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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

ワープしない船

 今年もシャングリラに、クリスマスシーズンがやって来た。
 シャングリラで恐れられる悪戯小僧、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が一番暇になる季節。
(悪い子供には、サンタクロースがプレゼントの代わりに…)
 鞭を持って来ると聞いているから、この時期だけは悪戯出来ない。生き甲斐のような悪戯だけど、それをやったら「おしまい」だから。プレゼントの代わりに、靴下の中に鞭が一本。
(やだよ、そんなの…!)
 悪戯は我慢、とアルテメシアに降りてグルメ三昧、そういう日々を過ごしている。美味しいものを食べてさえいれば、悪戯のことは忘れられるし、お腹も舌も幸せになって…。
(うんと幸せ…!)
 幸せだもんね、と思う一方、気にかかるものがプレゼント。サンタクロースに何を頼むか、そこが問題。
(欲しいものをカードに書いて、吊るしておいたら…)
 サンタクロースが叶えてくれる、そういうツリーが公園にある。その名も「お願いツリー」。
 この素敵な木ががシャングリラの公園に出現してから、既に何日か経つけれど…。
(…何を頼むか、決まってないよ…)
 欲しいものなら、ブルーから貰ったお小遣いで買える。グルメ三昧やショップ調査に、船から外に出た時に。人類が出掛けるお店に入って、「これ、ちょうだい!」と、お金を払って。
 なにしろ「子供が欲しがるもの」だし、お小遣いだけで充分、足りる。シャングリラで暮らす子供たちより、うんと恵まれているのだから…。
(欲しいもの、って言われても…)
 急には思い付かないお蔭で、只今、絶賛「考え中」。グルメ三昧な毎日の中で。
(……困っちゃった……)
 本当は、欲しい物なら「ある」。
 けれども、それは片っ端から却下されたし、この先だって…。
(…叶いっこないよ…)
 無理なんだもん、と分かってもいる。
 大好きなブルーが焦がれ続ける、水の星、地球。
 サンタクロースは地球からやって来るのだけれども、その地球だけは「貰えないのだ」と。



(……そのお願いは無理なんだよ、って言われたり……)
 直訴しようとサンタクロースを捕まえてみたり、クリスマスの度に頑張ってはみた。それなのに、一度も成功しないし、地球の座標だって手に入らない。座標さえあれば、地球に行けるのに。
(…地球の座標をセットして…)
 ワープしたなら、シャングリラは地球に向かって飛び立つ。一瞬の内に空間を越えて、青い地球が見える場所に到着。そういう仕組みになっているのに、肝心の地球の座標というのが…。
(…地球は人類の聖地だから、座標なんかは最高機密で…)
 何処を探しても、未だに見付からないらしい。
 三百年も昔に、アルタミラとかいう場所を脱出してから、ブルーたちが、ずっと探しているのに。ありとあらゆる手段を試して、地球という星は何処にあるのか、と。
(…サンタさんに訊いたら、一発なのに…)
 なんたって地球から来るんだもんね、と思うけれども、叶わないのが、その「お願い」。
 今度こそは、と小さな頭をフルに使って、お願いツリーに吊るすカードを書いても、直訴する道を選んでみても、地球までの道は開かない。座標さえも手に入れられないまま。
 ブルーたちの努力に負けないくらいに、頑張っていると思うのに。毎年、知恵を絞るのに。
(…ホントのホントに、困っちゃうよね…)
 どうすれば座標が分かるんだろう、と今年も悩ませる頭。クリスマスは年に一回きりだし、お願い出来るチャンスも一年の内に一回だけ。
(あーあ……)
 気分転換に悪戯したいよね、と身体がウズウズし始めた。こういう時には、悪戯が一番。
(だけど、悪戯しちゃったら…)
 プレゼントの代わりに鞭が来るから、もう絶対に「やってはいけない」。
 どんなに悪戯したくても。どんなに考えに詰まってしまって、気分転換が必要でも。
(…ピンチだってばぁ…!)
 グルメなんかじゃ収まらないよ、と部屋から飛び出し、シャングリラの通路を跳ねてゆく。これがクリスマスの時期でなければ、悪戯を仕掛けて楽しむ場所を。普段だったら、うんと楽しく悪戯が出来る、ストレス発散にピッタリの船を。



