シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園、今日も平和で事も無し。お花見シーズンも無事に終わって別世界からのお客様の訪問も一段落であろう、とホッと一息な私たちです。お花見の無い週末はかくも穏やかなものだったろうか、と会長さんの家でのんびりと…。
「かみお~ん♪ 春はやっぱり、イチゴのケーキ!」
イチゴのクリームとマスカルポーネチーズを重ねてみたよ、とピンク色のケーキが登場しました。如何にも春といった風情で、これは美味しそう!
「ぼくにもケーキ!」
「「「!!?」」」
誰だ、と振り向けばフワリと翻る紫のマント。なんでいきなりソルジャーが!?
「こんにちは! 春はイチゴも美味しいよね!」
「もうお花見は終わったけど!」
やりたいんだったら一人で行け、と会長さんが窓の向こうを指差して。
「北の方ならまだシーズンだよ! よく知ってると思うけど!」
「それはもちろん! 君たちとのお花見も北上しながらが定番だしね!」
穴場を探して北へ北へ…、という台詞どおりに、それが私たちのお花見スタイル。屋台が並ぶ賑やかな場所もいいんですけど、貸し切りの桜を見に出掛けるとか。
「お花見はもういいんだよ。今年は充分、堪能したから」
ぼくのシャングリラのお花見の方も、とソルジャーは空いていたソファに腰を下ろして。
「今日はね、ちょっと相談があって」
「「「相談?」」」
「うん。現段階では思い付きでしかないけどね」
上手く化ければ美味しい話になるかもしれない、と唇をペロリと。相談とやらは果たして真っ当な中身でしょうか?
イチゴとチーズが絶妙なハーモニーを奏でるケーキを食べ終わった後、ソルジャーはおかわりの紅茶を飲みながら。
「それも一種のアレなのかなあ…?」
「「「は?」」」
「ぶるぅが持ってるヤツのことだよ!」
「「「えっ?」」」
何だ、と見てみれば「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手に紅茶のポット。紅茶を飲んでいる人へのおかわり用で、たっぷりと入る大きなものです。
「ティーポットがどうかしたのかい?」
会長さんが尋ねると、ソルジャーは。
「相談事と重なるかもね、と思ったんだよ。少し似てるし」
「何に?」
「中からドロンと出て来るヤツに!」
「「「ドロン?」」」
どういう意味だか、サッパリ謎です。紅茶のポットから何がドロンと?
「えーっとね、いわゆる神様かな? ポットとは違うけど、魔法のランプ」
「ああ、あれね…」
会長さんが頷き、私たちも理解出来ました。中からランプの精が出て来るヤツでしょう。ティーポットとまるで似ていないこともありません。注ぎ口っぽいのもくっついてますし…。
「そういうランプっていうのもあればさ、壺もあるよね」
「「「壺?」」」
「そう、精霊が住んでいる壺!」
壺の中からドロンと出て来て魔法を使ってくれるのだ、と言われればそういう昔話や伝説の類は多いかも。ソルジャーまでが知っているとは驚きですが…。
「そりゃまあ、調べるとなればライブラリーには資料が豊富にあるってね! あれこれ調べて、壺がいいかなと思ったわけ。それが相談!」
「壺なんか何に使うんだい?」
会長さんの問いはもっとも、私たちだって知りたいです。
「魔法に決まっているだろう!」
ああいうモノにはきっとパワーが! と、ソルジャーは妙なことを言い出しましたが、魔法の壺でも欲しいんですか…?
「君の気持ちは分からないでもないけどねえ…」
魔法で願いを叶えたい気持ち、と会長さん。
「でもねえ、そうそう魔法の壺なんていうのは転がってないと思うけど?」
ぼくも出会ったことは無いし、とソルジャーよりも百年以上も長生きしている会長さんならではの重みがズッシリ。
「それにさ、君が住んでる世界。地球が一度は滅びたんだろう? そんな世界に魔法の壺なんか、どう考えても残っていないと思うんだけどね?」
「ぼくだってそれは分かっているよ。それに、欲しいのはそういう魔法の壺ではないし…」
「えっ? だけど魔法に使うって…」
「だから使うんだよ!」
魔法の壺を作りたいのだ、と飛び出した言葉は斜め上。ソルジャーのサイオンなら、魔法っぽく見える色々なことが出来るでしょうけど、マジックショーでもやりたいんですか?
「違うってば!」
見世物に使うわけじゃないんだから、とソルジャーは至極真面目な顔で。
「壺にしっかり漬け込むって調理法もあるよね、こっちの世界」
「それはまあ…。お漬物に壺はセットものだけど…」
でなければ樽、と会長さんが返しましたが、魔法の次はお漬物ですか?
