シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
春爛漫。ソルジャー夫妻と「ぶるぅ」も交えて桜見物、今年も豪華にお弁当を持って。今日はあっちだ、次はこっちだと渡り歩いて桜の舞台は北の方へ移り、お花見の旅も終了です。ソルジャーとキャプテン、それに「ぶるぅ」は旅を続けているかもしれませんが…。
「今年の桜も綺麗だったよね!」
今日だと何処の桜だろうか、とジョミー君。シャングリラ学園は年度始めの一連のお祭り騒ぎも終わって通常授業が始まっています。よって本日は真面目に授業で、放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に来ているわけですけれど。
「うーん…。何処だろうねえ、ぼくがザッと見た所では…」
賑わってる場所はこの辺り、と会長さんが挙げた有名どころ。かなり北の方、けれど名前は知らない人がないほどの名所。桜前線、ずいぶん北上したようです。会長さんはサイオンで遠くの桜名所をチェックしているようですが…。
「あれ?」
「どうかしたのか?」
何かあったか、とキース君。会長さんは「まあ…」と答えて。
「いつものお花見ツアーだよ。ブルーたちが行ってるみたいだね」
「なるほどな。俺たちは通常運転の日々だが、あいつらは未だに花見気分か」
桜好きだしな、という言葉に頷く私たち。ソルジャーは桜の花が一番好きなのだそうで、自分のシャングリラの公園にも植えてあるようです。それを貸し切っての宴会なんかもやらかすくせに、私たちの世界の桜も大好き。機会さえあればせっせとお出掛け。
「桜があったら湧くヤツだからな、特に不思議でもないと思うが」
わざわざ声に出さずとも…、とキース君が言うと会長さんは。
「桜見物だけならね」
「何か余計なことをしてやがるのか、あいつらは?」
猥談の類はお断りだぞ、と先手を打ったキース君。桜名所でのイチャつきっぷりを披露されても困りますから、妥当な判断と言えるでしょう。けれど、会長さんは「そうじゃなくって」と。
「ただの買い物なんだけど…。いわゆる露店で」
「それがどうかしたか?」
「お気に召さないみたいなんだよ、商品が」
その割に前にじっと立ってる、とサイオンの目を凝らしている様子。暫しそのまま沈黙が続いていますけれども、ソルジャーは何の露店の前に?
露店と言えばお祭りの花。色々なものが売られますけど、いわゆる老舗や名店の類とは違います。アルテメシアのお花見の場合は、そうしたお店の出店なんかも見かけることはありますが…。基本的に何処か抜けてるというか、期待しすぎると負けなのが露店。
「お気に召すも何も…。露店だろうが」
そうそう洒落た商品があるか、とキース君が突っ込み、スウェナちゃんも。
「食べ物にしても、お土産にしても、普通のお店とは違うわよねえ?」
「店によっては衛生的にも問題大ってケースもありますからね」
公園の水道で水を調達しているだとか、とシロエ君。
「そういった店に出会ったんでしょうか、見るからに水道水っぽいとか?」
「どうだかなあ…。あいつ、サイオンが基本だしよ…」
店主の心が零れてたかもな、とサム君も。
「水道水でボロ儲けだとか、そんな思念を拾っちまったら、店の前で睨むかもしれねえなあ…」
「チョコバナナだけど?」
水道水も何も、と会長さんが沈黙を破りました。
「「「チョコバナナ?」」」
「そう、チョコバナナ。…まだ寒いだけに、食べようかどうか迷ってるのかと思ったけれど…」
「それはあるかもしれないな」
あれは温かい食い物ではない、とキース君。
「しかし甘いし、あいつが好きそうな食い物ではある」
「ぼくもそう思って見てたんだけど…。どうも何かが違うらしくて」
「「「は?」」」
「じーっと露店を見ていた挙句に、買わずに立ち去ったトコまではいい。ただ…」
その後の台詞がなんとも不思議で、と会長さんは首を傾げています。
「あいつは何とぬかしたんだ?」
「それがさ…。あっちのハーレイに笑い掛けてさ、「まだまだだよね」と」
「「「へ?」」」
チョコバナナの何が「まだまだ」なのか。それだけでも充分に意味不明なのに、会長さんが言うにはキャプテン、「そうですね」と笑顔で頷き返したらしく。
「…チョコバナナでか?」
分からんぞ、とキース君が呟き、私たちも揃って困り顔。ソルジャー夫妻がチョコバナナの露店にうるさいだなんて、そんな現象、有り得ますか…?
