シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
やって来ました、ゴールデンウィーク。シャングリラ号へお出掛けしようという話も出てはいたんですけど、如何せん、今年は飛び石連休。こういう年にはシャングリラ号に行ってもキャプテンの教頭先生をはじめ、機関長のゼル先生も航海長のブラウ先生も不在なわけで。
「今年はやっぱり、こうだよねえ…」
平日は登校、休みはのんびり、とジョミー君。今日はお休みで会長さんの家へ来ています。ゴールデンウィークは始まったものの、間に挟まる学校生活。この三連休が終わればキッチリ元の生活に戻るとあって、ここぞとばかりにダラダラと。
「前半に飛ばし過ぎたからなあ、ここは休んでおくべきだろう」
キース君の言葉はある意味、正解。休みに入るなり、誰が言い出したものかバーベキュー。最初は会長さんのマンションの屋上でゆっくりやろうと思っていたのに、気付けば立派なアウトドア。瞬間移動で出掛けはしましたが、行った先ではしゃぎすぎたと言うか…。
「まあ、後悔はしてませんけどね」
あの馬鹿騒ぎ、とシロエ君。バーベキューをしていた河原はともかく、そこの近くの飛び込みスポット。男の子たちは我も我もと度胸試しで飛び込み続けて、楽しかったものの消耗したとか。
「あれだけ体力を使っちまうと、やっぱ後半は寝正月だぜ」
「サム、それ、何処か間違ってるから!」
お正月はとうに終わったから、とジョミー君が突っ込みはしても、気分はまさしく寝正月。食っちゃ寝とまではいかなくっても食べてダラダラ、喋ってダラダラ、そんな感じで終わりそうなゴールデンウィークですけれど。
「こんにちはーっ!」
遊びに来たよ、と元気な声が。誰だ、と一斉に振り返って見れば…。
「なんだい、君たちは何処にもお出掛けしないのかい?」
ぼくはこれからお出掛けだけど、と私服のソルジャー。何処も混みまくりのゴールデンウィークに何処へ行こうと言うのでしょうか?
「えっ? ノルディに誘われてお祭りにね!」
「祭りとは…。それはまた派手に混みそうだな」
物好きめが、とキース君が呆れているのに、ソルジャーは。
「こっちのお祭り、ぼくはあんまり知らないからねえ…。ノルディのコネでさ、クライマックスを関係者席で見られるらしいし、これは行かなくちゃ!」
じゃあねー、と大きく手を振るソルジャー。お祭りが終わったら帰りに寄るから、おやつと食事の用意をよろしくだなんて、厚かましいとしか言いようが…。
ソルジャーがパッと消え失せた後で、私たちは揃ってブツブツと。
「ゴールデンウィークの真っ只中に祭りに行くとは、あいつ、何処まで元気なんだ…」
俺なら避けるが、とキース君が言うなり、ジョミー君が。
「それが若さってヤツじゃないかな、祭りというだけで血が騒ぐんだよ」
「若さって…。お前、若くねえな」
この年で言ってどうするよ、というサム君の台詞ももっともですけど、ただでも混んでるゴールデンウィークにお祭りなんかに出掛けるパワーは若さそのもの。野外バーベキューをやらかしただけでお疲れ休みになってしまった私たちとは大違いで。
「あの若さが俺も欲しいものだな、祭りと聞いたら突っ込んで行けるパワーがあれば…」
何かと違いが、とキース君が零した溜息が一つ。
「違いって…。何かあるんですか、キース先輩?」
「いわゆる出世街道ってヤツだ。璃慕恩院に祭りと名のつくイベントは無いが、それに準ずるものはある。宗祖様の月命日とか、他にも色々と細かいのがな」
その度に顔を出すお祭り野郎な坊主もいるのだ、とキース君は語り始めました。璃慕恩院でのお役目は何もついていないのに馳せ参じるという、お祭り野郎。何度も何度も参加していれば璃慕恩院ならではのお経の詠み方、行事進行などもパーフェクトになってしまうわけで。
「そうなってくると、まずは自分の属する教区で有難がられる。あの和尚さんは本場仕込みだと、璃慕恩院と同じ作法を身につけている、と」
更には璃慕恩院でも顔が売れてきて、気付けば立派なお役目を頂戴するという出世コース。小難しい論文なんかを書かなくっても現場での叩き上げで高僧への道が開けるケースもあるそうで。
「坊主のシンデレラストーリーだな、ある日いきなり出世への道が…」