「ぼくが思うに、壺にはパワーがあるんだよ。詰め込んでおけば能力アップで、精霊になったり、美味しいお漬物になったり!」
「「「能力アップ!?」」」
斬新すぎる解釈ですけど、魔法のランプや壺といったもの。中に入った精霊のパワーが壺でアップして願い事を叶える力がつくとか、可能性はゼロではありません。お漬物だって壺に入れなければ腐ってしまっておしまいですし…。
「ちょっといいかな、と思ったんだよ。壺に入れればパワーがアップ!」
「………何の?」
会長さんが訊き返すまでの「間」というもの。私たちも同じく取りたい気持ちで、何のパワーがアップするのか、知りたいような知りたくないような…。
「決まってるだろう、パワーがアップと言うからには! ぼくのハーレイ!」
パワーアップで目指せ絶倫! とソルジャーは高らかに言い放ちました。
「壺に詰めれば、きっとパワーが増すんだよ! そして夜にはガンガンと!」
疲れ知らずでヤリまくるのだ、と言ってますけど。壺に詰めるって、いったい何を…?
ソルジャーが持ち込んだ相談事。壺にはパワーがありそうだから、とキャプテンのパワーアップを希望で、詰めるだとかいう話なのですが。
「悪目立ちすると思うけど?」
ついでに退場! とレッドカードを会長さんが。
「あんな部分を壺に詰めたら、ズボンなんかは履けないってね。はい、退場!」
猥談はお断りなのだ、と突き付けられたレッドカードに、ソルジャーは。
「アレを詰めるとは言っていないよ、詰めたいものはハーレイそのもの!」
「「「ええっ!?」」」
まさかキャプテンを丸ごと詰めると? 壺の中に?
「それでこそだろう、魔法の壺! 中でじっくりとパワーアップで、毎日毎晩!」
要は首だけ出ていればいい、と凄い台詞が。
「食事さえ出来れば、その他のことはどうとでも…。脱出用ポッドの仕組みを応用しとけば、トイレとかだって解決するしね」
「そのサイズ、もう壺じゃないから!」
人間が入るようなサイズは壺とは言わない、と会長さんの論点も何処かズレていましたが、あまりの展開に正気を失ったのであろう、と容易に想像がつく事態です。けれどソルジャーはそうは考えなかったらしく。
「…壺にはサイズがあるのかい?」
「どの大きさまでを壺と呼ぶか、って定義みたいなのがあるんだよ!」
「ふうん…? じゃあ、ハーレイが首まで入りそうなサイズの壺だと何と呼ぶわけ?」
「それは甕だね」
まあ聞きたまえ、と会長さんは私たちをも見回して。
「より正確に定義するなら、甕と壺とは形状の違いなんだけど…。一般的にはデカすぎる壺も甕と呼ぶわけで、君が言うような巨大な壺だと甕になるねえ…」
「亀なのかい?」
「そう、甕だけど?」
「凄いじゃないか!」
亀だなんて、とソルジャーは何故か感激で。
「作るしかないね、ハーレイを入れるための壺! これは絶対、パワーがアップ!」
亀なんだから、と大喜びで壺を作ろうとしているソルジャー。甕と言われて何故そうなるのか、私たち、全然分かりませんが…?
「え、だって。亀なんだろう?」
巨大な壺は、とソルジャーは嬉しそうな顔。
「其処からハーレイの頭が出てたら、もうそれだけで最高だってば!」
「甕は元々、棺桶だよ?」
会長さんが苦々しげに言って、ソルジャーが。
「棺桶だって?」
「そうだけど? 甕棺という名前もあってね、デカイものだから棺桶に使う。ずうっと昔の遺跡を掘ったらゴロンゴロンとそういう類の甕が出るけど?」
「棺桶だったら、それは天国への片道切符というヤツだよね!」
それに入れば天国に向かって旅立つわけだ、という説はまるで間違いではないでしょう。甕棺を作っていたような時代の人たちが天国という言葉を知っていたかはともかく、それに等しい世界に送り込むべく甕棺に詰めていたわけで…。
「まあ、天国へ行くための乗り物と言えば乗り物なのかも…」
「素敵じゃないか! 入ればもれなく天国へ! 天国、すなわち絶頂ってね!」
夫婦の時間は絶頂を極めてなんぼなのだ、とソルジャーの口調はますます熱く。
「亀の口からハーレイの頭が出ている上に、その亀は天国への旅立ちが確約されてる切符なんだよ! もう絶対に作るしかないよ、その亀を!」
「片道切符の件は分かった。でも、なんだって甕にそんなに憧れるわけ?」
「亀だけだったら特に憧れはしないけど…。頭だけが出てるって所かな、うん」
其処が素晴らしいポイントなのだ、とソルジャーの瞳がキラキラと。
「だってさ、亀から頭だよ? 亀の頭で分からないかな?」
「甕の頭は穴がポカンと開いてるだけだと思うけどねえ? 物を入れるための」
それこそ水から死体まで、と会長さんが言い、私たちも同じことしか思い付きません。水甕だとか、甕棺だとか。どれも頭と呼ぶべき部分は開口部。其処から水だの死体だのを中に突っ込むだけのものだと思うんですけど…。
「そりゃ、穴だって開いてるけどさ…。モノを入れるための」
君もずいぶんハッキリ言うねえ、とソルジャーは会長さんの顔をまじまじと。
「さっきから持ってる、そのレッドカード。自分に出さなくていいのかい?」
「なんでレッドカード?」
「君の発言も猥褻だから!」
自分に出すべき、という指摘ですが。会長さんの発言の何処が猥褻だと…?
