シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「じゃあ、明日、いつものトコでな!」
うん、と声を揃える友人たち。学校の帰り際、明日の待ち合わせについての確認。今日は金曜、明日は学校が休みだから。
行き先は特に決まっていないけれども、集まって何処かで遊びと食事。ジュースなども買ったりするのだろう。それに立ったままで食べられるフライドポテトやポップコーンだって。
約束した後、ワッと散って行った友人たち。部活に、家に、あるいは寄り道コースへと。
明日に備えての待ち合わせ。場所と時間をみんなで決めて。
ブルーは明日は行かないけれど。ハーレイが訪ねて来てくれると決まっているから、友人たちと出掛けることなどしない。自分の家でハーレイを待って、二人で話して、お茶に食事に…。
(そっちの方が幸せ…)
ぼくは断然そっちがいい、と学校を後にして、帰りのバスに乗り込んだ。バス通学の友人は誰もいないから、自分だけ。お気に入りの席が空いているのを見付けて、其処へストンと腰掛ける。
走り出したバス、流れてゆくバスの窓越しの景色。友人たちの明日の待ち合わせ場所は…。
(あっちの方…)
バスの窓からは見えないけれど。大通りから少し入った、学校から近い公園の前。
明日、その時間に出掛けて行ったら、友人たちが集まっているのだろう。制服ではなくて、皆がバラバラの服。好みの服に、通学鞄とは違った鞄を持って。
何処へ行こうかと相談しながら歩き始めて、過ごす休日もいいけれど。楽しいけれども、明日は予定があるから。ハーレイと会える土曜日だから。
友人たちと出掛けるよりも、と高鳴る胸。「明日はハーレイが来てくれるんだよ」と。
もう長いこと、待ち合わせというものをしていない。
何時に此処で、と決めて集まる待ち合わせ。友人たちはいつもしているけれども、一緒に遊びに行かないから。休日はハーレイと自分の家でお喋りに食事、それがブルーの定番だから。
(みんなと遊びに行ってないけど…)
付き合いが悪いとは誰も言わない。一度くらいは出掛けて来いとも言われない。
皆、聖痕があることを知っているから、ハーレイと会うのが大切だと分かってくれている。一度だけ起こした大量出血。学校から救急搬送された聖痕現象。あれを再発させないためには守り役のハーレイと頻繁に会うことが必要なのだ、と。
一緒に遊びに出掛けられなくても、気にしていない友人たち。学校で会えば何処へ行ったのかを話してくれるし、愉快な出来事が起こっていたなら、その報告も。
おまけに羨ましがられたりもする、「いいよな、ハーレイ先生が来てくれるなんて」と。学校で人気の高いハーレイ、柔道部員でなくても憧れの男性教師。大人気のハーレイを独占出来る休日はとても楽しそうだと。
(前の待ち合わせ…)
友人たちと遊びに出掛けた休日。ハーレイが来られないと分かっていた日に、待ち合わせて。
約束の場所に時間通りに行ったら、「おう!」と手を振ってくれた友人たち。「何処に行く?」などと賑やかに騒いで、待ち合わせ場所だった公園で暫く遊んで…。
それが最後の待ち合わせ。友人たちとは遊ばない休日が続いている自分。
(みんなと行くのも楽しいんだけど…)
気の合う友人たちとの休日。遊んで、食事して、おやつやジュース。
待ち合わせもまた、遊びに向けてのカウントダウンで心が弾む。一人、また一人と増える友人、時には時間に酷く遅れた友人が「悪かった!」と何かおごってくれたり。
下の学校の頃から何度もした待ち合わせ。今はすっかり御無沙汰だけれど。
家の近くのバス停に着いて、バスから降りて歩き始めて。