「キース先輩もやればいいじゃないですか」
特別生は休み放題ですよ、とシロエ君が勧めたのですけれど。
「駄目だ、それだけの若さが無い。全ての祭りに駆け付けるにはだ、パワーが要るんだ」
朝早くから璃慕恩院に到着しないと出世コースには乗れないのだとか。もちろん璃慕恩院にお出掛けする前に元老寺での朝のお勤めもぬかりなくこなしてこその祭りで。
「俺が本物の住職だったら、そこは適当にするんだが…。ウチには親父がいるからなあ…」
「「「あー…」」」
アドス和尚が朝のお勤めパスとか、適当なんていうのを許すとはとても思えません。元老寺での仕事もキッチリしっかり、その上で璃慕恩院でも全力でお祭りに参加なんかは、半端なパワーじゃ出来ませんってば…。
お坊さんの修行に耐えたキース君でも二の足を踏むのが祭りなるもの。私たちだって、混むと分かっているお祭りは遠慮したいと、ソルジャーの行方は全く調べもしませんでした。どうせ、あちこちで春祭り。アルテメシアだけでも確か幾つも…。
「うん、今日は幾つもやっているねえ…」
どれなんだか、と会長さん。
「ブルーとノルディのデートなんかは見たくもないしね、ぼくは探す気も起こらないね」
「かみお~ん♪ お祭りは放ってお昼にしようよ、春野菜のトマトチーズフォンデュだよ!」
ガーリックトーストにつければピザ風、締めはペンネを入れようと思うの! という「そるじゃぁ・ぶるぅ」の声に大歓声。もうソルジャーも祭りも忘れてダイニングに移動し、三人ずつで一つのフォンデュ鍋を。
「のんびりコースで良かったよねえ、出先でこういうお昼は無理だよ」
何処も混んでて追い出されるよ、とジョミー君。
「だよなあ、たっぷり金を払えば別だけれどよ」
「それでもやっぱり、こういう時期には気を遣いますよ」
他のお客さんのこともありますから…、と話すマツカ君は御曹司ながらも控えめなのが素敵です。お金は沢山持っているから、と威張り返ることはしない気質で、お父さんたちもそうらしくて。
「父には厳しく言われましたね、予約した時間が終わりそうだと延長なんかをしては駄目だと」
お店が空いているなら別ですが、と立派ですけど…。
「そういや、あいつらは飯はどうなったんだか…」
キース君がフォンデュ鍋のトマトソースをガーリックトーストに塗りながら。
「あの馬鹿、祭りに行ったのはいいが、その近辺の店はもれなく混んでる筈だぞ」
「ほら、そこはさ…。ノルディだからさ」
マツカと違って、と会長さん。
「きっと朝からバッチリ個室を貸し切りなんだよ、あの気まぐれなブルーがいつ食べたいと言い出しても直ぐに入れるようにね」
「それって、とっても迷惑そうよ?」
他のお客さんに、とスウェナちゃんが言っていますけれども、多分、間違いなくそのコース。高級料亭だかレストランだか、ゴージャスな店を押さえているのに違いなくて。
「祭り見物に豪華ランチか、いい御身分だな」
こっちには二度と来なくていいのに、とキース君がチッと舌打ちを。ホントに来なくていいんですけど、予告した以上は来るんですよね…?
トマトチーズフォンデュの締めにとペンネを投入して食べればお腹一杯、午後のおやつまでは飲み物だけで充分でした。ようやっとお腹も空いて来たかと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がブラッドオレンジのシフォンケーキを切り分けてくれていた所へ。
「ただいまーっ! ぼくにもおやつ!」
それに紅茶も、とソルジャーが瞬間移動で飛び込んで来ると、空いていたソファにストンと腰を。
「…来なくていいのに…」
間に合ってるのに、と会長さんが口にした嫌味もどこ吹く風で、もう御機嫌で。
「凄かったよ、ノルディに誘われたお祭り! とても勉強になったしね!」
「「「は?」」」
何故に勉強、と思いましたが、お祭りには由緒や由来がつきもの、こちらの世界の文化を学んで来たのであろう、と好意的に解釈していれば。
「ノルディの解説も良かったけれどさ、あのお神輿が実にいいねえ…!」
「「「お神輿?」」」
お神輿と言えばお祭りの花で、キンキラキンのヤツですけれど。あれがソルジャーの心を掴むとは、もう意外としか言いようがない現象です。あんなのが好みでしたっけ…?