甕と甕棺について話をしていた会長さん。何処にもヤバそうな台詞などは無く、猥褻な単語も出ていません。なのにソルジャーはレッドカードが必要だと言い、会長さんの手から引っ手繰りそうな勢いで。
「君の決め台詞を借りていいかな、退場ってヤツ。それと、レッドカード!」
「どうしてぼくにレッドカードが!」
「ぼくよりもずっと酷いレベルの発言だから!」
猥褻なんてレベルじゃなくてズバリそのもの、と会長さんに指を突き付けるソルジャー。
「ぼくは亀の頭だとしか言ってないのに、穴だの、モノを入れるだなどと…!」
「甕の頭はそういうものだよ! 物を入れなきゃいけないんだから!」
「また言ってるし!」
もっと控えめに発言すべし、とソルジャーは眉をひそめながら。
「日頃、退場と連発している君の台詞とも思えないよ。穴だなんてハッキリ言っちゃう代わりに、せめて、こう…。発射口とか、銃口だとか、比喩ってヤツは無いのかい?」
「…発射口?」
なんで甕から、と会長さんの目が真ん丸になって、私たちも頭に『?』マークが。銃口の方も理解不能です。甕を使ったバズーカ砲でもありましたっけ? でなきゃロケットランチャーだとか…。
「発射口だよ、控えめに表現するならね」
それが相応しい言い方なのだ、とソルジャーはフウと溜息を。
「なんだって、ぼくが君にこういう指導をしなくちゃいけないんだか…。モノを入れるって方にしたって、もうちょっと…。弾けるだとか、もっとソフトな言い方が…」
「弾ける?」
「昇り詰めるでもいいんだけどね」
要は絶頂、その瞬間に迸るモノ、とソルジャーの口からアヤシイ言葉が。
「絶頂だって!?」
何処からそういうことになるのだ、と会長さんが眉を吊り上げれば。
「何度も自分で言っていたくせに…。亀の頭には穴が開いてて、其処からモノを入れるって! モノって言ったら、普通はそのものを指すんだろうけど、君が言うのはアソコから発射される白い液体の方だろう?」
「ちょ、ちょっと…!」
それは…、と会長さんの声が引っくり返りましたが。私たちも目が点になってしまいましたが、甕の話がどうしてそういう方向へ…?
シャングリラ学園特別生の私たちは、永遠の高校一年生。精神も身体も成長しないため、万年十八歳未満お断りと呼ばれる状態です。とはいえ、キャプテンとの熱い関係に燃えるソルジャーのせいで余計な知識も叩き込まれて、白い液体くらいは理解が可能で。
「どうすれば甕がそんなコトに!」
会長さんがソルジャーを怒鳴り付け、私たちも揃って頭をコクコクと。甕と言ったら水甕に甕棺、どう考えても保健体育の授業の世界とは別物の筈。けれど…。
「亀だから!」
君もハッキリ自分で言った、とソルジャーは譲りませんでした。
「亀の頭には穴があるとも、其処からモノを入れるんだ、とも!」
レッドカード並みの発言だった、とソルジャーの勢いは立て板に水で。
「普段の君ならまず言わないのに、今日はずいぶん大胆だな、と…。これも壺ってヤツのパワーの内かと、ぼくは感激してるんだけど! 何と言っても亀だしね!」
亀の頭は素晴らしいから、とソルジャー、ベタ褒め。
「アレが無ければ夫婦の時間は成り立たないし! ぼくのハーレイのは特に立派で!」
身体に見合ったサイズなのだ、と何かを自慢しているようですが、亀の頭って…?