(みんなは、明日はいつもの公園…)
何時だっけ、と友人たちが言っていた時間を思い出し、「うん」と頷く。十時に、公園。
(ハーレイが急に来られなくなっても…)
公園へ行けば友人たちに会える、遅れないよう十時に出掛けてゆけば。明日の朝になって、急に予定が駄目になっても、ハーレイから「今日は行けない」という連絡が来ても。
独りぼっちの日にはならない、友人たちの待ち合わせ場所と時間を知っているから。ハーレイが駄目でも代わりに友達、何処かで遊んで、食事もして。
(…ハーレイと会うのが駄目になるなんて、嫌だけどね)
友人たちと遊びに行くのも、けして悪くはないけれど。ハーレイと会える方がいいから、予定は潰れて欲しくない。「今日は行けない」という連絡なんかは来て欲しくない。
けれど、頼もしい待ち合わせ。友人たちが集まる場所と時間が分かっているということ。
みんなが「明日は此処で」と交わした約束、いきなり自分が混ざってもいい。その時間に公園へ出掛けてゆけば。「ぼくも!」と十時に遅れずに行けば。
そうするよりは、ハーレイと過ごしたいけれど。断然、ハーレイなのだけれども。
ハーレイと二人の土曜日がいい、と考えながら家に帰って、おやつを食べて。
「明日はハーレイと二人でおやつを食べられるんだよ」と弾む足取りで部屋に戻って、勉強机の前に座って。「待ち合わせよりも、ハーレイと家にいるのがいいよ」と思ったけれど。
(そういえば…)
今の今まで全く気付いていなかったこと。待ち合わせはどういうものかということ。
場所と時間を決めて待ち合わせ、友人たちとするものだと頭から思い込んでいて、ハーレイとは結び付けてもいなかったけれど。
よく考えたら、ハーレイとだって出来るのだった、待ち合わせは。今は出来ないというだけで。
ハーレイとは家でしか会えないから。デートに行けない自分だから。
けれど、家の外でもハーレイと会えるようになったなら。二人で出掛けられるようになったら、待ち合わせだって出来るようになる。
この時間に此処、と二人で決めて。其処で待ち合わせて、それからデート。
ハーレイとも出来る待ち合わせ。この時間にと、此処で会おうと。
(…いつ出来るの?)
此処で、と決めて待ち合わせ。友達ではなくて、ハーレイと。
デートに行けるようにならないと、待ち合わせなどは出来ないのだから、ずっと先のこと。
どう考えても何年も先で、今の学校の生徒の間は無理で。
当分の間は出来そうもない待ち合わせ。ハーレイと時間と場所を決めて会うこと、待ち合わせて何処かへ出掛けること。
まだまだ無理、と溜息をついて、ハーレイの顔を思い浮かべて。
(前のぼくは…?)
ハーレイとは本物の恋人同士だったのだから、待ち合わせだって、と遠い記憶を探ったけれど。
白いシャングリラで暮らした頃の記憶を辿ったけれども、まるで無かった待ち合わせの記憶。
考えてみたら、していなかった。ただの一度も、前のハーレイとの待ち合わせは。
強いて言うなら、会議や視察に出掛けるための待ち合わせくらい。ブリッジの入口や、会議室に近い休憩室など、そういった場所で合流してから出掛けていた。
時間と場所とは決めたけれども、ソルジャーとキャプテンとしての待ち合わせ。デートどころか仕事のための待ち合わせだった、行き先はデートなどではなかった。
本物の恋人同士ではあったけれども、誰にも明かせない仲だったから。
恋人同士だと知られてはならず、デートにも行けなかったから。二人、こっそりと展望室などに行くのがせいぜい、待ち合わせなどは出来もしなくて、デートでさえも。
そうなってくると…。
(じゃあ、初デート…!)