「あれは神様の乗り物だってね、あれに乗ってお出掛けするんだって?」
「平たく言えばそうだけど…。それが何か?」
何処の神様も大抵はアレに乗るんだけれど、と会長さん。
「小さな神社だとお神輿なんかは無いけれど…。お祭りと言えば神様をお神輿に乗せて練り歩くものだよ、本式の場合は行きもお祭り、帰りもお祭り」
御旅所まで出掛けて神様は其処に数日滞在、お帰りの時にまたお祭りで…、と会長さんが解説をすると、「そうらしいね!」とソルジャーが。
「ノルディが言うには、一週間後にまたお祭りがあるらしいけど…。派手にやるのは今日の方でさ、帰りの方ではお神輿が戻って行くだけだって」
お神輿が船で川を渡ったりするイベントは無いようだ、という話。川を渡るでピンと来ました、そのお祭りはアルテメシアの西の方の神社のお祭りなのでは…。
「ピンポーン! それでさ、ノルディに聞いたんだけどさ…。あそこの神様、縁結びに御利益があるんだってね?」
「夫婦の神様ってことだしねえ…。縁結びのお守りは両方で売ってはいないけどさ」
奥さんの方の神社だけだよ、と会長さん。神社は二つで、少し離れているのです。その両方からお神輿が出るというお祭りですけど、景色がいいだけに人気絶大でしたっけねえ…。
「そう、縁結び! ついでに夫婦円満にも御利益絶大ってことで、ノルディが誘ってくれたんだけど…。お守りを買うといいですよ、って言われたけれど!」
それよりもお神輿の方が素敵だ、とソルジャーの瞳がキラキラと。
「普段は離れて住んでる神様同士だろう? きっと夫婦の時間もコッソリ、どっちかの神社に出掛けて行っては励んでるんだと思うんだけど!」
「…その先、怪しくならないだろうね?」
妙な話に持って行くならコレだからね、と会長さんの手にイエローカードが。けれどソルジャーは「関係ない、ない!」と笑い飛ばして。
「ぼくはお神輿について話してるんだよ、夫婦の時間とは全く別物!」
あのお神輿は実に素晴らしい、と話は振り出しに戻りました。
「神様はお神輿ってヤツに乗ってさ、御旅所ってトコに行くんだろう? そして今日から一週間も其処に御滞在! 夫婦仲良く!」
「…それで?」
「ノルディの話じゃ、御旅所に滞在してる間にお参りすればさ、普段以上の御利益なんかもあったりするってことだったけど!」
プラスアルファで御利益パワーが、という話は大いにありそうなことでした。あそこの神社は知りませんけど、アルテメシアの他の神社の御旅所に確か、不思議なお参りの方法が…。
「あるね、無言参りっていうヤツだろ?」
会長さんが証言を。神様が御旅所にいらっしゃる間、毎日、往復の道で誰とも喋らずお参りしたなら願いが叶うというのが無言参りです。そこの神様、それ以外の時にいくら無言でお参りしたって特別な効果は無いそうですし…。
「そうらしいねえ、無言参りは御旅所限定! 他の神社にもあるかどうかは謎だけどさ」
会長さんが言えば、ソルジャーは。
「無言参りは聞かなかったし、これというお参りの方法も聞かなかったけど…。御旅所に滞在している間は御利益がうんと多いと聞いたよ、お祭りの間は御利益絶大! それでね…」
そう聞くとお神輿が素晴らしく見えて来たのだ、とソルジャーは赤い瞳を煌めかせて。
「あのお神輿に神様が乗ってるんだろ、これからホテルにお出掛けします、って!」
「「「ホテル?」」」
なんのこっちゃ、と訊き返せば。
「ホテルだよ! ホテルでないなら旅館なのかな、あの御旅所は!」
えーっと、神様が滞在なさるんですから、ホテルなのかもしれませんけど。旅館なのかもしれませんけど、その発想は斬新ですってば…。
御旅所をホテルや旅館に例えたソルジャー。お神輿は何になるのだろうか、と悩むしかない所なのですが、間髪を入れず。
「お神輿かい? うーんと、なんだろ…。こっちの世界の言葉ってヤツには詳しくなくてさ…。あえて言うならリムジンとか?」
「「「リムジン?」」」
デカイ車か、と思った私たちですけれど。
「違う、そっちのリムジンじゃなくて! 結婚式とかハネムーンとかで乗るリムジン!」
夫婦専用の立派な乗り物、とソルジャーの解釈は斜め上なもので。
「そういうものだろ、あのお神輿は! 派手に飾って、夫婦で仲良くホテルに行くために繰り出す乗り物なんだから!」
「違うってば! お神輿というのは何処のお祭りでも出て来るもので!」
会長さんが慌てて反論を。
「君が見たのがたまたま夫婦の神様だっただけで、他の神社も全部そうとは限らないから!」
お神輿だって三つも四つも繰り出すお祭りが普通にあるから、という説明に私たちも揃ってコクコクと。無言参りの神社の場合もお神輿は三つあったと思います。なのに…。
「他の神社はよく知らないけど、ぼくが見たのは夫婦の神様だったから! ああいう乗り物に乗ってお出掛けしたなら、御利益パワーの方もアップで!」
「…それは間違ってはいないけどね…」
お神輿自体に御利益があるし、と会長さん。
「今では禁止になっているけど、少し前まではお賽銭を投げる人もいたしね、お神輿に」
「ほら、素晴らしい乗り物じゃないか!」
あれに乗って出掛ければ神様の気分が高揚するのだ、とソルジャーは独自の説を滔々と展開し始めました。
「キンキラキンに飾られてる上に、鈴とかも沢山ついているしね! 神様の豪華リムジンなんだよ、乗ってるだけでパワーが高まる乗り物だってば、お神輿ってヤツは!」
そうやってパワーを高めてゆくから御旅所での御利益がスペシャルになるに違いない、と言われましても、お神輿ってそういうものでしたっけ?