「ブルーも自分でレッドカード並みの喋りを披露しちゃったことだし、ぼくもズバリと言っちゃおうかな? アレの先っぽ、亀の頭にそっくりなんだよ! その名も亀頭と!」
「「「…祈祷?」」」
今度は御利益ならぬ祈祷か、と思った途端に、会長さんが。
「退場!!」
ソルジャーに向かって投げ付けられたレッドカードと「退場!」の言葉。するとソルジャーが言った御祈祷とやらはヤバイ言葉の一種でしょうか?
「キトウ違いだよ、説明する気は無いけれど!」
知らなくっても全然問題無いんだけれど、と会長さんは肩で息をしながら、ソルジャーに。
「君がどういう勘違いをしたかは、よく分かった! 亀じゃないから!」
「えっ?」
「君が期待した亀っていうのは動物の方の亀だろう? カメが違うから!」
ぼくが言う甕はこういうもので、と会長さんは紙を持って来て、ペンでデカデカと「甕」の一文字を書き殴りました。
「大きな壺を意味する甕は、こう! 亀じゃなくって!」
そして頭は甕の口であって壺の口だ、と壺の絵までが。何故に動物の亀の方だとソルジャーが喜び、亀の頭が何だったのかは私たちには意味不明ですが…。
「うーん…」
カメ違いか、とソルジャーは「甕」の一文字と絵とを眺めて残念そうに。
「いい感じだと思ったんだけどねえ、カメから突き出すハーレイの頭…」
「これを動物の亀と繋げる発想の方が変だから!」
勝手に一人でガッカリしてろ、と会長さんは言ったのですけど。
「ううん、これも御縁の内ってね! カメ違いでも!」
甕から突き出す頭も素敵なものだと思っておこう、と開き直ってしまったソルジャー。
「ぼくが亀だと思っていたなら、それはいわゆる語呂合わせ! 甕でも亀って!」
そして突き出す頭は亀頭そのもの、と再び飛び出す御祈祷とやら。
「ぼくのハーレイにはそう言っておくよ、大きな壺から頭だけ出せば亀頭だと! もうそれだけで漲るだろうし、壺に入ればパワーは絶倫!」
相談に来た甲斐があった、とソルジャーは笑顔全開で。
「こうなったら、是非、作らなきゃ! ハーレイを入れるための壺!」
亀頭な上に、天国への片道切符の甕棺パワーも付いて来るし、とやる気満々、作る気満々。
「…本気なのかい?」
会長さんが恐る恐る訊けば、「もちろんさ!」と即答で。
「ぼくのシャングリラには、ぶるぅのための土鍋制作のノウハウってヤツがあるからねえ…。脱出用ポッドの応用でこういう壺を作れ、と言えば作れる!」
「で、でも…。それに君のハーレイを詰めちゃったら…」
キャプテン不在になるのでは…、と会長さん。
「まさかその壺に入ったままでブリッジに出たりは出来ないだろう?」
「あっ、そうか…」
それもそうか、とソルジャーは考え込みました。
「ぼくとハーレイとの仲はバレバレだし、その格好でブリッジに出ても誰も何とも思わないけど…。ハーレイは未だにバレていないと頭から思い込んでる状態だっけ…」
ついでに見られていると意気消沈でもあるのだった、と微妙にヘタレなキャプテンへの嘆きも飛び出して来て。
「…絶倫パワーを溜め込むために壺に入っているんです、って姿でブリッジには出られないかな、あのハーレイだと…」
だけど壺のパワーも捨て難いのだ、とブツブツブツ。キャプテンが壺に入れないなら、その案、サックリ廃棄すべきだと思いますけどねえ?
