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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

焼き物の効果

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




シャングリラ学園の新年恒例行事も終わって、今日からのんびり。しかも金曜、明日から土日とお休みになるという嬉しい日です。放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ直行、みんなでのんびりティータイムで。
「暫くはゆっくり出来そうだよね!」
三学期は何かと忙しいけど、とジョミー君。三学期には入試もありますし、卒業式も。どちらも私たちが忙しくなるイベントです。入試の時には会長さんが合格グッズを販売しますから、そっち絡みで色々と。卒業式には校長先生の像を変身させるお仕事が。
「そうだな、とりあえず入試の前までは暇だろうな」
そこから先は怒涛の日々だが、とキース君が合掌を。
「入試が済んだらバレンタインデーで、その辺りも荒れる時には荒れるからなあ…」
「「「シーッ!!!」」」
言っては駄目だ、と唇に人差し指を当てた私たち。バレンタインデーが荒れる原因、会長さんのことも多いですけど、圧倒的に…。
「そうだった。言霊というのがあるんだったな」
すまん、とキース君は謝りましたが。
「こんにちはーっ!」
「「「!!?」」」
時すでに遅しとは、このことでしょうか。振り返った先に紫のマント、会長さんのそっくりさんが出て来ちゃったではありませんか…。



「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
おやつ食べるよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。今日のおやつはホワイトチョコとオレンジのチーズケーキです。オレンジの甘煮にホワイトチョコたっぷり、ソルジャーが断るわけもなく。
「食べる! それと紅茶も!」
「オッケー!」
ソルジャーは空いていたソファに腰掛け、ササッと出されたケーキと紅茶。はてさて、言霊とやらで出て来たものか、それともおやつがお目当てなのか、と見守っていれば。
「えーっと…。工作はシロエが得意だったっけ?」
「「「工作?」」」
「うん。破壊工作とかそんなのじゃなくて、こう、なんて言うか…。造形とか?」
毎年、卒業式には頑張ってるよね、と言い出すソルジャー。校長先生の大きな銅像を変身させている件らしいです。あれは工作と言うよりは…。
「ぼくのは注文制作ですよ?」
会長の案に従って設計図を書いて作ってますが、とシロエ君。
「それに工作じゃなくて、もはや一種の機械の制作ですね。目からビームと花火の打ち上げは基本装備ですし、場合によっては何段階かに変形することもありますから」
「言われてみれば…。だったら、土を捻るのとは違うのかな?」
「「「はあ?」」」
土を捻るって言いましたか? それって、お茶椀とか壺とかを作るって意味?
「そう、それ! こっちの世界じゃ土を捻るって言うんだってね、粘土細工を」
「「「粘土細工…」」」
身も蓋も無い言われよう。もう少しマシな表現方法は無いのでしょうか。土を捻るなどと言ったからには、せめて焼き物とか…。
「だけど、粘土細工で合ってるだろう? 粘土なんだしさ」
「それだと幼稚園児がやってることと変わらないんだよ!」
粘土遊びは基本の内だ、と会長さんが。
「卒園記念に粘土をこねて像を作って置いて行くとか、普通にやるしね」
「なるほど…。幼稚園児でも出来るレベル、と」
「粘土をこねるだけだったらね」
その先は果てしなく深い世界だ、と会長さんは言ってますけど。ソルジャーは何故に工作だの土を捻るだなどと…?



「ああ、それね!」
そういうものだと教わったから、とソルジャーは座り直しました。
「今日はノルディとランチだったんだ。その後に会議が入っていたから、いつもの服に戻っちゃったけどさ」
「君は会議が控えてる時もノルディとランチに行くのかい!?」
「誘われればね!」
実は思念のホットラインが、と初めて聞かされた恐ろしい話。思念のホットラインって…?
「え、それは…。君たちがぼくの世界へ思念を送るのはまず無理だろう?」
「最初からやろうと思いませんが!」
用も無いですし、とシロエ君が一刀両断。ソルジャーは「そうだろうねえ…」と頷いて。
「だけどノルディはそうじゃない。ぼくを誘いたいタイミングもあるし」
美味しい店を見付けた時とか、暇な時とか…、と言われれば、そうかも。
「そんな時にね、ぼくが覗き見をしてればいいけど、していなければ通じないだろう?」
「通じないだろうね」
ノルディの思念もその程度、と会長さん。
「それで、ホットラインがどうしたって?」
「せっかくのお誘いを無駄にしたくはないからねえ…。こう、シャングリラ全体に思念を張り巡らせるのと同じ要領で! ノルディとぼくとの間に一本、思念の糸が!」
「「「ええっ!?」」」
流石の食い意地、ランチやディナーのためにそこまで…。
「いけないかい? その糸を伝って思念が来るわけ、出掛けませんか、と!」
「「「うわー…」」」
恐るべし、思念のホットライン。別の世界との糸電話か、と恐れ入っていれば。
「そんなトコかな。とにかく、今日もお誘いがあって、素敵なお店に行ったんだけれど…」
「其処で素晴らしい食器でも出て来たのかい?」
でなければ床の間に国宝級の焼き物が飾ってあったとか…、と会長さんが尋ねると。
「床の間じゃなくて、玄関だったね。それと入口」
「「「入口?」」」
玄関はともかく、料亭の入口。そんな所に国宝級の焼き物なんかを置くでしょうか? いくら高級料亭が並ぶパルテノンでも酔客はいます。入口じゃ酔っ払いに割られてしまっておしまいってことになりませんか…?