「さっきブルーも言ってたじゃないか、お神輿自体に御利益があると! そして!」
夫婦の神様はホテルに着いたら早速一発! とグッと拳を。
「御旅所はホテルなんだろう? 滞在中にはせっせと励んで、パワーもぐんぐん高まるってね!」
縁結びも夫婦円満の方も御利益MAX、と言ってますけど、そうなんですか…?
「全面的に間違ってるから、その考えは!」
会長さんが即座に否定したものの、思い込んだら一直線なのがソルジャーという人。お神輿は夫婦の神様のためのリムジンであって、御旅所はホテルか旅館であって。
「間違ってないよ、ノルディに確認してはいないけど、この解釈で合っている筈!」
御利益を貰って下さいよ、とお賽銭をドンとはずんでくれたし、と笑顔のソルジャー。関係者席とやらは御旅所の近所にあったらしくて、沿道に並べられた椅子に座ってエロドクターとお神輿見物、それから御旅所に行ってお参り。
「ぼくはきちんとお参りしたんだ、夫婦円満でどうぞよろしくと!」
「それなら無駄口を叩いていないで帰りたまえ!」
さっさと帰って夫婦円満で過ごしてくれ、と会長さんが追い出しにかかったのですけれど。
「こっちの世界は休みだけれどね、ぼくの世界にはゴールデンウィークは無いんだよ!」
ハーレイは今日もブリッジに出勤なのだ、とソルジャーの方も負けてはいなくて。
「もしもハーレイが休みだったら、ノルディとお祭りどころじゃないから! 休みは朝から夜までみっちり、夜ももちろん夫婦の時間で決まりだから!」
こっちの世界で夫婦揃って楽しめるような素敵イベントでも無い限りは…、と言われてみればその通り。常に非常時と言ってもいいのがソルジャーの世界のシャングリラ。そのシャングリラを預かるキャプテン、週末も基本はブリッジに出勤でしたっけ…。
「そうなんだよ! ぼくのハーレイ、土日も休みじゃないんだよ!」
年中無休の職業なのだ、とソルジャーはそれは悔しそうで。
「こっちのハーレイは土日が休みで、祝日もあって、おまけに夏休みだの春休みだのと…!」
そんなに沢山休みがあるのに無駄にするとは情けない、と奥歯をギリリと。
「ぼくのハーレイにそれだけの数の休みがあればね、どれほどに夫婦の時間が充実するか…!」
「はいはい、分かった」
もういいから、と会長さんが止めに入れば、「分かっていない!」と切り返し。
「ぼくがお神輿の何処に魅せられたか、何故素晴らしいと言っているのか、君は全く分かってないから! まるでちっとも!」
「君の考え方が間違ってることは理解したから!」
「間違ってないと言ってるだろう! お神輿は本当にパワー溢れる乗り物なんだよ!」
あれに乗って行けばパワーが漲り、一週間もの長い間も休み無し! と言われて嫌な予感が。ソルジャーが見に行ったお祭りのお神輿、御旅所に一週間の御滞在ですが。その神様は夫婦の神様、御利益は縁結びと夫婦円満ですよね…?
「いいかい、一週間も休むことなくヤリ続けることが出来るんだよ、お神輿パワーで!」
あのお神輿に乗って行ったらそれだけのパワーが神様に…、とソルジャーはパンパンと柏手を。
「ぼくもしっかり拝んで来たけど、今日から毎日、一週間もお参りの人が途切れない! その人たちのために普段以上の御利益パワーがあるってことはさ…」
きっと夫婦の神様が励みまくっているのに違いない、と凄い決め付け。
「元々が夫婦円満の神様、その神様がノンストップでヤリまくっていれば御利益もアップ!」
「なんでそういうことになるわけ!?」
「お神輿を御旅所に運んでいたから! わざわざホテルに連れてったから!」
ここでしっかり励んで下さい、と神様のために用意するホテルが御旅所だろう、とソルジャーの解釈は斜め上どころか異次元にまでも突き抜けていました。お祭りの趣旨から外れまくりのズレまくり。御旅所ってそういうためにあるんじゃないような気が…。
「それじゃ何だい、御旅所は休憩する所かい?」
「…えーっと…」
会長さんが言い返せない内に、ソルジャーは。
「休憩でもいいんだ、ラブホテルだったら御休憩っていうのもあるからね! 休憩と言いつつ実は入って一発二発とヤリまくるためのプランというヤツで!」
御旅所が休憩する場所だったらラブホテルだ、と更なる飛躍。御旅所に入るお神輿の神様が全て夫婦と決まったわけではないと会長さんが言っていましたが…?
