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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

眼鏡で素敵に

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




シャングリラ学園、今日も平和で事も無し。ソルジャー夫妻や「ぶるぅ」を交えてのお花見も終わり、年度始めの賑やかな行事なんかもおしまい、平常授業が始まっています。出席義務の無い特別生の私たちは例によって律儀に出席ですが…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
授業、お疲れ様! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれる放課後。このためだけに毎日登校、授業を受けているわけで。
「今日のおやつは桜イチゴのムースケーキなの!」
「「「桜イチゴ?」」」
そんなイチゴがあっただろうか、と驚きましたが、桜は桜でイチゴはイチゴ、という答え。
「あのね、桜の花と葉っぱの塩漬けのムースと、イチゴのコンポートを重ねてあるの!」
でもってスポンジもほんのり桜の香り、と運ばれて来たケーキは桜のピンクとイチゴの赤との二段重ねで、スポンジ台。これはとっても期待出来そう!
「えとえと、キースたちが来たら切ろうかな、って…」
待てない人はこっちをどうぞ、と桜のパウンドケーキまでが。どっちも食べたい気分です。パウンドケーキを薄く切って貰うことに決め、ジョミー君たちと味わいながら待っている内に。
「すまん、待たせた」
「遅くなっちゃってすみません」
キース君にシロエ君、マツカ君の柔道部三人組が壁をすり抜けて入って来ました。桜イチゴのムースケーキが切られて、柔道部組には「お腹空いたでしょ?」と焼きそばなんかも。
「ああ、すまん。…まあ、今日はそれほど練習の方はしてないんだがな」
「そうなの?」
だけどいつもの時間だよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「練習しない日はもっと早くない?」
「そうなんだが…。今日は新入生の指導をしていたからな」
「お稽古じゃなくて?」
「稽古もつけたが、それよりも前に相談といった所だろうか」
ちょっと人生相談を…、という話ですが。入部早々に人生相談って、クラブ辞めますとでも言われましたか?



特別生であるキース君の裏の顔と言うか、本当の仕事は副住職。お父さんのアドス和尚が住職を務める元老寺のお坊さんのナンバー・ツーです。お坊さんは二人だけですけれど。
職業柄、ボランティアにお出掛けなどもよくあるのですが、柔道部で人生相談とは…。
「壁にブチ当たった新入生でもいたのかよ?」
えらい早さでぶつかったな、とサム君が。
「普通、もうちょっと後じゃねえのか、ゴールデンウィークが明けた頃とか」
「そういう壁ではないからなあ…」
「でもよ、人生相談なんだろ?」
そう聞いたぜ、と訊かれたキース君は。
「ああ、ルックスのことでちょっとな」
「「「ルックス!?」」」
ルックスと言ったらアレなんでしょうか、いわゆる外見。早くも女の子に振られてしまって落ち込み中とか、これからアタックするに際しての心得を訊きに来ていたとか…?
「いや、まあ…。それに近いと言えば近いか…」
「素早いねえ!」
もう女の子に目を付けたんだ、とジョミー君。
「それってブルーも真っ青じゃない? シャングリラ・ジゴロ・ブルーも顔負け」
「だよなあ、半端ない早さだぜ」
頑張れっていった感じだよな、とサム君も言ったのですけれど。
「そうではなくて、だ。…今後の人生について、ちょっとな」
「でも、ルックスって…」
「そいつにとっては人生がかかっているってことだ」
たかが眼鏡の話なんだが…、とキース君はフウと溜息を。
「「「眼鏡?」」」
眼鏡と言えばグレイブ先生。何かと言えば指でツイと押し上げるトレードマークの眼鏡ですけど、あれに人生がかかるって…なに?
「それだ、いわゆるトレードマークだ。イメージが大事と言うべきか…」
「新入部員に眼鏡の生徒がいたんですよ」
其処がちょっぴり問題で…、とシロエ君。柔道部に眼鏡で何が問題?