「念のために訊くが、チョコバナナだな?」
キース君が確認を取って、会長さんが。
「うん、間違いなくチョコバナナだよ。振り返って露店の方を見てたし、間違いないね」
「チョコバナナって…。キャプテン、そんなの食べるかなあ?」
うんと甘いよ、とジョミー君。キャプテンは教頭先生のそっくりさんで、甘い食べ物が苦手な所も同じです。チョコバナナなんかは一度食べれば二度と食べそうにないんですけど…。
「食わねえと評価出来ねえんじゃねえの?」
まだまだとか判断出来ねえぜ、とサム君の非常に冷静な意見。
「どういう理由か分からねえけど、チョコバナナに燃えているんじゃねえかな…」
「ブルーたちがかい?」
そうなんだろうか、と会長さんが首を捻ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと…。お花見であちこち出掛けてた時、チョコバナナの露店、見ていたよ?」
買って食べてはいないけど、という証言が。
「欲しいのかな、って思ったんだけど…。なんか、小さめ?」
「「「小さめ?」」」
バナナが小さすぎたでしょうか。ああいう露店のバナナの大きさ、ほぼ同じだと思いますけど。
「んーとね、あっちのハーレイに言ってたよ? 小さいよね、って」
「「「はあ?」」」
ますます分からん、と私たち。やはりキャプテンはチョコバナナの味に目覚めたとか?
「ぼくにも分かんないんだけど…。なんて言ったかなあ、君の方がずっと立派、だったかな?」
「ちょっと待った!」
ぼくはそんなの聞いてないけど、と会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「その話、ヒソヒソ話だったのかい?」
「えっとね…。ブルーがハーレイの袖を引っ張って、小さな声で言ってたよ?」
「もういい、大体のことは分かった」
それはバナナが違うんだ、と会長さんは顔を顰めました。
「ブルーが言うのはチョコバナナのバナナのことじゃなくって、全く別物…」
「「「別物?」」」
「言いたくないけど、あっちのハーレイの大事な部分の話なんだよ!」
「「「あー…」」」
分かった、とゲンナリした顔の私たち。キャプテンのアソコのサイズとバナナを比べてましたか、それで「まだまだ」だというわけですね…?
猥談の類はお断りだと思っていたのに、無邪気なお子様、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食らわせてくれたバナナ攻撃。チョコバナナの話は忘れるに限る、と記憶を手放し、迎えた週末。会長さんの家に出掛けてワイワイ楽しくやるんですけど。
「かみお~ん♪ 今日はしっとりオレンジケーキ!」
今が旬なの、と春のオレンジを使ったケーキが出て来ました。オレンジのスライスも乗っかっていて綺麗です。紅茶やコーヒーなども揃って、さあ食べるぞ、とフォークを握った所へ。
「こんにちはーっ!」
遊びに来たよ、と背後で声が。私服のソルジャー登場です。エロドクターとデートなのかな?
「え、この服かい? お花見の帰りに寄ったからだよ、ハーレイとぶるぅは先に帰ったよ」
混んでくる前に桜見物、と相変わらずお花見ツアー中。いいお天気の中で桜を眺めて、キャプテンはブリッジへお仕事に。「ぶるぅ」はソルジャー不在のシャングリラの留守番をしつつ、買って帰ったお弁当グルメだそうですけれど。
「ぼくは大好きな地球でゆっくり! ケーキ、ぼくのもあるんだよね?」
「あるよ、おかわり用もあるから食べてってね!」
ちょっと待ってねー! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキッチンに跳ねてゆき、すぐにケーキとソルジャー好みの熱い紅茶が。ソルジャーは空いていたソファに腰を下ろして。
「いいねえ、地球で過ごす時間は! ぼくのハーレイは仕事だけどさ」
「君の仕事は?」
会長さんが訊けば、ソルジャーはケロリとした顔で。
「あるわけないだろ、ぼくの仕事は少なめの方がいいんだよ。仕事すなわち戦闘だしね!」
平和に越したことはないのだ、という正論。
「この所はずいぶん平和だからねえ、ちょっと趣味なんかも始めてみたり…」
「ふうん? それはいいことだね、暇だからとノルディとランチやディナーでは芸がないしね」
趣味が出来れば毎日も充実してくるだろう、と会長さん。
「君にしてはマシな思い付きだよ、趣味を持とうという発想は」
「あっ、分かる? ぼくにピッタリな趣味を見付けたものだから…」
最近はそれに凝っているのだ、とソルジャーは得意満面で。
「ハーレイの趣味とも重なっているし、これがなかなか素敵なんだよ」
「へえ? 夫婦で共通の趣味を持つのはいいことだよね」
お互いに評価し合えるし、と会長さんもソルジャーの趣味を褒めてますけど。ソルジャーの趣味って何なのでしょうね、キャプテンは確か木彫りでしたが…?