「他はどうでもいいんだよ! ぼくが見て来たお祭りが大切!」
あのお祭りとお神輿にぼくは天啓を受けたんだ、とソルジャーの瞳が爛々と。
「一週間もね、ノンストップでヤれるパワーの源はあのお神輿にあるんだよ! あれに乗っかってるだけでパワー充填、もうガンガンとヤリまくれるのに違いないから!」
「そうじゃないから! 他の神社のお祭りにだって、お神輿も御旅所もちゃんとあるから!」
お神輿はそんなアヤシイ乗り物ではない、と会長さんがストップをかければ、ソルジャーは。
「でもさ…! 他の神社のお祭りだってさ、御旅所に行けば普段以上の御利益だろう?」
「それは否定はしないけど…。でもね、お祭りの間は神様の力も高まるもので…!」
だから御旅所にお参りすればプラスアルファの御利益が、と会長さんは説明したのですけど。
「ほらね、お祭りの間は神様の力がアップするんだよ、あのお神輿に乗ったお蔭で!」
どんな神様でもアレに乗ったらパワーアップだ、と言われてしまうと返す言葉がありません。お神輿にお賽銭を投げた時代もあるんだったら、あれってやっぱりスペシャルでしょうか。お神輿自体がスペシャルなのかな、神様よりも…?
お神輿の御利益は神様が中に乗っかってこそ。理性ではそうだと分かっていますが、ソルジャーの見解を聞いている内に自信がだんだん揺らいで来ました。実はお神輿にもパワーがあったりするのでしょうか、神様を乗せる乗り物ですし…。
「ぼくはそうだと思うんだけどね、あのお神輿にも力があると!」
なんと言っても独特の形、とソルジャーは宙にお神輿の幻影を浮かべてみせて。
「お神輿ってヤツはぼくも何度か目にしてるんだよ、今までにもね。どれもこういう形をしてたし、飾りが多少違うくらいで基本は同じで、キンキラキンでさ…」
この形にきっと意味があるのだ、とお神輿の幻影の隣にパッと浮かんだピラミッド。
「ぼくの世界にはピラミッドはどうやら無いみたいだけど、こっちの世界じゃピラミッド・パワーなんていう不思議な力があるんだってね?」
「あれは眉唾だと思うけど! …いや、あながちそうとも言い切れないか…」
ファラオの呪いはあるんだった、と会長さんがブルブルと。そういう事件もありましたっけね、あの時もソルジャーのお蔭でエライ目に遭わされたたような記憶が…。
「ね、ピラミッド・パワーがあるなら、お神輿パワーもあるんだよ、きっと!」
お神輿とピラミッドの幻影がパチンと消えて、ソルジャーが。
「お神輿が中に乗った神様のパワーを高めるんなら、神様じゃないものが乗ってもパワーがググンとアップしそうだと思わないかい?」
「…中に薬でも乗せるわけ?」
君の御用達の漢方薬とか…、と会長さんは呆れ顔で。
「お神輿のミニチュアを買いに行くのなら店は教えるけど、パワーの保証は無いからね? 効かなかったからと店に怒鳴り込んでも、それは筋違いってヤツだから!」
「なるほど、薬ねえ…。それも悪くはないかな、うん」
お神輿型の薬箱か、とソルジャーは大きく頷きました。
「そっちの方も検討する価値は大いにありそう! お神輿の中に薬を入れればパワーアップ!」
ぼくのハーレイに飲ませた効果もググンとアップ、と嬉しそうですが、薬を入れるつもりじゃなかったんなら、お神輿に乗せるものって、なに…?
「決まってるだろう、神様が乗って効くものだったら、人間にだって!」
「「「は?」」」
「ぼくのハーレイとぼくが乗るんだよ、あのお神輿に!」
そしてパワーを貰うのだ! とブチ上げてますが、まさかソルジャーのシャングリラの中を二基のお神輿が練り歩くとか…?