キース君たちがやってきたという人生相談。眼鏡をかけた新入生が対象だったようですが…。
「何故、問題なのか分からんか?」
柔道だぞ、とキース君はソファに座ったまま、手だけでスッと構えのポーズ。
「柔道で分からないなら、相撲でもいい。眼鏡の関取を見たことがあるか?」
「「「…眼鏡の関取?」」」
言われてみれば、そんな力士は目にしたことがありません。幕内だろうが幕下だろうが、テレビの向こうは眼鏡なんかは無い世界。
「ほら見ろ、眼鏡の力士はいないだろうが。柔道だってそれと同じだ」
「要するに危険なんですよ」
割れますからね、とシロエ君が。
「それに割れなくても、ある意味、危険物ですから。自分もそうだし、相手もそうです。試合にしたって稽古にしたって、眼鏡は凶器になり得るんです」
「「「あー…」」」
確かに、と頷く私たち。眼鏡自体が割れなくっても、ウッカリ飛んだら怪我をするとか、色々と危なそうなもの。それで眼鏡の新入生に注意をした、と…。
「そういうことだ。だがな、今までの学校とかで言われていないらしくてな…」
「なら、眼鏡無しでも見えてるんじゃないの?」
きっとそうだよ、とジョミー君。
「授業中だけかけているとか、そういう人は少なくないしさ」
「そいつも今まではそうだったらしい。しかし、受験を控えて夏休みを最後に柔道は中断したらしくてな…。その間に学習塾などに通いまくって視力の方が…」
「今は見えにくいらしいんですよ」
健康診断でも引っ掛かったそうで…、とシロエ君が。
「日常生活に必須なトコまで来てるようです、彼の近眼」
「それはキツイかもね、眼鏡無しだと…」
ちょっと想像つかないけれど、と眼鏡の世界なるものを思い浮かべているらしいジョミー君。私も考えてみましたけれども、視界がぼやけてしまうんでしょうか?
「そのようだ。そいつも今では外すと俺たちの顔もぼんやりとしか見えないらしい」
「マズイよ、それじゃ!」
そんなので柔道が出来るわけ? というジョミー君の疑問はもっともなもの。その新入生、大丈夫ですか?



「…大丈夫じゃないから人生相談になるんだろうが」
そして時間を食われたのだ、とキース君の口から再び溜息。
「教頭先生が大先輩かつ顧問の立場で仰ったんだ。柔道部への入部を諦めるか、眼鏡をやめてコンタクトレンズにすべきだ、とな」
「コンタクトレンズもハードの方だと外れやすいとかで…。ソフトレンズで、と仰いました」
そうなんですが…、とシロエ君も溜息を。
「自分のイメージが崩れてしまう、と心理的な抵抗が大きいようで…」
「けどよ、今まで眼鏡で柔道やってたんだろ?」
サム君の問いに、マツカ君が。
「柔道の時だけ眼鏡を外していたらしいんです。で、今回も入部して来て、さて…、と練習に取り掛かったら見えにくかった、と」
「最初は俺たちも気付かなかったが、先輩たちの顔の区別がついていないと判明してな」
それで一気に明るみに出たのが今日だ、とキース君。
「教頭先生は「とにかくコンタクトレンズを作って来い」と仰った。そうでなければ入部は認められない、とな。しかしだ、それで今日の稽古から外されたそいつがドン底で…」
「ぼくたちの出番になったわけです」
苦労しました、とシロエ君からも嘆き節が。
「ソフトレンズはハードと違って、外したヤツを水で洗ってもう一度…、とはいかないそうで」
「消毒が必要なんですよ。ですから、柔道部のためにはめたら、はめっ放しに」
外せないんです、とマツカ君が説明したんですけれど。
「えっ、部活が終わったら外せばいいだけの話じゃないの?」
そう思うけどな、とジョミー君が指摘すれば。
「甘いな、新入生には朝練があるぞ。俺たち以外は基本、朝練がもれなくついてくる」
「そうなんです。つまり、朝練のためにはめたら、授業中もコンタクトレンズになるわけですよ」
マツカ君の解説に「あー…」と納得。眼鏡の新入部員とやらは学校では眼鏡無しになる、と。
「そういうことだ。それでイメージが崩れてしまう、と悩んでいてな…」
「眼鏡を捨てるか、柔道を捨てるか。そういった相談をしてたんですよ」
まさに人生相談でした、と柔道部三人組は酷くお疲れのようですが。眼鏡にこだわりの新入部員とやらは、キース君の「俺だって一度は坊主頭にしたんだ!」という強烈な体験談を食らって覚悟を決めて、コンタクトレンズを作りに行くとか。まさにめでたし、めでたしですね。