キャプテンの趣味と重なるらしい、ソルジャーが始めた趣味なるもの。やはり木彫りの類だろうか、と考えていると。
「木彫りはねえ…。木が硬いからね、けっこう根気が要るらしいんだよ」
ぼくにはイマイチ向いてなくて、とソルジャーが。
「彫り上がる前に投げ出しちゃうのがオチってヤツだよ、木彫りの場合は」
「それじゃ別のを彫ってるのかい?」
柔らかい素材も色々あるしね、と会長さん。
「君の世界じゃそういう素材も多そうだ。簡単に彫れるけど、焼くとか薬品に浸けるとかしたら充分に丈夫になりそうなヤツが」
「ああ、あるねえ! 子供用の粘土なんかにもあるよ、作って乾かせば頑丈です、って」
保育セクションの子供がよく彫っている、とソルジャーは笑顔。なんでも粘土の塊を捏ねて、それをヘラで削っていったら立派な彫刻、乾かして置物を作れるそうで。
「同じ粘土で花瓶とかも出来ると聞いているねえ、丈夫で水漏れしないヤツをね」
「君も粘土を彫ってるわけ?」
「違うね、ぼくが彫っているのは実用品!」
彫る過程からして楽しめるのだ、とソルジャーは胸を張りました。
「削りクズも無駄にはならない上に、完成したヤツも食べて美味しく!」
「「「は?」」」
食べるって…。それじゃ野菜のカービングとか? 野菜を彫って花とかを作る細工は非常に有名です。ソルジャーはあれをやってるのでしょうか、ベジタブルカービングというヤツを?
「うーん…。あれも野菜と言うのかな? 青いヤツは料理に使うと聞いているけど…」
「パパイヤなの?」
青いパパイヤは野菜だよ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「炒め物とかにしても美味しいし! 完熟した後は果物だよね!」
「うん、そんな感じ」
ぶるぅもカレーに使ってたよね、とソルジャーは大きく頷きました。
「なんか高級食材だって? 青い間は」
「「「へ?」」」
青い間は高級食材、なおかつカレーに使える何か。ついでに野菜と呼ぶかは微妙で、彫って食べられる何かって…。なに?
木彫りでは木が硬すぎるから、と別の素材に走ったソルジャー。食べられる何かを彫っていることは確かですけど、まるで見当がつきません。パパイヤの線だけは消え去ったものの、青い間は高級食材。それでカレーって…。私たちが顔を見合わせていると。
「あっ、分かったあ!」
ピョーンと飛び跳ねた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「そっかあ、それでチョコバナナなんだね、まだまだだ、って!」
「「「えっ?」」」
何故にチョコバナナ、と思ったのですが、ソルジャーは。
「そうなんだよ! ぶるぅは分かってくれたんだ? チョコバナナは芸術性がないよね」
丸ごとのバナナにチョコを被せただけだから、と鼻でフフンと。
「ひと手間加えればバナナも芸術! バナナ彫刻!」
「「「バナナ彫刻!?」」」
なんじゃそりゃ、と声が引っくり返ってしまったものの、青いバナナは言われてみれば高級食材。普通のバナナならお安いところを、どう間違えたかグンと高くて専門店にしか無いと聞きます。その青バナナを使ったカレーを何度も御馳走になりましたっけ…。
それにしたって、バナナ彫刻。柔らかくって彫りやすいでしょうが、どうやって彫るの?