キャプテンのパワーをアップさせるために壺だと思ったらしいソルジャー。大型の壺を指す甕と亀とを勘違いして、実に素敵なアイテムなのだと喜んだまではいいのですけど、キャプテンを壺に入れること自体が難しいようで。
「困ったなあ…。壺は絶対、使える筈だと思うんだけど…」
「無理、無茶、無駄の三拍子だよ、それ」
作ったって使えやしないから、と会長さんがキツイ台詞を。
「そもそも、効くかどうかも分からないのに、君のハーレイが黙って壺に入るとでも? たとえ休暇を取っていたって、妙な実験には付き合わないだろうね」
確実に効くと言うんだったら入るってこともあるだろうけど…、と鋭い突っ込み。
「入れば絶倫間違いなし、って証拠も無いのに、壺なんかに入る馬鹿はいないよ」
「…それもそうかもしれないねえ…」
でも捨て難い、と壺を諦め切れないソルジャー。
「壺とだけ思っていた段階なら、諦めることも出来たんだけど…。君が甕だなんて言い出しちゃったし、亀の頭と天国行きの片道切符がどうにも諦められないんだよ!」
「諦めたまえ!」
不可能なことにしがみ付くな、と会長さんは突っぱねましたが、ソルジャーは尚もブツブツと。
「でもさあ…。亀の頭で、天国に向かってまっしぐら…」
「君のハーレイの協力ってヤツが望めない段階で絶望的だろ!」
「そうなんだけど…」
でも、とソルジャーは未練たらたら。
「…せめて効くというデータが取れれば…。これは効くんです、ってデータさえあれば…」
「ぼくは協力しないからね!」
其処の連中も頼むだけ無駄、と会長さんが私たちの方をチラリと。
「万年十八歳未満お断りのを甕に詰めても、君が望むデータは得られないから! どっちかと言えば拷問の方になっちゃうから!」
「拷問だって?」
「そのものっていうわけじゃないけど、甕に詰めて飼っておくっていう恐ろしい拷問があったんだよ! ずっと昔に、中華料理の生まれた国で!」
手足を切り落とした人間を甕に突っ込み、首だけを出して飼っていたのだ、と聞いて震え上がった私たち。ソルジャーの実験に付き合わされたら、まさにソレです。手足はちゃんとくっついていても、自由ってヤツが無いんですから~!
詰められたくない、特大の甕。首だけを出して詰められる甕。それに似た拷問があったと聞いたら、もう絶対にお断りです。どんなに御馳走三昧であっても、甕に詰まって暮らすだなんて…。
「俺は断らせて貰うからな」
キース君が一番に逃げを打ちました。
「これでも元老寺の副住職をやってるんだし、朝晩のお勤めをしなくてはならん。壺から頭しか出ていないのでは、御本尊様に失礼すぎる。それに親父にも怒鳴られるしな」
あの親父なら壺を割るぞ、と駄目押しが。
「俺の親父が大切な壺を叩き割ってもかまわないなら、其処は相談に応じるが…」
「それは困るよ、壺は大事にして貰わないと!」
君は外す、とソルジャーがキース君を除外したから大変です。男の子たちは我も我もと外されるべく理由を捻り出し、スウェナちゃんと私は元から対象外だけに…。
「…実験台が誰も残っていないんだけど!」
ソルジャーが呻き、会長さんが「ほらね」と冷たい一言。
「壺は諦めるように何度も言ったろ、最初から役に立たないアイデアなんだよ」
「だけど! 壺のパワーも甕のパワーも捨て難いんだよ!」
試すくらいはやってみたい、とゴネまくっていたソルジャーですが。
「…そうだ。一人いるじゃないか、使えそうなのが」
「ぶるぅは駄目だよ!?」
会長さんが止めに入ると、ソルジャーも「当たり前だろ」と。
「こんな子供を詰めてみたって、キースたち以上にロクなデータが取れやしないよ。第一、ぶるぅじゃ甕じゃなくって壺になるんじゃないのかい?」
「その辺は…。甕の定義で言う形の方かな、サイズじゃなくて。赤ん坊を入れたヤツでも、甕棺は一応、甕棺なんだよ」
壺棺ではなくて甕棺なのだ、と会長さんの説明が。
「だからね、ぶるぅサイズで壺を作っても甕だという主張は充分に通る。君のぶるぅを詰めてみるのもいいんじゃないかな、子供ではあるけど、おませだから!」
詰めるんだったらそっちがお勧め、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」を庇っています。確かに「ぶるぅ」は悪くない実験対象でしょう。大人の時間の覗き見が好きだと聞いていますし、「そるじゃぁ・ぶるぅ」よりかはマシなデータが取れそうです。けれど…。
「誰がぶるぅを詰めると言った?」
壺は最初から大人サイズで! とソルジャーの声が。じゃあ、使えそうな一人って…?