「それはまた…。えらく剛毅なお店だねえ…」
会長さんも同じことを考えたようなのですが、ソルジャーの方は。
「そうかなあ? 何処もけっこう置いているけど?」
「そうなのかい? これでも店には詳しいつもりだったんだけどなあ…」
「見落としてるんじゃないのかい? サイズの方も色々だしね」
「サイズ?」
なんのサイズ、と会長さん。
「その焼き物には何か統一規格でも? 最近始めた企画か何か?」
雛祭りにはちょっと早すぎだけど、と会長さんは首を捻りながら。
「店の自慢の工芸品とかを店先に飾ることはあるしね…。揃いの灯篭を置いてみるとか、そんなイベントも無いことはない。そっち系かな、焼き物の灯篭もあるからね」
「うーん…。中身は多分、空洞だろうけど…」
「灯篭かい?」
「灯篭って明かりが灯るヤツだよね? そういう風にはなっていないよ」
置いてあるだけ、という答え。店の入口にドンと置かれていて、店によっては隣に盛り塩。
「あの盛り塩ってヤツも、何だか分かっちゃいなかったけど…。商売繁盛なんだってね?」
「正確に言うなら、お客さんを呼ぶためのものだよ」
プラス魔除けも兼ねているかな、と会長さんの解説が。遥か昔に中華料理の国で始まったらしい盛り塩なるもの。後宮、いわゆるハーレムに向かう皇帝のために置かれたそうで。
「なにしろ皇帝のハーレムだしねえ、女性の数も半端じゃなくて…。何処へ行こうか、皇帝の方でも悩んじゃうから、羊にお任せっていうことになった」
「「「羊?」」」
「牛って説もあるけどね。とにかく自分が乗ってる車を引く動物にお任せなわけ。それが止まった所に行こう、というわけさ。それで迎える女性の方が編み出したアイデアが盛り塩なんだよ」
動物は塩を舐めたがるもの。野生の鹿などが山の中で塩を含んだ場所に集まるというほどらしくて、盛り塩に惹かれた羊だか牛だかは其処でストップ、女性は見事に皇帝をゲット。
「そういう故事に因んで、盛り塩。それと清めの塩を兼ねてて、魔除けだね」
「ふうん…。そうなると盛り塩も侮れないねえ、由来はハーレムだったのかあ…」
魅力的だ、とソルジャーの瞳が輝いてますが。盛り塩の由来がハーレムと聞いて喜ぶようなソルジャーが目を留めた焼き物とやらは、いったいどういう代物でしょう?



「んーと…。盛り塩がそういう由来だとすると、あの入口の焼き物の方もやっぱり…」
「「「は?」」」
料亭の入口にはけっこう置かれていると聞いた焼き物。中が空洞らしい焼き物、何か由緒がありそうだとか…?
「ノルディが言うには、あれも商売繁盛なんだよ! しかもデカイし!」
「えっ? さっきサイズは色々だ、って…」
君が言った、と会長さんが問い返せば。
「そうだよ、焼き物のサイズは色々。だけど形はほぼ共通でさ、それは素晴らしい特徴が!」
「どんな特徴?」
「デカイんだよ!」
とにかくデカイ、とソルジャーは両手を広げてみせて。
「ノルディの話じゃ八畳敷って言ったかなあ…。それくらいはあると言うらしくって!」
「何が?」
「その焼き物の袋のサイズ!」
それが八畳、と言われても何のことやらサッパリ。顔を見合わせた私たちですが、ソルジャーは。
「分からないかな、見たこと無いとか? こう、店の入口にタヌキの焼き物!」
「「「タヌキ!?」」」
アレか、と誰もが思い出しました。高級料亭に限らなくても、いえ、どちらかと言えばむしろ普通のお店の方が高確率で置いているタヌキ。ユーモラスな顔のタヌキの焼き物、笠を被って徳利を提げて、お通い帳を持ったタヌキの置物…。
「分かってくれた? アレのアソコが凄くデカイね、とノルディに言ったら八畳敷だと!」
その上で宴会が出来るほどだと教えてくれた、と凄い話が。タヌキの置物でデカイ所で、ソルジャーが目を付けそうな部分はアソコ以外にありません。ちょっと言いたくない、下半身。
「そう、それ、それ! 金袋って言うんだってね!」
お金が入る商売繁盛の縁起物で…、とソルジャーの口調が俄然、熱を帯びて。
「タヌキが人を化かす時には巨大な袋を頭に被ると教わったよ? そして宴会を繰り広げる時は、袋をお座敷に仕立ててドンチャン、それが八畳敷ってね!」
そんな特大の袋に見合ったイチモツも持っているであろう、とソルジャーは例のタヌキに惹かれた模様。
「盛り塩の由来がハーレムだったら、あのタヌキだってハーレムだとか?」
きっと素敵な由来だよね、と言ってますけど、あのタヌキっていうのはそうなんですか?