「知らないかなあ、バナナ彫刻! なんか職人さんもいるみたいだよ?」
一時期評判だったらしい、とソルジャーに教わった私たちの世界のバナナ彫刻なる芸術。ソルジャーはエロドクターから教えられたという話で。
「桜にはまだ少し早い時期にね、中華料理を御馳走になって…。デザートの一つが揚げたバナナの飴絡めだったものだから…」
そこから出て来たエロドクターの薀蓄、バナナ彫刻。文字通りバナナに彫刻を施し、それは見事に仕上げる人がいるのだそうです。けれども相手がバナナなだけに、どんなに見事なものを彫っても作品の寿命は当日限り。パックリもぐもぐ、食べておしまい。
「ほら、ぼくはハーレイの素敵なバナナが好物だしね?」
「その先、禁止!」
喋ったらその場で帰って貰う、と会長さんがイエローカードを出したのですけど、それで止まるようなソルジャーではなく。
「ハーレイのバナナと言えばもちろん分かるよねえ? 男なら誰でも、もれなく一本!」
「退場!!」
さっさと帰れ、とレッドカードが出たものの。ソルジャー、帰りはしないでしょうねえ…。
エロドクターからソルジャーが聞いた、バナナ彫刻なる芸術。そのソルジャーの好物のバナナ、やはりキャプテンのアソコのことで。そういえば「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお花見の時にアヤシイ話を聞いたんだっけ、と揃って遠い目をしていれば…。
「とにかく、ぼくはハーレイのバナナが大好物! だけど、いつでも何処でも食べられるものではないからねえ!」
ぼくはともかくハーレイはキャプテン、と深い溜息。
「仕事でブリッジに出掛けてる時に食べたくなっても、ぼくは手も足も出ないから…」
「当然だろう!」
そんな所へ食べに行くな、と会長さんが怒鳴りました。
「君はよくても、君のハーレイにとっては最悪すぎる展開だから!」
「そうなんだよねえ、見られていると意気消沈なのがハーレイだしねえ…。おまけに、ぼくたちの仲はとっくにバレバレになっているのに、まだバレていないつもりだから…」
ブリッジでの熱いひと時は無理、と実に残念そうなソルジャー。
「ハーレイさえその気になってくれれば、ぼくはブリッジでも気にしないのに…」
「他のクルーにも迷惑だよ、それ! こっちの世界では犯罪だから!」
公衆の面前でやらかした場合はしょっ引かれるから、と会長さんが刑法とやらを並べ立てています。猥褻物がどうとかこうとか、刑法何条がどうのとか。
「いいかい、そういったことは人前でしない!」
「うーん…。ぼくは見られて燃えるってタチではないんだけれども、夢ではあるかな…」
ぼくとハーレイとの熱い時間を是非見て欲しい、と言われて固まってしまいましたが、見て欲しい相手はソルジャーのシャングリラのクルーだそうで。
「君たちはもう、見てると言ってもいいくらいだしね! 問題はぼくの世界なんだよ、どうにもハードル高くてねえ…」
いろんな意味で、と溜息再び。
「そんなわけでさ、ハーレイのバナナはブリッジとかでは食べられない。それをノルディに愚痴っていたらさ、バナナ彫刻を教わったわけ!」
ハーレイのアソコを食べてるつもりでバナナをパクリ、とソルジャー、ニコニコ。
「それだけでも充分にドキドキするけど、彫刻するならじっくり見るしね? このバナナから何が彫れるか、どんな作品が隠れているかとドキドキワクワク見られるんだよ!」
同じバナナでも見る目が変わる、と語るソルジャー。バナナ彫刻、本気でやってるみたいですけど、何が出来るの?
「えっ、バナナ彫刻? 色々彫れるよ?」
バナナの中から生まれる芸術、とソルジャーは今までに彫った作品を挙げました。最初はキャプテンのアソコを忠実に再現、美味しく齧ったらしいですが。
その後、木彫りが趣味のキャプテンからのアドバイスも受け、今では有名な彫刻をバナナで再現だとか、そういうレベル。
「ちなみに昨日はこんなのを彫った! どうかな、出来は?」
ぼくのシャングリラ! と思念で宙に浮かんだ映像はバナナに彫られたシャングリラでした。バナナの中に実に見事なシャングリラ。不器用なソルジャーの作品だとも思えませんが…。
「あっ、君たちもそう思う? ぼくって、意外な才能があったらしくて!」
バナナを彫らせたら一流なんだよ、と自慢したくなるのも無理のない出来。エロドクターが教えたというバナナ彫刻職人とやらにも負けない腕前らしくって。
「それでね、バナナ彫刻を更に極めるべく、新しい境地に挑もうかと!」
「もっと芸術性を高めるとか?」
会長さんの問いに、ソルジャーは。
「趣味と実益とを兼ねるんだよ! バナナ彫刻で!」
今は単なる趣味だから、と言われましても、既に実益を兼ねているような気がします。キャプテンのアソコを頬張る代わりに彫っているバナナ、空腹ならぬ欲望を満たしているのでは…。
「うん、欲望に関してはね。…彫る前にバナナをまじまじと眺めて、ハーレイのアソコを思い浮かべて熱い溜息! それからハーレイのアソコを扱うつもりで大切に!」
ドキドキしながらバナナを彫るのだ、とソルジャーはバナナ彫刻の心構えを披露しました。
「ハーレイのアソコで芸術なんだよ、バナナといえども粗末にしてはいけないってね! 彫った削りクズは必ず食べる! 口に入れてはアレのつもりで!」
ゴクンと美味しく飲み下すのだ、と唇をペロリ。
「ハーレイのアレは一滴残らず飲んでこそだし、バナナの削りクズだってね!」
「退場!!!」
もう本当に出て行ってくれ、と会長さんが眉を吊り上げてますが、ソルジャーは我関せずで。
「バナナを敬う気持ちが大切! そんなバナナを、より丁重に!」
もっと心をこめて彫るべし、とソルジャーはそれはウットリと。
「これを極めれば、きっと! ぼくとハーレイとの夜の時間も、今よりももっと!」
充実するのだ、と自信たっぷりですけれど。バナナ彫刻で夜が充実って、大人の時間のことなのでしょうか? バナナ彫刻なんかで充実しますか、そんな時間が…?