「壺はハーレイのサイズに合わせて作るんだよ」
でないと二度手間になるからね、とソルジャーは壺作りの過程を語りました。まずはキャプテンの身体のデータに合わせて原型作り。それから脱出用ポッドの技術を応用、入ったままでもトイレに困らないように。
「生理現象だけは如何ともしようがないからねえ…。これは必須で」
「ふうん…。その点は拷問とは全く違うようだね」
あっちの方は垂れ流しで…、と会長さんが話す例の拷問。手足を切り落として甕に突っ込むヤツですけれども、恐ろしいことに。
「アレはね、死なないようにちゃんと手当てをしてあったってね」
「「「えぇっ!?」」」
「死んでしまったら意味が無いだろ、死刑にするのと大差無いから。甕の中では垂れ流しなんだよ、手足を切ってそのまま入れたら其処から腐って直ぐ死ぬじゃないか」
「「「じゃ、じゃあ…」」」
いったい何をしてあったのだ、と顔を見合わせてガクガクブルブル。会長さんは平然として。
「さあねえ、傷口を焼いたか何かじゃないのかな? 焼いたら止血と消毒になるし…。でもって、甕の中にはお酒がたっぷり、アルコールで常に消毒なわけ!」
垂れ流したってこれで万全、と聞かされたら震え上がるしか…。でもまあ、ソルジャーがキャプテン用に作ろうとしている壺だか甕だかは、そういう心配は無いわけで。
「それはもう! ハーレイには快適に過ごして貰わないとね!」
ぶるぅの土鍋の技術をフルに活用しよう、とソルジャーは胸を張りました。
「あの土鍋は冷暖房完備になっているから、壺も同じで冷暖房完備! そしてトイレも快適に! 後は美味しい食事を運んで、絶倫のパワーを溜め込ませる、と!」
亀の頭に食事をさせるだけでも嬉しくなってくるよ、と艶やかな笑みが。
「ぼくが手ずから食事を運んで、食べさせて…。そうする間にも身体の方は壺のパワーを吸収中! 天国行きの片道切符でググンと漲る下半身!」
そうして壺から出て来た時には…、とウットリと。
「これでもかっていう勢いで押し倒されてさ、ぼくと一緒に天国へ! もう何回でも昇り詰めちゃって、ひたすら絶頂、ヌカロクどころか機関銃並み!」
夜を徹してヤリまくるのだ、と言ってますけど、その前に実験するんですよね? 使えそうなのが一人いるとか聞きましたけれど、それはいったい…?
「壺がハーレイのサイズな以上は、実験台だって限られるだろ?」
あれだけの巨体はそうそういない、とソルジャー、ニッコリ。
「巨体に見合った大きさのアレで亀頭なんだよ、それに張り合える人物といえば!」
一人しかいない筈なんだけど、とソルジャーの視線が向けられた方向。その方角には…。
「「「教頭先生!?」」」
お住まいはあちらの方向です。まさか、と口から飛び出した名前に、ソルジャーは。
「ピンポーン!」
よく出来ました、と拍手までが。ほ、本当に教頭先生を壺に入れるんですか?
「仕方ないじゃないか、他に適役がいないんだから…。それに身体的な構造、ぼくのハーレイとは瓜二つってね!」
少々ヘタレが過ぎるけれども…、と詰りながらも、教頭先生を使うつもりでいるソルジャー。
「ヘタレ過ぎてて童貞一直線ではあるけど、アソコは充分、大人だしね? 壺でパワーが漲るかどうか、実験するには最適だってば!」
「で、でも…。ハーレイにだって仕事はあるし!」
会長さんが叫びました。
「壺に入って授業なんかは出来やしないし、そんな実験、無理だから!」
「休んで貰えばいいじゃないか!」
休暇はぼくのハーレイよりも取りやすい筈、と負けてはいないソルジャー。
「ぼくのハーレイだと、シャングリラの安全だの何だのと制約が多いけれども、こっちのハーレイ、自分の都合で休みを取っても誰かに危険が及ぶってわけじゃないからね!」
現にギックリ腰で休んでたことも…、と掘り返された教頭先生の過去。ソルジャーが泊まり込みで世話をしていたケースもありましたっけね、ギックリ腰…。
「ほらね、仮病で休めるんだよ。それに限るってば!」
壺が出来たら休んで貰おう、とソルジャーは一方的に話を進めて。
「今から作ればゴールデンウィークに間に合うかも…。あそこだったら特に休暇を取らなくっても、連休なんかもあるんだよねえ?」
「ま、まあ…。そうなんだけど…」
会長さんが返すと、ソルジャーも壁のカレンダーを睨みながら。
「よし! 目標はゴールデンウィークってことで!」
壺のパワーで天国行きの片道切符だ、と燃え上がっているソルジャーの闘志。壺を作るのはソルジャーの世界のシャングリラで暮らす人たちですけど、ゴールデンウィークに向けてキャプテンを詰め込めるサイズの壺を開発ですか…?