お神輿にはパワーがあると信じるソルジャー、キャプテンと二人で乗るつもり。ソルジャーを乗せたお神輿とキャプテンを乗せたお神輿の二基がシャングリラの中をワッショイ、ワッショイ、進んで行く様を思い浮かべた私たちは目が点でしたが。
「それはやらないよ、ぼくのハーレイはヘタレだから! これからヤリます、って宣言するような行進なんかをやらせちゃったら、お神輿パワーも消し飛ぶから!」
当分使い物にならないであろう、と冷静な判断を下すソルジャー。
「そうでなくても、ぼくとの仲はバレていないと思い込んでるのがハーレイだしねえ…。特別休暇の前に二人でお神輿に乗ろうものなら、もう真っ青だよ、これでバレたと!」
とうの昔にバレバレなのに、と深い溜息。
「ぼくとしてはハーレイと二人でお神輿ワッショイも捨て難いけれど、そうはいかないのがハーレイだから…。とりあえずはパワーが手に入りさえすればそれでいいかな、と」
一週間もヤリまくれるなら充分オッケー、と親指をグッと。
「ついでに、ぼくは夫婦円満の神様ってわけじゃないからね? ぼくが頑張る必要は無いし、ハーレイに励んで貰えればもう天国でねえ…!」
御奉仕するのも悪くないけど、ひたすら受け身もいいもので…、とウットリと。
「ハーレイに凄いパワーが宿れば、ぼくが疲れてマグロになってもガンガンと! もう休み無しで一週間ほど、ひたすらに攻めて攻めまくるってね!」
「「「………」」」
マグロが何かは謎でしたけれど、大人の時間の何かを指すとは分かります。ソルジャーはキャプテンにお神輿パワーを与えるつもりで、自分の方はどうでもいいということは…。
「そう、お神輿は二つも要らない! ぼくのハーレイの分だけがあれば!」
ハーレイさえお神輿に乗せてしまえば後はパワーが自動的に…、と極上の笑み。
「それにさ、お神輿、御旅所の中では置いてあるっていうだけだったしねえ? 担いでワッショイやってなくてもパワーは漲り続けてるんだろ?」
「…うーん…」
どうなんだろう、と会長さんが首を捻りましたが、ソルジャーはお神輿のパワーは形に宿ると本気で信じているだけに。
「多分、ワッショイはオマケなんだよ、神様をハイな気分にするための!」
ワッショイしたなら、漲りまくったパワーに加えてハイテンション。御旅所に誰がお参りに来ようが、覗いていようがガンガンガンとヤリまくれるのだということですけど、お神輿ワッショイって神様をハイにするものですか…?
何かが激しく間違っている、と誰もが思ったお神輿パワーにお神輿ワッショイ。とはいえ、ソルジャーに勝てる人材がいるわけがなくて、この展開を止められる人もいなくって。
「早い話が、ぼくはお神輿が欲しいんだよ! ハーレイのために!」
こっちのハーレイじゃなくてぼくのハーレイ、とソルジャーは核心を口にしました。
「ハーレイが中に乗れるサイズのお神輿がいいねえ、ワッショイの方はどうでもいいから!」
「売ってないから!!」
人間用のお神輿なんかは売られていない、と会長さんが一刀両断。あれは神様を乗せて運ぶもので、既製品のお神輿が仮に売られているとしたなら子供神輿がせいぜいなのだと。
「…子供神輿って、子供用かい?」
「そのままの意味だよ、子供が担ぐお神輿だよ! 子供が乗れるって意味じゃないから!」
要はお神輿の縮小版だ、と会長さん。
「お神輿を作る会社というのはあるけどねえ…。ああいうのは受注生産なんだよ、元からあるのが古くなったから作りたい、と古いのを持ち込んで同じのを作って貰うとか!」
「…それはレプリカというヤツかい?」
「そうなるねえ…。元のと飾りもサイズもそっくり、そういうのを一から作るってね!」
それに神様の乗り物だから…、と会長さんは続けました。
「作る過程で細かい決まりが色々と…。あれはオモチャじゃないんだよ!」
「…本当に? 商店街のお祭りなんかで担いでないかい、ああいうお神輿」
あれはオモチャじゃないのかい、とソルジャーからの思わぬ反撃。そういえばアルテメシアの商店街でもお神輿を担いで賑やかにやるのがありました。中学校のパレードでお神輿を出してる所もあった気がします。あれって神様、乗ってるのかな…?