バナナ彫刻を極めて充実、ソルジャーとキャプテンの夜の時間とやら。どうやったら充実するのやら、と知りたくもない謎に捕まる思考。ソルジャーがそれに気付かない筈もないわけで…。
「君たちだって知りたいよねえ? ぼくの趣味の世界!」
バナナ彫刻を実演しなくちゃ、と満面の笑みを浮かべるソルジャー。
「だけど、お腹が減っていてはね…。ぼくのハーレイがいれば、食欲は二の次、三の次でさ…。まずは身体の欲望の方から満たすんだけれど、ここではねえ…」
「かみお~ん♪ お昼御飯も食べて行ってね!」
「いいのかい? 喜んで御馳走になることにするよ!」
自分から催促しておいて「いいのかい?」も何もないのですけど、それがソルジャー。バナナ彫刻の実演タイムは昼食の後ということになって…。
「お昼、海鮮ちらし寿司だよーっ!」
朝一番に仕入れて来たの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が用意してくれ、豪華海鮮ちらし寿司。食べる間くらいはバナナ彫刻は忘れたい、とソルジャーの喋りを無視しまくってひたすら食べて。
「「「美味しかったー!」」」
御馳走様、と合掌したらソルジャーが。
「それじゃ、バナナ彫刻を始めようか! 丁度いいしね」
「「「は?」」」
「道具が揃っているんだよ、ここは」
「「「道具?」」」
ダイニングのテーブルを見回しましたが、テーブルの上には空になった海鮮ちらし寿司の器やお吸い物の器、食後に出て来た緑茶の湯呑み。後はお箸にお箸置きに、と食事関連のアイテムばかりのオンパレードで。
「何処に道具があるというんだ?」
刃物は無いが、とキース君。
「あんた、道具が揃ったと言うが、何か勘違いをしてないか?」
「してないねえ…。バナナ彫刻は食べるものだよ、ダイニングで彫るのが正しいよね」
まずはバナナ、とソルジャーの視線が「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「ぶるぅ、バナナはあったよね?」
「うんっ! 朝御飯に便利なフルーツだしね!」
待っててねー! とキッチンに駆けて行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」はバナナの房を抱えて戻って来ました。そっか、お菓子にもよく使いますし、房で買うのがお得ですよね…。
ダイニングのテーブルにドカンとバナナの大きな房が。そして食器は湯呑みを残して片付けられてしまいましたが、ソルジャーは止めもしなくって。
「…湯呑みしかないぞ?」
これで彫れるのか、とキース君の疑問が一層深まり、私たちだって。
「湯呑みでバナナが彫れますか?」
シロエ君が悩み、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「んとんと…。コンニャクを切るのに湯呑みを使うよ、その方が美味しく煮えるから!」
「そういえばコンニャクには湯呑みだったか…」
確かに使うな、とキース君も。柔道部の合宿で料理当番をやっていた頃、コンニャクを湯呑みで千切ったそうです。シロエ君とマツカ君も思い出したようで。
「湯呑みでしたね、コンニャクは…」
「でも、千切るのと彫るのとは…」
違いますよ、とマツカ君。
「コンニャクは切り口が均一でない方がいいから、と湯呑みだったんじゃないですか?」
「そうでしたね…。彫刻するなら断面は均一になる方が…」
湯呑みはちょっと、とシロエ君がバナナと湯呑みを見比べています。けれど道具とやらはテーブルの上に揃っていた筈、食器が消え失せた今となっては…。
「やっぱ、湯呑みかよ?」
それしかねえよな、とサム君が言って、ジョミー君が。
「他に無いよね、湯呑みなんだよね?」
だけど、どうやって彫るんだろう…、と答えは全く浮かばない模様。私だって立場は同じです。どう考えても湯呑み以外に道具らしきものは無いんですけど、湯呑みなんかでどう彫ると?