「タヌキは無関係だから!」
ハーレムとはまるで関係ないから、と会長さんが切って捨てました。
「あれはあくまで縁起物! 八畳敷は大きな袋でお金が入るって意味だけだから!」
「…たったそれだけ?」
「そう、それだけ!」
だから商売繁盛のお守りで入口に置かれているのだ、と会長さん。ソルジャーは「うーん…」と残念そうな顔ですけれども、「じゃあ、もう一つの方!」と立ち直って。
「玄関には別のがあったんだよ! あれはどうかな?」
「別の焼き物?」
「うん。そっちはタヌキじゃなくって、猫で。ノルディがそれも商売繁盛なんだ、って」
「「「あー…」」」
招き猫か、と今度は一発で分かりました。ところがソルジャーはそれだけで止まらず。
「どっちの前足を上げているかで招くものが違うと教わったけど? 人を招くか、お金を招くか」
「そう言うけど?」
会長さんが返すと、「やっぱりね!」と嬉しそうに。
「人を招くならアレと同じだろ、盛り塩の理屈! 猫がハーレムで役に立つのかな、こっちに来いって呼び寄せるとか!」
「ハーレムじゃないから!」
「違うのかい?」
「招き猫はあくまでお客さんだよ、でなければ招いて危険を回避させたとか!」
猫に招かれて木の下から出た途端、その木に落雷といった由来もあるのだそうで。その一方で、お世話になった猫の恩返し。自分の置物を作って売って下さい、と夢の中で言われてその通りにすれば飛ぶように売れて儲かったとか。
「そんなわけでね、招き猫の方は良くてせいぜい縁結びだから!」
「縁結びだったら充分じゃないか!」
出会いの後には一発あるのみ、と飛躍してしまったソルジャーの思考。
「縁を結んだら身体もガッチリ結ばないとね! 一発と言わず、五発、六発!」
「「「………」」」
なんでそういうことになるのだ、と言うだけ無駄だと分かってますから、誰も反論しませんでしたが。ソルジャーの方は大いに御機嫌、上機嫌で。
「今日は来てみた甲斐があったよ、大いに収穫!」
もう最高だ、と御満悦。タヌキと招き猫とでどういう収穫…?



「工作はシロエが得意なのかい、と訊いた筈だよ」
最初に訊いた、とソルジャーは私たちをグルリと見回しました。
「ノルディとのランチで閃いたんだ。すっかり見慣れたタヌキと猫の焼き物だけれど、この二つは役に立つんじゃないかと!」
「…どんな風に?」
あまり聞きたくないんだけれど、と会長さんが訊き返すと。
「どっちも人を招くという上、タヌキは八畳敷だからねえ! 猫とタヌキを合体させれば、絶倫パワーを招き寄せるんじゃないかと!」
「「「ええっ!?」」」
斜め上すぎる発想でしたが、ソルジャーはそうは思わないらしく。
「八畳敷だと絶倫だろ? それだけのパワーが詰まっているからデカイんだしね! おまけにそれに見合ったイチモツ、焼き物だと控えめになっているけど、臨戦態勢になったらきっと!」
とてもデカイに違いない、と頭から決め付け。
「でも、タヌキだけでは弱いんだ。商売繁盛に走ってしまうし、其処に招き猫のパワーをプラス! 人を招くならエロい人だって招ける筈だよ!」
ヤリたい気持ちの人を招いてガンガンやるべし、と強烈な理論。
「つまりは合体させたパワーがあればね、ぼくのハーレイのヤリたい気持ちがMAXに! 今でも充分満足だけれど、更にググンとパワーアップで!」
其処へタヌキの八畳敷の御利益がプラスで疲れ知らず、と凄い解釈。
「しかも盛り塩が横に置かれているってケースも多いしねえ…。タヌキの中には長年の内に盛り塩パワーも蓄積されているに違いないと見た!」
ハーレムへようこその盛り塩なのだ、と仕入れたての知識も早速炸裂。
「要はタヌキと招き猫を合わせた焼き物があれば! それを青の間に置いておいたら、夜の生活がグッと豊かに!」
「…君のぶるぅに割られるだけだと思うけど?」
悪戯小僧に、と会長さんの冷静な意見。
「…ぶるぅ?」
「そう、ぶるぅ。そんな焼き物を作って飾れば、割られてしまうか悪戯描きか…。如何にもぶるぅがやりそうだしねえ、作る以前の問題だね」
馬鹿な努力をするだけ無駄だ、と鋭い指摘が。確かに「ぶるぅ」が悪戯しそうな気がします。タヌキだけでもユーモラスなのに、招き猫との合体とくれば悪戯心を刺激されますよ…。