「…コンタクトレンズの覚悟はいいけど…。キースの坊主頭は反則…」
あれはサイオニック・ドリームだったし、とジョミー君がブツブツと。
「道場ではサイオニック・ドリームで誤魔化しておいて、学校は「これはカツラだ」って大嘘をついて今の髪型で来てたんだけどな?」
「細かいことはどうでもいいんだ、要は覚悟が決まればいいんだ!」
たかが眼鏡だ、とキース君が叫んだ所へ「こんにちは」の声。
「「「!!?」」」
誰だ、と振り返った先でフワリと翻った紫のマント。会長さんのそっくりさんがスタスタと近付いて来て、ソファに腰掛けて。
「ぶるぅ、ぼくにも桜イチゴのケーキ!」
「うんっ! それと紅茶で良かったよね!」
ちょっと待ってねー! とキッチンに駆けてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」。注文の品は直ぐに出て来て、ソルジャーがケーキにフォークを入れながら。
「…なんだか大変だったようだね、眼鏡の件で」
「そうなんだが…。あんたには分からん世界だろうな」
キース君が返すと、ソルジャーは「なんで?」と怪訝そうな顔。
「どうしてそういうことになるんだい?」
「あんたの世界は医療技術もグンと進んでいるんだろうが! たかが近眼、治せる筈だぞ」
「そりゃまあ、ねえ…。でもさ、君のクラブの新入部員じゃないけど、こだわるタイプはぼくの世界にだって多いんだよ」
ぼくのシャングリラにも眼鏡はある、と聞いてビックリ、SD体制とやらがはびこるシャングリラの外の世界にも眼鏡は大勢と知って二度ビックリ。
「…君の世界にも眼鏡がねえ…」
会長さんが「考えたことも無かったな」と頭を振っています。
「てっきり無いものだとばかり…。近視は治せるのに眼鏡なんだ?」
「そうなんだよねえ、ちょっとお洒落なアイテムとでも言うのかな? 嫌いな人はサッサと治してしまうんだけどさ、治さないままで眼鏡はいるねえ…」
それに対応した宇宙服まであるんだけれど、と聞かされて三度ビックリです。宇宙服を着ようって時にもヘルメットの下には眼鏡だなんて、柔道どころのレベルの話じゃないですってば…。



「ぼくはさ、眼鏡も特に問題は無いんじゃないかと思うけどねえ?」
新入部員のこだわりとやらも分かる気がする、とソルジャーは言うのですけれど。
「それは、あんたの世界ならではのグンと進歩した眼鏡だろうが!」
そう簡単には吹っ飛ばないとか割れないだとか…、とキース君。
「宇宙服の下でもオッケーとなれば、そういう眼鏡だ!」
「…どうなんだろうね、ぼくは眼鏡とは全く縁が無いからねえ…」
ぼくもハーレイも眼鏡は全く必要無いし、と呑気な返事が返ってきました。
「ぼくたちは揃って補聴器の方で、視力は至って普通なんだよ」
ついでに聴力もサイオンで補助は可能なわけで、と説明されずとも分かります。ソルジャーもキャプテンも、私服でこちらの世界に来た時は補聴器無し。それで不自由が無いのですから、もしかしたら視力もサイオンで矯正可能ですか?
「それはもちろん。人類だったら近視を治すには手術をするとか、毎日治療に通うとか…。だけどミュウなら近視のままでもサイオンで普通に見えるだろうね」
それでも眼鏡を選ぶタイプが何人か…、とソルジャーの証言。
「小さい間はサイオンを上手く使えない子もいるからさ…。眼鏡が必要な場合もあるけど、大きくなったらサイオンで自然と補えてくるし、それでも駄目なら手術もあるし」
なのに眼鏡が減らないのだ、と「こんな感じで」と思念で送り込まれたソルジャーの世界のシャングリラ。食堂の風景らしいですけど、確かに眼鏡が何人かいます。
「あの眼鏡はねえ、殆どの人は…度数って言うんだったっけ? 矯正用の仕掛けが入ったレンズじゃなくって、ただのレンズで伊達眼鏡なんだよ」
「「「伊達眼鏡!?」」」
「そう、かけてますって言うだけのお洒落アイテム! 眼鏡を外してもサイオンで見える!」
「「「うーん…」」」
そこまで眼鏡にこだわるのか、と私たちには理解不能な眼鏡を愛する人々の世界。でも…。眼鏡無しでも見えるんだったら、眼鏡の方に細工をしたらググンと拡大可能だとか?
「生憎とそういう眼鏡は無いねえ…」
その発想も無かったからね、とソルジャーは暫し考え込んで。
「…なるほど、眼鏡に細工をすれば拡大とかかあ…。それもいいかも…」
これを何かに生かせないだろうか、と腕組みまでして思案している様子。私、マズイことを考えちゃったわけではないでしょうね?



