもないことで…。
「……お、女……」
会長さんの声が震えて、ソルジャーが。
「ぶ、ぶるぅ…。そのハーレイは、まさか女のぼくを…」
「なんか大人の時間だったよ、すっごく胸のおっきなブルーと!」
「「「うわー…」」」
ひでえ、と誰が言ったのか。教頭先生とキャプテンも眉間の皺を深くしながら。
「…それは立派な変態ですね…」
「まったくです。わざわざブルーに薬を飲ませて女にするなど、変態でしか有り得ませんよ」
そりゃそうだろう、と私たちも頷いたのですけれど。
「………ん?」
一番最初に矛盾に気付いたのが会長さんで。
「薬を飲ませて男を女に、というのは確かに変態だけどさ…。ぼくもドン引きしちゃったけれども、それって結果は普通じゃないかな?」
「「「普通?」」」
「うん。…男同士の方が変だよ、男と女なら普通だってば!」
「「「あー…」」」
それはそうかも、と目から鱗がポロリンと。凄い美人の男なブルーと大人の時間をやらかすよりかは、女なブルーとやっている方が普通かもです。してみれば、例の薬を美人なブルーに飲ませる船長、至って普通な趣味の持ち主なのかもで…。
「…変態ってわけじゃなかったんだ?」
ジョミー君が言い、サム君が。
「言われてみればそうかもなあ…。いやまあ、俺は男のブルーの方が好みだけどよ」
「サム先輩もそっちの人ですしねえ…。でも、普通だったら其処は女ですよ」
シロエ君の指摘に、マツカ君も。
「…性別を変える件はともかく、普通は女性が相手ですよね?」
「真っ当な趣味をしているのかしら、ぶるぅが見てきた別の世界のハーレイって人は?」
スウェナちゃんの意見は至極正論、性転換の件さえなければその船長はいわゆるノーマル。教頭先生やキャプテンなどより正常な人になるわけで…。
「変態どころか正常ねえ…」
だけど理解の範疇外だ、と会長さん。それはどういう意味合いで…?
「えっ? まず一番はハーレイとやろうって辺りだよ、うん」
会長さんは凄い美人なブルーの嗜好を真正面から否定しました。
「ハーレイなんかが趣味っていうのが理解出来ない。しかもハーレイがノーマルだからって、自分の性別まで変えるなんてねえ…。いやもう、変態はブルーの方かと」
「その点は同意」
深く頷いているソルジャー。
「この身体でヤッてなんぼなんだよ、なんでわざわざ女になるわけ? おまけにハーレイの好みで女になってるわけだろう? ぼくは受け身はお断りだってば!」
自分の意志で女になるならともかく、とソルジャー、ブツブツ。
「凄い美人は羨ましいけど、女はねえ…」
「ぼくも美貌は羨ましいけど、そこまでしてねえ…」
リスク高すぎ、と二人のブルーの意見が一致。ところが人数がこれだけいれば、ズレている人もいるわけでして。
「…私も同じ意見だな。お前は断然、男でないと」
教頭先生が会長さんの肩をガッシリと掴み、真剣な愛の告白を。
「女になってくれとは言わない。…確かにあれほどの美人は捨て難いのだが、女となったら興醒めだしな。お前は今のままがいいんだ、俺は男のお前が好きだ」
「ちょ、ちょっと…!」
「だからだ、あそこの薬を飲まなくてもいい。お前は今のままで充分、美人だ。女なお前より断然、男だ。…是非とも嫁に来て欲しいのだが」
「お断りだし!」
この変態が! と会長さんは教頭先生の腕を振りほどくと。
「君の場合はその変態を治すべきだね、その方がいい」
「女になってくれるのか?」
「なんでそういうことになるのさ!」
都合のいいように解釈するな、と柳眉を吊り上げる会長さん。
「ぼくが女に変化するより、最初から女性を探したまえ! 君に釣り合う女性ってヤツを!」
「私にはお前しか考えられん。だからだな、お前が女になるというなら私もこの際」
「……この際?」
「女なお前を相手に出来るよう、自分をキッチリ鍛えるまでだ!」
教頭先生の思考は斜め上というヤツでした。まずは会長さんありき。会長さんが男だったら最高であって、万一、女になってしまったなら、自分の好みを変えるんですか、そうですか…。
「うーん…。ある意味、天晴れだよねえ」
ソルジャーがしみじみ呟きました。会長さんは教頭先生の発言のズレっぷりに頭を抱えて呻いていますが、ソルジャーにとっては違ったようで。