「ぶるぅか…」
それは盲点だった、とソルジャーが呻き、終わったかと思った珍妙な計画。けれど相手は不屈のソルジャー、SD体制とやらで苦労しつつもしぶとく生きている人で。
「うん、その点なら多分、大丈夫! 夫婦円満の神様なんだ、と言っておくから!」
「「「えっ!?」」」
「そう言っておけば、ぶるぅ対策はバッチリってね! ぼくたちの仲が円満でないと困るしね?」
どちらかが「ぶるぅ」のパパでママだし、とソルジャーは負けていませんでした。
「ぼくたちが夫婦喧嘩となったら、ぶるぅにだってトバッチリが行くし…。そうならないための神様だったら、まず悪戯はしないってね!」
「…そ、それじゃあ…」
会長さんの声が震えて、ソルジャーが。
「作って欲しいんだよ、その神様を!」
「「「!!!」」」
ひいぃっ、と叫んだのが誰だったのか。招き猫とタヌキが合体した焼き物、私たちに作れと言うわけですか?
「だってさ、ぼくは手先が不器用だしね? 粘土細工なんかはとてもとても」
それに焼き物にも詳しくないし、とソルジャーは溜息をつきました。
「ぼくのシャングリラじゃ食器とかも作っているけれど…。こっちの世界と焼き方が違うと思うんだ。だからね、パワーのこもった神様を作るならこっちの世界で!」
よろしく、と頭を下げられましても。…そんな焼き物、誰が作るの?
「工作はシロエが得意なんだろ? だけど君たち、粘土細工に馴染んでいそうな感じだしねえ…」
幼稚園の頃からやるんだったら、と言われて背筋にタラリ冷汗。この流れだと、もしかして、もしかしなくても…。
「よし、決めた! 神様を作ってくれる人数は多いほど御利益がありそうだしねえ、此処は君たち全員で! もちろん、ブルーも、ぶるぅもだよ!」
みんなで粘土をこねてくれ、と嫌すぎる方へと突っ走る話。
「「「…み、みんなで…?」」」
「そう! 粘土はぼくが調達するから、明日にでも!」
ブルーの家で神様を作ろう、とソルジャーは決めてしまいました。明日の土曜日は会長さんの家に集まり、粘土をこねる所から。しっかりこねたらタヌキと招き猫とを合体させた神様とやらを作るそうですが、私たち、いったいどうしたら…。