眼鏡、眼鏡…、と繰り返していたソルジャーですけど、突然、ポンと手を打って。
「そうだ、コレだ!」
「「「は?」」」
「いいと思うんだよ、サイオン・スコープ!」
「「「サイオン・スコープ?」」」
なんじゃそりゃ、と顔を見合わせる私たち。暗視スコープなら知ってますけど…。
「暗視スコープ? ああ、人類軍が使うアレかな」
暗闇でも見えるって装置のことかな、とソルジャーが訊いて、キース君が。
「ソレのことだが? もっとも、俺たちの世界じゃ平和にオモチャもあるんだがな」
「あったっけ?」
そんなオモチャ、とジョミー君。するとシロエ君が「知りませんか?」と。
「大きなチェーンのオモチャ屋さんだと置いてるんですよ。一時期、話題になりましたが」
「そうなんだ?」
「ええ。なんでも見え過ぎで服が透けるとか」
「「「服が!?」」」
どうしてそういうことになるのだ、と仰天しましたが、シロエ君曰く、仕組みの問題。なんでも物体が放出している熱赤外線とやらを可視化した結果、服の下にある人間の身体がスケスケに…。
「それって、とってもマズくない?」
犯罪だよ、とジョミー君が言った途端に、ソルジャーが。
「奇遇だねえ! サイオン・スコープもそういう結果を目指すんだけどね?」
「「「えっ?」」」
「ただしサイオンだからターゲットを限定することが可能! ブルーの服だけが透けて見えます、ってね!」
「「「ブルー!?」」」
ブルーと言えば会長さん。ソルジャーの名前もブルーですけど、この場合は多分、会長さん。その会長さん限定で服が透けるって、いったいどういうスコープですか!
「どういうって…。もちろんハーレイ用だけど?」
こっちの世界の、とソルジャーはサラッと恐ろしいことを。
「こっちのハーレイ、見たくてたまらないようだしねえ…。ブルーの服の下ってヤツを」
だからサイオン・スコープを作ってプレゼント! とカッ飛んだ方向へと飛躍した眼鏡。まさかソルジャー、本気でソレを開発すると…?



「ぼくは至って本気だけど?」
面白いし、とソルジャーは笑顔で会長さんに尋ねました。
「こっちのハーレイ、透視能力はどのくらい?」
「…お愛想程度のモノだと思うよ、うんと集中してギフトの紙箱が透けるかどうかってトコ」
「うんうん、基礎はあるんだね!」
だったら充分いける筈だ、と勝手に決めてかかっているソルジャー。
「ぼくのサイオンで補助してやればね、透視能力がググンとアップ! 眼鏡っていう媒体があればターゲット限定も何処まで見せるかも自由自在に調整可能!」
作ってくるよ、と盛り上がられても困ります。会長さんの服だけが透ける眼鏡を教頭先生に渡そうだなんて、それは明らかに犯罪なのでは…。
「えっ? ぼくはこっちの世界の人間じゃないし、犯罪も何も」
「ぼくが困るんだよ!」
なんでハーレイにサービスをせねばならないのだ、と会長さんが柳眉を吊り上げました。
「ぼくは自分を安売りする気は無いからね!」
「誰がタダだって話をしてた?」
「「「は?」」」
「当然、料金はガッツリ頂く!」
眼鏡の代金と調整料金、と妙な台詞が。
「「「調整料金?」」」
「そうだよ、度数をアップしたけりゃ追加料金が要るんだよ!」
最初は上着が透ける程度で…、とソルジャーは指を一本立てました。
「それもブルーが上着を着ていないから、ってシャツが透けるってわけじゃない。あくまで上着なら上着限定、その下のシャツも透けさせたいってコトになったら度数をアップ!」
下着を透かすなら更に度数をアップせねば、とグッと拳を握るソルジャー。
「そして、その先! どんどん度数をアップしていけば服はすっかり透けるんだけど!」
「「「…透けるんだけど…?」」」
「今度はモザイクがかかるってね!」
そう簡単にブルーの裸は見られない仕組み、と極悪な仕様が明らかにされて。
「モザイクを除去して欲しいと言うなら、当然、此処でも度数アップで!」
追加料金がドカンと発生するのだ、とソルジャー、物凄いことを言い出しましたが。サイオン・スコープ、出来た場合はとんでもないことになりそうな…。