「ふうん、学校のお神輿ねえ…? それは神様っぽくないねえ…?」
いけない、ソルジャーに読まれましたか…! サーッと青ざめた私ですけど、キース君たちも揃って口を押さえてますから、同じお神輿を連想していたみたいです。ソルジャーは会長さんにズイと詰め寄って。
「商店街なら百歩譲って、中に神社があるってケースもありそうだけど…。学校のパレードで担ぐお神輿、神様は乗っているのかい? どうもそうとは思えないけど…?」
「の、乗ってるケースもあるんじゃないかな、学校の敷地にお稲荷さんとか…!」
きっとそういうケースだって、と逃げを打った会長さんの台詞は語るに落ちるというヤツでした。そういうケースもあると言うなら、そうじゃないケースもあるんですってば…。
「なるほどねえ…。学校のパレード用のお神輿があるなら、ハーレイ用のお神輿だって!」
作って作れないわけはない! と一気に燃え上がるソルジャーの闘志。キャプテンを乗せるお神輿を是非に作りたいのだ、と言い出したらもう止まらなくて。でも…。
「なんだい、此処の制作期間は五ヶ月から一年っていうのはさ?」
リビングに置かれていた端末でお神輿製作を手掛ける会社を調べたソルジャーが指差す画面。其処にはこう書いてありました。「大人用神輿、制作期間は五ヶ月から一年頂戴します」と。
「書いてある通りだよ、そのくらい軽くかかるんだよ!」
費用をはずんでも期間短縮は出来ないからね、と会長さんがツンケンと。
「オモチャじゃないって言っただろ! 本体を作って飾りも作って、出来上がるまでに最低でも五ヶ月必要なんだよ、こういうお神輿を作るには!」
小さなサイズの子供神輿でも三ヶ月、と画面を示され、ソルジャーは。
「じゃあ、学校のパレード用のお神輿ってヤツは…?」
「本格的なのを担いでるトコのは、もちろんこれだけの期間をかけて作ってるってね!」
寄付を募って業者に注文、立派なお神輿が出来上がるのだ、と会長さん。
「それだけに相当重いらしいよ、子供の手作り神輿と違って」
「手作り神輿…?」
ソルジャーが訊き返し、私たちは会長さんの失言に気付きましたが、時すでに遅し。ソルジャーの耳は手作り神輿という言葉をガッチリ捉えた後で。
「いいねえ、手作りのお神輿ねえ…! あの形にパワーが宿ってるんだし、何も本物にこだわりまくって五ヶ月も待たなくってもね…!」
作ってくれそうな面子がこんなに…、と赤い瞳が私たちをグルリと見回して。
「ゴールデンウィークの記念にどうかな、手作り神輿!」
「「「お断りします!」」」
後半はダラダラ過ごすと決めたんです、と見事にハモッた声でしたけれど。
「ありがとう、作ってくれるんだって?」
「誰も作るとは言っていないが!」
その逆だが、というキース君の声はソルジャーに右から左へ流されてしまい。
「それじゃ早速、材料を集めに出掛けて来るよ! えーっと、どういうものが要るかな…」
キンキラキンの飾りに鈴に…、と制作会社の画面をあちこち調べまくって頭に叩き込んでいるソルジャー。私たちの連休、お神輿作りで終わってしまうというわけですか…?
瞬間移動と情報操作はソルジャーの得意とする所。夕食までにドッカン揃ったお神輿作りの材料の山と、ソルジャーが何処からか調達して来た手作り神輿の設計図を前に溜息を幾つ吐き出したって、どうにもこうにもならないわけで。
「…今夜は完徹で決まりですね…」
シロエ君が設計図を広げて零せば、キース君が。
「今夜だけで済めば御の字ってヤツだ。最悪、ゴールデンウィーク明けは欠席になるぞ」
「「「うわー…」」」
欠席届なんかは出してませんから、無断欠席で決定です。特別生には出席義務が無いと言っても、今まではキチンと欠席届を出していたのに…。
「なんだ、欠席届かい? それくらいなら出してあげるよ、書いてくれれば」
ぼくがサイオンで情報を操作してチョイと、と微笑むソルジャー。つまり、お神輿が完成するまでは解放されずに此処に缶詰、欠席届には「お神輿を作るので休みます」と書くしかないと?
「その通りだけど? 頑張ってよね、ハーレイ専用のお神輿作り!」
ぼくは本格派で行きたいんだから、とソルジャーが自慢するとおり、何処から探して持って来たやら、お神輿の材料は飾りに至るまで本物そっくり。鈴を手に取ればいい音がしますし、他の飾りもチリンチリンと鳴りますし…。
「ああ、その辺の材料かい? 制作会社の在庫をチョイとね…。五ヶ月からとか書いているくせに、こういったものは多めにストックあるみたいだよ?」
「そりゃね…。ああいう会社は修理もするから、それ用の部品があるってね…」
ちゃんとお金は払ったろうね、という会長さんの言葉にソルジャーは「うん」と。
「在庫のデータを減らすついでに、売れたってことにして処理しておいたよ。代金は会社の金庫に入れたし問題無いだろ、そこに入れたと帳簿にきちんと書いて来たから!」
もうバッチリ! と威張るソルジャー、設計図を眺めて涙々の私たち。本職でも五ヶ月から一年だというお神輿なんかを連休の残りで作れるでしょうか?