「頭が固いね、君たちは…」
もっと発想を柔軟に、とソルジャーがバナナを房からポキリと一本折り取りました。
「道具ならちゃんとあるんだよ。テーブルの上に、正統なのが」
始めようかな、とソルジャーの指がバナナの皮をスイスイと剥いて、半分くらいを覗かせて。
「ぶるぅ、レモン汁をくれるかな? バナナ彫刻には欠かせないんだ」
「かみお~ん♪ 色が変わるのを防ぐんだね!」
「ご名答! ぶるぅは料理の達人だしねえ、頼もしいよね」
レモン汁をよろしく、というソルジャーの注文に応えて手早く用意されたレモン汁入りのガラスの器。いよいよバナナ彫刻ですけど、彫るための道具はやっぱり湯呑み…?
どうなるのだろう、と固唾を飲んで見守る私たち。ソルジャーはバナナの白い実をじっと睨んでいるようでしたが…。
「このバナナにはぶるぅが入っているねえ、悪戯小僧の方のぶるぅが」
そんな感じだ、と一人前の彫刻家のような台詞を口にし、「さて」と伸ばされた手が掴んだものは爪楊枝。海鮮ちらし寿司、奥歯に何か挟まりましたか?
「失礼な! 年寄りみたいに言わないでくれる?」
これは道具、とソルジャーの指先が爪楊枝をしっかり固定すると。
「「「…えっ?」」」
爪楊枝の先がバナナにグッサリ。ぐりぐりと抉って、ヒョイと一部を取り出して、口へ。いわゆるバナナの削りクズらしく、ソルジャーは口をモグモグさせながら。
「こうやって彫っていくんだよ、バナナ! 爪楊枝で!」
「湯呑みじゃないのか?」
違ったのか、と訊くキース君に、「当たり前だろ」という返事。
「湯呑みなんかでグイとやったらバナナが折れてしまうだろ? バナナは繊細なんだから!」
ハーレイのアソコと同じでとってもデリケートなのだ、と爪楊枝の先がヒョイヒョイと。
「…なんか彫刻できてるみたい?」
爪楊枝で、とジョミー君が見詰めて、サム君が。
「ぶるぅの顔っぽくなってきたよな、丸っこくてよ」
「爪楊枝なんかで彫れるんですね…」
知りませんでした、とシロエ君。
「湯呑みだったら道具になるかと思いましたが、爪楊枝ですか…」
「知らないのかい? こっちの世界のバナナ彫刻職人だって爪楊枝らしいよ、ノルディに聞いた」
そして彫ったらレモン汁を…、と完成したらしい部分に指と爪楊枝でレモン汁を塗ってゆくソルジャー。バナナ彫刻を趣味にしただけあって、なかなか手際が良さそうです。
「こうやって彫って、もう彫らなくても大丈夫だな、という所はしっかりレモン汁をね…」
そうしないと黒くなっちゃうからね、と彫っては削りクズをモグモグ、レモン汁をペタペタ。そうこうする内、バナナは見事に彫り上がって…。
「はい、バナナからぶるぅが出来ましたー!」
ジャジャーン! とソルジャーが掲げるバナナに悪戯小僧な「ぶるぅ」の彫刻。ホントにバナナに彫れるんですねえ、ちゃんと「ぶるぅ」に見えますってば…。
バナナ彫刻の「ぶるぅ」は食べてもいいらしいですが、彫られた姿は悪戯小僧。齧ったら最後、祟りに見舞われるような気がしないでもありません。怖くて誰もが腰が引ける中、ソルジャーは。
「なんだ、誰も食べようとは思わないんだ? じゃあ、ぼくが」
あんぐりと口を開け、それは美味しそうにバナナ彫刻の「ぶるぅ」をモグモグモグ。食べてしまうと「今日のハーレイも美味しかった」と妙な台詞が。
「「「ハーレイ?」」」
「もちろん、ぼくの世界のハーレイだよ! バナナ彫刻の心得の一つ!」
バナナを彫る時と食べる時にはハーレイのアソコと心得るべし! とイヤンな掟が。
「でもって、この趣味を実益の方へと向けるためには! これから此処で初挑戦!」
もう一本バナナを貰っていいかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」にお尋ねが。「うんっ!」と元気な返事が返って、バナナがもう一本、ポキリと折られて房から外れて。
「さてと…。ホントのホントに初挑戦だし、上手く行くかどうか…」
バナナの中には何がいるかな、と黄色い皮を剥いて白い中身と向き合ったソルジャー、彫るべきものを見出したらしく。
「第一号はハーレイらしいね、是非彫ってくれ、という声がするよ」
バナナの中からハーレイの声が! と嬉しそうに。
「あっ、間違えたりしないでよ? ぼくのハーレイの声なんだからね!」
こっちのヘタレなハーレイじゃなくて、と失礼極まりない発言。とはいえ、教頭先生がヘタレなことは誰もが認める事実ですから、文句を言い出す人などいなくて…。
「それじゃ彫るから、ちょっと静かにしててよね」
ぼくは忙しくなるんだから、とソルジャーは再び爪楊枝を。けれど…。
「「「ええっ!?」」」
静かにしろ、と言われたことも忘れて叫んでしまった私たち。ソルジャーにギロリと睨み付けられて、慌てて肩を竦めましたが。
(((あ、有り得ない…)))
これは無いだろ、と唖然呆然。ソルジャーは爪楊枝を指で構える代わりに、口でしっかりと咥えていました。そしてバナナへと顔を近付け、爪楊枝の先でクイッと彫って…。
(((やっぱりそうかーっ!!)))