「どうかな、度数アップで追加料金を頂くんだけど?」
でもって君と山分けなんだ、とソルジャーは会長さんの耳に悪魔の囁き。
「おまけにサイオン・スコープだしねえ、こっちのハーレイは本当に透けてるつもりでいたって、事実かどうかは分からないってね!」
ましてモザイクがかかってくれば…、とクスクスと。
「こっちの世界の旅行パンフレットとかによくあるじゃないか、「この写真はイメージです」って。ああいう調子でハーレイの脳内のイメージってヤツを投影しとけば、それっぽく!」
「…つまり、本物のぼくの裸は見えないと?」
「そういうコト! 怪しまれないように服の段階ではちゃんと透かすけど」
で、どうかな? と再度、ソルジャーに問い掛けられた会長さんは。
「その話、乗った!」
「オッケー、これで決まりってね!」
早速ぼくの世界で作ってくるよ、とソルジャーはサイオン・スコープとやらの制作を決めてしまいました。会長さん限定で服が透けると噂のサイオン・スコープを。
「眼鏡のフレームはどんなのがいいかな、こっちのハーレイに似合うヤツとか?」
「…お洒落なアイテムをハーレイに与えるつもりは無いからねえ…」
似合わないのがいいであろう、と会長さんは頭の中であれこれ検索していたようですけれど。
「そうだ、この際、グレイブ風で!」
「あのタイプかい?」
「うん。あれはグレイブには誂えたように似合っているしね、逆に言えばハーレイなんかに似合うわけがないと!」
「…確かに…。君もホントに鬼だよねえ…」
ああいう眼鏡を作るんだね、とソルジャーは部屋の壁を通り越した彼方のグレイブ先生の部屋を覗いている様子。教職員専用棟の中にミシェル先生と二人用の部屋があるのです。
「よし、形とかのデータは頭に入れた! 後はぼくのシャングリラで作らせるだけ!」
そしてぼくのサイオンを乗せるだけ、とソルジャーの頭の中にはイメージがバッチリ出来たようです。会長さん限定で服が透けてしまうサイオン・スコープ、度数アップの度に追加料金までが発生するというサイオン・スコープ。
「さて、最初はいくらで売り付けようか?」
「そうだねえ…。度数アップの料金の方は、倍々ゲームで増えるのがいいね」
二倍が四倍、四倍が八倍…、と会長さんとソルジャーが始めた料金相談。キース君たちが持ち込んできた人生相談の話題、エライ方向へと向かってますが…?



その週末。会長さんのマンションに集まって賑やかにお好み焼きパーティーを開催中だった私たちの所へ、ソルジャーが瞬間移動で現れて。
「出来たよ、例のサイオン・スコープ!」
眼鏡のフレーム作りに手間取っちゃって、とソルジャーの手には眼鏡ケースが。
「このケースもねえ、ホントだったらシャングリラのロゴが入るんだけど…。それはマズイし、ロゴ無しで!」
「それはいいけど、眼鏡を作ったクルーたちは? また時間外労働かい?」
会長さんの問いに、ソルジャーは「うん」と悪びれもせずに。
「だからちょっぴり遅くなってさ。なにしろ、ぼくのハーレイを連れてってフレームを顔に合わせて作らなきゃだし、そうなると当然、勤務時間外」
だけどきちんと視察に行っておいたから、と言うソルジャーのクルーに対する御礼は視察。自分の世界で使わないものを作らせた場合は記憶の消去を伴いますから、御礼を言っても意味が無いそうで、視察に出掛けて激励のみ。
「要するに、今回も「ご苦労様」の一言だけで済ませて来た、と」
「何を言うかな、ソルジャーの視察と労いの一言はポイント高いんだよ?」
シャングリラでは栄誉ある出来事なんだよ、と威張り返られても、私たちには分からない世界。たとえ記憶を消してあっても、お菓子の一個とかでも差し入れすれば…。
「いいんだってば、視察と「ご苦労様」でぼくのシャングリラの士気は上がるしね!」
ブリッジだってそうなんだから、と言われてしまうと返す言葉もありません。こんなソルジャーに牛耳られている皆さん、お疲れ様としか…。
「それでさ、サイオン・スコープだけどさ」
これから売り付けに行かないかい? とソルジャーは煽りにかかりました。むろん、ちゃっかりお好み焼きパーティーの面子に混ざりながら。
「いいねえ、ハーレイは家に居るようだし…」
「みんなで行ったら君の服だけ限定で透ける仕様もハッキリ説明出来るしね?」
「それがいいねえ、ぼくの服しか透けません、ってね」
で、どんな仕組み? と眼鏡ケースを眺める会長さんに、ソルジャーはサイオンの使い方の説明を始め、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も「そうなんだ!」などと感心しているのですけれど。
「…分かりませんね?」
ぼくたちには、とシロエ君が言い、キース君が。
「ああ、サッパリだな」
思念波くらいの俺たちにはな…、とサイオニック・ドリームが坊主頭限定で使える人でも言う始末。つまりはサイオン・スコープの仕組みはサッパリ、謎な作りの眼鏡としか…。