前の自分たちがそれらしいデートをしていないのなら、今の自分たちが出掛けるデートが最初のデートで初デート。
(庭のテーブルと椅子もデートだけど…)
ハーレイとの初めてのデートは其処だったけれど、あれは普段と違う所で食事ならぬお茶の時間というだけ、本物のデートとは違うから。家から一歩も出ていないものをデートと呼ぶのは間違いだから。あれは本当のデートではなくて、初デートだとも呼びはしなくて。
初めてのデートは、まだずっと先。自分が大きく育ってから。
ハーレイと二人で何処かへ出掛ける、それが本当の初デート。そして初めての待ち合わせ。
デートに出掛けてゆくための。ハーレイとデートを始める前の。
(初めてのデートで、待ち合わせで…)
行き先が何処かも気になるけれども、待ち合わせ。場所と時間を決めてハーレイと会う。
此処で、と決めておいた場所に、決めておいた時間、その時間に行ったらハーレイに会える。
デートのための服を着込んだハーレイに。きっと笑顔でやって来るに違いないハーレイに。
考えただけでドキドキしてきた、ハーレイとの初めての待ち合わせ。
どんな気持ちになるのだろう?
二人で決めておいた場所。其処へ決めておいた時間に出掛けて、ハーレイを待っている自分。
友人たちとの待ち合わせですら、あれだけ心が弾むのだから。遊びの前のカウントダウンだと、弾んだ気持ちになるのだから。
デートともなれば、きっと心がはち切れそうになるのだろう。早くハーレイが来てくれないかと何度も時計を眺めてみたり、まだ来ないかとキョロキョロ辺りを見回したりして。
そう、きっと首を長くして待って、ハーレイが来たら大きく手を振って。
ひょっとしたら駆け出してゆくかもしれない、ハーレイが歩いて来る方へ向かって。
(うんと早く行って、ハーレイを待って…)
そうして駆け出す、ハーレイの姿が見えたなら。「此処だよ!」と大きく手を振ってから。
けれどハーレイなら、自分よりも早く来ていそうな気がしないでもない。
休日でも早起きしているらしいハーレイ、暗い内からジョギングに行く日もあるようだから。
待ち合わせとなれば、きっと早めに来るだろう。待たせてしまわないように。時間にたっぷりと余裕を持たせて、早い時間に家を出て。
(…ぼく、ハーレイを待たせる方?)
初めてのデートで待ち合わせだから、と張り切って行ったら、待ち合わせ場所にハーレイの姿。自分がやって来るのを見付けて、軽く手を上げて近付いて来る。きっと大股で颯爽と。
(待たせちゃう方…)
そんな気がして来た、初めての待ち合わせはハーレイに先を越されそうだと。
早く着いて待とうと思っていたのに、ハーレイが待っていそうだと。
(待っててくれるのもいいんだけれど…)
嬉しいけれども、自分も待ちたい。ハーレイが待ち合わせ場所にやって来るのを、見慣れた姿が現れるのを。
そうしたいなら、ハーレイよりも早く着いていないと駄目だから。時間通りに着いていたのでは間に合わないから、早めに行く。待ち合わせ場所へ、大急ぎで。
(でも、ハーレイだって…)
自分が早めに現れたならば、次からはもっと早い時間に来て待つだろう。待たせないように。
五分早めに到着したなら、次はハーレイも五分ほど早く。十分だったら、十分早く。
そうやってデートを重ねてゆく度、だんだん早くなってゆくかもしれない待ち合わせ時間。
この時間に、と決めた時間より五分も、十分も、十五分も早く。
お互い、先に着こうとして。恋人が来るのを自分が待とうと、競うように早く行こうとして。
それも楽しい、待ち合わせの時間が決まっていたって早く行くのも。どんどん早くなっていった末に、三十分も前から待つのが普通になってしまったとしても。
(…それでも待ち合わせ時間は決まってるんだよ)
待ち合わせ場所で出会った時間よりも、三十分も後であっても。とっくにデートに出掛けた後に時計が指すのが、その時間でも。
面白いよね、と考えていたら、来客を知らせるチャイムが鳴って。
明日は朝から来てくれる予定のハーレイが今日も、仕事の帰りに寄ってくれたから。これは是非とも話さなければ、とテーブルを挟んで向かい合うなり、ワクワクとして切り出した。
「ねえ、ハーレイ。今度は初デートで待ち合わせだよ」
「はあ?」
何の話だ、初デートはとっくに済ませただろうが。お前の家の庭で。
俺がキャンプ用のテーブルと椅子を持って来たのが初デートだったぞ、あそこの木の下。今でも別のが置いてあるだろ、お前の気に入りの白いテーブルと椅子が。
「あれは違うよ、初デートだけどデートじゃないよ!」
ぼくの家から出ていないんだもの、本物のデートとは違うと思う…。ハーレイと二人で何処かへ行くのがデートなんだよ、本物のデート。
前のぼくたちは展望室くらいしか行ってないから、本物のデートは今度が初めてになるんだよ。それに待ち合わせも初めてでしょ?