特別製の壺だか甕だか、甕棺だか。それを作らせる、と豪語したソルジャーが意気揚々と帰って行ってから、何日くらい経ったのでしょうか。ゴールデンウィークは何処へ行こうか、と相談していた私たちの前にソルジャーが降って湧きました。
「こんにちはーっ!」
明日から楽しい連休だねえ、という台詞どおりに、ゴールデンウィーク、実は明日から。遊びに行くならもっと早くから計画しろ、と言われそうですが、私たちには会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の瞬間移動という移動手段の裏技が。宿泊先だってマツカ君の別荘を使えば幾らでも。
「今年は何処へ出掛けるのかな? まだ決まってない?」
どうなのかな、と畳み掛けて来るソルジャーは紫のマントの正装です。私たちの方も制服ですけど、場所だけは会長さんの家。ゆっくり相談しなくては、と放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋から瞬間移動でやって来たわけで。
「何処へ行くとも決めてないけど、君は人数に入ってないから!」
会長さんが釘を刺しましたが、ソルジャーは「お気になさらず」と微笑んで。
「ぼくは忙しいから、遊びに行くどころじゃないんだよ、うん」
「「「はあ?」」」
遊びに行かないなら、何故に今頃、と誰もが怪訝そうな顔。おやつタイムは終わりましたし、夕食だって今夜は「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製カレーが食べ放題だというだけです。グリーンカレーなんていう変わり種だってありますけれども、たかがカレーが三種類ですよ?
「ぼくはカレーを食べに来たわけじゃないからね!」
今日は報告に来ただけで…、という話ですけど、何の報告?
「もう忘れたわけ? あれほど相談に乗って貰ったのに!」
「「「そ、相談…」」」
それで一気に蘇った記憶。壺だか甕だか、甕棺だか。教頭先生を詰める予定の巨大な壺がソルジャーの世界のシャングリラで作られていたのだった、と思い出して青ざめる私たち。
「も、もしかして、完成したわけ…?」
会長さんが訊くと、ソルジャーは「ついさっきね!」と威張り返って。
「モノがモノだし、作らせた記憶とか、制作中のデータとか…。そういうのを消すのに少し時間がかかったけれども、壺は立派に出来たんだよ!」
こんな感じで、とドドーン! と空間移動をして来た壺。「そるじゃぁ・ぶるぅ」お気に入りの土鍋みたいに艶やかですけど、これに教頭先生を…?
「優れものなんだよ、この壺は!」
中に入ればぴったりフィット、とソルジャーは自慢し始めました。脱出用ポッドの応用なだけに、トイレにもちゃんと対応済み。しかも…。
「トイレついでに、健康チェックもしてくれるんだ! アソコが漲っているかどうか!」
「「「………」」」
そんなモノを測ってどうするのだ、と言いたい気分でしたが、元々が絶倫パワーを溜め込む目的で作られた壺。充分にパワーを溜め込んでから出て、ヤリまくるための壺だか甕だか。
「ね、凄いだろう? 早速、これにハーレイをね!」
一緒に来てよ、と言われたかと思うとパアアッと迸る青いサイオン。逃げる暇も無く皆が巻き込まれ、身体がフワリと浮き上がって。
「「「ひいぃーーーっ!!!」」」
助けて、と悲鳴を上げた時にはドサリと床に落ちていました。お馴染みの教頭先生の家のリビング、夕食前の寛ぎのひと時だったらしい教頭先生もソファで大きく仰け反っておられ…。
「な、なんだ!?」
「こんにちは!」
ソルジャーが爽やかな声で挨拶を。
「ちょっと訊きたいんだけど、君はゴールデンウィーク、暇かな?」
「は、はあ…。お恥ずかしい話なのですが…」
寂しい独身男でして、と予定が全く無いことを白状なさった教頭先生に、ソルジャーは「ちょうど良かった」とニコニコと。
「それじゃ、ぼくに付き合ってくれないかな? ゴールデンウィークの間だけでいいから」
「…お付き合い……ですか…?」
「そう! ぼくが毎日、食事を届けに来るからさ。それを美味しく食べてくれれば…」
「食事…?」
それはデートのお誘いでしょうか、と教頭先生の頬が染まって、ソルジャーが「うん」と。
「ぼくが食べさせてあげるから! どうかな、ぼくの手から「あ~ん♪」と三食!」
「で、ですが、ブルーが…。わ、私の相手はブルーだけだと…」
「食事だけだよ、食べてくれるだけでいいんだよ!」
それだけでぼくは満足だから、とソルジャーに笑みを向けられた教頭先生、ポーッとなってしまわれたらしく…。
「じゃあ、此処と、此処と…。此処にもサインを」
ソルジャーが差し出す同意書なるものは、壺に詰められてもかまわないという実験に纏わる代物でしたが、教頭先生はロクに読みもせずにサインをサラサラと。もちろん、結果は…。