一方的に決められてしまった、土曜日の予定。全然嬉しくない予定。しかし逆らったら何が起こるか考えたくもなく、翌日の朝から私たちは会長さんの家を訪ねる羽目に陥りました。バス停で集合した後、重い足を引き摺って出掛けて行って、チャイムを鳴らすと。
「かみお~ん♪ ブルー、もう来ているよ!」
みんなで工作するんだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。家事万能でも基本がお子様、幼稚園児なレベルですから粘土細工というだけでワクワクらしく。
「入って、入って!」
「…邪魔するぞ…」
俺はお邪魔したくはないんだが、とキース君が零した言葉は誰の心にもある言葉。それでも靴を脱いで上がるしかなく、案内されてリビングに行けば私服のソルジャーが。
「やあ、おはよう。今日はよろしく頼むよ」
これが粘土で…、とリビングに敷かれたビニールシートの上に塊がドンと。会長さんが頭を振り振り教えてくれた所によると、最上級の粘土だそうで。
「ブルーときたら、タヌキで有名な陶芸の町に朝一番から出掛けて行ってさ、ちゃんと買って来たらしいんだよね…。後は造形するだけ、ってヤツを」
「そうなんだよ! こねて貰おうと思ってたけど、其処で訊いたらこねるのは大変らしくてねえ…。プロでも機械を使うと言うから、後は形を仕上げるだけ、っていうのを買って来たんだよ」
こねる苦労をしなくていい分、頑張ってくれ、という台詞。
「これを焼く方もね、焼いてくれると言っていたから…。情報操作はちゃんとしてあるし、何を焼いても大丈夫! さあ、作ろうか!」
「…な、中を空洞に仕上げるというのが無理じゃないかと思うんですが!」
ぼくたちは素人集団なんです、とシロエ君が叫ぶと、ソルジャーは。
「ああ、そのくらいはサイオンでなんとかなるってね! ぼくは手先は不器用だけれど、サイオンの方ならドンとお任せ!」
出来上がったら中身をクルッとくり抜くだけ、と余裕の微笑み。だったら最初からサイオンで作ればいじゃない、と誰もがすかさず突っ込みましたが。
「ダメダメ、ぼくにはその手の才能も無くってねえ…。こんな風にしたい、と思いはするけど、それを形に出来ないんだな」
ゆえに監督に徹するのだ、とソルジャーは床にドッカリ座って。
「とりあえず、基礎から作って行こうか。招きタヌキ猫」
「「「…招きタヌキ猫…」」」
それはどういう代物なのだ、と訊くだけ無駄というもので。私たちは粘土の塊を相手に戦うこととなりました。タヌキと招き猫とを合わせて、招きタヌキ猫…。



現場監督なソルジャーの注文はなかなかにうるさく、細かいもの。出来上がりサイズは高さ八十センチといった所で、下手に小さく作るよりかは楽なのですけど。
「基本はタヌキで行きたいんだよ。なんと言っても八畳敷だしね!」
「「「はいはいはい…」」」
タヌキですね、と頭の中にある例のタヌキをイメージしつつも大体の基礎を作り上げてみれば。
「うーん…。それだと猫とバランスが取れないか…」
「「「は?」」」
「ちょっと変更、座った形にしてくれる? こう、猫っぽく」
今からかい! と怒鳴りたい気持ちをグッと堪えて、招き猫っぽく座った形に。それはソルジャーのお気に召したのですけど、さて、其処からが大変で。
「形を猫っぽくしちゃったからねえ、顔はタヌキでいいと思うんだ。頭に笠を被せるのを忘れないでよ? でもって、タヌキは下半身がとても大切だから…」
尻尾は猫でも八畳敷はしっかりと、という御注文。上げる方の前足は人を招く右、エロい人をしっかり招けるように。下ろしてある左手に小判を持たせて、右の腰にはお通い帳。
「お通い帳はさ、しっかり通って貰うためだと聞いたんだよ」
粘土を買いに行って来た時に、とソルジャーは知識を披露しました。他にも色々教わったそうですが、自分にとって大事な部分を除いて全て忘れてしまった様子。
「うんうん、いい感じに出来てきたかな。それじゃ大事な八畳敷に取り掛かろうか!」
特大の袋とイチモツをよろしく、と頼まれたものの、そんな部分を作りたい人が居る筈もなくて。
「…キース先輩、どうですか?」
「工作はお前の得意技だろうが!」
「でもですね…。そうだ、ジョミー先輩なんかどうでしょう?」
「どういう根拠でぼくになるのさ!」
醜い押し付け合いが始まりましたが、思わぬ所から救いの神が。
「えとえと…。なんで作るの、やめちゃったの?」
招きタヌキ猫さん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「あとちょっとで出来上がりそうなのに…」
「その部分を作りたくないんですよ!」
シロエ君がズバッと言い切ると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「えーっ!?」と叫んで。
「かわいそうだよ、出来上がらないなんて!」
ぼく、頑張る! と小さな両手でせっせ、せっせと作っちゃいました、ソルジャー御注文の八畳敷。座布団よろしく自分の袋の上に座った招きタヌキ猫と、そのイチモツを…。