デートの前の待ち合わせ。場所と時間を二人で決めて。
前のぼくたちはやっていない、と瞳を輝かせて話したら。
待ち合わせはとても楽しそうだと、先に行って待とうと競争が始まってしまいそうだと、いつか二人で約束するだろう待ち合わせの予想をしてみせたら。
「ふうむ…。確かに俺は、お前を待たせるタイプではないな」
お前よりも先に着いていようと急ぐ方だな、それは間違ってはいないんだが…。
しかし、デートに行くんだろうが。
待ち合わせじゃなくて、俺が迎えに来るんじゃないのか、お前の家まで?
俺の車で、と返った答え。
デートに行くなら車だろうと。何処へ行くにも便利なのだし、遠出も出来ると。
「そうだけど…。迎えに来てくれるのも、車もいいけど、待ち合わせ…」
友達としかやってないけど、ハーレイとしたっていいんでしょ?
前のハーレイともやってないから、今度は待ち合わせをしたいんだよ…!
「待ち合わせって…。そうなってくると、不便だぞ?」
お前が言うような待ち合わせをするなら、俺は車を置いて出て来るか、でなけりゃ駐車場にでも置いておくしかないし…。
お前をサッと車に乗せてだ、直ぐにデートに出発ってわけにはいかないんだが?
「でも、やってみたいよ、待ち合わせ…!」
それにデートは会った時から始まるものでしょ、車が置いてある駐車場まで歩くのもデート。
車が無ければデート出来ないってことも無いから、車無しでのデートもいいし…。
ぼくは文句を言わないよ?
車があったら楽だったのに、って言いやしないし、待ち合わせてデートもしてみたいよ…!
「待ち合わせ、そんなにしてみたいのか…」
まあ、いいがな。
俺としてはお前を車で迎えに来たいわけだが、たまにはそういうデートもいいか…。
場所と時間をきちんと決めておいて、其処でお前に会うというのも。
今の時代ならではの待ち合わせだよな、と微笑むハーレイ。
そういうデートもいいだろう、と。
「えっ?」
今の時代って…。どういうこと?
待ち合わせっていうのはそういうものでしょ、時間と場所とを決めておくもの。
前のぼくたちだって待ち合わせをしたよ、デートのためではなかったけれど…。会議の前とか、視察の時とか、ハーレイと何度も待ち合わせたよ?
「したな、その手の待ち合わせってヤツは。…目的は仕事だったがな」
前の俺たちの時代も待ち合わせはあったが、それよりも前…。
SD体制が始まるよりも前の時代に、ちょっと変わった待ち合わせの形があったんだよなあ…。
遠い遥かな昔の地球。誰もが手軽に持ち歩ける通信機が作られ、普及していた。
その通信機さえあれば、いつでも、何処でも、声や文章を簡単に相手に届けられた時代。
いざとなったら通信機で連絡を取り合えばいいから、いい加減な待ち合わせをしていたという。時間も場所も曖昧に決めて、「このくらいの時間に、この辺りで」と。
「えーっと…。それで会えるの、そんな決め方の待ち合わせで?」
その時代は思念波なんかも無いのに、相手が何処で待っているのか、ちゃんと分かるの?