『おい、来たぞ! しかもピョンピョン飛び跳ねていやがる』
『大丈夫だ。今の季節は何も起こらん』
『そうだった! うん、クリスマスの時期は安全だったな』
 よし、と飛び交うクルーの思念。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の方をチラリと眺めて、自分たちの持ち場で仕事を続行。まるで全く警戒もせずに、悪戯小僧なんかは見なかったように。
(……つまんないよう……!)
 怖がってさえも貰えないよ、と残念無念。いつもだったら、こうして跳ねていたならば…。
(みんなビクビクして縮み上がるか、御機嫌を取りに揉み手で、お菓子…)
 そういう感じになるんだけどな、とガッカリ気分がこみ上げてくる。気分転換にやって来たのに、逆にストレスが溜まりそう。
(…アルテメシアに行こうかなあ…)
 何か美味しいものを食べに、と思い始めた時、「こらぁ!」と罵声が轟いた。
「この先は悪戯禁止じゃ、小僧!」
 船の心臓部になるんじゃからな、と物凄い形相でゼルが立っている。いつの間にやら、機関部まで来てしまったらしい。
「クリスマスの前は、悪戯、しないも~ん!」
「時期を問わずじゃ、馬鹿者めが! 船が沈むわい!」
 絶対に手出しさせんからな、とゼルは頭から湯気を立てていた。「悪戯なんぞで、シャングリラを沈めるわけにはいかん」と、真剣に。「わしの目の黒い内は、何もさせんわい!」と。
「分かってるもん…!」
 そのくらい、とプイと怒って、自分の部屋へとヒョイと瞬間移動した。いくら悪戯小僧とはいえ、機関部に悪戯を仕掛けはしない。エンジンにも、ワープドライブにも。
(クルーにだったら、うんと悪戯するけれど…)
 機関部には何もしないもんね、と頬っぺたをプウッと膨らませた。
 このシャングリラの命とも言える、エンジンなどが詰まった機関部。何か不具合が起きた場合は、船が沈みはしなくても…。
(人類軍に見付かっちゃって、攻撃されることだって…)
 あるんだもんね、と首を竦めた。そんな事態を招きかねない悪戯なんかは、とんでもない、と。



(ぼくだって、ちゃんと分かってるのに…)
 ゼルは石頭だから分かってないよ、と禿げた頭を思い出したら、磨きたくなった。磨いてやったらスカッとするのに、クリスマス前だから、それも出来ない。
(うわぁーん!)
 叱られ損だよう、と泣きたい気持ち。機関部なんかに行ったばかりに、この始末。
(酷いよね…)
 ゼルなんかワープで飛ばされちゃえ! と思った所で、ハタと気付いた。地球の座標さえあれば、シャングリラはワープ出来るのだけれど…。
(……この船、ワープしたことないよ?)
 うんと昔は知らないけれど、と丸くなった目。歴史の勉強をさせられた時に、そう教わった。今はアルテメシアの雲海の中で、ミュウの子供を救出するために隠れている、と。
(…アルテメシアに来たのは、ずっと昔で…)
 それっきり、シャングリラはワープしていない。ワープドライブは一度も使われていない。
(…こんなに大きな船になったら…)
 ワープするのは大変だろう、と想像はつく。きっと大量のエネルギーが要るし、計算だって面倒になるに違いない。仕組みとしては、瞬間移動と「それほど変わらない」ようでも。
(…もっと小さい船だったら…)
 救出作業が無い時期なんかに、気軽にワープ出来ると思う。適当な座標を入力して、ヒョイと。
(そうやって、あちこち飛んでけば…)
 でたらめな座標を入れ続けていても、いつかは当たりが出たかもしれない。偶然、入力した座標。そこに転移したら、目の前に地球があった、とか。地球でなくても、ソル太陽系の中に出たとか。
(…ありそうだよね?)
 三百年ほどもあったんだもの、と目をパチパチと瞬かせた。そうなってくると、小回りの利く船があったら、地球だって…。
(見付けられるかも…!)
 これだ、と「お願い事」は決まった。
 幸い、自分は「うんと暇」だし、悪戯の合間に、地球を探しに行けばいい。思い付くままに座標を入力して。うんと小さな船を貰えばそれが出来るし、船よりは、もっと素敵な乗り心地の…。