「ハーレイ、今のを聞いたかい? ブルーが男であるのが一番、それがダメなら自分もそっちに合わせるそうだ。…お前の場合はどうなんだろうね、ぼくが女になってしまったら?」
「努力します!」
キャプテンは即答、ソルジャーはそれは満足そうに。
「なるほど、お前も努力をする、と。…ぼくも大いに愛されてるねえ」
「もちろんです! 一刻も早く元に戻るよう、あらゆる努力を惜しみません!」
「…元に戻る?」
「そうです、早く男に戻って頂きませんと!」
グッと拳を握るキャプテン。その表情は先ほどの愛の告白な教頭先生と同様、とても真剣なのですけれど。
「…ぼくに男に戻れって?」
「はい! でないと大いに楽しめませんし!」
「…ちょっと待って。それって、お前が楽しめないっていう意味なんじゃあ?」
「あなたもです! 萎えたままでは如何なものかと!」
ヌカロクどころではありませんし、と謎の単語を発したキャプテンに向かって、ソルジャーが氷点下に冷えた瞳で。
「…萎えたまま? つまり、女のぼくでは欲情しない、と」
「当然でしょう! 男のあなたが最高なんです、女では気分が乗りません!」
男が最高、と讃える所まではキャプテンも教頭先生と同じ。ただ、その先が違いました。女だったらそれに合わせて自分を変える、と言ってのけたのが教頭先生、元に戻す努力をすると答えた方がキャプテンで…。
「分かった。…要するに、お前は自分の好みが優先である、と」
良く分かった、とソルジャーの声は絶対零度な氷の響き。
「お前の好みに合わせるために、ぼくの性別を変化させるというわけだな?」
「い、いえ、そうではなく…! あなたは本来、男ですから、元に戻すと…!」
「いや、違う。女になったぼくに合わせるつもりは毛頭無くて、自分自身が萎えないようにと女のぼくを男にするんだ。…それは凄い美人なぼくを作ったという変態と同じレベルだけど?」
ぼくの身体を自分好みにカスタマイズ、とソルジャーはキャプテンに指を突き付けました。
「ぼくの身体より自分が優先、もう最低な変態だってば!」
女になった相手に合わせて自分を変えるか、相手の身体を元に戻すか。どっちの方が変態なのかと尋ねられても困ります。世間一般には男と女で、自分を変えても女相手が正しい選択。しかし元から男同士のカップルの場合、元に戻して男にしないと変態じみたことになるかも…。
「とにかくお前が変態なんだよ、間違いない!」
それは絶対、と主張するソルジャーが正論なのか、はたまた女になった会長さん相手でも努力あるのみと言い切った教頭先生が変態なのか。教頭先生とキャプテン、どちらが真の変態なのかは判定が難しすぎました。でも…。
「変態と言ったら変態なんだよ、お前の方が!」
ギャーギャーと喚くソルジャーはキャプテンを変態と決め付け、夫婦の危機というヤツです。此処はキャプテンの肩を持たないとヤバイのかも、と思えてきました。
「…どうすりゃいいんだ、この状況を」
キース君がヒソヒソ声で尋ね、シロエ君が。
「いっそ飲ませたらどうでしょう? 例の薬を」
「「「えぇっ!?」」」
「シーッ! 聞こえたら命が無いですよ?」
お静かに、とシロエ君が声をひそめてヒソヒソヒソ。
「今は机上の空論ですから、マズイ方向にしか行かないわけで…。実際、薬を飲んでしまったら分かるでしょう。そのままの状態で夜を過ごすか、何が何でも元に戻すか」
「しかしだ、元に戻す薬は無いんだぞ?」
其処をどうする、とキース君。
「あいつがそのまま女だったら、俺たちの命は確実に無い」
「その内、勝手に元に戻りますよ。ぶるぅが盗ってきた薬の量の多さからして、効果があるのは長い時間ではない筈です。せいぜい一粒で一晩かと。…それと飲むのはお任せコースで」
「「「お任せコース?」」」
「ぼくたちが飲ませたら殺されますよ? 自分で飲んで頂きましょう」
ちょっと煽って、とシロエ君は恐ろしいことを言い出しました。
「どのくらい愛されているのか試してみれば、と横から煽れば飲みますよ」
「…し、しかし…」
あいつが女に、と腰が引けているキース君。私たちだって同様でしたが、そんな状態がソルジャーにバレない筈がなく。
「……面白そうな相談だねえ?」
赤い瞳が私たちをひたと見据えました。もしかして人生、終わりましたか…?