「うん、いいね!」
イメージどおりに仕上がったよね、とソルジャーは招きタヌキ猫を眺め回して。
「後は、盛り塩…」
「「「盛り塩?」」」
「そう! タヌキのパワーに入ってるかもしれないけれども、念には念を!」
盛り塩をするためのスペースも要る、と指差した場所はイチモツの真下あたりの座布団、いえいえ、八畳敷の金袋。
「この辺りにねえ、盛り塩を置けるよう、専用の窪みが欲しいんだな!」
「「「………」」」
誰が触るか、と再び始まる押し付け合い。結局、今度も「そるじゃぁ・ぶるぅ」が粘土を押して窪みを作って、ようやくソルジャー御希望の招きタヌキ猫が完成したかと思ったのですが。
「まだまだ、仕上げが残ってるんだよ!」
「もう出来てるだろ!」
これ以上の何を、と会長さんが怒鳴ると、ソルジャーは。
「お通い帳はそのままでいいけど、小判に書く文字!」
此処に達筆で「絶倫」の二文字が欲しいのだ、と言い出してしまい、今度は会長さんとキース君とが言い争いに。
「君が書いたらいいだろう! 副住職なら書道も必須!」
「それを言うなら、あんたの方だと思うがな! 伝説の高僧は書も得意だろう!」
「ぼくの右手はそういう風には出来ていないよ!」
「俺だってそうだ!」
君だ、あんただ、と坊主同士の舌戦が。お互いの辞書に「譲る」という文字はまるで無いらしく、どちらも一歩も引かぬ構えで睨み合い。どうなるのだろう、と見守っていれば。
「はいはい、そこまで~!」
ソルジャーが割って入りました。
「二人とも腕には覚えがある、と。それじゃ一文字ずつ書いてくれるかな、こう、絶倫と!」
「「い、一文字…」」
会長さんとキース君は顔面蒼白、しかしソルジャー、一歩も譲らず。二人のお坊さんは泣きの涙で粘土用のヘラを握ると。
「…ぼ、ぼくの絶筆って覚悟で一文字…」
「…俺は倫理を重んじてだな…」
書くか、と会長さんが「絶」の字、キース君が「倫」。まるで別々の人が書いたのに、見事にバランスの取れた「絶倫」の二文字、流石はプロのお坊さんかも…。



こうして出来上がった招きタヌキ猫はソルジャーの魂に響いたらしくて、何度もウットリと撫で回してからサイオンで中身を「よいしょ」とくり抜き。
「こんなものかな、厚みの方は、と…」
狂いが出ていないかサイオンで透視しているみたいです。あまりに厚みが違いすぎると焼く時にヒビが入る恐れが、と聞いて来たそうで。
「上手くくり抜けたみたいだね。後は工場で釉薬とかをかけて貰って、と…」
「色は其処でつけてくれるのかい?」
会長さんが尋ね、ソルジャーは「うん」と。
「ノルディに訊いたら、縁結び用の招き猫はピンク色らしいから…。タヌキの町の工場にピンク色はあるかと訊いたら、ちゃんと揃っているらしいから!」
焼き物の町は流石だよね、とソルジャーは実に嬉しそう。
「招き猫だって作ってるらしいし、プロの職人さんがぼくのイメージどおりに塗ってくれるって! この素晴らしい招きタヌキ猫を!」
そして釉薬をかけて窯で焼き上げてくれるのだ、と言いながら両手でペタペタと触りまくってますから、何をしているのかと思ったら。
「乾燥だよ! 乾かさないとね、着色も焼くことも出来ないから! 只今サイオンで乾燥中!」
「そういう細かいことが出来るのに、なんで形を作れないわけ!?」
会長さんが顔を顰めましたが、ソルジャーは「不器用だから」とケロリと一言。
「くり抜くだけとか、乾かすだとか。そういった作業は単純なんだよ、一から何かを作るってわけじゃないからね!」
ぼくには芸術とかの類は無理で…、と語るソルジャー。まあ、いいですけど…。
「というわけでね、招きタヌキ猫、来週までには出来上がるから!」
「「「来週?」」」
「そう! 大切な神様の像だからねえ、じっくりと焼いて貰わないとね!」
これから預けて彩色とかも…、と私たちの力作を抱えたソルジャーは瞬間移動でヒョイと姿を消し、ほんの一瞬で戻って来て。
「はい、サイオンでパパッと伝達、注文通りに着色仕上げ! 後は来週のお楽しみ!」
「「「…お楽しみ?」」」
「決まってるだろ、招きタヌキ猫のお披露目だよ!」
もちろん立ち会ってくれるよね? と有無を言わさぬド迫力。来週の土曜日はピンク色に染まった招きタヌキ猫がお目見えですか、そうですか…。