お好み焼きパーティーが済んで、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手際よく後片付けを終えると、教頭先生の家へと出発です。会長さんとソルジャー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と三人分の青いサイオンがパアアッと溢れて…。
「な、なんだ!?」
リビングのソファで寛いでおられた教頭先生が大きく仰け反り、会長さんが。
「ご挨拶だねえ、今日は素敵なアイテムを持って来てあげたのに」
「…アイテム?」
「そう! その名もサイオン・スコープなんだよ!」
これ、と会長さんはソルジャーの手から眼鏡ケースを受け取り、教頭先生に渡しました。
「まあ開けてみてよ、気に入ってくれるといいんだけれど」
「…???」
ケースを開けた教頭先生が取り出した眼鏡は、まさしくグレイブ先生風。似合わないんじゃあ、と私たちが思うのと同時に、教頭先生ご自身も。
「…こういうタイプの眼鏡フレームは似合わないのでは、と思うのだが…」
「そう言わずにさ! ちょっとかけてみて、それからぼくを見てくれれば…ね」
「お前をか?」
「そうだよ、そしたらサイオン・スコープの意味が分かるかと!」
ちなみに今日のぼくはこういう上着を…、と会長さんはその場でクルッと回って見せて。
「今年の流行りのデザインなんだよ、君はこういうのに疎そうだけど」
「う、うむ…」
「フィシスが選んでくれたんだよねえ、この色が一番いいだろう、って! だから…」
その眼鏡をかけて是非見てみて、と言われた教頭先生、何も疑わずに眼鏡を装着。うっわー、やっぱり全然似合ってませんよ…。ですが。
「…ありゃ?」
教頭先生は眼鏡を外して会長さんをまじまじと眺め、またかけてみて。
「…うーむ…?」
外して、かけて、また外して。何度もやっている教頭先生に、会長さんが。
「どう、ハーレイ? ぼくの裸が見えたかな?」
「裸!?」
なんだそれは、と引っくり返った教頭先生の声。それはそうでしょう、いきなり「ぼくの裸」と言われて驚かない方が変ですってば…。



「その眼鏡はねえ、サイオン・スコープってヤツなんだよ。名前はさっきも言ったけれどさ」
いいかい、と会長さんは真面目な顔で。
「実はブルーが開発したんだ、ブルーのサイオンが使ってあるわけ。それでね…」
「ぼくから君へのプレゼント!」
ソルジャーが話を引き継ぎました。
「いつも何かと報われない君に、ブルー限定で服がすっかり透けちゃう眼鏡をぼくが開発しました、ってね! その名もサイオン・スコープってわけ!」
透けてるかい? と訊かれた教頭先生は眼鏡をかけて会長さんをまじっと眺めて。
「え、ええ…」
「なら良かった。ただ、君の透視能力ってヤツが分からなくってさ、ぼくのハーレイに合わせて来たから、もしかしたら透け方が足りてないかも…」
「はあ…」
「もしも足りないようだったらねえ、度数アップに応じるよ」
ただし有料! とソルジャーは其処を強調しました。
「サイオン・スコープは大負けに負けて、九割引きで出血大サービス! 買う?」
料金はこんなものなんだけど、とソルジャーが告げた価格からドカンと九割引き。それでも充分にお高い値段で、アルテメシアでも一番の高級ホテルと名高いホテル・アルテメシアのメイン・ダイニングの最高のコースを三回くらいは食べられそうですが…。
「よ、喜んで買わせて頂きます!」
「本当かい? 作った甲斐があったよ、ぼくも」
教頭先生はいそいそと財布を持って来て、ソルジャーに全額キャッシュで支払いを。今月はまだ麻雀で負けていないのか、はたまた勝ったか。気前のいい支払いっぷりに、ソルジャーも大満足で渡されたお金を数えると…。
「オッケー、これでサイオン・スコープは名実ともに君のもの! それさえかけていればブルーの服がいつでもスケスケ、裸をバッチリ見られます、ってね!」
「…そ、その件なのですが…」
「ん?」
「じ、実は度数が今一つで…」
どうやら上着しか透けて見えないようなのですが、と教頭先生、しっかり申告。日頃のヘタレは何処へ行ったか、スケスケに透けるサイオン・スコープが欲しいんですね?