「ふうん…。実際に飲んでみて愛を試す、と」
面白い、と真珠そっくりの粒が詰まった瓶を手に取るソルジャー。
「女になっても愛せるかどうか、そこの所を確かめるんだね?」
「…ま、まあ…。そういうトコです……」
間違ってません、とシロエ君。ビッシリと汗をかいてますけど、ソルジャーの方は涼しい顔で。
「そうだってさ。はい、ブルー」
どうぞ、と瓶を差し出した先には会長さんが。
「とりあえず君が飲んでみたまえ、君なら問題ないだろう? こっちのハーレイは究極のヘタレ! 君が女に変わった所で急にコトには及べない。女になった君を相手に熱烈な言葉を吐けるかどうか、そこだけ分かれば充分だよ、うん」
「な、なんでそういうことになるわけ!?」
「君だと実害ゼロだから! こっちのハーレイが熱い台詞を吐いていようが、女の君を押し倒したりは出来ないし…。君もハーレイも変な趣味に目覚める心配は全く無いよね」
其処の所を是非確かめたい、とソルジャーは会長さんに詰め寄りました。
「でもって君のハーレイの愛が実証されたら、ぼくのハーレイは愛情不足! 男のぼくしかダメというのはよろしくない。結婚までした夫婦だよ? 許されないとは思わないかい?」
「だ、だったら君も飲むんだろうね? 許されないなら!」
「なんで?」
これ以上夫婦の危機を深めてどうする、というのがソルジャーの意見。
「ただでも夫婦の危機なんだよ? これで女になったぼくを相手にヤれないとなったら最低最悪、もう別れるしかないんじゃないかと!」
「じゃ、じゃあ、ぼくにだけ飲ませてどうするつもりさ!」
「えっ? そりゃもう、あの愛の深さを見習えと! 冷え切った夫婦の仲を燃え上がらせるべく今夜は励めと!」
ねえ? とソルジャーはキャプテンに視線を向けました。
「こっちのハーレイに愛の深さで負けたとなったら、お前には後が無いわけだしねえ? もうヌカロクは基本中の基本、今夜は徹夜で励むしかないと思うけど?」
「は、はいっ! 頑張らせて頂きますっ!」
「うんうん、その勢いで男のぼくを相手に、ね。…というわけで、ブルー、よろしく」
夫婦の危機を回避するための着火剤になれ、とソルジャーは瓶を会長さんに突き付けました。
「一錠、飲んでみてくれる? 美人になれるのは間違いないしね」
飲めば美人になる薬。凄い美人が出来上がるものの、もれなく胸がついてくるとか。それも立派な女性の胸で、どうやら男が女になってしまうという薬。いくら実害ナッシングでも、会長さんが女になりがたるわけがなく…。
「嫌だってば! ぼくは飲まない!」
「凄い美人になるんだよ? 君も見ただろ、あの美人を! 羨ましいって言ったじゃないか!」
「言ったけれども、それとこれとは話が別で!」
飲む、飲まないで押し問答になりつつある中、ソルジャーがキラリと目を光らせて。
「嫌なら口に突っ込むまでか…。サイオン勝負なら、ぼくに分がある」
「ちょ、ちょっと!」
「自発的に飲むか、飲まされるかの違いだってば! どっちがいい?」
「どっちも嫌だーーーっ!!」
必死に逃げを打つ会長さんと、瓶を片手に「さあ飲め」と迫るソルジャーと。サイオン勝負なる言葉が出た以上、会長さんの負けは見えていました。サイオンで口を開けさせられて薬を一錠放り込まれるか、口の中にポイと瞬間移動か。
「…ま、マズイですよ、このままだと…!」
「シロエ、お前が言い出したんだぞ!」
「そんなことを言ってる場合じゃないですってば、キース先輩!」
なんとかしないと、と叫ぶシロエ君を筆頭に焦りまくりの私たち。このまま行けば会長さんは凄い美人で女なコースへまっしぐらです。それが分かっているのか否か、女でもそれに合わせると言い切っただけに気にしていないのか、動かないのが教頭先生。
「ブルーへの愛はどうなったのさ!」
助けに来れば、とジョミー君が毒づく声すら聞こえているのかサッパリ謎。腕組みをして見ているだけで、止めるわけでもなさそうで…。
「誰か助けてーーーっ! ぶるぅーーーっ!!」