前のぼくたちなら、「今から行く」って思念を飛ばせば、居場所もきちんと分かったけれど…。
「会えたようだな、その時代のヤツらは。それで会えないなら、方法を変えるだろうからな」
そうは言っても、傍から見たら馬鹿みたいなすれ違いもあったようだが…。
道路を挟んで向かい側に相手がいるというのに、気付かないままで「何処だ?」と通信機で連絡し合っているとか。酷いのになったら、同じ歩道で「何処にいるんだ」と通信機で話をしながら、相手とバッタリ出会う代わりにすれ違って行ってしまうとかな。
「…そうなるだろうね…」
思念波が無くて、ただの通信機っていうだけだったら、ありそうだよね…。
思念波で話をしてるんだったら、すれ違う時や近付いた時に、共鳴するから気付くだろうけど。
今の時代は、そういう通信機は存在しない。人が人らしく過ごすために、と。
思念波も連絡手段としては使わないのが社会の常識、一種のマナー。
だから待ち合わせをするとなったら、場所と時間をきちんと決めることが大切、それが大前提。学校の帰りに友人たちが決めていたように。明日は十時に公園で、と。
友人たちとの待ち合わせも心が弾むけれども、同じ待ち合わせをするのなら…。
「ハーレイを待ってみたいよ、何処かで」
待ち合わせをしてデートしようよ、ハーレイの車は抜きでも、駐車場でもかまわないから。
ぼくはハーレイを待ってみたいんだよ、もうすぐ来るかな、ってドキドキしながら。
「俺はお前を待たせはしないが?」
さっきも言ったが、待たせるよりかは待つタイプでな。早めに出掛けて待ってる方だな、お前が来そうな方を見ながら。
「やっぱり…!」
ぼくと競争になっちゃいそうだ、って言ったでしょ?
ぼくもハーレイを待ちたいんだもの、まだ来ないかな、ってキョロキョロしながら。
ハーレイが来たら、「此処にいるよ」って手を振って走って行きたいんだもの…!
自分もハーレイも、先に着いて相手を待っていたいタイプ。デートの前の待ち合わせの時は。
お互い、相手よりも早く行こうと競争し合って、本当にどんどん時間が早くなりそうだから。
この時間だと決めた時間より、遥かに早く待ち合わせ場所に着きそうだから。
「何度もハーレイと待ち合わせをしたら、一時間前に着いてるようになっちゃうかもね」
待ち合わせは十時、って言ったら九時には着いているとか、九時なら八時に着いてるとか…。
そうなっちゃっても、もっと早くに着いてやろう、って頑張りそうだよ、ぼく。
ハーレイが来るのを待っていたいし、今度こそ、って。
「一時間前が当たり前と来たか。…おまけに更に早く来ようとするんだな、お前」
そういうことなら、待ち合わせの場所。
早く来すぎても安心なように、屋根があって飯も食える所にしておかないとなあ…。
お前はともかく、俺の方は急な通信でも来たら、出るのが遅れちまうってことだってあるし。
もちろん急いで駆け付けはするが、十五分くらいは遅れちまうかもしれないからな。
「んーと…。そういうハーレイ、見られたらとっても嬉しいけれど…」
やっとハーレイより先に着けた、って嬉しいけれども、待ち合わせの場所…。
ハーレイが安心してぼくを待たせておける場所って、早い時間から開いてるお店なの?