「そうか、度数が合ってないんだ…?」
度数アップは有料だけど、とソルジャーがスッと料金表を差し出しました。
「ぼくのサイオンを常に乗せておかなきゃいけないっていう辺りもあってね、度数を一気に上げるというのは無理なんだよ。段階的に、ってコトになるかな」
「段階的に…ですか…」
「君の透視能力さえ優れていればねえ…。ぼくのハーレイ並みでさえあれば、今ので充分にスケスケになる筈だったんだけど…。とりあえず一段階上げるためには、この値段だね」
「こ、これですか…」
ソルジャーの指が示した料金はゴージャスなもの。けれどソルジャーの指は更に隣の枠を指差し、その隣をも。
「こんな風にね、一段階上げるごとに料金も上がっていくんだけれど…。何処ですっかりスケスケになるか、実はぼくにも読めなくってさ」
「は、はあ…」
「透け過ぎちゃうとブルーの身体も透けてしまうし、度数アップは段階を追うのをお勧めするよ。上げてしまった度数を元に戻すより、そっちがお得」
下げる場合は技術料として別料金が…、と示された箇所にドえらいお値段。目を剥いている教頭先生に、ソルジャーは「ね?」と営業スマイルで。
「だから一段階上げてみようか、料金を支払ってくれるんならね」
「お、お願いします!」
必ずお支払いしますので、という教頭先生の御要望に応じて、ソルジャーは「じゃあ、貸して」とサイオン・スコープを受け取り、両手の手のひらの上へ乗せると。
「えーっと、まずは一段階、と…」
サイオン・スコープが青いサイオンの光に包まれ、それが収まった後、ソルジャーは自分でかけてみてから「はい」と教頭先生に。
「一段階アップしてみたよ、これで今度こそ透けるといいねえ?」
「は、はいっ!」
期待しています、と眼鏡をかける教頭先生に、会長さんが「スケベ」と一言。けれども教頭先生はメゲるどころか、会長さんを食い入るように眺めた後で。
「…どうやらこれでも駄目なようです…」
「そう? もう一段階、アップしてみる? 高くなるけど…」
「かまいませんっ!」
全く惜しくはありません、と鼻息も荒い教頭先生、もう完全にカモですってば…。



一段階ずつ度数をアップ。ソルジャーは途中から「先払いで」と言い出し始めて、教頭先生は「大丈夫です!」とキャッシュをバンバン。タンス預金と言うのでしょうか、ご自宅に金庫があったようです。
「ブルーのために、と日頃から蓄えておりまして…」
「うんうん、実にブルーのためだね、裸を拝むにはいい心掛けだと思うよ、ぼくも」
ソルジャーは度数アップと称して、せっせとキャッシュを毟りまくって。
「今度こそ大丈夫だと思うけどねえ?」
「あ、ありがとうございます!」
これで今度こそ下着も透ける筈です、と勇んで似合わない眼鏡をかけた教頭先生だったのですが。
「……はて……???」
「どうかした?」
「そ、そのぅ…。何やらモザイクがかかっているような…」
「ああ、やっとそこまで辿り着いたんだ?」
元々そう見える筈だったんだよね、とソルジャーの口から嘘八百が。
「最初から丸見えでは有難味が無いし、モザイクは基本装備なんだよ」
「…そ、そうなのですか…」
残念そうに肩を落とした教頭先生に、ソルジャーは。
「でも、大丈夫! モザイク除去のサービスも別にあるからね!」
ただし有料、と出て来た別の料金表。これまた細かく段階が分けられていて…。
「ぼくのハーレイなら一回で完全にモザイクを除去出来るんだけど…。君の場合は…」
「何段階になるか分からないというわけですね?」
「話が早くて助かるよ。モザイク除去が要るんだったら、今度もキャッシュで」
「もちろんです!」
もう幾らでもお支払いさせて頂きます、と教頭先生の欲望はボウボウに燃え上がっていて、キャッシュをバンッ! と。モザイク第一段階除去が完了したようですけど。
「…どうかな、ハーレイ?」
「…まだのようです…」
「仕方ないねえ、じゃあ、もう一段階やってみる?」
「お願いします!」
ブルーの裸のためならば、と猪突猛進な教頭先生は全く気付いていませんでした。眼鏡をかける度にまじまじ見ている会長さんの顔に、楽しそうな笑みが乗っていることに。