会長さんの悲鳴に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が動きかけると、ソルジャーが。
「ぶるぅ、これは美人になる薬! ブルーも欲しいと言っていただろ、そういうサプリ!」
「え? でもでも、ブルー、嫌がってるよ?」
「それは副作用があるからで! 知っているだろ、副作用を恐れちゃ薬は飲めない」
「そっかあ! 風邪薬とかで眠くなるよね♪」
分かったぁー! とアッサリ丸め込まれて、タイプ・ブルーな援軍、轟沈。ソルジャーはウキウキと瓶の蓋を開けにかかりました。もうダメだ、と私たちが目を瞑りかけた時。
「ブルーーーっ!!!」
マッハの速さでソルジャーにタックルをかました人影。よろけたソルジャーの手から瓶を奪い取り、キュキュッと蓋を開けるその人は…。
「「「教頭先生!?」」」
「ブルーが危ないのはよく分かった。嫌がっているのも分かったのだが、どうするべきかで悩んでな…。この薬さえ無かったならば!」
「「「…無かったならば?」」」
読めない教頭先生の行動。ソルジャーもポカンと眺めるだけで、瓶を取り返しには行かないようです。教頭先生は蓋を開けると、会長さんにニッコリ微笑みかけました。
「これさえ無ければブルーの身体が危機に陥ることはない。私が全部消し去ってやる」
「…ど、どうやって?」
会長さんの疑問はもっともなもの。教頭先生に瞬間移動の技は無い上、あの錠剤を燃やしたりする能力も皆無の筈ですが…?
「分かり切っている、こうするまでだ! 飲んでしまえば何も残らん!」
「「「えぇぇっ!?」」」
ザラザラザラ…ッと瓶から溢れた真珠の粒が、教頭先生が大きく開けた口の中へと。まさかまさかの教頭先生が凄い美人で、おまけに胸までドッカンですか? しかも徳用瓶じみた大きな瓶に一杯分だと、効き目はいつまで続くのやら…。
「つまんなーーーいっ!!!」
真っ白な灰になりかかっていた私たちの耳に届いた「ぶるぅ」の叫び。パアァァァッ! と青いサイオンが迸り、部屋が一瞬ユラリと揺れて。
「「「…い、今のは…?」」」
そして教頭先生は、と目をやった先に先刻までと寸分違わぬ大きな姿。美人でもなく大きな胸も無く、何処から見ても立派な男性。ただ、違っている点が一つだけ…。
「あれっ、薬は?」
ジョミー君がキョロキョロ、教頭先生も自分の手をじっと見詰めて「どうなったのだ?」と。薬の瓶がありません。真珠の粒がビッチリ詰まった徳用瓶が影も形も…。
「飛ばしちゃったもん!」
なんか面白くないんだもん、と「ぶるぅ」がプウッと頬っぺたを膨らませて。
「ブルーが美人になる薬なのに、ハーレイが美人じゃつまんないし! もっと面白くなりそうな所に飛ばしたんだもん、美人になれます、って!」
「「「………」」」
それは何処だ、と訊きたい台詞を全員がグッと飲み込みました。なにしろ相手は災難を運んでくる薬。何処かへ消えたなら万々歳で、触らぬ神に祟りなしです…。
こうして迷惑な薬は消え失せ、お花見の夜は更けて無事にお開き。ソルジャー夫妻は自分たちのゲストルームに引っ込み、「ぶるぅ」は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と土鍋を並べてお泊まりで。
「…ハーレイ、一応、御礼は言っとく」
助かった、と会長さんが教頭先生に差し出したものは花見団子の残りを盛ったお皿でした。
「これ、ぼくの気持ち。…夜食に食べてよ、これくらいしか無くってごめん」
「い、いや…。お前が無事ならいいんだ、うん」
「ありがとう。これも綺麗に食べてくれると嬉しいな。明日になったら乾いてしまって味が落ちるし、美味しい間に…。此処のはホントに美味しいんだよ」
遠慮しないで、と極上の笑みの会長さん。教頭先生は恐縮しつつも御礼を言っておられますけど、心の中では泣いておられることでしょう。甘いものが苦手な教頭先生、花見団子は一つも食べておられません。それなのにお皿に山盛りだなんて…。