屋根があって御飯も食べられるのなら。
「うむ。お前が雨の中にポツンと立っているとか、腹を空かせているのは困る」
飯は食わないにしても、温かい飲み物や冷たいジュースや、そんなのを置いてる店がいいな。
入りやすくて、ゆっくりしてても気を遣わなくていい気楽な店。
俺の家の近所のパン屋なんかは理想的なんだが、とハーレイが挙げた店には覚えがあった。
食事も出来るレストラン部門を併設していて、ランチタイムまでは店で買ったパンを持ち込んでレストランで食べられる。レストランにはモーニングセットなども揃っているのに。
その店のレストラン部門でやっていた企画、ソルジャー・ブルーとジョミーとトォニィ、三代のソルジャーが食べた食事を出すというもの。ハーレイがチラシを見せてくれたから、それを食べに行ってみて欲しいと頼んだ。ソルジャー・ブルーのモーニングセットを。
(ハーレイ、不味かったって唸っていたっけ…)
ソルジャー・ブルーが食べたと謳われたモーニングセットには、アルタミラの餌があったから。餌として与えられていたオーツ麦のシリアル、ハーレイはそれの不味さに泣かされたという。
どう転んでも餌は餌だと、美味しいとは少しも思えなかったと。ソルジャー・ブルーにゆかりの食事がアレとは酷いと、いくらヘルシーで一番人気でも俺は御免だと。
モーニングセットには目玉焼きや紅茶もちゃんとセットで、オーツ麦だけではなかったのに。
ハーレイの記憶で見せて貰った中身は、けして悪くはなかったのに。
それを思い出したら、その店もいいなと思ったけれど。
待ち合わせ場所に選んでみたいと惹き付けられたけれども、ハーレイの家の近くだから。自分の家からはかなり遠いし、ハーレイよりも先に着くのは難しそうで。
「…パン屋さん、良さそうなんだけど…。ぼく、ハーレイに負けてばかりになりそうだよ」
いくら急いで入って行っても、ハーレイが先に中にいるんだ。
ハーレイの家からすぐのお店だもの、下手をしたら、コーヒー、おかわりしてそう…。
「お前が来るまでに時間がかかるってトコがフェアではないなあ、確かにな」
俺は家から少し歩けば着いちまうんだが、お前はバスに乗って来て、そこからまた歩いて。
先に着きたいというお前の夢を叶えるためには、不向きだな。
いつか待ち合わせをしようって時に備えて、いい場所を探しておかんといかんなあ…。
俺が車で迎えに来るんじゃ駄目だとお前が言うのなら。
待ち合わせってヤツをしたいのならな。
お前の家まで歩いて来る途中に下見しておくか、とハーレイが腕組みをして頷いたから。
「ぼくも探すよ、待ち合わせ場所!」
家の近くなら、散歩とかにも行ったりするし…。
待ち合わせに良さそうで、朝早くから開いてそうなお店、ぼくも今から探しておくよ。
「その心意気はいいんだが…。お前、まだ店に入る度胸は無いだろうが」
一人で入って、紅茶やジュースを頼む度胸があるのか、お前?
買って出て来るって意味じゃなくって、カウンターだのテーブル席だのにちゃんと座って。
そこまでしないと下見にならんぞ、店の雰囲気が掴めないからな。
俺だったら来る時にヒョイと覗いて、帰り道に入ってコーヒーの一つも頼めば充分なんだが。
「そっか…。ぼくだと、それは無理かも…」
座って注文するのもそうだし、中を覗いてから注文もせずに出るのも無理そう…。
ハーレイみたいには上手くやれないよ、朝は見るだけで、注文しに入るのは夜だなんて。
「ほらな。無理しないで俺に任せておけ」
お前でも気軽に入れそうな店で、お前の家から遠くない店。
俺には少々不利になるがな、その分、頑張って早めに出たなら、お前よりも先に着けるってな。
「待ち合わせ場所を探す所から、ハーレイ任せになっちゃうの?」
二人で相談して決めるんじゃなくて、ハーレイが一人で待ち合わせ場所を決めちゃうの?
「別にいいじゃないか、待ち合わせるのには違いないんだし」
時間はお前と相談するんだ、何時に其処で待ち合わせるか、って所はな。
ちゃんと立派に待ち合わせだろうが、お前と二人で時間を決めれば。
お前の家に車で迎えに来るよりいいだろう、と笑うハーレイ。
何処かで待ち合わせをしようと言うなら、待ち合わせ場所を俺が決めたって、と。
「そうだなあ…。うんと入りにくそうな店にしようか?」
お前が急いでやって来たって、一人じゃ入りにくそうな店。そういう店に決めておいたら、お前より先に入って待てる。お前は俺が入って行くのを見届けてからしか入れないだろうし。
「それは酷いよ…!」
ハーレイ、ぼくが早く着いても待ってられる場所、って言ったじゃない!
そんなお店だと、ぼくはハーレイが来るまで、入れないで外にいるしかないんだよ?