「こ、これに入れと仰るのですか!?」
リビングに瞬間移動で現れた壺。黒光りする巨大な壺だか、甕だか。
「大丈夫! 別に手足を切り落とさなくても、瞬間移動で入れてあげるから!」
はい、一瞬! とキラリと青いサイオンが光り、教頭先生は壺の中へと移動完了。首だけが出ている状態となって、アタフタと慌てておられるようですけども。
「心配ないって、トイレとかは壺が自動で対応するしね! ついでに君の息子の健康状態もチェックするんだよ。漲ってるかどうか!」
「…み、漲る…?」
訊き返した教頭先生に向かって、ソルジャーは。
「その壺、絶倫パワーを溜め込む効果を狙っていてねえ…。実験のために君に協力をお願いします、って書いてあったのがさっきの書類! ちゃんとサインをしてくれたよね?」
「…で、では、食事にお付き合いするというのは…」
「この状態の君は自分じゃ食べられないだろ? だから三食、ぼくがお世話を!」
パワーのつく食事を持ってくるよ、と極上の笑顔。
「今日の夕食から用意してあるんだ、まずはスッポン鍋を美味しく!」
パルテノンでも指折りの店で用意させた鍋、とソルジャーが宙に取り出した土鍋はまだグツグツと煮えていました。其処からソルジャーがスプーンで掬って、フウフウと息を吹きかけて。
「はい、あ~ん♪」
「…お、恐れ入ります…」
恐縮しつつも、教頭先生、スッポン鍋を掬ったスプーンをパクリと。一口食べれば、後は度胸がついたらしくて、それは嬉しそうにソルジャーの手から。
「あ~ん♪」
「…ありがとうございます…」
美味しいです、と壺に詰められて身動きが取れない状態のくせに首から上はまさに天国、ソルジャーの方も手にした計器を見ながら満足そうで。
「うんうん、順調に漲ってるねえ…」
やっぱり壺のパワーは凄い、と言ってますけど。あの壺、本当に効きますか…?
ゴールデンウィーク、結局、マツカ君の別荘の一つで過ごした私たちですが。毎日毎晩、ソルジャーが来ては、例の壺だか甕だかのパワーを熱烈に報告しまくって。
「最高なんだよ、あの壺は! まさに魔法の壺!」
もうハーレイは漲りまくり、と計測データを披露する日々。最終日には壺から出された教頭先生の大事な部分はビンビンのガンガンとやらで、ついつい手が出てしまったそうで。
「ちょっと御奉仕したくなってね、ファスナーを下ろしたんだけど…」
「退場!!」
会長さんがレッドカードを突き付け、ソルジャーは。
「それは必要無いってば! ハーレイ、鼻血でぶっ倒れたから!」
ぼくが食べる前に、と深い溜息。
「本当に美味しそうだったのに…。でも、実験はこれで完璧! 後はぼくのハーレイを詰めて、絶倫パワーを高めれば!」
「その件だけどさ…。こっちのハーレイ、童貞一直線だしね? 君のハーレイにも壺が効くとは限らないんだよ、言わせて貰えば」
こっちのハーレイは色々な意味で規格外で…、という会長さんの話をソルジャーは聞きもしないで壺を抱えて帰ってしまって、一週間後。
「…萎えちゃったって?」
当然だろうね、と冷たく微笑む会長さん。ソルジャーは泣きの涙で座り込んでいて。
「ちゃんと計測してたんだけど…。途中まではグングン漲ってたから、まだいけると!」
「欲張るからだよ、非日常ってシチュエーションで上がってた間に出すべきだったね」
「…反省してるよ…。うんと反省してるんだけど…!」
ぼくの世界のノルディが言うには復活までには暫くかかりそうなのだ、と嘆くソルジャーによれば、キャプテンに下された診断は我慢しすぎとストレスによる一時的なED、いわゆる不能。天国までの片道切符どころか、当分は天国に行けもしないようで…。
「壺のパワーは絶対凄いと思ったのにーっ!!!」
亀の頭で甕棺で凄い筈だったのに、と響くソルジャーの嘆き節。例の壺は「ぶるぅ」が悪戯に使おうと持って行ったらしく、キャプテンは再び詰められるかもしれません。もしも詰められたら、結果は吉か、はたまた凶か。魔法の壺なんて出来やしないと思うんですけど、出来たら最高?
壺でパワーを・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
壺にはパワーがあるんだ、というソルジャーの思い込み。挙句に暴走。
閉じ込められた教頭先生の方はともかく、キャプテンには、とんだ災難でした…。
次回は 「第3月曜」 3月18日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、2月は、毎年恒例の節分イベント。七福神巡りですけれど…。
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