口で彫るのか、とビックリ仰天、まさかの口でのバナナ彫刻。爪楊枝はお口で使うものですが、口に咥えて使うようには出来ていません。ソルジャーお得意のバナナ彫刻、こんなやり方で彫れるんでしょうか…?
ソルジャーが咥えた爪楊枝。バナナ相手に頭をせっせと上下させては彫って、削って。削りクズは何回かに纏めてモグモグ、その間は爪楊枝が口から離れています。レモン汁を塗っている時も。
「うーん…。なかなか上手く行かないね、これは」
「まず無理だろうと思うけど?」
そんな方法、と会長さんが切って捨てると、ソルジャーは。
「ダメダメ、これを極めなくっちゃ! 趣味と実益!」
「どの辺が?」
「口で彫ろうというトコが!」
これで口の使い方が上達するに違いない! とグッと拳を握るソルジャー。
「爪楊枝を上手に操るためには、舌での操作も欠かせないんだ。舌の動きが細やかになるし、爪楊枝を咥えて彫ってる間に口の方だってより滑らかに!」
こうして鍛えて御奉仕あるのみ! とソルジャーが高らかに言って、会長さんの手がテーブルをダンッ! と。
「そんな練習、自分の世界でやりたまえ!」
「見学者がいないと張り合いが無いし!」
普通のバナナ彫刻と違って大変な作業になるんだから、とソルジャーは私たちをグルリと見回しました。
「これだけの数の見学者がいれば、ぼくも飽きずに作業が出来る。一日一本、バナナ彫刻! 今日から欠かさず、毎日一本!」
そして御奉仕の腕を上げるのだ! と燃えるソルジャーですけれど。その御奉仕とかいうヤツは大人の時間の何かですよね、今までに何度も聞いていますし…。
「もちろんだよ! ぼくがハーレイのアソコを口で刺激しようという時のことで!」
「退場!!!」
今度こそ出て行け、と会長さんが絶叫しているのに、ソルジャーは。
「御奉仕にはねえ、口と舌とが大切なんだよ! 同じバナナ彫刻をするんだったら趣味と実益!」
ハーレイのアソコに見立てたバナナを彫って、ついでに口と舌とを鍛えて、とソルジャーの背中に燃え上がるオーラ。退場どころか、爪楊枝をしっかり咥え直して…。
「んー…」
もうちょっと、とバナナ彫刻に挑むソルジャー。会長さんが顔を顰めてますから、よほど最悪な姿なんだと思いますけど、よく分かりません。万年十八歳未満お断りの団体様の前で熟練の技を披露したって、意味が全く無いんじゃあ…?
口に爪楊枝を咥えて、彫って。ソルジャーの渾身の作のバナナ彫刻、キャプテンの肖像は辛うじて完成したものの。
「…まだまだだよねえ…」
こんな出来では、とソルジャーが眺め、会長さんが。
「口で彫ったにしてはマシだし、初挑戦とも思えないけど?」
これ以上鍛えることもあるまい、と褒めちぎる姿は明らかにソルジャーの再訪を防ぐためのもの。私たちも懸命に「凄い」と讃える方向で。
「俺は見事だと思うがな? これだけ彫れればベテランの域だ」
キース君がバナナ彫刻の出来栄えを褒めて、シロエ君も。
「ええ、初心者とは思えませんよ! もう充分に熟練ですって!」
「ぼくも凄いと思うけどなあ、こんなの絶対、真似出来ないよ」
凄すぎるよね、とジョミー君も称賛を惜しみませんでした。サム君もマツカ君も、スウェナちゃんも私も、ありとあらゆる褒め言葉の限りを尽くしたのに…。
「駄目だね、趣味の世界は奥が深いんだよ。自分が納得しない限りは精進あるのみ!」
およそソルジャーの台詞とも思えぬ、精進なるもの。目指す所はバナナ彫刻の上達などではないのでしょうが…。
「決まってるじゃないか、バナナ彫刻の先にある御奉仕だよ!」
ぼくのハーレイがビンビンのガンガンになる御奉仕なのだ、とソルジャーはそれはキッパリと。
「そういう熟練の技を目指してバナナ彫刻! 毎日、一本!」
頑張って彫って彫りまくる、と決意を固めてしまったソルジャー、明日から毎日来そうです。休日の今日と明日はいいとして、もしかしなくても平日だって…?