「その辺はぼくも協力するよ。ブルーとぶるぅのサイオンもあるし、突貫工事で頑張ってくれればギリギリなんとか間に合わないかな、連休明けの朝くらいには」
「「「…連休明け…」」」
あまりと言えばあまりな言葉に絶句したものの、始めないことには終わりません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が打ち上げならぬ打ち入りと称して大きなステーキを焼いてくれましたが、このエネルギーは日付が変わるよりも前に切れるでしょう。夜食もよろしくお願いします~!
かくして徹夜でトンテンカンテン、次の日も寝ないでトンテンカンテン。お神輿の形が出来上がって飾りを取り付ける頃には連休明けの朝日が昇って…。
「ありがとう、お蔭で完成したよ! ハーレイが中に入れるお神輿!」
「それは良かったな…」
俺たちはもう死にそうだがな、というキース君以下、私たちはヨレヨレになっていました。それでも会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に頼んで制服と鞄を瞬間移動で家から取り寄せて貰い、揃って瞬間移動で登校。後の記憶は全く無くて…。
「かみお~ん♪ 授業、お疲れ様!」
今日はこのまま帰りたいよね、という「そるじゃぁ・ぶるぅ」の声でハッと戻って来た意識。それじゃ今まで、この部屋に来るまで私たち、何処に居たんでしょう…?
「その点だったら心配ないよ。ブルーが責任を取るとか言ってさ、フォローしてたから」
「んとんと、みんな寝てたけど寝てはいなかったよ!」
見た目はきちんと起きてたよ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。あのソルジャーがそこまでフォローをしてくれたんなら、お神輿、効果があったんでしょうか?
「さあねえ…。それは今夜以降にならないと分からないんじゃないのかなあ…」
まだお神輿を持って帰っただけだしね、と会長さん。キャプテンが中に入ってみないと効果のほどは分かりません。あのお神輿は特別製ですし、キャプテンがゆったり座れるスペースと分厚い座布団が中に隠れていますけど…。お神輿のパワー、どうなんだか…。
お神輿作りでゴールデンウィークの後半を潰された上に、連休明けは意識不明で登校という強烈なことになってしまった私たち。これでお神輿の効果が無ければ悲しいですけど、あったらあったで迷惑なことだ、と嘆き合う内に日は過ぎて…。
「こんにちはーっ! この間はどうもありがとうーっ!!」
もう本当に感謝なんだよ、とソルジャーが降って湧きました。会長さんの家で「この週末こそダラダラしよう」と何もしないでいた私たちの前に。
「あのお神輿は凄く効いたよ、流石は神様の乗り物だよね!」
ハーレイの漲り方が凄くって、とソルジャーは喜色満面で。
「最初は腰が引けてたんだけど、乗り込んだらムクムクとヤる気がね…! 扉を開けて出て来たな、と思った途端に押し倒されてさ、後は朝までガンガンと!」
そういう素敵な毎日なのだ、と充実している様子のソルジャー。お神輿を作った甲斐があったか、とホッと一息ついた途端に。
「それでね、次はワッショイのパワーを試したくなって…。あれで神様がハイになるんだよね?」
ぼくのハーレイもハイテンションにしたいから、とソルジャーは期待に満ちた瞳で。
「今夜さ、適当な場所を用意するから、みんなで担いでくれるかな? あのお神輿! ぼくのハーレイも乗り気になってて、是非ともワッショイして欲しいって!」
「「「えーーーっ!?」」」
今度はお神輿ワッショイですか、と泣きたい気持ちになったのですけど、キャプテンまでがその気な以上はワッショイするしかありません。
「…お神輿ってホントにパワーがありましたっけ…?」
「俺が知るか!」
イワシの頭も信心からだ、とキース君。きっとそういうことなんでしょうが、信じる者は救われるという言葉もあるのが世の中です。ソルジャーとキャプテンがお神輿パワーを信じる間はワッショイするしかないでしょう。いっそ法被も作りますかね、お神輿担いでお祭りワッショイ!
祭りとお神輿・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーがお祭りに行ったお蔭で、お神輿を作る羽目になってしまった、いつもの面々。
しかも御利益はあったみたいで、お次は担いでワッショイだとか。お揃いの法被で…?
次回は 「第3月曜」 3月16日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、2月は節分。毎年、受難なイベントだけに、何処に行くかが問題。
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