 かくして「お願いツリー」に吊るされたカード。最初に発見したのはキャプテン・ハーレイ、彼は思い切り目を剥いた。「なんだ、これは!?」と。
「ソルジャー、とんでもないことになりました!」
 ぶるぅが何か企んでいます、とハーレイが駆け込んだ青の間。ソルジャー・ブルーは冬の風物詩のコタツに入って、のんびり生姜湯を飲んでいた。
「どうしたんだい、ハーレイ? この時期、ぶるぅは悪戯をしない筈だけれど?」
「そ、それが…。これが、ヤツの今年のリクエストでして…!」
 サンタクロースに、ぶっ飛んだものを注文しました、とハーレイが震える手で差し出したカード。そこには子供らしい字で、こう書いてあった。「ワープできる土鍋が欲しいです」と。
「……ワープが出来る土鍋だって?」
「は、はいっ! 恐らく、ワープ土鍋を使って、短距離ワープを繰り返して…」
 このシャングリラを混乱のるつぼに陥れる気かと…、とハーレイの顔色は悪いけれども、ブルーはクスッと笑って答えた。
「それだと、今とどう違うんだい? ぶるぅは瞬間移動が出来るよ?」
「あ、ああ…。そういえば…。それなら、ワープ土鍋というのは、何でしょう?」
「さあ…? それはぼくにも分からないよ」
 本人を呼んで訊いてみようか、とブルーは宙を見上げて声と思念で呼び掛けた。
「ぶるぅ?」
「はぁーい、呼んだ?」
 おやつ、くれるの? と瞬間移動で飛んで来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」。なるほど、確かにワープ土鍋は、船の中では必要が無い。
「あのね、ぶるぅ…。サンタクロースへのお願いだけれど、ワープ土鍋で何をするんだい?」
 ブルーの問いに、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、得意そうにエヘンと胸を張った。
「地球を探すの! ぼくなら暇だし、いろんな座標を打ち込んでいれば、地球に行けるかも!」
 船より土鍋の方がいいもん、と瞳をキラキラ輝かせる。乗り心地は最高に違いないから、どんなに飛んでも疲れないよ、と。
「……うーん……。ぶるぅ、気持ちは嬉しいんだけど…」
 ワープ土鍋は危険すぎるよ、とブルーは首を左右に振った。運良く地球に行ける代わりに、運悪く人類軍の真っ只中に出ることもあるに違いない、と。



「……そっかぁ……。だけど、ぼく、ちゃんと逃げられるよ?」
 それに攻撃されても平気、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自慢した。ブルーと同じでタイプ・ブルーだから、シールドも張れるし、問題ない、と。人類軍が大軍だろうと、逃げて来られる、と。
「それはそうかもしれないけれど…。逃げる時には、此処の座標を入れるだろう?」
「うん、そうだけど?」
「知ってるかい、ぶるぅ? ワープの航跡はトレース出来る」
 転移先の座標は特定可能だ、とブルーは苦い顔をした。ワープ土鍋が何処へ飛ぼうと、人類軍なら追跡できる。直接、シャングリラに帰らなくても、追い掛けられたら終わりなのだ、と。
「いいかい、いつまでも逃げ続けることは出来ないだろう? その内に船に戻るしか…」
 そうなった時は、このシャングリラが人類軍に見付かるんだよ、とブルーは言った。ワープ土鍋は便利そうでも、危険の方が大きいのだ、と。
「でも、ぼく、頑張って逃げるから…!」
「その内に力が尽きてしまうよ、船に戻らないと。…そうなれば、きっと土鍋ごと…」
 撃ち落とされておしまいになってしまうから、とブルーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に悲しげな顔をしてみせた。「もしも、ぶるぅが帰らなかったら、ぼくは、どうしたらいいんだい?」と。地球の座標は欲しいけれども、そのせいで「そるじゃぁ・ぶるぅ」がいなくなったら、とても辛い、と。
「え、えっと…。ワープ土鍋は、やめた方がいいの?」
「そうしてくれると嬉しいよ。それよりも、素敵な土鍋をサンタクロースに頼むのがいいね」
 土鍋コレクションが増えていくのも楽しいだろう、というブルーの勧め。ハーレイも隣で頷いた。「ソルジャーに心配をかけるのも駄目だし、船を危険に晒すのも駄目だ」と。
「ぶるぅ、ソルジャーの仰る通りだ。ワープ土鍋は、やめておきなさい」
「はぁーい! 普通の土鍋を貰うことにするね!」
 お願いカードを書き換えてくる! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は瞬間移動で消え去り、ハーレイが大きく息をつく。
「今年も、とんでもなかったですな…」
「ぶるぅも考えてくれているんだよ。ぼくのためにね」
 地球を探しにワープだなんて健気じゃないか、とブルーは微笑む。それも土鍋でワープだなんて、ぶるぅらしくて可愛らしいよ、と。「今年も素敵なクリスマスを迎えられそうだ」と。