嫌だと泣こうが、お断りだと喚き散らそうが、逃れられない招きタヌキ猫のお披露目とやら。口にしたくもなく、もう忘れたいと暗黙の了解、お口にチャック。誰も何も言わず、触れないままに一週間が過ぎ、ついに当日。
「…いよいよか…」
「いよいよですね…」
とうとうこの日が来ちゃいました、とシロエ君。先にぼやいていたのがキース君で。
「…俺は朝から嫌な予感がするんだが…」
「えっ、なんで?」
何かあったとか、とジョミー君が。キース君は「まあな」と会長さんが住むマンションへ向かう道中でボソリ。
「朝一番には本堂でお勤めが俺の日課なんだが…。今朝に限って蝋燭の火が」
「「「…火が?」」」
「風も無いのに、フッと消えてな」
「「「そ、それは…」」」
コワイ、と誰もがブルブルと。さながら怪談、とはいえ冬。隙間風だって入るでしょうから、偶然というヤツでしょう。現に今だってピューピュー北風、元老寺の本堂の中だって…。
「俺だってそうだと思いたい。だが、胸騒ぎがするんだ、何故か!」
「い、言わないでよ…」
怖くなるから、とジョミー君が肩を震わせ、マツカ君も「やめておきませんか?」と。
「それこそ言霊の世界ですよ」
「…そうかもしれん。何事も無ければいいんだが…」
南無阿弥陀仏、というお念仏の声に、ウッカリみんなで唱和しちゃいました。寒風吹きすさぶ歩道を歩く高校生の団体様が「南無阿弥陀仏」の大合唱。犬の散歩中のお爺さんが振り返って、足早に私たちの方へと近寄って来て。
「寒行ですか、ご苦労様です」
温かいものでも食べて下さい、とキース君の手にお札を一枚。
「あ、ありがとうございます!」
「いえ、修行、頑張って下さいよ!」
感心、感心…、と立ち去ってゆくお爺さん。何か勘違いされたようですけど、ピンポイントで本職を狙って御布施とは流石。まさに年の功、キース君が深々と頭を垂れて拝んでますから、お爺さんにはいいことがありそうです。でも、私たちは…?



通りすがりのお爺さんの幸福を祈ったまではいいのですけど、問題は私たちの方。元老寺の御本尊様にお供えした蝋燭が消えたと聞くと、嫌な予感しか無いわけで…。
「…いいか、押すぞ?」
キース君が会長さんの家のチャイムを押し、ドアがガチャリと中から開いて。
「かみお~ん♪ 招きタヌキ猫さん、もう来ているよ!」
とっても可愛く出来上がったの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねています。
「そ、そうか…」
「早く見て、見て!」
ピョンピョン跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」に案内されたリビングには燦然とピンクの像が置かれていました。招きタヌキ猫。頭に茶色の笠を被って、左手に「絶倫」の二文字が輝く金色の小判。お通い帳をぶら下げ、座布団代わりに赤く塗られた八畳敷の金袋が。
「「「………」」」
出来てしまったのか、と絶句していれば、私服のソルジャーがニコニコと。
「凄いだろう? 後はお性根を入れるだけなんだよ」
「「「…オショウネ?」」」
「うん。こういう神様を作ったんだよ、ってノルディに言ったら、ちゃんとお性根は入れましたか、って訊かれちゃってさ」
お祭りするには「お性根」なるものを入れて貰わないと駄目なんだってね、という話。なんですか、そのお性根とやらは…、ってキース君、顔色が真っ青ですよ?
「キース先輩、どうかしましたか?」
「…ろ、蝋燭……」
「蝋燭?」
何のことだい、とソルジャーが首を傾げて、会長さんも「どうかしたかい?」と。
「い、いや…。何でもない」
「そういう顔には見えないけどねえ? …って、ああ、なるほど…」
分かった、と頷いた方は会長さんで。
「朝のお勤めでそんな事件がねえ…。だったら、君に任せたってね」
「なんだって!?」
「嫌な予感がしてたんだろう? つまりはそういうことなんだよ。君が主役だ、開眼法要」
「「「開眼法要?!」」」
何ですか、それは? お性根とやらと何か関係ありますか…?