「ハーレイ、ホントにありがとう! 朝になったら御礼に緑茶を運んであげるね、その時にお皿を下げるから!」
「「「………」」」
鬼だ、と私たちは顔を見合わせました。会長さん手ずから目覚めの一服は嬉しいでしょうが、それまでに花見団子を完食の刑。身体を張って会長さんを救おうとしたのに、この始末。これでは例の薬を本当に飲んで女性化してても、ロクなことにはならなかったような…。
何処かのシャングリラから「ぶるぅ」が盗んだ、凄い美人なブルーとやらが出来上がる薬。何処へ消えたかも大騒ぎすらも遠いものとなった数日後の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋にソルジャーがフラリと現れました。
「こんにちは。…この前の薬、覚えてる? ほら、凄い美人なぼくが出来ると噂のアレ」
「ああ、アレな」
見付かったのか? とキース君が訊けば、ソルジャーは「まあね」と頷いて。
「ぶるぅの人選は見事だったよ、お蔭でぼくのシャングリラは笑いの渦だ」
「「「は?」」」
「特にブリッジと機関部が酷い。なにしろゼルがフサッてるから」
「「「へ?」」」
なんのこっちゃ、と首を傾げた私たちですが。
「分からないかな、ゼルがフサフサなんだってば! ゼルの頭にフサフサと毛が!」
「「「えぇっ!?」」」
「ぶるぅはゼルが美人になったら笑えるだろうと単純に考えただけらしいんだけど…。モノが女になる薬だけに、女性ホルモン爆発なのかな? もうアフロかっていう勢いでフサフサなんだよ」
こんな感じ、とソルジャーが見せてくれた映像の中には頭がモコモコの羊状態なゼル先生ならぬゼル機関長が立っていました。髭は直毛、ソルジャーの記憶では若い頃には癖毛じゃなかった筈のゼル機関長が真っ白なアフロヘアーでモコモコ、フワフワ。あまつさえ…。
「本人、この薬のせいで生えてきたって分かってるからガンガン飲むしね? すっかり美人になってしまって、どうしようかと…」
「……これは酷いね……」
会長さんが打った相槌のとおり、ゼル機関長は美老人と化していました。
「ね、君だってそう思うだろ? でもねえ、ゼルはまずは髪の毛らしいんだ。それであちこちで言ってるんだよ、「フサりたいけど女はキツイのよ~」って! 「キツイのう」ですらない状態」
「「「うわー…」」」
御愁傷様としか言いようのない事態になったようです。ソルジャーは懸命に「ぶるぅの悪戯だから」と火消しをしているらしいですけど、最悪の場合はシャングリラ中の記憶消去しかない模様。
「……最悪ですね?」
シロエ君が呟き、キース君が。
「いや待て、ブルーが女よりかはこっちの方が…。いや、しかし…」
変態カップル登場がマシか、美老人なゼル機関長か。どちらも記憶を消去するしか後始末が出来そうにありません。「ぶるぅ」が盗んだ妙な薬と、凄い美人なブルーが住むというシャングリラ。二度と遭遇しませんようにと祈るより他は無いような…。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…。
飲んで美人に・了
※新年あけましておめでとうございます。
シャングリラ学園、本年もよろしくお願いいたします。
新年早々、強烈な話でスミマセンです、でも、こういうのがシャン学というヤツですから!
「女体化の危機か」と思われた方もあるかもですけど、「その趣味は、ねえ!」と。
来月は第3月曜更新ですと、今回の更新から1ヶ月以上経ってしまいます。
よってオマケ更新が入ることになります、2月は月2更新です。
次回は 「第1月曜」 2月6日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、1月は、除夜の鐘の存在意義と「ありよう」を巡って論争中…。
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