 そして迎えたクリスマス・イブ。
 今年もハーレイはサンタクロースの格好をして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋までプレゼントを届けに行った。大きな袋を肩に担いで、ついでに両手で特大の包みを抱え込んで。
「おっとっと…。この態勢はかなりキツイな、サイオンで補助してはいるんだが…」
 明日は確実に筋肉痛だ、と抱えているのは特大の土鍋。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の注文の品だし、落として割ったら一大事。割れはしなくてもヒビが入るだけで、土鍋は台無しなのだから。
(ヒビが入ったら粥を炊けばいい、と何処かで聞いたような気もするが…)
 それでも直ぐには炊けないからな、とハーレイが細心の注意を払って届けた土鍋。袋に入れて来たプレゼントの山も、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋にドッサリ置かれたから…。
「わぁーい、サンタさん、来てくれたんだぁーっ!」
 悪戯を我慢してて良かったぁ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、クリスマスの朝に歓声を上げた。一番大きな包みの中には、きっと土鍋が、とワクワクと開けて…。
「すっごーい、こういう土鍋もいいよね!」
 エキゾチックって言うんだっけ、と眺める土鍋は、それは見事な色とりどりの青。細かい模様が濃い青色やら薄い青色やらで描かれ、アラビアン・ナイトの絵本に出て来るお城のよう。
(…この中に、地球の色もありそう!)
 青い星だもんね、と様々な青を見詰めていたら、ブルーからの思念が届いた。
『ぶるぅ、公園にケーキの用意が出来てるよ。お誕生日おめでとう、ぶるぅ!』
 それに続いて、シャングリラ中の仲間たちからも…。
『『『ハッピーバースデー、ぶるぅ!!!』』』
 ケーキと御馳走が待っているよ、と公園に集まった仲間たち。乾杯しようと、主役を待って。
「ありがとう! ワープ土鍋じゃないんだけれど、素敵な土鍋を貰ったから…」
 それで公園に飛んで行くね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は早速、青い色の土鍋に乗り込んだ。蓋をサイオンできちんと閉めて、ブルーに思念で合図して…。
「ワープドライブ起動完了! 土鍋、発進!」
 公園までワープ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は土鍋ごとパッと瞬間移動でワープした。
 拍手喝采で出迎えられて、ハッピーバースデーの歌が始まり、乾杯、御馳走、それからケーキ。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、今年もお誕生日おめでとう!!!
 青い土鍋でいつか地球まで、大好きなブルーと、青い地球まで行けますように…!




           ワープしない船・了


※「そるじゃぁ・ぶるぅ」お誕生日記念創作、読んで下さってありがとうございました。
 管理人の創作の原点だった「ぶるぅ」、いなくなってから、早くも2年以上。
 2007年11月末に出会ってから、干支が一周したというのに、寂しい限りです。
 ぶるぅの思い出に、お誕生日だったクリスマスには「お誕生日記念創作」。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、13歳のお誕生日、おめでとう!
 2007年のクリスマスがお誕生日で、満1歳だった、ぶるぅ。今年で13歳ですv

※過去のお誕生日創作は、下のバナーからどうぞです。
 お誕生日とは無関係ですけど、ブルー生存EDなんかもあるようです(笑)←過去のお誕生日創作は、こちらからv











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