「お性根を入れる。それが開眼法要なんだよ」
これをやらないと神様も仏様も効力を発揮しないのだ、と会長さんが言い、ソルジャーが「そうらしいんだよ」と招きタヌキ猫を撫で擦っています。
「それが必要だと言われちゃったし、ブルーに頼んでいたんだけれど…。渋られちゃって」
「そいつを俺にやれと言うのか!」
「予感があったなら、それも御縁というものなんだよ!」
この際、腕前は問わないのだ、とソルジャーは出来たての招きタヌキ猫の頭をポンポンと。
「断りまくってるブルーなんかより、御縁の深そうなキースってね! それでこそ御利益!」
だからよろしく、と差し出された御布施。熨斗袋に入ったソレは作法通りに出されたらしくて、此処へ来る前に犬の散歩中のお爺さんに握らされた御布施も見事にキャッチしていたキース君は条件反射というヤツです。押し頂いて深々と一礼してしまい…。
「…ちょ、ちょっと待て!」
手が勝手に、という言い訳が通るわけがありませんでした。会長さんに「任せた」と肩を叩かれ、ソルジャーからは「どうそよろしく」とお辞儀され…。
「…お、俺がやるのか?」
「出来なくはないだろ、副住職」
作法は一通り習ってるよね、と会長さんが駄目押しを。ついでに元老寺から瞬間移動で法衣が取り寄せられ、必要な仏具も揃ってしまい…。
「…く、くっそお…」
やるしかないのか、とキース君がゲストルームへ着替えに出掛けて、その間にリビングに会長さんが祭壇の用意を。中央に招きタヌキ猫が据えられ、その前に蝋燭にお線香など。キース君の嫌な予感は当たりまくりで、とんでもないモノの開眼法要をさせられる羽目に。
「…仕方ない、やるぞ」
法衣に輪袈裟の略装ではなく、キッチリと袈裟。しかも法衣も墨染ではなく、キース君のお坊さんの位に見合った色付きの立派なもので。
「嬉しいねえ…。これで招きタヌキ猫も立派な神様になるってね!」
感激の面持ちのソルジャーを、キース君がキッと振り向いて。
「間違えるな! 坊主の俺がお性根を入れるからには仏様だ!」
「うんうん、どっちでもいいんだよ、ぼくは」
効きさえすれば、とソルジャーが促し、招きタヌキ猫の開眼法要が厳かに執り行われました。法要が終わるとソルジャーはピンクの招きタヌキ猫をしっかり抱えて自分の世界に帰ってしまい…。



キース君のヤケクソの祈祷が効いたか、招きタヌキ猫の形そのものに凄いパワーがあったのか。八畳敷の金袋な座布団の上に盛り塩をされた像の効き目は抜群らしくて。
「ブルーは熱心に拝んでいるらしいねえ…。アレを」
「そのようだな」
あいつの報告の中身は理解不能なんだが、とキース君。あれ以来、ソルジャーは何かと言えば押し掛けて来てキャプテンの凄さを自慢しています。ヌカロクがどうの、絶倫がどうのと。
「ぶるぅの悪戯も無いようですねえ、夫婦円満の神様だけに」
割られずに済んで本当に良かったじゃないですか、とシロエ君がホットココアを口に運んだ土曜日の午後。会長さんの家のリビングは暖房が効いて、雪模様の外とは別世界です。まさに天国、と思った所へ。
「割れちゃったんだよーっ!」
何の前触れもなく飛び込んで来た人影、紫のマント。ソルジャーが泣きそうな顔で、手には袋が。
「割れたって…。何が?」
会長さんの問いに、ソルジャーは袋を指差して。
「…ま、招きタヌキ猫…。…粉々に割れて、たったこれだけ…」
他の破片は青の間の水槽に落ちて溶けてしまって回収不能、と言われましても。
「…ぶるぅかい?」
会長さんが訊くと、ソルジャー、首をコクコクと縦に。ほらね、どうせ割られるってあれほど言ったのに…。
「違うんだってば、悪戯じゃないんだ! ぶるぅは招きタヌキ猫をパワーアップさせようと思って頑張ったんだよ、八畳敷をもっと広げようと! サイオンで!」
だけど相手は焼き物だから…、と嘆くソルジャーは「ぶるぅ」に像の説明をちゃんとしたのか、しなかったのか。焼き物の像を大きくするなど、いくら「ぶるぅ」がタイプ・ブルーでも絶対に不可能、粉々に割れてしまって当然で…。
「ど、どうしたらいいと思う? もう一度、君たちに頼んで一から…」
「いや、その前にお性根を抜かんと駄目だと思うぞ」
抜いてやろう、とキース君が袋に手を伸ばし、ソルジャーが「駄目!」と。
「抜いたら二度と入れてくれないんだろう!?」
「当たり前だろうが、誰が入れるか!」
「それは困るんだよーっ!」
ぼくの大事な招きタヌキ猫、と絶叫するソルジャーを助けようという人はいませんでした。一度は手に入れた絶倫の神様、招きタヌキ猫。私たち、二度と作る気は無いんですけど、どうします? 一から自分で作りますかね、思い切り不器用らしいですけどね…?




            焼き物の効果・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 ソルジャーの希望で誕生した焼き物、招きタヌキ猫。八畳敷の話は昔話で有名です。
 結局、割れちゃったわけですけれども、効果は抜群だった模様。イワシの頭も信心から…?
 次回は 「第3月曜」 2月18日の更新となります、よろしくです~! 

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 こちらでの場外編、1月は、いつになく楽なお正月に始まり、ツイていたのに…。
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