支払い続けること何十回目だか、ようやく教頭先生は望み通りのサイオン・スコープを手に入れました。会長さん限定で服がすっかり透けてしまって丸見えな眼鏡。
「こ、この眼鏡は素晴らしいですねえ…」
「そうかい? ぼくも嬉しくなってくるねえ、そうやってブルーの裸に親しんでいればヘタレもいずれは直るだろうし」
「そうですね!」
頑張って眼鏡生活を始めてみます、と教頭先生はソルジャーとガッチリ握手を。会長さんが大きな溜息をついて、「ぼくとの握手は?」と。
「散々、ぼくの身体を眺め回して握手無しとは厚かましいしね?」
「う、うむ…」
「ふふ、素っ裸のぼくと握手って? あ、視線を下に向けないようにね」
君には刺激的過ぎるから…、という会長さんの言葉に釣られて下を向いてしまった教頭先生、派手に鼻血を噴きましたけれど。
「…す、すまん…」
「だから言ったのに、下を見るなって。学校でもちゃんと気を付けるんだよ、眼鏡ライフ」
「ちゅ、注意する…」
しかし出会い頭に裸だったら…、と頬を染めつつ、眼鏡を外すつもりはまるで無いらしい教頭先生。週明けには校内でグレイブ先生と揃いの眼鏡の教頭先生にお目にかかれることでしょう。
「頑張るんだね、ぼくで鼻血を噴かないように」
「ぶるぅの部屋から滅多に出てこないから、そうそう会えるとも思えないのだが…」
「何を言うのさ、せっかく大金を払った眼鏡だしね? ぼくからは無料で散歩をサービス」
教頭室の窓の下とか中庭とかを散歩するよ、と会長さんは片目をパチンと瞑りました。
「せいぜい眺めて楽しんでくれれば…。ぼくにもその程度のサービス精神はあるんだよ」
結婚とはまた別だけどね、と言われた教頭先生は感無量。サイオン・スコープに大金を支払った甲斐があったと言わんばかりの感動の面持ちですけれど…。



「…あれってイメージなんだよねえ?」
瞬間移動で引き揚げて来た会長さんのマンションでのこと。ジョミー君の問いに、ソルジャーが。
「当たり前だろ、本当に透けて見えてるんならブルーが黙っちゃいないってね!」
「そういうことだよ、ハーレイの妄想の産物なんだよ、見えているのは」
あれだけ支払った挙句にイメージ、と大爆笑する会長さんとソルジャーはキャッシュを山分けしていました。教頭先生のタンス預金はまだまだ家にあるのだとかで。
「次はレーシックを勧めてみようかと思うんだよ」
ソルジャーが大量のお札をバラ撒いてヒラヒラと降らせています。
「「「レーシック?」」」
「そう、レーシック! こっちの世界の近視治療の方法なんだろ?」
前にこっちのノルディに聞いた、とお札をパァーッとバラ撒きながら。
「眼鏡が要らなくなる治療! それをサイオン・スコープに応用、裸眼でもれなくブルーの裸を拝めます、ってね!」
「なるほど、次はレーシックねえ…」
それもいいねえ、と会長さんがニヤニヤと。
「ぼくの裸を見慣れて来た頃、眼鏡無しライフをお勧めする、と!」
「そう! ぼくのシャングリラで入院と手術ってことで、料金の方は!」
ジャジャーン! とソルジャーが披露した額は壮絶でしたが、会長さん曰く、教頭先生だったらキャッシュで充分に払えるのだとか。
「ふふ、ハーレイにレーシックねえ…」
「うんと毟って、これどころじゃない札束の海を!」
「かみお~ん♪ お金のプールで遊ぶんだね!」
わぁーい! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ね、会長さんたちはすっかりやる気。騙されてカモられた教頭先生、まだカモられるようですけども。
「…まずは週明けのシャングリラ学園が楽しみですね?」
教頭先生が眼鏡ですよ、とシロエ君が指を立て、サム君が。
「グレイブ先生のとお揃いだしよ、なんか色々と笑えるよな!」
「とどのつまりはイメージってトコが最高なんだと思うわよ、コレ」
スウェナちゃんの言葉にプッと吹き出す私たち。カモられてしまった教頭先生、眼鏡の次はレーシック希望となるのでしょうか。札束の海も楽しみですけど、これからの鼻血と、いつ真相に気付かれるのかも楽しみです~!




            眼鏡で素敵に・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生が大金を払って、ゲットした眼鏡。効果は抜群みたいですけど、本当はイメージ。
 そうとも知らずに、次はレーシックに挑戦かも。眼鏡姿は、似合うんですかねえ…?
 次回は 「第3月曜」 11月19日の更新となります、よろしくです~! 

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 こちらでの場外編、10月は、キノコが美味しい季節。さて、どうなる…?
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