「そうだよ、こういった道は日々の鍛錬が大切だしね!」
一日サボれば腕がなまって駄目になるのだ、とソルジャーが言えば、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大真面目な顔で。
「うん、お稽古って大切らしいものね! ハーレイだって、よく言ってるし!」
「「「はあ?」」」
教頭先生が何の稽古を、と派手に飛び交う『?』マーク。けれども「そるじゃぁ・ぶるぅ」は純真無垢な瞳を輝かせて。
「えっ、柔道部の朝稽古とかで言ってない? 一日休めば自分に分かる、二日休めば先生に分かる、三日休めばみんなに分かる、って!」
だからお稽古、大切だよね! とエッヘンと。お稽古は大切なんでしょうけど、今、その言葉を言わないで~!
教頭先生の口癖らしい、稽古をサボるなという戒め。このタイミングで言われてしまうと私たちには逃げ場が無くなり、ソルジャーには大義名分が。
「ふうん…。こっちのハーレイ、いいこと言うねえ…!」
バナナ彫刻、頑張らないとね! とソルジャーが彫り上がったキャプテンのバナナ彫刻にチュッとキスをして。
「明日はバナナから何が生まれるかな、ぼくの技術も磨かなくっちゃ!」
そしてハーレイが大いに喜ぶ、と赤い瞳がキラキラと。
「ぼくのハーレイ、御奉仕は嫌いじゃないからね! やるぞって気持ちが高まるらしくて、ぼくにも大いに見返りってヤツがあるものだから!」
たとえ肩凝りが酷くなろうが、一日一本、バナナ彫刻! と迷惑な闘志は高まる一方。
「ぶるぅ、バナナは常備しといてよ? ぼくが毎日、彫りに来るから!」
「かみお~ん♪ 任せといてよ、バナナもレモンも新鮮なのを用意しとくね!」
「「「うわー…」」」
死んだ、と突っ伏す私たち。ソルジャーの御奉仕とやらの腕が存分に上達するまで、来る日も来る日もバナナ彫刻、それもアヤシイ語りがセット。黙って彫っててくれるだけならいいんですけど、口が塞がってても、爪楊枝を咥えていない時間は確実に何度も訪れるわけで…。
「えっ、黙ってたらつまらないかな、君たちは?」
もっと喋った方がいいかな、とソルジャーはバナナ彫刻片手にニンマリと。
「ぼくは思念波の方も得意だからねえ、口で彫ってる間も思念で喋れるってね!」
明日からはそっちのコースにしてみようか、と恐ろしすぎる提案が。
「君たちも退屈しなくていいだろ、思念で色々喋った方が!」
「要りませんから!」
誰も希望を出してませんから、とシロエ君が必死の反撃を。
「そういうのはですね、キャプテンの前でやって下さい、きっと喜ぶと思いますから!」
「何を言うかな、こういう努力は秘めてこそだよ!」
ハーレイが全く知らない所で地道な努力を積んでこそ! とソルジャーは譲りませんでした。
「いいね、明日から一日一本、バナナ彫刻! ぼくの素敵なトークつきで!」
御奉仕とは何か、口でヤることの素晴らしさと真髄とは何処にあるのか。それを思念でみっちりお届け、と宣言されて泣きの涙の私たち。バナナ彫刻、見た目は見事なんですけれど…。
「君たちの知識もきっと増えるよ、そしてぼくにはハーレイと過ごす素敵な時間!」
バナナ彫刻を始めて良かった、と感慨に耽っているソルジャー。迷惑すぎる趣味の世界は当分続いていきそうです。ソルジャーが道を極めるのが先か、私たちが討ち死にするのが先か。爪楊枝を咥えてバナナ彫刻、一日一本、彫るなと言っても彫るんでしょうねえ…。
バナナの達人・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが始めたバナナ彫刻ですけれど…。実は本当にあったりします。
爪楊枝で彫るというのも本当。ソルジャーは極められるんでしょうか、迷惑ですけどね…。
次回は 「第3月曜」 11月18日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、10月はマツカ君に脚光が。キース君が一日弟子入りで…。
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