雨が降ってても、お腹が空いても、お店の外で。ハーレイ、それでもかまわないわけ?
「冗談だ。…ちゃんといい店を見付けておくさ」
お前が最初の客になっても、居心地よく座っていられそうな店。
俺が遅刻をしちまったとしても、のんびり、ゆっくり待っていられるような店を、きちんとな。
ハーレイに待ち合わせ場所から探して貰わなくてはいけないけれども、いつかはしてみたい待ち合わせ。此処で何時に、と場所と時間とを決めて、ハーレイと会う。
そうして会ったら、デートの始まり。二人で何処かへ出掛けてゆく。
前の自分たちには出来なかったデートのための待ち合わせ。ソルジャーとキャプテン、そういう立場で待ち合わせは出来ても、恋のためには、デートのためには、ただの一度もしなかった。
けれども、今度は何度でも出来る。恋人同士だということを隠す必要など無いのだから。何処へ行くにも、手を繋いで二人でゆけるのだから。
「ねえ、ハーレイ…。待ち合わせ、沢山、沢山、したいな」
結婚するまでのデートはいつでも待ち合わせがいいな、結婚したらもう出来ないから。
ハーレイと一緒に暮らすようになったら、もう待ち合わせは無くなっちゃうから…。
「おいおい、そんなに焦らなくても…。いいか、お前の夢の待ち合わせってヤツは、だ」
結婚した後にも出来るんだが?
俺と一緒に住むようになっても、待ち合わせのチャンスはいくらでもあるぞ。
「なんで?」
おんなじ家に住んでいるのに、何処で待ち合わせをするっていうの?
家の玄関とか、庭の何処かとか、そういう所で待ち合わせるの?
「そうじゃなくてだ、俺が仕事に行ってる時だな」
仕事帰りの俺と待ち合わせだ、俺の学校から家まで帰る途中の何処かで。
俺は車で出掛けてもいいし、その日は車を置いて行くのもいいかもしれんな。
「ああ…!」
ハーレイの仕事が終わった後に、ぼくと何処かで会うんだね?
家まで帰って来るんじゃなくって、途中のお店とかで、ぼくが待ってて。
それだと、ぼくがハーレイより先に着けそう。大急ぎで飛び出して行かなくっても…!
初めてのデートや、初めての待ち合わせも素敵だけれど。
結婚した後に、仕事帰りのハーレイと待ち合わせて、一緒に食事に出掛けて行ったり、ゆっくり二人で買い物をしたり。夜の街を二人で歩くのもいいし、ハーレイの車でドライブもいい。
きっとそういうデートも楽しい、結婚した後も、平日だから出来る待ち合わせ。
「待ち合わせ、早くしてみたいな…」
初めてのデートも、待ち合わせも。…結婚した後の、ハーレイの仕事帰りの日のも…。
「まずはお前が育たないとな」
でないとデートも出来やしないし、結婚も無理と来たもんだ。
急がなくていいから、前のお前と同じ姿に育つことだな、そしたらデートを申し込むから。
待ち合わせ用の店でも探しながら待つさ、お前が育ってくれるのをな。
いつか自分が育ったら。前の自分と同じ背丈に成長したなら、初めてのデートで待ち合わせ。
ハーレイが探しておいてくれた店で、二人で決めた時間に会って。
そこから始まる、初めてのデート。ハーレイと二人、手を繋ぎ合って。
待ち合わせの時間が競い合うように早くなっても、それも素敵な思い出になって。
結婚した後も、仕事帰りのハーレイと何処かで待ち合わせが出来る、デートに行ける。
そう、今度は待ち合わせをしてもかまわないから。仕事ではなくて、恋のために。
何度したって、かまわない。
場所と時間を決めて待ち合わせて、二人でデート。
ハーレイと二人、幸せな時間を過ごすための始まりが待ち合わせなのだから…。
待ち合わせ・了
※前のハーレイとブルーはしていなかった、待ち合わせ。恋人同士という間柄では。
それが今度は出来るのですけど、まだ先の話。いつかブルーが大きくなったら、何度でも…。
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